プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束 12



ユノはチャンミンを車に乗せて、会社に寄った

ビルの一室のドアに小さく「ジン・コーポレーション」
とあった。

チャンミンが思っていたより、うんと小さな事務所だった。

「チャンミン、中に入って」

「いいの?」

「いいさ、ほら。」

背中を押されて、チャンミンは中に入った

質素で小さな事務所

中にいたのは2人の男と、あのサリーというアイドル

3人が一斉にこちらを向いた。

男はどちらもなかなかのイケメンで
サリーは相変わらず可愛いアイドルといった感じだった。

「オッパ!」

サリーが目を輝かせた

「みんな久しぶり」

ユノが笑顔で3人に挨拶をする。

2人の男はチャンミンを見た

「ユノ、だれ?」

「俺の大事な人、シム・チャンミン」

チャンミンは思わず俯いてしまった

ユノは堂々と紹介してくれて嬉しいんだけど
やっぱり恥ずかしい

そして、とりあえず、ぺこりと頭を下げた

「こっちは、ジン。この事務所の社長だよ。
となりはテソン。俺と、この2人の3人でやってるんだよ」

ジンとテソンはにっこり笑って頭をさげた

「ユノの恋人か。うん、可愛いね」
ジンがニヤニヤとしている。

「触ったらぶっ殺す」

ユノもニヤニヤと笑った

「おぉ、こわっ!」

ジンとテソンが笑う

「こいつら、元MAD BLOODのメンバーなんだよ」

「あ、そうなんですか?」

「チャンミンくん、こっち座って、今コーヒー淹れるから」

テソンが自分の席を空けた

「あ、気を使わないでください」

「いいからいいから」

ジンもテソンもとてもいい感じだった。

きっとユノが辛い時、一緒にいてくれた人たちなんだろう。
だから、今もユノは信頼してこの人たちといるんだろうな。

「ちょっとオッパ、私のことは???」

「あ、知ってますよ、サリーさん」

チャンミンはニッコリ笑って可愛くサリーを指差した

「あー!知ってるの?うれしい!
オッパをとられたのはショックだけど
こんなに可愛い人なら仕方ないなー」

サリーは椅子に座って足をブラブラさせている

チャンミンはコーヒーをもらって
みんなとアンティムのことなと、ひとしきり話をして楽しんだ

たぶん、今、アンティムが上り調子だから
みんなの雰囲気もいいのだろう

社長のジンがチャンミンをまぶしそうに見る

「チャンミン君はモデルかなにかやってたの?」

「いえ、そういうのは全然」

「今すぐにでもグラビア行けそうなのに」


ユノが入館証の書類を書きながら
デスクから釘を刺した。

「ダメだからね、ジン。
グラビアなんか出させないよ」

「お目付け役が怖すぎてダメだな、チャンミン君」

「路上ライブやってます。
それでユノと知り合ったんです」

「へぇー歌うの?」

「ギターがメインですけど」

「曲も作れるの?」

「ジン!煽るなよ、世に晒すつもりはないんだから」

ユノがいちいち口を挟む


「ユノ、チャンミンも番組収録連れて行ってやったら?」

「ああ、そう思ってさ、入館証いいか?」

「どうぞどうぞ。いろいろ見学してくるといいよ。
アンティムはテソンがバンで連れて行くから」

「悪いな、じゃあ、俺は早めに出る」


ユノはチャンミンを連れてテレビ局へ向かった。

いくつかあるスタジオのひとつに入った。

「チャンミン、今リハーサルだから。
この客席に座ってて」

「スタッフのフリとかしなくていいの?」

「いいよ。様子見てな、面白いから。
入館証つけたまま、勝手に局を出たりしないで?」

チャンミンはスタジオ全体を俯瞰で見渡せる場所で
歌番組が作られる様子を見ていた

見たことのある芸能人がいっぱいいて
出たり入ったりしている。

ユノはいろんな人にアンティムのCDを配ってまわっている。

ニコニコと頭を下げて仕事をするユノ 。

いつもチャンミンといる時のユノとはちがう
仕事人のユノだった。

どんなユノも大好きだから、自分の知らないユノがいるのは嫌だ。
そのすべてを自分のものにしたいと思うチャンミンだった。

ユノが僕だけのために
笑い、泣き、仕事をする。

ユノの時間のすべてを占領したい

ユノの興味を引くすべてに嫉妬する。

そんな風に思っていた


チャンミンはユノへの思いがかなり激しいものであることが、自分でも怖くなる時がある。


やがて一般の観客が入ってきて席につく。
ガヤガヤとその半分以上が若い女の子だった。

そして次々と歌手やアイドルがリハーサルをしていく

お目当のアーティストが出ると
盛大に拍手や声援が起こる

チャンミンは観客の顔を見ていた。

ファンたちの表情は輝いていて
うっとりとアーティストの歌に酔いしれている


ふとチャンミンは思った

こんな風にみんなが僕の歌を聴いてくれたらいいな
僕の歌がこんな風にみんなを虜にできたらいい。

僕がどれだけユノを愛してるか
歌にして表現できたら。

それをみんなが共感してくれたら、どんなにいいだろう


そんな些細な気づきから、チャンミンの中に小さな何かが生まれた。


野心とか名誉欲とか
そんな大それたものは無かった。


ユノへの思いを歌にして、それをファンと共有したい。

そして、それをユノの悦びにしてくれたら

うっとりとアーティストの歌に酔いしれるファンの顔を見ながら、チャンミンの心に、夢がひとつの形を作っていく。


「今月の歌」という新人を紹介するコーナーで
アンティムが緊張した面持ちでステージにあがった

ユノが舞台袖で4人を睨みつけるようにして
見守っている

今、ユノの心には僕はいないだろうと
チャンミンは思った。

当たり前なのだ。
ユノは仕事をしているのだから。

だからこそ、とチャンミンは思った


番組は終わり、観客も帰って行き
ユノはアンティムのメンバーと打ち合わせをしているようだった。

広い肩幅から細い腰、そしてまっすぐ伸びた長い脚

スリムなスーツがよく似合う

仕事に没頭しているユノはたまらなくカッコいい

軽く上げられた前髪と、その高い鼻筋が絶妙なバランスを作っていた。

美しいユノ

そんなユノに見とれていると
チャンミンの隣に誰かが座った。

ふっと香ってきた品のいい香水の香り

横をみると、そこにはあのギルがいた。

「こんにちは、チャンミン」

ギルは華やかなステージ衣装だった。

チャンミンは、ペコリと頭をさげた

「こんにちは…ギルさん、今日番組にでてましたっけ?」

「俺は来週なんだけど、スケジュールの都合で生放送に出られないから、これからここで収録していくんだよ」

「なるほど…」

「ユノに連れてきてもらったの?」

「そうです」

「ユノは随分、チャンミンにご執心なんだね」

「………」

「今までも、男の子連れてるのはたまに見かけたけど
こんな風に一緒に住むなんてさ」

「お互い夢中なんです」

チャンミンは笑いながらも、その口調は強かった。

ユノが男の子を連れてた事を言うなんて
ギルは自分に敵対心があるに違いない

「おー言うねぇ、チャンミン。
すごい自信だね」

「……愛されてる自信ならありますよ。
それだけ僕もユノを愛してますから」

「そうか」

「はい」

「チャンミン…俺に敵対心燃やしてるみたいだけど」

「………」

「それは違うなぁ」

「……」

「俺への執着があるのはユノの方だから。
まずはそれをどうにかしないと、君はいつまでも不安だよね」

「あなたへの執着?僕の…不安?」

「不安なんでしょ?ユノが100パーセント、君に向いてるかどうか」

「そんなことありませんよ」

「不安じゃなかったら、俺の存在なんか気にならないはずだよ」

「………」

「ユノの俺に対する感情は複雑なものがあってね」

「ユノはあなたに、憎しみしかありませんよ」

「その、憎しみを伴う愛っていうのは
なかなかやっかいでね」

「……愛なんかないでしょう。
ユノへ執着してるのはギルさんじゃないですか?
もうなんともなかったら、こんな風に僕を煽ったりしない」

「チャンミンくん」

「はい?」

「君は、ユノのことを何もわかってない。
ユノと僕の事を何も知らないから仕方ないかもしれないけれど」

「あなたとユノの事?
あなたの裏切りでユノが傷ついたって事以外に
何があるっていうんですか?
勘違いしてるんじゃないですか?」

ギルは意味ありげに薄く微笑んで下を向いた

「俺が…あの事務所を出る時…」

「?」

「ユノに俺を抱いてみるか?と聞いたんだ」

「………」

「ユノは子供でね、なんにも知らなかったから
情熱が凄くて、受け止めきれないほどだったよ」

「…………」

チャンミンは何かで殴られたような衝撃を受けた

「ユノの俺への執着は根深いんだ」

「勘違いですよ、ギルさん」

「……そう?」

「現在がすべてです。」

これ以上、チャンミンが言えることは何もない。

「あの時、あの社長が邪魔しなければ
ユノは俺と一緒にトレスタに来れたんだ。
そうしたら、きっとユノはあそこであんな風にプロデューサーに頭さげるような、そんな…人生じゃなかった」

「ユノは!あなたと一緒になんて行かなかったはずです!」

「なんでそんなこと、君にわかるの」

「愛し合ってるから、ユノのことならわかる」

「……なるほどね」

「ギルさん、あなたは…ユノを救えなかった…
いや、救わなかった」

「…………」

「僕が…ユノを高い所に連れて行きます。
あなたがユノにしてあげなかったことを、僕がする。
邪魔するなら、してみればいいんだ。」

チャンミンは震えていた。

ギルへの怒りと、嫉妬と…
そしてユノへの想いで震えていた

ギルはため息をついた…

「ごめんね、なんか、煽っちゃって」

「………」

チャンミンの息が荒い

「たしかにね、ユノへの罪の意識でここまでやってきたような俺だから」

「…………」

「そういう意味では、執着だ」

「……僕が…必ず…」


そこでスタッフが近づいてきた

「あの、ギルさん、メイク入ってもらえますか?」

「はい。チャンミンくん、じゃあね」


あれだけ、チャンミンを打ちのめすような事を言っておきながら

ギルは何事もなかったように去っていった


チャンミンは下を向いたまま、溢れる涙を拭っていた

ふと、肩を掴まれた

顔をあげると、そこには怒った顔のユノがいた


「ギルに何を言われた?」

「ユノ…」

チャンミンの顔が大きく歪んだ

「チャンミン…」

「ユノがギルさんに夢中だったって話…」

嗚咽をこらえながら、チャンミンが泣き出した

ユノがため息をついた…

「そんなこと…」

「ほんとなんでしょ?」

「チャンミン。あまりに大昔のことで、だからなんだって話だよ。」

「だけど…」

「ひどいよな、俺だってチャンミンの昔の話なんて聞きたくない」

「……ユノ …」

「チャンミン」

ユノがチャンミンの隣に座った

スタッフたちは次回の録画収録の準備に追われ
ユノたちは眼中にない感じだ。


「ギルは俺やジンたちへの罪の意識で
なんだかんだとちょっかい出してくる」

「……あの人に罪の意識なんてない。
あるのはユノへの執着だけ」

「チャンミン…」

チャンミンの涙が止まった
まだクスンと鼻を鳴らしたけれど

「ユノ、もう帰りたい」

「ああ、もう帰ろう
メンバーを見送ってきたから」

2人は連れ立って、テレビ局を出るために廊下を歩いた。
長身でルックスのいい2人にすれ違うスタッフが振り返る

「ねぇ、ユノ 」

「ん?」

「僕…歌手になりたい」

「え?」

「こういう歌番組で拍手を浴びる歌手になりたい」

「チャンミン…」

そこへ、スタッフが声をかけてきた。

「ユノさん、すみません。テソンさんのバンが遅れるってことなので、少しアンティムお借りしたいんですけど」

「あ、わかりました」

「いいよ、ユノ」

チャンミンは微笑んだ。

「一緒においで」

ユノはチャンミンを連れてスタジオに戻った。

ちょうど収録の合間の時間なのか
スタジオはスタッフしかいない。

ユノはステージ袖まで連れていかれたので
チャンミンは手持ち無沙汰になり、また客席に座った。

ふとみると、壁に何本かのギターがたてかけてあった。

その中の1本はチャンミンが欲しいと思っていたギターだった。

「うわー」

チャンミンは席を立って、そのギターに触れた。

その時、外でタバコを吸っていたバンドマンが戻ってきて、チャンミンの姿を目に止めた

「あ、すみません、少し触ってしまいました」

バンドマンは笑ってくれた

「いいんだよ、君はギター弾くの?」

「あ、はい。このギター欲しかったんです」

「うん、人気があるだけにね、すごくいいよ。
よかったら弾いてみたら?」

「えっ?いいんですか?ここで?」

「今の時間なら問題ないよ。」

バンドマンはギターを手に取るとチャンミンに渡してくれた。

「ありがとうございます!
じゃあ、ちょっとだけ」

チャンミンは興奮した。

客席の肘掛に腰掛けて足を組み、ギターを弾いてみた。
いつも歌っている歌を小さな声で歌いながら。

けれど、その弾き心地は思ったより良くて
気がつけば、いつも通りの声で夢中で歌っていた。


舞台袖でアンティムとディレクターで打ち合わせをしているユノの耳にチャンミンの歌声が聞こえてきた。

アンティムのメンバーもその歌声に耳を澄ませる。

「だれが歌ってるの?」

「ユノヒョンの…」

ディレクターもいつのまにか、目を伏せて
チャンミンの歌声を聴いている

「あの…」

ユノが話の続きをしようとした。

ユノの心がざわついている。
理由はわからないけれど、なぜだかディレクターにチャンミンの歌声を聴かせたくない。と思った。

ディレクターが目を開ける

「いいね、誰が歌ってるの?」

「あ……」

そこへ、プロデューサーがやってきた。

「いいね、あの子、だれ?
ジン・コーポレーションの子?」

「違います。ほんの素人で」

「見てきてごらんよ、ビジュアルもかなりのものだよ」

ユノの声は聞こえないようで、プロデューサーがディレクターに勧める。

「じゃあ、アンティムはまた来週頼むよ」

「はい!」

そこで解散になった。

「テソンが迎えに来るから、
荷物をまとめておいて」

「はい」

ユノはメンバーを控え室に送り
スタジオに戻った。

チャンミンは熱唱していた。

音響の整えられた本格的なスタジオなんて
初めてだからだろうか。

スタッフがみんな仕事の手を休めて
チャンミンの歌を聴いている

ユノは客席の階段を上がり、
それに気づかないで歌うチャンミンの肩を掴んだ

「チャンミン」

チャンミンはハッと気がついたように
歌うのをやめてユノを見た。

「あ…」

「帰るよ、チャンミン」

側にいたバンドマンがゆっくり拍手をした。

それにつられて、まわりのスタッフ
ディレクターとプロデューサーまでもが拍手をした

びっくりしたチャンミンはペコペコとまわりに頭を下げる。

そしてバンドマンに詫びた

「すみません。なんか夢中になっちゃって」

「いやーいいよいいよ。このギターも君に弾いてもらって本望だろ」

「ありがとうございました」

ユノも頭を下げながら、お辞儀をするチャンミンを引っ張るようにしてスタジオを出た。


ユノの心に何とも言えない思いが湧き出る

チャンミンを世間に晒したくない
それが自分の正直な気持ち。

それは勝手なエゴ
それは嫉妬

俺のチャンミンだ…みんなのものじゃない…

苦々しい思いを胸にユノは駐車場へ急いだ






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