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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

花をあげよう 3




深夜になると、店は多忙を極める


店長は昼間はアレンジメントの教室に通うチャンミンを
なるべく早く帰宅させようと気をつかってくれる

けれど今夜は深夜のバイトが1人体調不良で休んでしまった。

店は店長と他のバイトが1人

とてもこの人数ではこなせないだろう


「チャンミン、もういいから
キリのいいところで上がって帰りな」

「いや、でも…」

「平気よ、週末じゃないんだから
もうすこしすれば落ち着くわよ」

スヨン店長はにっこりと微笑んだ

「はい…」



店内はひっきりなしに客が訪れて
とても大丈夫という状態ではない


チャンミンは一旦エプロンを外しにかかったものの…

「やっぱり、今夜もう少しやっていきます」

チャンミンは笑ってもう一度エプロンの紐をしっかり締めた

「だけど…」

「大丈夫。落ち着いたら上がりますから」

「そう?ごめんね…落ち着いたら声かけずに帰っていいからね。助かるよ、チャンミン」

「はい!」


チャンミンは待っていた客のところへ行って、
注文を聞いた

結局

店は落ち着く事なくその日の閉店を迎えた


「チャンミン、ほんとごめんね
こんな夜中になっちゃって…」

「大丈夫ですよ」

チャンミンはエプロンを外しながら
心地よい疲れを感じていた


結局、明日の準備までして
チャンミンが店を出るのは夜明けになってしまった


静まり返った歓楽街を
白み始めた空が紫色に照らす


ネオンがすっかり消えて
もやの中に信号の点滅だけがやけに目立つ


チャンミンは見慣れた街の意外な表情を楽しみながら、
家に向かって歩いた


通いやすいように店の近くのアパートを借りている

アレンジメントの教室には電車で通わなくてはいけないけれど、そもそも教室の近くは家賃がびっくりするほど高い




帰ったら少し何か食べて寝よう
そんな風に考えながら歩いていると


ふと、クンクンと子犬の鳴き声が聞こえる気がした

この街で犬を散歩させる人もいないだろうに、
しかもこんな時間に


でもどこから聞こえてるのだろう

チャンミンはその鳴き声のような声につられて
角に建つマンションに近寄ろうとした


すると、建物を囲う茂みの中から
男の声がしてきた。


「迷ったか?ん?」


その声にハッとして、チャンミンは建物のエントランスから屏のように植えられた茂みを覗いた

5メートルくらい先に
なんと、ユノが座っている

やはり、そうだったのか

ユノに似ている声だと
チャンミンはなんとなくそう思った


低くて優しい声で
子犬に向かって語りかけている


ユノは茂みの根元に小さく佇む子犬のアゴを撫でていた

ベージュの綿毛のような子犬は
つぶらな瞳でユノを見上げている

「家はどこなんだ?
遠くまで来ちゃって帰れなくなったのか?」


ベージュの子犬と、それを構うユノ


その姿にチャンミンは目が離せなくなってしまった


子犬はその綿毛のような小さな身体で
ユノに擦り寄ろうとする

それを優しく受け止める大きくて武骨な手

ユノは慣れた手つきで子犬を抱えると
高く抱き上げた



「ウチ来るか?お前のママが迎えに来るまで」


子犬はもう尻尾を振っている
まるでユノの言葉を理解して喜んでいるようだ

ユノはハハッと笑った


「可愛いなぁ、おまえ」


そう言ってさわやかに笑うあなたは
本当に魅力的です

ユノは子犬を自分のスーツの内側に抱えた。



チャラチャラした下品な男…

そう思っていたユノのイメージが
チャンミンの中で大きく崩れはじめる

その子犬を抱えて愛でるユノの姿に
チャンミンは胸がギュッと締め付けられて
苦しいほどだった


ユノに抱かれる子犬を
羨ましいとさえ思えてしまう


鼓動が早い


僕は…僕は…


チャンミンは自分のシャツの胸元を
ぎゅっと握りしめた


ユノが子犬を抱えたまま、こちらへ歩いてこようとするのに気づき

チャンミンは急いで建物から離れた


そして、早足で横断歩道を渡り
それからはどこをどう歩いて帰ったのかわからないくらい動揺しながら歩いていた


アパートに帰ると
急いでシャワーを浴びた

胸はまだドキドキしている



好きに…

なっちゃったかも…


子犬と戯れる男を見て
胸がきゅんとするなんて

自分はどれだけベタなのかと
チャンミンは自分のことが可笑しくなった


だけど

ユノさん、ホストなんだよなぁ…


それがどうしたと言われたら
上手く言葉にできないけれど

チャンミンは…派手なことは苦手で

花屋で働く自分と
酒と女を仕事にするユノと


まったく共通点なんて見つからなかった
そもそも、ユノは男なんて興味ないだろう

まずそこだ


できれば、好きになりたくなかった

片思いというツライ生活がはじまる予感しかない


けれど、恋は理屈ではない

はじまる時は、なにをどう抵抗しても
はじまってしまうのが恋だ


数少ない経験からも
それはよくわかっている

こういう時は
流れに身をまかせるしかない

抵抗すると、思いは意外にも深くなってしまうものだ。



********


そんないきさつをチャンミンは
マダム・リンに語って聞かせた


「そのユノさんって
きっと優しい方ね」

マダム・リンはそっと紅茶のカップをソーサーに戻した。

「優しいんです。
結局、その子犬を自分の家に連れて帰ってしまったみたいで…
今も子犬に振り回される生活みたいなんですけど、
とても楽しそうで。」


チャンミンは優しい目で
ユノを思い出しながら話す


「そんな様子がわかるのね?」

「毎日、店に飾る花を注文しに来るから
その時に子犬の話をよくしてます」

「そう、あなたもそれは楽しい毎日ね」

そう言われると、チャンミンは目を細めて微笑んだ

「ユノさんはほんとにステキなんです」

「そのようね」

マダム・リンも微笑んだ


************


ユノの生活は一変した


拾ってきた子犬のために
荒れ果てた部屋を少し片付けて
子犬用のフードなども買い込んだ

飼い主が見つかるまで

そう決めていたから
名前はつけずに過ごした

ユノが仕事から戻ると、子犬は眠っていてもとびおきてユノを出迎えた

ほんとうに可愛い

子犬はユノの首元で丸くなって眠り
狭いアパートの中、ユノの後をちょこちょことついて歩く

ユノは昼間はほとんど寝ている生活だったけれど
子犬のために散歩をしたりした

出勤すると、すぐにチャンミンの店に行き
花を注文しながら、子犬の様子を熱く語ってしまう

チャンミンはいつも楽しそうに
子犬の話を聞いてくれる

そんなチャンミンも
子犬みたいに可愛いんだよな

ユノの毎日は、このところとても楽しい

仕事でもユノを指名する客も増えて
いろいろと充実していた




そんなある日

チャンミンは店に行く途中で
小さな張り紙を見つけた

それは閉店してしまった飲み屋の壁に貼られた
子供が描いた犬の絵と悲痛な文字…

「ぼくのこいぬをさがしてください」

その拙い絵はベージュの小さなクマのように描かれているけれど

こいぬ、と書いてあるのだから
犬のつもりで描いたのだろう

もしかしたら

ユノが拾ったあの子犬なのでは…

毎日子犬の様子を嬉しそうに語るユノを
チャンミンは思った…


「ミルク飲むのがヘタクソでさぁ」

「いつもオレの懐で寝るんだよ」

「オレが出かける時に、ほんとに悲しそうでさぁ」

低い声で優しげに語るユノ

「とりあえず飼い主が見つかるまでは
オレのところに置いておこうと思って」

そんな事を言いながら
飼い主を探そうなんて、してなかった

もし、小さな男の子があの子犬を探していると知ったら

ユノは…

チャンミンはなんとなくユノが心配になりながら、今日も花屋を開けた

いつもユノがやってくる
夕方前の午後の時間

「いらっしゃいませ」

チャンミンが迎えると
ユノの様子がいつもと違う

薄っすらと笑みは浮かべているけれど
その瞳には寂しさが滲む

「今日のお客様は?
どんな感じですか?」

「ん…今日は…そうだな…
チャンミンにまかせる…」

もしや…

あの張り紙を見たのだろうか


「わかりました。
無難な感じで作りますね」

できるだけ笑顔を見せた

手早く花を選ぶチャンミンを
ユノがじっと見つめる


「あのさ…」

ユノがふいに声をかけた

「はい?」

「30分くらい…時間あるか?」

「え?僕ですか?」

「うん…」

「えっと…」


急な誘いでチャンミンは狼狽えた

そこにまさに神業なタイミングで
スヨンが声をかけた

たぶん、わざと…

「チャンミン、今のうちに休憩に行っちゃってー」

「は??」

いつもは後1時間は仕事をしている

「いいから、夕方忙しくなるから、ね?」

「はい」

スヨンの目配せに、チャンミンは素直に甘えることにした。

「じゃ、ちょっとだけ…」


少し不安げにチャンミンは答えた






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花をあげよう 2



アレンジメント教室で
とりわけチャンミンを可愛がってくれるのが
マダム・リン


ご主人が中国人でかなりのお金持ちだというマダムは、
チャンミンの話をよく聞いてくれる

「息子ばかりで、こんな娘がほしかったの」

そんな理由には正直少し戸惑うけれど
チャンミンもマダム・リンに温かいものを感じていた


アレンジメント教室の後
今日のように、ランチをご馳走してくれたりする


「チャンミニの好きな方ってどんな方なのかしら」


「……僕が働いている花屋が、どんな感じなのかはおわかりですか?」

「わかってるつもりよ。
歓楽街で…なんていうのかしら…
お店の方とお客様の間でやりとりするお花が多いのかしら」

「あと、店内に飾るお花もやってます」

「あら、それはステキね」

「僕の好きな人は…そういうお花を注文にくる人なんです」

「えっと…ボーイさん?
それとも…」

「ホストです」

「あ、ホストさんね」

「最初はほんとにバイトって感じで
その…チャラチャラしてて」


ほんとに最初は…そんな感じだった


はじめてその人…
ユノが来店した日を
僕はまだはっきりと覚えている


それは昼を過ぎて、
店が開店しはじめたころ


「いらっしゃいませ」


チャンミンが振り向くと
そこに、長身の男、ユノが立っていた


脚が長くて、肩が張っていて
とてもスタイルがいい


顔は驚くほど小さく
でも、その顔立ちはキリリと整っている


わ、カッコいい…


チャンミンは一瞬にして目を奪われた


ユノは少し気まずそうに薄笑いを浮かべて
チャンミンに会釈をした


こっそり観察してみると


その無造作な傷みの目立つ茶髪
ヒゲの剃り残しは口元を蒼く彩り
昼過ぎだというのに、切れ長の瞳には精彩がなく眠そうだ


夜の仕事をしているのだから仕方がない
チャンミンはそういう事情をよくわかっているつもりだった

店内に入ってきたものの
どうしていいのかわからない、という戸惑いが
全身から出ている


助けるつもりでチャンミンは声をかけた


「お花のご注文ですか?」

「あ、うん」

「どちらのお店でしょう?」

「クラブサランだけど」


低い声が少し掠れて聞こえる

クラブサランはこの街でかなり大きなホストクラブで
この花屋の固定客だ


「いつもありがとうございます」


チャンミンは軽く頭を下げた

いつもはマネージャークラスが注文に来ていたと思う
花にこだわりのある店だ


「いつもはマネージャーさんが
来られてましたけど…」


「そうなの?よくわかんない
オレ、先週入ったばっかでさ」


「あ、そうなんですね
いつも中くらいの大きさのアレンジをご希望ですよ」

「じゃ、それでいいと思う
入り口とレジと、奥のソファ席2つで全部で4つだって」


「はい…あの、ご希望は?」


花を選びに来た、というより
完全におつかいで来てる感じだ


「なんの希望?」

「なんのって…花の…
アレンジのご希望は?」

「え、そんなのわかんないな
適当でいいよ」

「凝った感じだと、僕ではなく店長がアレンジします」

「いいよいいよ、適当に君がやってくれて」

「僕で…いいんですか?」

「いいよ」

どこかめんどくさそうな表情だ
花のことなど聞かれても俺に分かるわけない

そんな感じ


「はい…では、夕方にお届けします」

「よろしく」

「あ!ちょっと」

ユノはそのまま店を出ようとした


「注文書書きますから、控えを持っていってください」

「あ、ああ、わるい」


振り向きざまにニッと微笑んだその顔に
チャンミンはまた胸が高鳴る


ちょっと下品な感じは否めないけれど
ほんとにカッコいいな


決して綺麗だとは言えないネオンが灯る前の昼間の歓楽街
街に消えるユノの後ろ姿をチャンミンはしばらく見つめていた


「チャーンミン🎶」

ふと、背中から声をかけられた


「あ、すみません
ぼーっとして」

花屋の女店長であるスヨンが、
ニヤニヤとチャンミンを見つめていた


「かっこいいね、あの新入り」

「そうですね、入ったばかりって…」

「あの子、きっと売れるよ」

「え?」

「私の目に狂いはないの。
私が売れると言ったら絶対売れるから」

「店長の目は確かだって、みんなそう言ってます。
彼は売れますか…そうか…」

「なによ、寂しい?」

「僕が?なんで僕が寂しいんですか」

「いや、そんな顔に見えたよ
一瞬だけど」

「へんなこと言わないでください」

「チャンミンがオンナに興味ないってさ
街の女の子たちが嘆いているよ」

「え、ちょっと待ってください!
お客さんたちにそれバラさないでくださいよ」

「だってーキャバクラに仕事行くたびに
アンタの事聞かれて大変なんだもん」

「だからって!」

「アンタをスカウトしたいって、アタシに了承求めるホストクラブだってあんのよ」

「………そんな」

「だから、予防線の意味もあって
言ってあげてんのよ」

チャンミンはいまひとつ納得がいかない表情で
大きくため息をついた

たしかに店長の言うことには一理ある…


「そういうことなら…感謝しないとですね
ありがとうございます」

そう言って
チャンミンはぺこりと頭を下げた




やがて、花屋はいつもの忙しさを迎える

店内用のアレンジをいくつも作り
それを開店前の店に届け

そして、夕方になるにつれお客も増えてくる

そんないつもの夜だった



翌日もユノは同じような時間に花屋を訪れた


「いらっしゃいませ…あ…」

「今日も頼むね」

「はい!」

チャンミンはうれしくなった


それなのに
その側から別のバイトが余計な事を言ってきた

「あの」

「ん?」

ユノはそのバイトの方へ向き直った


「もし、おまかせいただけるなら
電話でも注文できますよ」


え?は?

なんてことを言うんだ!


電話で注文されたら
この人はこの店に顔を出さなくなるじゃないか


「電話で?」

「はい、お任せいただけるなら
わざわざ出向いていただかなくていいので
その方が簡単かと思います」

チャンミンは少しうろたえた


「あ…でも…やっぱり
花は少しは選んでもらったほうが…」


縋るような瞳でチャンミンは
ユノを見つめた

どうか、じゃあ電話で、なんて
そんなこと言わないでほしい


「いや、それがさ」

「?」

「ちゃんと、自分で花を選んで来いって
昨日店長に怒られてさ」

怒られた?

「あ…もしかして、僕のアレンジが良くなかったですか?」

「ううん、違う。
店長に今日の花よかったねって言われて」

「それならよかったです」


チャンミンはホッとした

「けどさ」

「はい?」

「お前、花屋に全部任せてるだろって怒られた
自分で今日来るお客に合わせて花を選べって」

「なるほど、それは難しいですね」

「だろう?無理だよ、そんなの」

「じゃあ、お客さんのイメージを言っていただければ、
僕が花を選びますよ」

「あ、それがいいや
えーっとね」

「はい」

「今日一番の上客はと…
えーっと議員の奥さんだな」

「おいくつぐらい?」

「たぶん、50は過ぎてないくらい」

「どんな方?」

「どんなって…うーん、ま、昔はお嬢だったんだろうね」

「わかりました」

「え?そんなんでわかんの?」

「はい、情報としては十分ですよ」


チャンミンはさっといくつか派手めの花でひとつ束を作って見せた

「こんな感じでいかがですか」

「うーん、いいのかどうかわかんないな」

「店長さんに聞かれたら、こう答えてください。
議員の奥さまは普段おそらく、品のいい高級な花ばかりに囲まれているはずです。式典も多いだろうし
なので、夜遊ばれる時は普段まわりにないような派手な花で、楽しんでもらうんです」

「なるほどねー!」

「アレンジもそれなりに華やかにしときますね」


「ありがとな、アンタなんて名前?」


「え?」

不意に名前を尋ねられて
チャンミンは狼狽えた

そんなチャンミンに構わず
ユノはニヤッと片方の口角をあげて微笑む

「オレはユンホ、ユノって呼んで」

「あ…」

ユノはうろたえるチャンミンの胸にある
ネームプレートをつついた


武骨だけどきれいな人差し指…


「チャンミンっていうのか」

「あ、は、はい」

「よろしくね、チャンミン」

「はい…」

「じゃ、えーっとなんだっけ?
店長になんて言うんだっけ?
議員の奥さんじゃ、普段つまんねぇ地味な花に囲まれてるから、ウチで遊んでもらう時は派手にってことだな」

「ま、そういうことです…」

「わかった、じゃ夕方届けて」

「はい、ありがとうございます」


チャンミンはふーっとため息をついた

ほんとになんていうか…


顔立ちや立ち振る舞いには
そこそこ品があるのに
なんか残念なんだよな…


あんなにカッコいいのに
どこかもったいない


やれやれと肩を竦めて
チャンミンは仕事に戻った

忙しい時間をなんとかこなし
スヨンから休憩に出て良いと言われて
チャンミンはコンビニに買い物に行った

パンとサラダ、そしてコーヒーを買って
急いで店に戻る
まだまだ客足は引かないだろうから、腹ごしらえをして仕事に戻らなきゃ


足早に歓楽街をぬけると、突然耳障りな大声が聞こえてきた。


「やっぱ、サイコーっすね!」


チャンミンは眉をしかめて声のする方を見ると、
なんとそこにはあのユノがいた。


「クラブ・サラン」の入り口で
ユノが派手な身振り手振りで帰る女性客を見送ろうとしているのだろうか。


「約束ですよー!絶対また来てヨォ〜
今度はオレのコト指名して?ね?」


なんか思った通りの接客だな

チャンミンはそう思った


「盛り上がる」という事と
「うるさい」という事の区別がついていないみたい


店長はユノを売れると言っていたけれど
今度はそれも外れるかもしれない

チャンミンはユノと女たちを一瞥すると
店に向かって足を早めた



ユノは今日も精力的に仕事をし
最後の客が帰るころには空が白みはじめていた


「おつかれさまー」


そんな挨拶を交わしながら
ユノは店を出る


ふとレジの横に
ピンクとオレンジで彩られた花のアレンジがあるのが
目に入った


チャンミン…だっけ

ユノは頬が緩む


可愛いんだよなぁアイツ


店長に叱られたのは本当だ


「お前、このアレンジ全部花屋に任せただろ」

「え?いや、えーっと今日のお客様は議員夫人ってことなので」

「あの可愛い男の店員」

「え?チャンミンですか?」

「なんだよ、もう名刺交換済みかよ」

「いや、そんな」

店長はニヤッと笑う

「可愛いだろ、あの子」


そりゃ

めちゃくちゃ可愛いよ


初めて店に入ったときの


" いらっしゃいませ "


優しいあの笑顔


「お前、食うなよ」

「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ」

「ああ見えて、チャンミンは結構いい体してるからな
マルチーズ系攻め、のタイプかもしれないぜ」

「なに言ってんですか」

「じゃ、お前、もし、チャンミンがその気でも
絶対手を出さないか?」

「いや、その気なら別ですよ」

「ほうら」

「マルチーズ系受け、ならですよ」


ユノと店長の笑い声が響く夜明けの空


当のチャンミンは整えられた自室のベッドで
清潔な寝具に包まれて眠っていた




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花をあげよう 1




花をもらって、喜ばない人はいないのよ

悲しい時も、嬉しい時も
花は喜びを与えて、そして癒しも与えてくれるの

……


亡き母はいつもそう言って、花を愛した

花を愛でる母はとても優しい表情で
チャンミンは母のそばにいることが大好きだった

そして、とても自然な流れで

チャンミンは花を売る仕事についた


母への思慕もあったけれど
自然と花への愛着も育っていたのだと思う


母が亡くなった後
福祉の世話になり学校を卒業すると
チャンミンはフラワーアレンジメントの教室に通いながら、花屋でバイトをした

いつか自分の店を持ちたいと
少しずつ貯金もしていた


なにを贅沢するでもなく
毎日規則正しく、キチンと生活を送るチャンミン


夜のバイトしかできないけれど
どうしても花屋で働きたかった


そんなチャンミンが選んだのは
ネオンが煌めく繁華街の花屋だった

この街の花屋は大忙しだ
夜中まで営業している


店に飾る花、客が店の女の子に渡す花
ホストが客のために用意する花

祝い事の花も毎日のように注文があった

小さなものから、かなり大掛かりなものまで、
この店が手がけるアレンジは多岐にわたり、
チャンミンにとっていい勉強になった。


教室のアレンジメントは品のいいデザインが多く、
派手さだけを求められる繁華街の花屋とはまた違って勉強になる

チャンミンの店に来る客は、
見た目を大事にする人が多い。

花屋の場所が
いわゆる華やかさを競うようなところだから
それは仕方ない


長身というだけで目立つチャンミン


はっきりした顔立ちやその佇まいは清潔感にあふれ、
その気になればいくらでも遊べそうなルックスである


それでも 


チャンミン自身はそう言った派手さとは無縁だった

その容貌なら付き合う女の子には不自由しないはずなのに、

チャンミンにはまったくそういう浮いた話はなかった


それは、まったくと言っていいほど女性に興味を持てなかったからだ

それは、チャンミンの「悩み」でもあった


そういう自分の趣向に気づいたのは
高校生になった頃だったろうか


少しは幸せな恋もしたけれど
そのほとんどは好きになっても、
つらい思いをするだけの恋だった


いつからか、もうその事で思い悩むことはやめにして
静かに人生を歩んで行こうと前向きになっている


もしかしたら、同じ気持ちの持ち主とうまくいって、
幸せになることがあるかもしれない

そんな淡い期待も少しは持ちながら
チャンミンは毎日を丁寧に生きていた


チャンミンが通う昼間のフラワーアレンジメントには
女性の生徒が多かった

割合としては、時間と金銭に余裕のある奥様、というタイプが多い


清潔感があって、ほぼ完璧なルックスのチャンミンは
それはみんなに可愛がられた


少し強引に迫られることもあって
チャンミンは、自分の趣向についてカミングアウトをした

勘違いをされるより、カミングアウトして
平和に暮らしたかった

フラワーアレンジメントを習うのに
ここで余計なトラブルを起こしたくもない



これほど美しいチャンミンが、
女性に興味がない、ということで
はじめは皆が驚いた


けれど次第にそれも受け入れられて
やがて、奥様たちはチャンミンに我が娘を見守るような気持ちを持つようになった

それはチャンミンにとって、とても心地よいものだった

アレンジメントの帰りに
今日はみんなでお茶を飲んだ

「ねぇ、チャンミン。
お相手が女性ではないことは残念だけど、
あなたは今いちばん綺麗な時なのよ?
恋愛はしてないの?」

チャンミンはちょうど口に運んだミルクティが思いのほか熱くてびっくりした

「恋?ですか?」


「そんなに驚くことないじゃない
好きな人くらいいないの?」


マダムたちが興味津々の眼差しでチャンミンを見つめ、
その答えを待っている


「恋…か」


チャンミンはミルクティのカップをそっと両手で持ち、
深いため息をついた

「あら、どなたか気なる方がいるのかしら」

マダムたちは少しどよめき
再び興味津々にチャンミンの答えを待つ


「好きな人は…います」

うわーっと、マダムたちは声を上げた
それはどよめきではなく、感嘆だった


僕の好きな人…


それは…



昨年は、たぶんその人はまだ新入りのホストで
店に飾る花の注文を頼まれて、よく来ていた

ただお使いをしている、

という感じで、花のデザインを聞いても
うーん、と困った顔をするだけだった

その困った顔がまた良かった

たぶん、店のインテリアなどあまり興味がないのだろう

きっと金のためにこの職業を選んだ
そんな軽い印象があった

背が高くて、その整った顔立ちは黙っていればクールでとてもカッコいい

きっと、見た目だけで合格したのだと思われた

カッコいいけれど中味がない
悪いけれどそんな印象だったからだ


正直、チャンミンは、そのお使いのホストを
最初は少し軽蔑していた


それなのに…

僕は…なぜか

そんなあなたに今は絶賛片思い中なのです

気付いたらこんなことになっていたんです
ほんとに、なんてこと…


チャンミンは再び大きなため息をついた




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百海です。
「花をあげよう 1」を消してしまい
アップし直しました💦
すみません💦
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