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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

手を繋いで 4




チャンミンは慌てた

「いつまでも掃除してちゃダメですよね
すみません」

「コーヒー飲もう」

「はい?」

これから開店して仕事がはじまる、という気分だったチャンミンはいきなりのコーヒータイムに驚いた


「開店してもしばらくは誰も来ないよ
隣のカフェにいれば、お客が来ればわかるし」

「あ、そうですか…はい」


チャンミンはユノの後について隣のカフェに入った

隣のカフェもまだオープンしたばかりで
客は自分たちだけだ


「オッパおはよう!」

「おはよ」

お店の女の子がユノをみて笑顔になる

ユノは奥の白いテーブル席に迷うことなく座った


「ユノさん、この席が好きなんですね
この間、面接の時もここでした」

チャンミンがそう言いながら席についた

「え?あ、そうだね
あんまり考えたことなかったけど」

ユノが笑った

ほんとうに綺麗に笑う人だ

チャンミンはそう思った

爽やかで、明るい笑顔


毎日、モニターで眺めるだけだったあなたが
今、ここにいて僕とコーヒーを飲んでいるなんて…


「どうしたの?」

「はい?」

チャンミンは我に返ってユノをみた

「なにか考え事?」

「いや、ユノさんの笑顔が…」

思わずそんなことを言ってしまい、
チャンミンははっとして口を閉じた。

「俺の笑顔がなに?」

ユノが少し嬉しそうだ

「あ…その…」
「俺の笑顔がどうかした?」

「いや、別に…」

「俺の笑顔がカッコいいとか?」

ユノが口角を片方だけあげて得意そうな顔をした

「えと…」

まさか、笑顔がきれいだなんて
男の人に言えない

そこへ助け舟のように店の女の子がコーヒーを持ってきた

「はい、どうぞ」

チャンミンはぺこりと頭を下げた

女の子がユノをみて、頬を膨らます

「ねぇーユノオッパ、紹介してよぉ」

「え?あ、チャンミンのこと?」

「チャンミンっていうのね?」

「はい…よろしくお願いします」

「ユノオッパの笑顔、いいでしょ?」

「は?!」

チャンミンは驚いた

自分の心を見事に見透かされていた?
もしかして、僕はニヤけながらユノさんを見ていたのか

「ユノオッパね、モデルさんだったのよ
だから、そこそこカッコいいの」

「なんだよ、そこそこって」

ユノがふざけて怒った顔をする


「モデル?」

たしかに

まず、スタイルがすごくいい

顔も小さいし、脚も長い
今日だって、無地の黒いTシャツにジーンズなんて、
普通の格好も見事に着こなしている

なんでもない服が特別なものに見える

顔立ちもスッキリと整っていて
ビシッとスーツなど着たらかなりカッコいいだろう

「モデルされてたっていうの
すごく肯けます。」

「チャンミン」

「はい?」

「それはいいから、さっき言ってた俺の笑顔がなに?
その先が聞きたいんだけど」

心なしか、ユノの視線が挑むように自分に向けられている気がする

「えっと…」

「……」

答えなくてはいけないだろうか


「あー、えっと、モデルさんぽいなって思って」

「は?」

ユノがガッカリしたような声を出した

「俺はチャンミンに営業スマイルなんかしないよ」

「そういう意味じゃなくて…
モデルさんって聞いて、なるほどなって」

困っているチャンミンにユノは笑った

「俺のいい方に理解しておくよ」

チャンミンが少し気まずくなってはいたけれど
明るいカフェには穏やかな時間が流れていた

ふと

ユノがレシートを取ってレジに立った

「あ…」

チャンミンも慌てて席を立った

「客が来たみたいだから」

「え?」

ゆったりとくつろいでいたように見えたけれど
ユノは自分の店に客が入っていくのをちゃんと見てたのか

だから、あの席に座るんだ
自分の店も見えるように

寛いでいるかのような態度の影で
ユノは気を張っていたのかと思うと

そんなところもいいと思ってしまう


「チャンミンはまだコーヒー飲んでていいよ」

「それは、ダメです」

チャンミンもユノについて
店を後にした


店に行くと、若い学生風の男の子が2人いて
チャンミンは少し緊張した

「いらっしゃいませ」

ユノは通りすがりにさりげなく言って
なんでもない風に店に入っていく

とても自然だ
戸惑うチャンミンの耳元に
ユノが耳打ちしてきた

「いらっしゃませ、とかの挨拶はさりげなく」

ユノのきれいな顔が急に近づき
チャンミンの耳元にユノの吐息がかかって

チャンミンは飛び上がりそうに驚いた

「でも、店から出る時は
ありがとうございました、はきちんと言って」

「は、はい」

「そんなに緊張することないから」

「……」


少し視線が泳いでしまうチャンミン
そう言われてもやはり緊張してしまう

そんなチャンミンをみて


ヤバイ…とユノは思った

さっきまでは、カフェで朝陽があたるチャンミンが
まるで天使みたいで可愛く思っていたのに

耳打ちした時の、チャンミンの白い頬を目の前にして
ユノは、思わず変な気持ちになりそうになった

こんな狭い店で、毎日顔を付き合わせていて
自分は何もせず、耐えられるんだろうか

そんなことを考えて、ユノは困りながらも
楽しい気持ちになった

やがて、客がいくつかシャツを見繕って鏡で
見比べていた

かなり迷っているようで
友達になんだかんだ言われながら選んでいる

やっとユノが自然に客に近づいた

「その生地だと春から秋口までいけるよ」

「夏も?」

「羽織りで使える」

「あーなるほど」


なんとも自然に

友達が会話するように話が弾みだす

チャンミンはそんなユノと客のやりとりを
憧れのまなざしで眺めていた


「袖が細く見えるけど、ストレッチ効いてるから
着やすいよ」

「うんうん、ほんとだ」

「この上からパーカも着れるんだ」

「冬もいいかな」

「1枚あると便利」


そして、シャツが売れた

チャンミンの出番だ
客が近くにつれて、胸がドキドキする

「あ、あの、お支払いは」

「現金でお願いしまーす」

「はい」

緊張の中

チャンミンの初めての接客が終わった


「ふぅ」

「おつかれさま、チャンミン」

「大丈夫でしたか?僕」

「大丈夫だよ、バッチリだ」


ユノが笑った

とても綺麗に笑った


そして照れ臭そうにチャンミンが笑った

ふと顔を上げると

ユノが真剣な顔で、チャンミンを見ていた

「あ、なにか?
まずかったですか?僕」

「いや」

「……」

「チャンミンの笑顔もすごくいいよ」


「……」


一瞬嬉しそうな顔になったと思ったのに
すぐにチャンミンの顔が曇った

楽しくなる気持ちを
心の奥にあるドス黒い何かが制してしまう


チャンミンの心に雨が降りはじめる


ユノは俯くチャンミンを
興味深げにみつめていた

なんだろう

たまにすごく強張った表情になる

まるで、楽しんではいけないと
自分を制しているような表情

罰を受けているかのような…そんな感じ


それは…

腕時計で隠されている
あの手首の傷と関係があるのだろうか


ユノはあえて明るく声をかけた

「ねぇ、チャンミン」

「はい?」

「接客はきちんとしててすごくいい」

「あ…はい…それならよかったです」

「肩から力抜いてっていうのも難しいだろ」

「そう…ですね、正直なところ
まだ緊張してて…」

「でも、それがかえってキチンとした感じになってるから
無理してリラックスしようなんて思わなくてもいいよ」

「えっと…」

「あ、リラックスするなって意味じゃなくて
今はその感じでも全然大丈夫ってこと」

「はい…ありがとうございます
何かアドバイスあったら遠慮なく言ってください」

「ん…それとさ」

「はい」

「これから一緒にこんな狭い店でやっていくわけだから」

「……」

「ユノさん…なんて呼び方じゃなくて
ヒョンでいいよ」

「……」

途端にチャンミンの顔が強張った

「すみません…」

「?」

「それは…ちょっと無理です」

「あ…」

「すみません…僕…ユノさんのこと
いきなりヒョンなんて呼べません」


衝撃だった


ユノの心の奥の傷が激しく疼いた


" ユノ…ごめんね…"


あの日のスンホの声が耳に木霊して響く


握りしめたスンホの手から力が抜けていくのを
止められなかったあの日


ユノの心にも真っ黒な雲が立ち込めた


「なんか…俺…」

「ほんとにすみません…」

「あ…俺…ごめん」

「……」

「俺…すぐそういうこと言うんだよな
図々しいよな…ごめんな」

「いいえ、せっかくそう言ってもらってるのに
こんなこと言う僕がダメなんです
ほんとにすみません…」

「チャンミンは何も悪くない
謝らなくていいから」

「でも…」

「謝らないで…頼むから」

「……」

ユノの笑顔は明らかに強張っていた


「あ…俺、ちょっと裏でダンボール片付けてるから
お客さん来たら声かけてくれる?」

「はい」


チャンミンはため息をついた


傷つけてしまった…
そんなつもりはなかったのに…

せっかく親しくなろうとヒョンと呼ぶことを許してくれたのに

僕はいったい何がしたくてバイトに応募したのか

ユノさん…

それでも

僕は、あなたにこれ以上近づけない


チャンミンはぼんやりと店の外を眺めた

側にある大学から
生徒が何人かで歩いていくのが見える


やっぱり僕は

アパートで1人閉じこもっている生活でよかったのかもしれない

そんな風にも思えた




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手を繋いで 3




翌朝、ユノはいつもより少し早めに店に出向いた
窓の内側のカーテンを思いきり開けたけれど
closeの札はまだそのままにしておいた

チャンミンにレジのことなどを教えるのにあたって
開店準備の時間を多めにとりたい

ユノの心は、弾んでいた

今日からあのチャンミンと一緒に
自分の店で仕事ができると思うと嬉しかった


やがて、チャンミンがやってきた

予定の時間より少し早い

ガラス戸の外で戸惑っているようだ
どうやって入ればいいのか、わからないのだろう

ガラス戸から店の中を覗き込む姿もたまらなく可愛い

ユノが手を振ると
それを見つけて、チャンミンが安心したような表情になった

ユノがガラス戸を開けてやると
チャンミンはぺこりと頭を下げた

「おはようございます。
今日からよろしくお願いします」

「おはよう、こちらこそよろしくね」

「はい…あの…開店前はどうやって入ったらいいですか?」

「ここらからでいいよ、
俺、少しは先に来てるから」

「はい」

動きやすいようにと思ったのか
チャンミンはオフホワイトのカットソーに
ストレッチのチノパンを履いていた

スニーカーが紺のスエードというところがいい

清潔感が溢れすぎて
店の格も上がるような気がする

こんな王子様みたいな店員がいたら
女子の客も増えるかもしれない

目の前で、チャンミンと客の誰かが恋に落ちるところなんて、絶対見たくないけれど

そんなことを思う自分に苦笑しながら
ユノはレジに入れる釣り銭の袋をチャンミンに渡した

ずっしりと重い布袋を渡されて
チャンミンは戸惑った

「これは釣り銭。
まず、レジの中に硬貨の種類ごとにいれてね」

「はい」

ユノはレジにキーを刺して開けてやった

レトロな、と言えるほどの古いレジスター

「ここに小銭ですね」

「そう、入れ終わったら呼んで?」

「はい」

ユノは買い付けた店から届いた服を分けて
今日店に出す服を選んだ

チャンミンは慎重に小銭を分けていれた

「入れました」

甘い声がレジから聞こえる

「うん、そしたら使い方だけど
このレジスター古いからさ」

「はい」

真剣な顔のチャンミン

レジを見つめるチャンミンのうなじに
早速ユノは目を奪われている

細くて長くて、とてもきれいな白いうなじ

思わずゴクリと唾を飲み込んだ

何も言わないユノをチャンミンが不思議そうに見た

「?」

「あ、えーっと、お客さんが品物とお金を持ってきたらね」

「はい」

「まず精算する」

「はい」

「うちの服にはバーコードがないから
手で金額を打つ、そして精算って書いてあるところを押す」

「……」

頷きながら一生懸命覚えようとしている
いじらしくて、可愛くてたまらない

「カードでと言われたら」

「はい」

「カードを受け取って、こっちのカードリーダーに通す」

「はい」

「うまく通らないときは、ここにカード番号入れて」

「はい」

カードの控えと、レシート両方が次々に出てくるからね」

「はい」

「なんとなくわかる?」

「わかります。あの、でも…」

「ん?」

「一回練習していいですか?」

「うん、じゃあどうしようか」

「ユノさんが、これを買うお客さんになってみてください」

チャンミンがそばにあったTシャツを手にして
ユノに渡した

お買い物ごっこみたいだ
なんて可愛いことをするんだろう

ユノはニヤッと笑った

「いいよ、じゃあ、これください」

「えっと、金額を言うんですね?」

「そう、それで支払い方法きいて」

「25000wです。
えっと、包みますか?」

「……えーと」

「あ…」

途端にチャンミンが悲しい顔になった

「あー!違う、すみません!
えっと、現金ですか?…じゃなくて」

「お支払い方法は…」

「そうでした!すみません!
えっと、お支払いは現金かカードどちらになさいますか?」

「現金でお願いします」

「はい」

なんだか…ユノは楽しくて仕方ない


何度かそんなやりとりをして
チャンミンはレジを覚えた

少し不安な感じもあったけれど
まずはレジをやってもらわないと困るのだ

「あの」

「ん?」

「いきなりレジとかでいいんですか?
お金扱うなんて…
品物並べたりとか、そんなことからやりますけど」

「服畳むのって結構コツがいるんだよ
どの服を上に置くかなんて、結構重要でさ。
ゆくゆくはやってもらうけど」

「そうなんですね、
あ、でも掃除はやります」

「そうだね、お願いしようかな」

「開店前にはまず店の前を掃除しましょうか」

「うん、掃くやつそこにあるから
お願いしていいかな」

「わかりました!」

チャンミンは柄の長いホウキをもって外に出た。


明るい陽の光の中で、アスファルトを掃除していると
だんだんと気持ちが高揚してくる

ストリートビューで好きになったユノさん

あのバーチャルの世界に今、自分がいて
同じようにウィンドウを拭いたりするなんて

チャンミンは思わず笑顔になった

けれど

その笑顔は長く続かない
すぐに寂しげな表情になってしまう

いつも…こうだ…

僕はこんなふうに陽の光を浴びて幸せな気持ちになるなんて、そんな資格はあるのか

少しでも前向きな気分になりかけると
そんな気持ちが頭をもたげて、チャンミンの高揚した気持ちを冷めさせる

毎度こんなことを繰り返して嫌になる

原因は…自分の記憶と心の奥底の悲しみにあった


あの日


ドフンの捜索が打ち切られたと連絡がきて

チャンミンはドフンの家に行った

悲しみのドン底にいたけれど
家族はもっと辛いはずだ

謝罪、をしないわけにはいかなかった
自分と一緒に川に飛び込んで、ドフンだけ帰ってこなかったのだから

ドフンの家では
けじめをつけるための遺体なき葬儀が行われていた

チャンミンには知らされていなかった葬儀

ドフンの太陽みたいな笑顔の遺影が
もう、ドフンが自分の側にいないのだと
その事実をつきつけてくる

ドフンの同僚たちのじっと耐える姿、
同級生や大勢の友達のすすり泣きが
ドフンの人望と人柄を表していた

チャンミンの前を通り過ぎるその人たちは
炎のような憎悪の視線でチャンミンを睨みつける


お前のせいで

ドフンは還らぬ人となった


なぜ、お前だけがのうのうと生きているんだ

何百という責苦がチャンミンを襲う



もちろん

僕はドフンの元に行こうって、そう思った

だけど、まるでドフンがそれを拒むように
僕は自ら死ぬことに、ことごとく失敗したんだ

残ったのは、手首の傷と
拗ねた心

元々、まわりのみんなが、僕たちを反対していた

同性なんか興味のなかったドフンを
僕が好きになって、追いかけ回し、
一般常識というやつからドフンを引っ張り出した

みんなにとっては僕は悪者だった
ドフンを異常な世界に誘い込んで、挙句の果てには命を奪った悪魔。

それが…僕だ


…僕たちは死のうと思ったわけじゃない
逃げようと思っただけだ

反対して追い詰めた周りが悪いんじゃないか

あの日、飛び込もうと言ったのはドフンだ

自分たちの覚悟をみせよう

そう言ってドフンが先に飛び込んだ


救助された僕はそのまま正直に飛び込んだ理由を答えたけれど

それで僕はさらに悪者になった

すべてをドフンのせいにした最低なやつ

……


「チャンミン、まだ掃除してるの?」

チャンミンはハッとして顔を上げた

そこには、太陽のようなユノの笑顔があった

弓なりに細められた瞳はとても優しげで
白い歯が輝く笑顔が、そこにあった

思わず、涙が出そうになった
ユノの笑顔に、澱んだ気持ちが少しは洗われるようだ

ユノさん…

あなたのその笑顔が
この暗闇から僕を救い出してくれそうな気がします

「すみません、もう終わりました」

チャンミンは少しだけ微笑んで掃除を終えた





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こんばんは百海です
拍手コメントだけではなく、「はじめまして」の記事でコメントをいくつもいただいていました!
見つけづらく無礼をしておりましてごめんなさい汗

非公開でお名前が出せない方もいらっしゃるので
ここでお礼を言わせてください

承認し損ねてるコメントも感謝して読ませていただいています。
本当にありがとうございます。

手を繋いで 2



20200528201702c32.jpeg



一目惚れ…だった


店に入ってきたチャンミンを見た時に

もうそれを自覚せざるをえなかった


 
予定の時間より少し早めに、店のガラス戸が開いた

狭い店には、面接をするスペースどころか
座るところもない

店のフロアと、奥の倉庫だけ
倉庫と行っても、家庭のウォークインクローゼットくらいの広さしかない


倉庫で片付けをしていたユノは
人の気配に、フロアに顔を出した


そこにいたのは



まさに…天使だった


天使は
不安そうに…そこに立っていた

縋るような大きな瞳

恥ずかしそうな佇まい


名前はチャンミンといった


チャンミンはユノの心に
風が吹くように入り込んできた


身長が高く、線が細い
ステンカラーコートを少しオーバーサイズに羽織って
襟元からはボーダーのカットソーが見えている

ジーンズの裾が折られているのは
技なのか、単に長いから折っているのかわからない

けれど、なによりも

その、少し怯えたような大きな瞳が

ユノの心を射抜いた


ユノの全身が…五感のすべてが
一気に湧き立つような興奮を覚えた

ユノはその大きな瞳を見つめたまま、
固まって動けなくなってしまった


じっと見つめてるのは変だろうとわかっているけれど
どうにも視線が外せない

恥ずかしげに俯くと、さらに可愛い


バイトのテミンが急に留学をしてしまい
店を辞められて困っていた

小さい店だが、結構学生なんかで賑わう時間もある

最近昇り調子の店だからといって
求人広告をだすほどの金はなく

市役所の職業紹介所へ募集を頼んだ

役所でこんなアパレルの仕事を求める人間がいるとは
思えなかったけれど

真面目な人材なら役所の方が確かもしれないと
知人のアドバイスもあった

レジや品出しをしてくれたら
それでいいと思っていた

だから、正直誰でもよくて
時給とかなんだとか面倒なこと言わない奴に決めようとは思っていた

けれど

誰でもいいなんて、そんな気持ちはふっとんだ

チャンミンじゃなきゃ困る

もう、この目の前ではにかみながら
自分を語るチャンミンしか雇うつもりなんてない

目の前で両手でコーヒーカップを包み
熱くないようにそっととがらす、その唇から目が離せない

さすがに自分の態度はおかしいのではないかと思い
ユノは雇い主らしく書類に目を通した

やっと履歴書の内容が
ユノの頭の中に入ってきた


一流の大学を出ている

けれど、ろくに働いたことがない

そこを突くと
なにやらワケありなようで

その隙に、手首に残る傷まで見えてしまった

なにかあったんだろう

5年間も家で仕事をしていたなんて
人とのコミュニケーションを避けていたのかもしれない

繊細なんだろうな…

そんなところに、ますます心惹かれる

言いにくいことは言わせたくなかったから
サラリと話はしたけれど

一応、なぜ自分の店を選んだのかは知っておきたかった

正直言って
今まで面接した中では
一番条件は良くない

でも

販売経験がなくたって
服に興味がなくたっていい

過去になにがあろうが
今大事なのは、明日からチャンミンと会えることなのだ

戸惑う姿を見ていると
儚くて可愛くて、抱きしめたくなる

完全に惚れた

そう自覚して、とりあえず採用を伝えると
チャンミンは驚いたような顔をした

クリクリとした瞳が本当に可愛くてどうにかなりそうだ




**********



「てめぇ、好みだからって
テキトーにバイト雇ってんじゃねぇよ」

ヒチョルがグラスを揺らしながら
ユノを睨む

「テキトーじゃないよ」

ユノはヒチョルのつまみのアーモンドを
カリカリと齧っていた

ヒチョルはそんなユノをみて
ため息をついた

そして舌打ちをすると、バーテンダーに声をかけた

「お兄さん、悪いけど
チョコがコーティングされてるアーモンドある?」

「チョコですか?」

グラスを拭いている若いバーテンダーが
カウンター越しに意外な顔をした

「このボクちゃん、甘いモノが好みでさ」

ヒチョルはその大きく鋭い瞳を細めた


「そうなんですね、ちょっとお待ち下さい」

そう言って、バーテンダーはグラスに盛り付けたチョココーティングされたアーモンドを出してくれた

「まさにぴったりのものがありました。
でも、ユノさん、甘いモノが好きだなんて、
ちょっと意外ですね」

「こいつは恋人の好みも甘いのが好きでね」

バーテンダーはただニッコリと頷いた


「なんだよ、それ」

ユノは不服そうな顔をして
甘いアーモンドに手を出した

「安易に手を出すなよ
テミンみたいになるぞ」

「人聞きの悪いこと言うな
俺はテミンに何もしてないって」

「何もしないから、あんな可哀想なことに」

「勝手に泣きわめいて、
いきなりパリだかイタリアだかに行ったんだろうが。
店ほったらかしてさ」

「優しくしてやればよかったんだよ」

「かえって残酷なんだよ、そういうの」

「罪な男だ。たまには女でも抱け
みんなお前が振り向いてくれるのを待ってるぞ」

「いやだ」

「贅沢なやつ」


「とりあえず」

ユノは両手を高くあげて笑った


「俺は明日から仕事がパラダイスだ!」

「はいはい」

ヒチョルは呆れたようにユノの肩をポンポンと叩いた


あの可愛いチャンミンと一緒に仕事ができるのかと思うと
ユノは単純にテンションがあがった


一目惚れなんて

正直久しぶりだ


そんなユノを見て
ヒチョルの視線が安堵したような優しいものに変わった


「ユノ」

「ん?」

ユノはアーモンドを一口かじった


「よかったな」

「なにが?」


「ユノが…また人を好きになれたなんて
俺はうれしい」

「……」

アーモンドを噛みながら
ユノがフフッと笑った


その瞳は懐かしそうに遠くを見ていた


あの日の…スンホの声が聞こえてくる


「ユノの想いに…応えられなくて…ごめんね」


体中に管をつけられて
微かな息づかいの中

スンホの目尻からひとすじ、涙が枕に落ちた


泣かせたかったわけじゃない
謝らせたかったわけじゃない

あの時…俺は…

ただ…

大好きなスンホの最期を見届けたかっただけだ
たったひとりで死んでゆくスンホの側にいてやりたかっただけ

叶わぬ恋だったけれど

長年の夢よりもなによりも

あの時のオレは、スンホが大事だった


スンホはユノの想いに応えてやれなかったことを
その人生の最期に詫びた

その僅かな最期の時
ユノはしっかりとスンホの手を握っていた


ひとりぼっちなんて、人生の最期にひとりだなんて
だから、しっかりとその手を握っていたのに

お前はひとりじゃない…
俺が…側にいるから

そう言ってやりたかったのに


「ごめんね、ユノ…」

きっと

俺がその手を握っていたことが
スンホは負担に思っていたのだろう

そんなことに気づきもせず…

俺は…


ヒチョルも懐かしそうな表情になった


「お前、一流のモデルになれるところだったのに」

「わかんないさ、そんなの。
なれなかった確率のほうが高い」

「ユノらしいよ、なんか」

「そう?」

「フラれたくせに、
ここ一番って時にソイツの看取りに行っちゃうなんてさ」

「あの時のオレには
スンホの方が大事だったんだよ」

「一流モデル事務所のオーディションより?」

「ああ」

「年齢ギリで、最後のチャンスだったのに?」

「ああ」

ふんとヒチョルは鼻を鳴らした


「でも、今思うと、行かなきゃよかった」

「ほら、そうだろ?病院行かずにオーディション行ってりゃさ、今頃お前、どこかのショーで活躍…」

「ちがうよ」


あの時…

「俺が病院に行かなきゃ
スンホは穏やかな最期だったんだ」

「……」


「スンホに…謝らせちゃってさ」

「……」

「側にいてやろうなんて
オレの自己満足だった」

「ユノ」

「……」

「スンホはお前に謝ることができて
ホッとして逝けたのかもしれないぞ」

「……」

「最期に…誰かに謝りたいってことも
人間あるだろ」


ユノはいたずらっぽい笑顔を作った

「ヒチョルは特にね
いろんな女にたくさん謝らないとね」

「なんだよ!」

「ヒチョルの最期を看取るのに、女が行列つくるな」

「あ、それは言える」


2人の笑い声が夜更に静かに響いた





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手を繋いで 1



202005022201195bb.jpeg



愛するひとの
その手を離してはいけない…とチャンミンは思った

愛するひとの
その手を離してやればよかった…とユノは思った

 

チャンミンがユノを知ったのは
マップアプリのストリートビューの中だった…


間接照明をひとつつけているだけの、暗い部屋
ひとりぼっちには慣れっこの夜

チャンミンがこの部屋へ引っ越してきたのはごく最近だ

なるべく人との接触を避けて
ひとりアパートでエンジニアの仕事をしていた

ネットで仕事をもらい、ネットで納品

ひとりでアパートを借りて暮らすには
十分な収入があった

ひとりでいるからといって
コミュニケーション能力が低いつもりはない

けれど、この5年間は誰かと楽しく過ごそうという気になれず、ほとんど1人で過ごした

明るい人生を過ごしてきたつもりだけれど
5年前にチャンミンの人生を大きく変える出来事があった


愛する人がいた

同性を愛するチャンミンに、その人は応えてくれた

けれど、愛し合うにはあまりにもまわりの反対は大きく
追い詰められた2人は、川に飛び込んだ

愛するひとの遺体は上がらず
チャンミンだけが生き残った

あまりにも若すぎた自分たちの
浅はかな行動ではあったけれど

まわりは…生き残ったチャンミンを許さなかった

チャンミンは心を病んで、社会から自分を隔離して生きていた

けれど

そろそろ、今よりは明るい人生を歩みたかった

歩きださなければ、とも思っていた。

それでも、ひとり生き残ってしまったことの罪悪感
で、なかなかその一歩を踏み出せずにいた



パソコンの画面が変わるたびに
部屋の色が変わる

青い光が、チャンミンの顔を照らす

チャンミンは仕事の合間に
マップアプリで遊ぶことにハマっていた

アパートの自分の部屋にいながらバーチャルだけど
ストリートビューでいろんなところに行ける

世界中の観光地を検索した
街の中の路地裏へ行ってみたり、楽しみは無限大だった

それに飽きると、知り合いや親戚の家、小さい頃よく遊んだ場所などを検索して、長い時間、懐かしい思いにふけっていることも多かった

このアパートに来てからは、
引っ越してきたばかりのこの街をストリートビューで検索をすることが多かった

生活に必要なものを買う店、カフェ、そんな場所を自分のアパートから歩ける範囲で検索していた。

大学に続く街路樹の通りを調べていて
ふと、チャンミンの目に止まった景色があった


通り沿いの小さな店

店の名前はぼかしてある

ウィンドウに飾られているのがカジュアルなジーンズだったりすることからみると、学生向けの古着屋だろうか

背の高い男性が、店のウィンドウを拭いている

その姿がチャンミンの目を引いた

長い脚をクタッとしたジーンズが包んでいる
オリーブ色のタンクから、たくましい腕がのぞき
肩甲骨が張り出していた

セクシーなひとだ

チャンミンは思った

後ろを向いているせいか、顔にぼかしは入っていなかったけれど、ウィンドウにその端正な顔立ちと思われる影が写っている

カッコいい…

その顔を拡大して、限界まで解像度をあげていく


毎晩、パソコンでその通りに行ってみては
そのウィンドウを拭く男性を眺めた

スタイルがすごくいい
窓を拭いているだけなのに、筋肉が隆起した二の腕が
とても綺麗で目を奪われる


会ってみたい

そんな思いが募っていった

店の名前は地図と検索エンジンで簡単に判明した

" Bagnolet "

バニョレ?

フランス語の名前なんだ…

まずは客として今度店に行ってみようかな

けれど、思うだけで結局は実行には移さなかった


そんな時

引越しの役所関係の手続きに重い腰をあげて市役所に行ったチャンミンは、
予想通り、進まない手続きに待たされて飽き飽きしていた。

隣の労働関係の部署にある求人コーナーへ行ってみた
もちろん仕事を探すつもりなどなく、ただの、ひまつぶしだった。

何気なく見ていた求人情報の中に

あの " バニョレ" の求人があった


***********


柔らかな日差しの中

チャンミンは小さな花束を手に
緑の小高い丘をゆっくりと登っていた

ベージュのステンカラーコートに
ジーンズの裾は少し折り返して
短いソックスにローファーを履いている

お洒落については
自分なりのこだわりがあるつもりだった


チャンミンは
頂上まで登って振り返り、大きく息を吸い込んだ

町の景色が一望できる

この墓地は意外と高い場所にあるんだな

そんなことを思いながら
チャンミンは向き直って、ひとつの墓標の前に立った

キム・ドフン

そう書かれた墓標を
チャンミンは見下ろした

ドフンが生まれた年月日のその隣に
5年前の日付が記してある

それは人生を終えた日付

けれど、この墓標の下に
ドフンはいない


静かに目を閉じると
チャンミンの耳にはあの日のヨジンの叫び声が聞こえる


「兄さんを返して!」

「あんたが兄さんの代わりに死ねばよかったのに!」


チャンミンの閉じた瞼が震えだす

そう

僕が死ねばよかったのだ

ドフンを引きこんだのはどうせ僕たがらって
みんな言いたいんでしょ

そんなこと、あんなに叫ばなくても
僕が一番よくわかってる

でも、僕たちは少なくともお互い合意の上で
あの日、橋から暗い川に飛び込んだんだ

みんなが僕たちをあんなに反対しなきゃ
今頃、こんなことにはなってなかった

生き残った僕だけ責められてもね


チャンミンは静かに目を開くと
手にしていた花束をそっと墓標の側に手向けた

ドフンそのものような優しく凛とした花束

チャンミンはそっと墓標を撫でると
少しだけ微笑んだ


僕ね…働くことにしたんだよ

いつまでも、母さんや父さんにに仕送りさせられないしね
なんて言うのは建前で

ごめん、僕、ドフンには申し訳ないけど
5年ぶりに胸がときめいている

チャンミンは墓標を撫でながら微笑んだ

もし

あの日、死んだのが僕だとして
ドフンに5年後好きな人ができたって
天国の僕はなんとも思わないよ

むしろ、応援してあげたいと思う

だからさ、ドフンも僕を応援してくれると思ってる


これから面接なんだ


チャンミンは立ち上がった

登ってきた丘を今度はゆっくりと降りて行く

青い空、爽やかな風

これから新しい生活がはじまるかもしれない
そんなシチュエーションにぴったりな空なのに

チャンミンの心は
この空ほどスッキリとはしていなかった




チャンミンが訪れたのは
駅にほど近い小さなメンズ向けのセレクトショップ

地図など見なくても、チャンミンはスムーズにそこに行くことができた。

いつも、モニターの中でこの店を見ていた
駅からの道もバーチャルでよくわかっている

近くには大きな大学の校舎があり
学生向けに手の出しやすい金額に設定された服が並ぶ

程度の良い古着や、どこかで買い付けてきたセンスの良い
シンプルな服

小さなウィンドウに飾られたスタイルはどれもシンプルで
チャンミンの好みだった。


「すみません」

そう言ってガラスのドアを押すと

「はい?」

と低い声が聞こえた

春物のコートがならぶコートハンガーから
ヒョイと1人の男性が顔をのぞかせた

身長はかなり高い

涼しげな瞳が印象的な、綺麗な顔立ち
長い前髪が、その高い鼻梁にかかっている

あ、あの人だ

紺のリネンシャツにダメージのあるブラックジーンズ

凛々しく整った顔立ちに反して
そのスタイルはどこか気さくさを感じさせた


やっと会えた


チャンミンの胸がときめいた


「………」

その店の男性は棒立ちになったまま、
何も言わない

黒目がちなアーモンドアイが
真っ直ぐにチャンミンを見つめている

やっぱり、カッコいい
思った通りだ


「あの…市の紹介所から来ました」

「……」

「シム・チャンミン…です」

「……」

チャンミンから視線を外さない
けれど何も言葉を発さない店の男性

どうしたものかと、チャンミンは少し困ってしまった
心臓がドキドキとうるさく音を立てる

人とのコミュニケーションは久しぶりすぎて
どう言葉を発してよいか、自分でもわからなくなっている



「あの…面接を…」


男性が少しハッとした様子で
瞬きをした

「面接…あ、はい、あの、市役所の…紹介?
はいはい…」

急に目覚めたようにその人は慌てて喋り出した

「あ、この店をやってるチョン・ユンホです
あの…えっと…面接ね…ここではできないんで…」

「……」

「待ってね、えっと、隣のカフェで面接したいんだけど
いいかな?」

「あ、はい、いいです」

ユンホは、店の奥から鍵をジャラジャラ言わせて持ち出してきて、ドアを開けた

「この隣だから」

「あ、はい、」

開けてくれたドアから、チャンミンは店を出た

ユンホはガラスドアの札をCLOSEに裏返し
鍵をかけている

そんなユンホをチャンミンは待っていた

広い背中にカジュアルなシャツがよく似合っている
タイトなブラックジーンズは、ユンホの細い腰と
長い脚にぴったりと馴染んでいる

いきなり、ユンホが振り返った

「ごめんね、なんか」

小さく凛々しい顔に、人懐こい笑顔が広がる

「えっ…」

さっきの硬い表情とは打って変わっての笑顔に
チャンミンが驚いた顔をした

「店が狭くて、ごめんね
面接するスペースもないんだ」

「あ、いいえ」

「こっち」

「はい」


店の隣に可愛いカフェがあった

やはり学生向けのカジュアルなカフェだ
何人か女の子のグループと、カップルが1組いる

「いらっしゃ…あー!オッパ!」

店の女の子が、ユンホを見て笑顔になった

ユンホは片手をあげて挨拶すると
奥の席を指差した

「奥いい?」

「もちろん!」

背の高いユンホとチャンミンが店のフロアを横切るのを
女の子たちがじっと目で追った

そして小さく叫声をあげていた

白いテーブルと白い2脚の椅子

ユンホが奥に座った

日差しが優しく白いテーブルを包む

女の子が少し照れながら
テーブルに来た

チラチラとチャンミンを見ている

「ユノオッパなにする?」

「アメリカーノで、甘くして。
君は?」

「あ、同じのをおねがいします。
僕はブラックで」

「はーい」

女の子は弾んで戻っていった

向き合うと、ユンホはまたじっとチャンミンを見つめた

チャンミンは戸惑った

この人はこういう風に相手をじっと見る癖があるんだろうか…

いや、違う!
僕が書類を出すのを待っているんじゃないか

「あ、すみません、書類ですね」

チャンミンはリュックから慌てて書類を出した

「これが、紹介状で…あの…これが履歴書というか」

履歴書なんて…言えるような書類ではない
なにしろ、ろくに仕事をしていないのだ。
躊躇したけれど、出さないわけにはいかなかった

目の前に書類を出しても
ユンホはじっとチャンミンを見つめていた

「……」

「あの…」

「名前は…なんていうの?」
 
「え?」

漆黒の切れ長の瞳が少しだけ細められて
チャンミンに問う

「名前…は…」

さっき言ったんだけどな…
そう思いつつも、チャンミンは姿勢を正した

「シム・チャンミンです
市役所の職業紹介所でこちらを」

「あ、うん、さっき聞いたね
そうだった、ごめん」

また、ユンホは人懐こい笑顔になった

「俺はチョン・ユンホ
ユノって呼んでくれていいから」

「あ、はい…」

ユノは眩しそうな瞳でチャンミンを見つめる

しばらくユノはそうしていた

書類は見ないのかな
そんな風に見つめられるとさすがに恥ずかしい

チャンミンは
思わずユノから視線を逸らした

それに気づいて、慌てたように
ユノの視線は書類に落ちた


「この近くに住んでるんだ」

「はい、歩いて通えます」

「この辺のアパートは安いよね、学生向けだから
俺もこの近くに住んでるよ」

「はぁ、そう…ですか」

「俺より2歳下なんだね」

「そう…ですか」

「この辺はパン屋もね、結構美味しくて安いところ多いし
スーパーもね、安いよね」

「……そう…ですね」

「なんて、俺あんまり料理しないけどさ」

笑うユノの瞳が弓なりに細められる
黙っている時と、笑顔のギャップがすごい人だ

「………」

「あ、えっと…それで」

チャンミンが戸惑っていることに気づき
ユノの視線がまた書類に落ちた


「いい大学出てるね
頭いいんだ」

「……そんなこと…ないです」

チャンミンは俯いた

「…エンジニア?」

ユノは意外そうにチャンミンを見た

「少しだけ…」

「そうだね、これだと3ヶ月…しかも5年前」

「……」

「一応聞いていいかな、今までどうやって生活してたの?」

「ネット上でやりとりしながら、家でパソコンで仕事してました」

「そう」


「ですけど…なんか
このままじゃいけないかなって」


" あなたに興味があったんです "

そんなことは言えない



「接客の経験は?バイトかなにかでもいいんだけど」

「まったく…ないです」

チャンミンの表情に小さな絶望が浮かんだ

「あ、そう…なんだ…」

「ダメ…でしょうか、やっぱり」

「全然ダメじゃないよ、
でも、エンジニアほど給料は良くないけどいいの?」

「それは全然」

「ひとつ聞いていい?」

「はい、いくつでも」


「どうして、うちの店で働きたいと思ったの?」


" ストリートビューで…ウィンドウを拭くあなたを見て "


「ここで売っている服がシンプルで、なんていうか
組み合わせとかいいなって思ってて」

はじめて来た店だったけれど
チャンミンはなんとか取り繕った

ユノの表情が明るくなった

「あ…お店で買い物はしたことないんですけど」

「チャンミンは服が好きなのか?」

「嫌いじゃないです。
でも詳しくないし、こだわりはありますけど
流行に敏感というわけじゃないです」


「そう…」

ユノが少し消沈したのが、その声でわかった


「ダメですかね…ですよね」

「………」

「………」

チャンミンはもう顔が上げられなかった

なんでここに面接なんて来たのだろうと
ユノさんはそう思っているはずだ

店を閉めてまで
対応してくれたというのに


「いつから来れる?」


「えっ?」

チャンミンがパッと顔を上げた


採用?!


「あの…いいんですか?僕で?」

「俺の店をいいと思ってくれたんだろ?」

「あ…」

スッとした切れ長の目尻がとても綺麗だった

黒目がちの目に、優しく睫毛が被る

白い歯を見せて
ユノは笑っていた

「さっきも言ったけどもう一度確認するよ。
エンジニアより給料良くない。
生活していけるの?」

「あ!それは、あの…昔の知り合いが
家でできる仕事をまだ少しくれるので」

「そうなんだ、じゃ大丈夫だね」

「はい!あの…こちらこそ、接客の経験もなくて
ほんとに…あの…」

「チャンミンの身長とルックスがあれば
なんでも着こなせそうだ。
仕入れた服を着て店にいてくれたらいいよ
アドバイスとかそんなにしない店だし」

「はぁ」

「あんな店だけど、混む時は結構混むんだよ
だから、助かる。
一日中服を畳んでいることもあるよ
そんな感じだけど」

「はい、あの…がんばります…
よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく」

差し出された手が驚くほど綺麗だ

「………」

「明日から来れる?」

「はい」

「じゃ、今夜はよく寝て。
明日は開店してから来てくれていいよ」

ユノは立ち上がって、レシートを掴んだ

チャンミンも慌てて立ち上がった

「あ、ありがとうございます」


ユノが店を出て行く姿を見送った

テーブルをよけながら歩く姿は
ダンスをしているように軽やかだった

まるで、ショーのランウェイのように






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ほんとに無沙汰してます
百海です。

みなさまどのようにお過ごしですか?

わたしは、いつもお気に入りのカフェで
お話を書いていたのですが
そのカフェがお休みになってしまい、なかなかお話を綴ることが難しい状況でした

やっとお話が描けるようになって
また、お暇な時に遊びに来ていただけたら嬉しいです。

お休みしているときも、コメントをくださったみなさん
ほんとうにありがとうございました。

忘れないでいてくださって
うれしかったです

また、どうぞよろしくお願いします。
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