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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

蒼い観覧車 22



チャンミンは必要最低限の説明をユノから受けて
後は、ジェリーフィッシュの他の企画担当と話を進めようとしていた。

そんな様子をユノは穏やかに見守っていた

さすがに会社を辞めるとなれば
ユノは自分の居場所が急激に狭くなり

もっとチャンミンに力添えしようと思っていたけれど
その必要もなさそうだった

寂しい反面
リーダーシップをとろうとするチャンミンが頼もしく、
そして愛しくて…たまらなかった

きっと強がって頑張っているのだ

本当は誰かに頼りたくて、甘えたくているのだろうに
無理している姿を見ていると

その手を引いて、この胸に抱きしめたい衝動に駆られた

でも

それは自分の役目ではない

そうユノは思っていた


ユノは職場のあらかたの荷物を車で自宅に持ち帰り
それを段ボールに仕分けた

「あ…」

間違えて、会社の備品であるビデオカメラを持って帰ってきてしまった

ついこの間、チャンミンと2人、あの遊園地を撮ったカメラだ。

ユノはなんとはなしに、データをテレビに繋げてみた

真っ暗な世界がぱぁっと明るくなり
画面いっぱいに、あの日の青空が広がる

山にはススキが風に揺れているのが見える

ぐるりとカメラが一周すると
遊園地の中のさまざまな景色が流れて

それは観覧車で止まる

画面の隅にチャンミンが登場した

フワフワのくせ毛を風に揺らして
チャンミンは観覧車をまぶしそうに見上げていた

長い首、きれいな顎のライン

ユノの呼びかけに
チャンミンがヒョイとこちらを向いて
にっこりと微笑んだ


可愛い笑顔にユノの心臓は高鳴った


最近、この笑顔をまったく見なくなってしまった

今となっては懐かしさまでが込み上げてくる


チャンミンが笑いながらユノに何か言っている

ニコニコと楽しそうに


甘えるその愛らしい笑顔を
俺はこの時、独り占めしていたのだ


少なくとも…この一瞬は
この笑顔はだれのものでもない、俺のものだった

スビンも1ミリたりとも入ることのできない
俺とチャンミンの一瞬なのだ


ユノは心の奥を鷲掴みにされるような痛みを感じた


俺は…何か…重大な勘違いをして
大切な何かを見失ったのかもしれない

この笑顔を曇らせたのは、何だったんだろう

俺か…スビンか…

それともチャンミン自身か…


この笑顔がなにより大事だったはずなのに

俺は、それよりもくだらない何かを優先したのだ

それはなんの役にも立たない自分のプライド

たぶん、そうだ

チャンミンのためを思うようなフリをして
俺は自分のプライドを優先したのだ

チャンミンにとって、完璧な自分でいたかった

スビンに負けたくなかったのだ

そんなことより、この笑顔を向けてくれる
チャンミンそのものを信じてやればよかった


この2人だけの一瞬を信じればよかった


ユノはその笑顔に打ちのめされ
床に震えながら膝をついた


バカな…

なんて俺はバカなんだろう

あんなに大事だったのに

チャンミンをこの腕に抱き、くちづけて
俺の首に手を回してそのキスを受け止めてくれたチャンミンを

なぜ信じることができなかったんだろう


画面いっぱいに広がるチャンミンは
恥ずかしそうに自分を撮るなと笑っている

そんな笑顔が涙で滲む…


なにもかも…遅すぎた…

考えすぎて、カッコつけすぎた俺を
いつか、お前はスビンと笑い飛ばすのかもしれない

ユノは…泣きながら…ヘラヘラと笑った

俺は…

バカだ…


***********



チャンミンはプレゼンの資料の大詰めを迎えていた
動画を加工して、蒼い観覧車の良さを提案するべく
入念な作業をしなければならなかった


ユノと行った遊園地

観覧車は蒼くしていいのだと、2人で確信したあの日


チャンミンは少し遠い目になった


まだ、あの日からそんなに経っていないのに


気づくと、あの日撮ったデータがない
カメラはどうしたのだろう

ジェリーフィッシュに連絡を取ると
データを送ってくれることになった

「ユノさんが間違えて持ち帰ってしまって
保存してなかったから、大変なことになるところでした」

そういえば、あの日、データを転送した記憶がない

だって、あれは公私混同も甚だしい、ただのデートだったから。
データを会社に転送とか、そんなのどうでもよかった

懐かしく思いながら、チャンミンは送られてきたデータをパソコンに落として、画面に映した

チャンミンの暗いアパートの部屋が
一瞬で明るくなる

チャンミンの視界に真っ青な空が飛び込んできた


あの日の…空だ


仕事だというのに、デート気分ではしゃいだあの日

手を繋いで誰もいない遊園地を2人で歩いた


ススキが揺れる山が映り
ユノが遊園地をぐるりと撮影して、観覧車を映すと
画面の右端をズームしたその先に

あの日の自分がいた

笑っている…とても楽しそうで…それはまるで
知らない他人のようだった

チャンミンは画面を凝視した

食い入るように見つめた


何がそんなに楽しいのか
ひたすら笑っている自分がそこにはいた

ユノにこんな風に、僕は笑いかけていたのか

あの時の思いがリアルに蘇る

大好きなユノ

温かくて…優しくて…カッコよくて

あの時

僕は間違いなくユノが大好きだった

ユノだけが大好きだった

どうして

どうしてその事に気づけなかったのだろう

この青い空を、この輝く一瞬を
なぜ僕は信じなかったのだろう

僕の笑顔を撮るこの人が
どれだけ僕を愛してくれたか

今なら痛いほどわかる

どうして僕は、そのことに気がつかなかったのだろう

もっと早く

わかっていたら

ユノを傷つけることもなかったのかもしれない


僕は…なんてバカなんだ…


もう僕を撮るなと、ユノに向かって笑っている

あの日の僕が涙で滲む

チャンミンは震える手で、画面の自分にそっと触れた


ユノ…

僕は間違いなく…あなたを愛していたんだ





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