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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

蒼い観覧車 28



ユノは神経を尖らせていた。

夜になると、近所の農家が持ち回りで畑へ行って不審な事が起こっていないか確認している

他の畑に被害が出たら大変なことになる

ユノの畑に薬品がかけられたことは少し噂になり、
オーガニック野菜の仲介業者に不信感を抱かれてしまった

こんなことで、負けてたまるか


ユノは得体の知れない重圧に負けまいとしていた。

畑への悪戯は今までも無かった話ではない。

必ず乗り越えられるはずだ。


ユノはふと、夜空を見上げた


夜の畑は本当に真っ暗で、空にはたくさんの星が瞬く

こんな空を見ていると
否が応でもユノの思いはチャンミンに向ってしまう

今頃、どうしているだろうか


ミンスがチャンミンのプレゼンが成功したようだと教えてくれた。


あのチャンミンが立派にプレゼンをやり遂げたということは、きっとスビンが側について支えたのだろう

遊園地がオープンしたら、チャンミンはスビン夫婦と
そして可愛い彼女と一緒に、4人で遊びに行くのだろうか。


ユノの夢に自分は存在しないのだと
寂しそうにチャンミンは言った


本当にそんな風に思うか?


俺の見る夢は、チャンミン、お前一色だ

次にこの世に生まれてきたなら
俺は誰より先にお前を探して、離さない。

それがこの世では叶うことのない、俺の夢だ

スビンが描くチャンミンの幸せは
俺が絶対に与えてやれない幸せだった


チャンミン

これから楽しい毎日の中で

お前はやがて俺を忘れていくだろう


だけど、蒼い観覧車を見るたびに
少しだけでいい

俺がいたことを甘酸っぱく思い出してくれたら
それで十分だ



ユノは畑を一回りまわって家に帰ろうとした

その時

一台の自転車が、ライトをつけずに遠くから走ってくる

ユノはとっさに畑の中に隠れた

怪しい

なぜこんな真っ暗な夜道でライトをつけないのか

自転車がギリギリ近づくまで
ユノは息を殺して潜み、出て行くチャンスを伺った

キッと音を立てて、自転車が止まり、だれかがそうっと
自転車から降りる。

ユノの目の前に男物のスニーカーが映った

見上げると、その男はポケットからスプレーを取り出していた。

今だ

ユノはザザッと畑から出ると
一気に男を押し倒して、その首根っこを掴んだ

「うわっ!」

ユノの素早い動きに、咄嗟に対応できず
男は後ろに倒れ、ユノに首を抑えられた

ユノは膝で男の手首を踏みつけ
その拍子にスプレーが転がった

「ここで何してる、お前は誰だ」

ユノが落ち着いた声で問う

「うっ…」

顔を見ると知らない若い男だ

ユノの手から逃れようと暴れ出した

ユノは男に馬乗りになって、首を絞め上げる


「いいか?この辺りを見てまわっているのは俺だけじゃない。今俺が持っているフォンを鳴らせば何人もの人間がやってくる。」

「うっ…」

「スプレーの中身は調べさせてもらう。
畑に薬品を撒いたのはお前だな」

何人もの人間が来ると聞いて
男は抵抗をやめた


「見逃してくれ…頼む」

「見逃す?畑を荒らされて見逃せるか」

「頼まれたんだ…オレ、借金あって…それを帳消しにしてもらうかわりに」

「え?誰に?頼まれた?」

「それは言えない…」

ユノは更に男の首を締め上げた

「うっ…ほ、法律事務所…の…」

「法律事務所?」

「破産しそうなオレを…助けてやるって…」

「どこの法律事務所だ」

「言ったら…オレ…終わりだ」

「いいか?
誰かに脅されてしたことと、自分の悪意でしたことと
どっちが罪が重いかわかるか」

「くっ…」

男は悔しそうに呻いた

「さあ、言え、誰に脅されたんだ」


「言えない…」


「それじゃ仕方ない、このまま警察に突き出すまでだ」

「警察のほうがマシだ。
自分でやったと言うさ」

「そんなに怖いやつに脅されてんのか?」

「…怖いなんてもんじゃ…ねぇよ」

「あ?」

「キチガイだ…狂ってる…」

ユノは少し考えた

「取引しよう。
どこの法律事務所か言えば、このまま帰してやる。
お前を警察に引き渡しても、他のやつがまたスプレーを持ってくるだけだ」

「……大学の講師なんかもやってる…イ・スビンってやつだ」


ユノは男を押さえつけたまま固まった


「スビン?」


ユノが思わず手を緩めると
男は駆け出して行った


スビンが?

まだ俺に?


よく考えればすべて納得がいく話だ


今まで、不思議だと思っていた事のいくつかは
すべて自分の不幸と繋がっているのではないか?


今、一瞬にして、絡まった糸が綺麗にほどけるようだった

そして…ユノの身体が震えだす


チャンミン…

スビンにチャンミンを託すような気持ちで身を引いた。
そんな自分は間違っていたのではないだろうか

ユノは突然大きな不安に襲われた


落ち着いて…考えろ


自分はチャンミンから離れたのに、それでもスビンが収まらないということは…


もしかしたら、チャンミンはスビンを拒否したのではないだろうか


チャンミンはスビンの元に戻らなかった?


もし、そうだとしたら

スビンは俺だけに仕打ちをするだけでは
済まないだろう


チャンミン!


ユノは居ても立っても居られない気持ちになった


ユノは仕事を離れる時、自らチャンミンと連絡がとれないようにスマホの番号を変えていた

チャンミンの連絡先ももちろん消してしまった

てっきり幸せでいるのかと思っていた
チャンミンの無事を確かめたい


**********


ミンスは友達と買い物に街に出た

ひさしぶりのショッピングで新しい店もまわった

少し見ない間に、こういう最先端の界隈はあっという間に変わってしまう

新設のショッピングモールは大きな吹き抜けの天井に
フレスコ画のように天使が描かれていて
まるでヨーロッパの教会のようだ。

「うわー!すごい」

ミンスと友達が天井を見上げていると

ふと、少し離れたところに
同じように天井を見上げる長身の男が視界に入った


その男は、ステンカラーコートにマフラーを巻き
ジーンズの裾を折り上げ、ブーツを履いている

さりげなく背負ったリュック

フワフワとした髪

まるでモデルのようなスタイルだ


あ…


チャンミンさん…


それは、あのチャンミンだった

眩しそうに天井画を見上げるその姿が
どこか哀しげに見えるのは気のせいか

ユノが恋しくて、ずっとユノを思って過ごしているのだろうか

ふと、チャンミンに1人の男が寄ってきて
その口元が「おまたせ」とつぶやいているのがわかった

品の良い、穏やかな男

チャンミンは返事をするでもなく
促されて、下を向いて歩き出した

なんだ
もう誰かいるんじゃないの

でも…

なんだか寂しそう


その連れの男が微笑むと

ミンスの記憶が一瞬にして鮮明になった


あ…


あの人!


あの人は、姉さんが離婚して
相手の男の家に行った時

あることないこと、あの田舎町で吹聴してまわった男だ

たしか、占い師だったはずだ

この町に災いが来るからと、新参者に気をつけろと。

お金をとらなかったものだから
なぜかみんなが半分信用してしまった

私は、姉さんの引越し準備に先にその町へ行った時
興味半分で「神の声を聞く会」のような怪しい会に行ったのだ。

ちょっとした茶菓子が出る程度の小さな会

それでもあの男の説得力は威力があった

その町を救うべく立ち寄ったというその男
この男は本物だ、そう住民は思い込んだ

けれど、よく考えたら
その気をつけるべき新参者とは

翌週引っ越して来る姉のことだと
みんなが勘違いするのではと

あの頃心配したのだ

そしてその心配は、的中してしまった


どうして、あの男がチャンミンと一緒にいるのか

意外な組み合わせだ

ミンスは不可思議だった


付き合っているにしては
チャンミンの憔悴しきったような様子が変だ。

恋人といるような高揚した感じはまったくない


その時、チャンミンがふとこちらを見た

ミンスはドキッとした


なんてことだ


痩せこけた顔、窪んだ瞳
哀しそうな表情

これが、あのユノが恋い焦がれたチャンミンか?

チャンミンはミンスを見ると、一瞬目を見開いたけれど
軽くぺこりと頭を下げた

あ…

なんて哀しそうな顔

ユノに言うべきだろうか

ユノが心を奪われてやまないチャンミンが
あの胡散臭い男といる、と








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