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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

初恋33



そして

何事もなかったように翌朝がきた
ユノにもチャンミンにも。

昨夜の雪は止み、太陽があがり
それはテジョンもソウルも同じだった。


昨夜は2人にとって、この世のどん底だったのに
朝はふつうにやってくる

時間というのはそういうものだ。


チャンミンはガンガンと頭を殴られているような頭痛に悩まされて、学校を休んだ

泣きすぎたのだろう

そうチャンミンは思った


毛布に包まり、ベッドでじっとしているだけなのに
ふと涙がまた出る

そんなことを繰り返すチャンミンだった

母は早く寝たせいか、
なんとか、今日は出勤をしたようだ。

家の中が静かだった


もし、昨日、あのまま自分がソウル駅へ行ってしまったら、母はどうしただろう

そう思うと、やはり最初から自分がテジョンに行くことは、ありえないことに思えた。

そう思わざるをえない

勢いづいて、見境いない決断をしてしまった

軽はずみな思いつきで、ユノを傷つけたのだ

チャンミンはもう嗚咽に耐えすぎて
喉が痛くなるほどだった


これで良かったのだろう


ユノはきっとチャンミンを忘れて
新しい場所で新しい生活をはじめるのだろう


ユノはどこでもユノらしくやっていく

自分とは違う世界で

そう思うと

また、涙がとめどなく流れた


ユノを裏切った事を乗り越えるには
チャンミンはまだ幼く弱かった

そしてなにより

ユノに会いたくて

ただ会いたくて

チャンミンは気が狂いそうだった


疲れ果て
考えたり、感じたり、
今はそういうことをしたくなかった。

精神が崩壊しそうだ。

チャンミンは思考を停止させた




翌朝はなんとか学校へ行った

その足取りはフラフラと

ぼーっと魂の抜けたようなチャンミンに
クラスのみんなが驚いた。

まだいろんな先入観があって
チャンミンに近づくのを控える生徒もいた

チャンミンは明らかに変わった
変わってしまった


誰にどう見られたって、どうでもいい

どうせ

どうせ

もう、ユノはいないのだ


ドンへがその姿を見かねて、チャンミンを放課後呼び出した

言われるがままにフラフラとついてくるチャンミン

「なに?」

その目は澱んでいた。


あのクリクリと煌めく、ユノが好きだった大きな瞳は
輝きを失っていた

どれだけチャンミンが疲弊しているかを思うと
ドンへは心が痛かった


「チャンミン…」

「なにか…用?」

「あんまり自分を責めるなよ」

ドンへの声は温かかった


「………」

「がんばったじゃないか、チャンミン」


がんばった?


僕は…

ただユノと離れたくなくて

でも


「僕は…」


チャンミンの胸の奥から大きな塊がこみあげて
それがまた涙となって溢れ出しそうになった

「……」

「怖気づいたんだ…ユノは僕のために全部捨てたのに
僕は何も捨てられなかった…」


チャンミンの拳が震えはじめて、
そして、やがてドンへの足元で泣き崩れた

嗚咽がそのまま、苦しそうな咳込みにかわって
チャンミンは両手を地面につけて泣いた

「ユノは…駅で待っていてくれたのに…僕は…なんてこと…」


「チャンミン、ユノはチャンミンを恨んだりしないよ。
チャンミンがユノについて来ることがどれだけ大変か、わかっていたはずだ」

「うう…うっ…」

「ユノについていこうとした、それだけでユノは嬉しかったと思う。」


だけど…

僕がユノを裏切ったことには変わりない



それから日々は過ぎ


ぼんやりと現実から付かず離れずの精神状態のチャンミンだった。

なにもする気が起きず

なにも手につかない


結局、招待生として大学は不合格

国立大学も不合格


そのことさえ、特に心に響かないほどに病んでいた。
勉強しなかったんだから当たり前だくらいに思っていた

教師たちは困惑した


あの時、無理に引き離したのは、もしかしたら得策ではなかったか?

そんな議論までされていた。


大学に受かることがユノへの義理立てだったかもしれない。

でも

そこまで思考がまわらないほど、チャンミンは傷つき疲れていた。

罪の意識に、押しつぶされてしまい
すべての感情が枯渇してしまったようだった


そんなチャンミンに
容赦なく卒業式の日がやってきた


まわりの生徒とは違い、先のことはなにも決まっていなくて…

意識を失ったようなチャンミンに、もう話しかけて来る生徒もいなかった。

厳かに式は執り行われた

大勢の卒業生の中

ひとりずつ名前が呼ばれ、壇上に上がって賞状を受け取る。

キム教諭がひとつため息をついてから
チャンミンの名前を呼んだ

よろよろと長身のチャンミンが壇上にあがる

卒業証書を受け取り、列に戻った

そしてクラスに戻り
チャンミンはマジマジとその証書をながめていた。

ん?

どうして僕は卒業なんかしてるんだ?

ユノは僕のために卒業できなかったのに…

おかしいでしょう?


キム教諭が、卒業生となった生徒たちに
教師として、人生の先輩としての祝辞を送った。


「このクラスのみんなは、本当にいつも一生懸命で
真っ直ぐで、そんなみんなが大好きでした」


チャンミンは窓の外をみた

校庭では、卒業生が写真を撮りあっていた


僕の思い出は

ユノだ


ユノと一緒に走ったリレー

寝ているユノを起こす1時間目

学食でその姿を盗み見ては恋い焦がれていた昼休み

優しい声、眩しい笑顔

いつも制服のブレザーの袖を肘までめくって
中にはTシャツしか着ていなかったね

一度、ユノのバイクの後ろに乗って見たかったな

ユノ…

あなただけがこの卒業式に出れなかった
僕のせいで


チャンミンは空いている隣の席を見た

まだユノの匂いが残っていそうな
その机…

こんなの…おかしいよ


チャンミンは突然、筒に納めた卒業証書を
取り出して、机の上に広げた

「シム?どうした?」

まわりの生徒もなにごとかとチャンミンを見た

チャンミンはペンケースから細いマジックを取り出して
自分の卒業証書に何か書き出した

「ちょっ!シム・チャンミン!なにしてる!」

キム教諭が後ろの席まで飛んできた


チャンミンは卒業証書の自分の名前の隣に
ユノの名前を書き始めていた


「シム・チャンミン…」

「これは…僕とユノの卒業証書…」


キム教諭はチャンミンの気持ちを思うと
その行為を止めることができなかった

教室の凍りついたような静けさの中
シャカシャカとペンを走らせる音が響く

証書には書き殴ったようなユノの名前が滲んでいた



帰り道、チャンミンは図書館に向かった

テホと待ち合わせをしていた

懐かしい匂い

テホの勉強をみてやりながら
毎日放課後をここで過ごした

今のチャンミンにとって、この図書館は眩しすぎる



勉強室のドアが開いて、テホが入ってきた

まるでユノが入ってきたのかと思うほど
テホは大人びてユノに似てきた。

チャンミンは軽く手を挙げて合図した。

テホの視線がチャンミンを捉えると、ひどく驚いた顔をして近づいてきた。

「先生」

「ひさしぶり、テホくん…」

「先生、どうしたの…」

「なにが?」

「病気?やつれちゃって別人みたいだよ」

「あ、そう?」

チャンミンは力なく笑った

テホは心配そうに、椅子に座った

「ごめん、呼び出したりして」

「それは全然…先生に会いたかったし」

「うん、僕もテホくんの高校生活がどうなのか
知りたいって思ってたよ」

「楽しいよ、大丈夫。
先生は…招待生になれたの?」

「ダメだった」

「あ…」

「へへっ、国立もダメだった」

「そう…なんだ」

チャンミンは無理に笑顔を作った

自分を先生と呼んでくれたテホの前では
ちゃんとしていたい、

そんな気持ちがまだ残っていた

「ユノは…元気なの?」

「………」

「?」

「ごめんね、先生。僕、本当は叔母さんたちから
先生に会ったらいけないって言われてて」

「……」

「ヒョンからは、2回連絡があっただけ」


「…そうか」


「……がんばってると…思う」


「そっか」

チャンミンは遠い目をしていたけれど
気がついたように、リュックから筒を出した

「あ、これね、ユノに渡して欲しいんだよ」

「卒業証書?」

「そう、僕とユノのなんだ」

そう言って、少し嬉しそうにチャンミンは笑った

「先生…」

「?」

「今の先生を見たら、ヒョンはがっかりする」

「……」

「ヒョンは先生が頑張ってると思って、テジョンで頑張ってるんだ。たった1人で」

「……」

「僕も…今の先生は悲しいよ」

「テホくん…」

「楽しかったんだ…僕。
毎日先生とここで勉強して、帰りにヒョンが迎えに来て。僕はヒョンと先生が僕の両親だったらいいのにってずっと思ってたの」

「両親?」

「だから、2人の事を聞いたときも
全然いやじゃなかった…」


自分たちの事をはじめて肯定された気がしたチャンミンだった。

味方なんていなかったから。

「だから、今、先生がそんなだと、
あの楽しかった毎日はなんだったんだって寂しいよ」

「…僕も…楽しい毎日だった…」


チャンミンの枯れたはずの涙が、またとめどなく溢れ流れて机に落ちて行った。

「先生、僕たちの楽しかった思い出を
ダメにしないで」

「テホくん…」

「そのあと何があったか全部は知らないんだ。
大人たちは本当のことを言ってくれないから。」

「……」

「でも、あの毎日だけは本当だったでしょう?」


あの日々だけじゃない

花火の夜も

2人で行った海も

映画館も

全部、全部本当で、そこにはウソはない。

ユノ…

今のぼくたちがどうであれ
大人たちがなにを言ったって

僕達が過ごした毎日は輝いていた


会いたいよ、ユノ

僕はやっぱりあなたが大好きだ

忘れるなんてできない

会えないなら、せめて

ずっと好きでいさせて

想いが叶わなくても構わない
僕を許さなくてもいい


この気持ちを持ち続けることを
どうか許して








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