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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

この世の果て 完



チャンミンは全身が映る鏡で
自分の服装をチェックした

かつて、ユノの前でよく着ていた服を選んだ

白いコットンのパンツに紺色のセーター
ベージュのダウンジャケット

この組み合わせはユノと少しカジュアルに出かける時に
よくしていたスタイルだ


思い出してくれるだろうか


自分を愛してくれたことを思い出すだろうか

ユノを失ってからその面影を消すために
ユノの持ち物はすべて処分してもらった

けれどこの1週間かけて、部屋を整えた

リネン類もいいものに替えて
ユノのサイズのスーツとシャツ、靴をいくつか揃えた

カーテンも明るい色に替えて
ユノの記憶が戻り次第、すぐに一緒に住めるように整えた



緊張しながらも
チャンミンは車を走らせ、ユアンが住む
そして、自分が買収してリゾートにしようとしている
海辺へと向かった

ここで少しユアンと話をしたら
その後に自分の家にユアンを連れて行こう

自分が育った家を見たら
記憶が甦る可能性もある

医師に問い合わせたところによると
記憶障害はある日突然にすべてを思い出すことがあるという

チャンミンは期待した

ユアンに指示された駐車場に車を停めると
チャンミンはスマホで連絡をとった


ドキドキした


すぐにユアンが出た


「今どこですか?」

その声に既に涙が出そうだ

「駐車場に着きました」

「目の前に、定食屋が見えませんか」


チャンミンの目の前に
海産物を食べさせる古びた食堂があった

「その中に入って来てください」

「はい」


やたらと重いガラス戸を押し開けて中に入ると

外見よりは清潔感のある店内だった


「いらっしゃい」

ユアンが頭にタオルを巻いた状態で
ニッコリと微笑んでいる

日焼けした顔に白い歯が眩しい


グレーのパーカにジーンズ
ベージュのツイル素材のエプロン


チャンミンを出迎えたのは
ユアンだけではなかった

そこには白い髭をたくわえた老人と
ユアンよりいくつか年上の男性もいた

「いらっしゃい」

ユアンが中から出てきて、チャンミンの真ん前に立った
そして、小さな声で言った

「みんな、社長だって知らないから大丈夫」

「あ…」

「名前はなんて言うんだっけ?」

「チャンミン…シム・チャンミンです」

「チャンミンって呼ぶけどいい?」

「は、はい…」


ユアンに名前を呼ばれて、胸が苦しくなった

チャンミンはその背中に抱きついてしまいたい衝動にかられた

「じいちゃん、兄さん、これチャンミン。
俺の友達」

「そうか、いつもユアンが世話になってます」

「あ、こちらこそ」

チャンミンは頭を下げた

奥のテーブルにはユアンの友達らしき若い男が何人かいて、ゲラゲラと笑いながら話をしている

なんとも明るい雰囲気だ


「座って、昼飯まだだろ?
残り物だけど、海鮮鍋作ってやるから」

「いいんですか?」

「後で海辺を案内するから
まずは腹ごしらえ」

そう言って、さわやかにユアンは笑った

ご馳走になった海鮮鍋はとても美味しくて
チャンミンは何杯もおかわりをしてしまった

「あんた、細いのによく食べるね
作ってるこっちも嬉しくなるよ」

その食べっぷりに
ユアンの家族も嬉しそうだった

「ほんとに美味しかったです
こんなに美味しい海鮮鍋はたべたことがない」

「それはよかった」

「いつでも、食べに来てね」

「あ、はい…」

ユアンがエプロンを取って
チャンミンの元に来た


「そろそろ行こうか」

「はい」

「ちょっと犬も一緒にいい?」

「犬?」

「散歩に連れて行かないといけないんだ
犬は大丈夫?」

「あ、はい…」

ユアンは奥の中庭から、大きなゴールデンレトリバーを
連れ出してきた

「テグっていうんだよ、名前の通り
大邱で生まれたから」

「そうなんですか」

「カンタンに名前つけられちゃってさ」

ユアンは可笑しそうに笑う

テグは、散歩に連れていってもらえる予感から大はしゃぎで、狂ったように尻尾をふってユアンにまとわりついている

ユアンがリードをしっかり握ってチャンミンに微笑む

「こっちから行こう」

海辺へ渡るための横断歩道を渡り
砂浜へと続く石段を降りる

テグをつれて降りていくユアンについて
チャンミンも石段を降りた

「チャンミン」

「……はい」

そうやって名前を呼ばれると
心がつらい…

「ここが、チャンミンたちがリゾートにしようとしてる
砂浜だ」

「……」


遠くに岬が見えて、その端から蛇行しながら砂浜が続いている

美しい曲線

調査班から見せてもらった映像より
素晴らしい砂浜だ


リードを外してもらったテグが解放されて、
砂浜を元気に走り回っている

寄せてくる細波を待っていたかと思えば
叩きつける波から逃げようと走る

時折、ユアンのところに戻っては
甘えたような顔をするのが可愛い

「こいつさ、自分が遊びに夢中になってて
俺がいなくなってしまわないかどうか、確認しにくるんだよ」

「可愛い
あなたの事が大好きなんですね」

テグはユアンの笑顔をペロペロと舐めると
また海へと走っていく


「ここをプライベートビーチにされたら
ウチの定食屋は潰れるし、テグの遊ぶ場所はなくなるし
しかも観光客のゴミで溢れ返る。
それに…漁師たちがもうここで漁ができなくなる」

それは十分にわかっていた

チャンミンは少し俯いた

「ウチだけの事情じゃない
一家でここを離れなければならない家族が出てくる」

金で…解決する案件
それで処理をした記憶がある

「ここを離れる家には、金を払うんだろ?」

「あ…えっと…そうですね」

「一時的に金をもらっても
漁師しかしたことない連中なんだ」

「……」

「ここで生まれ育って
海と共に生きてきて、そんな連中がよそで何かはじめても
上手くいくわけない」

「そうでしょうか
それなりの金額だと思いましたけど」

チラッとユアンがチャンミンを見た

「金さえあれば、誰もが幸せになれると思ったら
それは違うよ、チャンミン」

「わかってます」

「そう?」

チャンミンはユアンを見た

潮風が少し強く吹いている

「生きていくのに、何が大切か
僕は…わかっているつもりです」

「へぇ」

チャンミンは少し拗ねたような顔になった

「あんたも…大変なんだろうね」

ユアンの低い声が優しい
記憶を失ってもユノが優しいのは変わらないんだ

そう思うと、嬉しいような悲しいような
複雑な気持ちになった

「……」

「俺が、開発に反対するのに音頭とったりしてるのは
恩返しなんだ」

「誰への?」

「この村。
記憶を失って山から彷徨い歩いてきた俺を
この村は快く受け入れてくれたんだ」

自分は何もできなかった…

そうチャンミンは思った


「ユアンさんは何が大事なんですか?」

「大事なもの?」

「そう」

「俺さ、船がほしいんだよ」

「漁船?」

「そう、高いんだよ船って」

「……」

「でも、頑張って働いて、自分の船がほしい
みんなみたいに自分の船で漁に出たいんだ」

「……」

「それが、今の俺の夢
生きていくために必要なのは…夢だ
俺はそう思っている」

夢…

ユアンは、潮風を浴びながら
遠くを眩しげに眺めている


綺麗な横顔

口元の小さなホクロ

輝く切れ長の瞳


チャンミンも潮風に吹かれながら
夢を語るユアンの横顔を見つめた

ユアンとユノ

同じ人なのに、まったく正反対の人間に思える
でも、やはりユアンはユノだ

かつて

ユノの口から…「夢」なんて言葉を聞いたことが
あっただろうか

果たして

ユノに…夢なんて…あったのだろうか


わがままで、自分勝手な僕を
ずっと守って愛してくれた

それでもユノは幸せな日々だったと
そう信じている

でも

僕は知っていた


ユノの苦悩を

僕を愛してくれるあの笑顔の裏に
優しいユノだからこその苦悩

犯したくなかった罪

自分を守るために強くなければと決意していたユノ

次々と犯罪を重ねる自分を許して.庇おうとしていたユノ
どれほど苦痛だっただろうか

結局、これ以上チャンミンが罪を重ねないように

ユノの人生を…その命をかけて

すべてを終わらせようとしてくれた

そんなあなたの夢はなんだったのだろうか


「お前は俺の命だ」

そう言って微笑んで
最期のキスをしてくれたあなたに

夢はあった?



ユアンがテグと遊び始めた

2人でバシャバシャと波打ち際で
ジャレ合っている

明るく笑うユアンの声と
テグの吠える声が青空に響き渡る

ユアンは眩しい

ユノ、あなたは、やはりとても綺麗だ


もし


もし、今ここで僕がユノを目覚めさせたらどうなる

すべて話してみようか
思い出すかどうかは別にしても

ユアンがユノに戻ったら

きっと、僕のところに戻って来てくれるだろう
ひとりにしてごめんと、申し訳なさそうに
謝ってくれるだろう


チャンミンはギュッと握り拳を握った

言おうか…

あなたの過去を知ってると

言ってみようか…



チャンミンの喉のすぐのところまで
そんな言葉が出そうになった


けれど

ユノはまたひとつ苦悩を重ねるのだ

僕のすべてを終わらせようとした事実

僕はユノに感謝しかないけれど

あのとき命を失わずによかった
生きていたからよかった、なんて
ユノはそんな風に思わない

きっと、苦しむ

そして、漁船を買うなどという夢を
あっさりと捨てるだろう


ユノ

僕は…いつまでも

あなたにそんな風に眩しく笑っていてほしい

もうあなたから、謝られたりしたくない


今は…そう思える


あなたの切なく苦しむ姿は


もう…見たくない


ユアンが息を荒げて戻ってきた


「もう、こいつさ、すごいんだよ
こっちがヘトヘトだ」

ユアンは岩の上、チャンミンの隣に腰掛けた

頭のタオルをとって、顔を拭く


「ユアンさん」

「ん?」

チャンミンはユアンに顔を向けてニッコリと微笑んだ

「リゾート開発の話は
一旦白紙に戻そうと思っています」

「え…ほんと?」

「わかりません、僕1人では決められない部分もあるので
ただ、ユアンさんの悪いようにはしないつもりです」

「チャンミン…」

「あの海鮮鍋がもう食べられなくなるのは
喜ばしいことではないです」

「なんだよー」

ユアンは笑った

「そんな簡単に決められないだろ」

「でも、僕は社長なので」

そう言って、チャンミンはいたずらっぽく
笑ってみせた


ユアンはチャンミンの笑顔を目を細めてながめた

「俺さ」

「はい」

「記憶まったくないって言ったけど」

「……はい」

「おぼろげだけど…弟がいたと思うんだよ」

「………」


チャンミンが真剣な顔でユアンを見つめた

「よくわからないけど
とにかく可愛いと思った気持ちと
小さくて柔らかい手の感触だけ、覚えてる」

「……」


「実際わかんない、俺の捜索願も出てないみたいで
本当に家族や弟がいたかどうかわからないけど」


「でも、弟を可愛いと思った気持ちは
覚えてるんですね…」

「ああ、覚えてるんだよ」


ユノ


僕はもうそれで充分


あなたがそれだけ覚えててくれて

僕は本当に幸せだよ



「僕はそろそろ帰ります」

「え?もう?」

「はい」

テグがキョトンとチャンミンを見つめる

チャンミンはテグの頭を撫でた


ユノをよろしくね

君が僕の代わりに

ユノの側にずっといてあげて


チャンミンは立ち上がって
大きく伸びをした


ユアンも立ち上がって
少し困惑した顔でチャンミンを見た


「また、来るといいよ
海鮮鍋食わしてやるからさ」

チャンミンは満面の笑で
ユアンを見た

「ありがとうございます
でも…」

「……」

「僕はもうここに来ることはないです」


そう言って微笑みながら
波を見つめた


「ユアンさん」

「ん?」

「ひとつだけ、いいですか」

「うん」


チャンミンはユアンに向き直った


「もし、いつの日か
あなたが僕に会いたくなる日が来たとしたら」

「……」


「僕はあなたに感謝の気持ちしかない」


「……」


「今日、僕がそう言ったことを
どうか思い出してください」

「…感謝」


「そうです
僕は…あなたに感謝の気持ちしか…ないんです」

「よくわからないけど、わかった」


フフっとチャンミンは笑った


さようなら

幸せに


そしてチャンミンは


1人海辺から離れた


駐車場に停めた車に乗ろうと振り向くと
ユアンとテグが道路の向こうからチャンミンを見つめている

「チャンミン!」

ユアンが叫ぶ

「もう来ないとかさ!そんなこと言うな!」


笑顔のチャンミンの頬に
涙が流れ落ちる


ここなら

ここなら泣いていい

ここならあなたから
僕の涙は見えない


さようなら

僕の大好きなヒョン


いつか必ず夢を叶えてね


チャンミンは後手に手を振りながら
運転席に乗り込んだ


そして、チャンミンはユアンとテグに見送られながら
海辺を後にした


僕らがいつも言っていた

「この世の果てまで一緒だ」


この世の果ては地獄だと思っていた


けれどユノ

実際に来てみたらね

そこにあったのは地獄ではなく


あなたの夢と

そして、あなたの幸せを願う僕がいたよ





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こんばんは百海です

長いお話を最後まで読んでいただき
本当にありがとうございました

まずは、たくさんのコメントや拍手をいただいていたのに
お返事をせずに本当に申し訳ありませんでした。

コメントはひとつひとつ楽しみに読ませていただいています
本当にありがとうございました。


前にもお話したのですが
あの「百夜行」の雰囲気が好きで書き始めたお話です。


お互いがお互いの太陽だった


ユノにとってはチャンミンが

チャンミンにとってはユノが

そしてドンホにとってはチャンミンが


それぞれが雪穂であり、亮司でした


本当は、海辺にいくまでに3話くらいあったのですが

最後がぼやけそうで、1話にまとめました

はじめての終わり方で
なんども書き直したのですがいかがでしたでしょうか。

終わりのパターンも4つくらいありました

ユノがチャンミンを思い出す
というのもありました

チャンミンが最後までサイコパスな雰囲気で
というのもありましたw

でも

この終わり方がなぜかしっくりきた感じです。


また、お話を描くと思います
今度はちょっと可愛いお話のつもりです

またよろしければ
遊びにきてくださいね

私が楽しんで書いたお話が
みなさんのちょっとした息抜きになってもらえたら
こんなに嬉しいことはありません

本当にありがとうございました


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