プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

ブリキの涙(20)



ユノが誰かと連絡をとっている

なにかコソコソと
どうも僕には知られたくない話のようだ。

それでもこの間も僕の勘違いだったし。
ユノは僕のためにパンを買いに並んでくれていただけだった。

でも、実はその前も
ユノはどこかに出かけて長い間、帰ってこなかった。

ユノの仕事のスケジュールは僕が把握している。

今日も予定外で出かけるようだ。

僕はユノのマネージメントが仕事だから
ユノが仕事以外でどこへ行こうと関知できない。

でも、もうこんな仲なのだ

そういう意味での僕なら
ユノの出かけ先を聞いたっていい。


「今日はパスタランチ行きませんか?」

「あ…ランチは予定があるんだよ」

「ふぅん、だれと?」

「仕事でさ…ちょっと有利に動いてくれそうな人がいてね」

「スケジュールには入っていませんが」

「そう…急だったし、仕事ってほどでもないから」

「そうですか。じゃあ、また今度行きましょう」

「明日行こう、な?」

「はい」


いけないとは思ったけれど
チャンミンはユノのGPSをオンにした。

「じゃ行ってくる。」

「行ってらっしゃい」

ユノの動向を探るなんていけないことだけど
どうしても気になる

ユノをGPSで探ると、都心というよりは郊外の方へ出かけているのがわかった。

こんな場所になんの用だろう。
普通の住宅街だ。

おかしい。

チャンミンは外出時に義務付けられているメガネをかけて上着を羽織った。

いまだになぜメガネが必要なのかよくわからない

チャンミンは場所を特定すると、タクシーを拾ってその場所に行ってみた

降りたところは普通の児童公園で
まだ学校がある時間のせいか、子供の数は少ない。

それでも試験期間なのか、ちらほらと中学生くらいの生徒が公園を横切る。

チャンミンはユノの場所を特定してそこへ行こうとしていた。

そのとき

「オッパ…」

そんなつぶやきが聞こえて振り返った。

そこには中学生の女の子が1人、
驚きのあまり口がきけない、といった風にこちらを見つめている

「まさか…オッパ」

「人違いですね、私はあなたのお兄さんではありません」

「あ…そう…ですよね、すみません。
亡くなった兄にそっくりで…でもメガネとか…
はい、すみません」

「いえ」

女の子は深く頭を下げると、そのつむじのあたりに小さな切り傷が見えた。
もう古い傷だろうけれど、細く筋状にそこだけ髪が生えていない。

それを見た瞬間、チャンミンの動きが止まった

頭の中に見知らぬ子供の声


「オッパ…痛いよぅ…」

だれの声?

「大丈夫だよ、セギョン、そんなに血が出ているわけじゃない」

「うそっ!いっぱい血がでてるもん!」



チャンミンは思わず、その傷に触れた

セギョンが怖がるから、血を止めてあげなきゃ

「セギョン、大丈夫だから」


女の子がバッと頭をあげた

その顔は驚きで目を見開き、唇がわなわなと震えている

「私の名前をどうして?」

「名前?」

「今、私の名前を…どういうこと?
オッパ、どうしてここにいるの?」

「だから、オッパじゃないよ」

「このキズを知っているんでしょう?」

「知らない、ほんとに」

女の子は一歩前に出た

「友達がうわさしてた…オッパ生きてるって…
何かの実験台になってるって」

「実験台?」

「よくわからないけど…あたし…その時怒ったけど…でも、まさか…」

チャンミンにひどい頭痛が襲った

その痛みは心臓のあたりをつたって全身に放射されるように広がる

「大丈夫ですか?」

「大丈夫…でももう、それ以上、変なこと言わないで」

チャンミンはそう言い放つと、その場をヨロヨロとしながら去った。

女の子がいつまでもその後ろ姿を見送っていた


なんだろう、この痛みは最近頻繁に起こる。

ユノが心配するし、メンテナンスに連れて行かれるのがイヤだったので黙っていた。

とりあえず、ユノのところへ行こう

そう思い、顔を上げたすぐ先に
ユノの後ろ姿が見えて驚いた。

チャンミンはヨロヨロと木陰に隠れた。

ユノの隣にもう1人男がいる。

どこかで見た顔だ

チャンミンのデータ分析の動きが鈍い
やっとの思い出でなんとか一件データを確認した。

これはあのメンテナンス会社のチェ・ミノだ

点検の時に会った男。

なぜユノと一緒にいるのだろう。

2人は並んで、一軒の家を見上げていた

この家に用事だろうか。


チャンミンはその家を木陰から覗いた


「!」


見覚えのある漆喰の壁、えんじ色の屋根…

知っている…

この家を…


思い出したいような、思い出したくないような

これはいったい…

頭が熱い…たぶん頭の中の機器部品が熱くなっている

ユノはミノと話をしている。
ユノは項垂れて、熱弁をふるうミノに攻め込まれているように見えた。

ユノがその家を見上げる


見ないで、ユノ…

僕の家を見ちゃダメ…


なぜか、ないはずの心がそう叫んで止まない

知られたくない…もう1人の僕

目の前が真っ白になり、チャンミンは倒れた


ドサッという大きな音に
ユノとミノが振り向いた

「チャンミン!」

ユノが駆け寄り、倒れたチャンミンを抱き上げる

「チャンミン!お前どうして…」

「とりあえず、博士のところへ」


ユノの運転する車でチャンミンを博士の元へ連れて行く

「ユノさん、GPS入ってないですか?」

「え?」

「たぶんオンになってますよ。チャンミン、あなたの居場所を知りたかったんじゃないかな」

「……」

あ…

だから、今朝…


だれと会うの?


俺の誤魔化し方が足りなかった

ごめん、チャンミン…

「本当にチャンミンは…ユノさんの事が好きなんですね」

「……」

ミノがつぶやくように言う

「チャンミン、良かった。
ユノさんのところに行って。」

「そう…かな…それは違うと思うぞ」

「僕はこの間失礼なことを言いました。
チャンミンがあなたの…その…」

「いいよ、そんなの」

「ほんと、すみません…」

「この後…どうなるのかな…」

「と、いいますと?」

「チャンミンは…記憶が蘇ってるんだろ?」

「ありえないんですけどね…
記憶を司る部分はないはずなんです。
やっぱり生きていた時の記憶が蘇るのは…まずいというか…」

「生きていたって…チャンミンは生きてるじゃないか」

「そう…ですね…生きているうちに…その…
いろいろと施したので」

「なんて…なんてことを!」

思わずユノは運転するハンドルを拳で叩いた

「だけど…ユノさん…僕は後悔してないですよ」

「は?」

「チャンミンのたっての希望だった」

「それを止めるのが親友だろ?」

「チャンミンは走りたかったし
恋だってしたかったはず」

「だけどさ!」

「叶えて…やりたかった…」

「………」

「僕はね、ユノさん、実はどこかで信じていたんです。」

「なにを?」

「ヒトの記憶って脳だけで覚えているものじゃないって」

「……」

「きっと、瞳や手の感触や…そういうものでしっかり記憶しているんじゃないかって。」

「お前…少しは医学をかじったんだろ?」

「誰かと笑いあったり、誰かを思ったり…
それが脳だけで覚えてるって…違うんじゃないかなって」

「……」

「僕は…そこに期待したんです。少しだけ」

「忘れないんじゃないかって?」

「そう…」

「もしそうなら…お前のしたことは医学なのかもな。」

「え?」

「機械の部分は心臓と脳だけ?」

「脳もごく一部です」

「人体実験はそりゃ、やっちゃダメだろうけど」

「……」

「チャンミンも…家族のためだけじゃなくて
自分も生き返りたかったのかもな…」

「ダメ…ですよね、そんなの」

「ダメだよ…たぶん」


チャンミンを博士に委ねる


ユノとミノは待合室で待った。


「おそらく…」

ユノがミノの声に顔をあげた

「ユノさん、おそらく…もう一度、プログラミングをすることになるかもしれません」

「どういう風に?」

「なにか…こう…昔の事を思い出さないように」

「無理なんじゃないか?」

「そうかもしれないけど」

「………」

「ユノさんはいいんですか?
チャンミンが昔を思い出したら…」

「………」

「………」

「昔のことは…思い出して欲しくない」




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