FC2ブログ
プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

蒼い観覧車 25




ユノはその夜眠れなかった

明日はプレゼンだ

チャンミンは大丈夫だろうか


プレゼンまでは自分が先立ってチャンミンをリードするつもりだったけれど
そこはやはり会社の事情もある。

辞める人間がメインで事を進めるわけにもいかず
ユノは完全に縁の下の力持ちとなって、出来る限りのことはしてきた。

チャンミンのこの先のことを考えれば
それは過保護と思われるほどだった。


それでも今は

ユノはオーガニックを基本とした農園を切り盛りしていた。

以前からやりたかったことではあったけれど
機会があれば、くらいに思っていた

そこへ、大学時代の知人から安く小さな土地を譲り受けるチャンスがあり、チャンミンの事で行き詰まっていたユノはそれに乗った

チャンミンはスビンの元へ返すべきだと結局はそう判断をした。
それがよかったのかどうか、後悔しはじめていたけれど
何もかもが遅すぎて、どうにもならなくなっていた。

別の世界を切り開き、違う自分を試したかった

いいチャンスではあったけれど
ユノの中では、これは「逃げ」だった

それでも一度決めたことだ
とことん、やり遂げようと思った

チャンミンをまた違う角度で考えることができるようになるかもしれない

そんな風にも思っていた


翌朝

ユノは自分の農園でとれたフルーツを出荷用とは別にいくつかダンボールに詰めて車に乗せた

白いコットンのシャツの腕をまくり
すっかり陽に焼けて、さらに精悍さが増しているユノ


今日は施設へ行こうと決めていた
いよいよ、ユノの農場の収穫物が初出荷を迎えたのだ

ユノの母はまだそこまでの年齢でもなかったけれど
体調を崩し、養護施設で暮らしていた
都会で暮らすよりずっといい

ユノの土地がその施設に近かったのも
決め手だった

ユノの母は車椅子に座り、部屋から外の景色を眺めていた

「母さん、俺の初出荷のフルーツをいくつか持ってきた」

「あなたが作ったフルーツ?」

「残念ながら譲り受けた苗でとれたやつ
俺が一から作ったフルーツは来年食べられると思うよ」

「そうなのね、楽しみね」

「期待してて」

しばらくたわいない世間話をしていた2人だったけれど
開発していた遊園地の話になった

「ユノをあまり遊園地に連れて行ってあげたこと、ないわね」

「ああ、そうだね」

「動物園なんかも、連れて行ってないわ」

「いいんだよ、遠足とかさ、そういうので行ったから」

「なんかねぇ、そういうところへ行くと
ほら、楽しそうな家族づればかりでね
うちは父親がいなかったから…」

「うん……」

「その父親にも、一度も会わせてあげられなくてね」

「………」

ユノはふと、スビンのことを思った


「母さん」

「ん?」

ユノは母の気持ちを思って、今まで父親のことを聞いたりすることはなかった

でも、そろそろ自分は父親のことを知ってもいいのではないかと思った


「俺の父親って、今、どうしてるの」

あえて、サラリと聞いてみた

「会いたい?」

「別に、それはない」

母はため息をついた

「そういう話、したことなかったわね
あなた、私に気を使ってたのよね」

「そういうわけでもないさ」

「ユノ、あなたの父親はね、亡くなっているの」

「……そうなんだ」

スビンの物言いから、そんな気がしていた

「何年前だったか、奥様と旅行先でね
…2人で亡くなったの」

「そう…なんだ」


スビンは両親を一度に失っているのか


「あなたの父親はね、あなたに遺産が残るようにもしてくれていたのよ。きっとあの人なりにあなたに父親らしいことをしたかったのねぇ」

「母さん」

「ん?」

「父さんって…どんな人?」

「フフ…それがね」

「うん」

「年々あなたが父親に似てくるのよ」

「俺?似てるの?」

「そう、最近のあなたは特にそっくりよ」

「そうか」

ユノは苦笑した

一度くらい会ってみたかったとも思った

母にはスビンのことは話さなかった


******


チャンミンは緊張を極めていた


慣れないスーツに身を包み、考えていたシナリオを
頭の中で反芻する

ジェリーフィッシュの社員たちに励まされ、
企画担当には少々不安な顔をされつつ

チャンミンは何人ものクライアントの前で
今回の遊園地のリノベーションについて説明をした

数字的な裏付けを交え
家族づれよりもカップルや大人をターゲットにした
コンセプトをチャンミンは一通り説明して緊張の時間を終えた。

そして質疑応答に入ったところで

何人ものクライアントから
遊具の色について疑問が投げかけられた

コンセプト云々よりも、そもそも目立たないのではないか、高速道路から目立たなければ意味がないのでは

それについては答えを用意してきたつもりだったのに
クライアントの表情を和らげることはできなかった

「遊具の色は再考のこと」

クライアントから出されたのはそれだった

チャンミンは打ちのめされた

わかって…もらえなかった
伝わらなかった


僕とユノが確信した
古くて新しい遊園地

カップルのための蒼い観覧車

ユノだったら、どういう風に話を持って行ったのだろう
こんな時、ユノだったらクライアントの訝しげな表情をどう打ち砕くのだろう

きっと僕なんかよりずっと
クライアントの心に響くようにプレゼンができたはずだ


***********


「ユノ、あなたが持ってきてくれたフルーツを食べてみたいわ」

ユノの母が言う

「ああ、そうだね、忘れるところだった。
俺も初めて食べるんだよ」

「あら、そうなの?
ナイフを取ってくれる?剥いてあげるわ」

「いいよ、俺が剥くから」

「そう?嬉しいわ」


ユノはカウンターに小さなまな板を置き
その上に梨をひとつ置いて、ナイフをいれた


途端に


ユノの表情が険しくなった


変な匂いがする


腐っているとか、そういう匂いではない
薬のような、化学物質のような匂い…


「母さん、ごめん、これちょっとダメだ」

「え?」

ユノは母に振り向いて、ニコっと笑った

「俺、ちょっとヘマしちゃったかも。
ごめん、明日の出荷分差し止めないと
今日はこれで帰るね」

母は心配そうな顔になった

ユノはそんな母を心配させまいと明るく笑う
でも、その手にはすでにスマホが握られている

「ユノ」

「ん?」

「ひとつだけ言わせて」

「うん、なに?」

「誰かに…意地悪されているのかもしれないわ」

ユノは笑った

「意地悪って…小学生の頃とは違うさ」


小学生の頃は…

それこそ意地悪をされた

転校先で、なぜかすでにユノの家庭環境をみんながしっていて、いじめられたり、というような事があった

でも、ユノの元々持っている明るいキャラクターと
そのリーダーシップにまわりも引き込まれて
深刻なことにはならなかった

ユノもチラッとそのことが頭をよぎらないわけではなかったけれど

たまたま持ってきた果物が匂うというだけで
状況もわからなかったし

特に誰かから憎まれるような覚えもない

たとえば…

スビンにしたって、チャンミンとこんな状況になってしまった今、怨まれることもないだろう


「心配しないで。この間、生育段階の試食では問題なかったんだから、それにオーガニックを栽培するのに、土壌検査もしてるしね」

「そう…?」

「ああ、大丈夫だよ」


ユノはにっこりと微笑み、母をいくらか安心させると

急いで農場へと戻った

一旦出荷を止めて、検査したところ
畑の一画に薬品の反応が出た

特に人体に影響するほどのものではなく
土壌も安全が確認されて、大事にはいたらなかった

その一画のフルーツを除けば
あとは出荷できるという判断だった

それでもオーガニックという意味では、
とてもありがたくない事態ではあった

ユノはあらかた片付いたところで時計を見ると
すでにプレゼンは終わっているだろうという時間だった

チャンミンは…

どうしただろう






にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
検索フォーム
ブロとも申請フォーム