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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束 6




ユノが出社すると
社長であるジンの機嫌がよさそうだった。

「どうかした?ジン」

「バチが当たるとはこのことだよ、ユノ」

そう言ってジンはスポーツ新聞をユノに放った

ユノはその一面を見るなり、顔をしかめた


「トレスタ・エンターティエメントの新人チェ・スンホ
薬物所持の疑い」

トレスタ・エンターティエメントはギルが所属する大手事務所で、スンホの名前はウチから引き抜かれたあのスンホということか。


「スンホが薬物所持なんてありえない」

「どうだかね、ウチのメンバーも調べられるだろうけど
もう関係ないし、引き抜かれた事実もこれで明るみに出る。スンホがシロだったとしても、イメージは悪いよな」

ユノはジンを睨んだ

「ジン…」

「なんだ?」

「まさか…そんなことないよな」

「まさかって?」

鼻歌を歌うほどにご機嫌なジン

ユノはふいにジンの腕を掴み上げた

「いてぇな!なんだよ」

「まさか、ジンが仕組んだんじゃないよな?って意味だ」

「知らないね」

ジンはユノの手を振りほどいた

「まぁ、誰かが仕組んだにしても、トレスタは脇が甘いね。裏切り者に報復があることくらい予測して動かなきゃな。」

「………」

「裏切られたことがないヤツには、わからないか」

フッとジンは笑った。


「ジン、トレスタをナメない方がいい」

「ユノも事務所がデカイからってビビるなよ」

「スンホ自身は否定してるんだろ?」

「読んでみろよ、そうでもないぜ?」


記事には、スンホは入手経路については黙秘していると出ていた。


ユノはイヤな予感がした。

そして、その予感は的中した



警察がユノが働くジンの事務所、
ジン・コーポレーションに来たのはその朝刊が出た日の午後だった。

事務所にはユノともうひとりの社員
やはり、元同じMADBLOODのテソンがいた。

2人の刑事が神妙な顔で尋ねる

「チェ・スンホの薬物入手経路が元メンバーからだという話もあって、少しお話を伺いたいのですが」

「元メンバーってウチのですか?」

「そうです」

テソンは激怒した

「そんなわけない!」

前に飛び出すテソンをユノが止めた

「テソン!落ち着けよ」

「スンホは事務所からそう言わされてるんだ!ったく!トレスタはどこまで汚い手を使うんだ!」

「落ち着けったら!」

暴れそうになるテソンをユノが押さえつけた

「ユノ!お前は甘いんだよ!」

「テソン…」

まさか…テソンまで関わっているのか


「メンバーの皆さんはいますか?」

警察はいたって冷静だった。

「申し訳ないですが、ウチのメンバーはみんな未成年なんです。勝手に話をするのは困ります。
必要な部分だけ、私が答えますし、必要なら本人達を私が連れて行きます」

テソンを後ろから羽交い締めにしながら
冷静にユノが答えた


「逃げられたら困るんですよ」

警察の言葉に
ユノの目が一瞬凄みを滲ませた

「そんなこと、しませんよ」

ユノと警察が睨み合う


「…わかりました。じゃあ、必要な場合は連絡しますので」

「くれぐれも記事なんかにならないようにお願いします」

「証拠が上がるまでは、その心配はないとは思いますが」

「証拠なんて、元々何もないんです」

「また、連絡しますので」


警察が帰ったあと、ユノはテソンの襟を掴み上げた

「テソン、お前、何を知ってる?」

「苦しいよ、ユノ」

「じゃあ、言えよ。俺が甘いってどういうことだ」

「人一倍…弱かったくせに…
声がでなくなっちまったりして…さ…」

「この話と関係ないだろ?!」

ユノはテソンを突き飛ばした

テソンがまわりの椅子を巻き込んで倒れる

「それとこれとは、今は関係ない、
スンホに薬物を持たせたのは誰なんだよ!」

「お前、わかってんだろ」

「ジン…か?…」

「逆手にとられちまったな。
ザマない…今度はウチがヤバイって話」

「スンホも残ったメンバーも…お前らの汚い事情に巻き込むなよ!」

「お前ら?ユノは関係ないのか?
あんなに懐いてたギルに、いまだにこんなことされてんだ」

「いつまで昔のこと言ってんだ!テソン」


テソンは今度はユノの襟を掴み上げた

「昔の話かもしれない…だけど…俺たちの人生をメチャメチャにされたんだぜ?
お前、悔しくないのかよ…いまだに、あの苦しみから抜けられない…それはお前も同じだろ?」

「今更…」

「ユノ、お前、他人から昔は何やってたと聞かれたら
なんて答えてる?俺たち野球やサッカーを楽しくやってたんじゃないんだぞ」

「誰もそんなこと聞かないよ」

「アイドルやってたことは言うか?
大人たちに、仲間に騙され、落ちぶれて…隠れるように影でコソコソ言われながら学生生活を送ったって言うか?」

「俺はもう、なんとも思ってない」

「うそだ!」

「ずっと恨み続けても、何も変わらない」

「お前が一番傷ついたくせに!
俺たちはお前を心配して…」

「俺はもう…」


チャンミン…

そうだ

俺にはチャンミンがいてくれる

あの笑顔が側にある限り
俺の人生は晴れだ…黒い雲は近づけない…

もう何も怖くない


「とにかく…向こうの出方を待とう
ジンにはどうする?」

「いずれ…わかるさ…また発狂するだろうけど」

ユノを解放したテソンは項垂れて椅子にもたれかかった

「まずはメンバーを守ろう
心配するなと言ってやらないと」

ユノはメンバーを心配した


「もう、あいつらにも金がかかりすぎて…」

そこまで言ってテソンは暗い顔になった

ユノは思わず歯を食いしばった


まるであの時と同じだ
テソンもそう感じているのだろう

結局赤字に陥ったMADBLOODは事務所のお荷物となり
解散になった

どの事務所も引き取ってはくれなかった

誰も驚かない解散

それくらい、誰にも知られてなかった自分たち
悪いイメージがついたグループ

ギルさえ、いてくれたら
そして事務所がギルの話を少しでも聞いてくれてたら

ユノの恨みはギルには向いてない
恨むのは自分の運命だ


声が、言葉が出なくなったあの頃の記憶は
薄らいでいる

それはきっと、自己防衛ってやつだ。

気づけばユノのスマホにスンホから連絡が入っていた

「スンホ?」

「ユノ…さん?」

「今、どこ?」

「ちょっと、待ってください」

「ああ」

「もしもし」

「!」


スンホの声から変わったのは
ギルの声だった

テレビで歌を聴くからよくわかる

「………」

「ユノ?」

「なんだ」

「久しぶり」

「………」

「なぁ、ジンは随分とひどいことをするんだな」

「あ?」

お前が言うか、とユノの喉元まで言葉がせりあがってきた

「可哀想なのはスンホだけじゃない。
お前のところに残ったメンバーもだろ?」

そこか…

「ウチは…関係ない」

「ちょっと会わないか?
スンホたちにとっていい道を探そう」

真っ当な…いつも至極、真っ当な事を言う
それがギルだ。


ユノはギルから指定されたカフェを訪れた

すでにギルは奥の席に座り
ユノを見つけると軽く手を上げた

サングラスをかけている

「ユノ、ひさしぶり
この前会ったのは、誰かの結婚式だったよな?」


ギルは第一線で活躍する者のオーラに溢れ
眩しいほどだった

「俺はいつもテレビで見てるから、
そんなひさしぶりな感じはないね」

「そうか。テレビで俺を見ててくれるのか?」

「自惚れんな。仕事で見ている時に
目に入るだけだよ」

ギルはクスクスと笑った

「何言ってるんだ。ジンのところにテレビに出るような
アイドルはいないだろ。仕事でなんて」

「相変わらずキツイね。
それくらいキツくないとやっていけないだろうけど」

「ユノ」

「なんだ」

「すごく、いい男になったな。
俺より背も高くなって。カッコいいよ」

「………」

「俳優でもモデルでも、今からイケるんじゃないかと思う」

ユノは何も答えずため息をついた


「ユノ、俺を憎んでいるだろうけれど」

「………」

「今回のことは、まるであの頃の俺たちと同じだ」

「スンホはどうしてる?」

「落ち込んでるさ、これからデビューって時に
ケチつけられて」

「デビューはダメになるのか?」

「ならないだろ。たぶん少し延びるだけだ。
でも、警察からシロとでなきゃならない」

「なら、ウチのメンバーにいろいろふっかけなくても
いいだろ。騒ぎを大きくすることはない」

「ユノ、ふっかけてないよ。
お前の言う通り、騒ぎが大きくなるのは困る」

「じゃあ…」

「警察がカマかけて調べてるだけだよ。
騒がないほうがいい。」

「そうか…」

「スンホにヤク持たせたのはジンだろ」

「俺は知らない」

「ジンはいつのまにヤクザになったんだ?」

「まぁ、オヤジさんがヤクザみたいなものだから」

「そんなやり方、今時流行らないよ
敵ばっかり作ってるじゃないか」

「ジンにもいろんな思いがあるさ」

「いつまでも…俺は悪者か」

「覚悟の上だろ?」

「まあね」

「………」


少しの間、沈黙があった


「ユノ…スンホのメンバー連れて、ウチの事務所に来ないか?」

ユノは驚いて顔をあげた

「なんだって?正気か?」

「面倒みるよ。スンホも喜ぶ。」

「ほかのメンバーは?ホイホイついていくと思うか?」

「ついてくるかもしれないだろ。
大きな事務所が引き取ってくれるとなれば
喜ぶだろう?」

「………」

「あの時だって、ウチの事務所はユノを引き取ると言ったんだ」

「………」

ユノは険しい顔で目を伏せた

「でも…あの時、そっちの社長がそれをさせなかった。
ユノの才能を潰したのはあの社長だ。
きちんとしたデビューもさせてやれないくせに
挙げ句の果て、ユノを捨てやがって」

「………」

「それは違うよ、ギル」

「どう違うんだ」

「俺は…お前に捨てられたことがショックだったんだよ」

「だから、それは…」

「俺は別に、あの時の事務所を出たいなんて思わなかった。ジンやテソン、そしてギルと仲良く楽しく、ずっとやっていきたかっただけだ」

「ユノ…」

「俺はその程度の子供だったんだ。
野心なんて言葉も知らないほど」

「ユノは自分を責める必要はない」

「だけど、今回のことは…」

「ユノがメンバーの可能性を潰すようなことがあれば
それはあの時の社長と同じことをしてるんだ」

「………」


「こんなこと、ユノに言いたくないけれど」

「わかってる」

「そうか?」

「少し、時間をくれ。
それと、スンホをよろしく頼む」

「会ってやれよ、スンホはユノに会いたがってる」

「いやだよ、裏切り者は嫌いだ」

「ユノ…」

「スンホと会ったりしたら、ウチのメンバーに合わせる顔がない」

「そうか…なるほどな」

「………」

「相変わらず、義理堅いなユノは」

「じゃあな」


ユノはギルと別れて外へでた。

ふーっとため息をついて、スマホを取り出し
キーをタッチする


「もしもし」

「ユノ?」

「チャンミン、今どこ?」

「へへっ、ユノの家」

「えっ?バイトは?」

「うん!今日はね、コンビニが昼間、人いなくてさ
昼働いたからもう終わり」

「夕飯は?」

「さっきね、廃棄のだけど、おかずもらってきたんだ。
ユノの分もあるよ!」


明るく優しい声が、ユノの荒んだ心に染み渡る

ユノの世界がスイッチを切り替えたように変わる


早く帰ろう

ユノは足早に家路を急いだ

チャンミンに会いたい


「お帰り!」

明るくチャンミンが出迎えてくれる

まるで、やりきれない思いの今日一日を
知っているのかと思うくらい

「ただいま」

「ユノ、トッポギとプルコギどっちがいい?」

チャンミンがコンビニでもらってきたおかずを
電子レンジで温めている

「チャンミンが食べない方でいいよ」

ユノはネクタイを外し、スーツを脱ぐ

「じゃあ、両方食べたいから
半分ずつ食べるのでいい?」

「アハハハ…いいよ」



スポットライトを浴びて
歓声を一身に受ける幸せもあれば

こんな風に、愛する人とおかずを半分こする幸せ

俺は今、そんな幸せを手にしているんだ


チャンミンが可愛すぎて
倒れそうだ

嬉しそうにおかずを皿に詰め替えている


「ユノの方がちょっと多めだからね」

「いいよ、チャンミンがたくさん食べな」

「ユノ、お疲れだから」

「………」


本当に…涙が…出そうだ


「なぁ、チャンミン」

「なに?」

「考えてくれた?この前言ったこと」

「あの…一緒に住むって話?」

「そう」

フフフ…と恥ずかしそうにチャンミンが笑う

「なぁ、いいだろ?
俺と暮らしたら、いい事がいろいろある」

「え?どんな?何か特典付き?!」

「毎晩、抱く」

「うわぁーアッハハハ」

チャンミンは頭を抱えるフリをして
大笑いしている

「えーどうしよっかな」

「チャンミン」

「なに?まだ他に特典あり?」


「愛してる」


「え…」


「俺は…お前を愛してるんだ」


「……ユノ…」


「………」

たぶん俺は、縋るような目でチャンミンを見つめていたのかもしれない


「じゃあさ、ひとつ条件」

「なに?なんでも言って」

「それ、毎日言ってくれる?」

「ん?なにを?」

「だからー!愛してるってやつ」

「……毎日、心から言うよ」

「じゃあ、いいよ?
ユノと一緒に暮らす…!…」

チャンミンが言い終わらないうちに
俺はその可愛い唇を塞いでしまった

我慢なんて…できなかった…






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