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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

この世の果て 39



殺風景な会議室に1人待つチャンミン

なかなかイ・ユアンは姿を見せない

どうしたのだろうか


窓の外を見ると
いつものビルばかりの風景だ

見慣れたこの景色は
ついこの間までグレーのデッサン画のようにしか見えなかったのに

今日は色づいて見えるから不思議だ


コツコツとノックの音がして
チャンミンはハッとした

「ど、どうぞ」

さっとドアが開いて
ユアンの長身が覗く


「…失礼します」

「あ……」

チャンミンは慌てて、オフィス机の方にユアンを誘導した

「座って…ください」

「はい」

どこかユアンが無表情に見えるのは気のせいだろうか


ユアンが椅子に座ると、
少し戸惑った後、チャンミンはユアンの真正面に座った

ユアンとしっかり向き合いたいという
チャンミンの意志の表れだ

ユアンはひとつため息をつくと
半分呆れたような口調で話し始めた

「正直申し上げて、こういうやり方はよろしくないのでは?」

「こういう…やり方?」

ユノがいきなりこれまでの事について話をするのかと思い、チャンミンは心臓がドキッとした

「言った言わないの話になるので
第3者を挟むべきだと言っているのです」

あ…

チャンミンはひどく落胆した

そういうことか
いや、そうだろう

自分は何を期待したのだろう

ユノがいきなり自分の名前を呼ぶと思ったのか

ユノが「お前をひとりにしてごめん」と言ってくれると思ったのか

そして、ユノが「もう心配しなくていい」と抱きしめてくれるかと?


けれど

期待した言葉は何ひとつ出てこなかった


何も答えず、悲しげに自分を見つめるチャンミンに
ユアンは少し戸惑った

話に聞いていた社長と少しイメージは違った

冷酷で自分の希望を通すためにはどんな酷いやり方も辞さない
ドライでクール、情に訴えても到底状況は変化しない

そんな風に言われていたのに


目の前にいる、このどこかの皇太子のように綺麗な若き経営者は

まるで小さな男の子のように
不安げで、そして悲しそうだ

チャンミンは、ユアンを見つめた

「公式なお話はしないので、安心してください」

「公式な話をしに来たのです。
それ以外の話が私とあなたの間にありますか?」

僕らの間には
話すことなんて何もないのだ


今のチャンミンにとって
突き放されたようなその言い方が
大打撃となって、心を襲った

また、泣きそうになるのをグッとこらえて
チャンミンはユアンを見つめた

「すみません」

消え入りそうな小さな声

「……」

次第にユアンはチャンミンのことが
少し可哀想に思えてきた

もしかしたら、この男はただのお飾り社長で
実は敏腕な側近が裏でこの王子様を操っているのではないだろうか

「あの…公式な話以外になにか話したいことがあれば
そちらからどうぞ」

ユアンの声は少しだけ優しくなった

それがチャンミンにとってはまたユノを彷彿とさせて悲しくなってくる


「イ・ユアンというお名前は…」

「名前…ですか?」

「はい…」

「名前がどうかしましたか?」

「いや、その…」

「あ、もしかして」

「はい?」

「調べましたか?私のこと」

「あ、いや…」

「そりゃ調べますよね?
それなら、記憶障害のことも?」

「あ、はい…」

「それについて、聞きたいですか?」

「はい!ぜひ…」

急に身を乗り出してきたチャンミンに
ユアンは驚いた

記憶喪失ということに
単純に興味があるというだけか


「2年前にこの村に来ました
名前は、引き取ってくれた家の息子さんの名前です」

「息子?」

「海へ出て行って帰ってこなかった息子さんの名前」

「はぁ…」

「記憶がなかったんで
自分が誰だかわからないし、もちろん名前も」

「なにも…思い出せない?」

「はい」

「そう…なんですか…」


「戸籍もなにもわからないから
とりあえず、そこの息子さんになりすましてます。
こうやってテレビに出たりすれば、昔の知り合いなんかが
何か言ってくるのかなとも思ったんですが。」

「何も…言ってこないですか?」

「はい」

「何も思い出せないですか?」

「はい」

「……そうですか…」

「よくドラマなんかで記憶喪失なんていうと
何も覚えてないのに、なんでお前は箸の持ち方を知ってるんだ?なんて突っ込んだりしてましたけど」

やっとユアンは少しだけ微笑んだ

「ほんとに、見事に過去の出来事や自分のことが
まるでわからない」

「そう…なんですか?」

「字もかけるし、料理もできるのに
それを、どこで習ったかわからない」

「……」

「それでも、あの村を蔑ろにしていいかどうか
善悪の判別くらいはつきますけどね」

言葉の最後に、ユアンはチャンミンを睨むように見つめた

今は闘争体制にないチャンミンは
それについては何も答えなかった

なぜなら、村のことは興味がないからだった

チャンミンが興味あるのは
ユアン自身の事なのだ

「おぼろげに何かこう…昔の景色が思い浮かぶとかも
ないんですか?」

「……」

「すみません…」


「今度はこちらからいくつか質問してもいいですか?
公式なことは話しません」

今度はユアンの方からチャンミンに聞きたいことがあるという

「僕にですか?あ…はい!どうぞ
どんなことですか?」

「なんか…」

「はい!」

「あなたが聞いていたイメージとかなり違うので
正直面食らってます」

「…冷酷で…無慈悲だと…」

「そうですね、敏腕で統率力もあると」

「……」

「いや、別にいいんですが
最初の返答文書もそんな感じだったので」

「そういう…振りをしているだけです」

「ふり?」

「すべての人と距離を置いて生きています」

「なぜ?」

「え?」

「なぜですか?
お金もあって、その容姿なら
いくらでも楽しい生活ができるだろうに」

「興味ないんです
楽しい生活とか」

「そう…なんですか」

「……」

「あと、もうひとつ聞いていいですか?」

「あ、はい!」

「やっぱりどうしても気になる
なぜ、今、私だけを1人呼んで、私たちはまるで
これから友達になる、みたいな会話をしてるのか」

「……」

「さっきは、かなり興奮されていましたけれど
もしかして…私をご存知とか」

「いえ、それはないです」

「そうですか」

「ただ…」

「?」

「亡くなった…兄に面影が似ていて」

「私が?」

「…はい」

「へぇ」


「僕は…兄が…大好きだったものですから…」

「でも、亡くなったのですか?」

「はい…大好きだったのに
僕1人を残して…亡くなってしまったんです」

「そうでしたか…」

チャンミンはまた感極まって
その大きな瞳に涙が溢れ出した

「あーちょっと、また泣く」

ユアンは慌てた

ユアンは立ち上がって、誰かを呼ばなければと
部屋を出ようとした


「あ、すみません、大丈夫ですから」

「ほんとですか?」

「はい」

「そんなに…好きだったんですね
お兄さんのことが」

「…はい」

ユアンは少し躊躇しながら
ためらいがちに話だした

「あの…」

「……」

「よかったら、一度見に来ませんか?
私の村を」

「え?」

「公式でも非公式でも、そんなのどっちでもいいです。
どうか社長もスーツなんか着てこないで、普段の村を見て欲しいです」

「……」

「無茶なお願いかもしれないけど」

「……」


「亡くなったお兄さんを思って
涙するような人なら、一度見てもらうといいなと思いました」

「……」


「それでも、社長がやっぱりここはリゾートにしたほうがいいと言うなら、もう少し話し合いましょう」

「どういう意味ですか」

「社長なら、村の人々の悪いようにはしないような
そんな気がしたからです」




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百海です

明日は最終回となります


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