プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

大好き 32



翌朝、普通にユノは出勤した。

昨日言い合いになったことなどなかったような朝。
また、お互いとりつくろったような日々のはじまり

ユノには毎朝の日課があった。

それは駅前の交番に立ち寄り
指名手配のポスターを見ることだった。

今日も特に更新がなく、ユノはホッとした。
更新があると、その人物の顔をマジマジとみた。

チャンミンは整形をしてるかもしれない
少しでも面影があったら…

そんな心配からだった。

そして、チラッと駅員室を見る。

あの駅員は普通に仕事をしている。

胸ぐらを掴んで、チャンミンとの関係を問いただしたい衝動をユノは抑えている。



その朝、チャンミンはあることを思いつき、
少しテンションが上がった。

ユノが生徒とオーディションに向かって頑張ってるなら
自分もその手伝いをしようと思った。

夜遅くまでレッスンをしていれば
お腹がすくはずだ。

ユノもだけれど、生徒だって高校生だ。
食べ盛りのはず。

チャンミンは一口でつまめるサンドウィッチをいくつも作って、レッスンスタジオに持って行こうと思った。

疲れた2人に食べてもらえたら

パンも厳選したけれど、その中身もよく考えた。
カロリーを抑え、それでもバランスのいいものを。
何より味だ。

チャンミンは少し大きいかなとも思えるランチボックスに、手製のサンドウィッチをきれいに詰めた。

温かい紅茶も淹れていこう


通常のレッスンが終わり
ソンジュは今日もユノの個人レッスンを心待ちにしていた。

ソンジュは大学時代のユノを知っていた。

まだ小学生だったソンジュだったけれど
施設の先生に連れて行ってもらった学祭で
初めてユノのダンスを見た。

子供心に、人生を変えるほどの衝撃を受けた。

ユノは誰より力強く
そしてうまく説明できない魅力があった。

その頃のソンジュには何が衝撃だったのかわからなかったけれど、今ならわかる。

それはユノが天性に持つ「色気」だった。

男の色気というものがどういうものなのか
何も染まっていないソンジュの心にいきなりそれが染み渡った

ドキドキしたあの気持ちが、今でも忘れられない。

ユノは当然デビューするのかと思っていたけれど
それきりその姿を見ることはなかった。

偶然に見かけたダンス教室のHP。
ユノが講師として顔写真を載せていたのを見て
ソンジュは即手続きをとった。

憧れがどこまでも膨らむ

今は毎日が天国のようなソンジュだった。

「オーディションは申し込んだから
あとは内容をもう少しつめていこう」

「はい!」

ユノが大きな鏡に向かってポーズをとる

長い首をその限りに伸ばして
指先の爪まで神経が行き届いているようなポーズ

肩の筋肉が美しく盛り上がる

「目線は指先から」

ユノの眼差しは、すでに演技に入っていた。

力強い音楽には力強く、悲しい音楽には切なく

躍動するかと思えば、しなやかに舞う
緩急をつけた動きにソンジュは必死でついていった。


チャンミンはたくさんのサンドウィッチが入ったボックスと共に、スタジオへ行った。

すでに顔見知りの受付に挨拶をする。

「ユノさんは小さい方のスタジオにいますよ」

「入っていいですか?」

「うん、毎日熱心なのはいいけど、
もう休憩するように言ってやってくださいよ」

「わかりました」

フフっと笑いながらチャンミンは地下へ降りて行った。



「さあ、今日はこの辺で終わりにするか」

「まだ、大丈夫です!」

「ソンジュ、気持ちはわかるけど
疲労はよくないんだぞ」


「……わかりました」


ユノはタオルで自分の首筋の汗を拭いた


「後は仕上げって感じだな」

「あの…」

「ん?」

「いきなりなんですけど、聞いてもらえますか」

「なにを?」

「僕の…夢…なんですけど…」

「おー!聞きたい!どんな夢だ?」

「えっと…」

「恥ずかしがることなんかないんだぞ」

「いつか……先生とステージに立ちたいんです」

「俺と?」

「はい、先生と2人で」

「どうしてだよ、俺なんかと」

「憧れなんです。先生が」

「そうなのか…あーありがとう、うん、うれしいな」

ユノが照れ臭そうに笑う
真っ白な歯がその笑顔を輝かせる

「もうひとつ聞いていいですか?」

「うん、なんだ?」

「その…先生は…その…」

「?」

「男の子と付き合ってるって…」

「………」

「………」

「……そうだけど?」

「あ、すみません…」

「それがどうかした?」

「いや…あの…どういう気持ちなのかなって」

「………」

「あ、なんか…こんなこと…聞くべきじゃなかったですよね…」

「何が知りたいの?気持ちの部分?身体のこと?」

ユノが汗で色が濃くなった自分のタンクの胸を
トントンと親指で叩く

「すみません…興味本位で聞いてしまって」

「うん、その気持ちわかるよ。どういうことなんだろうって思うよな」

「はい…あ、いや!すみません!」

「アハハハ…正直だなぁ、ソンジュ。
俺、そういう正直な反応って大好き」

「僕は正直です」

ソンジュは顔が真っ赤だ。

「そうか。」

「僕は…先生の事を思って踊ると
綺麗だと褒められます」


「…………」


空気が少し変わってきた…



その頃チャンミンは、通りを全速力で走っていた。
スタジオから飛び出して泣きながら走っていた。

涙が横に流れて、チャンミンのこめかみを濡らし
その涙は耳にまで入ってきた

向かいを歩いてくる人たちが
チャンミンのスピードに思わず道を開ける

チャンミンは口元を歪ませ
人目も気にせず走った

チャンミンは手に何も持っていなかった

ユノのために

ユノの夢を一緒に叶えてくれるその子のために

一生懸命作ったサンドウィッチ


ダンス教室の廊下に
叩きつけてきてしまった。



あの子はユノが好きだ

そしてあの子はユノの夢を叶えてあげることができる
こんな自分とちがって…

ユノが…あの子と踊るのを見たら
もう耐えられなかった

僕といる時より、ユノはうんと楽しそうだった。

僕の前ではほとんど見せてくれなくなった
あの笑顔が全開だった

一緒に夢を追うあの子

僕は何にもできない…

僕は結局何にもしてない…



チャンミンは泣きながら、公園を抜けて走った


アパートに帰るに帰れず
泣きはらした顔で夜遅いスーパーに寄った

どうしてスーパーに寄ったのか
自分でもよくわからない

その明るさに引き寄せられたのか
アパートに帰りたくなかったのか

売っているものはほとんどが安売りになっていた。

人のまばらなスーパーの中をあてもなくよろよろと歩いた

棚の突き当たりには、ペットコーナーがあり
チャンミンは大好きだった猫用のチューブのおやつを見つけた

懐かしいな

これ、大好きだったな。

ユノがいつもくれたんだ。
僕がこれを好きだから、たくさん買ってくれた

チャンミンの目にはまた涙が溢れてきた


仔猫に戻りたい…

戻って…ユノのパーカーのポケットに入りたい

あの優しい笑顔で見つめてほしい


チャンミンはその猫用のおやつを大量に買い込んだ
どうしてそんなことをしたのか、自分でもよくわからない。




「先生を思って踊ると…」

「……」

「僕は…あの…先生のことが…」

「あのね、ソンジュ」

「…はい」

「俺はね、男が好きってわけじゃないんだ」

「えっ?」

「………」

「だって、みんなが先生は…」

「俺は、ソイツだから好きなんだ」

「……今、付き合ってる…ひと?」

「一緒に住んでる」

「あ…そ、そうですか…」

「大好きになったヤツがたまたま男だっただけ」

「………」

「さ、今日はこれでおしまい。
また明日から気合いれていこうぜ」

「……」

ユノはソンジュの顔を覗き込んだ

「わかった?」

「……はい」

「ほんと?」

「はい!わかりました!明日もよろしくおねがいします!」

「はーい、その調子。それじゃ、また明日な」

2人は笑顔だった

ソンジュは諦めたような笑顔ではあったけれど
スッキリとした表情だった。





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