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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

蒼い観覧車 33




スビンが予約したのは
落ち着いた日本の料亭風のレストランだった

ユノは着物の女性に廊下を案内され
個室の襖を開けると、そこは中庭の景色が見える落ち着いた和室だった

すでにスビンは座布団に座り、
日本酒を飲んでいた


「ユノ、よく来たね、悪いけど先に飲んでた」

「ああ、遅くなってすまない」


スビンは店員に言う

「込み入った話になるからね、
料理の配膳は一度にお願いできる?」

「かしこまりました」


そんな頼みも聞く店となると
それなりの人物が密談に使うのだろう

農園に薬物を撒く依頼もここで行われたのかもしれない

ユノはそんな風に思った

酒が来るまで、スビンは世間話を普通にしていた


やっと乾杯をして、2人は黙った


「ユノ、話って?」

「チャンミンのことだ」

「ああ、なんかお前がもう戻ってこないのかと思ってさ
契りを交わすじゃないけど、お揃いの印なんて子供じみた真似をしたよ」

「お揃い?」

「チャンミン、言ってなかった?」

そう言って、スビンは右足の靴下を脱いで見せた

そこには、あの忌まわしい唐草がチャンミンと同じように描かれて、その葉先には、チャンミンの名前が彫られていた

「この先はチャンミンに繋がっているっていう事らしいよ。彫り師がなかなか粋な人でね」


ユノはそのタトゥーから目が離せなかった
怒りでどうにかなりそうだ

ユノの握った拳がわなわなと震える


「チャンミンが同意したわけでもないくせに…」

「アハハハ…チャンミンは二つ返事だったよ」

「………」

「チャンミンは本当にユノが好きなんだね」

「どういうことだ…」

「ユノを守るためなら、チャンミンは自分の身体によその男の名前を掘るのも厭わないなんてさ」

思わずユノは立ち上がった

「やっぱり、チャンミンを脅したのか…」

「脅しちゃいないさ、ユノの農園がこれ以上荒らされないといいね、と言っただけだ」

「ウチの農園に薬品を撒いたのは
スビン、お前だよな」

「ひどいこと言うなぁ」

スビンは笑いながら、酒を飲んだ



「スビン…」

「なんだ?」

「楽しいか?」

「楽しいさ」

スビンは真っ直ぐにユノを見つめた

ユノも負けずにスビンを見つめる


「チャンミンが…俺のために…つらい思いをするのは
面白くないだろ」

「いや、そんなチャンミンを見て心を傷めるユノが
楽しくてね」

「なるほど」

「理解してくれた?」



「俺さ…」


「なんだ」


「兄弟がいるって…知ってた」


「………」


「小さい頃、兄弟がいる友達が羨ましくて。
俺は…いなかったから」


「………」


「なんで、俺にはヒョンがいないのかって
駄々こねて母親を困らせてた」


「………」


「そうしたら、兄弟がいるんだって
教えてくれたんだ」


「………」


「俺より数ヶ月ヒョンなんだって。
会えないけど、それは我慢してと」


「………」


「その時はほんとに嬉しくて」


「そのヒョンがこんなんで、残念だったな」


ユノは真っ直ぐな瞳でスビンを見た


「もっと…違う出会い方をしたかったよ」


「今度は寄り添って僕の心を溶かそうって話か」


「溶かす?凍ってるのか?お前の心」


「………」


「悪いが、そんな気持ちは毛頭ない。
今まで、会ったことのないヒョンニムへの思いがあったけれど、そんな思いとは決別だって意味だよ」


「なるほどね?」


「チャンミンに指一本触れさせない」


「ユノはほんとにカッコいいね
そんなクサイ台詞もばっちり決まる」

スビンは笑った

「もっとクサイ台詞を言ってやろうか」

「ほぅ」

「お前をぶっ殺して、この世から消し去りたい」

「やってみたらどうだ?」

「………」

「僕はね、ユノ、この世になんの未練もない」

「未練タラタラじゃないか」

「そう見えるか?」

「ああ、それもチャンミンにではなくて
俺にだろ?」

「それは大いなる勘違いだな」

「あー間違えた。俺にじゃなく
父親にか?」

「………」

「スビン、いつまでも父親に執着するなよ。
そこから抜け出せないと、この先もつらい」


「お前に…何がわかる」


「……」


「両親に愛されたお前に、何がわかる」


「俺が?」


「………」

ユノは心外だと言わんばかりに苦笑した

「それはおかしな話だろ?」

「ユノ、お前に父親を会わせなかったのは
僕の母だ」

「そりゃそうだ。それくらい理解してやれ」

「父は…お前に会いたくて」

「………」

「父は書斎でこっそりとお前の母親に電話をしてた。
電話の奥で騒いでるお前の声を聞かせてもらって泣いてた」

「………」

「愛してるって、お前の母親に何度も言っては泣いてた」

「………」

「それとも、ユノの母親はお前を愛さなかったか?」

「愛されたよ、苦労もしてたけど」

「あの父親から愛されてたから、苦労なんかないだろ」

「スビン、父親がお前を愛さないなんてことはない」

「僕の母親は可哀想な女でね、
亭主から愛されない寂しさを、息子にぶつけるしかなかった」

「スビン…」

「だからなんだって話だ。
とにかく、お前に僕の闇はわからない」

「……」

「わかってもらおうとも思わない」

「……わかろうなんて思わないよ」

「………」

「けれど、チャンミンは関係ない」

「チャンミンは僕を心底愛してくれてね」

「洗脳したんだろ」

「愛と洗脳なんて、大して変わらないさ」

「もしそうなら、時間は過ぎてそれはもう過去のことだ」

「勝手にひとりで時間を進めるものじゃないよ、ユノ」

スビンは笑った


反対にユノはため息をついた


「チャンミンは、もうお前の元に戻る気はない
今は俺と一緒に暮らしてる」

「知ってるさ、あのど田舎で」

「スビンは奥さんを大事にして、チャンミンを忘れろ。
何よりお前が不幸だ」


「……」


「それだけ言いに来た」


そう言ってユノは立ち上がった
ポケットから財布を出すと、数枚の札を出して
皿の下に挟んだ


「じゃあな」


ユノは店を出た
冷たい風が火照った頬に心地いい


ひとり、個室に残されたスビンは
しばらくじっとしていた


「こんな札置いて…全然足りないんだよ」


スビンは膳を手で払いのけ、全て座卓の下に落とした

いくつかの高価な食器が割れ
綺麗な畳に食事が染み入る


**********



チャンミンが不安そうに、家で待っている

ユノがスビンに会いに行った
あのスビンがユノに何もしないわけがない

やっぱり、自分が出ていって、2人の間に入らなければならないのではないか

そんな風に思った


ドアの鍵が開く音がして
チャンミンはハッと振り向いた

ユノ!


ドアが開くと、長身を折り曲げるようにして
ユノが家に入ってきた

「ユノ!」

チャンミンはユノに飛びついた

「ただいま」

「大丈夫だった?!」

「まずはお帰りって言ってよ」

「あ…うん…お帰り」

「大丈夫だよ、話つけてきた」

「うそ」

「なんでウソなんだよ、なんか腹減った」

「スビンがそんな簡単に引き下がるわけない」

「あーそんなこと言うと、俺ヤキモチ妬くからね」

「え?」

「まるで、お前はあいつのことよく知ってるみたいな
そういうこと言わないの」

ユノはいきなりチャンミンを抱きしめた

「ユノ…」

「チャンミン…俺の大事なチャンミン」

「フフフ…ほんとに大丈夫なの?」

「ああ、キスしてくれたらもっと大丈夫」

「なにそれ、変なの」

「キスしよ、チャンミン」

ユノがチャンミンに覆いかぶさってきた

「もう風呂入ったんだね、チャンミン」

「うん、だからユノも入って」

「あとでね」

「ちょっ!」


そう言って、ユノはチャンミンをソファに押し倒した


「もう…ユノ…いつも突然…」

「ごめんな、我慢がきかなくて」

ユノは自分の着ているシャツのボタンを外すと
チャンミンに覆いかぶさってきた

「フフフ…ユノ、くすぐったいよ」

「だって、くすぐってるんだもん」

「もう!」


笑顔のチャンミンにくちづける

可愛い俺のチャンミン


ずっと…ずっと…一緒にいよう







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