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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

手を繋いで 1



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愛するひとの
その手を離してはいけない…とチャンミンは思った

愛するひとの
その手を離してやればよかった…とユノは思った

 

チャンミンがユノを知ったのは
マップアプリのストリートビューの中だった…


間接照明をひとつつけているだけの、暗い部屋
ひとりぼっちには慣れっこの夜

チャンミンがこの部屋へ引っ越してきたのはごく最近だ

なるべく人との接触を避けて
ひとりアパートでエンジニアの仕事をしていた

ネットで仕事をもらい、ネットで納品

ひとりでアパートを借りて暮らすには
十分な収入があった

ひとりでいるからといって
コミュニケーション能力が低いつもりはない

けれど、この5年間は誰かと楽しく過ごそうという気になれず、ほとんど1人で過ごした

明るい人生を過ごしてきたつもりだけれど
5年前にチャンミンの人生を大きく変える出来事があった


愛する人がいた

同性を愛するチャンミンに、その人は応えてくれた

けれど、愛し合うにはあまりにもまわりの反対は大きく
追い詰められた2人は、川に飛び込んだ

愛するひとの遺体は上がらず
チャンミンだけが生き残った

あまりにも若すぎた自分たちの
浅はかな行動ではあったけれど

まわりは…生き残ったチャンミンを許さなかった

チャンミンは心を病んで、社会から自分を隔離して生きていた

けれど

そろそろ、今よりは明るい人生を歩みたかった

歩きださなければ、とも思っていた。

それでも、ひとり生き残ってしまったことの罪悪感
で、なかなかその一歩を踏み出せずにいた



パソコンの画面が変わるたびに
部屋の色が変わる

青い光が、チャンミンの顔を照らす

チャンミンは仕事の合間に
マップアプリで遊ぶことにハマっていた

アパートの自分の部屋にいながらバーチャルだけど
ストリートビューでいろんなところに行ける

世界中の観光地を検索した
街の中の路地裏へ行ってみたり、楽しみは無限大だった

それに飽きると、知り合いや親戚の家、小さい頃よく遊んだ場所などを検索して、長い時間、懐かしい思いにふけっていることも多かった

このアパートに来てからは、
引っ越してきたばかりのこの街をストリートビューで検索をすることが多かった

生活に必要なものを買う店、カフェ、そんな場所を自分のアパートから歩ける範囲で検索していた。

大学に続く街路樹の通りを調べていて
ふと、チャンミンの目に止まった景色があった


通り沿いの小さな店

店の名前はぼかしてある

ウィンドウに飾られているのがカジュアルなジーンズだったりすることからみると、学生向けの古着屋だろうか

背の高い男性が、店のウィンドウを拭いている

その姿がチャンミンの目を引いた

長い脚をクタッとしたジーンズが包んでいる
オリーブ色のタンクから、たくましい腕がのぞき
肩甲骨が張り出していた

セクシーなひとだ

チャンミンは思った

後ろを向いているせいか、顔にぼかしは入っていなかったけれど、ウィンドウにその端正な顔立ちと思われる影が写っている

カッコいい…

その顔を拡大して、限界まで解像度をあげていく


毎晩、パソコンでその通りに行ってみては
そのウィンドウを拭く男性を眺めた

スタイルがすごくいい
窓を拭いているだけなのに、筋肉が隆起した二の腕が
とても綺麗で目を奪われる


会ってみたい

そんな思いが募っていった

店の名前は地図と検索エンジンで簡単に判明した

" Bagnolet "

バニョレ?

フランス語の名前なんだ…

まずは客として今度店に行ってみようかな

けれど、思うだけで結局は実行には移さなかった


そんな時

引越しの役所関係の手続きに重い腰をあげて市役所に行ったチャンミンは、
予想通り、進まない手続きに待たされて飽き飽きしていた。

隣の労働関係の部署にある求人コーナーへ行ってみた
もちろん仕事を探すつもりなどなく、ただの、ひまつぶしだった。

何気なく見ていた求人情報の中に

あの " バニョレ" の求人があった


***********


柔らかな日差しの中

チャンミンは小さな花束を手に
緑の小高い丘をゆっくりと登っていた

ベージュのステンカラーコートに
ジーンズの裾は少し折り返して
短いソックスにローファーを履いている

お洒落については
自分なりのこだわりがあるつもりだった


チャンミンは
頂上まで登って振り返り、大きく息を吸い込んだ

町の景色が一望できる

この墓地は意外と高い場所にあるんだな

そんなことを思いながら
チャンミンは向き直って、ひとつの墓標の前に立った

キム・ドフン

そう書かれた墓標を
チャンミンは見下ろした

ドフンが生まれた年月日のその隣に
5年前の日付が記してある

それは人生を終えた日付

けれど、この墓標の下に
ドフンはいない


静かに目を閉じると
チャンミンの耳にはあの日のヨジンの叫び声が聞こえる


「兄さんを返して!」

「あんたが兄さんの代わりに死ねばよかったのに!」


チャンミンの閉じた瞼が震えだす

そう

僕が死ねばよかったのだ

ドフンを引きこんだのはどうせ僕たがらって
みんな言いたいんでしょ

そんなこと、あんなに叫ばなくても
僕が一番よくわかってる

でも、僕たちは少なくともお互い合意の上で
あの日、橋から暗い川に飛び込んだんだ

みんなが僕たちをあんなに反対しなきゃ
今頃、こんなことにはなってなかった

生き残った僕だけ責められてもね


チャンミンは静かに目を開くと
手にしていた花束をそっと墓標の側に手向けた

ドフンそのものような優しく凛とした花束

チャンミンはそっと墓標を撫でると
少しだけ微笑んだ


僕ね…働くことにしたんだよ

いつまでも、母さんや父さんにに仕送りさせられないしね
なんて言うのは建前で

ごめん、僕、ドフンには申し訳ないけど
5年ぶりに胸がときめいている

チャンミンは墓標を撫でながら微笑んだ

もし

あの日、死んだのが僕だとして
ドフンに5年後好きな人ができたって
天国の僕はなんとも思わないよ

むしろ、応援してあげたいと思う

だからさ、ドフンも僕を応援してくれると思ってる


これから面接なんだ


チャンミンは立ち上がった

登ってきた丘を今度はゆっくりと降りて行く

青い空、爽やかな風

これから新しい生活がはじまるかもしれない
そんなシチュエーションにぴったりな空なのに

チャンミンの心は
この空ほどスッキリとはしていなかった




チャンミンが訪れたのは
駅にほど近い小さなメンズ向けのセレクトショップ

地図など見なくても、チャンミンはスムーズにそこに行くことができた。

いつも、モニターの中でこの店を見ていた
駅からの道もバーチャルでよくわかっている

近くには大きな大学の校舎があり
学生向けに手の出しやすい金額に設定された服が並ぶ

程度の良い古着や、どこかで買い付けてきたセンスの良い
シンプルな服

小さなウィンドウに飾られたスタイルはどれもシンプルで
チャンミンの好みだった。


「すみません」

そう言ってガラスのドアを押すと

「はい?」

と低い声が聞こえた

春物のコートがならぶコートハンガーから
ヒョイと1人の男性が顔をのぞかせた

身長はかなり高い

涼しげな瞳が印象的な、綺麗な顔立ち
長い前髪が、その高い鼻梁にかかっている

あ、あの人だ

紺のリネンシャツにダメージのあるブラックジーンズ

凛々しく整った顔立ちに反して
そのスタイルはどこか気さくさを感じさせた


やっと会えた


チャンミンの胸がときめいた


「………」

その店の男性は棒立ちになったまま、
何も言わない

黒目がちなアーモンドアイが
真っ直ぐにチャンミンを見つめている

やっぱり、カッコいい
思った通りだ


「あの…市の紹介所から来ました」

「……」

「シム・チャンミン…です」

「……」

チャンミンから視線を外さない
けれど何も言葉を発さない店の男性

どうしたものかと、チャンミンは少し困ってしまった
心臓がドキドキとうるさく音を立てる

人とのコミュニケーションは久しぶりすぎて
どう言葉を発してよいか、自分でもわからなくなっている



「あの…面接を…」


男性が少しハッとした様子で
瞬きをした

「面接…あ、はい、あの、市役所の…紹介?
はいはい…」

急に目覚めたようにその人は慌てて喋り出した

「あ、この店をやってるチョン・ユンホです
あの…えっと…面接ね…ここではできないんで…」

「……」

「待ってね、えっと、隣のカフェで面接したいんだけど
いいかな?」

「あ、はい、いいです」

ユンホは、店の奥から鍵をジャラジャラ言わせて持ち出してきて、ドアを開けた

「この隣だから」

「あ、はい、」

開けてくれたドアから、チャンミンは店を出た

ユンホはガラスドアの札をCLOSEに裏返し
鍵をかけている

そんなユンホをチャンミンは待っていた

広い背中にカジュアルなシャツがよく似合っている
タイトなブラックジーンズは、ユンホの細い腰と
長い脚にぴったりと馴染んでいる

いきなり、ユンホが振り返った

「ごめんね、なんか」

小さく凛々しい顔に、人懐こい笑顔が広がる

「えっ…」

さっきの硬い表情とは打って変わっての笑顔に
チャンミンが驚いた顔をした

「店が狭くて、ごめんね
面接するスペースもないんだ」

「あ、いいえ」

「こっち」

「はい」


店の隣に可愛いカフェがあった

やはり学生向けのカジュアルなカフェだ
何人か女の子のグループと、カップルが1組いる

「いらっしゃ…あー!オッパ!」

店の女の子が、ユンホを見て笑顔になった

ユンホは片手をあげて挨拶すると
奥の席を指差した

「奥いい?」

「もちろん!」

背の高いユンホとチャンミンが店のフロアを横切るのを
女の子たちがじっと目で追った

そして小さく叫声をあげていた

白いテーブルと白い2脚の椅子

ユンホが奥に座った

日差しが優しく白いテーブルを包む

女の子が少し照れながら
テーブルに来た

チラチラとチャンミンを見ている

「ユノオッパなにする?」

「アメリカーノで、甘くして。
君は?」

「あ、同じのをおねがいします。
僕はブラックで」

「はーい」

女の子は弾んで戻っていった

向き合うと、ユンホはまたじっとチャンミンを見つめた

チャンミンは戸惑った

この人はこういう風に相手をじっと見る癖があるんだろうか…

いや、違う!
僕が書類を出すのを待っているんじゃないか

「あ、すみません、書類ですね」

チャンミンはリュックから慌てて書類を出した

「これが、紹介状で…あの…これが履歴書というか」

履歴書なんて…言えるような書類ではない
なにしろ、ろくに仕事をしていないのだ。
躊躇したけれど、出さないわけにはいかなかった

目の前に書類を出しても
ユンホはじっとチャンミンを見つめていた

「……」

「あの…」

「名前は…なんていうの?」
 
「え?」

漆黒の切れ長の瞳が少しだけ細められて
チャンミンに問う

「名前…は…」

さっき言ったんだけどな…
そう思いつつも、チャンミンは姿勢を正した

「シム・チャンミンです
市役所の職業紹介所でこちらを」

「あ、うん、さっき聞いたね
そうだった、ごめん」

また、ユンホは人懐こい笑顔になった

「俺はチョン・ユンホ
ユノって呼んでくれていいから」

「あ、はい…」

ユノは眩しそうな瞳でチャンミンを見つめる

しばらくユノはそうしていた

書類は見ないのかな
そんな風に見つめられるとさすがに恥ずかしい

チャンミンは
思わずユノから視線を逸らした

それに気づいて、慌てたように
ユノの視線は書類に落ちた


「この近くに住んでるんだ」

「はい、歩いて通えます」

「この辺のアパートは安いよね、学生向けだから
俺もこの近くに住んでるよ」

「はぁ、そう…ですか」

「俺より2歳下なんだね」

「そう…ですか」

「この辺はパン屋もね、結構美味しくて安いところ多いし
スーパーもね、安いよね」

「……そう…ですね」

「なんて、俺あんまり料理しないけどさ」

笑うユノの瞳が弓なりに細められる
黙っている時と、笑顔のギャップがすごい人だ

「………」

「あ、えっと…それで」

チャンミンが戸惑っていることに気づき
ユノの視線がまた書類に落ちた


「いい大学出てるね
頭いいんだ」

「……そんなこと…ないです」

チャンミンは俯いた

「…エンジニア?」

ユノは意外そうにチャンミンを見た

「少しだけ…」

「そうだね、これだと3ヶ月…しかも5年前」

「……」

「一応聞いていいかな、今までどうやって生活してたの?」

「ネット上でやりとりしながら、家でパソコンで仕事してました」

「そう」


「ですけど…なんか
このままじゃいけないかなって」


" あなたに興味があったんです "

そんなことは言えない



「接客の経験は?バイトかなにかでもいいんだけど」

「まったく…ないです」

チャンミンの表情に小さな絶望が浮かんだ

「あ、そう…なんだ…」

「ダメ…でしょうか、やっぱり」

「全然ダメじゃないよ、
でも、エンジニアほど給料は良くないけどいいの?」

「それは全然」

「ひとつ聞いていい?」

「はい、いくつでも」


「どうして、うちの店で働きたいと思ったの?」


" ストリートビューで…ウィンドウを拭くあなたを見て "


「ここで売っている服がシンプルで、なんていうか
組み合わせとかいいなって思ってて」

はじめて来た店だったけれど
チャンミンはなんとか取り繕った

ユノの表情が明るくなった

「あ…お店で買い物はしたことないんですけど」

「チャンミンは服が好きなのか?」

「嫌いじゃないです。
でも詳しくないし、こだわりはありますけど
流行に敏感というわけじゃないです」


「そう…」

ユノが少し消沈したのが、その声でわかった


「ダメですかね…ですよね」

「………」

「………」

チャンミンはもう顔が上げられなかった

なんでここに面接なんて来たのだろうと
ユノさんはそう思っているはずだ

店を閉めてまで
対応してくれたというのに


「いつから来れる?」


「えっ?」

チャンミンがパッと顔を上げた


採用?!


「あの…いいんですか?僕で?」

「俺の店をいいと思ってくれたんだろ?」

「あ…」

スッとした切れ長の目尻がとても綺麗だった

黒目がちの目に、優しく睫毛が被る

白い歯を見せて
ユノは笑っていた

「さっきも言ったけどもう一度確認するよ。
エンジニアより給料良くない。
生活していけるの?」

「あ!それは、あの…昔の知り合いが
家でできる仕事をまだ少しくれるので」

「そうなんだ、じゃ大丈夫だね」

「はい!あの…こちらこそ、接客の経験もなくて
ほんとに…あの…」

「チャンミンの身長とルックスがあれば
なんでも着こなせそうだ。
仕入れた服を着て店にいてくれたらいいよ
アドバイスとかそんなにしない店だし」

「はぁ」

「あんな店だけど、混む時は結構混むんだよ
だから、助かる。
一日中服を畳んでいることもあるよ
そんな感じだけど」

「はい、あの…がんばります…
よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく」

差し出された手が驚くほど綺麗だ

「………」

「明日から来れる?」

「はい」

「じゃ、今夜はよく寝て。
明日は開店してから来てくれていいよ」

ユノは立ち上がって、レシートを掴んだ

チャンミンも慌てて立ち上がった

「あ、ありがとうございます」


ユノが店を出て行く姿を見送った

テーブルをよけながら歩く姿は
ダンスをしているように軽やかだった

まるで、ショーのランウェイのように






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ほんとに無沙汰してます
百海です。

みなさまどのようにお過ごしですか?

わたしは、いつもお気に入りのカフェで
お話を書いていたのですが
そのカフェがお休みになってしまい、なかなかお話を綴ることが難しい状況でした

やっとお話が描けるようになって
また、お暇な時に遊びに来ていただけたら嬉しいです。

お休みしているときも、コメントをくださったみなさん
ほんとうにありがとうございました。

忘れないでいてくださって
うれしかったです

また、どうぞよろしくお願いします。
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