プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束 2




ショッピングモールの吹き抜けの真ん中に小さなステージがあり、ベンチが5列ほどセットされている。


ステージではサリーが新曲を披露していた。

どこかで聞いたようなアイドルの歌を危なっかしい音程で歌っていた。

サリーの売りは歌でも、ダンスでもなく
その可愛い笑顔だった。

その笑顔にはそれなりのファンがつき
今日もリュックを背負った若者がいくつかのグループを作ってサリーの応援にきてくれている。

時おり沸き起こるドスの効いたサリーへのコールに

そばを通る買い物客が驚く。


ユノは少し離れたところから、ステージの様子を見ていた。


懐かしい…


まだ15歳にもならなかったあの頃のユノ

7人からなる大所帯のアイドルグループ「MAD BLOOD」

メンバーの中で一番マンネだったユノは
今ほど背も高くなく、可愛い顔立ちをしていた。


中学のダンス発表会で
たまたま自分の娘を見にきていたプロダクションの社長に気に入られ、ユノは割とトントン拍子でアイドルになった。

ダンスが得意なユノは自分が認められて嬉しくて仕方なかった。

将来は名だたるアーティストと肩を並べるようになってやる。

ユノの野心とも呼べないほどの子供らしい夢はキラキラと光輝き、その前途は明るかった。

けれど

グループを結成したものの
7人全員のキャラ設定も曖昧で、またその頃たくさんのボーイズグループがデビューして「MAD BLOOD」は今ひとつ抜きん出ることができず、迷走していた。

他のグループが良かったというわけでもないし、
「MAD BLOOD」は一人一人はとても良かった。

ただ、売れるにはプロデュースという技が必要だった。
ユノの事務所は肝心のそれがなかった。

それでも7人の仲も良くて、ユノはメンバーから可愛がられ、売れなくても毎日が楽しかった。

地方巡業は修学旅行のようだったし
レッスンは厳しくてもみんなで励ましあった

まだ、子供だったのだ。

今となってはそう思う。

リーダーで一番年上のギルことキム・ギョル。

ユノはギルが大好きだった。
憧れの存在でユノにとって唯一無二の存在

ユノの中ではMAD BLOOD=ギルだった

ユノはギルに甘え、ぴったりとくっついて行動し
ファンにはその様子が見ていて微笑ましいと人気だった。


そんなギルが

レッスンに来なくなりだした


新曲も決まって、もう振り付けも決まっているのに

一番人気のギルがいなければ
新曲を披露することはできない


そして、マンネのユノだけが知らされていなかった
ギルの脱退の事実

ギルは正当な方法で、礼儀も尽くしグループを離れた

ユノは何が起こっているのかわからなかった。
ついこの間まで一体となっていた自分たち

兄たちはユノにウソをついた。

ギルは留学するのだと
MAD BLOODのために


ギルは、さみしくて縋り付くユノにキスをしてくれた
ユノはギルをそういう意味でも好きだった。

「俺はね、ユノ。事務所を離れることはなんでもない。でもお前と離れるのだけがつらいよ」

そう言って抱きしめてくれた。

「留学するって聞いてるよ、ギル」

「誰が…留学するなんて言ったの」

「みんなが…」

「そう…まぁ、留学みたいなものかな…」

「ほんと?留学なんだよね?戻ってくるよね?」

「ごめん、ユノ、本当に」

「戻ってきてくれるよね?
今より大きくてカッコいいギルになって」

「……」

「僕、ギルに釣り合うアイドルになるように
がんばるから…」

「………」

「約束だよ?また戻ってきてね」

「わかった、ユノ。いつかね」

「約束だからね?」


そしてギルは戻ってこなかった


ずっと後からユノが知ったこと


ギルはずっと事務所に訴えていた。

このままでは「MAD BLOOD」は陽の目を見ない

他のグループのように、メンバーの役割やキャラ設定をきちんとして
このグループならではの魅力をアピールしないと。

根拠のない自信家の社長にとって、
ギルは稼ぎ頭だったのに、やがて小煩い生意気なメンバーとなっていく

ギルも抜けていつまでもパッとしない「MAD BLOOD」
事務所はやがて借金を背負うようになっていた。


プロモーションにもお金がかけられず
すべては悪い方へと転がっていった。


ギルの脱退は事務所にとってあまりにも大きな痛手だった。

ギルはもちろん留学したのではなく、
他の事務所でソロのアーティストとして
華々しく再デビューをした。

みんなに嘘をつかれ騙されていたユノ。


仕事のなくなったユノは、家のテレビでギルを見た時、
足元からすべてが崩れていくような錯覚に陥った

うそつき…ギルのうそつき

それからユノは声を出すことができなくなってしまった。

心配した親が病院へ連れて行き
過度のストレスから来るものだと診断された

部活気分で楽しくやっていたところへ
突然大人の事情で足元を掬われた

信頼していたギルが自分を裏切った

ギルは留学なんかしなかった。
自分たちを捨てたんだ


大好きだったギル。

時間をかけ

メンバーの助けもあって
やがて回復の兆しが見え、声が出るようになったユノ。


活動をしなかったのはほんの1年だったのに
もう「MAD BLOOD」は人々の記憶から忘れられていた。

元々、第一線で活躍していたグループではない。


こんな感じの小さな仕事ばかりこなしていた。

いつか大きなステージでライブができることを夢みて


「あの!」


ぼーっと考え事をしていたユノの背後から
突然元気な声が聞こえて

ユノは驚いて振り向いた

「?」

そこには清掃員の作業服を着た若い男

ニッコリと笑って、帽子を取ってぺこりと頭を下げた


「あ!昨日の?駅でギター弾いてた…」

「はい!シム・チャンミンといいます。」

「あ……」

「昨日はちょっともらいすぎてしまって
今度また聴きにきてくれた時に返そうと思ってたんです」

「そんなの、いいんだよ」

「とは言っても、今は持ってないんですけどね」

そう言ってクスクスと笑う姿はやっぱり可愛い

しばらくユノは笑うチャンミンを見つめていた。

「バイトなの?ここで」

「そうです、えっと、あー」

「俺はユンホ。」

「ユンホさん」

「ユノ、でいいよ」

「ユノさんはここで何を?仕事ですか?」

「そう。サリーのマネジメント」

そう言ってユノは歌っているサリーを指差した


「えっ?芸能プロダクションの人なんですか?ユノさん」

チャンミンは驚いた顔をしている。

「あ、そうだけど、でも勘違いしないで。
大きな事務所じゃなくて、こんな感じの仕事ばかりだから。
俺にデビューの期待をしてもムダだよ」

その言葉を聞いて、チャンミンが突然不機嫌な顔になった。

「?」


「僕は、自分に得になるからって理由だけで
人に近づいたりしません」


あ…そこまで深い意味はなかったんだけど

「いや、大したことない事務所だって言いたかっただけだよ。君のことをそんな風に思ってないから」

「チャンミンです」

「え?」

「僕の名前」

「あ、うん、チャンミンのことをそんな風に思ってないから」

「………」


怒らせてしまったな
下を向いてモジモジとしている


「すみません」

「え?」

「僕、すぐ怒っちゃうんです。すみません」

「…いいよ、大丈夫」

真摯な表情と、自分を上目遣いに見る様子が可愛い


真っ直ぐで直球

思ったことをすぐに口にしては、後悔する


まるでかつての自分のようだった。


もう少し…話がしたい

そうユノは思った

この後、会えないだろうか…


「あのさ」

「はい」

ひょこっと顔をあげたチャンミンに
遠くから声がかかる

「おーい!何さぼってんだー」


見ると、スペースの端っこで同じ作業服を着た数人の男たちだった。

「あ、僕行かなきゃ」

「そうだね、悪い」

「ユノさん、何も悪くない」

そう言ってチャンミンはニッコリと笑った

「それじゃあ!」

「ああ、バイトがんばって」

チャンミンは帽子をかぶりなおして
仲間たちのところへ戻った


チャンミンに思わず声をかけてしまった自分を少し恥ずかしく思いながら、ユノはまたサリーに集中した


仕事仲間に合流したチャンミンがじっとユノを見つめていることに気がつかなかった。







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