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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

蒼い観覧車 2





その日は、遊園地の現場を見にいくという話になり
ユノが車を出して、チャンミンを迎えに行った


チャンミンの住まいは質素な作りのアパートで
ユノは車を停めて、部屋まで迎えに行った

オートロックではなく、直接部屋のチャイムを鳴らしたけれど、チャンミンから返事はない


まだ、寝ているのだろうか


もう一度チャイムを鳴らすと
今度はドタバタと慌てた様子がドアの向こうから聞こえてきた

そしていきなりドアが開くと、目の前に上半身裸のチャンミンが勢いよく出てきて、ユノは驚いて後ずさりしてしまった

「あ……」

思ったより筋肉のついたチャンミンの身体がユノの目に飛び込んできた。

鎖骨の下に盛り上がった胸筋。
張りがあって柔らかそうだ…

正直ユノは、今日を迎えるにあたって
気持ちに折り合いをつける必要があった

最初の出会いで思わずチャンミンに心を揺さぶられてしまい、これから仕事をしていくのだからと
なんとかその想いを封じ込めるのに必死だった。

それなのに、こんな風に直接視界から脳に直撃するような姿態は残酷だ…

チャンミンをそういう目で見てしまう自分を
認めざるを得ない

これから2人で都会から少し離れた場所まで車で出かけなければならないのに、これではなんとも落ち着かない


「お、おはようございます…」

長い前髪をかきあげながら、少しとろんとした大きな瞳がなんとも色っぽい


「あ、迎えに来るの早かったかな。」

「いえ、あの、連絡くれれば、車のところまで行ったのに」

「あ、悪い…そうすればよかったか。寝てた?」

「いや、用意してたところです…」

一瞬、部屋の奥を誰かが横切ったのがユノの視界に入り、気づいたチャンミンが気まずそうにした


部屋にいたのは、女ではない
しかも服を着ている様子もなかった

スビンではないか…

一瞬そんな思いがユノを支配して、
ユノの心が急速冷凍されるかのように冷えて行った


「俺は車で待ってるから、用意が出来たら声かけて」

「あ、はい…すみません」


ユノは爽やかにそう言い残して車に戻った


チャンミンはドアを閉めて後ろを振り返ると
シャワーから出てきたスビンを睨みつけた

「さっき、わざと後ろ通ったよね」

「え?そんなことしないよ」

「………ウソばっかり」

「ユノにこの関係がバレるのは、僕としてもあまりいいことじゃないからね」

「どうだか、スビンはたまにすごくイジワルだからね」

「そんなことより、早く行ったほうがいいんじゃないかな、チャンミン」

「わかってるよ!」


ユノは車の中に戻った

ひとり運転席で大きくため息をつくと
なんだか自分が滑稽に思えて可笑しくなってきた

ガキの初恋みたいに
なにを俺は慌ててるんだ

真剣にいろいろ考えてバカみたいだ

みんな、よろしくやっているだけだ

スビンがチャンミンを紹介したのは
そういうわけか。

俺はもう2度と、そういうのはご免だ


チャンミンがなんとか支度を整えて
ユノの車に走り寄った


ユノはスーツを着て、いかにも仕事という感じだったけれど、
チャンミンの方はフリーランスのデザイナーらしく、ダメージのジーンズにステンカラーのコート、といったスタイルだった。

ウィンドゥを覗くと、ユノが誰かと笑いながら電話で話をしている

綺麗な横顔

細められた切れ長の瞳が緩やかに弧を描く


ほんとにカッコいいひとだな…


チャンミンに気づいたユノがドアのロックを外して
人差し指で乗るように合図をした

「失礼します」

電話の会話を邪魔しないように、チャンミンは小さな声で挨拶をして、助手席に乗り込んだ


「はい、それでは2時間ほどで着くと思うので。
ええ、よろしくお願いします。また連絡します」

ユノがスマホを切った

「すみませんでした」

「うん、相手のあることだから、これからも時間は守ってほしい」

「あ…」

思わぬユノの整然とした物言いにチャンミンは少し驚いた

「ん?」

「いや、すみません。ほんとに。
これから気をつけます」

ユノの言っていることは正しい
それをなぜ自分は驚いたりしたのだろう

チャンミンは自分を恥じた

「さあ、行こうか」

あっさりと気持ちを切り替えてすでに爽やかな笑顔で
ユノがエンジンをかける

「はい、今日はよろしくお願いします」

そう言ってチャンミンはぺこりと頭を下げた

「うん、実りある1日になるといいね」



窓の外を町の景色が流れていく

チャンミンはそれを見つめながら
なんとなく考えた

ユノは自堕落な自分とは、正反対のタイプなのだ

サッパリと明るく、男らしい

自分とは合わないタイプだ
気持ちが強くて人望の厚い、でもきっとデリカシーに欠ける男…


さっき、スビンを見られたとしたら
僕のことを軽蔑するだろう


「チャンミンはいつからフリーランスになったんだ?」

「あ、一昨年です。それまでは建築家のアシスタントなんかしていて」

「そうか。今回は遊具のデザインもしてもらうけど
安全性とか機械的なことはもう組み立ててあるから」

「そうなんですね。僕は見た目のデザインだけすればいいですか?」

「あと、緑の配置なんかも頼みたい」

「はい、大丈夫です。経験ありますから」

「それはよかった」

ユノは日光が眩しいのか、ダッシュボードからサングラスを取りだしてかけた。

小さい顔にシンプルなサングラスが嫌味なく似合う

それから2人は、今回の仕事についていろんな話をした


ユノは会話が上手だった。
チャンミンからうまく話を引き出して、盛り上げてくれる。

2時間ほどの車中はとても楽しく
チャンミンもかなりユノへ親しみが湧いてきた


一度休憩をとり、ユノがコーヒーを買ってくれた

「ありがとうございます!」

「いいんだよ」

「あの…」

「ん?」

「ひとつ聞いていいですか?」

「なに?」

「ユノさん、結婚は?」


一瞬にして、ユノの顔色が変わった


まずい…
聞いてはいけないことだったのだろうか

つい話が弾んで、調子に乗ってしまった


「あ!僕…なんかすみません
立ち入った事聞いて…」

「昔、してた」

「え?」

思いのほかあっさりと答えたユノの横顔は少し憂いを纏って、ゾクっとするほど色気があった


「昔、結婚してたよ。
今はひとり」

「あ…そうなんですね。
ほんとにすみません」


ユノは明るく笑った

「謝る事なんかないよ。
別に普通に聞くだろ。結婚してるかどうかってさ」

「はぁ…」

「チャンミンは?結婚してるの?」

「いいえ、ひとりです」

「スビンとは一緒に暮らしてるの?」

「!」

チャンミンは一瞬、言葉に詰まった

「あ、俺の方こそ立ち入った事聞いたかな。
さっき、チャンミンの部屋にいたのはスビンに見えたから」

「……一緒には暮らしてません」

「そうなんだ。
あ、相手が男だからって気にする事ないよ、デザイナーとかさよくあるよ」

「はぁ…」

「そんな話、まわりにゴロゴロ転がってるから。
あ、俺みたいな営業では聞かないけどね」


そうは言っても

こんな真っ直ぐに純朴に
太陽の下で元気に育ったひまわりみたいな人

ユノさんが僕みたいな嗜好を良しとするわけない

結婚してたって言うけど
離婚したであろう事実も、なんとなくこの人には似つかわしくない


「あの…」

「なんだ?」

「スビンは僕との事、知られるのはイヤみたいで」

「へぇーそうなんだ、酷いね」

「ひどい?」

「好きなら堂々と好きってみんなに言えばいいのに。
関係ないだろ、性別なんて」

「なっ…」

チャンミンの戸惑いに
ユノは不思議そうな顔をした

「たぶん、ユノさんみたいな人にはわからないと思いますよ」

「なにが?」

「世間でそういうことが、どういうデメリットがあるかって」

ユノがフッと笑った

「心配しないでチャンミン。誰かに言ったりしないから」

「………」


程なくして、現地についた


寂れた遊園地はなんともノスタルジックで郷愁を誘ういい感じだ。


「なんか…いいですね、この雰囲気」

「だろ?俺も…このままでもいいんじゃないかって思ったくらい」

「ユノさんも?」

「ああ、最新式のジェットコースターなんていらないから、こう、昔からある観覧車とかコーヒーカップみたいなのだけにして、特に夕暮れなんか全体的にいい感じになるような」

「いいですね!それ!
時代に逆行しているかもしれないけれど
かえってウケるかも!」

「どうせ、予算だって限られてるんだから
中途半端なもの作るなら、思い切りノスタルジックに行くのもいいよな」

「密かにSNSなんかで広まってカップルの名所になったりとか」

「うん、まずは方向性を考えよう
アトラクションも提案されてるものから選んでいけばいいんだし」

「なんかやる気が湧いてきました」

ニッコリと微笑むチャンミンの可愛い笑顔に
ユノはまた心を揺さぶられる


「俺…個人的には観覧車をここのメインにしたいんだ」

「観覧車?これはもう古くて使えそうにないですね」

「ああ、この設置場所が高い位置にあるから
高速道路からよく見えるはずなんだ」

「へぇ」

「夕陽をバックに高速道路から観覧車が見えたらいいだろうなぁって」

「ユノさん、夕暮れにこだわってますね」

「アハハ、そうだな。
夕暮れ時にいいと思われても、昼間客が入らなきゃ営業的に意味ないんだけどな」

「夕方からも営業すればいいんですよ」

「うん、それも考えてる」


そこへ、この遊園地の所有権を持つ人物がやってきた

「遥々ようこそ。
パクといいます」

「こんにちは、お世話になります
ジェリーフィッシュのチョン・ユンホです」

パクさんは、感じのいいお爺さんだ。

ユノがチャンミンの背中をそっと押す

「デザイナーのシム・チャンミンです
遊具のデザインは彼にまかせるつもりです」

チャンミンはペコリと頭を下げた

「君がデザインをしてくれるのか。
いいのができそうだなぁ」

パクさんは、目を細めて微笑む

「昔はね、このあたりにも人がいっぱい住んでて
週末となると、家族連れで賑わったんだよ」

チャンミンが興味深けに耳を傾ける

「売ってるのはアイスと風船くらいだったけど
こんなちっぽけな観覧車をみんながよろこんでな」

「僕はこの観覧車のデザインにこだわろうと思ってるんです」

「この遊園地のシンボルだったんだよ」

「今回もシンボルになるようにやってみたいと思ってます」

「頼もしいなぁ」


誰もいない遊園地


寂れた観覧車の前で、3人は夢を語る

パクさんに向かってにこやかに微笑むチャンミンを
ユノがじっと見つめていた








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