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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

蒼い観覧車 24




ユノがゆっくりとチャンミンに近づいてきた

穏やかで温かいその表情


ユノ…

2人はお互いを見つめて
その視線を外せない


けれど…纏う空気はお互いに違っていた


ユノは余裕のある笑顔でチャンミンの前に立つと

握手を求めて、右手を差し出した

チャンミンは目を見開いてそれを見た


その手を取らない訳にはいかない

まわりでみんなも見ている


ユノはチャンミンのおずおずと差し出された右手を
しっかりと握った

「チャンミン」


名前を呼ばれたチャンミンは思った

握手は…こうやって、相手と距離をとるものなのだと
相手の隅々まで知ってる仲なら、握手なんてしない

それはまるで、ユノにこれ以上近づくなと
これ以上縋るな、と言われているようで…

チャンミンは何も言えなくなってしまった


「プレゼン、よろしく頼んだぞ?」

そう言って、ユノは爽やかに微笑む

「………」

「後は、チャンミン次第だ」


僕次第だなんて…影でたくさんのお膳立てをしてくれてたくせに…


「いつか…あの道路から蒼い観覧車が見えたら
僕が成功したと思ってください」


チャンミンは心にもないことを言った


「……ああ」

ユノは切なく唇を引き結んだ


「ユノ…さん」

「なんだ?」


「僕は…知りませんでした」


思わぬチャンミンの言葉に
ユノは少し驚いた


「…なにを?」


チャンミンはふんわりと笑った

その目尻から一筋涙が溢れるのを見て
ユノは心配そうな顔になった


「あなたが農場をやりたかったなんて…知りませんでした」

「あ…」


「あなたの未来の夢に…僕はいませんでしたね」


「え?」

チャンミンはさらに微笑む
眉が八の字に下がり、涙がもう一筋流れる


「チャンミン…」

「わかってます」

「………」

「悪いのは…僕」


そう言って、チャンミンはユノの手から
そっと自分の手を抜いた


そうして、声にならず唇だけでそっとバイバイとつぶやいて、ユノへ力なく手を振った


「……」


ユノが反射的にチャンミンの手を掴み直そうとしたけれど

チャンミンは後ずさってしまい


2人の間には、何人もの人が入ってきて
どんどん距離ができてしまった


ユノは離れていくチャンミンを目で追った


チャンミンはもう一度ニッコリと笑うと

ユノに小さく手を振った


そして、後ろを向いてそのまま行ってしまった


チャンミン



ユノはいつまでもその場を立ち去ることができなかった


どんどんズレていく2人


相手のために決心したことが、すべて裏目に出てしまい

歯を食いしばって1人立ち上がろうとすれば
愛しい笑顔が邪魔をして

歩み寄ろうとすればそれを遮るモノに勝てず

どうにもならなくなった2人は

こんな風に別れることになってしまった


チャンミンは立ち去りながら
後ろで賑やかな声を聞いた

愛しいあなたを呼ぶ大勢の声

それは次第に遠のき

チャンミンの世界が音のない世界になる


急ぎ足で歩くチャンミンの足元に
レジでもらうようなビニール袋がひとつ燻っている

ふと、それは風に乗ってチャンミンの目の前で
ふうわりと浮かびあがった


まるで深い哀しみの海で
漂うクラゲのようにそれは舞い上がった


まるで自分のようだといつも思う


芯のないユラユラとした物体


*****


チャンミンはそれから、猛然と仕事をした

休憩や睡眠もろくにとらず
ただひたすらプレゼンの準備に邁進した


そうでもしないと
正直やってられなかった


ホスはあれから、ユノの話題をまったくせず
そこはありがたかった


ユノ

あなたの夢に僕は参加しなかったけれど

僕はあなたとの夢を叶える

あの和やかな田園風景に
しっくりと馴染む大人のための遊園地

そのシンボルとなる蒼い観覧車

それを実現するために
チャンミンはありとあらゆることを頑張った


クライアントと飲みに行ったり
チャンミンに言い寄る女性をうまくかわすこともできた

そんなことはした事がない

今までのように、デザインだけの仕事をきっちりこなせばいいのだと、そんな考えも捨てた

いろんなことを忘れるのに
忙しい毎日はとても助かった


それでもふと、たとえば帰りが遅くなって歩く夜道や

ススキの穂が風に揺れる音に、チャンミンはあの日のユノを思う

優しいキスや、力強い腕
抱きとめてくれる温かい胸


嫌なことをすべて忘れさせてくれるあの笑顔


チャンミン、と甘く低い声で

もう一度呼ばれたい


「可愛い」と髪を撫でて
僕を甘やかしてほしい…


その腕の中に…僕は戻りたい

もういちど…



ある日ジェリーフィッシュへ行くと
ユノの義妹だったミンスがいた

「あ…おひさしぶりです」

チャンミンが挨拶をすると
ミンスもあっさりと挨拶をした

なにやら、忙しそうだ
たぶん…チャンミンと話をしたくなくて
忙しいふりをしているのかもしれない


「ユノさんの…用事ですか?」

「ええ、書類関係は私がやることにしたの」

「そうですか…あの…」

「なに?」

「あの、ユノさんは…元気…ですか?」

「元気よ」

「そう…ですか、それは…あ…よかったです」


ミンスは特に返事をせず、書類を仕分けて、封筒に入れ替えていたりした。

「あの…」

「はい?」

まだ何か用かと言わんばかりの迷惑そうなミンス


「ユノさん、明日の事、何か言ってませんでしたか?」

「明日の事?」

「はい…」

「何か、あるんですか?」

「あ…」


ミンスは少しだけ、心が痛んだ

実はユノに頼まれていた


「明日、チャンミンがプレゼンなんだ
様子を見てきてほしい。
そして…もし…チャンミンが俺の事を気にしていたりしたら、俺も心配してると…伝えてもらえないか」


伝えなければいけなかった


ユノが、あなたをとても気にかけていると

明日のプレゼンがうまくいくか
とても心配していると


それでも、ユノの心も身体も夢中にさせたこの男が
ミンスはやはり許せなかった


自分はとうてい叶わないこの美しい男が
ミンスは憎かった


「明日なにがあるのかしらないけれど
義兄さんは何も言ってなかったわ」

「そう…ですか」

「もう、いいかしら、そろそろ帰らなきゃ」

「あ、そうですよね、あの、えっと」

「なんですか?」

「あの、もし、ユノさんが僕のことを少しでも気にかけているようだったら…たとえば…名前が出たりしたら」

「………」

「明日は…全力で頑張ると、伝えていただけませんか?」

「チャンミンさんの、名前が出たら、でいいのね」

「はい…」

それはなさそうだと、そう言いたげに
ミンスは軽く微笑んだ






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