FC2ブログ
プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

蒼い観覧車 12




チャンミンはそれから少し気持ちが不安定な日が続いた

スビンはそれを見て見ぬ振りをしているようだった。

放って置かれる事がチャンミンにとっては丁度いい距離感だと感じていて、その事も不思議だった

今までは構ってほしくて、気にしてほしくて大変だったはずだ。

チャンミンは少しずつ、自分の気持ちが変化していることに気がついていた

それがどこか不安で、あまりユノに連絡をとらないようにしていた。


やがて

遊園地の工事がはじまり、一部を残して乗り物の撤去が行われ、そこは広い野原となった

地鎮祭とまではいかないけれど
関係者を集めた簡単な式典が開かれることになった

まずは現地を視察して

側のガーデンレストランを借り切って
地元の美味しい食材で作った料理やフルーツが出されることになり

関係者とはいえない連中まで集まって
それはかなりの人数になった。


ユノはチャンミンを車に乗せて現地まで行った

「スビンも連れてくればよかったのに」

「うん、誘ったんだけど、自分は関係者とはいえないからって」

「スビンらしいね、美味い飯にはつられず
立場を大事にするんだな」

「なんか用事もあったみたいだし」

「なんの用事?」

「知らない」

「今日の予定とか、話してくれないのか?」

「しないよ、そんな話。
あんまりしつこく聞くと嫌がられるし」

「チャンミンは知りたそうだな」

ユノは笑った

「………」

チャンミンは図星なのか、口を尖らせて拗ねた


そんなチャンミンを見て、ユノが可笑しそうに笑う

「恋人がそんな風に可愛く拗ねたら、どこへ行くにも連れて行くけど」

チャンミンはドキッとした

「なーんてね」

ポソッとユノがつぶやく


「ユノさんの恋人って大変そう」

「大変だよ?恋人が一度寝た相手とこんな風に車で2人きりになるなんて、許せないね」

「ユノさん…」

「大変な男ってわかってるから、俺は誰とも付き合わないよ」

「相手を不幸にしちゃうとか、思ってるんでしょ」

「そう、不幸にしちゃうからさ」

「そんなことないんだよ?ユノさん」

「………」

「そういう風に、嫉妬してほしい時もあるよ」

「そんなもんかね」


ユノは遠くを見つめて微笑んだ



現地に着くと、たくさんの車がすでに到着していて
「ジェリーフィッシュ」の少ない社員も総出で応対に当たっていた

ユノは少し真剣な顔でチャンミンに言い聞かせる

「いいか?なるべくたくさんの人に顔を売るチャンスだ。話は多少盛っていいから。ここのデザインを全て任されてるくらいのことを言っていい」

「はい…え?ユノさんは?僕と一緒に視察じゃないの?」

「俺はみんなと来客の接待をするから」


そんな…


不安そうなチャンミンを少し心配そうに見つめながら
ユノは何かを吹っ切るようにチャンミンの肩を叩いた

「じゃ、そういうことだから」


視察と言っても、ほとんど自己紹介合戦、という感じだった。

チャンミンも覚えきれないほどの人と挨拶をした


ふとユノを見ると、ユノは何人かの水商売風な女性たちに囲まれている

どこかの偉い人が店の女の子たちを引き連れて来たのだろう

女性たちの攻めの視線は狩人そのものなのに
当のユノはそれに気づいていないようで、身振り手振も派手に遊園地のことを一生懸命に話している

時に大きな笑い声も響き
気づけばユノにさりげなくボディタッチをする女性もいる

そんなことしたって
ユノさんの心は手に入るもんか


なんの根拠もないのに
チャンミンは少し得意げな気持ちになっていた


ユノをあれほどまでに狂わせるのは
君たちにはムリだ

そんな風にチャンミン思う


「こんにちは、チャンミンさん」

ふと声をかけられ振り返ると
先日ジェリーフィッシュで会った植栽業者の営業だった

「あ!先日はどうも!お会いしたかったんですよ
いろいろ聞きたいことがあって」

「実はこちらも提案する準備が整ったのでぜひ。
あ、ウチの技術者を紹介します」

植栽の営業の後ろに小柄な男の子がひとりいるのは気づいていた。

男の子、と呼んだら失礼かもしれないけれど、
まさにそんなイメージの男性だった

「私はコ・ホスといいます。よろしくお願いします」

ホスは丁寧にお辞儀をした

「私は遊具のデザインを担当するシム・チャンミンです」

ホスは驚いたような顔をした

「チャンミン……さん?」

「?」

「あ、すみません…」

「珍しい名前ですか?
それともどこかでお会いしましたか?」

チャンミンは笑った

そして思った…


ホス…僕と同じ匂いがする

たぶん、おそらく…いや、絶対…

しかも、ホスも男に抱かれたいタイプだ


なにがどう、とは言えないけれど
同じ趣向の生き物としての本能なのか

そういうことは、口に出さなくてもわかってしまう

営業がホスに説明をする

「チャンミンさんは、ジェリーフィッシュのユノさんが連れてきたんだよ」

「ユノさんって誰ですか?」

不思議そうにしているホスにチャンミンが聞いた

「ユノさんの紹介はまだ?どっちかというと、僕よりそっちが先かも…」

「そうなんですよね、失礼だとはわかってるんですけど
あの通り、女性陣がユノさんを解放してくれなくて」

植栽の営業が苦笑する
ふと見ると、ユノは幾分うんざりしているようだ

偶然にユノがチラリとこちらを見た

自分の視線を感じたのだろうか

チャンミンが慌てて視線を逸らすのを
ホスが見逃さなかった


何かアンケート用紙が配られて
ユノのまわりの女性陣が一瞬そちらに気をとられた

「ホス、今だ、これを逃したら挨拶できずに帰ることになる」

営業に腕をとられてユノがいる方へ引っ張られて行くホスは、チャンミンにニッコリと意味深に微笑んだ


チャンミンは何か気になり、ホスがユノと挨拶する様子をずっと見ていた


「ユノさん!」

植栽の営業に呼ばれて振り返るユノは
満面の笑みになった

「あー!電話しようと思っていたんですよ」

「すみません。あ、今日は技術者を連れて来ました」

「コ・ホスといいます」

ぺこりと頭を下げたその男をユノが不思議そうに見た

「ん?どこかで会った?」

ホスは上目遣いでユノを見上げた

「会ってませんよ、ユノさん、勘違いです」

そう言ってホスはニヤッとほほえんだ

「そう…か…」

何かを思い出そうとするユノに
ホスが切り出した

「ちょっと、裏の方を一緒にみてもらいたいんですけど
来てもらえませんか?」

「あ、いいよ」

営業と離れて、ユノとホスがその場を離れて裏の方へ歩き出した


それをみたチャンミンはたまらなく不安になった


2人してどこへ行くの?

チャンミンに大きな不安が押し寄せる

あのホスなら、ユノとどうこうなる可能性があるのだ

それを阻止する資格は自分にはない

それは…わかっている

だけど…

この焦りをなんと呼んだらいいのだ


2人が人気のない方へ歩いて行く

チャンミンは我慢できず、その場を離れてみたけれど
だからと言って後をつけるわけにもいかず
ひとりオロオロとしていた



ホスが静かに話し出す

「ユノさん…て言うんですね」

「?…やっぱりどこかで会った?」

「覚えてませんか?」

ユノがまじまじとホスの顔を見つめた

あ…

「思い出しましたか?」

自分が完全に仕事モードのせいか、まったく気づかなかった

この線の細い可愛い男は

チャンミンの声に似ているからと
クラブで誘った男だ

「あの…クラブで…そのあとバーで会った…」

ユノが記憶を辿る

「はい、バーでは僕、フラれました」

へへっと可愛く笑うコ・ホス

「あ……」

「安心してください。僕もこういうことバレたらマズイので、誰にもいいません」

ユノは完全に困ってしまっている

「えっと…」

「ほんと、何も心配しないでください。
僕は仕事はきっちり、やりますから。
そこは公私混同しませんから」

誠実そうなホスの瞳

「うん…俺も…仕事は仕事だから」

「じゃ、早速仕事の話をしていいですか?
一応、途中で僕のこと思い出されたら面倒なので
告白しておきました」

「あ…うん、頼む」

ホスの提案や問題点の指摘はどれも的確で、
ユノはホスを信頼できる優秀な技術者だと判断して安心した

そこへ、チャンミンがひとりでやってきた
何か不安そうな顔をしている

「チャンミン?」

「………」

「あ、こちらね、植栽の…」

ユノがホスを紹介しようとした

「さっき、紹介していただきました」

「あ、そう…」

何を不安そうにしているのだろう

「なにか、あった?」

「いや、2人で何してるのかなって…」

「?」

「なんとなく…」

ホスが務めて明るく笑う

「チャンミンさんのデザインした緑が
きちんと実現できるように相談してました」

「うん、ホスさん、なかなかいいアイデア出してくれて」

「そう…なんですね」

チャンミンも薄っすらと笑った

ユノは優しく微笑む
弓なりになる切れ長の瞳

「チャンミンも一緒に話を聞こう」

「いや、僕は大丈夫です」

「え?」

「僕はいいんです…」

「いいって…そんな…」

困惑するユノを置いて
チャンミンは踵を返して、遊園地の中央へ小走りで戻った。

どこか気恥ずかしくてたまらない


僕は…

何をしているんだ

これじゃまるでガキじゃないか…


2人の間を疑って、様子を見に行った面倒な恋人みたいに…

そんな立場じゃないのに


ユノさんを遠ざけたのは僕のほう

ユノさんが誰を選ぼうが、僕には関係ないはずだ

チャンミンは息が苦しくなってきて
思わず手にしていたアンケート用紙を捻り潰した


不可思議なチャンミンの様子に
残されたホスとユノがしばし気まずい雰囲気になった

「デザイナーにありがちです、少し気持ちが不安定なのって」

ホスがなんでもないように微笑んだ

「そう…だな」

「こんなデザインができる人ですから、きっと繊細な神経の持ち主ですよ」

「チャンミンは…最近少しナーバスみたいで
心配なんだ。なかなか連絡もできなくて」

「あの人が…チャンミンなんですね」

「え?知ってるの?」

「ユノさん、その最中、ずっとチャンミンって僕のこと呼んでました」

「あ…」

この男をチャンミンの身代わりにして
チャンミンを抱く想像をしながら…あの夜…

今となれば、なぜこのホスの声がチャンミンと似ていたように聞こえたのかも…わからない

「すみません。ユノさん」

「いや…」

「仕事の話に戻りましょう」

「そう…だな」



チャンミンは、行動がコントロールできないほどに気持ちが動揺していた

自分が嫌で

そしてユノと一緒にいるホスが嫌で

自分を飼い殺しにするスビンも嫌で

とにかくチャンミンをとりまくすべてが嫌だった


とにかく、ここにはもういたくない


遊園地を出て行くチャンミンに
ジェリーフィッシュの社員が声をかける

「どこ行くんですか?チャンミンさん」

「帰ります」

「えっ?!」

「ユノさんには、先に帰ったと言っておいてください」

「だって、ここからどうやって帰るんですか?」

「大丈夫です」



チャンミンは1人で農道として使われている道を歩いて行った。

この間来た時、たしかここを現地の循環バスが駅まで走ってるとオーナーに聞いた。

このまま、バス停を探して駅から電車で帰る

ユノはホスとよろしくやっていればいいんだ


嫉妬と悲しみと悔しさがごちゃ混ぜになって
チャンミンは正しい判断ができなかった


しばらく歩いていると、チャンミンは気持ちが落ち着いてきた

なんだかユノをホスに取られたような気がして
そんな身勝手な嫉妬でこんな行動に出てしまった

自分に夢中なはずのユノをみすみすホスに持っていかれてしまいそうだ。

だからといって、スビンと別れてユノに正々堂々と行く、ということは怖くて出来ない

なにが怖いのか…それさえわからない


とんでもないことをしてしまいそうで
わけもわからず飛び出してしまった


でも…

あるはずのバス停はまったく見えてこない

自分の勘違いだったのだろうか

だんだんと不安になってきた

途中、無我夢中で何箇所か曲がってしまった

どこか民家で道を聞きたくても、まわりはススキが生い茂るだけで民家など見えない

車も通らない


時計を見ると小一時間経っている
こんなに歩いてきたのか…


チャンミンはスビンに連絡をしようとスマホを出そうとしたが

ない…

チャンミンはあらゆるところを探したけれど
スマホを見つけることができない

あ…

チャンミンの顔に絶望が走る

そういえば、ユノさんの車で充電をしたまま、置きっ放しにしてしまった…


絶望的になったチャンミンは大きくため息をついた

しかたない…

何か見えてくるまで歩き続けるしかない…


それから、どれだけ歩いたのだろう

辺りはすっかり夕暮れになり
ススキが夕陽に金色に輝く様子は素晴らしいと言えるけれど

チャンミンはそれどころではなかった

いろんな後悔がチャンミンの心に湧き上がってくる

その後悔の原因はどんどんと深くなり

そもそも、働き出したのがよくなかった、
そんな結論に達した

スビンの元で、ぬくぬくと過ごせばよかったのだ

デザインでフリーランスになりたい
そう言ったのは自分

いつもスビンに認められたいと思っていた

フリーランスの件はいい話だったはずだ。

だけど、自分はこんなにガキで
ダメな人間なのに

独り立ちして、スビンに認められるなんて
早すぎたのだ


チャンミンは次第に涙が出てきた


空は少し暗くなって、まわりのススキが黒い影に見えてくる


その時


クルマのヘッドライトが遠くの角を曲がり
こちらへやってくるのが見えた


だれかくる!


チャンミンは踵を返して、車に向かって一目散に走った

だれか!!!

助けてください!!!


近づいてくる車のライトが眩しいと感じる頃
ゆっくりと車は停まり、だれかが降りてきた


……ユノ…さん?


長身のすっきりしたシルエットが浮かんだ






にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
検索フォーム
ブロとも申請フォーム