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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

手を繋いで 34



民宿の仕事をひととおり終えたユノは
浜辺にシートをひいて、ひとり寝そべり、空を見ていた

風は秋の香りを孕んで
浜辺の人影もめっきり少なくなった

そろそろ、この民宿での仕事は終わりに近づいている
契約は来週まで

サンウとミヒの小さな愛の出来事を側で見守ってから
ユノの心はずっとザワついている

なぜかユノの気持ちは焦りを感じていた

旅をしている意味もわからなくなってきたような気がする

だからといってバニョレに帰るのは怖い
チャンミンのいないバニョレに帰って
チャンミンの不在を感じるのが嫌だ

怖くて…そんな事実は認められない

でも

今、こんなにもチャンミンに会いたくて
チャンミンに謝りたくて

きちんと愛してると
言えなかった自分を謝りたい

そんな手遅れの後悔でいっぱいだ

バニョレを、チャンミンの元を離れた時は
もっと、自分を見つめて
チャンミンへの想いを昇華して

チャンミンと、おそらくその隣にいるであろうドフンを
心から祝福できるまでに器の大きな人間になりたい

なかなか困難なことを
ユノは自分に課していたけれど

果たして自分はほんとうにそうしたいのか?

もし、もしも
チャンミンが予想通り、ドフンと再び愛し合えるようになっていたとしたら

本当はその心を奪って
もう一度自分の側にいてくれるよう縋りたいのではないか

チャンミンとドフンに拍手をする自分が理想であったはずなのに、今はそんな姿はあまりにも空々しくて
本当の自分なんかじゃない

そんな風に思い始めていた


そこへ、サンウが浜辺にユノを探しにきた


「ユノヒョン」

ユノは半身を起こした

「お、サンウ、どうした?」

心なしか、サンウが悲しそうな顔をしている

「さっき、オンマが言ってたけど…」

「うん」

「ユノヒョン、ここから出て行くってほんと?」

「あーほら、もう秋になるから
サンウのところは少し暇になるだろ?
もう、ヒョンの手伝いはいらないんだ」

「でも…」

「サンウ」

ユノは立ち上がった

サンウの背は
立ち上がったユノの腰までも届かない

ユノがサンウの頭を撫でた

「ヒョンはまた来年くるよ」

「うそ」

「ヒョンは嘘なんかつかないさ」

「うそだね」

サンウは唇をとがらす

「嘘なもんか」

「みんなここで働いてくれたヒョンは
そう言って、また来たことないもん」

「俺は違うよ、サンウ」

「……」

「俺は違うって思わないか?」

「………」

「ん?」

ユノはしゃがんで、サンウと目を合わせた

可愛いサンウ

ユノはその柔らかい髪を撫でた

不貞腐れたような顔をしながらも
サンウはユノの手をしっかりと握っていた

「来年もきたら、しんじる」

ユノはあまりに可愛くて
サンウを抱きしめた



ユノの最後の晩餐となった

サンウはまだ、機嫌が悪そうな表情ではあったけれど
ユノの側から離れようとしなかった

サンウの母が呆れたようにため息をついた


「ごめんね、ユノくん
こんなんじゃ、立ち去るのが悪いことしてる気分になっちゃうわよね」

「うれしいような、悲しいような…
複雑な気分です」

民宿の主人がユノに酒を勧めた

ユノが丁重にそれを受けた

「ユノくん、これからどこへ?」

「北へ行く予定だったんです。
紅葉から雪を追いかける感じで
またリゾートでバイトしながら」

「いいねぇ」

「それが一番いい旅なんですよ
働き口はあるし、景色はいいしで」

「そうだよねぇ、若いっていいよな」

「言うほど若くないんですよ、これが」

奥さんが口を挟んだ

「ユノくん」

「はい?」

「過去形なのね、行く予定だったって
予定を変えるの?」

「あ…」

過去形で言ってたか
気づかなかった…

「予定は変わるってことだよな、ユノくん
自由なんだからさ、途中で方向転換もいいじゃないか
それが旅ってやつだよな」


明るい晩餐だった

テーブルには海の幸が並ぶ
よく働いてくれたユノに、主人が特別に市場から仕入れたくれたのだ

「ユノくんは、今までで最高のバイトだったよな」

「そうよね、そういえば、ユノくん
ソウルでお店やってるって」

「あ、そうです、小さい店ですけど」

主人が驚いた

「へぇ!そうなんだ
どんな店?写真かなにかないの?」

「写真ですか?
えーっと、自分の店なんて写真撮ったりしないからな」

「あれがあるわよ、ほら、ストリートビュー
それでお店探してもいいかしら」

「ストリートビュー?」

「ユノくん、知らない?
場所探す時に使うマップアプリよ」

「いやーそういうのがあるのは知ってたけど
使ったことはないですねぇ」

主人がパソコンを出してきた

「ユノくん、住所教えて」

ユノはとりあえずバニョレの住所を伝えると

サンウとみんなで画面を見入った

空中の地図から、バニョレの位置に赤い印があって
そこに近づいて行く

まるで大空からバニョレに落ちて行くような不思議な感じだ

やがて、懐かしいバニョレの場所まで来ると
カメラが3Dで店の場所をとらえる


ユノは固まった


「ここかしら?ユノくんの店
素敵じゃない?」

「ここがヒョンのお店?」


「……」


そこには


顔こそぼかしてあるものの

バニョレの店の前を掃除している長身の人影


まさか



「あの…」

ユノの様子が変だった


「ユノくん、どうした?酔ったか?」

「いえ…あの…これ…」

「ユノくん、大丈夫?」


サンウも不安そうにユノを見た


「これって…いつの…画像なんでしょうか…」

「えっとね、えーっと
あ、先月だね、更新したばっかりだ」

「先月…」


チャンミンは

バニョレに…いる…のか


「ユノくんがいない間に店が変わっちゃったとか?」


「あ…いえ…」


サンウがパソコンの画面をまっすぐに指さした

「このひと、だれ?」

「えっと…」

サンウがまっすぐにユノをみつめる

「このひとに貝殻あげたいの?」

「えっ?」

ユノは驚いてサンウを見た

その清らかで透明な視線は
射抜くようにユノを見つめる


それからユノはみんなと何を話したか
よく覚えていない

ユノの様子は酔ったのだと思われて
特に心配されるようなこともなかった



ユノはひとりで夜の海辺へでた

真っ暗な海は次から次へと白い波を浜辺に送り出す
波音は昼間聴くよりも少し険しい


チャンミン…

ユノは真っ暗な遠い海を見つめた

まるで海の向こうにチャンミンがいるように
強い視線で見つめた

チャンミンはバニョレにいるのだ

思わず、ストリートビューに映っていたチャンミンは
店の前を掃除する、いつものチャンミンだった

自分が自分だけのために旅に出ているこの期間
チャンミンはずっとバニョレを守ってくれていたのか

掃除をして、接客をして
きっと毎日規則正しい日々を送っていたのだろう

なぜ

なぜそこにいる?

俺を…待っててくれていたのだろうか

こんなに臆病で卑怯な俺を
待っててくれていると…思っていいのだろうか

ユノはポケットから
サンウにもらった貝殻をだして見つめた

大好きなミヒに喜んでもらおうと
必死に貝殻を探していたサンウは

俺なんかより、よっぽど誠実で男らしい

俺は…5歳のサンウより全然ダメだ…

ユノは貝殻をポケットに仕舞った


そして意を決したように
浜辺から足早に立ち去った


*****


「ありがとうございました!」

テミンがにこやかに客を送り出した

バニョレは夏のセールが終わり
やっと客足が落ち着いてきたところだった


「テミン、お昼食べてないでしょ?
今の時間行ってきたら?」

チャンミンがテミンに声をかけた

「うーん、どうしようかな」

「飛行機は何時?」

「日付が変わるちょっと前」

「じゃ、ランチしてからそのまま帰っていいよ?」

「そうしようかなー」

「うん」

テミンはレジで計算をしているチャンミンを
じっと見つめている

その視線に気づいて、チャンミンが微笑む

「どうしたの?テミン」

「チャンミン、この店にすっかり馴染んだね
もう店長の風格だよ」

「そんな…まだまだだよ
接客なんてテミンに任せっきりでさ」

チャンミンは笑った

テミンも優しく微笑んで言った

「ユノも…任せていい?」

「えっ?!」

ユノ、という言葉にチャンミンはするどく反応してしまった。

「ユノが帰ってきたら
仲良く2人でこの店をやってくれたらいいな」

テミンの表情は優しい

「何を言うの…いきなりびっくりするよ
ユノさんの話なんて」

ふふっとテミンは笑って
大きくため息をついた

「僕、もう帰ってもいいかな?」

「ランチはいいの?」

「最後に荷物チェックしたいんだ」

「そうなの?間に合う?」

「うん、今帰れば」

「わかった、じゃ、えーっと」

チャンミンは自分のリュックをゴソゴソと漁った

そして、小さな紙袋をひとつ取り出して
テミンに渡した

「これさ、駅前のパンの店あるでしょう?
そこのスコーン。美味しんだよ
すぐに売り切れるから今朝買っておいた」

「え?僕に?」

「飛行機乗る前に、お腹空いたら食べたらいいかなと思ってさ」

「うわ、ありがと」

テミンは嬉しそうだ

「ねぇ、テミン」

「なに?」

「テミンがいなかったら
夏のセールは乗り切れなかったと思うんだ
ほんとうにありがとう」

「なにしろヒチョルはまったく顔を出さないからね!」

「フフ…そうだね」

「全部チャンミンに任せてさ
ユノだって連絡ひとつよこさないし」

チャンミンの表情が少し寂しそうな色になった

「きっと…ユノさんは…楽しく旅をしてるんだと思う」

「そうだけどさ、ちょっと酷すぎるよね」

「僕が…勝手にひとりで待ってるからいいんだ。
なにも期待してないよ」

チャンミンは微笑んだ

「連絡よこさないのはね、怖いんだよ」

フフとチャンミンは笑った

「チャンミンがここにはいないと思ってるだろうから」

「そうなのかな…僕、信頼なかったからな」

「きっと、いつかヒチョルが痺れを切らして
ユノに言ってくれるよ」

「…どうだろ」

「じゃ、そろそろ僕行くね」

「テミン、また次のセールには来てくれるよね?」

「来るよ、そのときにはユノもいるといいね」

チャンミンはそれには返事をせず
寂しそうに微笑んだ

そして、テミンを見送ったチャンミンは
品薄になった棚に新しく服を並べた


店の前の通りの

その遠くから

低く唸るエンジンの音が、微かに聴こえてくる

別に、店の前をバイクが通ることは毎日のことで
チャンミンはまったくなんとも思わなかった

チャンミンは慣れた手つきで服を並べていく

やがて近づくエンジンの音

その間隔が次第に広くなっていき


店の前で止まった


ひょいとチャンミンは意識もせず
店の前を見るともなく見た


服を畳む手が止まる


チャンミンの大きな瞳が湖のように膜を張って
大きく見開かれた





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明日は最終回となります
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