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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

初恋32





駅構内の時計は約束の18時を5分ほど過ぎていた

ユノの心に、ほんの1ミリだけ
仄暗い不安が生まれた

そして

チャンミンは18時を15分過ぎても来なかった


電車の時刻にはまだ間がある

出発前に何か食べようという話にもなっていたから
時間はまだ大丈夫…


その時、ユノの携帯が鳴った…




チャンミンは手紙をなんとか書き終えた

ユノへの気持ちは誰にもわかってもらえなかったのだ

母にはわかってほしかったけれど
それは難しそうだった


無理やり引き離されることへの恐怖だけが
チャンミンをここまで決心させた

本当は…こんな形で出て行きたくはなかった


母に引き止められたら
自分はとてもじゃないけど出て行けない

でも…それでも

ごめんなさい


こんな風に出ていく僕を
どうか許して


チャンミンはリビングのソファで横になっている母を
起こさないようにそっと靴を履こうとした

その時、母が寝返りを打つ拍子に大きくため息をつくのが聞こえた


片方スニーカーを履いたまま
チャンミンは動くことができなくなった

この後

母さんは僕にレトルトの夕飯を作るために起きるだろう

そして、僕の姿を追い求め部屋に入り、机の上の置き手紙を読む


そう考えたら

その時の母の顔を考えたら


チャンミンはギュッと目をつぶった

わかっていたことじゃないか

僕はすべて捨てていくんだ
まわりのみんながどれだけ傷ついたって構わない



ユノと離れたくない


きっと大人たちは僕がユノの名を呼ぶことさえ
怪訝な顔をするのだろう


みんながいけないんだ
僕たちを引き離そうとなんてするから

僕たちがどれほど真剣なのか
聞いてもくれないくせに


だけど、母さん


母さんはどんな顔であの置き手紙を読むの?


刻々と時間は過ぎていく

チャンミンはユノを想って1人玄関で泣いていた
それでもチャンミンの足は玄関を出ることが出来なかった

どうしても出来なかった




「もしもし?チャンミン?どした?」

「ユノ…」

「なに?」

「……」

「お前…泣いてる?何かあった?」


「……ごめん、ユノ」


その言葉に
心の奥から絞り出すように苦しそうな声に

ユノの全身から潮が引くように力が抜けていく

「……」


「僕…行かれない」


「誰かに…止められた?」


「違う…」


「……」


「………」


「わかった」


ユノは静かに答えた

そして、静かに携帯を閉じた


「ユノ……」

チャンミンは玄関に座り込んで
嗚咽を噛み殺して泣いた


「ごめんね…ごめん…僕は弱くてごめん」


ユノは一瞬、駅の天井を仰いで
大きくため息をついた

そして

全てを飲み込んで、ユノは何事もなかったように
改札を抜けた


まるで最初から1人で旅立つかのように歩いた


何も聞こえなかった

エスカレーターを降りれば

チャンミンと乗るはずだった特急列車が
轟音とともにホームへ滑り込んできて、
はじめて耳が聞こえるようになった気がした

ホームを歩くユノ

乗車を待つ車両の窓には
ユノ1人が写っている

俺はなぜ1人で歩いているのだろう

そうか


元々、1人なんだ

そう、元々1人


チャンミンを責める気は不思議と起こらなかった


ユノは電車に乗り、指定された席に座った。
隣は空いている

チャンミンが座るはずだった席

そこにリュックを置いて
窓の外に目をやった


もう暗くなった外は雪が降っていた

初雪だった

初雪の日に一緒にいられなかったな、チャンミン。



玄関で泣いていたチャンミンは
突然思い立って、リュックを背負って表に飛び出した


待ってユノ!

やっぱり僕…ユノと離れては生きていけない



外は雪が降っていた


あ……初雪だ

チャンミンの足が止まった


「チャンミン?」

背中で母の弱々しい声が聞こえた
チャンミンはギュッと目を閉じた


「何してるの?どこか行くの?」

「………」


「チャンミン?」


「母さん、雪…」


「あら、ほんとね、初雪だわ
寒いから中に入りなさい
初雪で喜ぶ歳でもないでしょう?」

「うん…」


ユノ…一緒に初雪をみられなかった



雪はやさしく舞い降りて
チャンミンの涙に溶けていった



電車は時刻通りに出発した


車窓の外を町の灯りが前から後ろへゆっくりと流れて行く

小さなオレンジ色の灯りひとつひとつに
それぞれのかけがえのない世界があるのだろう


毎日を一緒に過ごし、愛し愛され
同じことを繰り返して生きていく

それぞれの家庭では今頃夕飯を食べている時間だ。


チャンミンとテホと3人で
そんな日々を過ごすのがユノの夢だった。


ユノは首元のネックレスを外した

その繊細な造りのチェーンを手のひらに乗せて
じっと見つめた

ギュッと瞳を閉じれば
チャンミンの笑顔が浮かぶ


できれば、憎みたかった

ついて来てくれなかったチャンミンを憎みたかった

そうすれば、どれだけ気持ちが楽だったかしれない



愛している


初めてそんな言葉が浮かんだ


愛だなんて、考えたこともなかった言葉が
今はユノの全身を駆け巡る


愛しているよ、チャンミン

そして、さようなら


暗い車窓に映るユノの瞳は濡れていた




母はやっと寝た

キッチンにはチャンミン1人

母に粥を作ってやって、薬を飲ませて寝かせた。


キッチンで、チャンミンは立ち尽くしていた。

玄関にはリュックがひとつ
ゴミ箱には破り捨てられた置き手紙


もうどれくらい泣いたのだろう
身体がおかしくなるくらい、涙が流れた


「わかった」

そのユノの一言で、チャンミンは金縛りにあったように
動けなくなった

罵倒してくれたら

もっと怒って問いただしてくれたら

僕は少しはあなたにウンザリして
ついていかなかったことを安堵したかもしれないのに

すべてを察したその言葉は
優しかった


大人たちに引き離されたほうが
それに反発してもっと愛しあえたかもしれない
自分たちを正当化できたのかもしれない

でも

怖気付いたのだ

母のせいではない

自分が弱すぎたのだ


チャンミンは自分を責めた
どこまで責めても、責めたりなかった


涙は、これ以上ないと思えるほど流れて、身体中の水分がなくなるかと思われた


やっと動くようになった震える右手で
チャンミンは首元のネックレスに触れた

ユノ…

ごめん…

ごめんね…

僕を一生許さないで…


愛してる






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