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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束 35



チャンミンは毎日ユノに移籍の話をし、

ユノは毎日、ジンにチャンミンの希望を通すよう説得した。

「ユノ、アンティムを見てみろ
あいつらなんて自主レッスンだぜ?
チャンミンもいろいろやりたいなら自分でやればいい」

「アンティムは俺がダンスをみてやってるんだ。
もう少し、育てる方にも金をかけないと絶対ダメだ」

「今はそんな余裕はないね。
他のデカイところと比べてもらっちゃ困る」

「じゃ、セキュリティだけでもどうにかしてくれ
チャンミンくらいファンが多くなるとアンチも増えるんだよ。ジンはSNSを見てるか?」

「わかってるよ。脅迫めいた手紙やメールだってきてるさ」

「だったら!尚更!」

「そんなのいつの時代だってあるさ。」

「ギターの弦の件だってあるし」

「急にあれだけ売れたんだ。
本番直前に意地悪されるなんて、日常茶飯事だぞ」

「次は何をされるかわからないじゃないか」

「あーもう。この話まだ続くのか?」

「セキュリティを強化してくれるまで言い続ける」

「はいはい、来期には考えとくよ」


話にならなかった

移籍だなんて、チャンミンが言いだすのも無理はない

でも、自分はここでジンと頑張ってこそ意味がある。
そこは揺るがないはずだけれど

せっかく登った頂点
チャンミンを不安にさせたくない
そんな思いと

ここ以外に、自分の場所はない
そんな覚悟の狭間でユノは苦しんでいた。


そんな矢先に事件は起きた。


その日チャンミンは比較的小さな会場で行われる
フェスティバルに歌手として出ていた。

ユノに買ってもらったお気に入りのギターで
2曲披露することになっていた。

他にめぼしいアイドルもいなかったせいで
アリーナ前方は熱烈なチャンミンのファンで埋め尽くされていた。

1曲目が終わり、少しトークをして
2曲目に入ろうとしたその時だった。

前方のファンの塊の中から
1人の女の子が飛び出してきた

ユノが先に気づいた

女の子の視線は睨みつけるようにチャンミンを凝視している。

普通じゃない

まずい!

チャンミンは舞台下に出てきた女の子にまったく気づかない。

それは、ほんの一瞬の出来事だった。

ユノが舞台下に飛び降りるより早く

その女の子が、手に持っていたガラス瓶の液体を
チャンミンに向かって勢いよくかけた

チャンミンは自分に向かって飛び込んできたものが
液体だとは咄嗟にわからず

思わずギターを庇った

「熱い!!!」

ギターを庇うチャンミンの手の甲にその液体がかかると
チャンミンが思わず呻いた

手の甲が焼けるように熱い

火がついたのではないかと思うほどの熱さ

チャンミンはギターを落とし、
その場に崩れ倒れた

会場が騒然となった。

女の子はまわりのファンと駆けつけた警備員に取り押さえられ

ユノが舞台に飛び乗った

「チャンミン!!!」

右手の甲を押さえ、横向きに倒れているチャンミン

観客の悲鳴が会場内に轟く

「救急車呼べ!早く!」

ディレクターが叫ぶ中

ユノはチャンミンを抱き起こした

「チャンミン!」

「熱い…熱いよ、ユノ…」

見ると、チャンミンの手の甲が赤く爛れている

「誰か水を持ってこい!」

ユノが叫ぶ

「何やってるんだ!だれか早く水!」

チャンミンの顔が苦痛に歪む

「チャンミン!大丈夫だから!な?」

やっと誰かが水を持ってきた

「救急車はどうした?!」

「今、呼んでます!」


ユノはチャンミンの手の甲の下にタオルを敷いて
ゆっくりと水をかけて、かけれられた液体を流した

「救急車が来ました!」

ユノは思わずチャンミンを横抱きに抱き上げ
舞台そでから非常口へと走った

みんながびっくりして道を開けた

担架を持った救急隊員に出くわし
ユノはチャンミンを担架に乗せた

「私も乗って行きます!」

「お願いします」

狭い救急車に乗せられて
チャンミンにいろいろな処置が手早く施されて行く

無線でやりとりする声

やがて発車と共に鳴り響くサイレン


チャンミンは苦しそうだ

「大丈夫か?チャンミン!」

「…ユノ…」

「もう大丈夫から、安心しろ」

「…ギター…は?」

「きっと大丈夫だよ。お前が身を呈して守ってくれたから」

「ごめん…せっかく買ってくれたのに…」

「チャンミン…」

ユノは脂汗をかいているその額を撫でた



***********


夜の救急病院、誰もいないロビー

非常口を示すグリーンのライトだけが際立つ


ユノはひとりベンチに座ってボーっとしていた。

チャンミンの手にかかったのは硫酸だった。

アンチによる行為。

取り押さえられた女の子は警察に連行された。
普段からSNSで異常な言動が目立っていた少女だった。

訴えるとか、そういう話の段階ではなかった。

チャンミンの手の甲は化学火傷を起こしていて
おそらく痕が残るだろうということだったけれど
引き攣れて動かない、というようなことはなさそうだった。

それでも…

チャンミンを守りきれなかったユノは
誰もいないロビーで自分を責め続けた

あれだけセキュリティが甘いとわかっていたのに
なんで早く動かなかったのか。

俺がこだわり続けたからだ

この事務所に留まり成功することが
かつて自分を捨てたギルや世間への復讐だと

俺はそんな自分勝手な復讐劇に
チャンミンを巻き込んだ。

純粋に路上で歌い、幸せに生活していたチャンミンに
俺の過去を引き受けさせてしまった

その一途な愛に俺は甘えて
自分の弱さをさらけ出した

ガラスのように繊細なチャンミンは
少しずつ方向を見失い

そして、こんなことになった。
傷つけてしまった


廊下の遠くから早足で歩く音が近づいてきた。

ジンだった。

「ユノ!ご苦労だったね。今、様子は聞いたよ
仕事できるようになるまで、しばらくかかるな。」

「しばらくかかるって、仕事の話しか気にならないか」

「手の動きには問題がないって。
よかったじゃないか」

「だから、あんなに言ったんだ。
セキュリティにプロをつけろって」

「今日みたいなのは、防ぎようがないだろ」

「何言ってんだよ!トレスタなんてSNSをセキュリティがチェックしてるんだぞ?」

「トレスタ?なんでトレスタの話なんかするんだ」

「……」

「なんだ、何か話がきてるのか?」

「ジン…チャンミンを守れないなら
ここから移籍させるから…」

「は?移籍?」

ジンは誰もいない病院のロビーで大声で笑いだした。

「移籍なんてやってみろよ。
契約違反で即刻裁判だな」

「もうすぐ契約が切れる」

「なんの?」

「なんのって専属契約に決まってるじゃないか。」

「バカだな、チャンミンの契約は5年だ」

その言葉にユノは大きく笑った

「1年契約だよ、何言ってんだジン」

「5年だ。契約書見てみろ」

ユノの顔が真顔になった

「ジン、お前、まさか…」

「チャンミンのサインもあるぜ?」

ユノの切れ上がった黒曜石の瞳に深い闇と怒りが宿った。

一触即発となりそうだったロビーに
看護師が来た

「患者様はもうお帰りになれますけど」

「あ、はい」

ユノは軽く頭をさげた。

「ジン、この話は明日ゆっくり話そう」

「契約書も見せてやるよ」

「しばらくチャンミンのスケジュールは空けて」

「それはわかってる。」


薄ら笑うジンを残して、
ユノは病室に向かった。

チャンミンが手の甲にグルグル巻きに包帯をして
ベッドの上に座っていた。

「帰ろう、チャンミン」

「うん」

ユノは一緒に救急車に乗って来てしまったために
タクシーを呼んでもらい、家に帰った。


「ユノ、やっぱり僕…」

「うん、わかってる」

「え?」

「移籍しよう」

「ユノ!ほんと?」

「ああ。もうお前を守りきれない。
こんな目に合うのは耐えられない」

チャンミンの瞳が輝いている

「一緒にだよ、ね?ユノも一緒に」

「チャンミンひとつ聞いていいか?」

「なに?」

「ジン・コーポレーションと契約するとき
ちゃんと契約書を自分の目で確かめた?」

「どういうこと?
サインをする場所には、ジン・コーポレーションと契約するってことは書いてあったよ」

「契約期間や条件は?」

「それはジンさんが読み上げてくれた」

「……そうか」

「なんか…あった?」

「いや…大丈夫だ。
チャンミンは何も心配することない」


ユノは覚悟を決めた。





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