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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

蒼い観覧車 5




亡き妻の妹、ミンスが「ジェリーフィッシュ」を訪れた
ガラスドアを開けて中を伺う

「義兄さん?」

「お?ミンスか、元気にしてるか?」

「ほかの社員の方は?」

「みんな営業に出てるよ、何かあった?」

「ええ。義兄さん、洗濯とか溜まってないかと思って
ちょっと近くまで来たから」

「アハハハ…それくらい自分でちゃんとやってるから
大丈夫だよ、ありがとうな」

「男の一人暮らしで困ってることない?」

「んー特にないよ」

「繕い物とかあれば、私やるから」

「ありがとう。せっかくだからコーヒーでも飲んでいくか?」

「うん、仕事のお邪魔じゃない?」

「今は大丈夫」


ユノはミンスと自分の為にコーヒーを淹れた


ユノの広い背中をミンスはじっと見つめた


大好きな義兄さん…
元気そうでよかった


ミンスの亡き姉が結婚相手だと言ってユノを家に連れてきた時から、ミンスはユノに恋をしていた

ユノはミンスを本当の妹のように可愛がってくれた

「俺、ひとりっ子だからさ、妹ができて嬉しい」

ユノはそう言ってくれた

好きになってはいけない人だとわかってはいたけれど、気持ちは自由だと自分に言い聞かせて、ミンスはユノを想い続けた

証券マンのユノが忙しくて相手にしてくれないからと
浮気を繰り返す姉が憎かった

自分なら、そんなユノを支えることを幸せだと思えただろうに。


ミンスはユノに姉の浮気を知らせた。
まだ自分は恋する子供だったと今では思う


それを自分のせいだと自らを責めるユノを
ミンスはさらに好きになっていく

結局は離婚ということになって
ミンスは少しだけ期待した

あり得ないことだったのに…

やがて、いろいろな事が重なって
ミンスの姉は精神を病み、自らの命を絶つ

更に自分を責めるユノを慰めたいとミンスは思った


けれど、慰めることができるのは女のミンスではなかった…


ユノの様子を知りたくて、訪れたユノの部屋で
同性を相手に遊べる店のカードがあった

驚愕はしたものの…

ミンスはどこか諦めに似た安心感を覚えた
姉と上手くいかなかったのは…妹の自分には知り得ない夫婦の事があったのだろう

このまま、妹、という存在でユノの側にいよう
そうミンスは考えた


どこかの女にユノを取られることはないのだから


「義兄さん、なんだかイキイキしてるわね」

ユノがコーヒーを淹れたカップを2つ、テーブルに置いた

「ああ、新しいプロジェクトがはじまってね」

「そうなの?」

「今度高速が伸びるだろ?それで…」

その時だった

ジェリーフィッシュのドアが恐る恐る、という感じで開いた

「え、チャンミン?」

ユノの動きが止まった

思わずミンスはユノを見上げた


ドアから覗いたチャンミンと呼ばれた男は
オドオドしながら、部屋の中を覗いた


「あ、ユノさんいた!」


ユノを見つけ、子供のように顔を綻ばせるその男は
ふんわりと花が咲いたように微笑み、部屋に入って来た

大きめのステンカラーコートに裾を折ったジーンズの下から黒いサイドゴアのブーツがのぞく

危険だ…

なぜか、そうミンスは思った

おそらく初めて、ユノを取られると思った


「どうしたの…チャンミン」

ユノが必要以上に動揺している、とミンスは思った

急にユノを尋ねたことを、サプライズとして喜んでいるのでは、とさえ思った。


「ちょっと思いついた事があって」

「思いついたこと?」

「ほら、この間…あ、えっと仕事中でしたか?」

興奮気味に話そうとしていたチャンミンがミンスに気づいた

「あ、いえ、私はその…」

ミンスは自分をどう自己紹介していいのか戸惑った
この会社の社員はみんなミンスの存在を知っていたけれど

「チャンミン、ミンスだ。元妻の妹」

サラリと紹介されてミンスは戸惑った

姉の事をこの男、チャンミンは知っているのだろうか。


「あ、はじめまして、ミンスです」

「仕事でユノさんにお世話になってます
シム・チャンミンです」

「今度ね、新しいプロジェクトでデザインを手がけてくれるんだ」

ユノが嬉しそうだ

そういうことか…

だから、義兄さんはイキイキしているんだ


「兄をよろしくお願いします」

「はぁ…僕のほうがなんていうか…」

そう言ってチャンミンはクシャッと可愛く笑う

「今日もこんな風に突然来ちゃったりして
ユノさんに迷惑をかけてます」

チャンミンはペコリと頭を下げた


「チャンミン、何かいい思いつきがあったのか?」

「あ、はい、あの…」

チャンミンがミンスを気にした

ミンスは察して立ち上がった


「私、帰るね、義兄さん」

「あ、悪いな、せっかく来てくれたのに」

「いいのよ、私こそお仕事なのにごめんなさい」

チャンミンがバツが悪そうにしている

「なんだか、すみません」

「こちらこそ、お仕事なのにごめんなさい」


ミンスが出ていくと
チャンミンは黙ってしまった

さっきは興奮気味に話そうとしていたのに

「チャンミン?」

「空気読めなくてごめんなさい」

「え?」

「あ、奥様の妹さんが訪ねてきてたのに…」


「いいんだよ、チャンミンの方が大事だ」

「え?」

キョトンとしたチャンミンに
ユノが慌てた

「あ、ほら、仕事の方が大事だって意味」

「あ、はぁ…ですよね」

「ですよねって…その…」

「なんか僕自身がユノさんの大事な存在って
一瞬聞こえちゃって」

「……」

「いや、なんか…」

「もちろん、チャンミン自身も大事だよ」


大事だよ?

大事な存在…

チャンミンを大事にしたい…

けれど俺にはチャンミンを大事にする権利がない…



ユノはフッと諦めたように微笑んだ

「それで?」

「あ、あの、観覧車の色なんですけど
蒼いのがいいと思って」

「蒼?」

「あー、わかります!そんなのないって思いますよね、普通」

「うん…青い空に蒼い観覧車って…
でも理由があるんだろ?」

「はい!」

チャンミンが真剣な表情でユノに詰め寄る

「この間、ユノさんも言ってましたよね?
ノスタルジックに大人が夕暮れに乗りたい観覧車」

「うん」

「夕焼けの空に、一番映えるのは蒼なんです
やっぱりどう考えてもそれしかないんです」

「夜になったら?空に同化しないか?
昼間もだけど」

「夜は黄色のランプをつけるんです」

「昼間は?」

「昼は足元に花が咲いていれば
蒼に花の色が映えます」

「なるほど」

「最高だと思うんです!その方が絶対に品がいい」

「それをクライアントが納得するようにプレゼンしないとだな」

「やっぱりそうでしょうか?」

「シンボルとして高速道路から目立つというのが
クライアントの希望だからね」

「そう…ですか…」

次第に勢いがなくなってきたチャンミン

「ダメとは言ってない。いいと思うよ。
問題はそれをクライアントに納得させることだ」

「……僕がフリーランスとして伸びないのは
プレゼンが下手だからです…」

とうとう下を向いてしまった

「一緒に考えよう、どうやってプレゼンするか」

チャンミンは上目遣いにユノを見た
不安気な大きな瞳…

ユノがチャンミンを包み込むように微笑む

優しい眼差し

「そんな不安そうな顔しないで」

ユノの手がたまらずチャンミンの頭に伸びる

チャンミンは拒否しない

ユノが優しくチャンミンの頭を撫でた

「俺がいるから…大丈夫。
なんの不安もないよ」

チャンミンはあやされた仔猫のように
目を閉じる

「ユノさんに頭を撫でてもらうと…
なんか安心する」

可愛い笑顔

「チャンミン…」

ユノの瞳が真剣な眼差しに変わる

その時、いきなりドアが開いて
営業の1人が帰ってきた

「おつかれさまー!」

その声に、ユノはハッとして手を引っ込めた

「?」

チャンミンは不思議そうにユノを見ると

ユノは慌てたように視線を逸らし
ソファから立ち上がった

「上手く…いくといいよな」

どこか頬が紅潮しているユノだった






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