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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

蒼い観覧車 11





「ん…」

ユノが小さな声で呻いた

チャンミンはパッと顔を離した

キスをしたことが、ユノに気づかれただろうか…


「ん…チャンミン」

ユノがぼーっとした顔でベンチに座りなおした
うつろな瞳がなんだか可愛い

「撮り終わった?」

「はい、終わりました」

「後は?」

「もうすぐ夕暮れなので、空の様子も撮りたいかなと」

「いいよ、そうしよう」


ユノは立ち上がって伸びをした


キスをしたことは…気づかれていない…たぶん


「裏の方もちょっと行ってみたいです」

「うん、この間行ってなかったところを回ろう」


2人は夕暮れを待つ間、誰もいない遊園地を散歩した


ユノがスーツではないということがチャンミンにとってはとても親近感が湧いて、
突っ込んだことも聞いてみたくなる

「ユノさん…」

「ん?」

「あの…聞いてみたいことがあって」

「遊園地のこと?」

「違うんです、ユノさんのことで」

「俺?」

「聞かれたくなかったら、言ってくださいね
それ以上は聞かないから」

「わかったけど…怖いな、なんか」

ユノは頭をかきながら、困ったように笑った

「あの…」

「うん」

「奥様とは…なんで別れたのかなって…」

「………」

「いや、あの、ユノさんて、結婚したら…奥さんを大事にするだろうから、女性はすごく幸せだろうなって思うんですよね、だから」

「………」

「あ…やっぱり、僕…すごくぶしつけだな…」

「いいよ、直球で…」

ユノは笑った

「そう…ですか?」

「俺…母子家庭だって言っただろ」

「はい…」

「苦労した母親に、孫の顔見せてやりたくて」

「孫?」

「うん…俺…女の人、ダメなのにさ」

「あ…」

「俺もガキで、浅はかだったんだよ。
嫁さんにはホント失礼だよな」

「でも…愛そうと思ったんでしょう?
ユノさんのことだから」

「まあね」

軽く言うけれど…きっとこの人は
奥さんを愛そうと必死だったに違いない

「俺、努力すれば成せない事はないって思いこむタイプだったから」

「なるほど…」

「気持ちも、そうやって自由自在になるかと思ったけど…違ったよ。当たり前だけど」

「そうかもしれないですね…」

「取り繕っても…愛してないことはバレる…
孫の顔どころじゃなくて…嫁さん、他の男に安らぎ求めるようになって」

「それは…ダメですよね」

「いや、俺が悪い。
全然女として愛してやれないんだから
他へ安らぎ求めて当然なんだ」

「でも、それとこれとは…」

「あたしはあなたのツールじゃないんだって、散々言われた」

「ツール?」

「あなたの親孝行のための道具だったのかって。」

「あ…」

「俺は失礼きわまりないよな…ほんと。
もう…何も言えなかった」

「でも、ユノさんはそれでも愛そうとしたんでしょう?」

「嫁さんが付き合ってたヤツが、いいヤツでね。
俺のところに直談判に来た。自分が幸せにするから別れろって」

「うわ…」

「別れるしかなかった…」

「でも…奥さん…幸せにはなれなかったんですね?」

「うん、そいつの田舎について行ったんだけどさ
やっぱりバツイチっていうのが、受け入れ難いような田舎みたいで」

「ああ…なるほど」

「何度か嫁さんから泣いて電話もらったんだけど
まさか、そんな苦労してるともしらず…
突っぱねちゃってさ、俺…」

「それはユノさんの優しさでしょう?」

「だけど俺と結婚さえしてなければ、そんな目に合わずに済んだのに」

「………」

「結局、母親も悲しませて…
嫁さんも…その相手の男も…みんなを悲しませた」

「ユノさん…」

「サイテーなんだよ、俺」


ユノの唇が微かに震えたように見える

その声もいつもより、少し高めで…震えているのかもしれない…

なんでもかんでも自分で背負って…


ユノはチャンミンに背を向けて
小高い丘から、夕焼けの迫る空を見上げている


涙がこぼれないように
空を見上げているの?


チャンミンは思わずユノに触れようとして
手を伸ばした

その肩に触れる寸前、ユノはいきなり笑い出し
びっくりしたチャンミンは手を引っ込めた

「ユノ…さん?」

「あーなんだかな、俺はチャンミンにこんな話をして
どうしようって言うんだよ」

「いいんですよ、僕でよかったら話して」


その言葉にユノは振り返って、チャンミンを見つめて微笑んだ。

爽やかな微笑み

夕陽をバックにユノの真っ直ぐな男らしさが引き立つ

チャンミンはその美しさにドキッとした。

「ありがとな、チャンミン。
でも、俺たちはとにかくいい仕事をしよう」

「え?」

「俺はチャンミンといい仕事をすることに全力を注ぐつもりだ。」

「………」

「チャンミンがこの先フリーランスとして、いいキャリアになるように力になりたい」

「ユノさん…」


「それが…俺のやるべきことだ」


あなたの…役割ってこと?

なんだか、少し寂しい…

それがチャンミンの率直な感想だった


ユノはまた歩き出した

夕焼け差し込む遊園地のあちこちを
ビデオに収めている


ユノさんは僕との間に大きな溝を作ろうとしている
「仕事」という橋しかかけられない深い溝


もし、あの朝
僕がユノさんの用意した朝食を食べたとしたら

あの夜の香りそのままに甘い会話を楽しんだとしたら

どうなっていたのだろう

きっと今頃、この誰もいない遊園地で手を繋ぎ
キスをしながら仕事をしていたのだろうか

公私混同甚だしく、楽しんでいたのかもしれない


そんな風に考える僕はサイテーだ


ユノさんはたしかに僕を求めていた
僕の心と身体と、全部

それはよくわかっていた

僕はスビンから離れられないくせに
そんなユノさんを浮気相手として楽しんだ


ユノさんをいいかげんにしたら、いけない
この人はそういう人ではない

だから

真っ向からユノさんと向き合うのが
僕は怖い…

怖いくせに

ユノさんが僕を仕事のパートナーとして再認識してくれたことを

寂しいだなんて言う資格は微塵もないのだ


「カメラで記録はしておくけど、生で見たこの感じを忘れないで」

「はい」


ユノさん、僕の脳裏に焼きつくのは
あなたの綺麗な笑顔かもしれない


「いいのができるといいな」

ユノさんが僕を見つめて微笑む

「いい仕事しようぜ」

「……」

チャンミンがなぜかムッとしているように見える


「ん?どうした?」

「仕事仕事って…」

「え?」

抑えようとしても、本音が湧き出るこの口を抑えることができないチャンミン

「仕事を振りかざして、そうやって僕との距離をしっかりとろうとして…」

「………」


「寝たんですよ、僕たち…」


ユノが驚いたようにチャンミンを見つめた


「…………」


「…………」


ユノは顔を背けて眩しそうに夕陽を眺める
そして、低い声でそっと呟く


「じゃあさ…」

「………」


「俺はどうすればよかったんだ」


チャンミンがハッとしたように顔をあげた


ユノは遠くを眺めて微笑んでいる


「俺は…あの朝、あのまま帰す気なんてなかった
チャンミンをスビンのところにはもう帰さないつもりだった」

「ユノさん…」

「でも…チャンミンに謝られて気がついた」

「なにを…ですか?」

「一晩寝たくらいで…俺はとんだ勘違いをしていたんだと…」

「ユノさん…」

「俺、面倒クサいんだよ、スビンも言ってただろ?」

ユノが自嘲気味に笑う
その笑顔が寂しそうだ…

チャンミンは何か込み上げてくるものを
抑えきれなかった

「あなたは…面倒クサくなんかない!
誠実なんですよ、誰に対しても!」

「チャンミン…」

いきなり興奮しだしたチャンミンに
ユノが驚く

「えっと…ごめんなさい…」

吠えてしまって…その後が続かないチャンミンは
思わず自分の唇に手をやったまま、俯いてしまう

「チャンミン」

「…はい?」

ユノを見ると、さわやかな笑顔に戻っていた

「ありがとな…そんな風に言ってくれて」

「そんな…僕のほうこそ、勝手なことばかり」

「さ、裏を回ろう、早くしないと陽が暮れる」

「……」


はぐらかされたのか、助け舟をだしてくれたのか
ユノが空気を変えた

それを寂しいと感じる資格がないのに

チャンミンはなにか悔しいような
なんとも言えない気持ちになった


ユノがカメラを持ったまま、緑生い茂る方へと大きなストライドで歩いていく


その後ろ姿を見つめながら
チャンミンは自分の気持ちを持て余していた


なんだろう

僕はユノさんに対して何を思っているのだろう

その気持ちに上手いタイトルをつけられない


だけど…この込み上げるような激しい気持ちは。



チャンミンは小走りにユノに追いついた

「チャンミン、この辺りから、ほら」

ユノが指差す方向を見上げると

夕陽に照らされて、観覧車が浮かび上がる

「あ…」

「これさ、蒼かったら最高だと思う」

「そう…ですね…僕、間違ってないかな」

「うん、間違ってない。
誰に何を言われても、これで押し通して
出来上がったらみんなの度胆をぬいてやろうぜ?」

「はい!」


そのとき、ふと

チャンミンの手がユノの手に触れてしまった

咄嗟にユノがその手を引っ込めようとするのを
チャンミンが掴んだ

「チャンミン…」

ユノがチャンミンの方をみると
その視線は観覧車を見上げている

「こうやって、大好きな人と夕焼けの中…
この観覧車に乗りたいって…みんなが思ってくれたらいいな…」

ユノはたまらない気持ちになった

「そう…だな」

ユノは握られた手を、一旦解いて強く握り返した








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