プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束13



「ユノ、待って、ちょっと話を聞いて?」

「………」

「そのことは、車の中で話そう」

「歌手になるのに反対しないって言ったでしょ?」

「反対はしないさ、チャンミン、とりあえず車に乗ってから話そう」


地下の駐車場に降りて行き
それでもチャンミンはユノに話し続ける

「僕も、この間話したのとは
考えも変わって…」

地下の暗いコンクリートにチャンミンの声が響く

「チャンミン、もうすぐ車だから」

なぜかユノは小声で話し、チャンミンを制すしぐさをする。

「………」

ユノはキーを開けて、運転席に入った。
チャンミンも助手席に乗り込む

ユノはエンジンをかけることもなくじっとしている。

チャンミンはユノの横顔をチラッと見た。

きっと反対されるんだ

ユノは前を向いたまま、深くため息をついた。

車内が静けさに包まれる


「局内だと誰が聞いてるかわからないからさ。
声が響くし」

「あ……」

「そういう世界だ」

「………」

「チャンミンが歌手になるのは反対しないよ。
でもさ、矛盾してるけど、この世界にお前が入るのは
俺の決心がつかない」

まるで、チャンミンを自分の物のように言うユノ。

チャンミンが何かすることにユノの決断がいるのかと思うと、チャンミンの中に温かい喜びが湧き上がる

「うん…心配してくれて嬉しい」

「脅かす訳じゃないけれど、想像を絶する世界なんだ」

「うん…」

それでも

さっきのスタジオで拍手を浴びた興奮が忘れられない
見にきていたファンの喜ぶ顔も忘れられない

そして

ユノをこの汚い世界の一番高いところに連れて行きたい
ギルを見下ろすほどに

頂上はきっと空気が澄んでいて
青空が冴え渡り

下界の汚さがよくわかるだろう

でも、そんな野望じみたことは言えなかった

どうせ、そんなことチャンミンは考えなくていいと言われる。

だけど、ユノ…僕はあなたの中からギルを追い出して
2人で幸せになりたい

2人で何かを目指せたら、そして2人で力を手にできたら
僕たちは誰より強くなれる

誰にも馬鹿にされることなく、堂々と。


「今日、みんながうっとりとアーティストの歌を聴いてるのを客席で見て、羨ましくなった」

それは…事実だった

「うん」

「僕の歌をみんながあんな風に聴いてくれたらいいな」

「……そうだな」

「僕、ユノと一緒がいい。
ユノとなら、いろんな事、乗り越えていける気がする」

「アハハハ」

ユノは笑った

「チャンミンがデビューするなら、
俺がぴったり一緒にいるに決まってるだろ」

「…フフフ…じゃあ、大丈夫」

「だけど…」

チャンミンがデビューするとしたら
ユノの不安は数え切れないほどある。

ユノ自身はチャンミンを守りきれる自信がある。
いつも側にいるに決まってる。

でも、対事務所や権力のような話になると
ジン・コーポレーションは弱すぎる


「ユノ、あのね、僕なにかオーディションを受けようかと思って」

「それは遠回りだよ、チャンミン」

「そうかもしれないけど」

「この話はちょっと待ってて。
いろいろシュミレーションさせてくれないか」

「うん…」

「チャンミンの悪いようにはしないから」

「わかった。ユノを信用する。
ユノが僕にとって良くないことするはずないもんね」

「当たり前だろ」

チャンミンはコテっとユノの肩に自分の頭を預けた
硬くて丸いユノの逞しい肩

そうはいっても、チャンミンが楽しく安全に芸能界で
生きていくなんて、ユノには想像ができなかったし

勝手な事を言えば、自分の宝物を大勢の人に見せるつもりもなかった。

このまま、なんとなくの夢で終わればいいのに。


「なぁ、チャンミン」

「なに?」
チャンミンが甘えた声を出す。


「ギルになにを言われたか知らないけど

「…………」

「俺にとってギルは本当に過去なんだよ」

「ふぅん」

そんなわけない

チャンミンは信じなかった。
ユノの中にはいまだに色濃くギルが残っている。

「だから、その事は気にするな」


チャンミンはギルに言われたことを思い返すと
悔しくて泣きそうな気持ちになる


「ユノはギルに執着してるって」

「………」

フッとユノが笑った

「だからさ、さっきも言ったけど
執着してんのは向こうだよ」

「でしょ?だよね?!僕、実はそう言ってやったんだ」

「そうか…強いなチャンミン
俺の味方をしてくれたんだな、いい子だ」

「僕はユノが思っているより強いよ」

「………」

「だから、どんなことでも大丈夫」

「…わかってるよ」


そして

翌週の収録では、アンティムのファンは先週よりかなり増えていて、それは番組スタッフの間でも話題になった。

3週目になると、アンティムの名前が入ったスローガンを持つファンが出て来た。

アンティムの人気には
ディレクターも驚いていた。

ユノは番組のプロデューサーに呼ばれた。

「すごいね、嫌味に聞こえるかもしれないけど、
事務所の力よりファンの力の方が偉大だってことの証明だ」

「メンバーのがんばりだと思ってます」

「あれだね、こう、スンホが抜けたことで
みんなが卑屈になってないところがいいね」

「わかっていただけますか」

「わかるよ。ファンはそのこと知らないだろうけど
後からそれがわかれば、結構美談にもなる」

ユノとしては、そこはあまりアピールをしたくなかった。
でも、今はそんなことは言ってられない

すべてはスンホも覚悟のことだ。

「アンティムのメンバーをバラエティにどうかと
思うんだ。どう?」

「ほんとですか?」

「話してみると、結構みんないいカラー持ってて
いけると思うんだ。そっちのプロモにひっかけるならいつがいい?」

「実は次期には新曲をと考えているんです」

「じゃあ、ちょうどいいじゃない?」

「是非、お願いします」

ユノは頭を下げた。


メンバーに、やっと運が向いてきた

4人のブレない気持ちが結果をだしつつある。

ユノは感動すら覚えた。


**********


「チャンミンくん、今日はおかず、それだけでいいの?」

コンビニのパートのおばさんが気にしてくれる

「あ、はい。僕1人なんで」

「最近ずっと少ししか持っていかないじゃないの。
ずっと1人なの?恋人は?」

どうしてこうも詮索するのだろう

「…はい。仕事が忙しいみたいなんです」

「それはさみしいわね。」


仕方ないよ、アンティムが人気急上昇なんだ。

今は、僕に構ってる時間なんてない。


チャンミンは夜の道をゆっくりと歩いて帰った。

バイト先は以前はアパートから近かったけれど
今はバスに乗るほど遠い。

今日は時間をかけて歩こうと思った。

寂しいよ…

わかっているし、仕方ないと思ってる。

でも…


夜空を見上げると、藍色の空に白い月が光る
チャンミンは夜空に向かってため息をついた。

このため息がユノに届くといいのに



いつか僕が歌手になったら
2人で忙しい毎日を送るのかな

仕事の話をしたり、
仕事の合間は美味しいご飯を食べたり

派手な世界にいれば
お互いヤキモチを焼いたりすることもあるかもしれない。

きっと、僕にはユノが不可欠で
ユノは僕がいないと二進も三進もいかなくて

きっとそんな2人になれる



翌朝はバイトも休みで
ユノも相変わらず帰ってこない。

チャンミンは曲作りをしようと思っていた。

スタジオを借りたいけれど、今月はバイトを減らしたせいで、お金がない。

近所の事を考えると、部屋でギターを弾くのは憚れる。
なにしろここはユノが借りてる部屋だ。

今日は諦めるか。

なんとはなしにベランダから下を覗くと
マンションのエントランスに植えられた花がしおれかかっているのが見えた。


どこかで見た記憶のあるピンクの花

あれは…

父が踏んだ花だ


まって!

置いていかないで!


田舎の駅のホームに植えられたピンクの花

父が花壇を踏んで逃げていく
その後ろ姿がフラッシュバックする

チャンミンはぎりっと奥歯を噛んだ

大丈夫、

大丈夫だよチャンミン

僕にはユノがいる

チャンミンは自分の胸を押さえた

なぜかいてもたってもいられず
チャンミンはケトルに水をなみなみといれると
エントランスへ行った。

萎れたピンクの花の根元に、水をやった。
ケトルから出る透き通った水を乾いた土が飲み込んでいるようだ。


「すみませんね」

後ろから声がして、ビクッとしてチャンミンは後ろを向いた。

管理人さんだ

「あ、おはようございます
すみません勝手にお水あげちゃって」

「いいんですよ、昨日、私休んじゃって
萎れちゃったかなって心配してたんです」

「あ、そうだったんですか」

「ありがとうございます」

「いえ」

それから、管理人のおじさんと
チャンミンはしばらく話をした。

「じゃあ、チョンさんのところにいるんですね?」

「そうなんです。間借りっていうか」

「あの方、出来た方でね
遠いところに出張に行くとウチの家内にお土産買ってきてくれるんですよ。お菓子とかね」

「へぇ」

「若いけど、苦労した人なのかな」

「そうみたい…」

「あ、その辺はチャンミンさんの方が知ってますよね」

「ええ、まぁ」


それからギターを弾く話などをして
ふと管理人さんが提案した

「もし、よかったらここの屋上で弾いたら?」

「えっ?いいんですか?」

「昼間ちょっとなら。最上階は今誰もいないし。
内緒ですよ?」

「助かります!
鍵をお借りしたことは内緒で」


チャンミンは屋上へ出た

そこは気持ちの良い風が吹いて
ギターを弾くにはもってこいの場所だった。


大空の下でたったひとり

チャンミンは優しくギターを弾きながら歌った

ユノに会いたい

離れていると恋しくてたまらない


頼もしくて

セクシーで


黙っていると近づき難い顔立ちなのに
それが破顔すると人懐こい優しい笑顔になる

僕の名を呼ぶときの低くて甘い声


過去の傷を克服しようとするその姿

あなたのすべてから目が離せない

あなたは知らないだろうけれど
僕たちは心に大きな暗闇を持つ2人

それを埋め合って生きている
お互いなくてはならない存在なんだよ

僕がユノじゃなきゃダメなように
ユノも僕じゃないとダメだと思ってほしい

ずっと一緒にいるって約束した

側にいるって約束した


思いのたけを歌にする

そんなチャンミンの元に
キュヒョンからオーディションの話がきた






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