プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束 4





朝から、社内が不穏な空気だった。

出社したばかりだというのに
ユノは社長室に呼ばれた


社長は「MADBLOOD」で一緒だったジン

家がそこそこの資産家だった為
芸能界へ、ひいてはギルへの意地ではじめたような会社だった。


「ユノ…」

ジンはプレジデントチェアに深く腰掛け
大きなため息をついた

「なにかあったんですか?」


「スンホが抜ける」


「は?!」

先日一緒に地方巡りをしたグループのスンホ。
リーダーではないけれど、そのビジュアルのよさで
グループにはなくてはならない存在だった。


「抜けるって…」


「水面下で他から接触があったらしい。
ユノ、この間ずっと一緒で様子に変なところはなかった?」


「………全然気付きませんでした」


「そうか…」


「他のメンバーは?気づいてたんですか?」

「まったくわからなかったらしい」

「そんな…」

「まったくな。イヤな思い出が蘇るよな」


「………」

「ギルが目をつけたという噂だ」

「ギルが?」

ギルはあれからずっと第一線で活躍している

事務所も一流だった。
あの時、ギルを連れ去った大きな事務所。


「どこまでも、俺たちとは違うってところを
見せつけたいのか」
ジンはギルへの憎しみを反芻している


「そんな必要ないでしょ、なんのために?」

「だよな…もう向こうは成功してるんだから
ほっといてくれって話」

ふとユノは思い出した
思いつめたようなスンホの瞳

「そういえば…スンホがある晩、俺にあの頃のことを聞いてきた時があった。」

「そうなのか…なんて答えたんだ」

「ギルは仲間がイヤになったんじゃない
事務所のやり方が気に入らなかったんだと」

「なんだって?なんでそんな風に答えたんだよ」


「………」


「何言ってんだユノ、ギルは仲間を裏切ったことには変わりない…お前はマンネでわかっていなかったかもしれないけど」

「………ギルは俺たちの先を考えてくれたんだ」

「裏切ったことには変わりない!」

「………」

「何言ってるんだよ…冗談じゃない」

ジンの興奮は冷めそうにない


「………俺が甘かった…その頃の話を聞いてきた時点で
怪しいと思うべきだった。」

「それか、ギルはメンバーを裏切ったと言うべきだったな」


「………」


「とにかく、他のメンバーはショックを受けてる…このままではまずい」

「はい…」

「…正式なデビューはこの夏、と伝えていたのにな。
まるであの時の俺たちだ…」


「………」


「経験を生かして、フォローしてやれ」

「経験を生かして?」

「お前ならできるだろ」

「なんて言うんですか?
力が及ばずに申し訳ないと?」

「憎むように仕向けるんだよ。スンホを憎むように」

「そんな…」

「それをバネにしてがんばれと、そういう風に持っていけ」

「まずはスンホと話します」

「もう、俺たちが接触できないようにガードされてる」

「さすが…ですね」

「ああ、だからもう説得とか
そういう段階ではない。スンホとは話す必要ないよ」

「………」


メンバーの中では人一倍ユノに懐いてた、というイメージがあった。

そんなスンホが…

「でも、ジン、憎しみから生まれるヤル気って
絶対観ているファンにはバレる」

「それが共感をよぶこともある」

「明るいオーラは出せない」


ジンはため息をついた


「ユノ」

「………」

「今まで、何度となくお前に聞いてきたけどさ」


「なに?」


「ユノはギルに憎しみの感情はまったくないか?」


「……」

「お前が一番懐いていたけれど、一番傷ついたのもお前だろ」

「………」

イラついてカツカツとデスクを叩いていたジンのリズムが緩やかになる


「まぁ、いい、うん。今更そんな話をしてもな。
とにかくメンバーのフォローを頼む」

「スンホとまずは話します」

「ラインもカカオも全部ブロックされてるよ」

「……」

「まぁ、繋がったら、裏切り者と伝えてくれ」



ユノはスンホに連絡をとった


簡単に繋がった

「ユノ…さん?」

「そうだ」

「………」

「もう飯は食ったか?」

「はい…」

「そうか…」

「……」

「スンホ」

「は、はい!」


「何か俺に言うことはないか?」

「…すみません。いろいろと」

「………うん」

「黙ってました…口止めされてもいたけれど
ユノさんに説得されたくなくて」

「俺?」

「ユノさんに説得されたら…僕」


「俺がお前を引き留めるとでも思った?」

「えっ?」

「そんなことしないよ」

「じゃあ、僕の気持ち、わかってくれてたんですか?」

「わかるわけない。
随分自惚れてんだな」

「あ…あの…」

「俺やメンバーや…強いてはせっかくファンになってくれたコたち、みんなを裏切ったんだ」

「………」

「それの何をわかれというんだ?」

「そこまでのつもりは…ありません!」

「お前にそこまでのつもりがなくたって
実際にみんな傷ついてんだよ」

「傷つけようなんて!そんなつもりじゃなかった!」

「傷つくと、思わなかったのか」

「………」

「そんなつもりじゃないなんて、
自分を正当化するのはやめろよ」

「正当化だなんて…」

「みんなを裏切ってまで欲しいものを手にしようとしたなら、もっと堂々としたらどうだ?」

「……」

「メンバーを、ファンを捨てたけど、だからなんだと。
自分はそんな悪者だけど、それがなんだと」

「………」

「堂々と…してろよ…」

スマホの向こうから、すすり泣く声が聞こえる

スンホは、まだ高校生になったばかりの
青くさい子供だ…

だけど…

この世界ではそれが免罪符にはならない

「お前はこれから先、みんなを裏切ったという十字架を背負って歩いていくんだ…」

スマホの向こうのすすり泣く声は嗚咽にかわる

「スンホ」

「はい…」

「俺が…傷つかないと…そう思ったか?」

「うっ…ユノさん…」

「ひとの思いやりを踏みにじって得た栄光は、どんな味がするんだろうな」

「うっ…うっ…」

「いつか俺に教えてくれ」

そう言って、ユノはスマホを切った


後味の悪さと言ったら半端ない


スンホはきっと深く考えずに
ギルの事務所からのオファーを受けたのだろう

自分だけ声がかかって、引き抜かれるということに
優越感を感じただけなのかもしれない。

コトの重大さもよくわかっていなかったのかもしれない。

きっと少し怖くなって

ユノだけとは繋がっていたくて
ブロックしなかったのだろう

ユノからの電話を待っていたのだ。

それなのに…


まるであの頃のギルに訴えるように
スンホを突き放してしまった


ユノの心の中に消化しきれない思いが渦巻く
ギルとスンホがドス黒く一体化していく…


頭ではわかってる

スンホだけが悪いのではない

ギルだけが悪かったわけではない


ユノは喉の奥がツンとするような痛みを覚え
知らずに涙が出ていた


帰宅帰りの人間でごった返す大通りを
ユノはスーツのポケットに手を入れたままブラブラと歩いた。


感情的になってしまった


ついこの間、一緒に鍋をつついてみんなで笑ったスンホ
まだあどけないあの笑顔

自己嫌悪がふつふつとユノの心に沸いてくる


だけど…なんでお前…

そんな風にせめぎ合う複雑な想い


あ…


…あの歌声が聴こえてきた


チャンミンの優しい歌声


気づけばユノは駅前まで歩いてきていた。



あなたがいれば なにもいらない

そんなことに気づけなかった遠いあの頃

悲しいあなたの瞳に気づけなかった僕




薄めのダウンジャケットから
チェックのシャツが覗いている

長い脚に古びたジーンズが寒そうだ。

スニーカーではなく、ローファーを履いているところが
とてもチャンミンらしいとユノは思った


暗く、闇に落ちそうになっていたユノの心が
チャンミンの歌声に救われる


一生懸命に弾き語るチャンミンの顔を見ていると
たまらない感情が湧いてくる

忘れていた優しい感情が呼び戻されるようだった


この存在が

何かが大きく欠けている今のユノに
とても必要だった


チャンミンは一曲終えると、聴いてくれるまわりの人達にぺこりと頭を下げ、ギターを片付けはじめた

暗黙の了解

ユノが来ると演奏をやめるチャンミン

それがもう合図のようになっている

パラパラと客も散って行った


チャンミンはギターケースを持ち、
ニコニコと笑っている


「ユノさん、おつかれさま!」

「………」


俺に…笑ってくれるのか?

そんな幸せそうな笑みで…


眉間にシワを寄せて
切なくチャンミンを見つめるユノ


いつもと違うユノの
なにか切羽詰まったような真剣な瞳


「ユノ…さん?」

「………」

「なにか…ありましたか?」


透き通る白い肌に大きな瞳を見開いて
ユノを見つめた

ユノの心がチャンミンを渇望した


「チャンミン…」

「はい?」

「今日は…俺の部屋に来ないか」







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