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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

手を繋いで 33




ユノがバニョレを離れて数ヶ月が過ぎた

宿代わりに、あちこちのリゾートで短期のバイトをしながら旅を続けていた

孤独な旅のつもりだったけれど
意外と人との出会いは多かった

その紹介で次のバイト先が見つかることなどもあった

今は、海沿いのリゾートの小さな民宿でバイトをしている

ハイシーズンを迎え、民宿は大忙しだ

ユノは料理の手伝いもこなしながら
民宿のオーナー夫婦の子供の面倒も見ていた

特に末っ子の男の子、サンウがやたらとユノに懐き
幼稚園の送り迎えもユノがこなした

ユノもサンウを可愛いがった

今日もユノは海沿いの道を歩いてサンウを迎えに行った

ジーンズを膝上で無造作にカットして
黒いタンクで歩くユノを

派手な水着を着た女たちがじっと見つめる

日に焼けた精悍な顔立ち、スッキリと鍛えられた長身。
あまりに目立つユノを沢山の女たちが狙っていた

けれど、小さなサンウを肩車して歩くユノにとっては
派手な水着の色は海の景色を妨げる以外の何ものでもない

「おろして、ユノ」

「ん?また貝殻?」

「そう!」

サンウはユノの肩から降りると砂浜に出た

夢中で貝殻を拾い始める

ユノもいくつか綺麗な貝を拾ってやる


「ボク〜こんなのもあるわよ」

派手な女の子が、ユノを横目でチラチラと見ながら
サンウに貝殻を持ってきた

黙ってるサンウに代わって、ユノがその貝殻を受け取った

「ありがとう」

爽やかに笑うユノに女の子は自慢の身体をくねらす

「いいのよ、いつもここで貝殻をひろっているけど
この辺のひとですかぁ?」

「あ、俺は…」

「ユノ!いくよ!」

サンウがユノの手を取ると
小さな歩幅で砂浜から出ようとする

「あ、じゃ、すみません」

会釈をして、ユノはサンウに引っ張られ
また海沿いの道路へ出た

「サンウ、ヌナが貝殻くれたのに
ちゃんとお礼言わないとダメだぞ」

「ほかの女の子とは話さないの」

「やれやれ」

「だって、ダメでしょう?そんなの」

「ミヒがいるから?」

ユノがニヤニヤと笑った

「そうだよ」

サンウが得意そうだ

「今日もミヒのおうちに寄ってく」

「わかったよ」

ユノはサンウを連れて
民宿の隣の家のインターフォンを押した

「はぁい」

サンウと同じ幼稚園に通うミヒが顔を出した
クリクリとした大きな瞳が可愛い

「サンウまだ帰り道?
ミヒなんてとっくに帰っておやつ食べたわよ」

「はい」

サンウはぶっきらぼうに貝殻をミヒに渡した

「サンウ…」

「今日はあんまり綺麗なの無いけど」

「サンウ、もう貝殻たくさんもらっても
入れるものないの」

「きれいなのだけもってこようか?」

「うーん…」

「明日はもっと綺麗なの持ってくるから」

「ふぅん」

ミヒはつまらなそうに返事をした

ユノが2人の顔を見比べる

サンウの貝殻を明らかにミヒは喜んでいないように見える
そのことにサンウは気付いていないようだ

「じゃあね、ミヒ」

ユノがミヒの頭を撫でて
その家を後にした

「サンウ、また明日ね!」

「うん!」


夕暮れが海に沈んでいく

この時間が一番きれいだ

けれど、一番哀しい時間でもある

この夕陽を見ていると
チャンミンに会いたくて仕方なくなる

自分から電話をすることもない
声を聞いたら帰りたくなってしまう

それに、チャンミンから電話もかかってこない

あのあと、チャンミンは店を辞めたのだろうか

どこかに就職したのだろうか

ヒチョルとは店のことでのやりとりをメールでするけれど
チャンミンのことにはまったく触れない

ユノもヒチョルにチャンミンのことを聞くことはしなかった

自分が発った後、バニョレから離れただろう
今頃チャンミンはどこで何をしているのだろうか


サンウが花火をしたいと言い

夜の砂浜でユノと2人で花火をして遊んだ

2人でポトリと落ちる線香花火を楽しんだ

「なぁ、サンウ」

「なに?」

「ミヒに毎日貝殻あげるのどうかな?」

「どうかなって?」

「ミヒ、たくさん貝殻もらって
少し困ってるかもしれないよ」

「え?」

サンウがそのつぶらな瞳でユノを見上げた

ユノはしまったと思った
こんなこと、言わなくていいことだった
子供同士のコミュニケーションなのに


「ミヒは僕のことがきらいなの?」

「いや、そうじゃなくて…あ…ほら
入れるものがないって…」

「じゃ、今度はなにかに入れてあげればいっか」

サンウはユノを見つめた

「うーん、そうだな」

一途なサンウの瞳にユノはもうそれ以上は言わなかった

「好きなコにはきれいな物をあげるといいんだよ」

サンウが得意そうに言う

「そうなんだ、綺麗な物はもらって嬉しいもんね」

「前にボクがあげた貝殻、すごく喜んで
ミヒはお母さんになにかつくってもらってたんだよ」

「なにかって?」

「こうやって首からさげるやつ」

「あーネックレスね、そんなに綺麗な貝殻だったんだ」

「うん、あれはとくべつ」

「それがあれば…もうたくさんはいらないかも」

「そうなの?」

ユノは一生懸命にサンウが集めた貝殻を
ミヒが毎日迷惑そうに受け取ることに、心を痛めていた

「今度はちがうものしようか」

「どうして?」

「うーん…」

サンウは下を向いてしまった

「貝殻は…もういらないのかな」

「あ…」

だから、俺はなんでそっちに話をもっていくのだ!
こんなに小さなサンウをがっかりさせてどうするんだ

翌日サンウはもう貝殻を拾わなかった

ユノは罪悪感に苛まれたけれど
もうミヒの迷惑そうな顔をみることもなくなるだろう


その翌日、幼稚園からの帰り道

ミヒ家の前を通って帰るのだが
なんと玄関の前にミヒが立っていた

まるでユノとサンウを待っていたかのように

「あれ、ミヒ、こんにちは」

ユノが挨拶をすると
ミヒはムッとした顔でサンウに詰め寄った

「サンウ、貝殻は?」

「え?」

サンウは呆気にとられていた

ユノも慌てた…

「え?…貝殻…」

さらに詰め寄るミヒ

「あたしのこと好きで貝殻もってきてくれたんじゃないの?」

「そうだよ」

「じゃ、なんで昨日はもってこなかったの?」

「だって…」

サンウが困ったようにユノを見上げた

「あ…ミヒのおうちが貝殻だらけになるといけないと思って」

ユノが下手な言い訳をした

なにを言ってるんだ、俺は。


「ママからきれいなお菓子の缶をもらってまってたのに」

「えっ?そうなの?」

「そうよ、それなのに…」

「ミヒ!まってて!」

サンウが海辺へ走りだそうとしていた

ユノが慌ててサンウの小さな体を抱き上げた

「だめだよ、急に飛び出しちゃ
ヒョンも一緒に行くから、ゆっくり」


ユノとサンウはまた浜辺で貝殻を拾った

いつもより夢中で拾った

派手な女たちがその気迫に声もかけられないほど
2人は一生けん命に貝殻を拾った

「サンウ!こんなに大きいのがあった!」

「ユノヒョンよく見て、それ後ろがすごく汚いよ」

「え?あ、ほんとだ」

「大きさだけじゃなくて、どこから見てもきれいなのを探さなくちゃ」

「うん、そうだね」

「ミヒはママから缶をもらって待ってるって
だからうんときれいなのを探してあげなきゃ」

「サンウ…」

ユノは小さな手で一生懸命に貝殻を探すサンウを見つめた

ふいにサンウが手を止めてユノを見上げた

「ヒョンはミヒがもう貝殻はいらないって言ったけど
そんなことなかったじゃないか」

「あ…うん…そうだね…
いや、サンウがミヒに嫌われたら困るなって思って」

「なんで?」

「サンウはミヒが大好きだろ?」

 「うん、大好き」

「しつこくしたらミヒが嫌かなって思ったけど…」

「好きな子に大好きっていうのがなんで嫌われるの?」

「……」

「大好きって言われてきれいな貝殻もらって嫌な子なんていないよ」

「……」

サンウのピュアな言葉がユノの心に響いた…

なぜかチャンミンの顔が胸に浮かぶ

一生懸命に掃除をするチャンミン

不安ですがるような瞳

恥ずかしそうな表情


「ユノヒョンは好きな子いないの?」

ユノは優しくサンウを見つめた

「…いるよ」

「好きって言った?」

「いや…まだ…ちゃんとは…あ…言ったかな」

「ふうん…ちゃんと大きな声で言わなきゃダメだよ」

「はい」

ユノはおとなしくサンウに返事をした

小さな愛の師匠だ

サンウは手にもっていた貝殻をひとつ名残惜しそうにユノに渡した

「?」

「これ、今日の一番いいやつ
ヒョンの好きな子にあげな」

「え、いいよ、これはミヒにあげるやつでしょう」

「ボクはもっときれいなのこれからも探すから」

「サンウ…」

ユノの手のひらには、きれいな薄い紫の貝殻があった

しばらく貝殻を拾い

2人で厳選した貝殻をもってミヒの家に行った


ミヒは期待のこもった瞳で二人を出迎えた。

「ミヒ!これ!」

得意そうにサンウが貝殻を差し出すと
ミヒは恥ずかしそうにきれいなお菓子の缶を差し出した

サンウがそっと缶に貝殻を割れないように入れる

ミヒは満足そうな笑みを浮かべている

「ミヒ、もっとたくさんきれいな貝殻探してあげるね」

「ありがと、いっぱい拾ってくれたのね」

「だってミヒが大好きだから
いっぱい喜んでほしいの」


ユノは思わず二人に背を向けてしまった
気を遣うというほどのこともなかったけど

なぜかそうした自分に苦笑した


大好きだから…いっぱい喜んでほしい…


ミヒがサンウを好きかどうかは知らない…

でも、少なくとユノが懸念していたように
迷惑ではなさそうだ

むしろミヒの瞳は輝いていた…

好きだから…喜んでもらいたい
それを嫌がる子はいない


そんなピュアな気持ちを
俺はどこへ忘れてきたのだろう


チャンミンに拒否されたならともかく

気持ちも伝えていないままに
相手の迷惑をまず考えてしまう

ユノにはそんなクセがついていた

いや、そうじゃない

相手の気持ちや言葉を
俺は恐れたんだ

自分が拒否されるのが怖かった


ユノが海辺を見ると
大きなオレンジの夕陽が沈みゆくところだった


けれど…


その3日後、民宿の界隈でとても寂しいニュースがあった

民宿の奥さんがサンウにゆっくりと言い聞かせていた

「ミヒのお父さんが町で働くことになってね
みんなでお引越しするんだって」

「やだ」

即答して俯くサンウにユノの心も痛んだ

「そんなこと言わずに
ちゃんとさよならを言わないとね」

「……」


ユノはサンウの側にいてやった

「ミヒは町へ行っても、ずっとサンウのことは忘れないよ
ミヒのおばあちゃんがここにいるから、ミヒは夏にはここに来るって」

「……」

「絶対にまた会えるよ、な?」

「ミヒが、僕のことを忘れないのは
当たり前だ」

「え?」

「僕ね、ごひゃくまん日くらい毎日ミヒに貝殻あげてたの」

「ご、ごひゃく?」

「そして、ごひゃくまん日、ミヒ大好き!って言ったの」

「…サンウ」

「たぶん、ぼくの大好きは、ミヒの貯金箱にいっぱいになってる」

「……」

「そうおもっていいよね?」

ユノはなぜか、胸を突かれた

「サンウは…すごくいいこと言うね
貝殻もいっぱいだけど、サンウの大好きもいっぱいだ、ヒョンもそう思うよ!」

ユノはサンウの小さな頭を撫でた

サンウは精一杯強がって
ユノを見上げた

ユノの胸にこみ上げるものがあった

こんな小さなサンウは
人を愛することをよくわかっている

俺なんかよりずっと、わかっている


やがて、数日たって
ミヒはこの町を去っていった

サンウは最後まで涙をみせなかった

サンウは自信があったのかもしれない

ずっと毎日、ミヒに愛を捧げて
自分の気持ちを伝えきった満足感があるのかもしれない

ユノは思った

俺はチャンミンに何を伝えただろう

離れることが必要だと思ったけれど
一時たりとも離れずにいることはもっと大事なのではないか

サンウとミヒのように

いつか、突然離れなくてはいけないことが
あるかもしれない

日々は永遠ではなく終わりがあるのだ

それなら、そんなかけがえのない毎日なのに
俺はなにをやっているんだ







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