プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束 1





ユノは今日やるべき仕事を終えて
サリーの明日のスケジュールを確認した。

ショッピングモールでの新曲発売記念ミニライブ

CDの購入者はサリーと握手ができ、
一緒にチェキが撮れる特典付き

とはいっても…

一体何人集まるのか

いつも来てくれるコアなファンのグループがいくつかはあるけれど
握手会で列ができなければ見た目が悪い

サリーが、握手に来るファンを待っている状態では
あまりにも興醒めだ。


ため息をついて、ユノは数人の友達に連絡をとった

明日、ヒマなら買い物ついでに握手会に
顔を出してもらえないか。

CDはもちろんタダで渡すので。

CDはいらなければ、後から返してくれてもいい。

列を作ってサリーと握手してくれないか


今度ユノが飲みに付き合うならと
何人がが話にのってくれた


とりあえず、どうにか格好はつきそうだ。

やれやれと思いながら
ユノは最寄りの駅に向かった


春を予感させる陽気にはなってきたけれど
夜はまだ寒い

ユノはコートの襟をたて、足早に歩く


上背のある、バランスのとれたスタイルのユノは
しっかりした肩幅に不釣り合いなほどの小さな頭が乗る

繊細でありながら、彫りの深い整った顔立ち
それでもスッキリと涼しげな目元が、その表情を男らしく見せる

顎から首にかけての綺麗なラインは
中性的なセクシーさを匂わせていた。

駅から出てくる女性の数人はユノを振り返る


元アイドルだったのだと言われたら
なるほど、と思わせるものがあった。


ユノほどのルックスで、芸能人としてなぜ陽の目を見なかったのかと、その過去を知った者は思う。


いろいろあるんだよ、と
いつもユノは笑った


いろいろあったんだよ…


今日はいつもより遅い時間のせいか
駅に向かう人は少ない



ふと、ユノの耳にギターの音を確かめる音が聞こえてきた

なんとなく音がする方を見ると

若い男性が駅前のコンコースで、ギターを演奏する準備をしていた。


よくある光景だった。


今までそんな存在に気づかなかったのは
この時間に駅に来ることがなかったからかもしれない。


路上ライブ


いつかデビューしてスポットライトを浴びることを
夢見ているのだろう

現在メジャーになったアーティストも
路上ライブ出身者が少なくない。


みんなが輝いて見えて
ユノはそれが眩しすぎてつらい

夢にあふれるその姿は
かつての自分をみているようで
そして、それが叶わなかった苦い思いが蘇る

やっと最近になって、
もがき苦しんだ闇から抜け出したような

いや、諦めがついて開き直ったと言ったほうが正しいか


ユノはハッとした

忘れ物をした!


たいしたものではなかったけれど
明日はショッピングモールに直行だ

ユノは踵を返して会社に戻った。

そして

時間をとったのは30分くらいだろうか


ユノはまた駅に向かうと
さっきのアーティストがギターを弾いて歌っているのが
聴こえてきた

アコースティックギターの音色に
高く澄んだ優しい声が合っている

疲れた心に優しく響くような
押し付けがましくない、素直な歌声

ユノは珍しく足を止めた。


ずっと聴いていたいような
そんな歌声

歌自体は人気のアーティストのコピーではあったけれど
音程もリズムもしっかりとしていた。


ユノはゆっくりと吸い寄せられるように
その歌声に引き寄せられた


派手な衝撃があったわけではない

才能に出会った、などという強烈さがあったわけでもない。

ただ、疲れている時の優しい飲み物のような
そんな心地よさがその歌声にはあった。


歌っているのは、若い青年。

学生だろうか。

木の椅子に腰掛け、長い脚を組んで
ギターを弾いている


淡い色の髪は少しクセ毛で
東洋人離れした目鼻立ちのハッキリした顔

だからといって、くどい感じはなく
透明感のある儚い魅力があった。

語るように歌い、その歌声と、おそらくそのルックスに
何人かの女性が立ち止まって歌を聴いている


青年の前にはギターケースが広げて置いてあり
コインがいくつか入っていた。


ユノはポケットから、小銭を探した。

今日タバコを買った時に、たしかあったはず


青年が歌いながらチラリとユノを見た

ポケットを探すユノを見て、
当然コインを投げてくれると思っているだろう


ユノは少し焦りだした。

小銭が…ない


このまま帰ってしまってもいいものを
ユノはそういうところに変にプライドがあった。


ユノはとうとう鞄から財布をだした。

小銭入れには適当な小銭がない


あるのは、何かあった時のための札

路上ライブでギターケースに投げ入れるには
不似合いな額だった。

惜しいとは思ったけれど
引っ込みがつかなくなり、ユノはその札を
そっとギターケースに入れた

歌いながら、チラとその札を見た青年が
驚いたようにユノを見た。

大きく見開いた瞳を長い睫毛が縁取る

可愛い

ユノは普通にそう思った。


照れ笑いをしながら、気にしないでくれ、といったジェスチャーをしてユノは立ち去ろうとする。

突然、青年は演奏をやめて、ギターを置いて立ち上がった。

「あの…すみません…こんなにたくさんは…」


もうユノはただ恥ずかしくて
その場を急いで立ち去ろうとした

「待ってください!」

青年が追いかけてくるのがわかった。


改札の前でマネーカードを出そうと手こずったユノに
青年が追いついた。

「あの…こんなにいただけません…」


青年はユノが渡した札を握りしめていた。

「気にしないで。
っていうかさ、ギター置きっ放しでいいの?」

「あっ!」

青年は慌てて走り去った


随分背が高いんだな

走り去る後ろ姿を見てユノは思った。

驚いた顔がなかなか可愛い

ちょっと抜けているのかもしれない


自分としたことが…またそんなことを言うか

ユノは自分で苦笑した。


ユノはどちらかと言うと
女性より男性を可愛いと思うタイプだった。


ユノの兄貴分な性格や、その気質から
慕ってくる男の子は多かった。

そんな寄ってくる取り巻きの中には
ユノ自身とそうなりたいと思う者もいて

ユノも気が向けば付き合ったりもした。


だけれど、そんな関係に今ひとつ真剣になれないのは
おそらく、自分が他人を信用しきれないせいだろう

ユノは自分の中に深い傷と闇を持っていたけれど
それを他人に知られたくなくて必死だった。



シム・チャンミンは少し息を切らして、さっきまでギターを弾いていた場所に戻った。

よかった…

ギターもギターケースの中のコインもそのままだ。

けれど、駅の時計を見るともうコンビニの夜間バイトに行く時間だった。

チャンミンは急いで片付けて、一旦家に戻った。

バイト先はすぐそこなので、チャンミンは家でコンビニの制服を着てから出かける。

夜中のコンビニはそこそこ忙しいけれど
なぜか今夜は客が少ない

ヒマだと眠気が襲ってきて良くない


今日会ったあのサラリーマン

カッコよかったな…


チャンミンはぼーっとそんな事を考えていた。

僕にあんなにお金をくれて
きっと持ち合わせの小銭がなかったんだろうけど

また来てくれるといいな


やがて、空は白みはじめて
チャンミンは夜間のバイトを終えた。

昼からは清掃の仕事だ。


アパートに帰って数時間は寝れるかな
コンビニで期限切れのキンパをもらい、ビールを買って帰った。

歌手になるんだと大見栄を切って家を飛び出した手前
どんなにひもじくても実家には帰れない

思いのほか、都会で暮らすにはお金がかかった


本当は歌を作る時間も欲しかったけれど
今は生きていくのに精一杯だった。


今日もまた何も進展のなかった自分の人生

でも、あのカッコいいサラリーマンに会えたし
たくさんお金もらったし

かなりいい一日だったということで

そんな風に思いながら、あっという間に眠りに落ちた





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ご無沙汰してます、百海です。

新しいお話がはじまりました。

少しほんわかなファンタジーが続いてたのですが
今回は暗めです

「こんな感じの韓国映画に
2人が出てくれたらなぁ」ってやつです。

心に傷を持つユノさんと
それを健気に癒そうとするチャンミン

愛が強すぎて
足を踏み外してしまう2人です

楽しい、とは言えないかもしれませんが
お時間があったら、またこういうのが好きという方が
いらっしゃればどうぞ読んでみてください

ちなみに私はこういうのが大好きだったりします
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