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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

ナイルの庭 5



翌朝、朝食の支度を終えると
チャンミンはみんなが起きてくる頃にはガレージで準備をしていた

昼の弁当を積み込み、飲み物も積み込んだ

すべて準備が終わったところでキュヒョンとともに機材の積み込みをしていた

「おはよう、チャンミン」

ふと見ると、ユノが爽やかに笑っていた


「お、おはようございます」

チャンミンはぺこりと頭を下げた


「今日はよろしくね」

「あ、はい」


一同がロケに出発した

空は雲ひとつない青空で

遠くの山々と風にそよぐ木々が
その日差しをキラキラと煌めかせていた

やがて、地平線まで続く黄金のひまわり畑が見えてくると

その景色にスタッフたちはどよめいた

道は舗装されていないので
バスはガタガタと音を立てて走る

それでもみんなは窓を開けて
どこまでも広がる絵画のようなひまわり畑に息を飲んだ

撮影場所として予定されたところへ到着すると

ユノは一番にバスを降りて

黄金に輝くひまわり畑に飛び込んでいった


「すげぇー!こんなのはじめてだよ!」


ユノの背丈ほどもある大きなひまわりの中で、
ユノの笑顔はそれに負けない明るさがあった

子供のようにはしゃぐユノを
マネージャーがたしなめた

「日に焼けるぞ!こっち戻って」


張られたテントの中でユノのメイクが始まった

今日はチャンミンはずっと付き添っていなければならない

少し自分の気持ちに折り合いがついて
また、今日はひまわり畑でのロケということあって

チャンミンは昨日ほどの息苦しさを感じていなかった

それでも、上質なリネンのシャツとジーンズ、革のサンダルというシンプルな服装を見事に着こなすユノは、
やはり異世界の人だった


シャッターの音に合わせて
笑ったり、眩しそうな表情をしたり
ユノはあらゆる演技をする


うっとりと見ているチャンミンに
キュヒョンが話しかけた

「ああいうなんでもない服ってさ難しいんだよ、
モデルの質が問われる」

「キュヒョンも立派な業界人だね」

「おっ、そうか」

「でも、なんとなくわかる
あの格好を僕がしたところで、ただのフツーの服だ」

「でも、チャンミン、スタッフの何人かが
チャンミンに目をつけてるよ?
モデルになれそうだって」

「とんでもない、背が高いだけでしょ
僕にはユノさんみたいな、表現者としての力はないよ」

「なんだよ、チャンミン
すごい分析力だな」

「だって、ほんとにそう思うんだもん」

「ま、モデルなんて親父さんがそんなの許さないか」

「………」

チャンミンがそっと瞳を伏せる

その様子をキュヒョンが哀れむように見つめる


「チャンミン、ここをもし出たいなら
俺も協力するよ?なんでもいいなら仕事なんていくらだってあるしさ」

「出たいよ、そりゃ」

「ま、いろいろと難しいかもしれないけれど、
もしその気になったら…」

「うん、ありがとな」


チャンミンはぼんやりとユノを見つめた

ユノがまるでひまわりの国の王さまのように
見える

黄金のひまわりたちがすべてユノにひれ伏し、
その美しさを讃えているように見える

真っ青な空とひまわりとユノ

その三位一体が、なんでもないリネンのシャツを輝かせている

自分を表現しつつ、服をも際立たせるユノ

モデルという仕事が少しだけチャンミンにもわかった気がする

そして、この大自然の中で
それに溶け込むユノを見ていると

自分の気持に振り回されていることが
少し馬鹿らしいと思うチャンミンだった

こんな素晴らしい人を
好きにならない人なんて…いない

性別とか、そんなの関係ない

どこまでも続くひまわりは
チャンミンをそんな気持ちにさせた


今日のロケが終わり、一同をマイクロバスで送り届け、チャンミンは荷物を降ろしていた

すでに夕飯の用意も終わっていて
みんなでワイワイ言いながら夕食がはじまっている


「きっと、このスタッフたちが帰ってしまったら寂しくなるんだろうね」

母がそんなことをぽつりと言った

チャンミンはドキっとした

それはユノも帰ってしまうということを意味しているのだ


「そんなこと、仕方ないよ…」

「チャンミン、あんたも都会に行きたいでしょう?」

「………」

「お母さんはね、いいと思ってるの
チャンミンの人生なんだし
お父さんには、私も説得してあげるわよ」

「…………」

そこへ姉が来た

「チャンミン、ユノさんのところへ
洗濯物持って行ってくれる?」

「あ、はい」

チャンミンは畳まれたユノのジャージや下着を持って、ログハウスを訪れた


洗面所に仄かに明かりがついているログハウス

ユノが消し忘れたのだろう
まだみんなとワインを飲んでいるはずだ

チャンミンは鍵を開けて、静かで誰もいないログハウスに入った

タンスの中に一通り洗濯物を分けてしまうと、ソファやテーブルの上のものを少し片付けた

ふと、リビングの真ん中、大きな鏡を貼ったコンソールの前に香水の瓶があるのを見つけた

チャンミンは鏡の前に立って、コンソールの上のその香水瓶に触れた

何が書いてあるのかわからない
きっとフランス語なのだろう


丸いガラスの蓋にそっと触ってみる

香水なんて、まるで縁のないチャンミン

でも、この蓋を開けたら
憧れのユノの香りがするのだ

感じてみたい…

勝手に…香りを嗅いでみてもいいだろうか

チャンミンはそっとそのガラスの丸い蓋を外してみた

既に優しく、あのユノの香りがしてきた

金属のスプレー部分にそっと触れると
少し冷たい感触がした

少しだけ湿った自分の指を嗅いでみる

ユノだ

まさしくユノだ

ユノの香りに、なんだか泣きそうになる


その時


洗面所の明かりがパチっと消えて
あたりが一瞬真っ暗になり、チャンミンは驚いた

慌てて、香水の蓋をコンソールから落としそうになった

何が起こったのかわからなかった

しばらくして、ルームランプが仄かについて、チャンミンはびっくりした

ほんのりと明るくなった部屋

チャンミンの目の前の鏡には

遠くに腰にタオルを巻いた裸のユノが映っていた

しまった!


ユノは…部屋にいたのか…

洗面所の明かりはユノがいたからついていたのか…
みんなといると思っていたのは勘違いか…

香水の蓋を持ったまま、チャンミンは動くことも、
声を発することもできずに

大きく目を見開いて
鏡の中のユノを見つめた

シャワーを浴びたと思われるユノは
チャンミンを見据えるようにして立っている

香水の匂いを嗅ごうとしていたのは
明らかで、弁解のしようもない

ユノがそっとチャンミンに近寄ってきた

「あ……あの……」

震える声でチャンミンがやっと言葉を発した

「髭剃ってたんだ、ドアが開いたから
誰かと思って潜んでた」

甘く低くユノがチャンミンの背中でつぶやく

ユノがチャンミンの背中にぴったりとくっついた

鏡には、チャンミンの背後から、ユノが妖艶な視線で
鏡の中を見据えるのが映る

ユノが後ろからチャンミンに覆いかぶさるように両手を伸ばして抱き込み、チャンミンの手をとった

「これね、"ナイルの庭"っていう香りなんだ」

ユノが後ろからチャンミンの耳に唇を近づけてささやく

チャンミンの心臓の音がユノに聞こえてしまいそうだ

チャンミンの唇が震える

「すみ…ま…せん…」

「謝らなくていい」

甲高く震えるチャンミンの声に反して
低く落ち着いたユノの声

チャンミンを後ろから優しく抱くようにして、ユノはチャンミンの左手首に少しだけ香水をスプレーした

冷たいシュッとした感触にチャンミンはビクッとした

柔らかくユノの香りが立ち上る

ユノはチャンミンの耳にくちびるをあてながらささやく

「こうやって…擦り合せるんだ」

チャンミンは耳から全身に電流が走るような衝撃を受けながら

両手をユノに掴まれて、手首を擦り合わされている

こんなこと…

黙ってあなたの香水を手にしたことを
謝るべきなのに

それはまるで、あなたへの気持ちを見透かされてしまったようで

もう、逃げる事はできないとチャンミンは感じた

鏡には、チャンミンの耳にくちびるをあてているユノと硬直した自分が映る

ユノの表情は、撮影中にみたどの表情よりも妖艶で、
それはまるで魔法のようにチャンミンの心を羽交い締めにして離さなかった


「チャンミンが、昨日から俺を見てくれないから、
嫌われたのかと思った」

その甘い声がチャンミンの体の中に甘く入ってくる

「違…違う…んです…」

「…こうやって、俺の香りが恋しかったと思っていいの?」

掠れた声

チャンミンの脳天まで突き抜けるようなユノの言葉

「僕…どうしていいか…その…」

「いいんだよ、チャンミン」

ユノはゆっくりとチャンミンを自分の方へ向き直させた

向かい合う瞳

妖艶な光を怪しく光らせて
チャンミンを見つめるユノと

獲物として捕まった震える子鹿のようなチャンミン

ユノは優しく微笑んだ

「嬉しいよ、チャンミン
ほんとうに可愛くてたまらない」

そう言うと、ユノは優しくチャンミンを抱きしめた

はぁっと息を吐いて
チャンミンは抱きしめられて目を閉じた

ユノの体温が自分を包む

思わずチャンミンもユノをそっと抱き返した

「僕…」

「ん?」

「僕…ユノさんが好きです…」


ため息と同時に想いも溢れ出てしまった


ユノはそっとチャンミンを離して
その頬に手をやった

「俺も、チャンミンが好きだ…」

ユノは角度をつけて顔を傾けると
チャンミンにくちづけた

嫌だなんて感情は微塵も感じず

むしろ、もっとこのまま
自分をあなたのものにしてほしい

そんな風にチャンミンは感じていた

ユノの舌がチャンミンに入るとき
一瞬ビクッとして、ユノはその動きを止めたけれど

大丈夫だと確信したように
ユノの舌はチャンミンを蹂躙しはじめた

めくるめくはじめての快感に
チャンミンは息も出来ず

思わずユノの肩をつかんでしまう

さらに強く抱きしめられて
チャンミンはもう引き返すことができないところに来てしまったことを感じていた


星降る夜に

ログハウスにはナイルの庭が香る


チャンミンがそこを出たのは

夜空が白みはじめた頃だった






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ナイルの庭 4



翌朝、空には少し雲が出ていた

「ロケは明日にして、今日はログハウス内で撮ろう」

予定が変更されて、ユノが泊まる一番大きなログハウスで撮影が行われることになった

朝ごはんの自家製パンもとても評判が良く
ユノの満足そうな笑顔をみて
チャンミンも嬉しくなった

そのうち、機材などがログハウスに運び込まれ、
撮影が始まった

チャンミンは撮影自体には無関係だったので、スタッフたちのランチの下ごしらえを姉と母とで準備していた

キュヒョンが撮影から抜けて
チャンミンのところに来た


「撮影は上手くいってるの?」

「うん、なんせユノさんだからね
もうほんとプロだよ」

「ふうん」

「クライアントから
もうユノさんじゃなきゃダメだってさ
口説き落としてやっと引き受けてもらったから」

「ユノさんって、やっぱり一流なの?」

「ああ、今一番上り調子のモデルだと思う」

「そうなんだ…」

「撮影覗いてきなよ、チャンミン」

「え、邪魔でしょ?」

「大丈夫、俺と行こ」


姉と母もチャンミンに撮影見学をすすめた

「こんなこと滅多にないんだから、見てきなさいよ
ここは大丈夫だから」

「じゃあ、ちょっとだけ」


キュヒョンと家を出て、ログハウスに向かうと

ログハウスの窓から、フラッシュの光が点滅するのが見える

ドアに近づくと、カメラのシャッター音が思わず大きくて驚いた


「いいね、今度は視線この辺にください」

シャッター音に混じり、カメラマンの声がする


キュヒョンがそっとログハウスのドアを開けて、チャンミンを招き入れる

静かに入り、音を立てないようにログハウスのドアを閉じた

振り向いたチャンミンの視界に入ったのは

昨日とはまったく別人のユノだった


着崩したスーツとシャツ

誰が見ても上質だとわかる革靴

シルクのネクタイを肩にひっかけるようにして、ユノがポーズをとる


キレイにメイクされたユノ

その切れ長の瞳はさらに色気を増し
なぜかその瞳はグレイに輝いている

滑らかに整えられた肌

無造作に見えて計算されたヘアスタイル

長い脚を投げ出すようにして
ソファでポーズを取るユノ

シャッターの音の度に変わるポーズに

チャンミンは魅入ってしまった


ユノから溢れ出るオーラ

挑むような視線をしたかと思えば
憂いて縋るようにカメラを見つめたりする


ユノさんって、すごい…

チャンミンは呆気にとられて
その場を動くことができなかった


やがて、衣装チェンジになり

ユノは何人ものスタイリストに服を脱がされ、次の衣装に着替えた

合間に見えるユノの裸の上半身に
図らずも心臓が飛び上がるように脈打ち
チャンミンは慌てて、ログハウスを出ようとした


「あ、どうした?」

キュヒョンが声をかけると
その声にユノがふと、こちらを見た

一瞬目があった

チャンミンはびっくりして、盛大に音を立てながらログハウスから飛び出した


ハァハァと息を切らせて、家に戻った


…僕は何をやっているんだろう


ユノの存在に完全に心が振り回されている
その事を自覚せざるを得ない


チャンミンは胸が苦しくなってくるのを感じた

認めたくないけれど、
それじゃあこの気持ちになんと名前をつければいいのだろう

チャンミンは洗面所に走ると
冷たい水でパシャパシャと顔を洗い始めた

少し、心を落ち着けたかった


「チャンミン?」

母が洗面所を覗いた


「どうしたの?ドタバタして」

「なんでもない!」

タオルで顔を覆いながら
チャンミンは答えた

心を落ち着かせるのに
チャンミンは少し時間を要した


しばらくして、ランチを取りにスタッフが食堂に帰ってきた

ガヤガヤと静かな田舎家が騒がしくなる


チャンミンたちは用意したサンドウィッチと飲み物、
そしてサラダを並べた

チキンの蒸したものもある

チャンミンは配膳をしながらも
恥ずかしくてユノを見ることができずにいた


忙しそうに振舞って
なるべくユノの姿を見ないように

けれど、なるべく自然に…

母がスタッフのテーブルにサラダを並べ始めてしまったので

チャンミンはユノのテーブルに行かなくてはならなくなった

あたふたとなにやら挙動不審気味なチャンミンを
キュヒョンが少し心配そうに見ている


チャンミンはひとつため息をつき、心を無にして、
サラダのボウルをユノのテーブルに置き、取り皿を並べた

ユノの強烈な視線を感じて
焼け焦げてしまいそうな自分を感じる

不自然なほど自分を見ないチャンミンを
ユノがメイクしたままの顔でじっと見つめ
その行動を目で追っていた

「チャンミン?」

冷や汗が出ているチャンミンに
とうとうユノが声をかけた


「は、はい」

チャンミンは、ユノの目を見ずに答える


「こっち見て、俺の目を見て?」


そんなユノの言葉にまわりのスタッフがギョッとして
ユノとチャンミンを見た

チャンミンはエプロンの裾をギュッと握りしめ俯いていたけれど、おずおずとユノを見上げるようにして顔を上げた

「…はい、なんでしょう…か…」


ユノの瞳はメイクを施されたままで
場違いな妖艶さを醸し出している

この田舎家で人間の元に降りてきた
異世界の生き物のようだ

「朝飲ませてもらったオレンジジュースはまだあるかな」

「あ、えっと…はい、あり…ます」

しどろもどろになっているチャンミンを
スタッフ達が不思議そうに見ている

ユノはゆるやかに微笑む

「残ってたら、もらいたんだけど」

「あ、は、はい…」


チャンミンは飛ぶようにして
キッチンへ戻ってしまった

「ユノさんが、オレンジジュースほしいって」

姉がキョトンとしている

「朝食に出したやつ?」

「そう、あのさ、ここ僕がやるから
姉さんが、ユノさんに持って行ってくれる?」

「いいけど…」

「頼むね」

チャンミンは慌ててシンクの洗い物に着手し始めた

姉が不審そうにチャンミンを見る

「あなた、大丈夫?」

「なにが?なんでもないよ」

「それならいいけど、なんか変よ?」


姉はオレンジジュースを持って食堂へ行った


はぁーっとチャンミンはため息をついて
シンクの縁に手をついた

本当に僕はどうしたんだろう

いや

どうしてしまったのか
わかってる

自分で認めたくないだけなんだ

チャンミンは怖かった

こんな出口の見えない迷路に足を踏み入れたくない


きっと、ユノが都会に戻れば
またチャンミンの心に平穏が戻るのだろう

それまでどうにかやり過ごそう

そう考えると少しだけ心が落ち着いてきた


きっと都会に対する憧れが
まるで都会そのもののユノさんへシフトしたんだ

自分で自分の気持ちをそう分析すると
チャンミンはふっと諦めたように微笑んだ


その時

「チャンミン」

聞き覚えのあるその声に
チャンミンはびっくりして振り向いた

キッチンの入り口にユノが柔らかく微笑んで立っていた

「あ……」

「チャンミン、忙しそうだね」

「………」

「オレンジジュース、これほんとに美味しくてさ」

ユノが空になったコップをキッチンに置いた

「えっと…」

「ごちそうさま」


ユノはそう言って妖艶に微笑み
あっけなく立ち去った

チャンミンはキッチンで1人棒立ちになっていた


こんな態度で

僕を変だと思っているだろうな…
それともなんとも思ってないのかな

それはなんだか寂しい気がするけど

それじゃあ僕は気にしてほしいのか?

いや、そういうわけじゃない

ああ!もう!

自分でなにがなんだかわからない
チャンミンはギュッと目をつぶった


それから少し騒がしくなって
スタッフたちが撮影のためにログハウスに戻ると

キッチンと食堂は静かになった

片付けの終わった母がチャンミンに声をかけた

「チャンミン、今日は勉強会でしょ?」

月に2度、オーガニック栽培についての知識を学ぶための勉強会が公民館で開かれていて、
チャンミンはそこに通っていた


「あ、だけどこんな状態だから休むつもりだったけど」

「いいのよ、父さんが今夜はここはやるから勉強会行って来いって」

いつもは面倒くさいだけの勉強会だったけれど、今日はそれが救世主に思えた

とりあえず、ユノに会わなくてすむ
ユノと顔を合わせなくていい理由ができた

「じゃ、そうさせてもらうよ」

まだ陽が沈まないうちに
チャンミンは勉強会に行く支度をはじめた

チェックのシャツを羽織り
ジーンズを履き、軽トラをガレージから出したところで

ログハウスから戻ってくるスタッフたちに出くわしてしまった

ユノはメイクとヘアはそのままで
ジャージとTシャツというラフなスタイルだった

チグハグなスタイルと言えなくもないけれど、
それでもユノはとんでもなくカッコいい

ユノが不思議そうに軽トラに乗るチャンミンを見ていた

チャンミンは慌てて、トラックにエンジンを入れる
焦りすぎてうまくかからない

キュヒョンがそんなチャンミンに声をかけた

「もしかして公民館?」

「そう、悪いね、親父が夕飯やるっていうから」

「わかった、がんばれよ」

チャンミンは逃げるようにして
家から離れようとした

ふとミラーを見ると

ユノがキュヒョンに話しかけている

僕がどこへ行くのか聞いているのだろうか

昼間、僕にジュースを持って来させようとしたり、

ユノが自分に興味を持っているのではないか

そんな自惚れが心にフツフツと湧き上がりはじめたのを感じていた

面倒くさい感情だ

思い切り裏切られる期待なのだから
こんなのは早く捨て去ったほうがいい


チャンミンは夕暮れ沈む山々に向かって軽トラを走らせた

明日は、今日やるはずだった
ひまわり畑でのロケの予定だ

みんなをマイクロバスで連れて行かなくてはならない

嬉しいような困ったような
複雑な気持ちを持て余すチャンミンだった










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ナイルの庭 3





撮影スタッフたちを迎えてはじめての食事の時間だった

食事はチャンミンの家の広間を食堂として使うことにしていた

いつもは、野菜の作業場となっている広い空間に
長テーブルを3つほど出して
椅子も納屋から出してきたのも含めて30脚

約30人分の食事をチャンミンは姉と母とで用意する

野菜や卵は豊富にあるから
肉だけ市場で買ってくる程度で済んだ

いつも家で食べるような普通のおかずを
多めに作るという感じだったので
チャンミンは特に苦労は感じなかった

野菜は採れたてのものばかりなので
あまり手を加えず、蒸し焼きにしたり

そのままスティックにして
自家製マヨネーズを添えたりした

隣村のワインを作っている知り合いから、ワインの提供もあった

なんてことないもてなしのつもりだったのに、夕食は大好評だった

都会の人達にセンスが良いなどと言われ
チャンミンは嬉しい反面、
この料理のどこがセンスがいいのか
まったくわからず少し困った

ユノも食事をベタ褒めした

「素材がよければ、そのままで美味しいということの証だな」

「はい、あまり手を加えてないので
そんなに喜んでもらえると、なんだか不思議な気分です」

ユノは優しげにチャンミンを見つめた

「これを作ってるのがチャンミンなんだから、褒められたらもっと偉そうにしていいんだよ」

恐縮しているチャンミンに
ユノが自信をつけさせてくれる

チャンミンはまたもや、浮かれた気分になる
ユノに褒められると、まるで自分が素晴らしい人間なのだと錯覚しそうだ

食事の後、スタッフたちはワインとチーズでおしゃべりを楽しんだ

テレビもあまり映らず
パソコンやスマホも今ひとつのこの家で
やることと言ったらおしゃべりくらいだった

それでも、モデルであるユノはチーズは口にせず、ワインを少し飲んだだけで自分の棟に戻ると言う

洗い物をしていたチャンミンを姉が呼びにきた

「ユノさん戻るっていうから、
チャンミン送ってあげて?お風呂の用意とかお願い」

「あ、うん」

「後、あたしやるから」


チャンミンはエプロンで手をふくと
リビングに顔を出した

キュヒョンがチャンミンを見るなり駆け寄ってきた

「いやー食事が評判よくてさ!
ほんと助かったよ」

「お前は食い慣れてるだろ?」

「ま、そうだけどさ
いつも食べてる野菜がこんなに褒められるなんてな」

「僕もそれは正直驚いてる」

2人は笑いあった

「キュヒョン
お前の評判も上がっただろ」

「ああ、チャンミナのおかげだ」

ニヤニヤと2人で笑っていると
ユノがやってきた

「チャンミン、俺戻る」

もう慣れ親しんだようなユノの物言いが
なんだか嬉しい

「あ、はい」

その時マネージャーが顔を出した

「あのさ、チャンミンくん」

「はい」

「あの、ユノのロフトの寝る場所なんだけど」

「はい」

「朝の光が入りそうでさ
天窓みたいのがあるでしょう?」

「あ…」

「紫外線がね、ちょっと困るんだ」

「紫外線?」

ユノがマネージャーを制した

「問題ないよ、なんでそんなこと言うの」

「だってさ、日焼けするだろ?」

「大丈夫だよ、あれくらい」

「ここの紫外線は半端ないぞ」

「あの…」

チャンミンが間に入った

「朝日で日焼けするっていうことですか?」

マネージャーが苦笑いをする

「そうなんだよ、ユノねあまり肌が強くなくて陽に当たると赤くなっちゃうんだよね」

「あ、じゃあ、カーテンつけときますから」

ユノが少し怖い顔でチャンミンを見つめた

「いいよ、そんなことしなくて」

チャンミンが笑った

「大丈夫です。星はちゃんと見えるように
寝ながら開けたりできるようにします」

「……そんなこと、できるのか?」

「はい、日除け程度のものですけど
前に使ってたのがあるので」

「今夜はいいよ、明日で」

「でも…」

「いいから、とりあえずシャワー浴びるよ」

ユノがチャンミンを急かして
外へ出ようとするけれど

チャンミンはやはりマネージャーに言われた事が気になって、ちらっとキュヒョンを見た

ちょうどマネージャーがキュヒョンに
やれやれ、といったポーズをしているところだった

自分の意思を曲げないユノのマネージメントは
大変だろうな、とチャンミンは少し思った

日焼けなんて
気にしたことのないチャンミンにとって

やっぱりモデルは気を使うところが違うのだと、
そんなところもまたユノに対する憧れが膨らむ



先に外にでたユノを追いかけてチャンミンも外へ出た


戸口に面した庭で
ユノが空を見上げていた


スッとした上背のある長身

ただそこに立っているだけなのに
圧倒的な存在感とオーラを放つユノ

降り注ぐような星空を背景に
まるで映画のワンシーンのように見せている

しばらくチャンミンは
そんなユノのそばで

自分も夜空を見上げた


夜空は深く濃い葵がどこまでも広がり
それは山の向こうまで果てしなく広い

その中で一面に輝く星、何千、何万という星たち

まるで夜空からこぼれ落ちてくるかと思われるほどの星たち

山の極から反対側の地平線まで
星で埋め尽くされた空

自然が織りなす怖いほどの景色だった


あまりの驚きに口が開いたまま
塞がらないといった状態で

ユノは上を向いたまま突っ立っている


きっと、ユノはこの星空に感動しているのだろう

チャンミンは少し得意げな気持ちになった


この星空だけは
なんの刺激もないつまらないこの村で

いつもチャンミンを感嘆させてきた

見飽きることのない星座や
時として訪れる流星群

プラネタリウムというのがあるのは知っているチャンミンだけれど、この星空だけは世界一だと思っている


チャンミンは再びユノを見やった

夜風にユノのシャツの裾が柔らかく流れる


ふと

ユノが、チャンミンに気づいて
こっちを振りむいた

その顔を見て、チャンミンは驚いた

ユノの頬には涙がつたっていたのだ

チャンミンを見つめる瞳が切なく
その視線に心を鷲掴みにされたような気がする


「………ヒョン」

「ユノさん…大丈夫ですか?」

「チャンミン…」

「はい…」

名前を呼ばれ、
思わずチャンミンはユノの元へ駆け寄った

「ユノさん…」

「俺、感動して…」

「………」


ユノは恥ずかしそうに
目をこすりながらクシャッと笑った

「こんなの…初めて見たよ」

涙に濡れた瞳はまるで星のひとつのように綺麗で

チャンミンはユノの横顔に魅入ってしまった


「ほんとに凄い…星が降ってきそうだ…」

「……」

「ほんとに感動した」

「…なんか…嬉しいです」


チャンミンも夜空を仰いでポツリと呟いた

その声にユノがチャンミンの横顔を見つめた

細く長い首を伸ばして夜空を見上げるチャンミン

柔らかなくせ毛の髪が夜風に揺れている

昼間太陽の元ではわからなかったけれど
チャンミンはとても儚げな美しさを持っていた

星明かりに照らされて
大きな瞳がキラキラと輝く


綺麗だ

ユノはそう思った

不意に、チャンミンが嬉しそうにユノを見た

「世界一だと思いませんか?」

「え…」

急に声をかけられたユノは
今、自分がチャンミンに魅入っていたことに気づいた

「あ、ああ、ほんとだ
世界一だと思う」

「ほんとですか?よかった!」


嬉しそうに笑うチャンミンを
ユノは優しそうに見つめた

「さあ、ユノさん、明日から撮影でしょう?ベッド整えますから行きましょう」

「ああ」


2人して少し歩き
ユノの部屋とする奥の一番大きなログハウスへ向かう

鍵を開けて中に入り
チャンミンは早く天窓からの眺めをユノに見て欲しいと思っていた

「シャワー浴びちゃってください。
僕、ベッド作ってますから」

「ああ」

チャンミンの気持ちははしゃいでいた

用意してあった、小さなカーテンを天窓にとりつけ、
操作する紐を長く枕元に垂らす

寝ながらカーテンを引けるようにチャンミンが工夫したのだ


やがてユノがシャワーから出てきた音がしてロフトの上から下を見やると


腰にタオルを巻いただけのユノがいた

チャンミンはその姿を見てドキッとした

上から見ると、その肩と胸の厚みがかなりあることがわかって

軽くかきあげられた濡れ髪が
整った顔立ちをより精悍に見せている

しばらくその姿に見惚れてしまった

ユノはモデルという特殊な人間だ
だから見惚れてしまうのは当然で
そんな自分を変だとは思わないチャンミンだった

ユノの気さくな性格と
大事な仕事としてその肢体を磨き上げていることがとても魅力的なギャップに思える

そんなところもチャンミンはユノに好感を持っている理由だった

ユノが、あたりを見回している
自分を探しているのだろうか

チャンミンはハッとしてユノに声をかけた

「あ、ユノさん、ベッド作りましたから」

その声にユノが上を見上げて笑顔になった


チャンミンの心臓が今度は大きな音をたてた

その笑顔はあまりに、なんというか
こういうのをセクシーというのか

女性以外にも、そういう言葉を使うのだと
ユノを見て思う


「そこにいたのか、チャンミン」

ユノが近づいてきた

「あ、カーテンも、あの…つけておきました…」

「そう、サンキュ」

ユノがロフトへ上がってこようとする

「あ、待って、先に僕が下へ降ります」

「いいの、いいの」

「でも…」

チャンミンが狼狽えてると
ユノは下にタオルを巻いただけの姿で
ロフトに上がってきた

そして、天窓を見上げて感嘆の声をあげた

「うわー!すげぇ!」

少し斜めになった屋根裏
大きく四角に切り取られた天窓から
星が落ちそうなほど輝いて瞬いている

また、チャンミンは少し自慢げな気持ちになった

「すごいでしょう?」

ユノははしゃいで、チャンミンの肩を抱えると

そのままベッドに倒れこんだ

「ちょっ!!」

気がつけば、チャンミンはユノに腕枕をされた状態でベッドに仰向けになっていた

ふぅわりと、あのユノの香水が香る

「あ…あの…ユノさん…」

チャンミンの心臓のドキドキがユノに聞こえるのではとそればかりが気になる


「静かに、チャンミン」

「……」

すぐそばに、ユノの頬がある
自分の頭がユノの肩に乗っている

こんな状況だけでも気が動転しているチャンミンだったけれど、静かにと言われて
とりあえず黙った


「空にこんなに星がたくさんあるなんて
知らなかったなぁ」

「………」

2人で満点の夜空を見る

「チャンミンは毎晩こんな星空が観れるなんて、羨ましいな」

「あ…ここは、あのこんな田舎で
だけどこれだけは僕も毎晩驚かされるんです」

「うん、わかるよ」

「だけど…僕はやっぱり…ここを出たい…」

その言葉にユノがふと頭をあげて
腕の中のチャンミンを見下ろした


チャンミンはハッとした
なぜ、こんなことユノに言ってしまったのだろう

「あ、すみません、こんなこと」

「いや、いいよ、本音なんだろ」

目の前にユノの綺麗な顔があって
心臓が再びうるさくなる

ユノは再び、頭を枕に戻して天窓を見た

「あれもこれも、は無理だよな」

「え?どういう?」

「俺はさ、夢を叶える為には都会で暮らさないといけない。でも帰る家はここがいいな」

「…両方は…無理ですね」

「うん」

「あの…ユノさんの…夢って?」

「……」

「あ、なんか、すみません」

「チャンミン」

「はい」

「東洋人ってさ、独特の美しさがあると思わないか?」

「と、東洋人??」

「うん、ヨーロッパのショーモデルは
まだまだ東洋人は少なくて、服を買うのは東洋人が増えているのに」

「ファッションショー?」

「うん、みんな体型も良くなってるから
もっと東洋人の良さをわかってもらって
俺も世界的に…認められたい」

「それは…叶いそうな気がします
ユノさん、すごくカッコいいから」

「アハハ…ありがとな」

「あ、いえ…」


チャンミンは照れ隠しに星空に視線を戻して黙った

ユノの語る東洋人がどうとか、という夢の内容は正直よく理解できない

へんな答え方をしてしまったのではと
チャンミンは恥ずかしかった


しばらくして、スースーという寝息が聞こえてきた

ふと横を見ると、ユノが寝入っている


寝顔になると
整った顔立ちがよくわかる


こんな綺麗な人なら、きっといつか世界一になれる

チャンミンはそんな風に思った

布団をかけてやり、裸の肩が出ないようにした

そして、天窓のカーテンを閉じて
朝日が入らないように裾も止めた

ユノさんの肌が赤くなったら
明日の撮影に差し支えてしまう

そして、そっとロフトを降りた


家に帰る道、夜空を見上げると

いくつか流れ星が落ちてくるのが見えた


うまいこと流星群でもくればいいのになぁ
ユノさんに見せてあげるのに

そう思いながら、チャンミンは幸せな気分に浸っていた



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ナイルの庭 2




チャンミンの運転するマイクロバスがログハウスに到着する頃には

チャンミンはすっかりユノのファンになっていた


ユノは自分のモデルとしての失敗談や
下積み時代のお金がなかった頃の話を面白おかしく話してくれて

チャンミンのユノに対するハードルをぐっと下げてくれた

2時間の道のりがあっという間だった


あのログハウスも、もしかしたらユノはすごく気に入ってくれるのではないか

そんなチャンミンの期待に応えるかのように、
ユノは些かオーバーとも思える様子で
ログハウスに驚いてみせた


「マジかよ、これ本格的に作られてるじゃないか!」

スタッフが荷物や撮影機材をそれぞれのログハウスに搬入する中で

ユノはその建物の中をいろいろと探検して
チャンミンもそれに付き合った

ログハウスは大小合わせて8棟建っている
チャンミンの家から、歩いて10分ほどの森の中にある


「ここコテージだったんだろ?」

「最初はそうでした」

「なんで、やめちゃったの?
こんなに素晴らしいのに
建物も景色も最高じゃないか」

「お客さん、来なかったんです
パソコンもろくに使えないような田舎だから」

「パソコン?」

「スマホ、通じないですよ」

「そうなの?」


そのことを伝えるのは
チャンミンにとってとても恥ずかしいことだった

「電波が…その…」

「へぇーじゃあ隔離してくれるんだなぁ」

「隔離?」

「だれかが俺と連絡とりたくても、とれないってことだろ?本当の意味で1人になれるな」


「不便ですよ
それに、ネットで宣伝もできなかったから」

「なるほどね、そりゃ宣伝としては
キツイかもな」

「ええ…」

チャンミンは俯いた


「隠れ家的な…知る人ぞ知る…みたいな
そんなコンセプトでいけばいいのに」

「え?」

チャンミンが顔を上げると
ユノがログハウスの窓からその地平線の見える景色を眺めている

その横顔の美しさにドキっとした


「仕事や面倒なことから隔離されたいときには最高な場所だな」

「まぁ、都会の人はそう思うでしょうね」

少し拗ねたようにつぶやくチャンミンに
ユノが向き直った


「チャンミンさ」

「はい?」

「ここがあまり好きじゃないんだな」

「……」


ユノの声もその表情も
とても穏やかだった

言い当てられて、チャンミンは戸惑った

「好きじゃ…ないですよ」

「どうして」

「だって、なんにもない…」


フッとユノが微笑んだ

「勿体無いなぁ」

「何がですか?」

「恵まれてるのに、そのことに気づかないなんて」

「それは!」

チャンミンは少しムクれた

「それはヒョンが都会から来たから!」

思わずユノのことをヒョンと呼んでしまって、チャンミンは自分の口を押さえた

ユノが楽しそうに、そして嬉しそうに笑う


「いいよ、ヒョンで。
嬉しいよ」

「……ありがとう…ございます」

チャンミンがぺこりと頭を下げると
ユノがその頭を少しクシャッと撫でた

「さ、俺の部屋はどこか案内してくれる?」

「はい!」


チャンミンは頭を撫でられ
何かとても嬉しくなり、元気に返事をした

ユノは眩しそうにチャンミンを眺め
やはり嬉しそうに微笑んだ


「ユノさんの部屋は奥の1棟全部です
こちらです!」

「わかった」


ユノが目を細めて微笑む


チャンミンの足はなぜか弾んでいた

モデルの部屋は一番いい部屋にしてくれと
キュヒョンから言われていた

あの奥の棟にしてよかった

あそこなら、きっとユノさんは喜んでくれるはずだ


チャンミンは先頭だって奥まで行き
ログハウスの鍵を開けた

「どうぞ!」

「ありがと」


ユノは一歩、そのログハウスに足を踏み入れると
感嘆のため息を漏らした


「なんてことだ…」

「あ…えっと、この中では一番いい建物なんです…どうですか?」

「どうですかってさ、チャンミン」

「はい…」

「最高だよ、うん
もうなんて言っていいかわからない…
最高とか、もっといい言い方ないのかよ、って感じ」

ユノの切れ長の瞳がキラキラと輝いて
とても綺麗だった


チャンミンは何か自分が褒められたような気持ちになって、嬉しくなった

「気に入ってもらえたら…
あ!ここの一番いいところはですね!」

そう言ってチャンミンもその大きな瞳をキラキラさせて、ユノを手招いた

「こっちこっち」

「うん」


チャンミンはユノをロフトのある部屋へ案内した
そしてロフトの上を指差した

「ここが寝るところなんですけど
小さな天窓をつけてあるんです」

「おーほんとだ」

「見えます?」

「うん」

「ここね、寝ながら星が見えるんですよ」

「へぇー」

「もう見えるなんてもんじゃなくて
それこそ降ってくるんじゃないかってくらい」

「………」

「僕はここの自然なんてなんとも思わないんですけど、この星だけはほんとにすごいと思ってます!」


「………そんなに綺麗なんだ」


ユノが優しげにチャンミンを見つめる

チャンミンは興奮して饒舌になったことに
恥ずかしさを覚えた

「あーどうかな…えっと…
そんなでもないかもしれないけど」

「今夜が楽しみだな
今日くらい晴れていたらきっと星もよく見えるだろ」

「はい、今夜はほんと綺麗に見えると思うんですよ」

「天然プラネタリウム?」

「そんな、もっとすごいです!」


チャンミンの星空を推す様子に
ユノが楽しそうに笑う

「あ、そんなわけないか…すみません」

「いいよ、そんな謝らなくて」

「あ、じゃあ、あの…ここに荷物を運びますね」

「自分でやるから大丈夫」

「手伝います!」

「……」

「あ、すみません…」

「じゃ、頼もうかな
その方が早く終わるし」

「はい!」


チャンミンはもう
どうしようもなく浮かれていた

ユノはとてもカッコよくて、
大人で都会的で
それなのに気さくで優しくて


こんな人が、本当に自分の兄だったらいいのに…


義兄、姉の旦那さんは
このログハウス経営がうまくいかなくなると、姉に暴力を振るっていたことを
チャンミンは知っていた

姉から父には言うなと言われていたけれど

借金ばかり膨れ上がり
それなのに、姉にそんなことをする義兄を
チャンミンは許せなかった

ある日、チャンミンは我慢できず
父にその話をした

借金のことは心配していた父だったけれど
暴力のことを知ったとたん

借金をすべて義兄に負担させる形にして
姉と離婚させ家から追い出した

今、どうしているか知らないけれど
もう会いたくもないし、どうなっても構わないと思っている


「チャンミン?」

ふと、ユノに声をかけられた

チャンミンはハッとして振り向くと
ユノが心配そうにチャンミンを見ていた

「疲れたんじゃないか?
大変だっただろ、ここの準備」

「あ、いえ、大丈夫です
荷物をバスから取ってきます」

「悪いな」

2人でログハウスを出て
マイクロバスまで歩いていく

ちょうど、ユノのマネージャーやスタッフが荷物を出しているところだった

「あ、すみません!
僕やりますから」


チャンミンがそう声をかけると
作業をしていたスタッフが眩しそうにチャンミンを見た

チャンミンがバスまで追いつくと
マネージャーが興味深そうに、声をかけた。


「綺麗な顔をしているとは思ってたけど
君、すごく背が高いね」

「はぁ、そう…ですね」

「何センチくらいあるの?」

「185を少し超える…くらいですね」

「いいねぇ、頭小さいし、脚は長いし
ウチの事務所どうかな」

「どうって?」

そこへユノが追いついた

「ダメダメ、チャンミンを誘うなよ」

「なんで?
ユノもいいと思うだろ?」

「やるなら、もっと善良な事務所でね」

いたずらっぽく笑うユノに
マネージャーも笑った

「善良な事務所なんて仕事取ってこれないからダメだよ!」


そこでじゃれ合うユノとマネージャーを見ながら、
チャンミンは頭が小さいと言われたことがあまりいい気分ではなかった

頭が悪いという意味に取れなくもない
そんな風に思った


チャンミンはさっさとユノの荷物をもって
ログハウスへ戻った


とりあえずスーツケースを
入り口に並べていると

ユノもスーツケースをもって戻ってきた

「チャンミン」

「はい?」

「スタッフがさっきみたいに声かけてくるだろうけど、あんまり気にしないで」

「頭が小さいってことですか?」

「え?」

「いや、なんか頭悪いと思われてるのかなって」

「は?」

「だって、脚が長いって言われたら嬉しいけど
頭が小さいって、なんかね」

「……あー、そう取ったのか」


ユノが可笑しそうに笑っている
本当はもっと笑いたいのに我慢している
という雰囲気だ。

「チャンミン、褒めことばなんだよ
頭が小さいと、バランスがよくて服を着こなしやすいんだよ」

「ふぅん、そんな風に思ったことないです」

「そう?今日みたいにジーンズとチェックのシャツをそこまで着こなせるヤツってなかなかいないよ」

「着こなし?
これが?」

チャンミンは驚いたような顔をして
自分のシャツを引っ張って見せた

「うん…」

アハハとチャンミンは笑った

「着こなしって。
それこそ、ユノさんなんてただの白いTシャツにそんなジャージなのにメチャクチャかっこいいですよ、
たぶん、うちの父の服を着ても、ユノさんはカッコいいはずです」

ユノがフッと微笑んだ

「そんなに褒めてくれてありがとうな
チャンミンにそう言われるのは
カメラマンに言われるより嬉しいよ」

「そっ、そんなこと…」

チャンミンはなんだか照れ臭くなって
慌てて荷ほどきの作業に戻った




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ナイルの庭 1




星が降る夜を
一緒に眺めた


星が降る夜に
一緒に流れ星を数えた


あの時のひまわりは黄金に輝いて
僕たちを祝福してくれたね


けれど…





ここにはなんでもある

どこまでも広がる緑の地平線

初夏まで雪を頂く山々

美しい音を奏でる清らかな川

美味しい野菜と新鮮な牛乳


なんでもあるけれど
「刺激」というものが何もない


若く遊びたい盛りのシム・チャンミンは
そんな美しい自然の中で
何か燻るものを心に持ち続けていた


父親が大々的にオーガニックの野菜作りに乗り出して、
学校を卒業して都会に出るはずだったチャンミンは
仕方なくこの故郷に残る羽目になった


周りの友達はみんなこの村を出て行った

残ったのはチャンミンだけ

季節の休みに帰省する友達は皆
会うたびに垢抜けて、都会的になっていく

チャンミンは焦った

このまま、自分だけがこの田舎に取り残され、
なんの変化もなく歳だけをとっていくのかと考えたら
ゾッとした


連休が終わり、都会へ帰っていく友達を
今日も駅までマイクロバスで送ってきたところだった

幼馴染のキュヒョンが少し心残りな表情でチャンミンを見ていたことが、とても面白くない


チャンミンは小川の岸に膝を抱えて座っていた

川岸のタンポポをひとつ手折ると
その茎の切り口を口に含んでみた

乾いた風が、チャンミンの前髪を撫でていく

風がふうわりとシャツの襟元に空気を孕ませて
チャンミンの肌を優しく撫でた


真っ青な空を見上げて、チャンミンはひとつため息をついた


何やら、父がまた新しい事をするらしく
チャンミンはその手伝いに駆り出される


姉夫婦がこの田舎をリゾートに見立て
ログハウス風の宿泊施設を作ったのだが
結局はうまくいかず、借金だけが残った

昨年、帰省したキュヒョンがこのログハウスをとても気に入って、仕事に使いたいと父に交渉していた


キュヒョンは雑誌の編集をしていて
そんな話になったようだ

その空き家を雑誌かなにかの撮影に使うとかで
チャンミンはその立会いや、管理などを任されることになった。


正直、憂鬱だ


都会に出てキュヒョンを手伝うならまだしも、
結局僕だけがここから動けないのだ


チャンミンは再びため息をついた


来週になれば、30人ほどのスタッフの面倒を見なくてはならない

その中にキュヒョンがいるというのも
なんだか面白くない


チャンミンは腰を上げると、
岸辺の草を払って家へ帰った


翌週になり
その日の午後にはスタッフたちがやってくるということでチャンミンの家は大忙しだった


宿泊施設としての準備は済ませていたけれど
家からログハウスまで、食料や飲み物を運ぶのに何往復しただろう

どうせ、こんなことするなら
もっと大きなトラックを買えばいいのに

チャンミンは不満をいろいろと抱えていても、父に面と向かって反抗することが出来ない。

それは昔からのことで
今に始まったことではない。

けれど、そんな自分にもイライラしているチャンミンだった


キュヒョンからの連絡を待つため
チャンミンは自宅の母屋の食堂で黒い電話機を睨んでいた

今の時代、まだこの辺りは電波の調子が悪く、チャンミンはスマホはおろか、携帯電話さえ持っていない


姉夫婦がログハウスを始める際、パソコンで管理ができなかったのも、失敗した原因ではないかと思っている

wifiを設置しようと話が出たけれども
父が反対して無しになった


いきなり電話がけたたましく鳴り響き
チャンミンはビクッとした

「もしもし?」

「あ、チャンミン?キュヒョンだけど
後2時間くらいで駅に着きそう」

「了解」

そう言ってチャンミンはすぐに電話を切ってしまった

特にどうということもないのだけれど
キュヒョンの仕事に自分が関わることが
自分は嫌なのかもしれない

キュヒョンは何も悪くないのに…


チャンミンはマイクロバスのエンジンをかけて、出発した

元々宿泊客を送迎するために購入したマイクロバスが、なんだかんだと役に立っている

舗装されていない道を
マイクロバスがガタガタと走る


無限に広がっているのではないかと思われる緑の畑や草原

その奥に青い山々が壮大な姿を見せている

チャンミンは音楽のボリュームを上げて
自分のテンションを高めようと努めた


2時間も走ると、少しずつ家が増え始め
やがてなんの囲いもない線路が見えてきた

キュヒョンたちも車で来ているけれど
挨拶がてら、チャンミンが出迎える形で駅まで来たのだ

既に、キュヒョンたちの車が何台も来ていた

駅前の、これまた舗装されていない広場に
大きなバンが何台も停まっている様子は
異様だった。


そうは言ってもその様子を見に来る人さえ、この村にはいない

「チャンミン!」

キュヒョンがバンから降りてきた


「遅くなったかな」

「大丈夫、みんな今来たところだから」

「それならよかった」

「この間は送ってもらって悪かったな
電車なんかで帰ってきちゃって」

「いいよ、そんなの。
それより、挨拶しなきゃだろ?僕」

「ああ、うん」


キュヒョンがチャンミンをそれぞれのバンへ連れて行き紹介をした

スタッフたちは車から降りることなく
チャンミンに軽く頭を下げた


失礼な人たちだな…
車から降りて挨拶するべきじゃないのか


それがチャンミンのスタッフに対する第一印象だった。


6台目のバンに差し掛かったところで

突然後部座席のドアが開いて
チャンミンは驚いて後ずさりした


開いたドアの向こうから
1人の背の高い男の人が下りてきた

「君がキュヒョンの幼馴染?
これからお世話になります」


そう言って、握手を求めて手を伸ばしたその人は、
爽やかな笑顔でチャンミンに挨拶をした


すごくカッコいい人だな…

「あ、シム・チャンミンです…」

「俺はユンホ。ユノって呼んでくれれば…」

そう、その人が言いかけたところで
ほかのバンから慌ててだれかが下りてきた

「ユノさん!わざわざ下りなくていいですよ、
乗っててください」


小太りのその男を、ユノと名乗ったその人が少しキツい視線で見据えた

「あのさ、ちゃんと挨拶したら?
なんでみんな乗ったまま?
2人が車を回って挨拶って失礼だろ」

「あ…」

その言葉が合図のように
他のバンからもバタバタとスタッフが慌てて下りてきた

そこで、なんとなくみんなが挨拶する形になった

このユノという人が要の存在なのだと
チャンミンにもわかった


キュヒョンがそっとチャンミンに耳打ちした。

「ユノさんね、今回の撮影のモデルさんなんだ。厳しいけど怖い人じゃないから」

「そう、ちょっとびっくりしたけど
怖い人じゃないんだね?」

「うん、大丈夫」

そう言ってキュヒョンは自分のバンに戻った


「じゃあ、行きましょうか
もし、バンが窮屈な方は僕の車にどうぞ
まだここから2時間くらいかかるんで」

チャンミンがそう声をかけてみると

「あ、俺そっちに乗りたい」

ユノが無邪気な感じで名乗り出た

そういうことなら、とスタッフらしき人が何人か自分とユノの荷物を持ち出してきた

それでもユノは自分の荷物を自分で持ち
マイクロバスに乗り込んだ


「チャンミンだっけ?俺、助手席いい?」

「あ、いいですよ」

チャンミンが助手席に置いてある自分のキャップやタオルを片付けた

「へへ、特等席だな」

ニヤリと笑うユノ

背が高く顔が小さくて
ほんとにカッコいい

顔立ちもスッキリと整って美しい

そして、なにしろ垢抜けていて
都会的だ

なんでもない黒いジャージに白いシャツという姿なのにまるで雑誌から飛び出してきたみたいに洒落ている

足元の白いスニーカーが
計算されたスタイルに見えるほどだ

助手席に座ったユノから
ふうわりと香水のような香りがした

柑橘系だけど少し甘いような
なんとも言えないいい香りだった


カッコいいな…

チャンミンは憧れを持ってユノを見た

こんなマイクロバスに乗せるのが
なんだか忍びない

ユノは子供のように明るい笑顔で
助手席に乗れたことが嬉しそうだった

車を走らせると

その喜びはますます高まったようで
ユノははしゃいだ


「すげぇーまるで絵画みたいな景色だな」


「なにもないですよ」

「何言ってんの、地平線が見えるなんて貴重だよ。
それにこの季節でも、山の上に雪が見えるんだな」

「そう…ですね、雪がまったく消えることはないです」

「そうなんだ、チャンミンはすごくいいところに住んでるね」

思わずこの田舎を褒められて
チャンミンは戸惑った

「あ…たまに見るからいいんですよ
こんな景色」

「そのこんな景色の中に毎日いてさ
この素晴らしさに慣れちゃってるんだな
チャンミンは」

ユノはとても気さくで
チャンミンはますます好感を持った


この田舎を馬鹿にせず
褒めまくってくれたことも、あったかもしれない

チャンミンはこのプロジェクトを
とても憂鬱に思っていたのに

今はなぜかとてもウキウキしている

チャンミンは窓を開けて風をいれた


「俺も窓開けていい?」

「あ、いいですよ」


両方の窓から風が入って
ユノの香水がふうわりと薫る

その香りにチャンミンの心臓がドクンと音を立てた





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こんばんは、百海です

新しいお話がはじまります
今回はとても悲しいお話になります
ハッピーエンドではありません

いつも念頭に置いているのが
この2人がこんな韓国映画に出てくれるといいな
という妄想なので

読んでくださる方もそう感じていただけるとうれしいです

なので、悲しいお話が無理な方は
今回は無理をしないでくださいね

もし、大丈夫とか
いや、かえってこういうの好きです!
という方は楽しんでくださいね

2人が悲しい映画に主演すると
思っていただいて、決してリアルなお話ではないです


前置きが長くなりましたが
現実離れしたド田舎に住むチャンミンと
業界最先端を行くトップモデルのユノ
のお話です

ユノに憧れを抱くチャンミンと
大自然に生きるチャンミンに癒しを求めるユノ

理屈もなにもない
魂で惹かれあった2人です

どこまでもピュアに愛し合い
お互いのことを一番に想う美しい2人です

素直になって 完




「チャンミン、今夜あたしたちと飲みに行かない?」

金曜の夕方
仕事の目処もつき始めた時間

同期の女子たちが僕のデスクにやってきた

「あ、せっかく誘ってもらったのに悪いけど、
用事があるんだ」

「今週も?」

「うん、ごめんね」

「彼女いないって聞いたけど」

女子たちが半分ムッとしながら
口を尖らせる

「うん、いないけど…」

「だったら、たまにはいいじゃないのー」

「うーん、ほんとにごめん」

僕は手を合わせて、片目を瞑ってみせる

こうすると、女子たちは「仕方ない」という顔になることを最近学んだ


「今度一度でいいから、行こうね?」

「うんうん」


そこへ、システム部のリーダーが来た

ユノ先輩の同僚で、結局は僕がファイルを隠した件を
もみ消してくれた人だ


「お疲れ様です」

「うん、お疲れ」

リーダーはなかなか僕の席から立ち去らず
何か言いたそうだ

「?」

「なあ、シム・チャンミン、飲みに行かないのか?
あんなに女子たちが熱くお願いしてるのに」

「…ええ、用事があって」

「最近、シム・チャンミンがカッコいいって
話題なんだよ。親しみやすくなったってね」

「それは有難いですね」

この人は、僕とユノ先輩のことを
絶対に感づいてる


「あのさ」

リーダーが僕に顔を近づけてそっとささやく


「ユノがうるさいのか?」

「え?えーと、そういうワケでもないんですけど」

「あいつメンドくさいだろ」

「どうですかねぇ」

「だけどね、チャンミン」

「はい」

「ユノがヤキモチやくとか、束縛とか
そういうのは今まで無かったことだからな」

「えっ?!」

僕は思わず、仕事の手を止めた

「そんなに驚くところを見ると
とんでもなさそうだな、ユノは」

「え、いや、えっと」

「束縛とかしてくれないから、オンナが去るっていうのが、今までのパターンだった」

「あーそうなんですか…」

「チャンミン、あいつ鈍感でメンドくさいけど
頼むな?」

「頼むって…僕は…」

「なんだかんだ言っても
メチャクチャいいヤツだから」

「あ……」

「な?」

「はい」

僕は微笑まずにはいられなかった


リーダーが立ち去ると


背中に刺さるような視線を感じて
血が出ているんじゃないかと思うほどだ


そっと振り向くと

ユノ先輩が鬼の形相で僕を睨んでいる

わかりやすすぎる

まわりの同僚や先輩たちにも
その分かりやすさで少しずつバレはじめているというのに

ユノ先輩は、怒ったように席を立ち
オフィスを出て行く

僕は慌ててそれを追いかけた
きっと、追いかけてこい、という合図なのだと思う

ユノ先輩は長いストライドで廊下をどんどん歩いて行き

社員が使用する食堂へ入っていった

時間的にもガラガラの食堂で
先輩はセルフのコーヒーコーナーへ歩いて行く

ポケットから小銭を出すと
紙コップを取り、マシンの中に置いて
コーヒーのボタンを押す

やっと追いついた僕は
マシンの横にたって、少し息を整えた

「先輩、歩くの速いよ」

「脚が長いんだから、仕方ないだろ」

「そうは言ってもさ」

先輩はコーヒーで満たされた紙コップをそっと取り出して、台に置いた

「お前も…飲むか」

「いただきます!」

「……」

先輩はもうひとつ紙コップをとって
小銭をマシンに入れた

「なに、お前、今夜飲みに行くの」

「行きません」

「たまには行ったらいいのに
毎週ああやって誘いに来るんだから」

「だって、僕には大事な用事があるから」

そう言って、とりあえず満面の笑みをみせる


「ふん」

「先輩、やきもち?」

「そんなわけない」

「素直になってください」

「だから、そんなわけないって」

僕は先輩の顔を真剣に見つめる

「………」


「やきもち焼いてくれたら
僕、うれしいのに」

「…なんだ、それ」

先輩はコーヒーを一気に飲み干した

熱いだろうに

「ヤケドしますよ、そんな」

「するかよ」

「先輩」

「………」

「素直になってください」

「………」


先輩はフーッとため息をついた

そして、僕を優しく見つめた


「はい、ヤキモチ妬いてます
盛大に妬いてます」


その言い方に僕は思わず吹き出した

「なんだよ、素直に言ったよ」

「はい、僕も素直に言いますね
先輩がヤキモチ妬いてくれて、盛大にうれしいです」

「もっと素直に言えば
お前が少しでも他の誰かと口をきくだけで
ヤキモチやいてます」

「それは、もっと嬉しいです」


先輩が優しく微笑む


「誰とも話したりしないお前を
先輩として少しは心配していたのに」

「それはね、今は先輩としてじゃないからでしょう?」

「そうだ、わかるか?」

「フフフ…わかります」

「お前はヤキモチ妬かないじゃないか」

「そんなことないですけど…」

「けど、なんだ?」

僕は笑みがこらえきれない

「僕は、先輩が僕に向いてくれただけで
今はお腹がいっぱいなんです」

「チャンミン…」

「なんかもうそれだけで…幸せすぎて」

「………」

ニヤニヤと笑みが止まらない

僕は本当に幸せで


「俺は…今、もうすこし素直になろうかと思う」

「?」

先輩は僕の頬に軽く触れると
そっと唇を寄せてきた


会社では絶対にキスしたり
身体にはふれないと

自分で自戒していた先輩なのに

けれど、僕も素直になって
その唇を受け止めた



今まで張り巡らしていた僕の城壁は
僕の何を守ってくれたのだろう


まるで孤高の塀の中いた僕を

あなたがその城壁を壊して救いに来てくれたような気がする

だけど、よく考えたら
それは少し違って

あなたに惹かれて

僕が自分で城壁を壊して出てきたのかもしれない

大好きなあなたと触れ合いたくて
恐る恐る出てきたんです

自分の気持ちを伝えるには
カッコなんかつけてたら全然ダメで

今までの自分を覆さなきゃならなかった


でも

こうやって、大好きなあなたに体当たりすることで

今、こんな風に唇を合わせているなんて


僕は幸せです


食堂を掃除をするために
大きなカートを押して、清掃業者のおばさんが入ってきた

慌てて唇を離した僕たちはお互いにニヤリと笑った


そして、先輩はその場を離れると
厨房の裏から、電源コードを巻いたローラーを持ってきて、おばさんのカートのところに持ってきた

「あら、いつも済まないわねぇ」

「いいんだよ、これ重いから」


そして、なんでもないように僕のところへ戻ってくるあなた

「さ、オフィスに戻るか」

「はいっ!」


キスの続きは、また今夜…


転職はどうなったかって?

もちろん破棄しましたよ


ユノ先輩って、こうやって誰にでも優しいじゃないですか?

優しくされた人が勘違いしないかどうか
監視していないとです

まだ先輩は気づいてないだろうけど

ヤキモチ妬きは…僕も相当なものです



金曜の夜はみんなが少しだけ浮かれて仕事を終える

僕は今週も

会社のエントランスで先輩を待ちます

仕事を終えてエレベーターから降りてくるあなたは

僕を見つけてとても嬉しそうな顔をしてくれる

僕も精一杯の笑顔であなたを迎える


これからも、一緒に歩いて行こうね


僕はあなたにだけは、素直になるからね


「どこ行く?」

「あの居酒屋がいい。もちろん個室」


優しいあなたの笑顔がほんとに大好き

これからもずっと…一緒にいてください





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こんばんは、百海です。
今夜、いろいろとありまして
最終回だというのに、定時にアップできず
本当に申し訳ありませんでした

今回は短編で、特に大きな事件も起こらず
シャイで捻くれ者のチャンミンと
カッコいいけど鈍感なユノ先輩

そんな2人が結ばれるまでの
ちょっとしたエピソード、というお話でした

いつもと違う感じだと感想もいただきました
私もそう思いました笑笑

でも、描いている時はとてもハッピーで
こういう可愛いお話もいいな、と思いました

またお話を書き上げたら、アップしますので
お暇なときに遊びにきてくださいね

いつも拙いお話を読んでくださって
ありがとうございます

気温の上下が激しい季節ですね
風邪も流行ってるようですので
みなさま、ご自愛くださいね


素直になって 13



***チャンミンside***


ユノ先輩が

いわゆるノンケであるユノ先輩が

僕をそういう対象として考えにくいことは
今までの経験でよくわかっていた

それでも、先輩はどうにか僕を受け入れようと
悩んでいるのが手に取るようにわかって

僕はそんなあなたが、ますます大好きになってしまうんです

そして、とても悲しくなってしまうんです

僕は遠くであなたを見ているだけでいいとか
先輩と後輩ということで、少しは楽しく付き合いたいとか

かつて望んだそんな関係では我慢できなくなり
ついには抱いて欲しいなんて言ってしまい

今までカッコつけて、意地を張ってた反動なのか

もう貪欲でこれでもかこれでもかと
あなたをあからさまに欲してしまった

素直になるということは
時に相手を困らせることもあるけれど

自分自身も傷ついてしまう

それをよくわかっていたはずなのに

もう止まらなかった

だけど、軽く玉砕ムードになってしまい
僕は退散するしかなかった

やはり、あなたを諦めなくてはならないと
自分に言い聞かせ

ひとりで流せるだけの涙を流そうと
それこそ子供のように泣いた

なのに、あなたは
そんな僕を救いに来た

どこまであなたは優しいのだろう

こんな僕、無理ならほおっておけばいいのに
結局は見捨てられずに救おうとする


それならば

それに報いるため、僕は決心した

僕と今後どうなろうとも
少なくとも今夜は絶対にイかせてあげる

僕はできる限りのコトをしてあげて
精一杯の愛をあなたに

会社を辞める手筈になっていることが
僕を後押ししたとも言えた

僕にとっては忘れられない思い出に
あなたにとっても、こういうこともあったな、
と、それくらいには思い出してもらえるように


それでも、裸になったあなたがあまりに素敵で
僕はまた泣いてしまった

しっかりと筋肉のついた身体
厚い肩と胸
首筋から鎖骨にかけてのため息がでるようなライン

柔らかく強い筋肉のついた太い腕

思わずその肩に触れるととても温かくて
そのまま隆起した胸へと指を滑らすと

あなたは強く僕を抱きしめてくれた


大好き

ユノ先輩…大好き

僕のそんな気持ちを
あなたに伝えようとあらゆる手段を使った

僕の唇と舌と指は、そんな気持ちを雄弁に語ってくれているだろうか

もう夢中で、こんな風にあなたに触れられることがうれしすぎて、自分にばかり集中してしまった

ふと気づくと、あなたは荒い息遣いに肩を上下させていた

まさか、ユノ先輩…

もしかして悦んでくれていますか?


「……チャンミン…オレ…もうダメ…」

え?

「お前を抱きたい…頼む…」

先輩…そんな…嬉しい…


先輩のその綺麗な手が
僕の後頭部に触れて引き寄せられる

その時、僕の太ももにあなたのソレが触れた

あ…

すっかりと臨戦態勢になっているそれ…

僕は涙で滲んでそれが霞んで見えなくなりそうだった


「お前…ずっと俺のこと…こんなに好きでいてくれて
俺、たまらないよ…」

「好きです…ずっと」

「恥ずかしかったんだろ…可愛いよ…ほんとに」

もう…

僕はあなたの事が好き過ぎて
どうしたらいいんですか

「抱かせて…抱きたい…」

先輩は僕を引き寄せようとして
それでもどうしていいかわからないようだった

「そのまま、じっとしていてください」


僕はあなたを僕へと導いた

先輩がアゴをあげて快感を堪えるように
苦しそうな表情をする

なんて綺麗な人なんだろう

僕の中に、想像以上に強さを持ったあなたが…
僕は…悦びに奥歯を食いしばって耐えた

死んでもいい

僕の人生が必ずいつか終わるなら
今この時がいい

ユノ先輩…

愛してます




***ユノside***


チャンミンは一生懸命だった

あまりに一生懸命でその姿がいじらしくて

なんだか切なくなってきた


今まで…照れ臭くて恥ずかしくて
俺にシラケた態度をとっていたなんて

あのつまらなそうな顔で俺の側に来るチャンミンを
思い出すと、可愛くてたまらない

なんてピュアなんだ

こんな存在…愛さずにはいられない


それに…

少し恐れていたその行為が

あまりに良すぎて…俺は…まさに失神してしまいそうだった

的確なリズムを持って襲ってくる快感と
チャンミンの息遣い

その大きな瞳が快感に蕩けそうになる姿は
視覚的にも俺の腰にダイレクトにきた

甘い声が俺の耳をくすぐる

男の身体だからといってなんの支障もない
萎えるどころか…煽られる一方だ
もう…たまらない

チャンミンがきちんと快感を感じているのが見てとれて
俺は嬉しくさえあった

ひとつになりたい

こんなに可愛いチャンミンと
ひとつになりたい

自然に…そう思えた


もう…離さない…

愛してるよ…チャンミン…


********


俺の目の前に

スースーと寝息をたてて眠るチャンミンがいる

半開きになった少し厚い唇を見ていると
またムラムラとしてきそうだ

どうしていいかわからないなんて言っていた俺を
どうか笑ってやってくれ

結局何回シてしまったんだろう

チャンミンにかなりの負担を強いてしまったのではないだろうか

もう、グッタリしてるじゃないか

俺はチャンミンの瞼にかかる前髪を
そっと指で払ってやる

こんなことしていると

また抱いてしまいそうで
今、そんな欲望をなんとか押さえている

今まで女にここまでの気持ちを抱いたことがない

目の前にいるこの可愛い存在は
服で着飾ることもしなければ、メイクで自分を良く見せようなんて気もない

素のままで…
ありのままで可愛い存在なのだ

良く見せようとするどころか
つっけんどんにしてしまうなんて

ピュアすぎて泣きそうだ

チャンミン…


ふと、チャンミンの長い睫毛がピクっと動いたかと思うと、微かにその大きな瞳が薄っすらと開いた

俺の心が幸せで満たされる


「起きたか?」

「ん…」

チャンミンがぼんやりと俺を見る

そして、柔らかく微笑んだ

幸せか?
俺も…メチャクチャ幸せだ


なんて…可愛いんだろう
ほかにチャンミンを表現するうまい言葉がないだろうか

「先輩、起きてた?」

「うん」

伸びをするようにして、
チャンミンが俺の首に腕を巻きつけてきた

「も1回する?」

「えっ?」

俺は半身を起こした

「いいのか?」

チャンミンがニヤーっと笑う

「いいですよ」


俺はすごい勢いで布団をかぶり直した


今日が休みでよかった




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こんばんは、百海です
鍵かけなくてすみません(^◇^;)

明日が最終回になります

素直になって 12


***ユノside***


暗闇の公園のベンチで

子供のようにしゃくりあげて泣いているのは
紛れもなくチャンミンだった


ああ…

チャンミン


その姿を見たとき

俺は会社を出てから、今この時までを
猛烈に後悔した


こんなに傷つけてしまった…
さっきは平気そうにしていたのに

我慢してたのか…

ごめん…俺…


俺はたまらなくなって感情のままに駆け寄り
ベンチのチャンミンを抱きすくめた

俺に引っ張り上げられて、抱き込まれて驚いたのか
ピタッと泣き声は止み

俺の腕の中でチャンミンは固まっていた


「ごめん、ほんとにごめん!」

俺はチャンミンを搔き抱いた

なんの解決にもならないけれど
とにかくチャンミンを悲しませたくない
離れたくない

「離れたくないんだ、それは本当なんだよ」

「………」

「泣かないで…な?」

「すみませんけど…」

チャンミンが小さな声でつぶやいた

「ん?なに?」

「すみませんけど…ひとりにしてください
もう、帰って」

「だって…」

こんなに泣きじゃくって
ひとりになんかさせられるか

チャンミンはグスンと鼻を鳴らすと

俺の腕から出ようともがきだした
俺は離すまいと余計に抱きすくめた

暴れるチャンミンの涙が俺の頬に飛ぶ

いじらしくて
愛おしくて

俺はかなりの力で抱きしめた

そのうち諦めたのか

俺の胸でチャンミンがおとなしくなった

そしてまたクスンクスンと泣き出した

ああ

「ごめんな…」

「うっ…えっ…」

「やり直そうって言ったのにな」

「いいんです…わかってましたから」

「………」

「僕が…望みすぎたんです…うっ…」

「………」

「もうすこし…うっ…こうしていて…いいですか」

「チャンミン…」

俺はチャンミンを強く抱きしめた

そして

俺は決心をした


「うっ…えっ…」

「あのさ…」

「うっ…ひっく…」

「俺さ」

「……うっ…え?」

「お前を抱くから」

「……?」

俺はチャンミンの肩を掴んで
真正面からその泣き顔を見つめた


「抱いてやるから、もう泣くな」


チャンミンの目が大きく見開かれた

「なに…言ってるんで…す?」

「ダメか?」

チャンミンが俺から離れた

「いや、ダメとかそういうんじゃなくて…
あの…無理しないでください…」

「だってさ…」

「あの…自分に素直になってください
心のどこかで僕を無理だと思っているのに
そういうシチュエーションになるのは
ある意味…残酷です…」

「…抱いてみたい…そうしないと俺もどうしていいかわからないんだよ」

「ユノ先輩…」

「頼む…俺にチャンスをくれ…」

「………」


チャンミンが大きな瞳で
俺を見つめている

涙の跡を頬に残して
本当に可愛くて、これなら絶対に抱けるなどと
思ってしまう

やがて、チャンミンが真顔になった


「わかりました」

「…チャンミン」

「僕の部屋で…いいですか?」

「あ、ああ、うん」

「……」


チャンミンは俺の手に自分の手を絡ませて
スタスタと公園を出て行く

俺はチャンミンの手をギュッと握り返して
後について歩いた


ずっと無言のチャンミン

なにか…話してくれ…


チャンミンは
大通りに出てタクシーを拾った


車内でも、チャンミンは無言だった

ああ、俺、どうなるんだろう

なんだか緊張してきた


15分ほどして、こぎれいなアパートについた

1階の奥の部屋がチャンミンの住まいのようだ


「どうぞ」

そう案内されて、部屋に入ると
その綺麗な状態に驚いた

こじんまりとした、決して広くはない1LDK

整理整頓がきちんとされて
無駄なものが何も出ていない

「人を呼ばなくてもいつもこんな綺麗なのか」

チャンミンは手洗いうがいをしに
洗面所にいるようだ

「掃除は週末しかできませんけど
まだ就職で越してきたばかりなので、物が少ないんです」

「それにしたって…
俺の部屋とは大違いだ…」

俺は服やコンビニ弁当の容器でカオスになっている
自分の部屋を思い出した


「なにか…飲みますか?」

「え?うーん…」

「コーヒー淹れます」

「あ、じゃ頂こうかな…」

「そのソファに座っててください」

「うん」

「スーツの上着はハンガーに」

「あー、あ、うん」

チャンミンはベッドのある奥の部屋に入ると
ジャージに着替えてきた

やがてコーヒーのいい香りがしてきて
ソファのテーブルにふたつのマグカップが置かれた

「ありがとな」

俺たちのコーヒーをすする音だけが
室内に響く

だんだん緊張が蘇ってきた

コーヒーも飲み終わり
チャンミンが小さくため息をついた

そして、顔を上げた


「先輩」

「…は、はい」

「夢中にさせます、とは言えないけど」

「え?」

「そこまでは自信ないけど…あの…
後悔はさせないようにします」

「あ、あーはい」


なんだか、マヌケ過ぎる俺!


「あの…いろいろと準備が必要なんで」

「そ、そうなの?」

「はい、先にシャワー浴びてもらっていいですか?」

「俺が?」

「…あ、僕が後からシャワーで準備をしないといけないんで」

「なんの?」

「えっと…あの…まあ、そこは聞かないでもらえます?」

「あ、うん…わかった」

よくワケがわからないまま、俺はタオルと着替えを渡されて、シャワー室に放り込まれた

とりあえず、身体を洗おう
念入りにしたほうがいいよな

シャワーから出てくると、
すかさずチャンミンが洗面所に入ってきた

「あ、一緒にシャワーする感じ?」

「そんなワケないでしょ?」

「???」

俺は洗面所からも追い出され
とりあえず、ソファに戻った


チャンミンのシャワーは長かった

それでも俺は緊張から眠くなることはなく
じっとソファに座っていた


貸してくれた着替えのジャージとTシャツは
俺でも少し大きいサイズで

チャンミンが普段着ているものではないことは
明らかだ

元カレとかの服かな…

そう思うと何か嫉妬心が沸き起こる
ワケのわからない俺だった

やがて、チャンミンがシャワーから出てきた

Tシャツにジャージ姿の俺たち

まるで色気もなにもない感じだけれど

チャンミンは少し恥ずかしそうに俯いた

いよいよ…はじまるのか…

緊張が走る俺


「先輩…ベッドへ…いいですか?」

「あ、うん」

チャンミンは俺の手をとると
奥の寝室に入った

ベッドと小さなサイドテーブルしかない
シンプルな落ち着いた部屋

チャンミンは俺をベッドへ座らせると
サイドテーブルの灯りだけを付けにいく

そして、俺の隣に腰かけた


ぼんやりとした灯りに
チャンミンがとても綺麗だ

少し俯いて、少し微笑んでいる


「僕…まさか、こんな日が来るとは思いませんでした」

「………俺も」

「フフ…そうですよね、すみません」

「謝ることない…」

「ほんとに…ありがとうございます」

「俺のこと…いつから好きでいてくれたんだ?」

仄かな灯りに、俺を見つめるチャンミンの瞳が
キラキラと光る


「研修の挨拶のときに
もう先輩の事が好きになっていました」

あんなに早い時期に…

「あなたは明るくて、ほんとに爽やかで」

「………」


あの頃

お前はみんなの輪から離れて
いつも面白くなさそうな顔をしていたな…


「先輩のまわりにはいつも人がたくさんいて
全然近づけなかった…」

「そうだったのか…俺…」

「先輩は僕に気をつかってくれましたよ」

「そうかな…」

「もっと気をつかってもらいたくて
トレッキングなんかに…僕…」


ああ、みんなが驚いていた

お前がトレッキングに参加したから

それって俺に構ってほしくて?


あの時の、唇をへの字に曲げて
つまらなそうに参加していた姿を思い出す

いじらしい…


「ユノ先輩が思っているより
僕はずっと、先輩の事が大好きなんです」

少し思いつめたように
チャンミンは唇を噛み締めた


チャンミンをいい加減に扱ってはいけない

俺はそう思った

やがて

チャンミンは自分のTシャツを脱いだ

白い肌が柔らかい灯りに照らされて
俺は息を飲んだ

肩には丸く筋肉がつき
腕だってきちんと男のそれなのに

可愛い顔から細く長い首を通るうなじの線が

あまりに色っぽかった

俺はそのうなじにそっと触れると
チャンミンはビクッとしてまた俯いた

俺は、自分でTシャツを脱いだ

チャンミンが俺の上半身を見て、なぜか泣きそうな顔をしている

チャンミンの手が震えながら俺の肩に触れて
そっとその指が俺の胸へ降りてくる

そうして、チャンミンは本当に泣いていた


そのまま、俺たちは抱き合った





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素直になって 11


***ユノside***


チャンミンとまたあの店に行くことになった

やり直そう、と思った

あの時、チャンミンは俺を好きで
それをうまく表せずあんな態度だったのだ

可愛い弟分だと思っていたけれど

今はそうは思えない

女に対する気持ちとも違うけれど
可愛い弟ではない

その笑顔にドキドキしたり

抱きしめたり、くちづけしたり
今や、そんなことをしたい対象だ

俺はいつから男にそんな感情を抱くようになったのか

いや、チャンミンが初めてだ
それだけは言える


仕事が終わって、エントランスに行くと

チャンミンがスーツにリュックを背負った姿で
柱のところで立っていた

真面目にお行儀よく待っている姿が
とてもいじらしくて、また抱きしめたりしたくなる

近づく俺を少し恥ずかしそうにして見つめる

そして、ペコリと軽く頭を下げた


自分がどれだけ可愛いか
わかっているのだろうか…


「行くか?」

ぶっきら棒に声をかける俺

「あ、はい」


なんだか、上手く話せない

チャンミンを可愛いと思う自分を
どうにも認められなくて、照れ臭くて

俺は笑顔になれずにいた


店に着くと、女将がいつものように迎えてくれていた

「なぁ、個室いいかな」

「個室?いいわよ、ユノさんから言うなんて珍しいわね」

女将は俺とチャンミンの顔を見比べながら言う

バレてるだろうか、俺の気持ち
俺たちの関係…

え?俺たちの関係ってなんだ?


女将は深く詮索せずに
さっさと個室に案内してくれた

殺風景な場所だけれど
妙に落ち着く部屋なのだ

どちらからともなく、向かいの席に座って
手持ち無沙汰で少し困った

チャンミンはもじもじと恥ずかしそうで
その緊張感が伝わってくる

恥ずかしそうだけれど、どこか嬉しそうだ


新入社員の研修の頃とは大違いで
まるで別人だ


そんなチャンミンにどんどん惹かれている

けれど、正直そんな自分が少し怖かった


チャンミンとは女と付き合うのと同じように付き合うのだろうか


正直自信がなかった
というか、どうしていいかわからなかった


「あの…何飲む?」

やっと言葉を発した俺

「ビールがいいです」

「うん」

俺は、小さな手元のブザーを押して女将を呼んだ

「ビールふたつね、あと適当におつまみ頼む」

「はーい」

女将は俺たちの顔を交互に見ながら
部屋を出ていった

バレただろうか

だから、バレるって何を?


チャンミンを前に自問自答を続ける俺


俺たちは何も会話をしないまま、ビールが運ばれてきた


「とりあえず、乾杯しよう」

「何に…ですか?」

「え?」

「何に乾杯ですか?」

期待に満ちたバンビアイがキラキラしている


可愛い…改めて思う

それなのに

「何にって、特に乾杯に何ってことないよ」

俺のその一言に
チャンミンの顔が一気に翳った

ヤバイ

その表情からは期待の色が消えて
驚きとそして絶望に青ざめた表情に変わった


まずい…


「わかりました、それじゃお疲れ様です」

笑顔の消えたチャンミンは
俺のジョッキに自分のジョッキをカツンとあてて
一気にビールを飲み干した

「あ…チャンミン…」


飲み干したチャンミンは
はぁーっと大きくため息をついた

すごいな…これを一気飲みするなんて

チャンミンはガチンと大きな音を立てて
ジョッキをテーブルに置いた


「言わせてもらっていいですか?ユノ先輩」

「は、はい」

心なしか、チャンミンの顔が怖い


「キスしたことを謝らないとか」

「あ…」

「あんなこと言われた後に、こういう雰囲気は
残酷です」

「残酷?」

「僕の気持ちはご存知でしょう?」

「あ、う、うん…」

「ユノ先輩は…僕を好きですか?」

直球だ…

「す、好きだよ、うん、
だから俺はキスしたんだ」

「僕とこれからどうしたいですか?」

「………」

気まずい沈黙が流れる

「………」

チャンミンは下を向いたまま、俺の顔を見ようとはしない

「あ、あのさ…」

「………」

「その…俺…男を好きになるとか初めてで」

「………」

「だけど…なんていうか…
女を好きになるのとは違うっていうか…」

「………」

「正直、俺、どうしていいかわからないんだ」

「………」

「俺…どうすりゃいい?」

「僕に…それを聞くんですか」

「だってさ…」


このまま、何をしていいかわからないまま怒ったような態度をとるより
正直な気持ちを言ったほうがいいと思った


しばらく考えていたチャンミンは口を開いた


「僕の気持ちを言わせて貰えば」

「うん…」

「僕はユノ先輩とつきあいたいです。」

「それって…デートとか?」

「はい、ご飯食べに行ったり、そうですね
映画を観たりとか…旅行なんかも行けたらいいです」

「うん、俺もそういうこと、お前としたいな」

「だけど…」

「だけど?」

「僕は…」

「……」

「そのうち、キスじゃ物足りなくなります
絶対に物足りない」

「え…」

「先輩に…抱いて欲しくなります」

「だっ…え?」

「今もそう思っています」

「………」

「先輩、あなたと同じ体の僕を…
抱くことができますか?」

「………」

俺は…焦った

抱けるかと言われたら、自信がない

だって

俺と同じ男の身体…

あ、抱けるかな?
わからない!

けれど、抱けないと言ったら
ここで終わりだ

それは…いやだ


「えっと…」

言葉を選ばなきゃ

えっと…


俺の頭の中をいろんな言葉がぐるぐる巡る
言い訳やら、チャンミンを可愛いと思う気持ちやら

そのうち、チャンミンのクスクス笑う声が聞こえてきた

なんだよ


「……なんで…笑う?」

「フフフ…すみません…」

「………」


笑われて悔しいけれど
今の俺にはそれを咎める権利などない


「先輩」

「なんだ」

「意地悪な質問してごめんなさい」

「意地悪?」

「わかってますよ、大丈夫」

「なにが?」

「ユノ先輩」

チャンミンが晴れ晴れしい顔で
俺を真っ直ぐに見つめた

その表情はなぜか吹っ切れたように明るい


「僕たち、これからつきあいましょう」

「あ…うん…」

「良き先輩と後輩として」

「え?」

チャンミンがニッコリと微笑む

「ユノ先輩…無理しないで」

「無理って…」

「男と付き合うなんて、そんな簡単なことじゃないです。
僕を少しでもいいと思ってくれて、キスしたいと思ってくれて、それだけでうれしいです」

チャンミンは微笑みながら、俯いた

チャンミン…


「僕は…」

「……」

「ユノ先輩のおかげで…
はじめて自分をさらけ出せた気がします」

「……俺のおかげ、なんてことない
お前は元々、純粋で素直なヤツなんだよ」

「感謝してます…」

「あ、お前…まさか、まだ転職なんてこと」

「来週、最終面接です。
もうカタチだけで、意思確認って感じです」

「まだ、辞めるつもりなのか?」

「そのほうが…いいと思います…お互いに」

「なんでだよ…」

ああ、俺は何を言ってるんだ


チャンミンの期待に応えられないクセに
俺から離れようとすると引き留めたり
自分勝手なことばかり言ってる

だけど…

俺は、小さな個室の古びた木のテーブルに
両肘をついて頭を抱えた

「チャンミン…俺…お前と離れるのはイヤなんだ」

「………」

チャンミンの小さなため息が聞こえた

「僕は…先輩の側にいるのは…つらいです」

そりゃ…そうだよな

「先輩、自分を責めないで
先輩はなにも悪くない…僕が…ワガママなんです」

「ワガママはどう考えても俺だろ」

「悩ませてごめんなさい。
先輩の反応は…いたって普通です。
みんな…そうです」

「みんなって?」

「あ…」

「みんなって誰のこと?」

「えと…僕が好きになった人…ほとんど」

あまりに勝手な自分を殴りたいけど
正直、見知らぬそいつらに…嫉妬している自分がいる

ほとんどって…

「少しは…お前の期待に応えてくれたヤツがいたってこと?」

「そりゃ…少しは…」

「抱いたの?お前を」

「……まあ、そう…です」

「……」

「僕を…抱けないからって…自分を責めないでください
ほんとうにごめんなさい」

チャンミンが席を立った

「今日は僕に会計させてくださいね」

「…バカ言え、いいよそんなの」

「……いい夢見させてもらったんで」

「支払ったら殺す」

「………」

「………」

「じゃあ…ごちそうさまでした…」

チャンミンはぺこりと頭を下げて
個室を出て行った

俺はしばらく、座ったままじっとしていた

今日、会社のエントランスで
俺を待っていたチャンミンを思い出していた

リュックの肩紐をしっかり掴んで
きちんと立っていた

俺を見つけた時の、恥ずかしそうな可愛い笑顔

俺を待っていてくれたんだ

この店からやり直そうって

俺が言ったから

お前は期待したんだよな
何かいいつきあいがはじまるって

そりゃそうだ
俺からキスしたんだから

それなのに…

こんなのよくない…


俺は急いで会計を済ませて
外へ出た

もうチャンミンは電車に乗ってしまっただろうか
駅で待ち受けるか

俺は駅に向かう道を走った

住宅街を抜けたほうが早い

そう思って、子供が遊ぶ公園を抜けていこうとした

その時

暗闇の公園のベンチに人影が見えた

もしかしてチャンミン?

そっと近づいてみた


真っ暗闇のベンチで
チャンミンが1人座って

しゃくりあげて大泣きしていた





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素直になって 10




もういい加減に
歪んだこの僕の気持ちを解放したかった

どうせ仮面は剥がされてしまったんだ

どう取り繕ったって
もうどうにもならない

だから

いっそのこと、思い切り笑ってみることにした

バカみたいに…


そして小学生の初恋みたいに

好きです、なんて告白してしまった


たぶん、生まれてはじめての「捨て身」というやつだ

プライドばかり高い僕と
少しだけさよなら

だけど

まさかの展開だった


突然、腕を引っ張られ
気がつけば、僕はユノ先輩の胸の中にいた

まさか…

まさか!

僕は思わずギュッと目をつぶった

夢だろうか…

身体全体に感じるこの体温は
たしかにユノ先輩のそれだろうか

僕をしっかりと抱き込むその力は
ただの先輩としてのそれだろうか

夢なら覚めないで

今、目を開いたら
あなたはいないかもしれない

そんなの…いやだ

僕は怖くて目を開けることができない


頭の中をいろいろなユノ先輩が次から次へと現れては消える

眩しい自然の中の先輩

オフィスでの優しい笑顔

僕を勇気付ける、その真っ直ぐな瞳


どれも大好きで…恋い焦がれて
その先輩が今、僕を抱きしめてるのは事実?

また、涙が出てきそうだ


ふと

ユノ先輩の腕の力が弱まったような気がして

僕は…恐る恐る、目を開けてみた


そこには、やはり戸惑いを隠せない
けれど思ったよりも強い瞳が僕を熱く見つめていた

「………」

先輩の視線が少し泳ぎだす

「………」

僕は何も話す事ができない
けれど、あなたから視線を外すこともできない

捕らわれた獲物のように
僕はどうすることもできず、固まっていた

ユノ先輩の視線が再び僕に定まる

そして、その手が、そっと僕の頬に触れる

え…

先輩…それって…

「………」


いいの?

このまま…キスしてしまう感じだよ?


僕はそっと瞳を閉じた

心なしか、唇を少し突き出してみたかもしれない

なぜ、こんなことになっているのか

まったくわからない

なぜ

ユノ先輩が…僕の頬に…

そして…

あ…

僕の唇に…ユノ先輩がくちづけている

そっと…

優しく

触れるか触れないかくらいのキスだったけれど

僕が我慢しきれなくて
自分から少しだけユノ先輩の唇を食むってしまった

ビクッとしたユノ先輩の唇が
少し引いてしまって

僕はしまった!と思った

けれど、今度はユノ先輩が食らいつくように僕の唇を塞いできた

ああ…

神さま…


僕はユノ先輩の襟をギュッと掴んだ

時間の感覚もなにもなくて

それがどれくらい続いたのかさえ、わからない

ユノ先輩の唇がそっと離れた時
僕の意識も戻った気がする


怖かったけれど
僕は少しずつ目を開けてみた


何かムッとしたようなユノ先輩の瞳が
目の前にあった



「お前だって…俺にキスしたじゃないか」

「…すみません…」

なぜか謝ってしまった


先輩が僕を真剣な瞳で見つめている


「俺は、そんな風に謝らないから」

「………」




それは…どういう?


先輩はプイと怒ったように向こうを向いて
ボトムスのポケットに手を入れたまま、部屋を出て行った


「あ!ちょっと」

「………」

「あの!」

僕は追いかけた


「先輩!このままだったら
僕…次に会った時、どういう顔したらいいのか」

がっしりとしたその背中に
僕は問いかけた


先輩の後ろ姿がピタリと止まった


「僕…あの…辞めるので…この会社
だから、このままだと…」

「………」

「あ…」


僕は

ふと気付いた

こんなこと言って

僕たちの関係をはっきりさせよう、みたいに受け取られたかも

勘違いさせちゃったかもしれない


先輩の本意は…きっと、こうだ

僕が辞めるからこそ

先輩は、きっといろいろ冗談っぽく
締めくくろうとしたのだろう

そのためのキスだったんだ
まるであの時のお返しだと言わんばかりの

僕が気まずく去る事がないように
気を使ってくれたんだろう

それなのに


「………」

突然、先輩が振り向いた


端正なその顔立ちが少しばかりのイラつきを含んで

ため息が出るほどカッコいい


「お前…また、メンドくさく考えてるんだろ」

「え?」

「お前にはそういう、なんでもメンドくさく考えるクセがあるんだ」


少し言いあてられて

僕は下を向いた

あなたと仲良くなりたいと
そんな気持ちが、あんな風に歪んだ行動をするしかなかった僕

ほんとにメンドくさい…


「次に俺に会った時、何て言えばいいか
教えてやる」

「はい?」

ユノ先輩は少しモジモジとしながら
しきりにこめかみを掻く


「今夜、またあの店に連れて行ってくれませんか?って」

「え?」

「そういえばいいんだよっ!
そうしたら、またあの店からやり直しなんだから!」

あ…

やり直し?

えっと…

「わかんないかな、チャンミン
意外と鈍感だな!」

あなたに鈍感って言われるって…

だけど

心が…とてもふんわりと暖かくなった


ユノ先輩…


あなたも

結構メンドくさいですね…フフ


それでも、僕はニッコリと微笑んでみた

僕の方から素直になってみよう

少しムッとした態度のあなたの気持ちは
とてもよくわかります


「ユノ先輩」

「ん?なんだ」


「あの…今夜また、あの店に連れていってくれませんか?」


先輩は照れ臭そうに
それでもなぜかムッとして

また歩いて行ってしまった


あれ…


しばらくして、先輩が振り向いた


「いいよ!今夜エントランスで待ってろ!」

「………あ」

「残業すんなよ!」

「…はいっ!」



大好きです

ユノ先輩…

僕は盛大に勘違いするけど、いいですか?




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