プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束 3





サリーのイベントが終わった翌日から
ユノは出張に出ていた。

男の子ばかりの新人グループ、その地方巡りに付き合う。

兄貴的な魅力のユノを、メンバーたちはとても慕って
よく懐いた。
だから仕事は順調にいったし、ユノも久しぶりに仕事が楽しいと思えた。


5人の男の子たちのパワーを潰さないように、
その個性を生かして。
それがそのままグループの魅力となるように

ユノは自分の経験から、そのあたりにとても気を使った

イベントが終わると、その地方の名物などを食べたりして楽しみ、普通の学生生活ができないメンバーに思い出づくりのような事もしてやった。

そんな毎日の中

ユノは1人ホテルの部屋に戻ると
ふとチャンミンを思い出すことが多い。

ニッコリと笑う可愛い笑顔

拗ねたような唇

そんなことを思い出しながら
ユノは苦笑する


惚れたか、ユンホ?

いやいや、そういうのは今はいらない。

そうだろ?
気持ちがいろいろと昂ぶるような生活はいらない

自分で自分に言い聞かせる

やっと落ち着いてきたところなんだ。


ユノはシャワーを浴びて、スッキリしたところで
自分の荷物からカーキ色のタンクと黒のジャージを出して履いた。

ホテルに備え付けのパジャマが苦手で、寛ぐために自分の服を着る。

そして買ってきたミネラルウォーターを開けて飲んだ

濡れた黒い前髪から、雫が滴る

こめかみからもその細い顎を伝って雫が落ちて行く


明日は帰る日だ。

会社の帰りにまた駅でチャンミンの歌を聴いて帰ろうかな。

やっぱり相当なお気に入りだな。

ユノは自分で自分を茶化した。

いや…

少し可愛いと思っただけだ
ただそれだけ…


**********



キュヒョンは大きくため息をついてみせた。

「で?そのイケメンリーマンはそれきり来ないと」


「………」


「忙しいんじゃないか?だって芸能プロダクションだろ?」

「うん…」


かなり凹んでいる親友のチャンミンを
キュヒョンは少々無理に居酒屋へ連れ出した。

「それって…そういう意味でその人が好きなの?」

「そういう意味って?」

「えーと、なんていうか」

チャンミンはあーと合点がいったように頷く。


「…そういう意味で好きだと思う」

「そうか」

「いや、わかんない。
たぶん、次会ったらわかる…けど…
次なんてあるんだかどうか」

「また会えるよ、この間みたいに」

「だけど、向こうはなんとも思ってないよ」

「どうしてわかるの?」

「なんかね、すごく大人って感じだし」

「チャンミン、可愛いから、きっと気に入られたよ」

「でも…きっと冴えない感じに見えたと思う
バイト中で、作業服だったんだ」

「一生懸命仕事してるのに、その格好が冴えないと思うやつなんて、ろくなヤツじゃないと思うぜ?」

「でも…ギター弾いてる僕とは、違って見えたよ。
ショッピングモールで声をかけた時、
一瞬わからなかったみたいだし」

「そのどっちもチャンミンなんだから」

「そうだけど…」


すっかりイジけてしまっているチャンミン

ショッピングモールでユノと言葉を交わして以来
ユノは駅前に姿を現さないのだ。

元々あの駅を利用する人ではなかったのかもしれない。

チャンミンは先日、自分がバイトの作業服だったことが
ユノを興醒めさせたのでは、とそのことばかり考えていた。


もう一度、会いたい

ユノさんがどういう人なのか知りたい…



ユノは久し振りに出勤して出張費の清算をしたり、
溜まっていた仕事を片付けたり

その日はかなり忙しかった。

気づけば外はすっかり暗くなり
心地よい疲労感を纏って、ユノは帰り支度をした。

外に出ると寒の戻りか、かなり寒い

寒くてユノはマフラーまで巻いていた
喉を守ろうとする意識がクセになっている。


会社を出る時、ふと、チャンミンに会えるかなと思った。

でも、こんなに寒いとさすがに外でパフォーマンスするのは辛いし、観ている客もいないだろう

そう思って駅に近づくと
あの優しい歌声が聴こえてきた

チャンミンだ

こんな寒い中…

やがてユノの視界が開けて
駅のコンコースにイルミネーションの海が広がる


その中で1人ギターを弾いてるチャンミン

儚く美しく…

まるで星空の中に佇んでいるように見える


ユノはその姿をじっと見つめていた


イルミネーションで象られた天の川の中で
1人ギターを弾き、優しく歌うチャンミン

ユノは思った


会いたかった…

自分はこんなにも、このギターを弾く天使に
会いたかったのか。


ユノは腕組みをして街灯にもたれ、
チャンミンの歌を聴いていた

ここからはチャンミンまで少し距離がある

チャンミンはユノに気づかず、
優しく歌う

でも…なぜか

前回聴いたより、少し切なく聴こえるような気がする

何かあったのかな

1か月たったかどうか…それくらいなのに

一曲終わり、まわりからはパラパラと拍手が起こる

こんな寒い中、聴いてくれるファンのいるチャンミン。


ユノも拍手をした

まさか、それが聞こえたのか

チャンミンがひょいとユノの方へ顔をあげた

驚いた表情…

するとチャンミンは、ぱーっと花が咲いたように笑った


思わずユノも微笑んでしまう

そんなに俺に会いたかったかと
自惚れてしまうほどの笑顔


チャンミンは急いでギターを片付ける
チラチラとユノがいることを確認しながら


俺はどこへも行かないから
ゆっくり片付けたらいいんだ

ユノは優しげに微笑み
チャンミンの様子を眺めていた


チャンミンは急いで片付けたせいか
持ち上げようとしたギターケースがまた開いてしまい

困ったようにユノを見た。

何かたまらない気持ちになって
ユノは大股でチャンミンの方へ歩いていった

「大丈夫?慌てないで」

「すみません、前みたいに
ユノさん、どこかへ行っちゃわないかって」

「どこへも…行かないよ」

軽い感じでそう言ったけれど
ユノの瞳が真剣だ。

「……だと、いいけど」

チャンミンは恥ずかしくなって俯いた


「だからゆっくり片付けて」

「はい…」

チャンミンはギターケースをもう一度確認して
自分のいたところを振り返った

「忘れ物はない?」

「はい!」

また、チャンミンがニッコリと笑った

本当に可愛い


「お腹すいてる?」

チャンミンの瞳が輝いた

「ぺこぺこです!」

「じゃ、何か食べに行こう」

「ほんとですか?」

「何が食べたい?」

「なんでもいいです!」

「じゃあ、ラーメンと肉だったら?」

「肉がいいです」

即答だった


ユノは笑いながら、コートの襟を立てた


「図々しいですよね、すみません」

「いいんだよ、俺が聞いたんだから」

へへっとチャンミンは笑った

「じゃあ、肉を食べに行こう」

そう言って、ユノがチャンミンの背中に触れた

「!」

チャンミンは驚いてビクッとした

「あ、ごめん…」

サッとユノは手をどけた

「いえ、別に全然なんでもないです」

ユノさんにいきなり触れられて…
触れられてってほどでもないのに…

心臓がドキドキして口から出そうだ


だけど…今日はコンビニのバイトがなくてよかった!

家で歌を作るつもりだったけど
今日はそれはいい


やけに距離をとって歩くユノ

さっきあんなに驚いてしまって
ユノさん、恐縮しちゃったかな

「ユノさん、仕事忙しかったんですか?」

わざと小さな声で聞いて見た

「えっ?」

腕組みをして歩くユノが聞こえないようでこちらに少し寄る

「あの…仕事が忙しかったんですか?」

今度はチャンミンが思い切り近寄って
ユノの肘をつかみながら聞いた

「あー、出張だよ」

ユノに少し近づいて見たら
その体温を気配で感じる

温かい…

「なんだーそうだったんですか」

「ん?」

「いや、なんでもないです」

出張だったのか!
僕のことが気に入らないとか、そんな事じゃなかった

チャンミンがクスクスと笑うのを
ユノがじっと見つめているような気がする


やがて、焼肉の店に着いた

「ここ、自分で焼くところじゃないんだけどいい?」

「いいですよ、肉ならなんでも」

「アハハハハ」

ユノが楽しそうに笑った

「いいなぁ、チャンミンは」


2人は半個室になった席につき
まずビールで乾杯をした

それから、いろんな種類の肉を食べ
かなりの時間を過ごした

話は主にチャンミンの話
チャンミンばかりが話していて
ユノは聞き役に回っていた。

声変わりをするまで、教会の聖歌隊にいたこと
厳格な家で、チャンミンが歌手になろうとするのを
ことごとく反対され
ほぼ家出同然で都会に出てきたこと

バイトを掛け持ちしていること

将来の夢がだんだんはっきりしてきたこと


ユノは眩しそうにチャンミンの話を優しい表情で聞いていた。

それでも…

ユノは自分の話をほとんどしなかった。


チャンミンは、ユノのことをもっと知りかった。

でも、なぜか容易く聞ける気がしなくて
ユノから話すのを待とうと思った。



それから、ユノは時間が合えば駅前を覗き
チャンミンの歌を聴いてからご飯に連れて行くというのが、2人の日常になりつつあった。


チャンミンはもう、ユノへの想いをはっきりと認めていたし

ユノはユノで、チャンミンへの気持ちに気づかないふりができなくなっていた。


今日もラーメンを食べて別れる交差点

チャンミンが名残惜しそうにユノを見つめる

「いつも、ご馳走になってばかりですみません」

チャンミンがぺこりと頭を下げた。

ユノも愛おしそうにチャンミンを見つめる

「俺が好きでやってることだから、気にするな」

それに対して優しい笑顔で応えるチャンミンを
ユノは抱きしめたいと思う。


季節はもうすぐ春
遠くで春雷が聞こえているような夜だった。






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