プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

ブリキの涙(30)



ベッドに眠るチャンミン

いつもと変わらない、俺のチャンミン

可愛い顔でぐっすりと眠っている



ユノはベッド脇に腰をかけて
その寝顔をみつめていた

目が覚めたら、

「おはよう、ユノ!」

そう言って首に抱きついてくる

そんな気がする


ユノはその寝顔をみつめながら、いろんな事を考えた

チャンミンと出会って自分は変わった

誰かの為になにかしてやるとか
誰かの前で泣いたりするのも初めてだった


俺自身が母親を恋しいという気持ちは人一倍強かったように思う。

だからこそ、チャンミンを家族の元へ返したかったのもある…

とりあえず、ドンジュに託すのが一番いいし
ドンジュとしたら、俺が姿を見せるのはそりゃイヤだろう

あいつは自信がないのか?
俺だって、またチャンミンが戻ってくる自信なんてない…


チャンミンが目覚めた


「チャンミン?」

状況が把握できないような様子でぼーっとしている
まだ布団から出ようとしない


ユノは立ち上がり、チャンミンの様子をみていた

チャンミンは訝しげな顔をしながら
あたりを見回した


表情が…今までのユノのチャンミンではなかった

こんなにも違うものかと、ユノはショックだった


もう、気安く名前を呼べない


チャンミンはむっくりとベッドに起き上がって
ユノを見つめた


見つめ合う2人

数時間前、泣きながら抱き合って、
愛してると伝えあって、キスをした2人はもういない…

ユノに急激に寂しさが襲ってきた

それは想像以上の寂しさだった


こういうことなのだ

最初から自分をオーナーとしていたロボットのチャンミンと態度もまるでちがって当たり前なのだ


チャンミンはユノを見ても何も感じないようだった

「あの…」

やっとチャンミンが口を開いた


「なに?」

ほんの少しの期待を込めて、ユノが聞く

自分の名前を呼んでくれたりはしないだろうか


「どなたですか?」


ユノは打ちのめされた
奈落の底に突き落とされたような…そんな感覚

ユノは大きくため息をついた

「チョン・ユンホです」

「ユンホさん…」

「はい」

「シム・チャンミンです」


薄くチャンミンは微笑んだ

ユノも薄く微笑んでうなずいた

「ユンホさんはミノの会社の人?」

「まあ、そうです」

「じゃ、お世話になったんですね?」

「下でみんなが待っていますよ」

「みんな?」

「ミノや…ドンジュ先生」

チャンミンの顔がパッと輝いた

ユノはその嬉しそうな顔を直視できなかった

「着替えて用意して、下に行くといい」

「あ、はい…すみません」


チャンミンは立ち上がり、用意されたチェックのシャツとジーンズを履いた

ユノは荷物を玄関まで持ってきた

「こんなにですか?全部僕の荷物なんですか?」

「心臓は大丈夫なんです。もうこれくらい持てますよ」

「心臓…大丈夫なんですか?
ミノは計画を実行してくれたんですね?」

「後で説明があるかと思います」

「ありがとうございます」


「これは、充電器…」

「はい?」

「これはとても大事なので、しっかりと説明をきいて、毎晩ちゃんと充電するように」

「はい」

「特注なんです、これ」

「は?そうなんですか?」

お前のために…特注したんだ…


「ま、いいんですけどね、そんなこと」

「?」

「これはカード」

「はい。なんのカードですか?」

「毎月、この口座にあなたの維持費が振り込まれます」

「はい…」

「しっかり管理してください。お母さまに渡すといいですね」

「はい」

「枕や、パジャマも充電しながら楽に眠れるように作ったから」

「…はい」

「古くなったら、ミノに言ってください」

「わかりました」

「あと、なにかいろいろあったんだけど…」

「わからなかったら、また教えてください」

「私はこれであなたとはもうお会いしないんですよ」

「あ、そうなんですか。
なんか…いろいろとありがとうございます。」

チャンミンはぺこりと頭をさげた


「チャンミン…」

「はい?」

ユノの心に愛おしい気持ちが溢れてきた

でも、自分が愛したチャンミンはもうここにはいなかった


「元気でね、管理はしっかり」

「はい…」

「せっかく…もう一度人生を生きることができるんだから…大事に…」

「そうですね、ありがとうございます」


2人で大量の荷物を持ちながら
エレベーターに乗った


「ユンホさん」

ふいにチャンミンから話しかけられた

「え?」

チャンミンはここ、と自分の肩を指差した

「?」

「血がでてますよ」

ユノは自分の肩を見た
昨夜チャンミンに噛まれたところから、うっすらと血が滲んで、白いTシャツに染みていた

「あ、はい」


愛してると…いやだと…そう言って肩を噛んで泣いていたチャンミン

最後の抵抗だったのだろう


エントランスには一台の車と
ミノとドンジュが待っていた

チャンミンはドンジュを見るなり、顔が輝いた


「先生!」

ドンジュも満面の笑顔となり、大きく手を広げると
チャンミンは荷物を置いて、その胸に飛び込んだ

「先生!僕、もう心臓は大丈夫だって!」

「うんうん、よかったな。
でも、これから医者に行って、きちんと説明してもらうから」

ミノが悲しそうにユノを見て近づいてきた

「ユノさん…ほんとに…」

「入金するカードも渡しておいたから」

「あ、はい…」

「特注したものがダメになったら言って」

「はい…」

「まったくと言っていいほど…」

「はい?」

「俺のことは…覚えてないみたいだから」

「あ…はい…」

「大丈夫だと思う。うまく前の生活になじめる」

「ユノさん、ありがとうございます」

「お前も元気で、チャンミンを頼むな」

「はい…」



チャンミンは嬉々として車に乗り込む
ドンジュが運転席に入る前、ユノに向かって深くお辞儀をした

ユノは軽くうなずいた

続いてミノが後部座席に乗り込む前に
ユノに深くお辞儀をして、なかなか頭をあげなかった


さようなら

チャンミン


元気で


きっと、前の人生よりも輝く時間を過ごせるはずだ

走れて、愛し、愛されて…


そうして、ユノはまた1人になった。

部屋に戻ると、あまりにガランとしたその様子に
ため息をひとつついた…

シーツにはまだチャンミンの匂いが残っているだろう

でも、それでもユノは満たされない

ユノのチャンミンはいない…

ユノは小さなUSBを眺めた

俺のチャンミンはこの中に閉じ込められている

消去されているというけれど、本当だろうか

その小さなUSBがユノにとってはチャンミンの骨壷に見えてきそうだ

ユノはPCを開くと、そのUSBを差し込んでみる

でてきたのは、EMPTYという文字だった

何もない…空っぽだ…

そこではじめて…ユノはチャンミンがいなくなったことに気がついた

ユノは泣いた…

張り詰めていた気持ちの糸がプツンと切れたように

ユノは誰もいない部屋で声をあげて泣いた




さようなら、チャンミン…





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