プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束 29



ユノは走った

スーツのジャケットを靡かせて
街の中を全速力で走った


" きっと、もうすぐユノさんは僕を軽蔑することになる

だから、今謝ります

ほんとにごめんなさい…"



きっと我慢をし続け、不安だったに違いない

だから、俺の顔を見て泣いたんだ
緊張の糸が切れたように


スンホは捕まりたかったのだろう
もう、楽になりたかったのだろう

あいつの苦悩を知らなかったわけではなかったのに
俺はスンホの手を離した


ユノはスンホがいる警察署へ飛び込んだ。
事情を話し、関係者や報道陣が集まる部屋へ案内された。

トレスタ・エンターティエメントのマネージャーが
対応に右往左往している

ユノは顔見知りのトレスタの社員を見つけて、
腕を掴んだ


「なんでこんなことになってるんだよ!」

「それはこっちが聞きたいよ」

「ウチから引き抜いたくせに、なんだよこれ」

「一回、薬物所持のウワサがあっただろ?スンホ」

「ああ、だけどシロだったんだろ」

「ウチがもみ消したんだよ」

「………トレスタが…もみ消したって…じゃあ」

「テレビ局のディレクターから買ってたらしい。」

「そんな…」

「最初知らなくてさ、そんなこと。
ウチも調査不足。」

「ウチにいる時からだったのか?」

「それはこれからわかるだろうけど
ジンさんのところも気をつけた方がいい」

「………」

「知ってたんじゃないか?ジンさん。
だから、ヤバイと思ってウチによこしたのかもね」

「 は?」

「そんな怖い顔しないで。憶測だから。
それより、この後に誰が捕まるかでみんながヤバイよ」

「スンホに会えるのか?」

「会えるわけないでしょ。」

「サジ投げるなよ、頼むから」

「俺には決められないよ、悪いけど」


言われてみればそうだ

この状況でスンホに会えるわけがないし
トレスタの一社員に何を頼んだところで
どうにもならない。

ユノは冷静になって、警察署を出た。

マスコミの多さを見ると
その注目はスンホ、というよりトレスタ・エンターティエメントに集まっているように思える。

ユノは夜中、各方面と連絡をとったり
アンティムの精神状態を気にして宥めたり、
まったく寝ていなかった。

気づけば、自分の事務所を守るための行動もかなりとっていた。それも無意識に。

スンホを心配だと言いながら
保身に走っている矛盾した自分

偽善者

スンホを突き放したくせに

スンホが抜けると言ったとき、
まずはギルとの苦い記憶が蘇ったのだ。

お前もか、とスンホに思った。
そうやって、お前もギルと組んで俺を裏切るかと。

チャンミンの言う通り
俺の中にはいまだにギルが居座っているのかもしれない。

だから見捨てられたスンホが気になって仕方がないのか
まるで、あの頃の自分のようだから。

そう思うとゾッとした



チャンミンは1人、部屋でほとんど眠らずにユノを待っていた。

陽がだいぶ昇ってきたころ
ユノが帰ってきた

「お帰り」

「ただいま」

「僕がおかえりっていうの、久しぶりだね」

「……そうだな。
俺もただいま、って言うの久しぶり」

チャンミンがユノの大好きな笑顔を見せてくれている

思わず、その手を引いて
抱きしめた。

「何も連絡しなくてごめんな」

「いいよ、スンホ君のことで大変だったんでしょう」

「事務所はもう違うんだけどさ」

「でも、ずっと面倒みてきたんだもんね」

「うん…なんか、トレスタに任せられなくて」

「ユノらしい、そういうところ」

「そうか…」

ユノは苦笑した

「ユノ…」

「ん?」

「最近、ギルさんと連絡とってる?」

「……とって…ないよ?」

ユノの返事に一瞬の間があったのを
チャンミンは見逃さなかった。

「僕が嫌がるから?」

「お前が嫌がらなくても、連絡取る必要もない」

「…そう?」


なんてことない会話だった。

ユノもウソをつく、というほどでもない話
そんな風に思った。

ギルとスンホの事で連絡をとったと言ったら
チャンミンが嫌な思いをするだろうという
言わば、思いやりだった。


「チャンミン」

「ん?」

「もう眠い…」

「寝てないんでしょ?」

「お前も寝てないだろ」

「あ…」

「わかるよ、目が真っ赤。
俺を待ってたから?」

「そうだよ、ニュースで見て
ユノ、駆け回ってるのかなって」

「………」

「どうしたの?眠い?」

「チャンミン…」

「なに?」

「チャンミンの胸で寝たい」

「え?」

チャンミンはケラケラと笑った

「僕の胸?」

「うん、チャンミンに甘えたい、いいか?」

「いいよ、変なユノ」


久しぶりに2人でシャワーを浴びる。

ユノはチャンミンの髪を洗うのが好きだ。
でも、今日はチャンミンがユノの髪をゆっくりと洗った。

もう眠ってしまいそうなユノ。

そうして、2人で布団に包まった。

「チャンミン、やっぱり抱きたい、いい?」

「もう、眠りそうなくせに。
今日は僕の胸で眠るんでしょ」

チャンミンはユノの頭を自分の胸に抱え込んだ

ユノはチャンミンの細い腰に腕をまわし
その胸に顔を埋めた

チャンミンがユノのサラサラの髪に何度もキスを落とす

「抱きたいよ、したい」

半分閉じた目でユノがつぶやく

「それはまた今度ね、今はこのまま、少し寝て」

「うーん…」

意外にも長いユノのまつげ

チャンミンは聖母のように
ユノを抱き込んで微笑む

僕の…ユノ

ギルになんの電話をしてたのか
すごく気になってたけど

きっとスンホ君のことだ

大したことじゃないから
連絡をとったことも忘れてるんだろう

僕のユノ

ギルなんかに渡さない


チャンミンがもう一度ユノにキスを落とすと
ユノは静かに寝息をたてていた



テレビのワイドショーはしばらくスンホの事で持ちきりだった。
ユノは話の矛先がアンティムに行かないように多方面で動いた。

そんな中、チャンミンのライブ構成は完成し
アルバムも発売された。

プロモーションに目まぐるしい日々。

アルバムはヒットチャートを駆け上がり
ツアーの申し込みは上々。

チャンミンのチケットは幻のプラチナチケットになった。

番組をひとつこなす度に、チャンミンは力をつけていき
まわりもチャンミンをチヤホヤしはじめた。

けれど、ユノはスンホを心配し、アンティムを守ろうと必死だった。

そんなユノを誇りに思いながらも
チャンミンは寂しい思いをしていた。

チャンミンだって、初めてのツアーですごく不安なのに
今ひとつ、こっちを向ききっていないユノ。



「ユノ、いよいよ僕のはじめての単独ステージだよ」

「そうだな。ここまでよくがんばったな」

「明日は側で見ててくれるよね」

「そうしたいんだけど、チャンミン。
少しだけ遅れるかもしれない」

「どうして?」

「明日、スンホの初公判なんだ」

「……」

「ごめんな。終わったらすぐ行くから」

「ユノが行っても行かなくても、
別にスンホくんの結果には関係ないと思うよ」

「傍聴席に俺がいたら、スンホはきっと心強いと思うんだよ」

「じゃあ!僕は?!」

「チャンミン、ほんとにごめん」

「僕の初めてのツアー初日なんだよ?
僕だって心細いよ、そんな風に考えてなかった?」

「……悪いと思ってる、でも…」

「でも、なに?」

「スンホは可哀想だろ?これからどうなるのか不安なはずだ。
チャンミンはみんなが側にいてくれる。だけどスンホは…」

「僕は!ユノだけ側にいてくれたらいいんだ!」

「チャンミン…」

「誰もいなくていい、ユノだけが側で見ててくれたら
それだけで頑張れる。僕だって成功するかどうかすごく不安なんだよ」

「チャンミンは大丈夫だよ、絶対上手くいく。
今までリハーサルも全部見てきた俺が保証する」

ユノは両手でチャンミンの両手を包んだ。

「ユノは…僕とスンホ君達とどっちが大事?」

「そんなこと…聞くのか?」

「こんなこと…僕に言わせるの…?
僕だって言いたくないよ、だけど、少なくとも明日は」

「チャンミン…渡したいものがあるんだよ」

「え?」

ユノは微笑んで、玄関に置いてある大きな荷物を持ってきた。

「ギター?」

「そう、開けてみな」

「え、これ、ユノが僕に?」

「そう」

少し得意そうな顔をするユノ。

チャンミンがその包みを開けると

あっと小さく叫んだ

それは、あの初めてテレビ局に連れて行ってもらった日
欲しかったギターを弾かせてもらった。

そのギターだった。

「これ、高いのに…」

「たぶん、このツアーが終わったら
お前はこれくらいの物、簡単に買えるようになるかもしれない。
だから、その前に俺が買ってやりたかったんだよ」

「ユノ…」

「いきなり明日これを弾けというのは難しいかな」

「なんか…ユノ、ずるいよ…」

「わかってる。プレゼントで誤魔化そうとしてるって?」

「嬉しいけど…僕にこれ以上、なにも言わせないように
してるとしか思えない」

「そうじゃないよ。明日はこのギターを俺だと思って
側にいるって思ってほしいんだ。」

「……」

「チャンミン…お前には輝く未来があるけれど
スンホには荊の未来しかない。アンティムのメンバーにも暗雲が立ち込めてる」

チャンミンが上目遣いにユノを見た。

「だから、気にかけてやりたいんだ」

「……」

「最初だけだから。そのあとはずっと最後までいる。
明日はアンコールが終わったお前を舞台袖で迎えてやれる」

「……」

「な?」


「いやだ」


「え?」

「そんな切り取ったような愛情なんかいらない」

「な…」

「いやだよ。
ユノは僕のエージェントでしょう。
なんで他の事務所の子の面倒なんて見るの。
それに、アンティムはもうテソンさんが担当でしょ?」

「チャンミン…」

「ユノは僕に甘えているんじゃないの?
僕と一緒にいることは、ユノの仕事でしょう?
それを放棄することを、僕に許せと?」

「………」

ユノは絶句した

まさか、チャンミンがそんなことを言うとは思わなかった。

けれど、たしかに自分の甘えだ。

スンホのそばにいてやりたい、というのは
仕事とは関係ない。

ユノの仕事はチャンミンのマネージメント。

放棄なんて言葉を言われるとは思っていなかったけれど

でも…

「ごめん、お前の言う通りだ」

「……」

「俺、なにか勘違い…」

「お見通しだよ、ユノ」

「………」

「みんなに見捨てられたスンホくんを
ほっておけないんでしょ?
ユノの心のキズが疼くんだよ」

「違う…」

「もう、何度この話をしてるんだろうね、僕たち。」

「また、ギルの話か?」

「違うの?」

ユノはため息をついた…

「だから、もう…」

「スンホくんが逮捕された日、
僕はスタジオでギルさんと一緒だったんだ」

「ギルと?」

「ユノから電話がかかってきたよ、ギルさんのところに」

「……」

ユノは下を向いた

「ウソをつこうってわけじゃなかった。
スンホのことだったし、言えばチャンミンがイヤな思いを」

「いいよ、もう。
ちょっといじめてみようって思っただけだから。
何もないって知ってる」

「いじめるってなんだよ」

「ギターありがとう。
ユノだと思って、明日はこれでがんばる」

「チャンミン…」

「僕ね、ワガママだからさ、こうやって拗ねて困らせるけど、最後はちゃんと聞き分けがいいでしょう?」

「………」

「吐き出して終わりだから、許してね」


チャンミンの気持ちを
考えてなかった自分…

ユノは情けなかった。

チャンミンだって、寂しいのだ

父親に置いていかれた思いを
もう二度とさせてはいけないのに

前途洋々なチャンミンは自分がいなくても
幸せだと決めつけていた。

明日はやっぱりチャンミンの側にいよう

そう決心したユノのスマホが鳴った


「ジン?」

「まずい。アンティムに捜査の手が伸びそうだ」




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