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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

素直になって 5




翌朝、出社することに緊張しすぎて
吐き気を覚えた


あのキスを…

先輩は覚えているだろうか


男から、しかもこんな僕から
キスなんてされて

きっと、先輩はひどい嫌悪感を抱いただろう

もう口も聞いてもらえないかもしれない

あのままユノ先輩を置き去りにしてしまったことも
謝らなくてはいけないし
ご馳走になったこともお礼を言うべきなのに

考えはどんどん悪い方へとしか進まず
僕の心は鉛のように重くなった


それでも、出社しないのが一番良くないし
正直先輩の様子も気になった


僕は吐き気を抑えながら
地下鉄に乗った

どうしよう

どんな顔をして、ユノ先輩に会えばいいんだ

それでも

会社に着くと、なぜか僕の心は落ち着いた
度胸が据わったというのか

いや、開き直ったという言い方が一番いいかもしれない

土壇場で開き直るというのが
僕の良いところでもあり、最悪の欠点でもある


もう、どうにでもなれ

どうせ、辞めようと思っていたんだし
いいきっかけかもしれない

ユノ先輩に冷たくされたら
それこそ、今すぐにでも辞めたっていいのだ

そんな風に自分を納得させた僕は
いつもの冷めた態度で仕事に取り掛かった

ユノ先輩は視界の隅にあったけれど
あえて無視をした。

いろいろ考えたけれど
まずは様子を伺って、僕からは話しかけないでおこう

もしかしたら、覚えていないのかもしれないし

何かこう、すれ違いざまにでも
ご馳走さまとさりげなく言おう


結局僕は仕事に没頭するように見せて
実は悶々としていた


ふと

視界の隅で、ユノ先輩がこちらへ向かって歩いてくるのを捉えた

まさか

僕のところへ?

ユノ先輩は大股でゆっくり歩いてくる

気づかないのも不自然なので
僕は相変わらず冷めた目でユノ先輩を見あげた


先輩は口をへの字に曲げて
なにやら面白くなさそうな顔をして
僕の真横に立った


「お疲れ様です」

僕はやっとその言葉を発した

「ああ、おつかれ」

ぶっきらぼうなその態度は
どんな感情から来ているのだろう


僕は怖かった


「もう、おまえー」

いきなり、ユノ先輩が僕の肩を小突いた。

僕はびっくりして、思わず肩を竦めた

そっとユノ先輩を見上げると
先輩はニヤリと笑っていた


「大丈夫、忘れろ」


忘れる?

「気にしてないから。
俺もおまえも彼女つくらないとな」

彼女…

「あの…」

何か、とにかく弁解しなくてはと内心焦る僕にユノ先輩がポンポンと肩を叩く

「ああいうこともあるよ、酔ってたんだから。
な?気にすんな」


無性に

腹が立った


僕は…あなたともうこれ以上のコミュニケーションが取れないと…そう思って

悲しくて…

それで…


僕は大きくため息をついてみせた

「ああいうことって、キスしたことですか?」

アッサリした感じでそう言うと、先輩は少し驚いた顔をした

「………」

「なにも気にしてませんよ
ご心配なく。たまにあることなので」


酔っ払った男にキスをするだなんて
たまにでも、あるわけない…


「そう…か…気にしてないなら…ま、いいけど」

「お酒、ご馳走様でした。」

「あ、ああ、」


もう、僕の肩を気軽に叩いたり
小突くなんて、そんな雰囲気はユノ先輩にはなく、
より余所余所しくなってしまった。

せっかく、少し先輩との距離が近づいたかもしれないのに、僕が自ら壊してしまったのだ。


本当に僕ときたら…

ユノ先輩はなにも言わずに
僕のところから立ち去った


先輩にとって、僕は本当に
どうでもいい存在なのだろうな

僕がどんな態度をとっても怒るにも値しない…

先輩の後ろ姿を、僕はじっと見つめた


こんな風に、あなたを熱く見つめていることなんて、
気づかないですよね

僕が昨夜眠れなかったなんて
知らないですよね

そう思ったら、ジーンと瞼が熱くなった




ランチの時間になって
僕はパソコンの電源を落として外に出た

エレベーターホールでユノ先輩に出くわしてしまった

ここで立ち去るのも変なので
そのままエレベーターを待った


何人もの社員がエレベーターを待っている

「ユノさん、どこ行く?」

僕と同期の新入社員は、すっかりユノ先輩と打ち解けていつも一緒にランチに行っているようだ。

ユノ先輩がふいに振り向いて
バッチリと僕と目が合ってしまった

「シム・チャンミン、一緒に行くか?」

爽やかな笑顔だった


「いえ、僕は行きません」

「そうか」

ユノ先輩は未練なく向き直った


一緒にエレベーターに乗り込みながら
僕の心は地底の奥底まで沈み込んでいった


僕はなんて…

もう泣きたい

目の前にはユノ先輩のがっしりした背中があった

スーツがとてもよく似合う
そういう体型だ


僕は…スーツに生まれてくればよかった

あなたの役に立ち、あなたを引き立たせ
あなたの仕事の手伝いをする

たくさんあるスーツの中から
あなたが僕を選んでくれたら

僕は擦り切れるまで
あなたに尽くすのに

下を向くと涙がこぼれそうで

もう限界だと思ったころ
エレベーターは一階に止まった

銀色の箱から、人が吐き出され
それぞれが己のランチを取るために散っていく

僕は思い立って、コンビニに行き
いくつかのパンと、そして求人雑誌を買った

ビルの谷間に作られたちょっとした公園のようなスペースにいくつかベンチがあり
僕は腰掛けてパンをかじりながら、求人情報を探した

このまま、あなたの側に
つまらないヤツとして存在するのは

つらすぎる

自分が悪いのはわかってる

僕がひとりで浮いたり沈んだり
それをまったく顔に出さず

ただあなたの横顔を盗み見て
まわりの人間に嫉妬して

僕はどんどん醜くなっていく


シム・チャンミン
どこまで逃げる?

あの人から逃げられるか

あの人への想いから逃げきれるのか


何日かそんな日が続いた

けれど

もう少しでこの苦しい日々ともさよならだと思うと、ユノ先輩の姿を見てもさほど辛くなかった

実際にここを離れるとなれば
もうあなたの姿を見られないという

また新たな悲しみが訪れるのだろうけれど


僕は転職先の候補をいくつかに絞り
第1候補の面接までこぎつけた


面接の結果によっては
辞表も出さなくてはならない

ユノ先輩に対しては
もう何の欲も起こさず、このまま静かに去ろう


僕の気持ちは少しだけ穏やかになった





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こんばんは、と言うつもりが
朝早くアップしてしまいました(^◇^;)

素直になって 4




「ここでいいか?」

ユノ先輩が連れてきてくれた居酒屋は
こじんまりとした個人経営の店だった


「はい」


そう言いながらも
僕はぐるりと店内を見回してしまった

そこに何も意味はなかったけれど
きっと不躾な態度に見えただろう

ハッと気づいた時には
ユノ先輩はバツの悪そうな表情で
苦笑していた


「こう見えても、けっこうツマミなんか
凝ってて美味いんだぞ」

ユノ先輩はニヤリと笑いながら
コソッと小声で言った。

こう見えても、って
やっぱり僕の態度はそんな風に見えたんだな。


またもや、軽く落ち込んで
僕はガタつく木の椅子に腰かけた

カウンターにユノ先輩と並んで座る
そんな、夢に見たシチュエーションなのに

「ビールでいいか?」

「あ、はい」

ここは先輩の行きつけなのだろうか

店内から品のいい女将が
おしぼりを持ってきた。

「こんばんは。
今夜はユノさんの後輩君かしら?」

「そうそう。この春入った期待の新人」

そう言って、ユノさんは僕の肩を
ポンポンと叩いて見せた


あなたはわかっているだろうか

そうやって何気なくする行為が
僕にとっては何百倍もの衝撃となることを

「あら、それじゃウチの特等席にどうぞ?」

「え、いいの?」


その店の特等席とは
勝手口のそばにある3畳ほどの個室だった

倉庫か何かだったのだろうか
テーブルに椅子が2つ

壁にはハンガーがふたつ

質素すぎて寒々しいほどの部屋ではあったけれど

こんな狭いところでユノ先輩と2人きりになれるなんて

表情には出さなかったけれど僕の心は踊った


僕と先輩は小さなテーブルを挟んで向かい合わせに座った

「特等席とか言うけど
俺を閉じ込めるためなんだよ」

ユノ先輩はおかしそうに笑った

「え?」

「俺がチャンミンに説教しだすと思ってる」

「あ、なるほど」

僕も思わず苦笑した


「………」

「?」

「チャンミン」

「はい?」


「チャンミンの笑顔、はじめて見た」

「あ…」


僕は、たまらなく恥ずかしくなって
下を向いてしまった


「会社だと、あんまり笑ったりしないだろ?チャンミンは」

「そうですね、会社は仕事する場所なんで」

「うん…まあね」

「……」


つまらない自分の返事にまた、落ち込みかけた


「だけどさ」

「はい?」

「笑うといいよ、お前」


お前なんて呼ばれて
頭が真っ白になった

今、僕はどういう状況にいるのか
自分でもよくわからなくなってきた

閉じ込められたような個室に
恋い焦がれているあなたと2人きり

そして「お前」なんて呼ばれて
これは夢なのではないだろうか


やがて、ビールとツマミがいくつか運ばれてきて
とりあえず乾杯となった

「ほんとに助かったよ
チャンミンがいなかったら、今頃パソコンとにらめっこして論文書いてた」

「それはお役に立ててよかったです」


会話がなかなか今日のファイル発見の事から進まない

ユノ先輩が楽しい話に持って行こうとしてくれて
そして僕がつまらなく答える

そのやりとりばかりで
会話がほとんど弾まない

もう、お前と呼ばれることもなく
話題はファイルの復元について、なんていうつまらない題目に始終した

あまりにも盛り上がらない
この個室の雰囲気に、ユノ先輩はひたすら
ビールを飲むことしかなく

僕はどんどん落ち込んでくる気持ちを奮い立たせて頑張ろうとしたけれど

僕の態度はすべて空回りで
話はどうでもいい堅い話ばかりだった

雰囲気もそんなつまらない空気である上に
あまりお酒に強くないのか
ユノ先輩は次第にうつらうつらしてきた

トロンとした切れ長の眼差しが
頭が変になるほど美しくセクシーで

思わず僕はそんなユノ先輩をじっと見つめてしまった

劣情を持って、あなたを見つめてしまう僕

ふと、そんな僕に今にも目を閉じそうになっていたあなたが気づいた

「なんだよ、シム・チャンミン」

その口調はふつうに酔っ払いだ

「なんで俺のこと見てるんだ」

少しふくれながらも、その目は今にも閉じそうだ

2人きりの夜

もう、これ以上のチャンスは
僕にはないのだろうか。

そんな気持ちになって悲しかった

叶わないことは
百も承知だけれど

少なくとも先輩・後輩として
もうすこし、楽しく付き合えないものか

気づけば

ユノ先輩は完全に眠ってしまっている
微かにイビキのような音も聞こえてきた

机に肘をつき、その美しい手で小さな顔を支えているけれど
もうグラグラとしていて、いつその手が外れてしまうか危うかった


もう、ユノ先輩は僕を飲みに誘うことなんてないだろう

せっかく連れてきてくれたって
話も弾まなく、こうやって眠らせてしまう僕…

もう

諦めよう


何も望まないと言いつつ

僕は、こうやって期待をしてしまい

そして、あなたの大事なファイルを誤魔化すというとんでもないことまでしてしまった。

想うだけなら、僕の自由だと
そう折り合いをつけて毎日あなたを見つめていたけれど

もう

やめよう


そう想うと、あなたが好きでたまらない自分が哀れになり、涙が溢れてきた

先輩は僕に寝顔を向けて
なんとか肘をついている

それはまるでキスをねだるような
そんな表情に見えてしまう自分は末期だ。

だけど

僕の気持ちよ、さようなら

これが最初で最後のふたりきり

だから、許してください


僕は完全に眠っている先輩に顔を近づけた

スースーと時にイビキ混じりの吐息が
僕の頬をくすぐる

心臓の鼓動が先輩に聞こえてしまうのではと思うほど高鳴り

そして、その柔らかそうな唇に
そっと自分の唇を合わせてみた

少しカサついて、けれど肉感のあるその感触を、僕は一生忘れないだろう

ほんとに少しだけ触れて
すぐに唇を離した

キスなんてものではなく
触れた、と言えるかもわからないほどの接触

そっと、先輩の顔から離れようとしたその時だった


「おーまーえーー」

いきなり先輩の口から低いうめき声のような声がして

僕はびっくりして、大きな音を立てて椅子に倒れこんだ

あまりに慌てたせいか

うまく座れず落ちそうになった


心臓の鼓動が頭の中まで響く
変な汗が噴き出してくる

まずい!

起きていたのか


僕はユノ先輩の表情を凝視した

それでも先輩はうっすらと目を開けるだけで、ムニャムニャと何か呟くように唇を動かす

「………」

「おまえーなにしてんだよぉ」


僕は完全に固まってしまった

もうここで死んでしまいたい


「なぁ、シム・チャンミン」

「………」


声を発するなんて、僕にはできない

ユノ先輩は肘を離すと
座り直して少し目を開いた


「おまえーキスしただろ、いま」

「………」

「なんでキスなんかするんだよぉー」


ユノ先輩は力なく木のテーブルを叩き

また目を閉じてしまった


果たして…

覚えているのだろうか…


頭の中をいろんな疑問がグルグルと回っている

しばらくそのまま寝かせていると


女将さんが様子を見にやってきた


「あらあら、ユノさんたら寝ちゃって」

「はい…」

「送らなくてもいいのよ、
ウチの旦那が連れて帰るから」

「でも…」

「大丈夫、通り道だから。
お勘定もユノさん持ちでしょ?
電車があるうちに、あなたはお帰りなさいね」


優しくそう言われて

僕は眠りこけるユノ先輩に一礼して
店を出た


どうか

今夜のキスを

思い出しませんように
忘れてくれますように


どうしよう
どうしよう
どうしよう!


その夜は一睡もできなかった

まるで明日死刑を迎える囚人のような気持ちだった

なんで

なんでキスなんかしてしまったんだろう

明日、そのことを聞かれたらなんて答えたらいいんだ

いや、会社でそんな話にならないか

でも、先輩から何も言われなかったら
それはそれで拷問だ

いろんな事が頭の中でぐるぐると回りながら
気づけば朝を迎えていた





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か@@ん様
教えてくださってありがとうございます
仰るとおり新着記事の反映がされていませんでしたね。
更新してみました。
ブログ村が新しくなって、イマイチわからない事が多くて(^◇^;)
助かりました!

素直になって 3





翌朝、目覚めた僕は
堪え難い罪の意識に苛まれた

僕は…なんてことをしたのだろう

半分勢いだったとはいえ
やっぱりしてはいけない事だった


僕は早めにオフィスへ出向いた

先輩が出社する前に
昨日してしまったことを元に戻さなければ


けれど遅かった…

ユノ先輩はすでに自分のデスクに座り
パソコンの画面と向き合っていた


いつもと変わらないオフィスの風景の中

明らかに様子のおかしいユノ先輩のその姿に
僕の心は痛んだ

僕は先輩の様子を観察していた


ユノ先輩はまわりに何も言わないでいるようだ
大事な自分の論文がフォルダから消えているというのに

誰も気づいていないけれど
ユノ先輩が1人で焦っているのが僕にはわかった


ごめんなさい

ユノ先輩

僕は…

あなたがきっと一生懸命に仕上げたであろう論文のファイルを

複製し

それを壊れたようにみせかけ

タイトルを変えて、どれも検索できないようにしました

なぜかって…


僕があなたのファイルを探し出してあげる
困ったあなたを助けてあげる

そんな自分勝手で愚かなシナリオのためです


あなたに「ありがとう」と言って欲しくて
その笑顔を僕に向けてほしくて


そんな罠を仕掛けなければ
あなたとまともに話すこともできない僕を
どうか許してください

そんな事をしてまでも
あなたと話がしたい僕を許してください


その日、ユノ先輩はずっとパソコンの前に座って仕事をしていた

元々請求書作成の時期で、他の社員も内勤をしている者が多かった。


ファイルを探しているのだろうか
仕事の合間に論文をやり直そうとしているのだろうか

時折、眉間にシワを寄せてモニターを睨むあなた

僕は話しかけるタイミングを見計らうために
その日はほとんど仕事にならなかった

先輩が誰かに助けを求めてしまったらどうしよう
僕の出番がなかったらなんの意味もなくなってしまう


みんなが帰宅をする時間になり
金曜日の今日は、飲みに行く話もちらほらと出てきている

女子社員たちがユノ先輩を誘っているのが見える

ユノ先輩は苦笑いしながら
めずらしくその誘いを断っていた


僕は意を決して、椅子から立ち上がって
ユノ先輩のデスクへ向かった

緊張して、全身が強張り
変な歩き方になっていたと思う


「あの、ユノ先輩?」

一言声をかけたら、なぜか僕は落ち着いてきた

「ん?」

顔を上げたあなたの、なんて綺麗な瞳

いつもなら、心臓の鼓動が声にまで出てしまいそうなのに

今は、ひどく落ち着いていた

言葉は意外にも滑らかに出てくる

「何かあったんですか?」

「え?」

「いや、今日一日、様子が変だなって」

「俺の?」

ユノ先輩が…自分を俺、と呼ぶ
それだけで、もう泣きそうだ


「はい、何かあったのかなって」

「………」


僕があなたを気にかけていたことが
とても意外だ、という顔をしている

「あ、ああ…ちょっとね」

ユノ先輩は否定しなかった

少し難しい顔をして考えていたけれど

思いついたように僕を見た

「シム、パソコンやシステムに詳しいか?」

不謹慎にも、僕の心は踊った

「はい、割と詳しいほうだと思います」

「そうか、実はさ、
俺の大事なファイルが消えているんだ」

「ファイルが?」

「ああ、結構大事なファイルで…
どうにか…探せないかと思って」

部署の社員は週末のせいか、みんないつもより早く帰って行く

「見てもいいですか?」

「悪いな、帰り際に」

「大丈夫ですよ、ここいいですか?」


ユノ先輩のデスクにそばにあった丸椅子を持ってきて座る

あなたの側に、ここまで近づけてるなんて

僕は浮かれていた

僕は自分のした事の罪の意識なんて
すでにまったくなかった


「このフォルダに入っていたんだ」

画面を指差す、あなたの武骨な美しい指

僕は、あなたの味方で
あなたを助けるようなフリで

フォルダの中を意味なく開いて行く

「ユノ先輩、ひとつ壊れているファイルがあります」

「え?」

「日付は先月ですが」

「たぶん、それだ
壊れているのか?」

「はい…復元はできるかどうか」

「やれるか?」

「やってみます」

「あ、でも、ごめんシム・チャンミン」

「はい?」

「いいよ、残業させるわけにいかない
今日は金曜日だし、チャンミンは帰って」

「………」


なぜか目に涙が溢れてくる
帰ってだなんて

それをどうにかごまかした

「金曜日だからこそ、大丈夫です
明日は休みだし」

「だけど…」

僕は椅子から立ち上がって
胸に下げたカードをカードリーダーにかざした

カードリーダーはピッと鳴り、僕が退社したことを告げる

「これならいいでしょう?
残業ではないです」

「シム…」

「ユノ先輩は、今夜は飲みに行かなくていいんですか?」

「いや、俺はいいんだ
自分のことだし、でも…」

「だったら、僕も大丈夫です
飲みに行くとか、ないんで」

そこまで言って、ちょっと自分のことが恥ずかしくなった。

週末になんの予定もないつまらない自分を
晒してしまった

飲みに行きたいわけじゃない
みんなと盛り上がったりなんて興味ない

ただ、僕は…

あなたが好きなだけなんです
あなたの側ならずっといたい


僕がバツが悪くて思わず唇を噛み締めると
その様子をあなたが見つめているのがわかって、
さらに恥ずかしくなった

僕は咳払いをひとつして、丸椅子に座りなおした


「先輩、ファイルに名前はつけていますか?」

「ああ、つけていた」

「それを変更したりしませんでしたか?」


あくまでも、事務的なやりとりが続く

僕は、このまま朝まで、先輩のファイルを復活させないでおこうかと思った

ずっと一緒にいられたらいいのに


オフィスは誰もいなくなり
何度か警備員が僕たちをのぞきにきた

どれくらい時間がたっただろうか

あなたの不安そうな表情に諦めが見え隠れしはじめた

「まあ、いいや、最初からやり直せばいい話だ。
誰かに迷惑をかけるわけじゃないし」


僕は焦った
うまく、事を運ばなければならない

ここで先輩が諦めてしまったら
僕はただあなたのファイルを壊して隠しただけで終わってしまう




「僕に考えがあります、ユノ先輩」

「え?」

僕が適当な事を言ったせいか
ユノ先輩が不思議そうな顔をした

「やってみないとなんとも言えませんが
探し出せるかもしれません」


「もう、どうせダメならやれるだけ
やってみたい」

「わかりました。」


しばらく、僕たちは話をしなかった

僕は集中するフリをしながら
画面を見つめるユノ先輩がいつこの操作を
指摘してくるかヒヤヒヤした。

詳しい人間が見れば、ほとんど何も操作していないのだ

ユノ先輩はどのくらいシステムについて詳しいのだろう。

ファイルの保存の仕方など見ると
そこまで詳しくはなさそうだったけれど

チラリと先輩の表情を見ると
ただぼんやりと画面を眺めているだけのようだ

少し虚ろに見えるその表情がたまらなくセクシーだ

パッと画面が切り替わったところで
そんなユノ先輩が「あっ!」と声を上げた

「もしかして、これですか?
探していたファイル」

なんて僕は白々しいことを
平気で口にするのだろう

僕が手を加えたファイルなのに

「そうだよ!すごいなシム・チャンミン」

「開いて見ないとわかりませんよ」

僕が思い切り細工したそれ

ところどころの文字が記号化されて
わからなくなっている

わざと大まかな流れは崩さないように
工夫したんだ

「壊れちゃってますね」

「いや、肝心なところは大丈夫だ。
よかった!助かったよ」


ところどころ照明の落とされたオフィスに
あなたの笑顔は場違いに爽やかです


「もうここには保存しない方がいいです。
ちゃんと文章にして、別の形式にしましょう。手伝いますよ」

僕は、あなたに喜んでもらえて
少しはしゃいでいた

けれど…

「ありがとうな。
後は自分でやるよ。大丈夫」

あなたの爽やかな笑顔は
その時の僕には少し残酷に映った

僕のもう少し一緒にいたい気持ちを
拒否されたような気がした

「……」

「こんな時間まで、本当に済まなかった」

「僕は…特に用があるわけではないから」

「立派に残業させちゃったな、もう帰って?」


この状況を、
僕とあなたが仲良くなれるチャンスだと
そんな風に、認識されているはずがなかった

そう思うのは僕だけ

あなたは特に僕と時間を過ごしたいわけじゃない


わかっていたけど
少し勘違いして期待してしまった

「………」

これ以上、ここにいるのは
迷惑なのかな

意味なく、沈黙があって
ユノ先輩は不思議そうに僕を見ている


「わかり…ました…」

「チャンミン?」

「帰りますね…僕」

「うん。ありがとうな」

僕の両肩に、深い悲しみが重くのしかかって、椅子から立ち上がるのもつらい

静かなオフィスの中で
帰り仕度をする僕の無機質な音が意外にも大きい

ユノ先輩のキーを叩く音が
それに不協和音となって静かなオフィスに響く


「それじゃ、これで失礼します」

そう言って、軽く頭を下げた時
一瞬、あなたと目が合った

その時、あなたがハッと何かを思い出したような顔をした

「あ!俺、ほんとバカだな」

「え?」

「シム・チャンミン、この後何もないんだろ?
そう言ってたよな」

期待してはいけないと
僕の心に警鐘が響く

「……はい」

「何か飯食おう。な?」

「ご飯ですか?」

僕の声は2オクターブくらい
高くなっていたはずだ

「今日のお礼に奢るよ
なんでもいいぞ?何が食べたい?」

「あ…そんな、気を使わないでください」

飛び上がりそうに嬉しい気持ちは
そんな正反対の言葉となって僕から発せられる

「この時間だと居酒屋しかないけどいいか?」

あなたはもう立ち上がって
帰り仕度をしようとする

「あ、あのそれなら、これを保存しないと
またファイルが見つからなくなってしまいますよ」

「ああ、そうだそうだ」

「保存は僕がやるので、わかりやすいようにしておきますから」

「いいのか?」

「はい、帰り仕度をしてしまってください」

僕の心はたぶん、この数年間で
一番幸せを感じていた




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素直になって 2




「チョン・ユンホ」

だれかがユノ先輩に声をかけた


あ、この人は営業部の部長だ
面接と入社式の時に見た


「はい」

「初めての昇進試験だな、調子はどうだ」

「論文はほぼ終わって、あとは確認だけです」

「そうか、さすがだな。
私はね君に大いに期待しているんだが
こればっかりは特別に目をかけてやるわけにいかなくてな」

「わかってますよ、部長。
私が昇進したら、その時はいろいろ助けてください」

「頼もしいな。待ってるぞ」


営業部の期待の星


僕とはまったく正反対の
明るく眩しい人生を歩んでいくあなた

僕はきっと、灯を求めて彷徨う夜の虫なのかもしれない

眩しいあなたに惹かれるのは
そのせいか


ユノ先輩に声をかけた部長が
気づけば僕の後ろにいた

「シム・チャンミン」

「はい」

僕は仕事の手を止めて後ろを振り向く

恰幅の良い部長の笑顔が頭上にあった


「君の仕事をみんなが褒めていたぞ」

ふと、その部長の声にユノ先輩の視線が
僕を捉えたのを感じた


「僕の仕事を、でしょうか」

「若い新入社員なのに
度胸が据わって冷静だとな。」

「意外ですが、嬉しく受け止めさせていただきます」

僕は軽く頭を下げた


度胸が据わって冷静?

すべてを諦めて、冷めているだけだ


ユノ先輩の視線はとっくに僕から
外れている

もう少し見つめてほしかった

僕を…もう少しだけ

僕の体温が少しでも上がることがあるのなら、
それはあなたと目が合った時だけなのだから


部長が部屋を出ていくと
ユノ先輩が、僕に近づいてきた

微かなユノ先輩の空気圧に
心臓の鼓動が激しく脈を打つ


「あの部長はいいかげんに部下を褒めたりしないよ」

「はい?」

「ちゃんと見ててくれてるんだ」


あなたの低く優しい声が
こんな近くで聴けるなんて

あなたが話しかけてくれたんだから

僕はあなたと目を合わせてもいいんだよね?

そんな想いとは裏腹に冷めた視線であなたを見てしまう、つまらない僕

「ああ、そうでしょうね。
でも、新入りにはみんな同じこと言ってますよ」

そんな生意気でどうしようもなくダメな僕に

あなたはそれでも
優しく微笑む


それは初夏の香りの風を纏ったように
一点の曇りもなく爽やかだ

「みんな、本当にシム・チャンミンを褒めてるよ
営業はただ元気で明るきゃいいってものでもない」

「………」

「シム・チャンミンみたいに
落ち着いて、冷静な感じの営業を好むクライアントも多いんだ」

「そうですか。たしかに僕は明るくはないですね」

「あ、そういう意味じゃないさ。
気を悪くしないでくれ」


どうして

僕は

そんな受け応えしか

できないのだろう


口から出てしまった言葉を
かき集めてゴミ箱に捨てたい

無機質に刻む壁掛け時計を
壊して10分前に戻したい


ああ…


ユノ先輩はバツが悪そうな表情で
しばらく言葉を探していたようだったけど

ほかの営業に名前を呼ばれ
結局は僕には何も言わずにその場を離れた


せっかく話ができるチャンスだったのに

なんていうか、もう少し
「期待されてうれしいです!」とか
「部長ってどんな方なんですか?」とか

なんとか答えようがあったものを
流れによっては話が続けられるかもしれなかったのに

全身がずぶ濡れになるような後悔の感覚に苛まれ

僕は…ため息をついてその日は帰宅しようとした


部署を出る時、少し振り向いてみた

ユノ先輩は、僕と同期の若い女子社員と
何か楽しそうに笑い合っていた

「お先に失礼します…」

誰も返事をしないことはわかっているから
小さく挨拶をして部屋を出る


帰宅ラッシュの地下鉄は
たくさんの仕事人を飲み込んで走る

今日もまた

与えられた仕事を淡々とこなして
帰宅する自分


この先何十年もこんな生活が続くのだ

きっとユノ先輩は、その内、可愛い女性を見つけて結婚をし

明るい人生を歩んで行くのだと思う


僕は、ずっと

そんなあなたを側で見守っていくのだろう


ふと

その時

きっかけは…何だったか
乗客の会話からか、読んでいた夕刊の日付か

僕はその日の曜日を間違えていたことに気づいた


まさか、今日は木曜日?!

水曜日だとばかり思っていた

なぜ、こんな時間まで気づかなかったのだろう


えっと…

僕は仕事上、なにか問題がなかったか記憶を辿った

あ、

まずい

大至急訂正しなければいけないことがある

僕は、次の駅でとりあえず降りて
会社へ戻る逆の地下鉄に乗った

なんてことだ

さっきはその仕事ぶりを褒められてもいたのに

ユノ先輩の信頼を少しでも失うことも嫌だ


会社の社屋からは大勢の人が帰宅の為に歩いてくる

その中を逆行するように僕は人をかいくぐって社内に戻った

エレベーターホールでエレベーターを待っていると
やっと降りてきたその箱から

ユノ先輩と、僕と同期の女子社員数人が連れ立って降りてきた

楽しそうな雰囲気はさっきのまま

ユノ先輩は何やらおかしそうに
笑っている

みんな、僕の存在には気づかない

こんなに近くにいる僕に

あなたは

まったく気づいていない


そのことが
僕は我慢ならなかったのか

自分の感情をコントロールできず
僕はそれを持て余したまま、エレベーターに乗った


ひどく沈んだ気分のまま営業部に戻ると

最後の1人がパソコンの電源を落としているところだった


「ん?どうした?」

「あ、僕、今日の曜日を間違えていて…」

「今日は木曜日だぞ?」

「水曜日だと勘違いをして
頼まれた見積書を作ってしまったんです」

「送ってしまったのか?」

「はい…」

「この時間ならまだなんとかなる
訂正して送り直したらいい」

「はい。そうします
すみません」

「俺が、送る前に確認してやったほうがいいんだが…」

「あ、日程直すだけなので」

「うん、ま、シムならその辺は任せても良さそうだ」

「ありがとうございます。
慎重に訂正します」

その上司が帰りたがっているのは
わかっていた。

1人で集中して仕事したいし
僕のことは気にせず帰ってほしい


誰もいなくなったオフィスで
パソコンを立ち上げた

見積書を探していると
ふと、ユノ先輩の個人フォルダを見つけた


別にユノ先輩の何かを盗み見ようとか
そんなつもりはなくて

ただ、なんとなく、ユノ先輩に触れてみたいような
そんな大したことない気持ちだった

カーソルを、そのフォルダに置いてみた


パスワードが必要ではあったけれど
誰もがこの会社の電話番号をパスワードにしている。

なんと脆弱なセキュリティなんだろうといつも思っていた

試しにユノ先輩のフォルダにそのパスワードを入れてみると

やはり、すんなり入ることができた

別に、ユノ先輩のフォルダをどうこうしようと思ったわけでもない

ただ、なんとなく…だった。


そのフォルダには
今日声をかけられていた昇進試験の論文が入っていた

ユノ先輩が、今頑張っていることが自分の手の中にある

だから、なんだというのだろう


そして僕は

なぜ、そんなことをしたのだろう


あなたが好きだから、なんて
まったくもって理由にならないのに


僕は…そのフォルダから論文を開くと

再びキーを叩き始めた


元の論文は保存して、コピーしたものに細工をはじめた

僕のどす黒い、淀んだ性格が露わになる


こんなことをしたらいけない


心にそんな声が聞こえたけれど
僕はそれに耳を塞いだ



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素直になって 1



「アイツ来ないだろ
無理して誘うことないよ」


そんな風に言われるのは慣れていた

新入社員のための営業部内での歓迎会


僕は聞こえないふりをして
さりげなくみんなの輪から離れようとしていた。


「そういう事言うなよ
新入りなんだから、早く馴染ませてやらないと」

静かにそう言って、切れ長の瞳を細めて優しく微笑む


そんなあなたに
僕は夢中になってしまったんです


それでも、僕はそのまま会社を出て行く
あなたと一緒に楽しく飲みたい、なんて言えるわけない


なぜ僕が営業部に配属?
そんな疑問符で頭がいっぱいだった
新入社員の研修

口下手で、人当たりも良くない
コミュニケーション能力に人一倍欠けてる自分。

そんな僕が営業部はないだろう


とりあえず1年勤めたら辞めよう

そんな風に考えていたのに

それなのに

サッと目の前に差し出された武骨で美しい手

握手?
時代錯誤も甚だしい

僕はたぶん、かなり迷惑そうな顔で
あなたを見たと思う

それでも

そんな事はお構い無しに
ありえない距離まで近づいてきたあなた


「よろしくな、同じ営業2課のチョン・ユンホだ。
わからないことがあったら、何でも聞いてくれればいいから」


爽やかで、まるでそれは炭酸水がはじけるような明るい笑顔で

チョン・ユンホ

ユノ先輩

あなたは白い歯をみせて、笑っていた


僕の心臓は鮮やかな鼓動を打ち
血流は身体の隅々を勢いよく流れはじめた

それはまさに、「墜ちる」瞬間だったのかもしれない


あなたに夢中になったのは
おそらくこの時が始まりだったと思う。


好きになるのは、いつも同性で
僕はそういう性質なのだと自身を受け入れて生きてきた


もちろん、好きになった気持ちなんて言えないし
言うつもりもない

男から告られたって、しかも僕みたいな冴えないやつに
思いを寄せられたって迷惑なだけだ


こういう、明るいノンケの人に恋をするのが一番つらい

それはわかっていた


一緒に同じ部署で仕事ができるのだから、それでいい

遠くから、その明るい笑顔を見ていれば
僕は十分に幸せだった


カッコよくて、優しくて

そんなユノ先輩だから、
新入社員の中でも何かと話題に上っていたようだ。

1人で社員食堂でとるランチの時
僕は背中であなたの話題を聞いていた


ユノ先輩にはいつも彼女がいるらしい。

男同志の付き合いを優先するせいか
彼女との付き合いが長続きすることは少ないそうだ。

清楚で笑顔が素敵で
ロングヘアの背の高い女性が好みだとか。


ああいう爽やかな人がいかにも好みそうなタイプだな

僕は逆立ちしたって、ユノ先輩から注目されることなんてないし

世界が、ひっくり返っても
ユノ先輩が僕と…なんて

絶対にありえない

あまりにも自分に可能性がなさすぎて
ユノ先輩に彼女がいてもなんとも思わなかった

嫉妬をする資格なんて
僕には1ミリたりともない

僕は、あなたのたくさんいる知り合いの1人で
もしかしたら町で会ってもわからないかもしれない

そんな存在

それでもいい

なんの望みもないけれど
あなたは確かに、この世に存在する
それだけで満足だ


運が良ければ、目が合うこともあって
あなたはその度に微笑んでくれる

その他大勢の中の…僕に

うまく皆と馴染めない新入りの僕をあなたは気にかけてくれて

それがくすぐったくて嬉しくて

それでも僕はそれを表現することはなく
逆にシラけたつまらない態度ばかりとっていた。


先輩としての義務感もあったかもしれないけれど、
そんな可愛くない後輩の僕を、ユノ先輩はよく面倒みてくれた。


研修の終わりには
親睦のためのレクリエーションと称して
日帰りでちょっとしたトレッキングが行われることになった。

自由参加だから、別に参加しなくても問題ない

けれど

ユノ先輩がそこのリーダーに加わると知って、
僕は行くことにした

この僕がトレッキングだなんて
たぶん数少ない僕のネトゲー仲間が知ったら驚くだろう

同期のみんなも、僕がトレッキングに参加したことを
驚いていたようだ

だから僕は、相変わらずシラけた態度をとった


「研修の一環だというから、来たんだ
必須じゃなければ家にいればよかった」


心にもないことを言う僕に
同期たちは苦笑いで返答に困っていた

だったら来なきゃいいのに、という空気だ。


少しでも…ユノ先輩の側にいたいんだ



リュックを背負ってみんなを誘導するあなたは、
初夏の太陽のように眩しい

ボーダーのカットソーにクロプドというラフな格好で
足元だけはトレッキングシューズを履いていた。

野外活動だからと、全身アウトドアスタイルでキメてくるような人ではないのだ

そんなところも、たまらなく好きだ


木々の緑も、初夏の風も
爽やかなあなたの、ただの背景にすぎない

木漏れ日より輝くその笑顔


みんなから少し遅れてついて行く僕を
ユノ先輩が待っていてくれる

「きついか?シム・チャンミン」

「大丈夫です」


あなたがここで待ってくれるのを知っているから、
僕はわざと少し遅れて歩くんだ

僕に合わせて、一緒に歩いてくれるユノ先輩


「チャンミンはずいぶん背が高いんだな」

「ユノ先輩も背が高いじゃないですか」

「チャンミンは顔だけ見てると小さい子みたいだから、背がそれだけ高いのが意外でさ」

「そうですか?」

「ああ、可愛い顔してるから」


可愛いとか


爽やかな笑顔で

そんな事言わないでください


僕は盛大に勘違いをして
1人高鳴る鼓動と闘うのですから


嬉しくても、思いに反して僕の口はへの字に歪む


僕の気持ちは、少し拗ねたような
ちょっと歪んでわかりにくいものになっていった


側にいたいのに

話がしたいのに

どうしてもそれができず
拗ねた態度をとってしまう


研修が終わり、各部署にそれぞれが配属になると
同じ部署のユノ先輩とは距離が近くなった。


もちろん、同期もたくさんこの部署に配属になり
ユノ先輩と距離が近くなったのは、僕だけではなかった


週末ともなれば、同期はわいわいと誘い合って飲みに行く

学生気分の抜けない奴らだ

僕はそんな風に同期の仲間を横目で見ながら帰宅する


人気者のユノ先輩はもちろん
毎回誘われている

僕は誘われても行かない


新入社員の女子たちみたいに
ユノ先輩の真正面に立ちふさがって
大きな声で飲みに誘うなんて

そんな無邪気なこと
僕にできるわけがなかった

そのうち、僕はみんなから誘われなくなった

そんなことは別に構わない


みんなにせがまれて、居酒屋に連れていかれる
ユノ先輩


あなたは困ったように微笑んで
それでも後輩たちが可愛くて仕方ないようで

結局のところ

男女合わせて数人を引き連れて飲みに行く

そんなユノ先輩の背中を
今週も横目で見ながら僕は帰宅する


僕だって、あなたの側で酒が飲めるなら
本当は行きたかった

けれど…

僕は相変わらず冷めた表情で地下鉄に乗り込んだ


ユノ先輩は

そんな僕の存在にさえ気づかない


僕の想いは澱んだオーラを伴って
さらに拗ねて沈んでいく





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こんばんは、百海です

おひさしぶりですが、お元気だったでしょうか
こっそり短編アップさせていただきますね

シャイで天邪鬼なチャンミンと
明るくて鈍感なユノ先輩の出会いです

お暇なときにどうぞ
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