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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

手を繋いで 31




ユノは大通りに出るまで、ミラーを見ないようにした
遠くなっていくバニョレを見たくなかった

心が…

チャンミンのいるバニョレから離れられない

自分で決めて離れたくせに
すでにこんなんでどうする?

アクセルを踏むとエンジンが怒ったような音を出す

しっかりしろよ、俺


ユノは少し走っただけで、結構遠くまで来ることができた
道路も空いていたし、バイクの調子もよかった


ユノは川沿いの雑草が生えた河川敷にバイクを停めて
草の上に直に座った

少し夕暮れの近づいた川面を眺めていると
風がユノの頬を撫でていく

バイクで1年くらい旅をするというのが憧れだった

モデルを諦めたユノの新しい夢となるはずなのに
まるで修行僧のような気分だった

一度「無」になりたかったのはたしかだ

けれど

今の自分は最低だ

ヒチョルに逃げだと言われ
なにも言えなかった

バニョレを出てくる時
チャンミンに泣きつかれたりしたらどうしようかと思っていた。

けれど、チャンミンは思ったより平気そうだった
もう、あれこれ言わず簡単に送り出してくれた

それが寂しくなかったといえば嘘になる

どこまでも…俺は勝手だ

ユノは空を見上げた

明日、もう少し遠くまで行く

そこで少し仕事をするつもりだった

知らない土地で短期のバイトをして過ごす
それも叶えたかった夢だ

今までがむしゃらに走ってきた自負がある

少し遠回りしてゆっくりして
自分をもう一度見つめ直そう

ユノは意を決したように立ち上がり
革パンの尻についた草を払った



*********



チャンミンはいつまでも泣いていた


テーブルを挟んだ向いには
困った顔をしたヒチョルとテミンがいた


「ねぇ、身体の水分が全部流れでちゃうんじゃ?」

テミンがタオルをチャンミンに渡した

嗚咽の治らないチャンミンが
そのタオルを受け取って、また泣いた

「空港からまっすぐに店にきたら
これだもん、びっくりしたよ」

テミンが唇をとがらす

「とにかくユノが馬鹿なんだよ」

ヒチョルは猛烈な怒りを表していた

「ま、今夜は飲みなよ、ね?」

テミンがチャンミンに焼酎の瓶をそのまま渡した

ヒチョルがチャンミンを睨んだ

「チャンミン、もうユノなんか忘れろ
いいか?あいつは馬鹿だ。よく考えろ、逃げたんだぞ?
チャンミンを幸せにする勇気もなければ、ドフンのところへ見送る勇気もない。」

「……」

テミンがヒチョルの肩をぽんぽんと叩いてなだめた

「もう、いいじゃない、ね?
ユノだって、精一杯強がってるんだよ
ほんとうは泣きじゃくりたいのに、それができないの」

「カッコつけて逃げてるなんてバカだ」

チャンミンが泣き顔をあげて
ヒチョルを睨みつけた

「そんなにユノさんのことバカだバカだって、言わないでください!」

「だってな、チャンミン、冷静になれ」

「優しいんですよ…」

そう言って、またチャンミンは泣き崩れる

「ユノさんは、優しいんです…
逃げたんじゃない…身を引いてしまったんです…
過去のこともあるけど…僕が…僕がもっと…
ユノさんに信じてもらえるように…しっかりすればよかった…」

「チャンミン…」

テミンがチャンミンの涙をタオルで拭いてやる

「ユノさんは…たくさん愛してるって言ってくれたのに
僕は…僕は一言も返事をしなかった…」

「そう…なのか?」

ヒチョルのテンションが落ち着く

「そりゃそうだよ、チャンミンは自分のためにカレシが死んだと思ってたんだもん、簡単にそんなこと言えないよね」

テミンが今度はチャンミンの背中をさすった

「チャンミン…誰も悪くないよ、ね?
ヒチョルの言うことなんて聞かなくていいし
チャンミンもあんまり自分を責めないでさ」

「ふん」

ヒチョルが鼻を鳴らすとテミンが睨んだ
ヒチョルが目を剥いた

「おめーはなんだよ、年寄りクサイこと言いやがって」

「悪いけど、ヒチョルやチャンミンより経験豊富なんで」

「あーあーそうかよ」

「きっと、ユノはちょっといい男になって帰ってくるよ、ね?」

「もう、あれ以上カッコよくなんて、なりません…」

「あっそ…」

さすがのテミンも呆れ果てた



季節がひとつだけ過ぎた


「ありがとうございました
またどうぞ」

チャンミンは客を出口まで見送った

そんな接客の仕方は
このバニョレではチャンミンだけしかしない

さりげなく、自由に店内をみてもらって
必要なときだけ接客するというのがこの店のスタイルだった

それでもチャンミンは玄関まで客を送る

ユノが出発したら辞めるはずだったチャンミンは

このバニョレで、朝の掃除から閉店後の売り上げの計算までこなす

結局は、ヒチョルに店長代理を任されて
チャンミンはテミンと店を運営していた

「ねぇ、チャンミン」

「なんですか?」

「ユノに電話してみたら」

チャンミンは少し考えてからつぶやいた

「……しませんよ」

「どうして?」

「連絡をとるくらいなら
僕はユノさんの後をついていきました」

「……ん」

「ユノさんだって、僕に電話してくるくらいなら
僕のこと、一緒に連れて行ってくれたでしょう」

「まあね…」

「だから…電話なんかしませんよ」

「チャンミン、雰囲気が変わったね」

「そうですか?」

「はじめてこの店でチャンミンに会った時はさ
なんか…冷たい感じで…感情の起伏もないみたいで」

「ああ、うん、そうですね」

「まさかさ、ユノが出発してあんなに泣くなんて思わなかったし」

「そうですか?」

「涙なんか出ない人間なんだと思ったよ」

チャンミンはプッと吹き出した
そして、しばらく笑ったあと、ふと寂しそうな顔になった

「なにしろ、5年も…ひとりでいたんで
あの頃は人とどうやって接していいかわからなくて」

「なるほどね」

「もっと、ユノさんを好きだって気持ちを
伝えられたらよかったって、そればっかり後悔してます」

「伝わってたよ、まわりにはね」

「そう…ですか?」

「けどね、肝心のユノには伝わってなかった」

「……」

「それはさ、ユノがシールド張ってたからだよ」

「シールド?」

「ユノはシールドを張り巡らせて、自分の心を守ってたんだ」

「……」

「だから、仕方ない
ユノはこんなにチャンミンに愛されてること
気づけないでいたんだよ」

「そんなもんですかね…」

「恋愛もさ、タイミング大事だよねぇ」

「そうかもしれないですね…」


店を閉めるころ

ヒチョルがやってきた


「あ、こんばんは」

「チャンミン、そろそろミッションクリアするか」

「ミッション?」

「ドフンの姿を見てみないか?」

「……ヒチョルさん…」

「直接会って話すっていうのは
ごめん、そこまではヨジンの了解を得られなかった」

「……」

「だから、遠くから見るだけだ
どうする?」

「……」

チャンミンは歯を食いしばるような素振りを見せた

「いやなら…」

「会います…いや、ドフンの今を見てみたいです
お願いできますか」

「うん、御膳立ては俺に任せろ
そしてさ、チャンミン」

「はい」

「ユノじゃないけど
やっぱりドフンへの気持ちが残っているとわかっても」

「……」

「別にそれは悪いことじゃないんだぞ」

「……」

「ユノは、その覚悟をしているはずだ」

「……」

「ひとまわり大きな男になって帰ってくるって言ってんだからさ、チャンミンのことはどんなことでも受け入れられるさ」

「ヒチョルさん…」

「だから、なにも心配せず…な?」

「はい…」



**********


バニョレを離れてかなりの日数がたった

ユノは短期でバイトをしながら旅をしていた

季節的にも海沿いを走り、大漁の時に人手が必要な漁港をいくつか回った

よく働いて、人懐こいユノはみんなから好かれた

漁師や漁港のパートのオンマたちから
家に招待されて新鮮な魚介をご馳走をいただくことも多かった

けれど、ほぼ必ずと言っていいほど
その席には、その家の娘さんが恥ずかしそうに座っていて

最後には「ウチの娘はどうだ?」という話になる

それを丁重にお断りして、結局は野宿となる羽目にはなるけれど、そんな夜に限ってチャンミンに会いたくて仕方なくなる


そろそろ次の場所に行こうとしていたユノに
漁港の長老のような存在の人間から酒の席に誘われた

しかも、この長老が一番かわいがっているとされる孫娘が
いつも漁港で働くユノを熱い視線で見ていることにもユノは気づいていた

まいったな…

けれどこの長老には短い間ではあったけれど世話になっていたし
義理堅いユノはとてもじゃないけれど断れない

仕方なく夜になって長老の家に行った
さすが長老の家だ、大勢の漁師が集まっていた。

今まで食べたことのない海のご馳走に舌鼓を打ち、
酒を酌み交わす

案の定、ユノは嫁はもらわないのか、というような話になった

長老の孫娘の頬がなぜか赤くなる

ユノは酒の盃を卓に置くとひとつ深呼吸をして
膝に手をついた

みんなはユノが何を話しだすのかと静かになった

「あの…こんな話をすると…皆さんを驚かせてしまうと思うんですけど」

みんながシンとなった

話しにくい…だけど…


「俺…女の人を好きにならないんです」

みんながユノの言葉の意味がわからずキョトンとした顔をした

この男の中の男、といった風情の漁師たちの中で
こんな話をしたら殴られるかもしれないとユノは思った

「好きになるのは自分と同じ、男なんですよ」

話の意味に気づいたまわりの何人かが息をのんだ

「それで…今…すっごく好きなやつがいて…」

チャンミン



ここで殺されるかもしれない

でも…

チャンミンを好きなことに…なにも恥じることなんかない

だから…俺は堂々と言う


「そいつがすっごく好きなんです」

ユノは顔を上げた

「だから、嫁をもらうっていう選択は俺にはないんです」

「……」

ユノは笑ってみた

長老の娘は目を見開いていた

いや、驚いているのは長老の娘だけではない…

その場の空気を完全に凍てつかせてしまった

それでも

あまりに堂々としたユノの態度のせいか
とりあえず殴られることはなかったけれど

たくさん質問され
そして最後には、気持ちを改めるように諭され
女の良さを知るべきだという話になった

帰る時に、長老の孫娘から声をかけられた

「ユノさん、なんだか大変だったわね」

「いえ、みなさんを驚かせてしまったみたいで
すごいご馳走だったのに」

「ユノさん、立派でした」

「え?」

「好きな人のこと、堂々と好きだって
すっごく好きだって」

「あ…はい…」

「だから、ユノさん、わたしも堂々と言いますね」

「?」

その娘はユノに右手を差し出した

「わたしもユノさんが好きでしたよ」

「あ…」

あまりに爽やかに微笑みながら
ユノに握手を求めた

ユノはそっとその手を握り

「気持ちに応えられなくて…」

申し訳なさそうにそういうと
娘は朗らかに笑った

「ユノさんを好きにならせてくれてありがとう」

「え?」

お礼を言われてる?

「ユノさんを好きでいる時間はとても楽しくて
幸せでした、ありがとうね」

そう言って、娘はユノに手を振った

「……」


ユノは波の音を聞きながら
なぜか、スンホを思った

スンホに…俺も、ありがとうって言えばよかったな

いい思い出をありがとう

気持ちに応えてもらえなくても
俺はスンホと友達でいれて幸せだった

スンホを好きで、つらいこともあったけど
俺にとってかけがえのない時間だった


夜空を見上げると
そらには丸い月が輝いていた







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