プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束〜完〜




チャンミンは真顔だった。


スンホとの通話が終わると
たった今荷造りしたスーツケースから、
パーカとキャップを奪うように取り出した。


" 前に働いてたところで知り合ったヤツから聞いたんですけど、あの宿無し村って言われてるエリアあるじゃないですか、あそこで "


チャンミンはキャップを目深に被る


" 警察に追われて漢江に飛び込んで死に損なったヤツがいるって "


そして、パーカを羽織ってフードを被った


" 顔を見たわけじゃないから、なんとも言えないんですけど、背が高くて鋭い目つきだって話 "


チャンミンは地図を調べた


" あそこにいる人達はすぐにどこか行っちゃうから
できるだけ早く "


そして、タクシーを呼んだ


「え?宿無し村ですか?
それはちょっと勘弁してもらえませんか。
あの辺は当たり屋が多くて」

文句を言いたくなったけれど、そんな時間ももったいない。
チャンミンはタクシーを降りて駅へ向かった


" その男も最近来たらしくて
またどこか行っちゃうかもしれない。
いつも行く定食屋がわかったから、だから "


チャンミンは早足で歩いていたけれど
それが小走りになり、全速力になる


" もし、ユノヒョンだったら "


駅から電車に飛び乗った


「だけど、ユノヒョン、あえて会いに来ないんだとしたらなんか事情があるのかも。」

「会いに来ないんじゃない。
会いに来れないんだ…
ユノは僕に会いに来ちゃいけないと思ってるんだ」

「あ…」

「だから、僕が迎えに行かなきゃ。
あの人は自分から帰ってこれない…
そういう人なんだよ。ありがとう、スンホ君」

「祈ってます!必ず引っ張って帰ってきてください!」



錆びついたトタンに囲まれた倉庫や工場

地下鉄の終点に近いこの街の駅は普通の人が乗り降りすることは滅多にない

「宿無し村」と言われている地区

いわゆる普通の人は近づかない方がいい街、だった。

たくさんのホームレスや日勤の労働者達が集い、働き、呑んだくれて、
簡易宿泊施設で隠れるようにみんなが暮らしている

お互い、素性なんて聞き合ったりしない
みんな人には言えない事情を抱えていた。


朝早くから、トラックが何台もやってくる

その男は腕組みをして、黙って列に並んでいた
背が高く、肩幅の張ったいい身体をしている。

小さな頭にタオルを巻いて、深めに上着のフードをかぶっていた。

陽に焼けた浅黒い肌にキリリと整った顔。
真一文字に唇を引き結び寡黙なその男。

その清廉とした雰囲気はまわりの酔っ払いとは一線を画していた

今日も男はトラックに乗り
どこかの現場へ連れて行かれる

早朝から夕暮れまで肉体労働に勤しみ
まるで服役しているかのようなストイックで実直な生活を送っているようだ。


そんな街の定食屋
不味い定食を格安で食べさせている

カウンターの片隅で
その男は静かに食事をしていた。

今日もつなぎの作業服に
頭をすっぽりとタオルで覆い、顔が見えないようにしている。

誰とも口をきかず
黙々と食事をしていた。

ほどなくして

その店にガラガラと大きな音を立てて引戸を開け
1人の男が入ってきた

黒いジャージに黒いパーカ
そして黒いキャップ

少し珍しい格好の男に、みんながジロリと見たけれど
あとは興味がなさそうに食事に戻った


その男が大きな瞳でまわりを見渡す


ふと、カウンターの隅でひとり静かに食事をする男に
その視線が止まった


上背のある広い肩幅、その上に乗る小さな頭

タオルの影からチラリと覗くカタチのいい鼻筋と
細い顎

大きな瞳の男の喉仏がゴクリと動いた。


間違いない
僕はあなたを見間違えたりしない


しばらくじっとしていたけれど

空いていたその隣の席に座ると
簡単な定食を注文した

その声に隣のタオルの男が一瞬反応したけれど
また食事をはじめた

大きな瞳の男は、カウンターに肘をついて
手を組み、じっとしていた。

その唇も組んだ手もかすかに震えている

やがて定食が運ばれると

「ありがとうございます」

そう男は店の男に礼を言った

「へっ?はぁ…」

不思議なものをみるような目で店の男が見つめる
この街で給仕をして礼を言われるなんてことはない。


隣のタオルの男は、食事をする手を止めた。
横顔がわなわなと震えはじめた。


まさか…


タオルの男の前にある塩をパーカの男が取ろうと手を伸ばした

タオルの男の目の前に
赤い火傷の痕がある右手が塩を掴む

ハッと息を飲む音がした


「まさか…」


タオルを被った男は、隣を向いた


「やっと…見つけた…」


返ってきた透き通る声にはすでに涙が混じっている


夢を見ているのか

「なんで…」


そんな言葉しか出てこない


「一緒にいる…約束でしょう?」


パーカの男の声が震えている

「……」

「だから、迎えに来た…」

「……それは」

「帰りましょう、ユノ」

「……」


ユノ、と呼ばれた男の唇が震える


「なにも言わないで、僕と帰りましょう」


そう言って、チャンミンは赤い火傷の痕がある手で
ユノの手を握った

ユノの頬に熱い涙が流れた

チャンミンが震える声で言った

「僕たちを苦しめるものは、もう何もないから」



俺たちはまるでお互いの傷を舐め合う2匹の仔犬

ずっと一緒にいる約束を守ってやれず

足を踏み外して俺は奈落の底へ落ちてしまった。

もう二度と会えないと覚悟した
こんな自分が会いに行くわけにはいかないと

けれど、お前は俺を迎えに来てくれたって言うのか?

そうだよ、だって約束したでしょう

ずっと一緒にいると言う約束を
こんどは守ろうね

なにがあっても…

僕達が目指した頂点は
眩しく光り輝いて、誰もが羨むものだったけれど

本当に目指すのはそこじゃなかった

僕たちは真っ青な空の下

その日何があったのかなんて
どうでもいい話をして

今晩は何が食べたいかなんてつまらない話をする

それでも僕らは笑い合い、抱き合い、愛し合う

そんななんでもない毎日が

僕らの頂点だったんだ


指切りをしよう

なんでもない毎日をこれからずっと一緒に


約束だよ








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百海です。
今回もお話を最後まで読んでくださって
ありがとうございました。

そして、ここまでほんとうにお疲れ様でした(笑)

読者様にはあまり喜ばれないとはわかってはいたのですが、どうしてもこういうお話を書いてみたくて
夢中で書き上げてしまいました。

幼い頃の裏切りというトラウマを持つ2人。
傷を舐め合うように愛し合うお話。

純粋で時に氷の刃物のようになってしまうチャンミンにとって、ユノは唯一絶対の存在。
そんなチャンミンのすべてが愛おしくて、最後は自分の全てを捨てて狂気の行動に出てしまったユノ。

2人がほんとうに癒されるのは
煌びやかな世界の頂点ではなく

なんでもない幸せな毎日の中にありました。


今回は本当にパラレルですが、個人的にはこのキャラ設定はリアルな2人も持ち得ているのでは?と想像しています。

今回もたくさんコメントをいただいて感謝しています。

特にこういうお話を書いている時はくじけそうになる事もあるので、
皆さまのコメントはとても励みになりました。

受け入れ難い内容もあったと思われますが
それでも、毎回「明日を楽しみにしています」と言ってくださったり、
また、どうなるのかハラハラした感じをリアルに伝えてくださったり(これは支離滅裂なほど嬉しいのですw)
読者様の感じるままを伝えてくださったり、
すべてのコメントがここまで書き上げるカンフル剤となっていました。
そして、2人のこれまでの心の葛藤を描いてくださった読者様もいて、思わず書いた私が読んで泣いてしまうという。
こんな事も初めてでした。
皆さま、ありがとうございました。

これは私の書き方なのかもしれませんが、
クライマックスで、がーっと話が展開していくには
それまでの「溜め」が不可欠だと思っていて。
そこに至るまでの何でもない会話や小さな出来事を丁寧に描かないと、最後の展開が安っぽくなってしまうような気がするのです。
なので、読者様にはある程度の忍耐力を求めてしまっていると思うのですが、いつも乗り越えてくださって
重ね重ねありがとうございます。

この数日の拍手コメント、
しっかり読ませていただいるのですが、
ネタバレになりそうで、お返事をしていませんでした。
申し訳ありませんでした。

実はもう次のお話が出来ていて
たぶん、数日後にはアップいたしますので、
またお暇な時間がありましたら是非遊びにきてくださいね。今までずっと描いてみたかった、高校生の2人です。

花粉が飛び交う季節です
私を含め、花粉症の方はがんばって乗り切りましょう

それでは、また後日お会いしましょう

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No title

百海さん、いつも夢中で読ませてもらっています。
今回のお話も毎日続きが楽しみでした。
読むと自然と情景が浮かび、『東の遊覧船』という映画館に毎晩通っている気分でした。
どんなに名声を受けても、ささやかな生活の中にこそ大切なものがある事を知っているという所が、
現実世界のユノとチャンミンに似ていると思いました。
いつもありがとうございます。
また百海さんの小説を読ませてくださいね。

No title

百海さん最終話までお疲れ様でした*ˊᵕˋ*今までのお話とは雰囲気が違ってて少し戸惑いましたけどちゃんと付いてきましたよ~︎︎ ⤴︎︎最後は必ずHAPPYEND、、それを信じてなければ少し暗くて辛かったかもです(´O`)次のお話までまたしばらく寂しいな…と思ってたら もう次が書けてるとのこと!嬉しい!︎︎ (o´艸`)高校生か~感情移入が難しそうだなぁ(笑)楽しみに待ってますね♡

ユノ

おかえりなさい!
これからの二人の生活を思うと苦しかった時間の分、穏やかで幸せな日々が続くんだろうなぁとユノに抱きしめられているチャンミンが目に浮かびます。
いつも本当に心に響く作品をありがとうございます!
次回作の高校生めちゃめちゃ楽しみです♪

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m****koさま

こちらこそ、最後まで読んでいただいてお疲れ様でした。真っ直ぐすぎるが故に環境に染まりやすいチャンミンでしたが、根っこは素直なままでした。ユノを愛する気持ちが少し別の方向へ行ってしまい、気づくのが遅れましたね。新しいお話もよらしかったら楽しんでくださいね。コメントありがとうございました。

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yu****iさま

コメントありがとうございます。
人が愛のために狂気に走るって、常識ギリギリのところじゃないと
美しくないので、描くのはとても難しかったです。
でも純粋すぎるが故、狂気に走ってしまうと思うので
とても切ないですね、でも美しい…
そこを行ったり来たりしていますwwwww

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