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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

蒼い観覧車 26



電気もつけない部屋で
パソコンの灯りだけが、チャンミンの顔を青白く照らす

とりあえずクライアントと会う約束を先に取り付け
それまでに説得材料を用意しなければならない

チャンミンは大きなため息をついた


ユノに…会いたい

やっぱり1人でこんな大仕事は無理だ

あなたにそう訴えたら
きっとあなたは優しく微笑んで

「大丈夫だよ、チャンミン」

そう言って髪を撫でてくれるに違いない
全然ダメな僕を抱きしめてくれるはず


だけどそんな優しいあなたを
僕は喜ばせたい

いつか、夕暮れの中
あの小高い山の上、蒼い観覧車を見せてあげたい

そして、夜の帳が降りる頃
穏やかに灯りのついた観覧車に乗って
遠くの街の夜景を2人で…


そうだ

僕のそんな思いをそのまま表してみようか

直接的すぎるかもしれないけれど
僕の夢を具体的に表してみてもいいかも。

どうせ受け入れてもらえないのなら
そんな情景も夢で終わる

それならダメ元で


チャンミンは動画のやり直しをはじめた

パソコンの画面にカットしてしまった部分をもう一度再生した

画面に自分が現れる

あの日、あなたが撮った幸せな僕

その笑顔を見ていると
あなたの幸せそうな顔も思い出す

撮るなとはしゃぐ僕

忘れていたユノへの思いが
急激に込み上げてきて
チャンミンは片手で口を覆い
嗚咽を抑えた

それでも涙は次々と溢れ出てきて

こらえようとギュッと目をつぶったけれど
ユノへの思いがデスクにポタポタとこぼれ落ちた



そして、約束の日がやってきた


クライアントの数は前回のプレゼンより多い
そのことに、ジェリーフィッシュの社員も驚いていた

それでもチャンミンに前回ほどの緊張はなかった


ダメならダメでいい
今日は僕の思いを託した動画を他人に見せるだけ

そんなつもりでいた


「数字的な見通しについては前回お話しているので
割愛させていただきまして
今日はなぜ遊具の色を派手にしないのか、というところだけお話しします」

会議室の電気を消し
大きなスクリーンに真っ青な空が映し出される

観覧車を蒼く加工した動画が流れる
たしかにそれは空と同調していることは確かだ


ふと画面にチャンミンの顔があらわれた

観覧車を見上げて、そして動画を撮られていることに気づき、にっこりと照れたように笑う

チャンミンの恋人が撮っているのだと
その笑顔を見れば誰もがわかる

クライアントがそこに興味をもっているのがわかった

側でスタッフとして見守っていたホスが思わず笑みになる

緑の中を歩くチャンミンを
後ろから離れて撮っている

時折振り向き、少し拗ねたように笑うチャンミン
後ろには蒼く色加工された観覧車が映る

チャンミンがたまらず、笑いながらこちらへ歩いてくるところで動画の画面が切り替わる

夕暮れの空に浮かぶ蒼い観覧車

オレンジの光がノスタルジックだ


チャンミンが語り始める


「もし、この観覧車がピンクや黄色や黄緑だったら
この2人はどんな気分だったでしょう」

「とても気恥ずかしくて、昼間ここで2人で遊ぼうとは
なかなか思えなかったかもしれません」

「主役は遊具ではなく、ここで遊ぶ2人です」

「大人が子供の頃を懐かしく思い出して
もう一度乗って見たいと思わせるような」

「これは大人の思い出の中の観覧車です」

「きっと、ここには色々な伝説が生まれるでしょう
満月の夜、この観覧車で愛を囁いた2人は結ばれる。
この遊園地に誘われたということは、相手は本気だ、とか…」

チャンミンがクスクスと笑いながら説明すると
クライアントたちも静かに笑った

「きっとこの2人は、スリルのある乗り物や、世界一大きな観覧車に乗りたいわけではないんです」

「ここで2人で優しい気分になりたい」

「ただ…それだけ…」


チャンミンの少し震えた声に
クライアントも身動きひとつせず画面を見ている


チャンミンは泣きそうになる自分を奮い立たせた

「こういった事は、派手な宣伝をしなくても
インスタグラムなどのSNSで十分な集客効果を得られらことと思います」

チャンミンは動画に描き出された世界を
具現化するための説明を理路整然と行い

その姿は前回とはくらべものにならないほど
説得力があった

動画とチャンミンの説明が終わると
特に女性陣から盛大なため息がもれた

それはチャンミンの世界にどっぷりと浸った証でもあった

会議室を出て行くクライアント一人一人に
チャンミンは挨拶をした

かなりの権力者だと思われる女性が
チャンミンに握手を求めた

「いい休日を過ごしたみたいね
ステキなカップルだわ」

「ありがとうございます」

チャンミンは照れ臭そうに笑った


後片付けをしている時に
ホスがチャンミンのところへやってきた

「お疲れ様でした。
いやーみんなの心を鷲掴みにしましたね」

「そ、そうかな?だといいけど」

「ユノさんに見せたらいいですよ、この動画」

「うん…」

「ダメなんですか?」

「どこにいるか、まだ知らなくて」

「え?」

チャンミンは吹っ切るように明るく微笑んだ

「この動画はね、僕の幸せな思い出です」

「チャンミンさん…」

ホスはそれ以上なにも言わなかった


それから、数日が経って
チャンミンの元に朗報が届いた

遊具のカラーはすべてチャンミンのアイデアに任せる

というそれは、売り上げによっては塗り替える予算も出すこと、というオマケがついた。

でも、これはGOサインが出たということだ


難関は続いた。
そしてその節目にユノの思いが託されていることに
気づかされた

たとえば、

チャンミンの希望の色を出す事は難しいという
そもそもの話からだった

でも、資料を探すと、その色を出せる業者を探し、見積もりを既にユノがとっている、といった具合だ。

ユノは考えられる問題点をすでに予測して
先回りをして助けてくれていた


いちいち、その度にチャンミンの胸が熱くなった


こんなにまで僕のことを心配して…

本当にあなたは過保護でダメだね

その度にチャンミンは涙をぬぐって苦笑した


あなたはきっと見てくれる
蒼く彩られた観覧車を

けれど

会いたい…

ユノ、あなたにすごく会いたいよ


ある日、チャンミンがジェリーフィッシュに出向くと
そこへミンスと出くわした。

なにやら、社員たちに挨拶をして回っているようだった

「ミンスさん、こんにちは」

「あ…」

バツが悪そうなミンスの硬い表情

「あ、今日で手続きとかそういうのが終わったんです」

「そう…なんですか。あ、それじゃもうこちらには来ないということですか?」

「はい、もうここにお邪魔することはないと思います」

「そう…ですか」


チャンミンの心に焦りが生まれた

今日を逃すと、もうユノの居場所は永遠にわからない気がする

「あの、率直に言いますけれど
ユノさんに、会いたいんです、僕」

「………それは…できません」

「じゃ、今どうしてるかだけでも
教えてもらえませんか」

「……」

ミンスはかなり戸惑っていた
この間とは様子が少し違う

「あの…ユノに…なにか?」

「えっと…義兄さん、ちょっと仕事がうまくいってなくて」

「え?農場ですか?」

「え、ええ…でも、たぶんもう大丈夫です」

「なにが…あったんですか?」

「農家っていろいろあるんですよ。
いつものんびり仕事ができるってわけじゃないんです」

「そうでしょうけれど…」

「私、あなたに義兄さんの居場所を教えることは
禁じられているんです。義兄さん本人から言われてるので」

「知ってます…」

「そ、そうなんですか?」

チャンミンの意外な答えにミンスは驚いた

「僕が来ることを期待してしまうと
ユノさん、そう言ってました」

「義兄さんは、そんな弱音を吐くような人ではありません」

「ミンスさん、あの人は、本当は誰より繊細だと思うんです。」

ミンスが顔をあげてチャンミンを見た

「いつも自分がなんでも背負って」

「そうよ」

ミンスがチャンミンの言葉を遮った

「だから、みんなが義兄さんを頼ってばかり。
義兄さんなら何でも犠牲になってなんでもしてくれるってみんなが頼って…」

「………」

「あなたもでしょう?チャンミンさん」

ズバリ言われてチャンミンはなにも言い返せなかった

「義兄さんが会いたがってないのだから
私は死んでもあなたに義兄さんの居場所なんて
教えるつもりはありません」

「それでも…」

「……」

「会いたいんです…」

ミンスの瞳が泳ぐ

「では、ミンスさんが、ユノを僕に会わせたいと思う時が来たら、お願いです、会わせてください」

「………」

「それと…ひとつだけ伝えて欲しいんです。
プレゼンが成功したと思うと」

「思う?」

「今はそういう段階です。
完成したかどうかはいつか、ユノが自分で確認してほしいって」

「わかりました…それは伝えます」


そして、ミンスは静かにジェリーフィッシュを去っていった

チャンミンは少しだけ
ミンスを哀れだと思った

そして

ミンスを見送るチャンミンの元に
スビンから連絡があった






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