プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束 33



チャンミンのギターの弦が切れている
切れているのは1本ではない。

ユノは走ってステージの控えへ急いだ。

「ほかのギターをチャンミンに渡せ!」

「そ、それがここにあったはずのスペアのギターが
ないんです」

オロオロするスタッフ

「生放送なんだぞ!」

ユノは怒鳴った

何人かのスタッフが慌ててどこかへ走っていく

ステージのチャンミンを見ると
下を向いてピアノの前奏を聴いていたけれど
やがて顔をあげて、ギターの演奏無しで歌い出した。

ピアノの伴奏は急遽アレンジを変えてくれて
ギターなしでもいいようにしてくれた。

ピアノだけで歌うチャンミンはなかなかいい。

ハプニングではあったけれど
それを逆手にとって、いいステージになった。

歌い終わると、チャンミンは観客に恥ずかしそうに笑った

「ギターの弦が切れちゃった。
でも、レアでしょ?今日だけピアノの僕の歌」

そう言うと、会場から拍手が起こった。

ニコニコとスツールから立ち上がり
ステージから掃けたチャンミンは控えに戻るなり
強張った顔になった。

「チャンミン!」

ユノが駆け寄った

「ギターどうした?弦が切れたか?」

「誰かが切った」

「え?」

「誰かが切ったんだ。
触っただけであんな風に切れるわけない。」

チャンミンの顔が怒りに歪む

「俺が徹底的に調べる。
心配するな。二度とこんな事させない。」

ユノを見つめるチャンミンの瞳が不安そうだ。

「それに、よくやったな。
ピアノだけで歌うチャンミン、よかったぞ」

「そう?大丈夫だった?」

「ああ、後でチェックするけどきっと大絶賛だと思う」

ユノがチャンミンを安心させるように微笑む


ユノの言う通り、各SNSでチャンミンは大絶賛。

同じ歌をギターバージョンとピアノバージョンで是非アルバムにいれてほしい、というコメントも多かった。

窮地は切り抜けたものの、ユノは徹底的にスタッフを調べた。

それでも、誰が弦が切れやすいように細工していたのか
わからなかった。

疑われるジン・コーポレーションのスタッフは全て変え
新しく雇う者に対しては、その過去をよく調べた。

それからチャンミンはスタッフをあまり信用しなくなり
不安から来るその態度は傍目にはさらに傲慢に映った。

「僕の荷物を勝手に触らないで。
何度言ったらわかるんだ」

「食事をする時、部屋にいていいのはユノだけ。
他はみんな出ていって」


ある時、入ったばかりのスタッフが
チャンミンの態度にあからさまに嫌な顔をした。

「不満?何か不満?」

「いえ、不満じゃありません…」

「君さ、この世界に入って僕のスタッフになれるなんて
すごいことなんだ。
そのラッキーさがわかってたら、そんな顔できないはずだけどな」

チャンミンがスタッフを責めているところに
ユノが来た。

「チャンミン」

「ユノ…この新入りは不満そうだよ。
こういう奴がギターに細工したりするんだ」

「チャンミン、そんなこと言うな」

ユノはチャンミンの腕を引いて
廊下へ出した

「なんだよ、ユノ」

「チャンミン、いいかげんにしろ。
敵ばっかり作ってどうするんだよ」

「だって!」

「俺がいるから。細かいところは俺がチェックしてるから大丈夫だ。」

「ユノ、セキュリティのスタッフはバイトじゃなくて社員にしてよ。前にもそう言ったよね」

「ジンにも話してる。もう一回押してみるから」



チャンミンは昨年と同じく、新しいアルバムを作る事と並行して、俳優業をこなしていた。

今回の撮影は、トレスタの俳優の割合が多く
チャンミンは最初アウェー感を感じていた。

最大手の事務所に所属している、という
独特のオーラがトレスタの俳優にはあった。

何もかもがきちんと管理されていて、
先々のスケジュールまでしっかりと決まっている

休みも適度にあるのは、自分を見つめ直す時間を持ち
それはいい仕事をするために大事なことらしい。

ただ仕事を詰め込んでくるジン・コーポレーションとは
いろいろな面が違っていた。

「ユノ、それにトレスタはね、とにかくいろんなレッスンができるんだって。語学から武道まで」

チャンミンはことあるごとに
トレスタの様子をよくユノに伝える。

それを語るチャンミンの瞳は羨望のまなざしだ。

「今すぐってわけにはいかないけど
ウチもトレスタみたいにいろんな事ができるようになるはずだ」

「そうかな。ジンさん、そういう隠れた部分にはお金かけたくなさそうだよ」

「俺が説得するよ、な?」

いつになるかわからない、ジン・コーポレーションの改革。

「何を考え込んでるのかな」

そんなチャンミンに声をかけてきたのは
ギルだった。

「あ、いえ別に。ギルさん今回のドラマに出るんですか?」

「そう、チョイ役だけどね。
本当はチャンミンの役は僕がやるはずだったらしい。」

その言葉に驚いてチャンミンは顔をあげた。

「あ、知らなかった?
時代はもうシム・チャンミンだよ。
僕もそろそろ方向転換しないといけないね」

「そうやって穏やかに負けを認めるなんて
さすがギルさんですね。退き際もちゃんと計算してる」

イヤミたっぷりなチャンミンの言葉に
ギルは一瞬唇をヒクつかせたけれど

また穏やかに微笑んだ

「頂上からの景色はどう?シム・チャンミン」

「ユノと一緒に眺める景色は最高です」

「ユノはそれどころじゃないんじゃないの?」

「どういう意味です?」

「チャンミン王子を守る騎士は、何人分ものセキュリティを一人でこなしてる。」

「………」

「正直言って、ジンのところでこんなに大きくなったシム・チャンミンをマネジメントするのはムリだと思うよ。みんな言ってる」

「………」

「チャンミンのセキュリティがバイトとかってどうなの。専門会社から派遣してもらうとか、手を打ったほうがいいね。」

「………」

いちいちギルの言うことは、悔しいけれど正しい

「仕事詰め込むのもいいけど、レッスンの時間もないと、この先伸びないよ。せっかく時代の波に乗ったのに」

「そこはユノもわかっていて、これからジンさんには
相談する予定です。」

「それは、またお節介しちゃったね。
だけどね、ジンはそういうところまで視野が広くないよ。昔から見てるけど」

元同じグループだったからわかる、ということか。

「苦言をありがとうございます」

「なんだったら…」

「?」

「ここだけの話、ウチの社長もチラッと言ってたけど
ユノと2人でウチに来ちゃうのもアリだよ」

「何言ってるんですか?」

チャンミンはあまりの突拍子もない話に
目を見開いた

「いい?昔の話をまたするけれど
トレスタは元々ユノを欲しがった。
だけどあっちの社長が手放さなかったんだ。
ユノはトレスタに対しては恨みはないはずだよ」

「そんな…そんな話、ユノが受ける訳ない」

「そうかな。愛するシム・チャンミンの為を思ったら
よりいい環境に君を置きたいと思うだろうね」

「………」

「トレスタも受け入れるなら今なんだよ。
旬のうちに欲しいからね。契約は1年ごとでしょ?」

「そう…1年」

「じゃ、もう更新じゃないか。
ユノと話して見たら。事務所との間を取り持つなら
力になるよ」

「どうして?そこまでしてくれようと?」

「……ユノのためだから」

チャンミンがギルを睨んだ。

「ユノに関して、僕は何も終わってないんだ。
あいつの心からの笑顔をまだ見てない」

「……あなたに見せないだけですよ」

「それなら、それでいいけど。
ま、あとはほんとお節介。」

ハハハと声高らかにギルは笑った

「だけど、チャンミンを思ったら、ユノは移籍を考えると思うよ。もう考えてるかもしれない。
そうじゃなければ、君はそこまで思われてないってことだ」

「なんだって?」

「ユノが君を本当に愛してるなら
しがらみやプライドを捨てて、移籍すると思うよ」

「………」

「試してみたら」

そう言ってギルはその場を立ち去った。





にほんブログ村 BL・GL・TLブログへ
にほんブログ村
検索フォーム
ブロとも申請フォーム