プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束 9




ソファーの3人の話し声が穏やかになった。

スンホは少し落ち着いたのだろうか。

どんな話になったのかは、チャンミンにはわからない

ギルとスンホはソファーから立ち上がり
ユノと握手を交わしていた

ユノが2人を玄関まで見送る

チャンミンはどうしたらいいかわからず、
とりあえずキッチンで静かにしていた。


玄関でユノとギルたちが別れの挨拶を交わしているのが聞こえる

ギルの笑う声が穏やかに響く

僕は…どんな存在?
ユノにとってなんなのだろう

2人とも僕をなんだと思ったかな…

遊びに来ている後輩かなにか?
ともだち?弟?


「チャンミン、ちょっと」

ユノがひょいとキッチンに顔を出して
チャンミンを手招きする

「え?」

「いいからこっち来て」

ユノはチャンミンの手を引っ張った

「あ、ちょっと」

バランスを崩しながら
チャンミンはよろけてユノに引っ張られた

玄関に引っ張り出されたチャンミンは
ユノにしっかりと肩を抱かれた

目の前には驚いたような顔のギルとスンホ


「この子、恋人のチャンミン。
俺が夢中になっちゃって、最近一緒に住み始めた」


え?

チャンミンは思わずユノの顔を見た

ユノはチャンミンを見てニッコリと笑う

より強く肩を引き寄せられた

「こっちはよく知ってるよな、テレビで見るだろ?
ギル。名前はキム・ギョル。
そしてこの子はこの間までウチの事務所にいたスンホ」

その過去形な言い方に、スンホは一瞬傷ついたような表情をした。

ギルも複雑な顔でチャンミンを見る

「ご挨拶して、チャンミン」

ユノがチャンミンの肩をさすり
耳元で囁く


ご、ご挨拶って…

「あ、あの…シム・チャンミン…です」

チャンミンはペコリと頭を下げた

ギルとスンホは軽く頭をさげる


ギルが意味ありげにため息をついて、ニヤリと笑った

「なんだよ、ユノ。幸せアピールか?」

「ああ、いろいろあっても、なんとか人間らしく生きてる。こいつのおかげでバランスとれてるっていうか」

ユノはチャンミンの髪を撫でた

ギルの視線が痛い、とチャンミンは思った


勘だけど

きっと、ギルはユノが好きだ

ユノはどうなのかな。

チラッとユノを見ると、なんてことない笑顔で
スンホに「じゃあ、お互いがんばろう」なんて言ってる

スンホは最後にユノとチャンミンに深くお辞儀をした。

2人が出て行って、金属の扉がガチャリと閉じる

ユノはロックすると
チャンミンの肩を抱きながら部屋へ戻った。

「チキン冷めちゃったか」

「温めれば大丈夫」

「チャンミン」

「ん?」

「ごめんな、仕事なんか家に持ち込んで」

「ユノが持ち込んだわけじゃないし」

「そうだけどさ、嫌だったろ?」

「そんなことより、僕のこと堂々と紹介してくれて
ありがとう。嬉しかったよ」

「そうか?」

「2人ともびっくりしてたね」

「こんな話慣れてるよ」

「こんな話?」

「男が男に夢中になるって話」

「フフフ…そうか
ユノが僕に夢中だなんて、ちょっと大げさだけど」

チャンミンは照れたように笑い、
チキンを温め直そうと耐熱の皿に移し替えた。

「大げさなもんか。
夢中じゃなきゃ、一緒に住みたいなんて言わない」

ユノはテーブルの上を片付けている


「ねぇ、ユノ」

「ん?」

「僕は…ユノが抱えているものを
できたら、一緒に背負ってあげられたらって思うんだ」

「………」

「あ、それは僕の考えだから。
ユノが…望んでなければいいんだ」

チャンミンが慌てたように笑う

「ありがとな」

ユノも笑った

「大したもの背負ってないんだよ。
だから、心配するな。うれしいけど」

「そうか…うん、それならいいんだ」

ユノがビールとキンパを並べている

「なんかね、ユノ。
実は…ちょっと疎外感あっただけ」

「ごめんな、全部仕事のことだから。」

「………」

チャンミンがチキンをレンジから出して並べた


言うべきかどうか、チャンミンは少しためらったけれど
やっぱり…

意を決して切り出した


「あの、ギルとはどういう知り合い?」

ユノがビールを開けようとした手を止めて
チャンミンを見た

「………」

「ごめん、知りたくて」

「いいよ」

ユノはそのままビールを注いだ

「ネットで…検索してみて。
MAD BLOODってアイドルグループ」

「え?マッド?」

「少しは何かしら画像とか出てくると思うけど」

チャンミンは言われた通りにスマホで検索をした


そこには時代遅れな、典型的なアイドルグループの画像が出てきた。

男のコが何人もいる。
誰が誰だか区別のつきにくい衣装

「え?あ、これギルだよね」

「うん…」

「…もしかして…え?!これユノだ!」

「そう」

「可愛い!面影はあるけど…全然雰囲気が違う」

「15になったかならないか、の頃だから」

「ユノ、アイドルだったの??
しかもギルと同じグループだなんて。」


チャンミンは検索した画像から
誰かのブログを読んでいた

だんだんチャンミンの顔が険しくなる


「再契約をしなかったギル…」

「………捨てられたメンバー…」

「解散……」

「………」

そこにはMAD BLOODの悲惨な末路が書かれていた
画像やソースをきちんと貼ってあり
それが事実だということを裏付けている


スマホを持つチャンミンの手が震える
キッチンに立ったまま動けずにいる


ユノはソファーに1人腰掛け、ビールを飲んだ

ユノの瞳は遠くを見ていた


「チャンミン…」

「……ユノ」

「そこに、どう書いてあるか、わからないけど」

「事実かどうか、わからない…
ブロガーの思いしか書いてないから」

チャンミンの目に映るのは
可愛い15歳のユノ

それはユノであってユノではない

今とはまったく別人のユノ

みんなの中でおそらく一番明るく元気。
太陽のような笑顔が光輝いている

その肩にギルが手を置いて微笑む

正直言って、チャンミンはこんなグループがいたことを知らない。

でもそのブロガーはかなりコアなファンだったらしく
メンバーへの想いとギルへの憎しみをも綴っている

" ギルがユノを捨てた
あんなに可愛がってみせて

きっとユノはギルに縋ったに違いない
関係者の話では、ユノはギルが留学すると聞かされていたらしい"

そして、チャンミンの目にショックな一文が入ってきた

" ユノが病んでしまった
今は言葉も声も発することができなくなってしまった
自宅療養中。
早く元気になって"


「ユノ…」

「ん?」

「ギルって裏切ったんだね、ユノのこと」

「………そうとばかりも言えないんだよ」

「だって!」

「チャンミン、俺たちの画像をみただろ?
そのグループにMAD BLOODなんて名前、どう?」

「……」

たしかに言われてみればその通りだった

衣装はパステルを基調として
メンバーはみんな爽やかなキャラ

けれど…

実際にチャンミンはそのグループを知らなかったし、

それにメンバーみんなが同じようなヘアスタイルで
まったく同じ衣装

素人目にももう少し個性を際立たせてもいいかな、
と思える。

MAD BLOODという名前も、誰がつけたのだろうと
正直、首をかしげたくなる

だけど

そんなこと、この太陽のような笑顔のユノには
関係なかったことだ


「ギルは…わかっていた…
このままでは、自分たちは終わる」

「………」

「事務所に訴えてたらしい。
キャラをちゃんと作って、他のグループと差別化して」

「それは!…それはギルが言ったなら
弁解だよ、ただの弁解。
このブロガーさんはそう書いてる」

「俺がそれを知ったのは…解散するとき
社長の捨て台詞からだ」

「……そんな…」

「社長がギルの言い分をひとつひとつあげて、けなしていったけど」

「…………」

「そのどれもが…その時の俺には目からウロコだった。
ギルはいろんな事が見えていた
ギルは警鐘を鳴らしていたんだ」

「………」

「ギルは正しかったんだと
納得せざるを得なかった」


「だけど、1人で抜けるなんて
みんなを思ったら…ひどいよ」


チャンミン…


俺もそう思ったよ、ひどい…ひどいすぎるって


「チャンミン」

ふとユノがチャンミンに手を伸ばした

泣いているチャンミンはスマホをテーブルに置くと
ソファーに座るユノの胸に飛び込んだ


「チャンミンも…そう思ってくれるか?」

「うっ…可哀想な…小さなユノ…うっ…」

「ひどいよな?ひどい話だよな?」

チャンミンは起き上がって、ユノの頬を
両手で挟んで、優しく見つめた

チャンミンの手のひらの中には
15歳のユノが不安そうにこちらを見つめている


可哀想な幼き日のユノ

きっと誰より明るくて元気だったユノ
そんなこの人から、明るさを奪ったのは誰だ

楽しい学生時代を奪ったやつは

僕のユノをこんなに傷つけたなんて


許さない


「ユノ…ユノにこんなつらい思いをさせたなんて…」

「チャンミン…」

ユノの切れ長の瞳に涙が光る

「ひどい…よな?
俺、そう思っていいよな?」


「ユノ、これからは」

「ん…」

チャンミンはユノのくちびるにキスをひとつ落とした

「僕が…あなたを傷つける人を許さない」

「チャンミン…」

ユノは安心したように目を細め
チャンミンの髪を撫でた

「ありがとな、チャンミン」

「だから、約束してユノ」

「どんな約束?なんでも約束するよ」



「なにがあっても…僕とずっと一緒」



真剣なチャンミンの瞳に
ユノの瞳が揺れる


「チャンミン…」


「約束だよ、ユノ」


「約束だ…」


そう言って、ユノは体勢を変え
チャンミンをソファーに組み敷いた

そのきれいで透き通った
まるで聖母のようなチャンミンに

ユノはそっとキスを落とした





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