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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

蒼い観覧車 4




1日の終わり
夜の帳が降りるころ

ユノは重い鉄の扉を開けた

外は十分暗いのに、さらに暗く照明を落とした受付に顔を出す

店員がジロリとユノを見ると、「OK」と言って微笑み、
キーをくれた。

ユノは手慣れた様子でロッカーに行き服を脱ぐと
すぐに、背後から背中をツーと撫でる指先を感じた

「お兄さん、カッコいい…」

ユノは黙って少し考えていたけれど
結局その声は無視して、腰にタオルを巻き、狭く暗い廊下をゆっくりと行く

壁によりかかる男たちから、ねっとりと粘度の高い視線を浴びてユノは歩く

廊下を歩くだけで、次々とユノの身体に触れようとする手が伸びる

ふと、ユノより頭1つ分低い男が
サッとユノの前に出た

「お兄さん…」

中が暗くて、どこから出てきたのもわからない

ユノはその男の手を握ると、非常口の薄いライトの下に引っ張りだして、顎をつかみ上げ、顔を見おろす

ユノを見上げる可愛い顔は、すでに悦びと期待に満ちている

「ひさしぶりですね、待ってました」

小さな声でつぶやく

その声で、ユノに近づこうとした何人かが
身を引いた


ああ、この子かと

ユノは思った


何度かここで抱いたことがある


抱いた…なんて表現はハッテンバと呼ばれるこの店に似合わないか

ヤッた…が正しいのだろうか


「またね」

ユノはその男の頬を撫でると
その場を立ち去った

「あ…」

期待を裏切られたその男が残念そうにしている


ユノは相手を物色しながら歩く


ここにいる連中は普段どんな生活をしているのだろう


かつての自分のように妻もいながら
本当の自分が求めている温もりを探しにこの店に来るのだろうか


毎日決まった時間に出社して
ストレスに潰されそうになりながら、
終わりそうにない仕事に没頭し、夜になればここで自分をさらけだす


満杯の地下鉄に揺られながらぶつかった隣の男は
昨夜ここでヤッた相手かもしれない


みんな…それぞれ何かしら抱えているのだろう



ユノはといえば


人に言えない自分の嗜好に
苦しみ続けてきた

母子家庭で育ったユノは
母親を幸せにしたくて、結婚をした

孫の顔をみせてやりたくて

でも

うまくいかなかった…


そもそもの結婚の理由が相手に失礼だった

今はそう思える

妻を抱けない理由を仕事のせいにするために
当時証券マンだったユノは仕事に没頭した

そうすることしか、考えつかなかった

愚かな…浅はかな自分

ほっておかれた妻が寂しくて浮気をしているのを
ユノは見て見ぬふりをした

結局、離婚をすることになり

母親を悲しませ、妻はやがて自らの命を絶つ結果となった

まわりを不幸にして自分にはなんの価値があるのか

本来、生真面目な性格のユノは自問自答しつづけている


「お兄さん…」

後ろから声をかけられ、ドキっとした

その声がチャンミンの甘い声に似ていた

「お兄さん、カッコいいね…」

よく聴くとチャンミンの声ではないけれど
ユノの食指が動いた

それなら顔はあまり見えなくていい

ユノはその男の腕をつかむと、個室のような作りのエリアに引っ張りこんだ

乱暴に連れ込まれても
その男は嬉しくて微笑む

ユノの二の腕の筋肉に陰影が浮き出る
ユノの汗がそのきれいなラインの顎をつたう

しばし、その男をチャンミンだと想像した

チャンミンはどんな表情で俺を迎え入れ
何をしてやったら喜ぶだろうか

あの綺麗な手がきっと俺の腕をつかみ
その白い首を俺の目の前に晒すのだろう

絶頂を迎えたチャンミンを思い浮かべ
ユノは簡単に果てた

それほどまでにチャンミンを欲しているのかと
自ら苦笑してしまうほどに、あっけなかった


「悪いね」

低く甘い声でユノがよく顔の見えない相手の頬にキスをしてやると

「いいの、もう一度お願いするから」

思ったより満足そうな声にユノも笑った



**********



現地を視察に行ってから数日たって

チャンミンは自分でも驚く早さで構想を練ることができた。


「あ、もしもしチャンミンですけど」

「うん、どうした」

「あ、緑の配置だけですが、なんとなく構想がまとまったので、ユノさん時間あったら見てもらおうかなって」

「早いね、もうまとまったの。
うん、いつでもいいよ、データもらえれば見ておくけど
アドレス教えようか」

「あ、紙に描いちゃって」

「え?」

「僕、最初は紙に描くんです」

「今時珍しいね、いいよ、じゃこっちに来る?」

「はい!できたらそうしてください
いつがいいですか?」

「できたら、今日がいいかな」

「じゃ、これから伺います、いいですか?」

「いいよ」


簡単なやりとりの後
チャンミンがいつものステンカラーコートにリュックを背負い、作品ケースを持って「ジェリーフィッシュ」を訪れた

「こんにちは」

ユノは今日はストライプの入ったシャツに
ネクタイはしていない

いくつかシャツのボタンを外していて
綺麗な鎖骨が見え隠れしている

「いらっしゃい、そこ座って」

「いきなりすみません。」

「いいよ、進められるところからやっておいたほうが
後々辛くなくていい」

「はい、そう思って」

「植木を扱う会社の人間を呼んでおいたから」

「え?そうなんですか?よかった!
いろいろ相談したいです」


やがて、植栽を行う会社の営業がやってきて
打ち合わせとなった

チャンミンは頬を紅潮させて
自分の構想を描いた紙を広げてみせた

「へぇー明るくていいな」

ユノに褒められ、チャンミンは照れた

「チャンミン、概要を説明して。
どんなイメージ?」

「えっと、まずですね、エントランスなんですが」

チャンミンが説明するにつれて、
なぜか植栽の営業の表情が渋くなっていく

「と、こんな感じなんですが…」

チャンミンはだんだんと声が小さくなってしまった

気づいたユノが助け舟をだした

「俺はすごくいいと思うけど、問題ありって顔だね。
ひとつずつ説明して」

「あ、はい…」

植栽の営業は、チャンミンの案をひとつずつ潰していかざるを得なかった

「こういうこんもりしたグリーンは形が崩れやすいんです。メンテナンスは一度にできた方が経済的ですし」

チャンミンが張り切って考えてきたことは、
あまりに安易で金銭的にもメンテナンスの面でも現実的ではない案だった

チャンミンは唇を噛み締めていた

ユノがそんなチャンミンを気にしている

「わかった。とりあえず意見は聞いたから。
後はこのデザインを保てる代案はないか、そちらで考えてみてくれませんか」

「あ、はい、やってみます」

植栽の営業は帰っていった


チャンミンは俯いたまま、膝の上で握りこぶしを作っていた

「チャンミン」

「……すみませんでした」

「謝ることない。いいデザインだ」

「カタチから入ってしまって…
先に植栽の方から話を聞いてからデザインするべきでした」

「カタチを考えるのがチャンミンの仕事で
それを実現するのが植栽の会社の仕事だよ」

ユノは爽やかに微笑む

「ユノさん…」

「こんなことで、そんな顔してたら
これからやっていけないぞ?」


優しいユノ

チャンミンは少し安心して、ユノに微笑みかける

ユノはそんなチャンミンをじっと見つめた


意外にそれは長い時間だった


「これから、きっとまだ…いろいろあるんだから…」

ユノは思わずチャンミンの頬を指の背でそっと撫でた

一瞬チャンミンがビクッと肩を動かした


「あ、ごめん…」

「いえ…」

「じゃ、あれだな、あとは植栽の担当の返事を待って
後は遊具のデザインを進めて」

突然仕事モードになり、ユノが慌ててソファから立ち上がった

「はい…」

チャンミンも立ち上がった

「いろいろありがとうございました」

「またね」


チャンミンがお辞儀をして出て行った後のドアを
ユノがじっと見つめていた




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