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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

家路 24



店が終わり、事務や経理の片付けが終わると、ユノは帰り支度をはじめた。

チャンミンがピアノを弾きながら待っているのだ。


シウォンが珍しく、カクテルを作ってユノに持ってきた


「おつかれ、どうだ一杯」

「悪いけど、チャンミンと帰るから」

「…チャンミンは帰ったよ」

「えっ?」

コートを羽織ろうとしたユノの動きが止まった


「優秀な弟クンが連れて帰った」

「そんな勝手な…」

「俺にキチンと断って帰ったから」

「シウォン、お前、それ許したのかよ」

「手術前で早く休ませたいって。
そう言われたらさ」

「……」


「シウォン…」

「ん?」

「酒もらうわ」

「ああ」

ユノは青いきれいなカクテルを受け取ると
質素な事務室の壁にもたれた


「シウォン、俺さ…
やっぱりただのバカだ」


「なんだよ、バカって」


「好きでもない女抱いて
チャンミンを裏切ってさ…」


ユノは天井を仰いだ


「そんな思いして金作ったのに
全部スッちまって…」


ユノは俯いて、カクテルをゆらゆらと回して苦笑した


「挙げ句の果てにさ
白馬に乗ったカッコいい王子が颯爽と現れて」


クックッと肩を震わせて笑う

「チャンミンを掻っ攫っていった
ザマないよな」


「お前…自分の事、そんな風に言うな。
ユノは苦しんだじゃないか
チャンミンの為に…」


「いや、俺は結局なんにもしてない」


「ユノ…」


「スンギュは頭もいいし、力もある
チャンミンを…幸せにしようと
たぶん、心から思ってる」


「……」


シウォンも、そこからは何も言えなかった

「俺さ…」

天井を仰ぐ、ユノの目に涙の膜が張っている


ユノの濡れたまつげが震える

美しく整ったその横顔が、苦しみに喘ぐように小刻みに震える


「俺さ…
どうすりゃよかったのかな…」


震える眉間

流れ落ちる涙と

堪えようとする嗚咽


「俺…どうしてやれば…よかったんだろう」


本音を剥き出しにして崩れていくユノ
シウォンはもうその姿を見ていられなかった


「俺は…ただ…
チャンミンが…
好きで…」


涙流れるままに、ユノは泣いた


「アイツの目を…治してやりたかった」


ユノは背中を壁につけたまま、
その場に泣き崩れた…


「それだけだったのに…」


シウォンも、身体を震わせて泣いた
親友のズタズタに心を滅ぼしてしまう姿が
辛すぎた…



外に出ると、もう夜明けだった


ユノは春まだ浅い寒さの残る道を
1人で歩いた

ふと、思い立って

ユノは少年の頃よく行ったビルに行って見た。

15階ほどの雑居ビルで
非常階段で屋上に行けることを知っていた

人前では強がった態度ばかりとっていたあの頃、
どうにも耐えられないことがあると
ここへ来て、悔し涙にくれていた

今も…行けるのだろうか

くすんだセメントの壁

そのビルは昔となんら変わらずに
ユノを迎え入れた

15階まで階段で上がるのは、たいして辛くもなかった

屋上に上がると
朝焼けが頭上にひろがり

それは幻想的に美しかった

青からラベンダー色へゆっくりとグラデーションを作る空に

ピンク色に燃える雲がまるでオーロラのようだった

春の風がユノの前髪を撫でる

散々泣いた頬にそれは心地よい

ユノは空を見上げて目を閉じた
両手を空に大きく掲げた


そして、ゆっくりとその切れ長の瞳を開いてみた


暗闇から、薄いピンクのオーロラが視界に広がる

ユノは思った

チャンミンはきっとこうやって

暗闇の世界から美しい世界へと
足を踏み入れるのだ

あの大きな瞳はきっと輝き

次から次へと綺麗なものを見て
美しい笑顔になるのだろう

チャンミンの新しく美しい世界に

自分は…

いるべきではないのだ


どこまでも無様で情けなく
カッコ悪かった自分が

最後にできるただひとつの事は

ユノは空を見上げた


************



ユノはチャンミンの荷物をひととおり纏めた

「ありがとう、ユノ」

「スーツケースはお父さんのところに送ったから。
あとは段ボールも送っておしまいだ」

「うん」

不安そうなチャンミンの表情

「入院って言ったって検査だけなんだから
大丈夫だよ、チャンミン」

「ここへ帰ってこれるのは
かなり後だよ」

「そうだな、そのままドイツだからね」

「一度は帰れるでしょう?ここに」

「……」

「ドイツへ行く前に、ここへ帰ってこれるよね」

返事をしないユノに、チャンミンが不安そうになる


「それは…できない」

「どうして?」

ユノはチャンミンに近寄った

その気配をチャンミンは感じて、また、不安そうになる


「俺もお前がドイツに行けることになってよかったよ」

「?」

「チャンミン」

「はい」


「実は…お前に言えなかったことがある」


「なに?」

「お前がドイツに行けるなら
もう言ってもいいかなって思ってさ」

チャンミンが一歩後ずさった

「チャンミン凄いなと思ったよ
さすがに勘が鋭いなってさ」

「なんの…話?」

「お前も気づいてたみたいだけど…」

「……」


「ごめんな、俺、女がいる」


途端にチャンミンが狼狽える

「何言ってるの?」

「チャンミン…」

「何それ?!いきなりなんの話だよ!」

「ごめんな、黙ってて」


残念ながら

チャンミンには思い当たる節がありすぎた

ユノから薫る女性の香りは

香水ではなく、生身の女の匂いだった


気づいていたけれど、
認めたくなかった

ユノの口からは
チャンミンだけなのだとしか聞いていない

そう言ってくれたあのことばにウソはないと、
そう信じた

なのに

やっぱり…


チャンミンの瞳にみるみる涙が溢れて来て
ポロポロとその丸い頬に落ちて行く

震える手をユノの顔あたりで泳がせて
その鼻先に触れた時

ユノの頬に熱い衝撃が走った

チャンミンの平手打ちがユノのこめかみから、口元に向かって激しく振り下ろされたのだ


その痛みは頬ではなく、ユノの心の奥底を直撃した


キーンと耳の奥が鳴っていたけれど
それが止むと、チャンミンの嗚咽が聞こえて来た

「うっ…うっ…」

「……」


ユノも…大声で泣きたかった

なぜ


なぜ、こんなことになってしまったのか


愚かな俺を

許してくれ


2人ともしばらく
じっとしていた


ユノは思った

自分はこの心の痛みに耐えなくてはいけない

なのに
ふと微かに震える声が聞こえた


「…優しい人?」


「え…?」


啜り泣きながら、チャンミンが口を歪ませて話す

「その人は…ユノに…優くして…くれる?」


「…………」


一世一代の大芝居が

足元から崩れそうだ


「幸せ…なの…?」


「チャンミン…」


幸せ?

幸せって…なんだ…?



それはお前と潜るベッドの中

おはようのキス

一緒に浴びるシャワー

仕事が終わって、支え合いながら帰る道

2人だけの我が家へ帰る道

たわいない、今日の出来事を
楽しく話す帰り道


幸せって…なんだ

あの日々以上の幸せって…

お前のいない幸せなんて
俺にはないんだよ


チャンミン…

俺は…


ユノの目には泣きじゃくるチャンミンが滲んで見えている


震えるユノの両手が
そっとチャンミンの頬を包む


激しい嗚咽にむせぶチャンミンは顔をあげ
その大きな瞳が涙で輝く…

ユノは…無理に…笑った


「なぁ…チャンミン…?」

「うっ…えっ…うう…」

ユノは自分の額をチャンミンの額に押し付けた

ユノの両手の中にはむせびなくチャンミンの可愛い顔

ユノが愛した透き通るように美しいチャンミン


「目が…見えるようになったら
たくさん、楽しいことがあるから…な?」

「うっ…うう…」

ユノの瞳から、いくつも涙が溢れる


「いろんなものを見て…
たくさんの人に会ってさ…」

「ううう…」


「幸せになれ…」

「うう…」

「な?」


誰より愛して…

自分のすべてを捨てても惜しくないんだ

だからこそ…


お前が幸せになるなら

俺は…なんだって…する

それは今も…これからも…変わらない


だから、さようなら

俺のただ一つの幸せ


さようなら

俺のチャンミン



子供のように泣きじゃくるチャンミンの
柔らかい髪を…ユノも泣きながら撫でていた…




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百海です。
思ったより長く24話までになりました
ここまで読んでいただいて、ほんとうにありがとうございました。

みなさんが、お話の状況や心情をほんとに理解してくださって、十分伝わっているようで
書いていてとても楽しかったです

1年後の続きのお話を数日後にアップしたいと思いますので、よろしければ読んでみてくださいね

家路 23



話し合いが終わり、
シウォンは店へ、ユノとチャンミンは家へ戻った。

タクシーを呼んでくれるとドク氏は言ってくれたけれど、チャンミンが電車で帰りたがった

2人で地下鉄を降りて、いつもの帰り道を歩く

「タクシー呼んでくれるって言ったのに」

ユノがなぜか嬉しそうに言う

「うーん」

「この道を…帰りたかったんだろ」

「わかった?」

「わかるさ、チャンミンの考えることなんて、なんでもわかるよ」

「フフ…そっか」

チャンミンが、ユノの腕をギュッと掴む


お互い…なぜか
理由なんて…根拠なんてないのだけれど

離れてしまうのではないかと
漠然と不安になったのだ。

それはやはり、今夜の事で
2人を取り巻く世界が変わっていく予感を
お互いに感じていた



「チャンミン…」

「ん?」

「良かったな」

「…なにが?」

「何って…」

「………」

「お父さんもいい人でさ」

「まだ、わからないよ、
本当のお父さんかどうか」

「お前の兄弟も、めちゃくちゃカッコイイじゃないか。お前の事任せろって、ドイツに連れて行ってくれるってさ」

「うん」

「なんかさ…宝クジに当たったみたいだな。大金が必要なところにこんな話」

「うーん、そう…だね。急に近道教えてもらったみたいな…」

「聞いただろ?スンギュ。あの人にまかせておけば、いろいろ安心だな」

「身元引受人を…」

「え?」

「身元引受人をね、ユノとシウォンさんから、ドクさんに移すって。」

「……そうか…」


ユノはその話は聞いていなかった

言われてみたら当然のことで
逆に引受人にはなってはくれない、なんて言われたら問題だ。

だけど…

こうして少しずつチャンミンが自分から離れて行ってしまうようで

ユノはチャンミンの手を強く握り返した

「だけどね、ユノ」

「ん?」

「僕は…ユノもドイツに来てくれないと嫌だからね」

「……」

「目が見えるようになったら、一番最初にユノを見るんだから」

「…ああ、そうだな」

「それは…ドクさんにもセシさんにも
ハッキリと言ったんだから」

チャンミンは自分に言い聞かせるように言い、
ユノの腕を痛いほど掴んだ

「いてぇなぁ、そんなバカ力があるなら
どんな手術でも大丈夫だ」

「そういうことじゃなくて、ユノ」

「わかってるよ」



しばらく穏やかに日々は過ぎ
スンギュからはいろいろな手続きについて
こまめに連絡があった

ユノはホストの仕事をやめ、
シウォンの店を手伝っていた

そういう意味では、ユノの気持ちは穏やかだった


そんなある日、ユノの元にセシから連絡があった。

「今日は仕事休んで夕飯付き合いなさいよ」

「はぁ?仕事休んだら、店の経理がいないんだよ、オンマ」

「シウォンには言っておいたから」

「そ?あーわかったよ」


セシのご主人は大きなレストランのチェーン店を経営していて

呼ばれた店はその中の一つだった


「なんでも好きなもの食べなさい」

「自分ちのじゃないか。えらそうに」

セシが相手だと、ユノも甘えて子供のようになってしまう

「相変わらず口が悪いわねぇ」

「ふん、じゃ一番高いもの頼む」

セシの顔が優しく緩む

「ユノがそんな風だと
なんか安心だわ」

「は?」

「アンタ、いつもケンカっ早くて
でもね、穏やかな時は具合が悪い時なのよ」

「知ったようなこと、言うな」

ユノがむくれた

その内、料理が運ばれて来て
世間話をしながら、本当の親子のように
2人は楽しく食事をした

「ねぇ、ユノ」

「ん?」

「あんた、チャンミン君と離れちゃダメよ」

「……なんだよ」

「キム・ドク氏も、スンギュもチャンミン君を気に入って、力になってくれようとしてる。」

「ああ…わかってる」

「だけど、だからといって、それはアンタとチャンミン君が離れる理由ではないのよ」

「………」

「チャンミン君ね、アンタとの事を
あたしとキム・ドク氏に話してくれたの」

ユノは料理を頬張る口が止まった

「アンタのこと、愛してるって」

「………」

「あたしとキム・ドク氏は、最初は驚いて
でも、少し時間がかかったけど、理解したわ」

「………」

「だけど、他の人はそうはいかない。
それにこれは私だからわかるけど、
水商売の人間が付いていることを多くの人は…マイナスに思うの」

「だろうね」

「アンタ昔、どこかのお嬢様と仲良くなったけど、怖い連中につけまわされたじゃない?」

「あれは、俺があの女を捨てたからだよ」

セシはため息をついた

「アンタは意外と優しいの」

「意外と、は余計だ」

「チャンミン君の為だって、身を引いてしまいそうでヒヤヒヤするわよ」

「大きなお世話だよ」

「ミンスとドク氏が別れなくてはならなくなったのは、あの時、正義漢ぶって大騒ぎしたあたしのせいだと思ってね」

「だけど…結局、手術ができそうなんだから、十分だろ」

「ミンスが…私とチャンミン君を引き合わせたのかなって」


そう言う意味では…
チャンミンの母親としては…自分の存在はどうなのだろう

邪魔…に思っても不思議はない

ふと、ユノはそう思った。



案の定、というか、とうとうというか
スンギュからユノへ連絡があった

スンギュは店へ来て、個室でユノと話した


「チャンミン君はやはり、父の子で
私の兄弟でした」

「えっ?」

「この間、眼科に行った際、ついでというか、DNAの検査を依頼したんです」

「はぁ…」

「今は結果が出るのも早いんですね」

スンギュは爽やかな笑顔でユノを見た。

「少しこちらで入院をして検査して
それからドイツに行きます。
また入院ですけれど」

「いろいろと検査するんですか?」

「そうみたいですね。
手配はすべて済ませてあります」

「そう…ですか。ありがとうございます」

礼を言ったユノをスンギュは不思議そうな顔で見た

「お礼は…私が言うべきです。
ここまで兄の世話をありがとうございました」

ユノはスンギュの過去形の物言いが気になった。

「付き合っていたそうで。
直接話を聞きました」

「付き合っていた、ではなく
付き合っているんです」

ユノの声が少し強くなり
それでもスンギュは怯まなかった

スンギュは一呼吸おいて、姿勢を正した


「私は…手術後のことも視野にいれています。」

「………」

「父に隠し子がいたと、世間ではちょっとした騒ぎになるでしょう。
でも、マスコミの方も手は打ってあります。」

すべてにおいて、スンギュは完璧だった

「兄には思う存分、ピアノを弾いてもらうつもりです。その為に留学でもなんでも好きなようにさせるつもりです。」

「………」

「クラシックの世界にも、面通しをさせて
輝かしい道を用意してあげたいと思っています」



「輝かしい…道…か」


「はい」


ユノはチャンミンに陽のあたる道を用意してやりたいと
思っていた

陽射しの暖かさと、陽の明るさを
同時に感じさせてやりたいと

スンギュは


チャンミンに輝かしい道を
きっと、大勢のひとたちがチャンミンのピアノを聴いてくれ、心打たれるのだろう

拍手喝采をあびるチャンミンを想像したら
ユノはもうなにも言葉がなかった


「チャンミンは…喜ぶと…思います」


ユノはそう言うしか、なかった


「そこで」

スンギュは落ち着いた声で言う


「はい」

「こんなこと、本当に言いたくないんですが、出来ればシウォンさんや、ユノさんには、表舞台には出ないでいただきたいんです」

「表舞台?」

「失礼なことは百も承知です。
でも…これは…兄のためです…
スムーズに人生の歩み直しをしてほしくて
ただそれだけです」

「俺らが…邪魔だと?」

「ただでさえ、これから兄は世間に注目されます。
その時にトラブルの芽はひとつ残らず、潰しておきたい」

ユノの手がワナワナと震えた

「なんだよ…
よってたかって…離れるなって言ったり
離れろって言ったり
肝心のチャンミンの気持ちはどうだって言うんだよ」

「きっと…」


「………」


「目が見えるようになれば、視覚から情報があふれすぎて…今とはまったく違う世界になります。
興味のあることも今の倍以上になるでしょう。
医者もそう言っています
兄は今はそれが想像できないでしょうけれど」

「だから…なんだ」

「きっと…お2人が離れていっても想像しているほど
兄は感傷的にはならないかと…」

「俺が側を離れて、アイツが平気だと思うか?ドイツだって、俺が行かなきゃ自分も行かないって言ってるんだぜ?」

声を荒げれば荒げるほど

自分の分の悪さを思い知らされるような気がした


「それは、ユノさん次第でどうとでもなる事だと思います」

「俺は…俺はチャンミンとは離れない」


「………」


スンギュはため息をついた…


まるでユノは自分が聞き分けのない子供になっている気がして、それはそれで情けなかった

「私はこれ以上失礼な事は言いたくありません。なので最後にしますけれど、
よく考えてください。
兄が我が家の一員になり、音楽をやる事は必ずや世間の話題になります。
苦労して夜ピアノを弾いていたことは、良い話として語られるでしょう。
でも、繁華街でホストをしていた男の恋人がまわりをウロウロするのはどうでしょう。
兄にユノさんを世間から守れと?」

「チャンミンが俺を守るなんてことがあるか」

「そうなります。
それが話題になってしまったら
世間へ釈明するのは、他の誰でもない兄です。
あなたではない。」


「…………」


これ以上…言い返せない

そうユノは思った

スンギュの言うことは…とてもわかりやすくて…そして、正しい。


「俺に…ウロウロするなと…言うことだな」

「本当に…すみません。
今は…みんなで兄を支えていければ、と。
私が考えるのはそれだけです。」

スンギュは立ち上がってユノに一礼をすると、店を出て行こうとした

「ちょっと」

それをユノが声をかけて止めた

振り向いたスンギュに、ユノは遠くを見つめるような視線を向けながら言った


「わかったから」


「…ユンホさん…わかっていただけましたか?」


「チャンミンを…頼んだぞ」


スンギュはちょっと切ない顔になり
しっかりとユノに向き直った

そして深く一礼をした




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こんばんは、百海です
たくさんコメントいただいているのに
お返事できず申し訳ありません

出張、出向でバタバタしてます

すべて読ませていただいてますが
時に皆様のコメントで涙ぐんでしまうこともあります
自分で書いたお話なのに、そのコメントで泣くって

このお話は明日で一旦終わります

おそらく2、3日してから
第2章的な続編が、1年後の設定ではじまります。
2章は短く終わるかと思います

よろしければ、2章も読んで頂けるとうれしいです

みなさま、花粉は大丈夫ですかぁぁぁ?
私はひしひしと感じています( ; ; )

家路 22



スンギュがユノとシウォンを階下に連れて行くと

豪華な部屋には、チャンミンとドク氏、そしてセシの3人が残った。


ドク氏は静かに語り始めた


「お母さんに似ていると…小さな頃から言われていただろうね」

「…はい。自分でもそう思っていました」

「目はいつから見えなくなったの?」

「えと…中学生になる頃はまったく見えなくなりました」

「そう…ミンスもチャンミン君も…苦労したね」

「僕は…なにも…」

「お母さんが亡くなった時には…辛かっただろうね」

「ええ…はい…でも…もう見えてなかったので、なんていうか…現実味はなかったです…もう僕は施設にいて…母の最期も看取れませんでした」

「そうか…」

「はい…」


ドク氏は懐かしそうな表情になった


「私が君のお母さんのミンスと出会ったのはね…遊びを知らない私を、悪友たちが夜の繁華街に連れ出して…」

ドク氏はどこか遠くをみるような瞳で優しく微笑む。

「それで、店で踊るミンスに見惚れてしまってね」


「………そうだったんですか」


「ミンスはね、肩までの髪を耳にかける仕草がとても綺麗で…指につけた赤い羽根がブルネットの髪によく映えてね…」

「母さん…が?」

「そう…」


セシが涙ぐんでいる

「あなたのお母さんは、ほんとうに綺麗な人だったのよ」


「私は夢中になってしまってね
ミンスも私の想いに応えてくれて…
けれど、店通いが過ぎると、私の家からお咎めが出てしまって」


セシがため息をついた

ドク氏は言いにくそうに、そして苦しい表情になった


「私も若くて…最初は家に反発して…
ミンスと結婚しようと…」

「結婚?」

「ミンスは…それは無理なことだとわかっていた…
聡明な女性だったからね…
私も結局は反発しきれずに…」

「………」

「けれど…やっぱり忘れられなかった
もう一度やり直そうと…私は…」

「………」

セシがチャンミンに申し訳なさそうに言う

「方々探したんだけどね、見つからなくて」


「私が…弱かったために…ほんとうにミンスにはすまないことをした」


「………」


「もっと…私が強ければ…ミンスを守ってやれれば…」

ドク氏の手が震えている


大きな金融会社を、ひいてはこの国の社会を導く人物とは思えないほどの
純粋な1人の男がそこにいた


「母は…お父様は素晴らしい方なのだと…いつも言っていました」

「……」

「父の悪口を母から聞いたことはありません」

「……」


「だから、僕は父に悪い印象がまったくありません。」


ドク氏は嗚咽に震え
セシももらい泣きをしていた


けれど

感傷的な3人の会話とは、趣の異なるやり取りが、
一階のレストランでは行われていた。


レストランでは、スンギュ、シウォン、ユノが一見穏やかにワインを酌み交わしていた


背の高い、顔立ちの整った3人の席は
店内でもとても目立ち、女性客たちがチラリと視線をよこす。

席での会話はスンギュが舵をとっていた


父の片腕として、若くして大きな金融会社の重要なポストにいるスンギュは、落ち着きと威厳があった


「父は体調を崩しており…正直申し上げて、余命宣告まではいかないまでも…長くはない命かと思われます」

シウォンが驚いてスンギュをみた

「そんな…そんな風にはとてもみえませんでしたけれど」

「ああ見えても、かなり印象は弱くなりました。やっかいな持病をかかえているせいでしょう」

「そうでしたか…」

「私は…さきほど、あの席で兄弟ができて嬉しいと申し上げましたが、あれは本音です」


俯いていたユノが顔をあげてスンギュを見た。

その視線は強い


「父のミンスさんへの想い、というのも私なりに理解して納得しています」

スンギュは笑顔で2人の顔を見比べる


「小さい頃から兄弟が欲しくてね
兄ができるなんて、私は喜んで前向きに受け入れています」

シウォンが少し訝しげに詰めた


「でも、まだほんとうに兄弟と決まったわけでは…」

「たしかにそうです。
これで、キム家に受け入れるとなると
そう簡単には行きません。
外野もいろいろ煩いですしね」

「そうでしょうね?」

「正直、色々な計算をする輩も多いし。
手放しでチャンミンさんの存在を喜んでいるのは私と父だけかもしれません」

「……」

ユノの表情も硬くなった


「ですが、私はチャンミンさんを守ります」


スンギュは強い声で2人に言った

それは誠実で…頼もしく…清廉として
とても男らしかった


その声が頼もしくあればあるほど

ユノは打ちのめされた…


正々堂々と…チャンミンを守りますと
潔く言えるスンギュ

今の自分にはとても言えない


「逆に、はっきりと父の息子だと判明するとやっかいなこともあります。
なのでそれは周りの様子を見ながらでいいかと思います。」

シウォンがため息をついた

「セシさんから、チャンミンさんの目の事を伺いました。
全力を尽くします。側からみたらボランティアでもなんでも構いません。
ドイツへ行って手術をする手配は私が責任を持って行います」

ユノもシウォンも驚いた顔でスンギュを見つめた

「あ…ほんとうですか…」

初めてユノが口を聞いた

「チャンミンの…目を…」


「はい、私の学生時代の友人がドイツにいます。医学界に顔が効くので早く手術は受けられると思います」


「……そうですか…」

喜ばしいことなのに

まずはその言葉を受け入れる事が
ユノには難しい

なぜなら

そんな簡単に、ついこの間聞いたばかりであろう手術の話をまかせてくれ、だなんて…

自分はなりふり構わずやろうとして結局はできなかったことを

いとも簡単に…

鉛のような愕然とした何かが
ユノの心を地下深くまで沈めるようだった


ユノはそんな自分を恥じる思いで
押しつぶされそうだった






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家路 21



タクシーが乗り入れたのは
高級ホテルのエントランスだった。


待機していたホテルマンが
何人も走り寄ってきて、ユノたちを恭しく出迎える


チャンミンが自分の父親であろう人物に会うのに、
やはり自分達は場違いなのでは、とユノとシウォンは思った。

そう思わせる重々しい空気があった


一体、チャンミンの父親とは
どんな人物なのだろうか。


出迎えたホテルマンに3人はエレベーターに乗せられた

その内の1人がチャンミンに頭を下げる

「お手伝いが必要な時はなんなりとお申し付けください」

目が不自由だという情報が先に伝わっているのだろう

招いた人物がチャンミンを大切に思っていることがわかる。

チャンミンはユノにしがみついたまま、
こくりと頷いた

「あ、ありがとうございます」


何人もの人間がまわりにいることが
チャンミンにもわかり
その重々しい雰囲気が伝わっているのだ


エレベーターが到着すると、3人は
奥の部屋に通された

おそらく

このホテルで一番いい部屋なのだろう


アプローチも広く、メゾネットのような形式の部屋だ。

短期間ではなく、長期的に暮らすようなタイプの部屋なのかもしれない。


ユノとシウォンは、いかにも繁華街の夜の仕事、といった服装で、急にその格好がこのホテルに相応しくなく、
これから会う人物にも、相応しくないだろうと不安になった。


アプローチで、先にセシが待っていた。

「いらっしゃい。よく来たわね」

3人の緊張をほぐすように
柔らかな笑顔だった


「なにも緊張することないのよ。
いたって歓迎ムードだから」

「は、はい」

チャンミンの顔が強張っている


「さ、ユノ、チャンミンを私に」


ユノはチャンミンをセシに預けた

チャンミンはユノの手を離そうとはしなかったけれど、

「後ろにずっとついてるから」

ユノは優しくチャンミンに囁いた

チャンミンはこくりと頷き、
セシの手を取り、応接の間に通された


ユノの視界がパァーっと開かれる

そこは、本当にホテルの一室なのだろうかと疑うほどの豪華さ

重厚な家具に、調度品

絨毯は靴音もしないほど柔らかい


そして、向かいのソファには
1人の初老の男性が座っていて

その側に凛々しい青年が立っていた


初老の男性はチャンミンを見ると
その驚きを隠せないようで

唇を震わせながらソファから立ち上がった。
視線はチャンミンから外すことができないようだ

「あ…君は…」

チャンミンは声のする方に耳を傾けて
不安そうな顔をした


ユノとシウォンは
居心地の悪さといったらなく

まるで用心棒のように、部屋の角に突っ立っていた。


「なんて…ことだ…」

男性の狼狽ぶりに、セシは涙ぐんだ

「ミンスの息子さんよ。
たぶん…あの時の…そっくりでしょう?」

チャンミンはセシに勧められ、少し前に出た。

「あ…シム…チャンミンです…」

よろよろと男性はチャンミンに近寄った

その視線はチャンミンの顔から外さない


「チャンミン君…私は…キム・ドクだ…」

「キム・ドクさん?」


セシがチャンミンの手を撫でた

「チャンミン、とりあえず座って」

そう言いながら、チャンミンをソファに座らせた。


ドク氏の側にいた青年が品のいい物腰で
ユノたちに近寄ってきた

「みなさんもこちらにどうぞ」

3人がけのソファに座る事を勧められて
ユノはそれでも立っていたけれど
シウォンに促され、腰掛けた

青年が、チャンミンに笑顔で話しかけた

「僕はキム・スンギュといいます。
キム・ドクは父です」


僕はキム・ドクの息子です、と言わないところが謙虚で、ここがどういう場かを心得ているようだ。


もし、チャンミンがドク氏の息子であれば
このスンギュにとっては面白い話ではないはずだ。


セシはスンギュに先に断りを入れた

「これから、私がチャンミンに話をするけれども、あなたにとっては面白くない話になると思うの」

スンギュは柔らかい笑顔を向けて頷いた

「大丈夫です。私のことは気になさらずに」

「そう?」

「はい」


ドク氏の視線は相変わらずチャンミンに釘付けで、次第に涙ぐんでいるような様子だ

セシが一呼吸おいて、話し出した


「チャンミン、あなたのお母さんのミンスはね、このドク氏と恋愛関係にあったのよ」


チャンミンはじっとしている


「ドク氏は一流金融会社の御曹司だし、こう言ってはなんだけど、ミンスは夜の仕事をしていたし…なんていうか…最初から上手くはいかない恋だったの。」


「………」


「ミンスはあの界隈では有名な踊り子さんでね、今は店で踊りを見せるなんてないけど、当時はね」


ドク氏はやっとチャンミンから視線を外し、下を向いて黙っている


「私はミンスの親友だったの。
私たちは同じ夜の店で働く者同士、ミンスは本当に素晴らしい女性でね。
とても品のある人だった」

「そうでしたか…」

「だけど、妊娠したかもしれないと相談されて、私ね、このドク氏に食ってかかってしまって…なんだか大騒ぎにしてしまってね。」

「………」

「ミンスはドク氏の立場を気にして
姿を消してしまったの」

「……」

「妊娠してたのかどうか、そのあとどうなったのか、
私はいろいろ調べたんだけれど、結局わからなくて…」

「あの…だけど…」

チャンミンがやっと口を開いた


「僕が…キム・ドク氏の子供なのかどうか…」


「ええ、たしかにそう。
時期的には間違いないのだけれど
確証はないの。
今わかるのは、あなたがミンスの子供で
ドク氏とミンスが愛し合っていたこと
それだけなの」


スンギュが穏やかにチャンミンに話しかける


「私の父に他の女性との子供がいたと言うのは、確かに屈辱的なことなんでしょうけれど」

まるで他人事のようにスンギュは言い、
そして姿勢を正すと誠実な口調で話し始めた。


「私の母は亡くなりましたが、病弱な母を父はとても大事にしてくれました。
私が、ま、なんというか…大人の話がわかるようになると、ミンスさんの事を父は話して聞かせてくれました。
父にかつて、想い人がいた事はそれは悪い話ではありません。
確かに子供がいたかもしれないと、今回聞いた時は驚きましたが
私は1人っ子だったので、兄がいるということが、今では嬉しいです」


柔和な笑顔で、大人びて見えるその美しい顔立ちの青年、スンギュは優しくチャンミンを見つめた。


そして、やっとドク氏が口を開いた

「もし、よければ、チャンミン君と2人で話がしたい」

「では、私たちは下のレストランにでも参りましょう」

スンギュが音頭をとったけれど

ユノがそれには同意できず
チャンミンも不安そうな表情をした


セシが、チャンミンの手をとった

「私はいるわ。それならいいでしょう?ユノ」


ユノにはそれに反対する理由がなかった


なぜかチャンミンが突然違う世界に行ってしまうようで

本当は今は離れたくなかった



ユノの胸には胸騒ぎしかなかった




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家路 20



ひさしぶりの休みの日

今日はボランティアの人にも休んでもらった


今まで、休日はヨンスクに呼ばれることが多かったから
こうやって2人で過ごせるのは
いつ以来だろうか。


2人でどこに行くでもなく
ただ部屋で話ながら過ごす


時にキスをし
たまらなくなると抱き合う

愛していると何度でも囁き

チャンミンは何をするにも
ユノと手を繋いで過ごした


「お父さんに早く会いたいだろ」

「うん、ちょっと怖いけど」

「チャンミンのお母さん、見てみたいな
写真とかないの?」

「施設へ来るのに荷物がどうなってるかわからない」

「そうか。
お母さんが亡くなったから、施設へ来たのか?」

「そう。見えなくなりはじめて
1人で過ごすのが危険になってから
たぶん、最初は施設の人が家に来てたのかな」

「ふぅん」

「お母さんが入院してからは、僕はずっと施設にいたよ」

「そうか」

ユノがチャンミンの髪を優しく撫でる

「でもさ、きっと事情があるよね?
僕の…その…お父さん」

「お母さんとは引き離されたって…話だったな」

「僕がお父さんと会うことになったら、ユノ、その時は一緒にいてよ?」

「俺がいて、いいのかな」

「ユノだからいいんだよ
だって…僕の…」

繋いだ手をチャンミンがギュッと握った



スマホの着信

それは

ほぼ同時だった


チャンミンにはセシから
ユノにはシウォンから


ほぼ同時に着信があった

先に電話に出たのはチャンミンだった。

「あ、この間はどうもありがとうございまました。
え?あ、今夜ですか?
大丈夫ですけど…心の準備が…はい…でも、はい、大丈夫です」

ユノの電話はチャンミンのそれより…だいぶ雲行きがあやしかった


「どういうことだ?
ハナからの連絡か?それともヨンスク?」

スマホを切ったのもチャンミンの方が先だった


「ユノ、どうしよう、
今夜お店にお父さんが来るって!」

ユノはしばらく難しい顔をして
チャンミンの声は耳に入らない様子だ


「ユノ?どうしたの?」

「え?」

「どうしたの、ユノ」

「あ、うん、なんでもない
どうした?今夜何かあるのか」

「お父さんが、僕に会いに来るって…」

「え?いつ?」

「だから…今夜!」


「あ…そうか…あのさ、これから俺出かけなきゃならない。店に送って行くのはボランティアの人に頼んでいくからさ」

「え?ユノは一緒にいてくれないの?」

「いるよ、大丈夫。
俺は先にシウォンに会うから、店で待ってるよ」

「そう…あ、ユノ、何かあった?
大丈夫?」

「大丈夫だ」


そう言ってユノはチャンミンにキスをして
着替えはじめた


ユノはまだ夕方早い繁華街を
厳しい表情で歩いていた

シウォンの焦った声が頭の中で反芻する


" 株の話、飛んだぞ "


" ハナも借金して注ぎ込んだらしいから
大変みたいだ。連絡がとれない "


" ヨンスクのバァさんが、得意げに連絡してきた "


" 元々、危険な情報だったらしい、
金融関係では危険だって、とっくに話題になってたらしい。
手を出すな、という御達しがどこの営業にも出てたんだってさ "


ユノは目眩がしてきた

頭がクラクラする

シウォンの話す一語一句に
ユノは何一つ返事ができない


稼いだ金はどうなった?

チャンミンのドイツへの資金はどうなった?

身体に力が入らないし

手をギュッと握ろうとしても、ユノの骨ばった手はただワナワナと震えるだけだ。

心臓がまさにバクバクと音を立てている


ピアノバーへ着くと
シウォンがイライラした様子でソファに座っていた

ジャージ姿でいるのを見ると
家から飛んできた、と言ったところだ


「なんだよ、さっきの話」

「電話で話したことがすべてだ」

「金はどうなったって言うんだ」

「元々、売り出されるはずのない金融商品だったらしい。
きっと大きくニュースになるだろうってさ」

「ハナに取られたってことか?」

「あんな小娘が仕組めるわけない、
ハナも騙されたんだよ」

「そんな…」

「ハナが手玉にとった証券会社の重役も
やられたらしい」

「………」


頭を殴られた感じ、というのはまさにこのことだ。


ギュッと目を閉じたユノの瞼が震えている


「投資した方も違法だから、誰も訴えられないってさ」

「そんな…俺の…金」


「ユノ、どれくらい入金したんだ?
俺もいくらか入金したんだよ」

「俺は…ほぼ全部だ…」

「は?」

「ほぼ全部入金したんだ!」


「お前…持ち金全部投資するバカがどこにいるんだよ」

「………」

しばらく呆気にとられていたシウォンが
思い直したようにソファに座りなおした


「なぁ、ユノ」

「……」

「取り返そうとか…思うなよ。
こういうのはやっかいな話だから」


「………」


「暴れない方がいい。
黙って様子を見よう」


ユノの表情には血の気がなく
その瞳は虚ろだった

そんな親友の表情をみつめながら
シウォンはため息をついた。


「ユノ、また一からやり直しだ。
早いとこそういう気持ちになった方がいい」

「……」

そうだな、とも、そうはなれないとも
ユノの口からはどんな言葉も出てこなかった


状況を把握することを
ユノの心が拒否していた


「一杯飲むか?」

ため息をついて、シウォンがソファから立ち上がった

「いや、いい」

「そうか…」

気を取り直した訳ではないけれど
ユノが、なんでもないように口を開いた


「オンマから、チャンミンのところに連絡があった…」

「ああ、今夜、チャンミンの父親がこの店に来るって。こんなに早く来るってことは父親も会いたがってるってことだ。
俺たちは瀕死だけど、チャンミンは良かったじゃないか」

「………」


どん底だ…

なんのために…チャンミンを裏切って
好きでもない女を抱いて稼いだのか…

スマホの着信を見ると

ヨンスクから何回も連絡が入っていた

もしかしたら…

もしかしたら、なんとかしてくれようと
しているのかもしれない


そんな情けない思いが一瞬ユノを支配した

急いでスマホをタップする

しかし

そこには勝ち誇ったようなヨンスクの声があった

「ユノ?なあに?」

その声を聞いた瞬間
ユノの心には後悔の念が溢れた

電話なんか…しなきゃよかった


「連絡が…入っていたから」

「昨日まではあたしからの着信があっても
掛けてくることなんて…なかったのにね」

「………」

「残念ね、思ったよりあなたは情けない男だったわ。もっと芯があるのかと思ってた」


「………そんなのがあったら、こんな仕事しないさ」


「真剣に誇りを持ってその仕事をしてる
アンタの同僚たちに失礼よ」

「俺はクズなんだよ、アンタも見抜けなかったな…こんな俺に車だなんだって…」

ユノの手が震えている

スマホの奥から、ヨンスクのため息が聞こえる

呆れたような…そのため息は
ユノを屈辱の底に突き落とすには十分だった

誰にカッコつけても…はじまらない…


「期待に添えなくて…それは悪かったと思ってる」

「えっ」

「注ぎ込んでくれたのにな…」

「ユノ…」

ヨンソクの声のトーンが下がった


「俺は…ただ…」

ユノの唇がワナワナと震えだす

込み上げてくる何かをユノは必死で堪えた


「ユノ…いくらくらいあの小娘に渡したの」

「全部だよ…どんだけバカなんだって話」

「ユノ…そんな…」

「急いでたんだ…早く…俺は…」

これ以上言葉を紡いだら、泣き出しそうだ


「あの…ユノ?」

ユノはスマホを切ると、その場に泣き崩れて、跪いた。


あまりにも自分が情けなく
その愚かさに、全身の力が抜け落ちた

骨ばったその大きな右手は泣き顔を覆い
左手は膝を掴んで震えていた


情けない…

俺は…どこまでバカだったんだ


夜、ピアノバーは何事もなかったようにオープンし、
チャンミンはいつもの通り、客のリクエストに応えてピアノを弾いていた

やがて、連絡が入りシウォンが動いていた

ユノは何の仕事をするでもなく、
ボーッとチャンミンのピアノを聞いていた


しばらくしてシウォンがユノの肩をポンポンと叩いた

「なんだ?」

「来たぞ」

「そうか、席は用意してある」

「いや、ヤバイ人物らしい」

「ヤバイ?」

「こっちから、行かなきゃならないってさ」

「は?」

「ホテルの一室を用意されてる」

「そんな、チャンミンをホテルの部屋なんかに行かせられるか」

「みんな一緒だよ。
俺もお前も、オンマも」

「?」


チャンミンを途中で切り上げさせて
3人で、タクシーに乗り込んだ


セシオンマはホテルでその人物と待っているという

ユノは警戒した。

何かあったら、チャンミンを守らなければならない


さっきまで、自分の情けなさに憂いていた気持ちが、少しだけシャンとなった

背筋を伸ばして、ユノはシートに座りなおした

「ユノ…」

チャンミンが不安そうにギュッとユノの手を握る

「大丈夫」

ユノは自分に言い聞かせるように言った。






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家路 19



「ユノ、今夜はピアノバーの方に来いよ」


シウォンからそんな連絡があった

「なんでだ?」

「懐かしのセシオンマが来るぜ」

「え?まさか…」


セシはユノとシウォンがこの街で悪さばかりしていた頃、この界隈では有名なバーのママだった。


いつもユノたちを叱ってくれ
そして、この街で生きやすいように導いてくれた恩人だ

もう、何年も前にどこかのお金持ちに見初められ、
この街から出て行った


ユノはセシに会いたくて
その日はチャンミンと連れ立ってピアノバーへ向かった

ユノはチャンミンにセシのことを楽しそうに話して聞かせた

「ユノたちのオンマ代わりってこと?」

「そう、すげぇ怖かったんだよ
俺はよく叱られてさ。
だけどあったかくて本当のオンマみたいで」

「へぇ、僕も挨拶したいな」

「ああ、俺の大事な恋人だって紹介するさ」

「ほんと?」

「当たり前だ」


開店前のバーに2人で入ると
そこにはシウォンとセシがすでにグラスを傾けていた

「オンマ!」

「え?ユノなの?!」

セシは驚いて、ユノの元へ来た

「やだ、アンタ、かっこよくなっちゃって
ちょっと意外だわ」

「なんだよ、ひでぇな」

「シウォンが店を何軒も持ってるなんて聞いてさ、お祝いがてら様子を見にきたのよ。
開店までちょっと飲みましょうよ、ね?」

セシがユノを席に連れて行こうとして
その後ろにいたチャンミンに気がついた

「?」

「あ、オンマ、俺のね、大事な恋人」

チャンミンが照れ臭そうに前に出てきて
ぺこりと頭を下げた

「目が見えないんだ。でもピアノが上手くてね、
ここで弾いてる」


「シム・チャンミンです。はじめまして」

「そうなの。あたしはセシ…」


顔を上げてにっこりと微笑んだチャンミンの顔を見て、セシが固まった



「オンマ、どうした?」

セシの様子にシウォンも3人のところへ来た

セシは唇がわなわなと震え
何か言いたげだ

「あなた…シムって…言った?」

「?…はい」


セシの目に涙が溜まっている

「あなたのお母さん…ミンス…
シム・ミンスじゃない?」

「え?あ、はい、そうですけど」

「あ…」

セシの瞳から、とうとう涙が溢れて流れ落ちた


「オンマ、どうしたの」

ユノとシウォンが涙ぐむセシに驚いた

この強気な人が泣くなんて、見たことがなかった

チャンミンの母親を知っているようで
一体どういうことなのだろう


チャンミンは何が起こっているのか理解出来ずに不安になり、ユノを探してその手を宙に泳がせる

ユノはチャンミンが心配しなくて済むように、その手を捕まえて握ってやった


セシがチャンミンに魅入られるように近づき、その頬に思わず触れて

チャンミンは突然触れられて驚き、後ずさりした

「あ…ごめんなさいね…驚かせちゃったわね…でも…あなた…お母さんにそっくりで」

「はぁ、僕の母をご存知ですか?」

「昔ね、このあたりで一緒に働いていて
とても仲良かったの」

「僕の母と友達だったんですね」

チャンミンの表情が少し安堵して柔らかくなった。

「今、ミンスはどうしてるの…」

「あ…えっと…」

「?」

「……亡くなりました…」

「え」

「あの…もう12年くらい前になります」

「亡くなったの…そう…なの」

セシはその場に崩れるように倒れた

「オンマ!」

ユノとシウォンが、セシを抱き起こし
ソファに寝かせた


「あ…すみません、僕。」

「ごめんなさいね。あなたは何も悪くないの。
謝ることないのよ」


セシはシウォンから水をもらって
少し落ち着きを見せた

それでもまだ泣いている

ユノがそっとセシの涙をふいてやる


「オンマ、チャンミンの母親を知ってるんだ。」

「ミンスは…この街で…売れっ子の踊り子さんでね」

その言葉にチャンミンが微笑んだ

「踊り子だとは聞いてましたけれど。
この街でだなんて。僕も今ここで働いていて、なにか縁があったのかな」


セシはチャンミンを懐かしそうに見つめる

「生き写しね…まるでミンスと話してるみたい」

「はぁ…」

「ミンス…妊娠してたって聞いたけど
あなたの事…産んだのね」

「僕…?」

「ミンスね…恋をしてたのよ…
あなた聞いてた?自分の父親のこと」

「あまり詳しくは…でも、素晴らしい人なのだ、と。
それは聞いてました」

「そう…」

「母は父親の事を悪く言ったことは
ありません…」

「そうなのね…」

「僕の…父親のことも…ご存知なのですか?」

「え、ええ…少しね」

チャンミンに問われると、セシは少し言いにくそうになった

「母からは父親は遠くにいて、会えないと聞いてました。
幼い僕に言い聞かせただけで、
今となってはいろんな事情があるのかな、とは思ってますけれど…
その…僕の父親は生きているのでしょうか」


「………」


セシは再び涙ぐんだ

「生きてるわよ。会いたいよね、会わせてあげようか」


ユノもシウォンも驚いてセシをみた

チャンミンも驚いた

「え、会っても…いいんですか?」

「ミンスが…あなたを産んでいたと
彼は知らないわ」

「そ、それじゃあ、僕は会ったらまずいのではないですか?
知らないんでしょう?」


「いえ、彼はねミンスを本当に愛してたのよ。あなたがいるって知ったら、きっと喜ぶわ」

「そう…でしょうか…」

「でもね、約束してほしいの。
あなたのお父さんを責めたりはしないで」

「……はい」

「あなたのお父さんは…生真面目でね、
ミンスを愛して、きちんと結婚しようと
いろいろ頑張ったんだけど…
まわりに反対されてね」

「それは…母が踊り子だったから?」

「そうね…夜の仕事をしてるってことで。
駆け落ちしようとしてね、私も片棒担いだんだけど、失敗して…別れさせられちゃったの…」

「そんな…ことが…」


シウォンとユノは黙ってセシの話を聞いていた

ユノがチャンミンの肩をそっと抱く

いきなり自分の父親のことを知って
動揺しているチャンミンを気遣った

シウォンがそこで口を挟んだ

「オンマ、会わせるって…なんていうか
確固たる証拠もなくて大丈夫か?」

「ミンスはあの時妊娠してたの
引き離されてゴタゴタして…私連絡がとれなくなって心配してたのよ。
ミンスが彼以外の子供を産むなんて、ありえない」

「だけどそれだけじゃ…
あなたの子供ですって、その人に言っていいものかどうか」

「僕…」

チャンミンが震える声で口を挟んだ

「僕…もし、できたら話がしてみたいです」

「チャンミン…」

「本当のお父さんかどうかは別にしても
僕の母を愛した人なら…」

「そうね、そういう風に会ってみようか」


そして、いつものようにバーは開店をして
賑やかに客が入ってきた

チャンミンは今夜も優しくピアノを奏でる

セシはカウンターからその姿を眺めて
また泣き始めた


いきなり聞かされた、ユノの知らないチャンミンの話

言われてみれば、親の話なんてしたことがなかった。
ユノからも自分の親の話はしたことがなかった。

セシの存在さえ話したことがなかった

すべてを知っているつもりになっていたけれど、意外にお互いのことなんて
何も知らない

そんなものかもしれない


ユノはピアノを弾くチャンミンの姿を
少しさみしい気持ちで眺めていた

ユノのスマホにはハナからのラインが入っている

なぜ、今夜は店に来ないのかと
連続で入っていた

金を預けたら、もうこれだ。

ユノを所有した気になっている

うんざりする気持ちを
チャンミンのピアノが癒してくれる

そんな夜だった





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家路 18



ユノが部屋に戻ると
ボランティアの青年が申し訳なさそうに
していた

「すみません。僕がなかなか気持ちを汲み取ってあげられなくて」

「いいんですよ。君のせいじゃない。
あとはやるんで。」

「はい。じゃ今日はこれで帰ります」


ボランティアが帰った後
キッチンが散らかっていて
レタスの切れ端が床に散らばっていた


ユノはまず、ソファに座って項垂れているチャンミンの元へ行った

「チャンミン、大丈夫か?」

チャンミンは俯いたまま、コクリと頷いた


ユノは安堵のため息をつくと
ソファの隣に座って、チャンミンの手を取った

「俺に何か作ってくれようとしたんだって?」

低くて優しいユノの声

「うん…相談したら、レタスは手でちぎった方が美味しいからそれにしたらって」

「あのボランティアの子が?」

「それにゆで卵を潰したのをマヨネーズでって」

「ああ、美味しそうだね」

「でも…」

「でも?」

「結局、ゆで卵はボランティアの子が茹でて…」

「うん」

「僕は潰すだけ」

「いいじゃないか」

「なんか…何にもできないんだなって」

「そんなことないよ」

「彼に悪いことしちゃったね
ボランティアの人、何も悪くないのに
僕、怒ったりして」

「大丈夫。彼はなんとも思ってない」

「申し訳なさそうにしてたでしょ?」

「気にしないでと言っておいたし」


「………ユノ」

「ん?」

チャンミンがユノの首に両腕を巻きつけてきた


ユノはそれを受け止めて
優しくその背中を撫でた


「ユノ、脱いで」


「え?」


あまりに唐突なチャンミンの言葉


戸惑うユノには構わず
チャンミンは手探りでユノの身体を下に触れていき、ベルトの位置を確かめるとそれを外そうとした

ユノはその手を掴んだ

「チャンミン?」

「いいから、脱いで」

「チャンミン、どうした?」

「脱いでよ、ユノ」

チャンミンは自分の手首を掴むユノの手を振りほどき、またベルトを探り当てて外そうとする

「わかった、脱ぐよ」

ユノはチャンミンを制して
自分のベルトを外した

「ベルトは取った」

するとチャンミンはユノのボトムスを脱がそうとして、腰にしがみついて来た

いつもの、ユノに抱かれようと待っているチャンミンではない

かなり強引にボトムスを脱がそうとするので、生地が切れてしまいそうだ

「チャンミン、どうした?」

ユノがチャンミンの両手を掴んだ

荒い息遣いで、チャンミンが興奮している


「僕だって…」

「……」

「僕だって…ユノを悦ばせることくらいできるよ…」

「え?」

「僕には…何もできないと思ってるでしょう?」


口淫を…しようとしているのか


「な…何言ってるんだ…」


ユノは狼狽えた

「僕だって…僕だって…」

そのうち、チャンミンの手からは力が抜けて、激しく泣き出してしまった


「チャンミン…」

「僕は…ユノのことなら…誰にも負けないのに…!」

「チャンミン…誰と争うって言うんだ
お前は…俺の…」

「ユノは!」

「……」

泣きじゃくりながら、チャンミンがユノに飛びついた

その勢いにユノは少しよろけながらも
チャンミンをしっかりと抱きしめた

チャンミンが震える声で、ユノの耳元で囁く


「ユノは…女の人の匂いがするんだ…」


その言葉を聞いて、ユノは心臓が止まりそうになった

「……」

「うっ…う…ずっと…前から…」

チャンミンは嗚咽をこらえながら
その全身から力がぬけていった


「あ…チャンミン…」

「ユノは…僕じゃない誰かを…抱いてる…うっ…うう…」

チャンミンが泣き崩れる


それを狼狽えながらも、ユノが支えてもう一度抱きしめた

「チャンミン…バカ言うな…」

ユノの瞳が泳ぐ


「僕が何もできないから?
僕の事が…イヤになった?」

あられもなく泣いている時でさえ、
チャンミンは透き通るように美しい


「俺…言っただろ…お前しかいないんだって…ついこの間言ったばかりだろ」

涙でグシャグシャになったチャンミンの髪を、ユノはもう顔にかからないように撫で付けてやった

「だって…うう…」


ユノは何度もチャンミンの顔にキスをする


傷つけたくない

チャンミンは何も悪くない

こんなに…愛してるんだ

お前には…わからないか…


ユノはたまらなくなってチャンミンを搔き抱いた

「何があったって…俺はお前だけ…忘れるなって…言っただろ…」

「うう…ユノ…」

チャンミンはユノの肩に顔を埋めて泣いた



静かな部屋のベッドの上で

チャンミンがぼんやりと座っている

ユノが玄関から、赤いピアノを持って来てベッドに乗った


「チャンミン」

「ん……」

消え入りそうな、小さな声


ユノは後ろからチャンミンを抱きしめて
チャンミンの手元にピアノを置いた

「……なに?」

「ピアノ」

「え」

「さっき、外で拾ってきた。
おもちゃの…子供が使うやつ」


項垂れていたチャンミンは
いきなり手元に置かれたそれを手でなぞった

硬い木の鍵盤を思わず押すと、ポロンとカサついた音がする

「あ…」

ユノがチャンミンの足の間にピアノを置き直し、後ろからその手を鍵盤に乗せてやる


「わかる?鍵盤」

チャンミンはそっとその鍵盤を撫でた

「うん…わかる…」

「チャンミン…」

ユノは後ろから、チャンミンの肩に甘えるように頭を乗せた

「チャンミン…俺に…何か弾いてくれ」

「え?これで?」

「ああ」

クスッとチャンミンが笑った

「鍵盤が全然足りないし…調律もなってないし…」

「わかってるよ、そんなこと」


ユノはチャンミンの肩に額をつけている


「だけど…頼む…お前に何か弾いてもらいたい」


「フフ…わかった…何か弾いてみるね」

おそらく、即行でチャンミンは何か綺麗なメロディを弾いてくれた


「お前…ピアノ…上手いなぁ」

「仕事…だからね」

「なんにもできないなんて…
そんなことないじゃないか…こんなにピアノが上手でさ」

ポロンポロンと、本当に綺麗なメロディをチャンミンは弾き続けた

しばらくして、チャンミンはピアノを弾くのをやめて、振り向いてユノに抱きついた

「終わり?」

ユノが優しくチャンミンを抱きしめる

「うん…今夜は…ごめんね、ユノ」

「………謝ることなんか…ない」


「もし、目が見えるようになったらね
なんでもしてあげるから」

「ああ」

「それまで…待ってて」

「きっと…もうすぐだよ」


ユノはチャンミンの顎に手を添えて
優しく口づけた





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家路 17




翌日、チャンミンの熱も下がり
それでもピアノバーは休ませることにした

ユノだけが仕事に出かける

ハナから投資の話をもう少し聞き出して
早いところここから足を洗いたい。

今日もそんな決意でユノは出勤した

いつものように客の入りは良く
けれど、ユノはシウォンと奥で話をしていた。

シウォンがホストクラブの方に顔を出すのはひさしぶりだ。

ふと

店内で女の金切り声が聞こえた


「なんだ?」

シウォンはチッと舌打ちをしながら

店内へ出る

ユノがそのあとをゆっくりと追った


フロアではソファに座り、般若のような面持ちのヨンスクに、
ハナが仁王立ちになって見下ろし、金切り声をあげていた

何人かのホストが必死に場を取り繕うとしていたが、ハナは落ち着く様子を見せない


ユノの心が…萎えて
それは深いため息となる

人前で…大声を出して、
なんの恥じらいもないというのか


けれどユノは仕事として

この2人のみっともない女のどちらかにつかねばならない

それは、仕事として

金と利益を考えて…動かねばならない

それは…仕事と…して…

そう決意して、ユノは大きなストライドでゆっくりとフロアに出て行った。

そしてハナの背後からその腰に手を回し
低い声で耳元で囁いた


「どうしたの、そんなに暴れて。
それは俺がフロアにいなかったからだと思っていいの?」


ハッとハナが振り向き
化粧が施された顔を向けた


そして、やがてその表情は勝ち誇ったような笑顔になる

「このご婦人がね、あなたはご自分のものだっておっしゃるの」

「俺が?」

ハナの肩越しにヨンスクを見ると

驚愕の表情でユノを睨みつけている


ユノは上から蔑むように、ヨンスクを見下ろした


「俺が…誰のだって?」


ヨンスクはユノのそんな表情をみて
呆れたようにため息をついて言った。


「愚かね…ユノ
あなたはもう少し、お利口さんなのかと思ってたわ」

ユノが一歩前へ進み出た

「知らなかったか?俺は愚かだよ」

口を真一文字に引き結び
切れ長の瞳が漆黒に輝く

濡れたオニキスのような黒い瞳が
悲しげに光る


「愚かだから…弱みにつけこまれて
あんたに医者のツテを餌みたいにぶら下げられて…」

「やめろ、ユノ」

後ろからシウォンがコソッと小さく囁いた

ユノは屈辱にまみれて
身体が震える

女のくだらない虚構の争いに
同じ土俵に乗ってしまった自分が恥ずかしい


それをシウォンが引き戻してくれた


愚かな…俺を…

ユノは下を向いてギュッと目をつぶり
情けない思いをやり過ごした


ほかのホストたちが場のムードを変えようと躍起になって盛り上げてくれた


煩いだけのバカ騒ぎの中
ハナがユノのそばに嬉々とした顔で寄ってきた

「ユノ、あたしね、あんたの弟を絶対ドイツに行かせてあげるからね?
全部あたしに任せて」

興奮気味のハナ
その香水の香りにむせそうだ

ユノが顔を上げた

また、目の前に最も欲しい餌をぶら下げられている

自覚はしている…

わかっているのに

だけど…抗えない


それはチャンミンに通じるものだから


ハナがユノに耳打ちする

「来週に新しい投資商品が出るの
まだ世間で発表になってないのよ
私も今回は久しぶりに勝負にでるわ
今週中に私の口座に少しずつ入金しといて」

「今週中にか…」

「無理なら、私がいくらか立て替えたっていいわよ。あなただって私のこと全面的に信頼してるわけじゃないだろうし」

そう言って、ハナはユノに口座の情報を教えた

その様子を若いホストに囲まれたヨンスクが見つめている


その瞳はユノを軽蔑し
そして憐れんでいた


なんて…バカな男


ヨンスクの瞳はそう言っていた


シウォンが今日は一旦帰って
明日から何事もなかったように出勤しろと
ユノを家に帰した

「チャンミンだって、今日は休んでるんだろ」

「ああ、悪いな。」

「いいさ。客の争いなんて日常茶飯事だから。ホストの醍醐味だよ」

そう言ってシウォンはニヤリと笑った


ユノは店を出て、1人街中を抜けて家に帰った

途中ピアノバーの前を通り過ぎてからは
ついこの前まで、チャンミンと一緒に連れ立って帰った道に入る


チャンミンが転ばないように
うまく角を曲がれるように

あの細い肩を支えながら
2人で今日あったことを笑いながら話す道

チャンミンもこの時間が一番好きなのだと言ってくれた

けれど

ユノはもっといい時間を持てると信じて疑わなかった。

チャンミンの瞳に光が戻れば

2人で同じものを見て笑い、驚き
ユノがどれだけチャンミンを愛しているか、言葉なんていらずに伝えられる
チャンミンがどんな愛しい視線でユノを見つめるのか…
そんなチャンミンを見てみたい


そんないい時間を持てると…
そう思った。


そのために魂を売ることを愚かだと言うなら

白杖を頼りに生きるチャンミンに何もしてやらないのが

賢いというのか


1人で歩くこの家路はとても遠く感じて
暗く寂しかった

チャンミンがいないということが
これほどまで寂しいなんて、なにか突然不安になり

ユノは一瞬ゾッとした


街から少し離れて
住宅がポツポツと見え始めたところで

ゴミ捨て場に赤色の小さな四角いものがある。
そこだけ鮮やかで目立っている

なんだろう

近寄ってみると、それはオモチャのピアノだった。

小さい頃、だれか女の子がこんなのを持っていたような気がする

もうレトロだと思われるくらいの
クラシックなデザイン

今はもう売っていないのではないか

赤い木製の、両手で持てるくらいの
グランドピアノの形をしたそれを

ユノは拾い上げた

捨てたばかりなのか、
古いけれど特によごれてはいない

試しに鍵盤を人差し指で叩いてみると
ポロンとどこか懐かしい音がした

ユノはその大きな手でざっと埃を払って
しばらくそのピアノを眺めていた

チャンミンに持って帰ろう

ユノはそう思った

今まで、どこかで何かをみつけて
たとえば似合いそうな服とか

けれど目が見えないチャンミンにとって
そういったものをプレゼントするのはかえって気持ちに負担がかかる気がして

いつもユノがチャンミンに買ってやるのは食べ物ばかりだった

「美味しい!」とにっこり笑うあの笑顔が見たくて…


今日はそのピアノを抱えて、ユノが歩き出した時、スマホが着信を知らせた


みると、チャンミンの世話をお願いしているボランティアの人からだった

何か緊急だろうか。

「もしもし」

「あ、すみません。お仕事中とはわかっていたんですが」

「大丈夫です、今夜はこれから帰宅します」

「それはよかったです、あの」

「なにかあったんですか」

電話の向こうでガタガタと音がしている

「いや、帰ってきてくださるなら
いいんです。少し癇癪を起こしてしまって」

「癇癪?チャンミンが?」


あの穏やかなチャンミンが…
癇癪を起こすということが上手くイメージできない

「チャンミンさんはあまりないんですけど
珍しいことではないんです。
やっぱり、あの、いろいろ思う通りにいかないと辛いんだと思います」

「はぁ…で、今はどうしているんですか」

「少しだけ落ち着いてきましたけれど…でも…」

「でも?」

「ユンホさんにご飯を作ると言って
その…まぁ…上手くできないので」

「俺に…飯を?」

「はい…」

「あ…とにかく…もうすく着くので」

「ありがとうございます」

ユノは赤いピアノを抱え直して
歩みを速めた




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家路 16



翌朝、ユノは暑さで目が覚めた
暖房をつけたまま眠ってしまったかと思うほどだった

ふと気づくと、隣に寝ているチャンミンが
汗びっしょりだ

様子をみていると、荒い息遣いをしている

熱があるんじゃないのか?

ユノは起き上がってチャンミンの額に手を当てると、
その熱さに驚いた

「チャンミン?」

「………」

ユノはチャンミンを抱き起こして
自分の胸に抱き直した

「チャンミン!大丈夫か?すごい熱だ…」


「ユノ…」


掠れた声でチャンミンがやっと声を出した


「チャンミン、熱がある。医者に行こう」

「おかえりなさい…ユノ」

ユノの腕の中で、チャンミンが笑った

「チャンミン…」

「医者は行かない。大丈夫」

「だけど…すごい熱だ」

「ほんとに大丈夫」

「大丈夫なわけない」


「ひとつだけ…ワガママ言っていい?」

「医者に行かないことがもうワガママだよ、チャンミン」


「ユノ…」

「なんだ?」


「今日一日だけ…一緒にいて?」


「……」

「ダメ?」


荒い息遣いのチャンミンが泣きそうな声でユノに問う

「今日は仕事休むから
ずっと一緒にいるよ…」

「うわー……ありがとう」

力なく…でも優しくチャンミンが微笑んだ


「そのかわり医者には行こう、な?」

「わかった」


チャンミンはそっとユノの顔に手を伸ばし
その存在を確かめるようにそっと触れた


しばらくチャンミンの好きなようにさせながら、ユノもじっとチャンミンを見つめた


久しぶりに…チャンミンをこの胸に抱いた


柔らかい髪…熱で上気しているピンクの頬


いつまでもこうしていたいけれど
医者に診せないといけない


ユノはチャンミンを着替えさせ
タクシーで医者に連れていった

とりあえず風邪だということで
薬をもらってすぐに家に帰ってきた


ユノは処方された解熱剤をチャンミンに飲ませて
ひとり買い物に行く準備をした


「何か食べたいものはないか?
フルーツを買ってこようか」

「うん…フルーツ食べたい」

熱のせいか、笑ってはいるけれど
声に力がない

ユノはパジャマに着替えたチャンミンに
カーディガンを羽織わせた

「暖かくして待ってろ、な?」

「わかった」


ユノは近所に買い物に出かけた

今日はこのままずっとチャンミンといられる

そう思うだけで、こんなにも気持ちが安らぐものなのか

夕方のスーパーは買い物客で混んでいる


それでもユノは、気分がよかった


こうしてチャンミンのために
何かをしている時間は幸せだ


チャンミンは何を食べたいだろうか
元気になるために、何を選ぼうか

ゆっくりと店内をめぐりながら
ユノの表情はとても柔らかだった


今の仕事がどれだけキツイか…思い知らされる時間でもあった


スーパーの袋をさげて夕暮れの帰り道を歩きながら

部屋で待つチャンミンを想うと
また泣きたくなってくる

自分はいったい何をしているのだろうかと、またそんな弱気になってくる


「おかえり」

チャンミンがヨロヨロと玄関まで迎えにきた

「あーもう寝てろって」


ユノはいろいろな食材を冷蔵庫にいれたり

フルーツを食べやすくカットして皿に乗せたりした。


言われたとおりベッドに潜りながら
チャンミンは 久しぶりのユノとの時間に嬉しい気持ちが込み上げてくる

抱き起こしてもらい、ユノの腕の中でフルーツを一口ずつ食べさせてもらう。

シャリっと冷たいりんごの味が
チャンミンの口の中に広がる


「美味しい…」

チャンミンが頭を傾けると
ユノの厚い胸にこめかみが当たった


「美味しいか?食べれるなら
たくさん食べておいたほうがいい」

「うん…」

ユノもひさしぶりにチャンミンを抱きしめて、たまらない気持ちになる

柔らかいクセ毛が、ユノの喉元をくすぐる

愛しくて可愛くて

ユノは何かがこみ上げてきて
抱きしめる腕に思わず力が入る


「少し、寝ないとな
熱さがらないぞ」

「今夜は休むってお店に連絡しなきゃ」

「俺が伝えてやるから」

「ユノは…仕事に行くの?
休んだら…だめ?」

「休むよ、心配するな
ひとりになんかしないから」

「…ありがとう…ごめんね?」

「謝ることない」


ユノは優しくチャンミンの髪を撫でた

「ユノが一緒にいてくれるなら
すぐ治るから」

「ああ」

やがて、薬が効いてきたのか
チャンミンはウトウトと眠ってしまった


ユノが誰かと話している声で
ふとチャンミンは目が覚めた

少し離れたところで、誰かに電話をしているようだ


ボソボソとユノの低い声が静かな部屋に響く

「今夜は行かれない。残念だけど」


残念?


ユノは仕事じゃなくどこか行きたいところがあったのだろうか

「弟が…熱を出して…大人だけど…うん」


弟?


チャンミンの心にその言葉が突き刺さった


電話の相手はシウォンではない

チャンミンを弟だと…そう言わなければいけない相手…


チャンミンは全身から力が抜けて行くような落ち込みを感じた


ユノは…

ユノは…

なるべく考えないようにしていた事実

もしかしてユノは…

誰かと…


チャンミンはかぶりを振った

そんな訳がない

ユノは心から僕を愛してくれている
それはよくわかっている

でも

チャンミンは毛布に包まって
じっとしていた

振り払っても振り払っても
良くない考えが頭の中に湧いてくる

ユノはかなりの時間を費やして
自分の面倒をみてくれている

果たして、自分はユノに何をしてあげているのだろうか。

もし、他に誰かいて
ユノの望むことをなんでもしてあげられる人だったら

ユノがそちらに傾いても、なにもおかしくない

姿形は自分にはわからないけれど
ユノは素晴らしい男性だ

そんな存在が何人いてもおかしくない


ぎゅーっと不安がチャンミンを襲う

心臓がドキドキしてくる


電話が終わったのか

ユノがチャンミンのベッドの側に来るのがわかった


急いで目を瞑ったチャンミンの額に
ユノがその骨ばった大きな手をあててくる

冷たくて気持ちがいいユノの手

その手がチャンミンの前髪を少しいじっていたかと思うと

額に少し風を感じたような気がして

次の瞬間、少し乾いたユノの唇が
額にチュッと触れた


チャンミンの心が

痛みに震える


大好きだよ

ユノが大好き


どうか僕から離れないで

ほかの誰かを好きになったりしないで






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家路 15




ユノはそれから、ヨンスクから乞われるがままにベッドを共にした。

自分の心をコントロールする術もどうにか身につけ、
とにかく医者とのツテを辿ることに、ユノは必死だった

けれど、ヨンスクは医者のツテがユノとの最後の切り札だということはよく知っていてか、
なかなかユノにそれを差し出すことはしなかった

まるでヨンスクの飼い犬のようになっているユノに、
ハナは面白くなく

まわりのホストからリサーチをかけながら
ユノを奪う手立てを目論んでいた

ヨンスクが店に姿を表すのが遅くなったある日、
ハナがユノを席につかせた

「お久しぶりですね、ハナ」

「そうよ、ユノはあのバァさんの飼い犬に成り下がってしまって」

「相変わらず、可愛い顔に似合わない言葉使いだな」

「だったら、ユノが私に指導してよ」

「俺が?」

「指導料なら払うわよ」

「俺は高いよ」

「お金じゃないもので支払うわ

「なんだよ、それ」

「いい医者を見つける方法よ」

「………」

ユノの顔が強張った

「わかる?いくらいいツテがあったってね
大統領クラスでもないと手術の順番なんて変えてくれないわよ。向こうだって名医なんだから。」

ユノはギュッと握り拳に力を込めた

「あんな田舎病院の院長のツテなんて
アテにできないのよ」

ユノは返す言葉が出てこない

「それにね、旦那が病院長ってだけで
そこの奥さんのホスト遊びに、その旦那が手助けすると思う?」


悔しいけれど、ハナの言葉はいちいち
すんなりと腹落ちする

納得せざるを得ないものがあった


「どうにか接触して、手術の順番を早めてもらうにはお金よ、ユノ」

「そんな金があるかよ」

「あたしはね、つい半年前まで
コンビニでバイトしながら生活してたの」

「えっ?」

今の華やかなハナからは想像つかない話だった。

「それがどうしてこんなに毎晩ホストクラブ通いができるようになったか
教えてあげてもいいわよ」

ユノはキッと唇を引きむすんで
ハナから顔を逸らした

美しいユノの横顔を
ハナはうっとりと眩しそうにみつめる

「ユノ、私はね、ヨンスクの婆さんみたいに、餌をぶら下げて、あなたをネチっこく飼おうだなんて思ってないわ」

ユノはギュッと目を瞑った

屈辱極まりない言葉だった

最近薄れ掛けていた、自尊心がまた痛み出す


「一度味見をしたらそれで十分
所詮、ホストと客だものね」

「………」

「でもね、ユノ。
どうしても、あなたと一度寝たいの。
私もそれなりにリスクがあることなのよ」

ユノは決心したように天井を仰ぐと
口角を片方だけ上げて微笑む、ユノの武器である笑みを見せた

「ハナは、夜遊びのルールが身についてきたようだな」

ハナの顔がパッと華やいだ

「じゃあ、いい子だって褒めて?
そして、ご褒美をちょうだい」

「……」

「あなたにとっても、利益のあることよ」


ハナは意味ありげに微笑んだ




シウォンは、ゆっくりとグラスを傾けた
ユノの話を聞き終わると、なんでもないように微笑んだ


「悪くないと思う。これ以上ヌナについていても、成果はないかもな。
ツテ…ま、ほんとにあるのかどうかわからないけど、持ってるカードを全部見せてしまったら、お前が逃げるとわかっているんだろ」

「………」

「ウワサでは、証券会社の重役を手玉に取ってるって
話もある。金の話もまんざら嘘でもないかもしれない」

「で、ハナとはもう寝たのか」

「今夜…これからだ」

「そこそこいいオンナなんだから
ラッキーと思えよ。
なんでそんな浮かない顔」

「…………」

「チャンミン…への罪悪感?」

シウォンが上目遣いに聞く

「わからない…」

「わからない?」

「俺は今、自分がなにをしてるのか
よくわからなくなった」

「ホストとしてはいい悩みだけどな」

「俺さ…」

「?」

「一度もイったことがない…ヌナと寝ても」

「マジか?」

「ああ、きっと今夜もそうだ」

「客は傷つくだろ」

「とりあえず、最後は俺がイかなくても
ちゃんと抱いて、客はイクんだからいいだろ」

ユノがイラついたような表情で笑う

「まあな。
なんか、お前、いいホストになったな」

「そう言われて喜べっていうのか?」

「今は、喜べ」

シウォンはユノの額を人差し指で小突いた



白み始めた明け方の街を

ユノは1人で家路に向かった

耳の奥に、まだハナの喘ぎ声が残っていて
ユノは吐き気を覚えた

ユノは路地に入って、排水溝に向かって少し吐こうとしたけれど、結局吐けなかった

腹の中に何も入ってないのだ、と思った



しかし

ユノは有益な情報を得た

ハナから投資の話を持ちかけられた
そろそろ次の波が来るのだという

前回の波でハナをここまでリッチにした
株価の大波がやってくるのだという

かなり貯まっている金額が一気に増えるチャンスだった。

もう少しだ…あともう少し

こんな思いも…あと…少し



チャンミンとこの道を喧騒の中
最後に歩いたのはいつだったろうか

このところ、またチャンミンは福祉事務所の人に世話になっている

ユノがほとんど家にいないせいだ

チャンミンは寂しさを隠して
無理に笑っているのをユノはわかっていた

その切ない笑顔をみていると
ユノは大声で泣きたくなってくる

ユノはふと、思う

もし、自分が女を抱いて稼いだ金で
仮にチャンミンの目が見えるようになったとしたら

俺は目が見えるようになったチャンミンの前にどんな顔をして立つのだろう

まっすぐにその瞳を見れるだろうか


朝焼けの空を仰ぐ


朝だというのに、黒いカラスが一羽
ピンク色の空を飛んでいる

きっとこの街の残骸を狙っているのだろう

あのカラスもきっと

巣には愛するパートナーがいて
この残骸からどうにかご馳走をみつけて
持ち帰ろうとしてるのかもしれない

余計なことは考えまい

俺はあのカラスと同じ

この街の残骸から
とびきりのご馳走をみつけて
チャンミンに持ち帰るんだ

その為なら
魔女だって抱いてやる


それでも家に帰って
ベッドでスヤスヤと眠るチャンミンをみていると

ユノはまたも泣きたくなってきた

シャワーを浴びて、そっとベッドに入り
後ろからチャンミンを抱きしめた

「ん…」と少し呻いたあと、
チャンミンはため息をついて、また眠った


チャンミン…

俺は、こうやってお前を抱きしめると
また息を吹き返すんだよ

さっきまで、俺は死んでいたんだ

心も魂も死んでいた

チャンミン…チャンミン


俺はお前のものだ

どうか俺を抱きしめてくれ

チャンミン…






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