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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束 36



「ユノ、僕はユノと一緒だからね、忘れないで」

「………」

「いろいろ思うことがあるかもしれないけど
全員を引き連れて歩くことはできないよ」

「わかってる」


ユノの細い顎のラインが外のネオンを背景に浮かび上がる。

低く優しい声

ユノは優しすぎるんだ
全部自分で背負ってしまう

だから、僕が悪者になってあげなきゃいけない

チャンミンはそんな風に思っていた。

捨てなければいけないものを
ユノは優しいから捨てられない

だから、僕が悪者になるよ


「僕がトレスタへ移る条件は、ユノと一緒ってことだから」

「そこまで話がいっているとは思えないけど。
正式にオファーがあったわけじゃないし」


「いや、ギルさんもユノと一緒でって言ってるから」

「………」

「ユノは…僕と一緒にいたくないの…」

「いや、俺は…お前と一緒にいる」

チャンミンは優しく微笑んだ

「でも、辛そうだよユノ。
アンティムを捨てるって思ってるんでしょ。
かつての自分と同じことをするんじゃないかって」

「……アンティムももう、そこまで新人でもない」

「ユノは…優しいんだよ」

「そんなことないよ」

「ううん、優しい」

「俺は…弱いんだ」


そう言ってユノがチャンミンの手を握る

チャンミンはユノの手を握り返して言った。

「僕は案外強いよ」

ユノは笑った

「知ってる。お前は強いよ」

「だから、たまには僕にユノを守らせて」

「いつも…守ってもらってるよ。
お前がいれば、俺はなんにも怖くないんだから」

「それはよかった!」

「だけど、今回のことは、俺が悪い」

「違うから。悪いのは事務所」

「……」

「移籍の事でユノがギルさんと話をする時は、必ず僕を同席させて」

「わかったよ」


翌日、チャンミンの契約書を確認することも必要だったけれど、ユノはアンティムのことが気がかりだった。

ユノはひさしぶりにメンバー4人に店を予約してランチをご馳走した。

なんだかんだと楽しく話をしながら
昔の話になり、そしてスンホの話になった。

メンバーで一番年長のリーダーが聞く

「で、結局どうなったの」

「ん…初犯ってことで、執行猶予がついたよ。
でももう、芸能界はダメだろうな」

「仕方ないよ」

リーダーがあっさりと言った。
意外だった

「俺たちを捨てていったんだ。
それでこんなことになったって自業自得でしょ」

「強くなったね、お前たち」

「ユノヒョン、僕たちはヒョンが思っているより
うんと強いんだよ」

「頼もしいな」

「だから、僕たちのことはもういいから。」

「なにがいいんだ?」

「チャンミニヒョンをここから連れ出してあげて」

「……」

予想もしなかった言葉だった

「何が言いたい?」

「チャンミニヒョンはここにいたら、ダメになる」

「……」

「みんなそう言ってるよ。
僕たちのことは気にしないで。」

「誰か、何か言ったか?」

「お見舞いの挨拶に行ったら
珍しくね、チャンミニヒョンが怖い顔してさ」

「怖い顔?」

「ユノヒョンがこれからどういう決断をしたとしても
恨むなって。チャンミニヒョンのせいだからって」

「チャンミンが、お前たちに言ったのか?」

「そう、いつもヘラヘラ笑ってるのにさ」

ユノとリーダーの話に、無邪気なマンネが割り込んで来た。

「チャンミニヒョンのこと、みんな性格悪いっていうけど」

「おい!」

リーダーがたしなめた

「だけど、チャンミニヒョンは僕たちに優しい。
いつも困ったことはないか聞いてくれるし
歌のアドバイスもしてくれる。」

「チャンミンは歌のアドバイスなんて…してたのか」

「この事務所はそういうレッスンがないからねって」

「そうか…」

「チャンミニヒョンがね、ユノヒョンは僕達をとても大事に思ってるって」

「………」

「ヒョン、僕達だってユノヒョンのことが大事だ。」

「なに言うんだよ…生意気だな」

ユノは笑いながらも下を向いてしまった。

「だから、僕達はもう自分たちでいろいろと考えられるから大丈夫」


ひよっ子だったアンティムのメンバーは
いつのまにか、大人になっていた。


いつまでもアイドルはできない。

でも、この子たちはきっと、いつか自分たちのやりたいことをきちんと見つけ、上手く歩いていけるんだろうとユノは安堵した。

「ありがとう…な。」

「僕たちね、逆にスンホには感謝してるんだ。」

「感謝?」

「僕たち、昔はスンホに頼ってた。
あんな形でいなくなったけど
それで僕達は絆も生まれて、4人で頑張ろうって」

「うん、それでここまで来れたようなところもある」

「それぞれ、しっかりしたしね」

「俺がどうなろうと、お前らは大丈夫そうだな」

「チャンミニヒョンによろしくね」



チャンミンは手の火傷のせいで、数日間、仕事はキャンセルとなった。

突然やることがなくなって、それでも家にいるのもつまらなくて、
思い切ってチャンミンは散歩に出た。

硫酸事件のことはテレビをつければどこでもやっている。

でも、入院していることになっていたから
マンションの近くにはファンもマスコミもいなかった。

チャンミンはキャップを被り
その上からパーカを被り外へ出た。


******


その頃ユノは、ジン・コーポレーションにいた。

ジンと対峙するユノ。

「ジン、チャンミンに契約期間を確認させてないだろ」

「人聞きの悪いこと言うなよ、ちゃんと読んで聞かせたさ。弁護士だって同席してたよ」

「あの悪徳弁護士が一緒だったのか」

「おいおい…少しばかりウチに有利にしてくれる
敏腕弁護士さんだよ」

「チャンミンにも俺にも5年なんていう意識はない。
ジンを信じて契約は任せたんだぞ」

「みんなで仲良くやっていけば問題ないじゃないか。
5年契約の何がいけないんだ」

「1年で、その先はチャンミンに決めさせる約束だ」

「だから!歌手としてやっていこうって決めてんだろ
それこそ、移籍でもしないなら問題ない」

「ジン」

「なんだよ」

「俺とチャンミンはこの事務所を出る」

「お前…」

ジンの手が震える

「ユノ、お前はどれだけ恩知らずなんだ…」

「チャンミンは俺たちの事と関係ない」

「お前はチャンミンと出会ってから変わったよ」

「ジンもな、チャンミンが売れて来て変わったよ」

「残念ながら、移籍するなら4年後だな」

「ここにいたら、チャンミンに4年後はない」

「トレスタに行こうっていうのか」

「どこに行くかはこれからだ」

「今なら、高値で取引できるからな。
ユノも商売上手になったな」

「………商売?」

「とにかく、残念ながら法的に契約違反だ」


ユノが突然ジンの襟首を掴み上げた

「卑怯だぞ、ジン」

ユノがジンの至近距離で低く呻く

「お前もな、ユノ。
俺はお前とテソンと、3人でいつかギルを見返してやろうと思ってた。
1人でなんだよ。俺たちを裏切りやがって」

「チャンミンの契約書はどこだ?」

「ここにあるわけない。へへっ言うかよ」

ユノはジンの首を締め上げた

「うっ…」

「言えよ」

ユノの瞳はいつものユノではなかった

「ここには…控えしか…」

「元のはどこにあるんだ」

「苦しい…殺す気かよ…」

「控えしかないってことは、
原本は弁護士のところにあるんだな」

「だったら…なんだって…言うんだよ…」

「ここで契約書を書け
日付を去年にして、1年の契約書を書けよ」

「なんだっ…て?」


ユノがユノではなくなっていた…

チャンミンを守るためだけの魔物になっていた

ユノはデスクにあるペーパーナイフをジンの首元に突きつけた

「1年の契約書を書け
やらないなら、このまま本当に刺してやる
あとは弁護士を脅せばいいだけだ」

「ユノ…おまえ…」


ユノの瞳が尋常ではない

ジンは本当に刺されると思った



*********


チャンミンはずっと前にバイトをしていたコンビニに立ち寄ってみた

レジを覗くと、いつも一緒だったパートのおばちゃんがいた。

「こんにちは。」

「いらっしゃ…えっ?まさか!」

「おひさしぶりです」

「チャンミンじゃないのっ!」

「元気そうでよかったよ、おばちゃん」

「何言ってんの!あんたケガしたってテレビで…」

「そう、だから仕事休み」

「もう、涙でちゃうわ、ここに来てくれたなんて」

「大袈裟だなぁ」

「あの頃はよく廃棄のおかずをあたしと取り合いしてたけど、もうそんな必要もなくなったのね」

おばちゃんはしみじみと言った。

懐かしい

なるべくユノが好きそうなおかずが
今日は残ってくれるかどうか…

毎日の悩みと言えばそんなところで

夜になれば駅のコンコースでユノを思って歌う日々

高級店のコース料理もブランドの服もなかったけれど
とても充実した毎日だったような気がする。

ユノが今の住まいを変えたくないっていうのは
こういう気持ちを忘れない為なのかもしれない。


ユノはその頃、
長年連れだったジンをナイフで脅し、
チャンミンの契約書を偽造させていた。

「ユノ…お前、こんな取り返しのつかないことして…
わかってるのか」

「わかって…ないかもしれない…」

ユノの心には何もなかった

後先を考える力もなかった。



コンビニのおばちゃんと談笑しているチャンミンと

かつての仲間を刃物で脅しているユノ


時を同じくして、あまりの対極にいる2人を
神の瞳にはどのように映るのか…

誰にもわからない





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