FC2ブログ
プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

蒼い観覧車 38




ユノは岬の入り口まで来ると、
トラックを停めて外へ出た。


案の定


岬の入り口には、一台の乗用車が停まっていて
ボンネットに寄りかかるようにしてスビンが立っていた


すっかり痩せてしまったスビンが
ユノに気づいて手を振った

げっそりと痩せたスビンは
微笑む様子が狂気じみていて恐ろしい


ユノはそれには応えず

スビンを睨みつけるように見据えて
ニコリともせずスビンの元へゆっくりと歩いていった

立ち入り禁止であるはずのエリアなのに
人の侵入を阻むものは何もなかった


ユノは堂々と歩いて行った

姿勢のいい体躯

陽に焼けた肌は凛々しい顔立ちに精悍さを加える

ともすれば冷たい怖さもあるその表情は
チャンミンを視界に捉えることで破顔する

すべてを包み込むようなその優しい視線が

今は、スビンを射るように見つめる


ユノはスビンの手前で歩みを止めた


「なんだユノか、チャンミンが来ると思ったよ」

スビンはニコニコとしていたけれど
その目はどこを見ているか定まらない

それは狂気を孕んで鈍く光る


「チャンミンが来たら、なんだ?」

「チャンミンに用があってね」

「何の用だ」

「ストレスの多い毎日だろうと思ってね」

「前置きはいいから、用件を言え」

「なんだよ、お宅は客に向かってずいぶんだね。
野菜を買ってやったのに」

「それなら持って来たから、さっさと帰るんだな」

「おいおい、上客だよ」

「断る」

「ずいぶんだね」

「お前は、今や犯罪者だ。
犯罪者に売る野菜はない」


「ほぅ、いったいどんな犯罪を犯したって言うんだ
僕が何か手を下した事件でも?」

「手を汚さずに何かを仕組んだと
自分で言ってるようなものだな」

「なんのことだか」

スビンはソッポを向いた


「スビン」

「………」

「ずいぶん痩せたな、どうした?」

「………」

「常に俺たちの事を考えてばかりで
お前も疲れてるみたいだな」

「君たちの事を考えると気分がいいんだ」


「…望みはなんだ?」


「もっと気分がよくなりたいね」


「……悪魔に成り下がったか」


「アハハハハ…悪魔だって」

スビンは笑いながら、岬の先へ歩き出した

ユノは少し考えて、その後を追った


「スビン、そっちは危ない」


スビンは柵まで歩いて行き、振り返った


「知ってるよ」


「………」

「君とあの妾を憎みながら、僕がチャンミンを道連れにここから飛び降りるって計算だったんだけどね」

ユノはゾッとした


「チャンミンが言うことを聞いてくれるように、
それなりの薬物も用意してる」


ユノの拳が震える


「ユノは一生苦しむだろ」

「………」


「シナリオは変えない。
これからもチャンミンが悪魔に連れ去られないように
ストレスの多い毎日を送るんだな」


「………チャンミンと一緒に死にたいのか」



「死んでも死にきれないほど君が憎いからね。
君を苦しめるにはチャンミンを痛めつけるのが一番だ」

「………」


「君の影で僕がどんなに辛かったか
一生かけて思い知るといい。」


「この場所を死に場所にするのは
両親が死んだ場所だから?」


「………そうかもしれないね」


スビンは岬の向こうの海を眺める


「………」


「僕はチャンミンと死んで、ユノ、君の中にずっと生き続ける」

「………」


「悪魔としてね」

勝ち誇ったようにスビンは微笑んだ


ユノは柵のところにいるスビンに詰め寄った


「チャンミンを道連れになんか、させない」


スビンは笑った


ユノの目にはそんな悪魔の笑みは映らなかった


ユノの耳には、波の音と共にチャンミンの甘い声が聞こえる

甘えた声
拗ねた声
明るくはしゃぐ声
ユノに翻弄され甘く喘ぐ声

愛おしい…

ユノの心に浮かぶのは

チャンミンのクリクリとした大きな瞳

可愛い笑顔

ユノを慕う、その縋るような表情


" 大好きだよ、ユノ "

" ずっと一緒にいようね "


「ユノ…僕を突き落とすか?
君にはそれはできないよ」

「………」

スビンは尚も、勝ち誇った笑みのままだ

「やれるならやってみたらどうだ?
罪の意識で一生苦しめばいい」

「………」

こんな状況にも変わらぬ不敵な表情


「僕はね、君が苦しむなら
自分が死ぬことなんて、なんてことない
突き落としてくれて、構わないよ」


「………」


「フフフ…でも、ユノ、君は人殺しはできない
僕とチャンミンが心中したら、その後一生苦しめ」


「よく…わかるね、スビン」

「……」

「俺は人殺しはできない、お前とは違う」


ユノはゆっくりとスビンを柵に追い詰めるけれど
スビンはなんてことない表情だ


「俺は人殺しはできないけれど…
ここからお前と一緒に飛び降りることはできる」


そこではじめて、
スビンが狼狽える表情をみせた

「な…なに…を」


はじめて見る、スビンの怯え


「俺と飛び降りようか、スビン」


「なっ…」



「俺さ、チャンミンと2人で蒼い観覧車に乗ったんだ」

「あ、蒼い…観覧車?」

「チャンミンの夢だったんだよ
俺と2人であの蒼い観覧車に乗るのがね」

「それが…なんだ…」

「チャンミンの夢を叶えてやったから
俺はもういいんだ」

「…意味が…」

「俺の夢は…これからチャンミンが実現してくれる
一生懸命…俺のために」


スビンが後ずさりすると

ユノが一歩前に進む


「俺の夢をチャンミンが叶えてくれるんだよ
こんな幸せ…ないだろ」


「………」


「お前がいくら俺の不幸を望んでも
俺はチャンミンがいるから幸せなんだ」

ユノは微笑んだ

「俺からチャンミンを奪うことなんて
誰にもできない」

ユノはスビンの腕を掴んだ


「さあ、潔く行こう」

「ユノが俺なんかと死ねるわけない!」

「兄弟なんだからさ、それも悪くない」

「兄弟…?」

「前に話しただろ、俺はヒョンニムが欲しかったんだよ」

「………」


「だから、俺たち2人で飛び降りるのも悪くない」


ユノが歩を進めると、スビンがもう一歩後ろにさがり
今まで見たことのないような怯えた表情になった。


ユノのチャンミンに対する愛情は
スビンの想像をはるかに超えていた


「馬鹿じゃないのか…ユノ…」

「さあ、スビン」


ユノがスビンの腕を掴むと
スビンがバランスを崩し、柵の鉄棒が一本崩れた


スビンの足元から小石がいくつか海に落ちる


ユノの瞳は…なにを見ているのだろうか

今、こんな崖から飛び降りようとしているのに
なぜ微笑む


「僕と…飛び降りるなんて…」


ユノはスビンの理解を超えた
はじめての人間かもしれない


ユノがスビンの腕を掴んだまま、
崩れた柵に足をかけた


「下は見るなよ」

そう言ってユノは微笑んだ






にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
検索フォーム
ブロとも申請フォーム