プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束 18



楽しい時間に終わりを告げ、ユノとチャンミンはホテルをチェックアウトした。

「チャンミン、ロビーの横に美味しいコーヒーが飲めるカフェがあるから、そこで待ってて」

「ユノは?」

「今、チェックアウトしてから行くから」

チャンミンに支払うところを見せたくないユノの配慮だった。

「わかった」
それを汲み取ったチャンミンは、1人でカフェに向かって歩いて行く

ユノはフロントでカードで支払いを済ませる。

「ユノ」

ふと、その背中に誰かが声をかけた。

振り向くと、そこにはサングラスをかけたギルがいた。
側には綺麗な女性を連れている。

「ユノ、ここに泊まってたの?」

そう言ってギルは誰かを探すように辺りを見渡した。

「ああ、そう。チャンミンの誕生日でね」

「へぇ、なるほどね」

「じゃあ」

ユノは連れの女性に軽く会釈をして
ホテルのフロントを離れようとギルとすれ違ったその時


「オーディション頑張るように伝えて」


その言葉にユノが振り返った

「なんだって?」

「ユノの可愛いチャンミンは応募したんだろ?CBCの新番組」

「なんで知ってる?
まさかプロデューサーも知ってるのか?」

ユノはギルの襟首を掴み上げそうな勢いだ。

「おいおい、そんな怖い顔するなよ。
いい事じゃないか。シナリオはすでに出来上がってるさ」

「勝手なマネはさせない」

「勝手なマネ?チャンミン君はもうジン・コーポレーション所属か?」

「チャンミンはオーディションを受けてみるだけだ。
その先の話は別だ。」

「ま、せいぜいがんばって」

「おい、待てよ」

ユノがギルの腕を掴むと、不穏な空気を察した女性が先に部屋に行くと言って離れた

「ユノ?」

その声にユノが振り向くと、チャンミンが不安そうな顔をして立っていた。

「チャンミン…」

「チャンミン君、こんにちは」

ギルが意味ありげに微笑む

「チャンミン、カフェで待っててって…」

「何してるの?2人で」

ユノの言葉を遮るチャンミンの目が怒りに満ちている

ギルがニコニコと微笑む

「お仕事の話だよ、チャンミン君。
口説かれてるわけじゃないから、そんなに怖い顔しないでよ」

チャンミンがギルを無視してユノを睨む

「ユノ、美味しいコーヒーを飲むんでしょ?」

チャンミンがユノの目の前まで歩いていき
その至近距離からまっすぐにユノを見つめる

ユノは安心させるように、チャンミンの肩をさすった。

「そうだよ、行こう」

「じゃあね、お2人さん、今度会場で」

ギルはわざとらしく手を振った

ユノはチャンミンの背中に手を添えて
カフェの方へ歩いた

「会場って、なんのこと?」

「ああ、チャンミンがオーディション受ける話を
したんだよ」

「そんなこと!ユノ 言わないでよ」

「ごめんごめん」

「あの人に関係ない」

「そうだな…」

「口説かれてるわけじゃないから、なんてさ、
口説いてるわけじゃないから、の間違いだよ」

「アハハハ…確かにそうだ。
俺が口説く訳ないし、大いなる勘違いだな」

「そうだよ」

「さあ、コーヒー飲もう、
何かケーキも食べていいんだぞ」

「ほんと?」

「ああ、いいよ?なんでも好きなもの頼んで」


**********


オーディションの日

各地で順番に行われている「明日を夢見て」の予選。

チャンミンはユノに連れられて会場へやってきた。

たくさんの、それこそ " 明日を夢見る " 若者たちで会場は溢れかえっていた。

チャンミンはひどく緊張している。

ギターケースを抱きしめて
広い控え室のベンチに座っている

ユノはペットボトルのジュースを買ってきてやった。

「チャンミン、すげー怖い顔」

「だって…もう心臓が口から出そう」

「いつも駅前のコンコースで歌うような、
あの感じでいいんだよ」

「えーやっぱり全然違うよ」


その時、大きな瞳が印象的な男が近づいてきた
その後ろには年配の女性を連れている

ユノはその女性を見た瞬間、チャンミンの母親だとわかった。それくらいチャンミンとよく似ていた。

男の方はチャンミンを見て、ニコニコと笑っている。

「ねえ、チャンミン。
誰か知ってる人じゃないか?
っていうか、あの方、お母さんだろ?」

「えっ?」

俯いていたチャンミンが顔をあげた

「キュヒョン!母さん!」

チャンミンの顔が輝いた。

「チャンミナ!」

母親がチャンミンを抱きしめる

「母さん、いつこっちへ?」

「今朝よ、あんたがいよいよオーディション受けるって
キュヒョン君に教えてもらって」

「そうか、キュヒョン、ありがとう」

「いや、お前からは言わないんじゃないかと思ってさ」

「まあね、どうせ落ちるから」

「何言ってるの、この子は。
受ける前からそんな事言わないのよ」

キュヒョンがチラッとユノを見て、チャンミンに耳打ちした。

「あの方、ユノさん?」

「あ…」


一歩後ろに下がっていたユノが前に出てきた。

ユノは母親に深々とお辞儀をして
キュヒョンに会釈をした。

チャンミンは少しおどおどしている。

「あの、この方はチョン・ユンホさん。
えっと…」

「はじめまして。チョン・ユンホです。
チャンミン君のサポートをさせていただいてます」

「あら、そうなんですか。
チャンミンの母です。よろしくお願いしますね」

「僕はチャンミンの幼馴染でキュヒョンといいます」

「チョン・ユンホです。お話はチャンミンから
よく聞いてます。」

「僕もユノさんについては、ほぼすべて聞いてます」

キュヒョンがニヤニヤしている。

「え?あ、あーそうなんですか?ほぼすべて?」

ユノがそう言いながらチャンミンを見ると
チャンミンは真っ赤になって下を向いてしまった。

「チャンミンは少しお母さんたちと話したら?
俺、外でタバコ吸って来るから」

「わかった、すぐ戻ってきてね」


ユノは会場の外へ出た。

ユノがタバコをくわえて火をつけたところに
キュヒョンも外へ出てきた。

ユノは軽く会釈をした。

「僕も出てきちゃいました。
チャンミン、お母さんと2人にさせてあげようかなって」

人懐こそうなキュヒョン。

「ああ、そうですね。
チャンミン、ほとんど帰ってないみたいだし」

「ま、田舎ですしね。
ユノさんご存知でしょうけど、チャンミン飛び出してきてる感じだし」

ふと、ユノは気になっていたことを
このキュヒョンに聞いてみようかと思った。

「あの、キュヒョン君…ひとつ知りたいことがあるんだけど」

「なんですか?」

「チャンミン、お父さんとあまりいい別れ方をしてないみたいで」

「うーん、そうですね。」

「良ければ教えてくれないかな。」

「僕から話すのはちょっとなぁ」

「チャンミン、それでうなされたり
たまに不安定になることがあって…
俺がそこわかっていたら、少しは救えるかなって思うんだ」

「うなされてるんですか?」

「たまにね…」

「それはかわいそうだな…知らなかった」

「本人からは言わないしさ」

「チャンミンね、小さい頃両親が離婚して。
ま、完全にお父さんが悪くてね、女作るわ、借金するわで。浮気相手の女との間に子供もできちゃってて」

「そう…」

「で、お母さんもなんでそんな事言ったのか、
浮気相手の女と責任持ってチャンミンを育てろみたいな。ま、お母さんも女手ひとつで育てられないし」

「え?」

「それは後でお母さんすごく反省してたらしいです。
たぶん勢いでそんな話になったんだと思うんですけど」

「チャンミン、可哀想に」

「ええ、で、お父さんもチャンミンを立派に育てるとかなんとか言ったらしくて、お父さんがチャンミン連れて出て行くことになったんです」

「……」

「でも、それが…」

「?」

「すでにチャンミンのお父さんは浮気相手に愛想尽かされてて、チャンミンを引き取る気なんかない」

「はぁ?」

「ひどいことにね、あの町をお父さんとチャンミンが出て行く日、お父さん、チャンミンを駅に置き去りにして逃げたんですよ」


ユノは気づけば握りこぶしに力が入っていた。

「ずっとホームで泣いているチャンミンを
駅員が不思議がって家に連絡して…」


「そうなんだ…そんな経験をしてるんだ」


田舎の駅のホームで、小さなチャンミンが、
父親に捨てられたチャンミンがひとり泣いている

そんな姿を思うと…
ユノはなんとも言えない、たまらない気持ちが心の奥底から湧いて来た。


そのチャンミンの姿は
ギルに捨てられた自分と少し重なる

ユノは黙ってしまった
なんと答えていいか、心が震えて言葉が出てこない

怒りと…悲しみと
そして自分の心の傷も疼くような

「あ、衝撃的ですよね、すみません」

「いや、教えてくれてありがとう。
この話はチャンミンにはしません」

「お願いします」

「はい…」

「それと、ユノさん、
僕、幼馴染としてお願いがあるんですけど」

「なんですか?」

「チャンミン…あなたと出会って、ほんとに明るくて
幸せそうなんですよ」

「あーそうですか?」

ユノは照れ臭そうに笑った

「ずっと一緒にいてやってほしいんです。
あいつ、本当に純粋でいいヤツなんですよ」

「……」

「あ、そこはユノさん、わかってますよね、ハハ…」

「一緒にいますよ。絶対離しません。
もうそんな寂しい思いは二度とさせません」

「お願いします」

キュヒョンはぺこりと頭を下げた。


そして、会場にオーディションが始まるアナウンスが響いた。




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