プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

初恋 1



「初恋」なんていう言葉があるのなら

それは僕にとってはユノだ


今もその名前を呼んでみると
胸の奥がギュッと痛くなる

僕はあまりにも幼くて

自分の気持ちをどうしていいか
わからなかった

それが一世一代の恋だと気づいていたのに
僕はなぜ素直になれなかったのだろう

「初恋」は実らないと言うけれど
たしかにそうだ。


甘く儚いイメージとは程遠い

いまでも心を囚われて動けない

僕の「初恋」は儚くも甘くもない

ただ鉛のように重く心にずっしりと居座る

まだ何一つ消化されずに
僕の中に残る「初恋」

もうとっくに散ってしまっているのに。


ユノが僕の中で甘酸っぱい思い出になることなんて
あるのだろうか。





救急病院の宿直当番
近隣の病院の医師たちが交代で担う

今夜の当番であるシム・チャンミンはコンビニで買って来たパンを誰もいないロビーで食べようとしていた。

急患が来ない内に食事をしておきたい。

そこへ警備員が入ってきた


「え?もしかして、チャンミン?」

警備員の男は人懐こい笑顔でチャンミンに笑いかけた

「チャンミンじゃないか?」

「ドンへ?!」

「久しぶり!って何年ぶりだよ」

「ドンへ変わらないなぁ」

「やっぱりチャンミンは本当に医者になったんだな」

「いやいや浪人したり遠回りしたけど。
それにしてもびっくりだなぁ。
ドンへはこのエリアに勤務してるの?」

「赴任してきたばっかりなんだよ」

「そうだったんだ。」

「今夜は宿直か」

「そうそう。結構、重労働」

「うん、金曜は急患が多いらしいよね」

「いつも3人くらいほしいんだけどね」

「今日はちょっと忙しくなるから」

「そうなの?」

「金曜でしょ?」

「あ、うん」


そうはいっても、今日この時間はまだ急患はない

「ねぇ、チャンミン」

「ん?」

「あーえっと、いや、なんでもない」

ハハハとドンへは笑ったけれど

聞きたいことはわかってる


「ユノ…のこと?」

「ん?ああ、いや、なんとなくね。
俺もさ、引っ越したからなんとなく疎遠になっちゃって」

「会ってない。高校卒業してから偶然1回会ったけど
それからもう何年も会ってない。」

チャンミンは薄く微笑みながらも、下を向いてしまった

「そうか、いや、悪かった。こんなこと聞くべきじゃない」

「いいよ。聞いて当然」

「チャンミン、結婚は?」

「してない。ドンへは?」

「同じく独身」

「なーんだ、同じ。
ドンへ、カッコいいのにね」

「チャンミンだって、メチャクチャかっこいいじゃないか」

ふと

ドンへには打ち明けてもいいかな、と思った。

そう思わせる温かさがこの人にはある。

昔も話を聞いてもらったことがある


「僕ね…」

「ん?」

「こんな事言うと、バカだと思われるかもしれないけど」

「ん…」

「ユノの事、忘れられなくてさ」

「もう、15年以上たつんだぞ?」

「それでも、やっぱりユノなんだ」

「そうか…なんかそれ聞いて…安心したな」

「えーなんで?」

チャンミンは照れくさそうに笑った。



その時だった

急患の連絡が入って、パク先生が部屋に入ってきた

「シム先生、急患!」

「あ、はい」

救急車から連絡がはいった

「国道で車3台の玉突き事故。
1名お願いします」

「はい」

「出血が多くショック状態。
すでに心配停止」

ドンへも入り口へ向かった


「名前はチョン・ユンホ、32歳、男」


え…

待って…よ

たった今、その名前の人を
忘れられないと話していたのに


いや、同じ名前の男なんて…たくさんいる

チャンミンはかぶりを振って、準備をした

でも

ストレッチャーに乗って運ばれてきたチョン・ユンホは

間違いなく…

チャンミンの忘れられないチョン・ユンホだった


そんな…

気が動転して、思うように手が動かない

なんで、ユノが…


細面で整った顔立ちは昔のまま

凛々しい眉にスッキリした目元

事故で運ばれて来たけれど
顔はきれいで眠っているとしか思えない

元々が美形で、それが昔より大人びた感じが魅力的だった。


心肺停止だなんて

チャンミンは事実を受け止められず
身体がガタガタと震えだした

身体に力が入らない

しっかりしなきゃ

みんながスピーディに動いている

「シム先生、大丈夫?」

看護師が心配している

「えっと…はい」

パク先生が動けないチャンミンの肩を叩いた
ハッとして、チャンミンは我に帰る

「まさか、知り合い?」

「あ…実は…はい」

「ここ、俺ひとりでいいから。
知り合いなら、家族に連絡してやって
たぶん、こりゃダメだよ」

そんな…

チャンミンはよろけてしまう

「やるだけのことはやるから!しっかりしろ」

「あ、はい…」

気づかない内に涙が出ていた

「シム先生、同乗者が運ばれてくるからお願いします」

「あ、はい!」

ユノの同乗者だという男性が運ばれてきた

とは言っても、肩から血を流しながら
ストレッチャーを使わずに、自分で歩いてきた

若い男だ

ボロボロと泣いている

「ユノさんは!!どうなんですか?!」

「今、治療室です、あなたはこちらに」

看護師に誘導されて、男がチャンミンのところに来た

肩口を切っているだけで、縫合だけで大丈夫そうだった。
泣きじゃくって縫合どころではなく
止血だけしている

ユノの事で動揺が隠せないチャンミンを他所に
看護師が同乗者のところに来た

「チョン・ユンホさんのご家族に連絡をしたいのですが
わかりますか?」

「えっと…弟がひとりいます…」

男は嗚咽をこらえて、絞り出すように話す

「弟さん、お一人?奥さんやお子さんは?」

「いません」


妻子はいない…

ユノは結婚していなかったんだ…

弟って、テホ君か…

テホ君…

チャンミンは気を取り直して
自分の頬を叩き、気合いを入れた

助けなきゃ…ユノを


ユノは心臓に電気でショックを与えられている
電極を充てる度に激しくベッドが畝るのを
チャンミンは見ていられなかった

程なくして、ユノの弟、チョン・テホがやってきた
ユノが危険だと知らされてきたのだろう
目に涙を浮かべて走ってきた

「あ…え?シム先生?なんで…」

「テホ君…」

その時、パク先生が治療室から出てきた

「ご家族の方?」

「あ、はい」

「手は尽くしましたが、残念です」


「そんな…」


「もうすぐ器具を外します、
会ってあげてください」


病室に入って行くテホの後ろ姿を
チャンミンは茫然と見つめていた


ユノ…

僕は、あなたの最期を見届けるなんて
なんて残酷な…初恋の終わり方なんだろう



………15年前



教室の窓から葉ばかりになった桜が見える

これから若葉の季節がはじまろうとしていた。



「じゃあ、自分で自己紹介してね」

ハキハキとした気の強そうな女教師キム教諭に促され
チャンミンはモジモジとしながら壇上に立った。

「あ、今日からこのクラスで一緒に…あの
勉強させていただく…シム・チャンミンです」


「させていただく、だってー」
「でも、可愛いよ」
「背が高いよね」

女子たちのヒソヒソ声が聞こえる

男子はみんな物珍しそうに見ている


転校するのは仕方ないとしても
毎度この時間だけは慣れることができない

母子家庭のチャンミンは
母の仕事が変わる度に転校していた。

さすがに高校になれば転校はないかと思っていたけれど
しかももう2年生なのに。


「シム君の席は一番後ろ、チョン・ユンホの隣…と、
ちょっと待ってね」

示されたチョン・ユンホは机に突っ伏して豪快に寝ている

先生はニッコリ笑うと、一番後ろの席までスタスタと歩いて行き、いきなり、チョン・ユンホの頭を叩いた

「いてっ!なんだよっ!」

「いい加減に起きなさいよ
隣に優秀な転校生が来たからよろしくね」

チョン・ユンホは寝起きの顔を上げて
チャンミンをチラッとみた

チャンミンはユンホを見て、ドキッとした

細くてすっきりとした顔
鼻筋が高く、凛々しい眉と綺麗に切れ上がったアーモンド型の瞳が絶妙なバランスを保つ

長めの前髪がパサリとひと束落ちる

この学校の制服はブレザーとグレンチェックのスラックス、白いワイシャツにエンジのネクタイというスタイル

けれどユノと来たら、規定の白いシャツもネクタイもしていない。ブレザーの中は白いTシャツだった。

突っ伏している腕は筋張っていて
綺麗に筋肉がついている。

鍛えている腕だった

寝起きでぼんやりとチャンミンを見つめる黒目がちの瞳

「シムくん、お隣さんはユノよ、チョン・ユンホ、
勉強は教えられないだろうけど、面倒見はいいの」

「なんだよ、勉強だって教えられるさ」

前の席のドンへがクスクスと笑う

ユノはドンへの椅子を後ろから蹴った

「なんだよっ!お前まで」

「悪い悪い…でも、面倒見はホントいいから
少しウザいけど」

ゲラゲラと笑いだしたドンへの椅子を
ユノはもう一度蹴った

あーあ、なんだか

こんな人の隣なんていやだな

校舎の外は春の花が咲き乱れているというのに

シム・チャンミンの心には
寒い風が吹いていた


ユノは本当に第一印象の悪い男だった






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百海です。

少しお時間いただきましたが、本日また新しいお話がはじまりました。

高校時代のユノとチャンミンです。

「初恋」なんて古くさいタイトルなのですが、
されど初恋、なのです。

少なくともチャンミンにとっては
その後の人生を左右するほどの初恋

どうか最後までお付き合いいただけたら、と思います
どうぞよろしくお願いします


前回のお話のコメントにまだ全てお返事していなくてすみません。ゆっくりとお返事しますねw
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