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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

手を繋いで 2



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一目惚れ…だった


店に入ってきたチャンミンを見た時に

もうそれを自覚せざるをえなかった


 
予定の時間より少し早めに、店のガラス戸が開いた

狭い店には、面接をするスペースどころか
座るところもない

店のフロアと、奥の倉庫だけ
倉庫と行っても、家庭のウォークインクローゼットくらいの広さしかない


倉庫で片付けをしていたユノは
人の気配に、フロアに顔を出した


そこにいたのは



まさに…天使だった


天使は
不安そうに…そこに立っていた

縋るような大きな瞳

恥ずかしそうな佇まい


名前はチャンミンといった


チャンミンはユノの心に
風が吹くように入り込んできた


身長が高く、線が細い
ステンカラーコートを少しオーバーサイズに羽織って
襟元からはボーダーのカットソーが見えている

ジーンズの裾が折られているのは
技なのか、単に長いから折っているのかわからない

けれど、なによりも

その、少し怯えたような大きな瞳が

ユノの心を射抜いた


ユノの全身が…五感のすべてが
一気に湧き立つような興奮を覚えた

ユノはその大きな瞳を見つめたまま、
固まって動けなくなってしまった


じっと見つめてるのは変だろうとわかっているけれど
どうにも視線が外せない

恥ずかしげに俯くと、さらに可愛い


バイトのテミンが急に留学をしてしまい
店を辞められて困っていた

小さい店だが、結構学生なんかで賑わう時間もある

最近昇り調子の店だからといって
求人広告をだすほどの金はなく

市役所の職業紹介所へ募集を頼んだ

役所でこんなアパレルの仕事を求める人間がいるとは
思えなかったけれど

真面目な人材なら役所の方が確かもしれないと
知人のアドバイスもあった

レジや品出しをしてくれたら
それでいいと思っていた

だから、正直誰でもよくて
時給とかなんだとか面倒なこと言わない奴に決めようとは思っていた

けれど

誰でもいいなんて、そんな気持ちはふっとんだ

チャンミンじゃなきゃ困る

もう、この目の前ではにかみながら
自分を語るチャンミンしか雇うつもりなんてない

目の前で両手でコーヒーカップを包み
熱くないようにそっととがらす、その唇から目が離せない

さすがに自分の態度はおかしいのではないかと思い
ユノは雇い主らしく書類に目を通した

やっと履歴書の内容が
ユノの頭の中に入ってきた


一流の大学を出ている

けれど、ろくに働いたことがない

そこを突くと
なにやらワケありなようで

その隙に、手首に残る傷まで見えてしまった

なにかあったんだろう

5年間も家で仕事をしていたなんて
人とのコミュニケーションを避けていたのかもしれない

繊細なんだろうな…

そんなところに、ますます心惹かれる

言いにくいことは言わせたくなかったから
サラリと話はしたけれど

一応、なぜ自分の店を選んだのかは知っておきたかった

正直言って
今まで面接した中では
一番条件は良くない

でも

販売経験がなくたって
服に興味がなくたっていい

過去になにがあろうが
今大事なのは、明日からチャンミンと会えることなのだ

戸惑う姿を見ていると
儚くて可愛くて、抱きしめたくなる

完全に惚れた

そう自覚して、とりあえず採用を伝えると
チャンミンは驚いたような顔をした

クリクリとした瞳が本当に可愛くてどうにかなりそうだ




**********



「てめぇ、好みだからって
テキトーにバイト雇ってんじゃねぇよ」

ヒチョルがグラスを揺らしながら
ユノを睨む

「テキトーじゃないよ」

ユノはヒチョルのつまみのアーモンドを
カリカリと齧っていた

ヒチョルはそんなユノをみて
ため息をついた

そして舌打ちをすると、バーテンダーに声をかけた

「お兄さん、悪いけど
チョコがコーティングされてるアーモンドある?」

「チョコですか?」

グラスを拭いている若いバーテンダーが
カウンター越しに意外な顔をした

「このボクちゃん、甘いモノが好みでさ」

ヒチョルはその大きく鋭い瞳を細めた


「そうなんですね、ちょっとお待ち下さい」

そう言って、バーテンダーはグラスに盛り付けたチョココーティングされたアーモンドを出してくれた

「まさにぴったりのものがありました。
でも、ユノさん、甘いモノが好きだなんて、
ちょっと意外ですね」

「こいつは恋人の好みも甘いのが好きでね」

バーテンダーはただニッコリと頷いた


「なんだよ、それ」

ユノは不服そうな顔をして
甘いアーモンドに手を出した

「安易に手を出すなよ
テミンみたいになるぞ」

「人聞きの悪いこと言うな
俺はテミンに何もしてないって」

「何もしないから、あんな可哀想なことに」

「勝手に泣きわめいて、
いきなりパリだかイタリアだかに行ったんだろうが。
店ほったらかしてさ」

「優しくしてやればよかったんだよ」

「かえって残酷なんだよ、そういうの」

「罪な男だ。たまには女でも抱け
みんなお前が振り向いてくれるのを待ってるぞ」

「いやだ」

「贅沢なやつ」


「とりあえず」

ユノは両手を高くあげて笑った


「俺は明日から仕事がパラダイスだ!」

「はいはい」

ヒチョルは呆れたようにユノの肩をポンポンと叩いた


あの可愛いチャンミンと一緒に仕事ができるのかと思うと
ユノは単純にテンションがあがった


一目惚れなんて

正直久しぶりだ


そんなユノを見て
ヒチョルの視線が安堵したような優しいものに変わった


「ユノ」

「ん?」

ユノはアーモンドを一口かじった


「よかったな」

「なにが?」


「ユノが…また人を好きになれたなんて
俺はうれしい」

「……」

アーモンドを噛みながら
ユノがフフッと笑った


その瞳は懐かしそうに遠くを見ていた


あの日の…スンホの声が聞こえてくる


「ユノの想いに…応えられなくて…ごめんね」


体中に管をつけられて
微かな息づかいの中

スンホの目尻からひとすじ、涙が枕に落ちた


泣かせたかったわけじゃない
謝らせたかったわけじゃない

あの時…俺は…

ただ…

大好きなスンホの最期を見届けたかっただけだ
たったひとりで死んでゆくスンホの側にいてやりたかっただけ

叶わぬ恋だったけれど

長年の夢よりもなによりも

あの時のオレは、スンホが大事だった


スンホはユノの想いに応えてやれなかったことを
その人生の最期に詫びた

その僅かな最期の時
ユノはしっかりとスンホの手を握っていた


ひとりぼっちなんて、人生の最期にひとりだなんて
だから、しっかりとその手を握っていたのに

お前はひとりじゃない…
俺が…側にいるから

そう言ってやりたかったのに


「ごめんね、ユノ…」

きっと

俺がその手を握っていたことが
スンホは負担に思っていたのだろう

そんなことに気づきもせず…

俺は…


ヒチョルも懐かしそうな表情になった


「お前、一流のモデルになれるところだったのに」

「わかんないさ、そんなの。
なれなかった確率のほうが高い」

「ユノらしいよ、なんか」

「そう?」

「フラれたくせに、
ここ一番って時にソイツの看取りに行っちゃうなんてさ」

「あの時のオレには
スンホの方が大事だったんだよ」

「一流モデル事務所のオーディションより?」

「ああ」

「年齢ギリで、最後のチャンスだったのに?」

「ああ」

ふんとヒチョルは鼻を鳴らした


「でも、今思うと、行かなきゃよかった」

「ほら、そうだろ?病院行かずにオーディション行ってりゃさ、今頃お前、どこかのショーで活躍…」

「ちがうよ」


あの時…

「俺が病院に行かなきゃ
スンホは穏やかな最期だったんだ」

「……」


「スンホに…謝らせちゃってさ」

「……」

「側にいてやろうなんて
オレの自己満足だった」

「ユノ」

「……」

「スンホはお前に謝ることができて
ホッとして逝けたのかもしれないぞ」

「……」

「最期に…誰かに謝りたいってことも
人間あるだろ」


ユノはいたずらっぽい笑顔を作った

「ヒチョルは特にね
いろんな女にたくさん謝らないとね」

「なんだよ!」

「ヒチョルの最期を看取るのに、女が行列つくるな」

「あ、それは言える」


2人の笑い声が夜更に静かに響いた





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