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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束 23



オーディションに優勝したことで

チャンミンのまわりは少しだけ変わった。

久しぶりに路上ライブを行ってみれば
駅は人だかりができてしまい、警察が来て途中で中止せざるをえなくなったり。

コンビニでバイトをしていれば
「もしかして、先週テレビでギター弾いてたひと?」

なんて声をかけられたりもした。


そんな中、一週間はあっという間に過ぎてしまい
チャンミンは第2回戦へ進むこととなった。

ユノは今日の放送の後の段取りをいろいろと考えていた

2回戦で敗れることになっているチャンミン。

先週あれだけ喜んだのだから
きっと相当に落ち込むだろう。

可哀想に思う半面
ユノはひとまずこれでチャンミンの挑戦は終わるのだ
と心のどこかで変な期待があった。

慰めるために、どこに連れて行くのがいいのか
穏やかな気持ちになれるようなそんな場所

生憎、翌日はアンティムの大事な仕事が控えていて
遠出はできない。

落ち着いた場所で、何か美味しいものを食べようか。

そんなことを思い悩んでいるユノの肩を
チャンミンがポンポンと叩いた。

「そろそろ行かないとだよ」

「ああ、そうだな」

意気揚々としたチャンミン。

ユノの心が痛む

勝ち越せない事はなんでもないと思っていたけれど
今日になってみると、思っていたよりつらい。


局に着くと、プロデューサーが直々に控え室にやってきて、チャンミンに挨拶をした。

「この番組のプロデューサーのパクです。
今日は2回戦、頑張ってくださいね。」

「ありがとうございます。」

「私はね、チャンミン君にとてもいいものを見出しているんです。期待しています」

「はい、頑張ります」

プロデューサーはユノに目配せをして
控え室を出た。

「チャンミン、プロデューサーが直に挨拶だなんて
すごいな」

「………」

「どうした?」

「あのひと、ユノ親しいの?」

「ああ、アンティムはパクさんに引っ張り上げてもらったようなものだよ」

「だから、ユノと親しいの?」

「仕事では…親しいよ?」

「そう、なんかユノに色目使ってる」

「アハハ…そんなことないよ」

「それにね、ユノ」

「ん?」

「アンティムは、アンティムががんばって
ここまで来たんだよ。引っ張り上げてもらったなんて
そこまで言ったら可哀想だよ」

「あーそうだな。でもかなり力を貸してもらったから」

「それも、アンティムがそれだけのモノを持ってたからだよ」

「まぁ、そうだな。力を貸したくなるような、なにかをね」

「お金になりそうだって思われたんだよ、きっと」

「チャンミン…」

「ユノが守ってくれてるから、本人たちはただ一生懸命やってるけど」

意外なチャンミンの言葉だった

いつも物事を真っ直ぐに見ていると
思っていた。

たしかに十分、金は絡んでいる。

でも、そこをチャンミンが言うとは意外だった。


「ユノ、もう行こう!」

「ああ、そうだな」

「今日はユノ、控え室で待ってて」

「なんだ、客席の俺に向かって歌ってくれるんじゃないのか?」

「直前まで、やっぱり側にいてほしいんだ。
歌が始まったら、きっとなんとかなる」

「そうか、わかったよ」


ユノの眼差しは温かい

正直、とても不安で緊張しているチャンミンは
思わず、ユノの指を握りしめた

フッとユノがきれいに微笑む

控え室では、出演者が付き添いの人と思い思いに過ごしていた。

なんだ、1人で過ごしている出演者なんていないじゃないか。

「先週もみんなこんな感じだったのか?」

「うん…」

「心細かったな…お前ひとりで」

「ずっと目を瞑ってたから大丈夫」

「チャンミン…」

ユノは何かたまらない気持ちになって
チャンミンの髪を撫でた。

そのうちディレクターがやってきて
一番手の出演者に声をかけた。

チャンミンの顔に再び緊張が走る

モニターでスタジオの様子を見ているユノ

腕組みをして、睨むように見ているその姿は
凛々しくてカッコいい

チャンミンはそんな風に思い、気持ちが解れた

ユノ…

僕のことも、そんな風に見ていてね。


そして、ディレクターがチャンミンを迎えにきた。

ユノは真剣な顔で頷く

「思い切りやってこい」

「うん」

チャンミンはギターを持って、ディレクターとスタジオのセット裏で待機した。


盛大な拍手とともに、先週の優勝者として迎えられる。

「さぁ!シム・チャンミンは今週は勝ち抜く事ができるでしょうか」


手も足も震えている

大きく深呼吸をして、チャンミンはギターを弾いた


この間とは違う歌

思いを込めて歌った。

けれどそれは、ユノへ歌うそれではない

チャンミンは先週の出演でわかったことがあった。

昔、バイトが一緒だった友達、
小学校で一緒だった友達

そんな忘れていたような知人から
母のところに連絡があったという

テレビを見たと。

公共の電波に乗るとはこういうことだ。
たくさんの人がどこかで観ているのだ


だから、父さん

あなたが捨てた僕は、こんな栄誉を掴んでいる

今はもう、父さんなんか僕に近寄れやしないんだ


そんな思いで途中のサビは力強く歌えた
いつもは引っかかりそうな切り替えも上手くいった

満足に歌を終えた


割れんばかりの拍手の中
チャンミンは観客と審査員に頭を下げた

控え室に戻ったチャンミンをユノが拍手で迎える。

「あー終わった!」

「お腹すいたろ」

「うん」

「チャンミン」

「なに?」

「今日は技術的にすごく良かった
歌い方も流れの乗り方も今まで聴いた中で一番よかったぞ」

「そう?!」

「だけどさ」

「?」

「今日は…俺へ歌ってくれては…いなかったな」

「……ユノ 」

「ま、いいんだけどさ、とにかくすごくよかった」


ユノはわかるんだ

ユノにはウソはつけないね

こんなにも、僕をわかってくれて嬉しい

そう思うとユノへの想いに、チャンミンは胸が締め付けられるようだった


そして、発表だった。

出演者がみんなステージに出る


正直、今日は他の出演者があまりパッとしない。

だからチャンミンは自信があった。


なのに…


「なんと、今日の優勝はイ・ユナさん!」

えー?と両手を口にあてて驚きを隠せない
アイドル風な女の子

え?

あの子が?

チャンミンは驚いた

でも、番組が始まる前に言われた通り

誰が勝っても、他の出演者は笑って拍手するようにと。
だから、チャンミンはその子に向かって拍手をした。

なんで?
僕の方が絶対よかったはずなのに…

スタジオの観客も困惑した顔をしている。

ディレクターが慌てて、拍手をするようにと
観客席を煽った


なんて…ことだ


チャンミンはゆっくりと控え室へ戻った

ユノが慈しむような顔でチャンミンを迎えた


「残念だったな…」

「へへっ」

チャンミンは照れたように笑ってみせる。
無理をしているけれど、ショックは隠しきれない。

その姿があまりにいじらしく
ユノは耐えられずにチャンミンを抱きしめた

「チャンミンは頑張った。
お前がダメだったんじゃない」

「はぁーそんなことない。僕はダメだった」

「お前はダメなんかじゃないよ」

チャンミンはユノから離れて、控え室の椅子に座り込んだ

「ユノ、今日は僕、ユノに向かって歌ってなかったって
言ったでしょう?」

「ああ」

「ユノの言う通り。
僕ね、今日は父さんに向かって歌った」

「……」

「僕、小さい時、父さんに置き去りにされたんだ」

チャンミンは無理に微笑んで話す

「チャンミン、そんな話しなくていいよ。
それでも今日のお前は、本当によかったんだから」

「ううん、伝わったんだと思う。
今日はきっと恨み節みたいに聴こえちゃったのかもね」

「チャンミン」

「………」


「チャンミン、違うんだよ」

「なにが?」

チャンミンが不思議そうにユノを見る。

眉間にしわを寄せて、ユノがつらそうだ。

「出来レースなんだ、これ」

「え?どういうこと?」

「黙ってて悪かった…最初からチャンミンは
先週優勝して、今週は勝ち抜けないっていうストーリーだ」

「どうして?!」

「前に…俺がお前を番組収録に連れてったろ?」

「うん…」

「あの時、ギターを弾いて歌うお前を見たプロデューサーが、目をつけた」

「………」

「だけど、俺が阻止したんだ」

「………」

「阻止したってわけじゃないけど…
なんていうか…こういう世界だからさ」

「でも…僕は自分で応募したんだよ」

「そう、それが知れてしまって、是非優勝させようって」

「今日勝ち抜けなかったのも、最初から?」

「そうだ」

「どうして?」

「デビューが遅くなるからだよ」

「デビュー??」

「このまま、まっとうに勝ち抜いていったら
決戦は半年後だし」

「でも、行けるところまで行かせてくれてもいいのに
実力でいいから、やらせてくれないの?」

「いろいろあるんだよ。こういう話はチャンミンだけじゃない」

「………」

「俺は…いろんなエージェントがお前に目をつけないうちにと…ウチと契約させたんだ」

「………」

チャンミンがユノを見上げた

「それは…ユノが僕を他のエージェントに渡したくないから?」

「そうだよ…勝手なことをしてると、俺はわかっていたけど…」

ユノはつらそうに天井を仰いだ

チャンミンはそんなユノをじっと見つめた

「わかっていたけど、なに?」

「お前を他にやりたくないに決まってるだろ。
俺から離れるなんて…しかも芸能界になんてさ。」

「………」

「デビューしたいかどうかだって、その時にならないとわからないし…外野に騒がれるのも嫌だった。」

「………」

「芸能界に入るかどうか、お前には静かに考えてもらいたかったし…」

少しイライラしたようなユノの真剣な顔が
チャンミンにはたまらなかった

「そう思ってくれたならいいよ、嬉しい」

「嬉しい?」

チャンミンはユノの予想に反してふんわりと笑っている
俺が嵌めたようなものなのに、怒らないのか。


「僕を手放したくなくて、契約とか勝手にいろいろ決めたなんて嬉しいよ」

「お前は、俺に束縛されるのが好きだね」

「そうだよ?今まで気づかなかったの?」

「なんとなく…気づいてた」

ユノも苦笑した

「フフ…いいよ、ユノ 、ありがとう」

「礼を言われるのも、変だけど…」

「で?僕はこの後どうなるの?」

「プロデューサーからデビューの話があるよ、きっと」

「ふうん」

「でもな、チャンミン、即答しなくていい。
これは大事なことだ。デビューするかどうかは
よく考えてから決めるんだ」

ユノが言い聞かせるようにチャンミンに話していると
早速、プロデューサーが控え室にやってきた。

「シム・チャンミンくん、今週は残念だったね」

チャンミンは立ち上がってお辞儀をした。

「今、ユノから事の次第を全部聞きました」

「おお、そうだったか。
それなら話は早い。なんか騙したようで悪かったけど
要は早々にデビューしないかってことなんだよ」

「………」

「即答しなくていいけど、悪い話じゃないよ」

「………」

「今ね、君みたいにギター弾いてソロでってアーティストはいない。新鮮なんだよ、わかるよね」

「ありがとうございます」

「前向きに考えてほしいな。
もちろん、ユノさんと相談してさ」


「やります」

「チャンミン!!!」

ユノが慌てた

「え?ほんと?話に乗ってくれるの?」

「お願いします」

チャンミンは頭を下げた


ユノが驚いた顔でチャンミンを見ていた





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