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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

死神の恋 完




「ねぇ、君、ちょっと」

「はい?」


振り向くと、綺麗な男の人が立っていた


「君、ボーイズエンジェルのテソンくんだよね?」

「あ、はい、そうですけど」

「ユノさんのところ、僕と交代になったから」

「えっ?僕、指名ですけど。ってかユノさんは常連さんだし」

その人は一瞬怒ったような顔をした
かと思えばすぐにニッコリと微笑んだ

「チェンジになったんだよ。
もう帰っていいから」

「…あ、そうなんですか…じゃあ、はい…」


テソンは戸惑いながら、仕方なく帰っていった

テソンはユノの元へ行くことを楽しみとしていたので
ちょっと不服ではあったけれど

抗えないオーラがその人にはあった




アンバランスな古い音を立てて、
ユノのボロ屋のチャイムが鳴る


「はーい」

ユノが崩れそうなドアを開けると
見知らぬ男が立っている

すごく綺麗な男だった

「あ…あれ?テソンは…」

「すみません、急遽チェンジになりました
はじめまして。僕はシム・チャンミンです」

「え?チャ…?」

戸惑うユノを家の中に押しやり
半分強引にチャンミンが部屋に入ってきた

「!」

ユノの目の前に可愛い天使のような微笑み

「よろしく、ユノ」

「え?あ、ああ…」

「お気に召しませんか?僕のこと」

戸惑うユノに、シム・チャンミンから笑顔が消えて
泣きそうな顔になる

それがまた、たまらなく可愛い

「いや、いやいや、全然そんなことない」

ユノはブンブンと両手を振った

「そう、よかった。」

シム・チャンミンは本当にうれしそうに微笑み
ユノはその笑顔に釘付けになった


「……」

見惚れているユノに
チャンミンが真顔で言う

「悪いけど前金です」

「あ、ああ…」

「前と違って僕も人間としての生活があるので」

「え?」

「そのうち、僕が家事をして、ユノが稼ぐってことで
いいんですけど」

「は?」

「あーそれとですね」

「?」

「あなただけ特別なんですが」

「俺…だけ?」

「キスは有り、です」

「え?いいのか?」

「はい!そのかわり」

「え…なに?」

チャンミンがユノに詰め寄った

もうその柔らかそうな唇が
ユノの目の前にある

そして可愛いバンビアイが少し妖しく輝く

「1回だけ、です。
もっと僕とキスがしたいと思ったら
次は直接僕に連絡をください」

「あ、そうなんだ、えっと…」


いきなり綺麗で可愛い男が家に入ってきて
一方的にいろいろ言われているけれど

あまりに魅力的で抵抗できない

ふとみれば、シム・チャンミンは白いシャツのボタンを
はずし始めている


やる気満々だな

ユノは苦笑した


「君、チャンミンだっけ?」

「はい」

シャツをもう半分脱いだ状態でニッコリと笑う

可愛くて…たまらなくセクシーだ

「いいね、君。気に入ったよ」

「よかった」

チャンミンは小さくつぶやく

「次も指名するかどうかは、
またゆっくり考えるけどね」

「即答させてみせます」

「へぇー自信あるんだ」

ユノが意味ありげに微笑む

「当たり前ですよ。あなたに会うために
どれだけ大変な目に合ってきたかと思ってるんですか」

「え?」

「なんでもないです。
とりあえず、こっち」


勝手知ったるユノの家だった

チャンミンはユノを寝室に引っ張り込んだ


*******


「それじゃあ、またどこかで会えたら」

チャンミンはさっさとシャツを羽織ってボタンを留めている

「あ、ボーイズエンジェルに連絡すればいいのか?」

「?」

「あ、あのーえっと…もう一度…その」

「そんなところに電話したって
僕はいませんよ」

「だからさ、その…」

「さっき言いましたよね?
また僕とキスがしたかったら、直接僕に連絡を、と」

「………」

「………」


猶予を与えているかのように
チャンミンは棒立ちでユノを見つめる

期待のこもったバンビアイ
その瞳が少し哀しく翳り

そして、ため息をつくと
コートを片腕にかけて、帰ろうとした

「あ!ちょっ!ちょっとまって」

「?」

「連絡先を教えてくれ
また…その…指名したいからさ」

「もう一度、僕とキスがしたい?」

「……したい」

チャンミンの顔がパッと明るくなった

「じゃあ!僕を迎えに来てください!
キスがしたくなったらすぐに!」

「え?どこへ?」

「僕はホームレスなんです。
教会で食事やシャワーのお世話になってます」

「え?ホームレス?」


とても…そんな風には見えない

抱くといい香りまでしていたほどなのに

そして、その香りはどこかで感じたような…

この笑顔もどこかで出会ったような


「そうか…わかった…じゃあ、教会に…行くから」

「待ってますね!」

花が咲いたような笑顔に
ユノは明日にでも迎えにいってしまいそうだ、と我ながら苦笑した。


そして、やっぱり

翌日にユノは教会へ出向いた

また…あのチャンミンに会いたい


ユノとカン牧師、そしてボランティアや有志のおかげで
きれいに建て替えられた教会

クラシックな呼び鈴を鳴らすと

カン牧師が出て来た

「あ…」

「ユノじゃないか?どうしたんだ?
このところ、全然顔見せないで」

「えっと…ここでホームレスの世話をしてると思うんだけど…」

「ああ、今ひとりね、世話しているよ。
よかったら、ユノも食事していきなさい。
今、そのホームレスが夕飯を作っているから」

「あ…そう…なんだ」

「それがね、すごく料理上手なんだ。
一度食べてみるといい」

「あ…うん、じゃあそうさせてもらおうかな」


ユノは施設のダイニングに入って行くと

シチューのいい匂いがしてきた

「ユノヒョン!!」

施設の子供たちがユノを見て大喜びだ
ユノは瞬く間に子供たちに囲まれて身動きがとれない

「みんないい子にしてたか?ん?」

ユノが子供たちの頭を撫でる

「あ!」

キッチンから出てきたエプロン姿の長身の影。
それは昨夜、ユノを一晩で虜にしたシム・チャンミンだった

「あ、ユノ!」

パッとチャンミンの笑顔が輝く

そのエプロン姿の可愛いこと
ユノはチャンミンに見惚れてしまった



カン牧師が2人の顔を見比べた

「知り合い?」

「はい!昨夜、ちょっといろいろあって」


ニッコリと笑うチャンミンに
俯くユノ

そんなユノの様子に
何かを察したカン牧師が微笑む

「ま、いいから
ユノ、食べていきなさい」

「ありがとうございます」

妙に照れながらユノはテーブルに着いた

チャンミンが作ったシチューはとても美味しかった

子供たちも次々におかわりをせがむ


チャンミンは始終ニコニコ顔だ
なにせ、ユノが自分とキスをしたくてわざわざ迎えに来てくれたのだ

嬉しくないわけがない

カン牧師が、そんなチャンミンを微笑ましそうにみる

「ユノ、こんなに明るいチャンミンだけれどね
ここに来るまでにはいろいろ苦労があったらしくてね。
ここに辿り着いた時には、かなり衰弱していて、
少し入院していたんだよ」

「そうなのか?」


チャンミンはユノの問いかけにニコニコと微笑むだけ

代わりにカン牧師がぽつぽつと語り始める

「倒れているところを、北極の探検隊に救われたらしくてね」

「ほ、北極???」

「ヨーロッパを回って、大陸を横断してここまで来たんだって。すごいよ」

「へぇーどうやって?」

「はい、いろんな人にお世話になって
あ、いろんな教会にも行きました」

「そう…苦労したね」

「もう、途中でダメかと思いました。でも…」

「でも?」

「いや、なんでもないです」



あなたに会うために

それだけを励みにここまでたどり着いたんです

でも、そんなことは、あなたは知らなくていい…

あなたに会えたから
もうそれで十分


食事の後片付けを子供たちと楽しそうにするチャンミンを、ユノはなんとも言えない気持ちで見つめていた


まるで…天使みたいだ

ヤバイな、俺…

確実にチャンミンに心を奪われている自覚があった

たった一晩、抱いただけなのに


見惚れるユノにカン牧師が近づく

「何をぼーっと見てるんだ、まったく」

「なっ…別にそんな…」

「どこかで…出会ったことがあるような気がするんだが」

「チャンミン…ですか?」

「ああ」

「俺も…ちょっとそんな気がします」

「あの時、ユノが木から落ちた時
下敷きになって助けてくれた人に似てるような気もするんだが」

「俺はあの時の事がほとんど思い出せなくて」

「ユノは頭を打ったんだろうな、だからだよ」

「そう…かな」

「あの青年はどこへ行ったんだろうね」

「どこの病院に運ばれたか
結局は分からずじまいですね」

「そうだな…」


チャンミンが子供たちにリンゴを剥いてやっている

ユノはその姿をなぜか泣きそうな気持ちで
みつめていた…




***********




教会はさまざまな人々の幸せと悲しみを懐き、そして救い、いくつもの季節をめぐった

綺麗に建て直したその器も時と共にまた美しく
朽ちていく

人々の人生もまた美しく朽ちていく



ユノはベッドの器械の表示を見ながら
チャンミンに取り付けられた管を調節していた

浅い息づかいをするチャンミンの寝顔は優しく美しい

ユノはやっと椅子から立ち上がると
ゆっくりとキッチンに歩いて行った


「…ユノ?」

ベッドから小さな声がして
ユノは呼び戻された

「チャンミン、起きたか?
リンゴ剥いてやろうかと思って」

「うん…後で…」

「そうか?」

ベッドの脇の小さな椅子にユノがまた座った

チャンミンがゆっくりと細くなった枝のような手を持ち上げると、その手をユノが握った

「苦しくないか?」

「うん…大丈夫…」

「薬を変えてもらったから
すぐによくなる」

「いいの…」

「ん?」

「もうこんな歳だから、仕方ないよ」

「何言ってるんだよ、チャンミン
まさか俺を置いていくつもりじゃないだろうね」

「フフフ…」

「俺が一人で残りの人生を生きていけるわけないだろう?」

「ユノ…」

「なんだ?」

「本棚に黒いバインダーがある。
取ってくれないかな…」

ユノはゆっくりと立ち上がると
本棚から黒いバインダーを取り出した

「これ?」

「うん、中を見てみて…?」

古ぼけた黒い革のバインダーを
ユノはそっと開いてみた

「これ、何語?」

そこには象形文字のような、見たことのない文字が並ぶ

「フフフ…ラブレター」

「ラブレター?チャンミンが…書いたの?」

「そう…何語かわからないかもしれないけど
いつかその時が来たら、なんて書いてあるか…
ユノにも読めるから…」

「この絵は…俺?」

「うん、ユノが若くてカッコイイ時の」

「ハハ…そうだな」

「でも…ユノは…今も…カッコイイよ」

「そうか?チャンミンも可愛くてきれいだよ」

チャンミンは幸せそうに微笑み
ユノの手を握ろうとする

「ユノ」

「ん?」

ユノがチャンミンの手を握り返す


「ごめんね」

「何を…謝るの」


「僕は…ユノを置いていくことになりそう」

「チャンミン…」

ユノの顔に哀しみが宿る


「そんなこと…言うもんじゃない」

「でも…心配しないで
ちょっと先に行くだけ…」

「そんな話は…俺はしたくない…」

ユノの声が怯えて震える

チャンミンは天井をニコニコと微笑みながらみつめている

「僕はね…幸せで仕方ないよ…」

「チャンミン…」

「この人生をあなたと過ごせて…一緒に生きることができて…
もう…それだけで…神に感謝です」

「……」

もうユノはチャンミンの顔を見ることができず
嗚咽をこらえて、ベッドに顔を埋める

「ユノは残りの人生を謳歌してね
僕はずっとあなたの側にいるから…」

「チャンミン…」

「ちゃんと生きないと、僕はあなたを…
迎えに来ないからね?」

「お前は天使になるって…そう言うのか?」

ユノが無理に微笑んで言う

「そう…僕は天使になるから」

「お前は昔から天使だよ…」

チャンミンはギュッと目を瞑った
その瞳から涙が一筋流れる

「もう一度…言って?」


「チャンミン…お前は…俺の天使だ」


その言葉は

あなたが死神だった僕に言ってくれた言葉

ずっと聞きたかった言葉


「ありがとう…ユノ」

「チャンミン…」

「愛してる…」


ベッドに取り付けられた器械が
リズミカルな音から無機質な音に変わった



葬儀の日は穏やかに晴れて


ユノはチャンミンを静かに見送った


ユノはチャンミンが自分の側からいなくなることを
心から恐れていたけれど

なぜか、寂しさを感じることはなかった

不思議だった


風は穏やかに吹いて

輝く塵となったチャンミンを青空に巻き上げた


教会の塔の上には
ユノと出会った頃のチャンミンが穏やかな笑顔で立っている。
そして、優しくユノを見下ろしていた



ありがとう






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