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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

蒼い観覧車〜あとがき



百海です。

「蒼い観覧車」最後まで読んでいただきありがとうございました。

兎にも角にも、みなさまにはいろいろとお詫びをしないといけないことがたくさんありまして(^◇^;)

最後までアップの時間がズレ込むという
連載としては有るまじき状況…

お話の内容はともかくとして
そういう意味でもドキドキさせてしまいました

本当に申し訳ありませんでした

そして、そっとご指摘くださった皆様
ありがとうございました

ご指摘を受けなかったら、次の更新まで気づけなかったと思います。


また、たくさんの拍手ポチ、コメントをいただいていたのに、途中からお返事を放棄してしまい、本当に申し訳ありませんでした。

私自身が、みなさまのコメントを楽しみに、そして励みにしているのに、失礼極まりないことだったと思います。

それでも、コメントをくださって
本当にありがとうございました。

お返事を遠慮させていただいた事で
きっとコメントは減ってしまうだろうと寂しく覚悟していたのですが、そんなことはなくて、とても嬉しかったです。

「このお話はこういうことだね」というコメントに感激してなぜか涙し、雄叫びコメントに悦に入り、大ウケして涙し、レスポンスの速さにも感動しました。

コメント欄の方で思いを綴ってくださった方もいて
恐縮な気持ちになりながらも
お話を書いてよかったな、と思いました。


このお話の2人はいつもよりエッジの効いたキャラにしたくて

チャンミンの甘えっ子ぶりと、ユノのスパダリぶりをいつもの1.5倍くらいの味付けにしてみました

ユノについては、真面目でまっすぐな人柄なのに
愛情表現が少々セクシャルに傾きがちなキャラです。

愛おしい!と思うと、すぐにチャンミンを寝室に引っ張り込んで押し倒してしまうし
自分の指を甘噛みさせるというオレ様プレイもこなしていました。

ハッテンバでチャンミンの身代わりを探すという、
なかなかフィジカルなユノでした。

いかがだったでしょうか

それだけ愛して溺れたチャンミンを
ユノは命をかけて守ろうとしました。

2人の幸せに影を落とすスビンは
とても可哀想な子供時代を送り、大人に振り回され
それが人間性の基盤を作ることになってしまいました。

いつのまにか、心にできた潰瘍がスビン自身を覆い尽くし、狂気へと導いてしまいました。

チャンミンはというと、
高校生の頃から、スビンにほとんど洗脳されていて
自分の意志では動けなくなっていましたが
ユノを愛しはじめて変わりました。

必死でチャンミンを守ろうとするユノを
今度は自分が救おうとすることで、少しずつ自我が芽生え、強くなっていきます。

お話の軸は、クラゲのようにフラフラとしていたチャンミンが成長していく過程を描きたいと思いました。

最後はもう少し大人にさせるつもりでしたけれど
ユノはチャンミンをベタベタに甘やかしたいと思うので
結局甘えっ子ぶりはそのまま残しました(笑)


リアルな2人の明日コンも佳境ですね!
私も明日から福井です

この後、個人的には名古屋、東京、1月大阪と続きます!

コメントの中でこんな私に会いたいと書いていただいてとても嬉しいです!

よく、ほかのホミン作家さんたちが
フリーペーパー的な本を作られて
ライブの時にこっそり配ったなんて話を聞くと
とても羨ましいと思っていました

オフ会開かれている方もいらっしゃるようで
私も同じ趣味(?)のトンペンさんたちと
心ゆくまでホミンバナできたら、どれだけ楽しいかな、と思いますw

フリーペーパーなどは作ったことがないので
ちょっといろいろ調べてみようかな、などと考えています。

いつ実現できるか謎ですが(^◇^;)


次回はたぶんすごく可愛いお話になると思います
可愛いのはもちろんチャンミンなのですけどwww

だんだん寒くなってきました

明日コン真っ最中なので
みなさま体調には十分気をつけてくださいね

風邪も流行っています
すでにかかってしまった皆さんはどうかご自愛ください

それではまたお会いしましょう



最後にこのお話でコメントをくださった、お名前のわかる皆様。
お名前だけ呼ばせてください!10月25日18時現在
(順不同、コメントの非公開はお名前伏せてます。
拍手コメントは載せてます。ご希望あれば削除します )


meguさん☆ばんり☆さん えみんさん みやチャンさん
ラフランスさん gingeraleさん のんさん bubuichiさん
くみちゃんさん がまりあんさん michiponさん mako':さん まりおんさん みかんさん まりさん
子ヒゲさん けいりんさん chika♪ さん tuun07さん
bataさん hikoさん chi-koさん いつも有難うございますさん れいさん 鈴子さん あささん えみさん nonnonさん
ゆのうささん ふふふ。さん takaエムさん
dayan8210さん nyanyaさん ゆのっくまさん あひるさんみんみんぜみさん すえかさん Karenさん

そしてお名前はわからないけれど毎日拍手してくださった皆様ほんとに感謝しています。

皆さま、本当にありがとうございました!




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蒼い観覧車〜完





「あ、そのあたりね、高速沿いの遊園地に行く人で
夕方からは渋滞するから、迂回したほうがいいよ」

「そうですか、ありがとうございます」

ユサンがサービスエリアで掲示マップを眺めているところに、トラックの運転手がアドバイスしてくれた

ネットで迂回を調べてみても

蒼い観覧車の話題ばかりが検索に引っかかる


" プロポーズはあの蒼い観覧車で "

" 入隊する前に、あの観覧車に2人で乗ろう "


ユサンは微笑んだ

チャンミンさんがデザインした観覧車
すごい人気なのね…


ユサンは、ユノとチャンミンがレストランをオープンしたと聞き、そろそろ落ち着いた頃かと思って訪れた


思ったより行き方は簡単で
運転を習い始めたばかりのユサンでも1人で来れた


訪れたレストランはSNSで見たとおりの
素晴らしい店だった


アイビーが絡まる白い漆喰の壁

季節によって、外で食べてもいいし
中の内装も自然に溢れていてとてもいい

赤く塗られた木の門を開けて
チャンミンが出迎えてくれた

長身に白いシャツと黒いカフェエプロンが良く似合う


「いらっしゃい!」

「お久しぶりです」

「ちょうどランチが終わったところで
ユノも中で待ってます」


レンガと木で作られたその店の中に入ると

ユノが満面の笑顔で出てきた

日に焼けた男らしい顔立ちに
優しそうな瞳

店を手伝っていたのか
チャンミンと同じ白いシャツに黒いカフェエプロン


「いらっしゃい」

「オープンしたては混むかと思って
やっと来てみたんです」

「正解です」

そう言ってユノは笑った


「お2人のカッコ良さも、ネットで話題になってますよ」

「そうですか?」

チャンミンも照れ臭そうに笑った


ユサンは席に案内され
チャンミンが腕を振るった美味しい料理をご馳走になった

食後にコーヒーを持ってきたユノが気まずそうに話した


「あの…スビンは…どうですか?」

「ええ、順調だと思います
カウンセリングには本人から積極的に行くようになって
先生もいい傾向だと」

「そうですか、よかった」

ユノはホッとした表情だった

チャンミンがそんなユノの様子をみて安心したように微笑む


「外のガーデンも有名なんですよ?
ユノが手がけているんです」

「それは拝見したいです」

「どうぞ」

チャンミンがユサンを案内した


案内されたガーデンは
あえて整えず、ナチュラルに草花が咲いているように見えたけれど、かなり計算されているのだそう

ユサンとチャンミンはその中を2人で散歩した。


「今度はユノは薔薇をやりたいんだって」

「大変なんでしょ?薔薇って」

「うん、でも僕も手伝ってあげたいから
勉強中です」

「お2人は上手くいってるみたいですね」

「そうでもないですよ?」

「え?」

「いろいろあったんですよーもう!」

チャンミンが笑いながら
怒ったように頬を膨らませる


「どんなことが?」

「このガーデンはユノがやりたいってことで
それに手を貸したのが、遊園地の緑を担当してくれた人なんですけど」

「ええ」

「もう、それが、以前にユノとワケありだった男の子で…」

「あら、それは大変」

ユサンは笑った


「ユノも、チャンミンは俺を信じないとかなんとか
怒っちゃって」

「あらあら」

「結局は僕がユノを信じて正解だったんですけど
そこは気を使って欲しかったなぁなんて」

「ま、そうですよね」


「喧嘩することもありますけど
でも…ユノを失うよりいいって、結局そう思うんです」

「…私も…そう思います」

「僕たちはほんと、そう思いますよね」


「あの…チャンミンさん」

「はい?」

「私、あの時、後から気づいたんですけど」

「あ、もしかして…」

「チャンミンさんも?」

「…あの時の…ご夫婦?」

「そうです」

「僕も、後になって不思議だなって。
あの時は夢中でわからなかったんですけど
ひょっとしたら、亡くなったスビンのご両親だったのかなって」

「そう思うんです、私、確信したんです」

「写真かなにか、見ましたか?」

「ええ、でも、男性の方は声しかわからなくて。
スビンの話だとユノさんによく似てるって聞いてたんですけど」

「そうなんですか…僕もわからなかったな…」

「この間、法事があって、スビンのお母様の写真を拝見して、やっぱり私たちに声をかけてくれたあの方でした」

ユサンは少し涙声になった


「そう…」


チャンミンも涙ぐんだ

「あの時、僕、男の子なんだから泣くなって」

「叱られてましたね、フフ…」

「ご両親、自分の息子には
同じ道を歩ませたくなかったのかな」

「そうでしょうね、きっと。
お父様はユノさんもスビンも救いたかっただろうし」

「あの時、あのご夫婦が声をかけてくれなかったら」

「ほんと…」



ユノがガーデンを散歩する2人に
声をかけた

「もう一杯コーヒーどうですか?
チャンミンが焼いたタルトがあるんです」

「いいんですか?嬉しい。いただきます!」

ユサンはまた店内に戻ってコーヒーとタルトをご馳走になった。


「すっごく美味しい」

「でしょう?」

ユノが自慢気に笑った

「ウチのチャンミンは最高なんです」

「いろいろとご馳走さま」


ユノが穏やかに言う

「いつか…その…スビンと来てください」

「はい、私、スビンをずっと見守ります
もう少し時間はかかるかもしれませんけれど
いつか必ず2人で来ます」


チャンミンが優しく微笑んだ

「となりの観覧車に2人で乗って
頂上でキスしてください」

「え?ああ、伝説ですね!」

「はい、そうすれば2人は永遠に離れません」

「是非!」

穏やかな時間が流れた


「ここでウェディングパーティをしたら
とてもいいと思います」

ユノの表情が明るくなった

「そう思いますか?よかった。
実は来月、元嫁の妹がここでガーデンウェディングをするんです。」

「素敵ですね!」

「はじめてなので、ちょっと力入ってます」



失いたくないと思った愛

手離したくないと思った幸せ

あの時、私とチャンミンさんは
泣きながら走ったのだ


愛する人を
絶対失いたくなくて、必死で。


だから、今ここに笑顔があるのだろう


「私、遅くならないうちに帰りますね」

「あ、今の時間、高速混んでるんですよ、
もう少し先から乗るといいので、俺達が誘導します」

「いいんですか?」

「今日はディナーは閉店します」

申し訳なく思いながらも、
ユサンは2人の軽トラックに誘導されて、店を後にした


チャンミンは助手席でのんびりと外を眺めた

山あいの中に、蒼い観覧車が見える


離れたくない恋人たちが
こぞってあの観覧車に乗りに来る

伝説を作ったのは、僕とユノ


これからも

何があっても

離れない

一番乗りだったんだからね、僕たちは


「何うれしそうな顔してるんだ?」

「うれしそう?」

「ああ、キスしたくなる」


そう聞いて、チャンミンはニッコリと微笑み
運転するユノの頬にキスをした


「あー危ないなぁ、チャンミン
運転してるのにダメだろ」

「自分が手を出せないから
ダメだろ、でしょう?」

「わかってんのか、じゃあ尚更ダメだな」

ユノは笑った

チャンミンも笑った


車は抜け道を通るために
少し街中に入った


ユサンを見失わないように
バックミラーを確認しながら運転するユノが本当にカッコいい。


「せっかく街まで出て来たから、
後で買い物でもする?」

「うん!」


その時、
車の窓の外に何かが飛んでいるのが見えた


それは、風に煽られ

街の中を舞うビニールの袋だった


海の中を意志を持たずに漂うクラゲのようなそれ


かつては、自分も同じような存在だと
憂いたこともあった。


でも


今は違う



しっかりと自分の意志で生きていると
実感している

ユノに甘えることはたくさんあっても

何かあれば、ユノを守ることもできる


チャンミンはそんな今の自分が
好きだった








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長い間、お付き合いいただきまして
本当にありがとうございました

明日はあとがきになります。
よろしかったら遊びにきてくださいね

最終回に20時アップし損ねて申し訳ありません(汗)

百海

蒼い観覧車 39




チャンミンは配達先が岬である事を知ると
いてもたってもいられなかった。

要望欄には「キャンプをしているのでそこへ届けてほしい」とある。

誰が立ち入り禁止区域でキャンプをすると言うのだ。


スビンしか考えられない…


配達はチャンミンの仕事なのに
代わりに自分が行くと言ったユノ。

ユノが1人でスビンと対峙しようといているに違いない。


" お前と会えて…
俺の人生って素晴らしいんだって思えた "


" 覚えておいてほしい。俺、すごく幸せだ "


" 俺はずっとお前と一緒だ…"


ユノ…

いつも…あなたはそうやって…

自分が盾になろうとする…


不安で、恐ろしくて涙が出る。

こんな泣き虫を置いてどこかへ行かれないと
あなたは言ってた。

だから、ひとりで勝手にどこかへ行くなんて
許さないから。


チャンミンはユサンに連絡をとった。

スビンの居所がわかったら教えてほしいと
さっき話したばかりで連絡先を聞いていた。


「チャンミンさん?」

「ユサンさん、どこにいるの?」

「まだ…電車が来なくて、そのまま駅にいるんです」

「スビンの居場所がわかったかもしれない」

「え…」

「どうしますか?!」

「行きます!」

「迎えに行きたいんですけど、トラックがないんです」

「私がタクシーで行きます」

「お願いします!待ってますから」


しかし…時間がたってもユサンは来ない。

そのうち、ユサンから連絡が来た。


「チャンミンさん、タクシーがなかなか来なくて。
先に駅に来たバスに乗ってます。これどこまで行くのでしょう?」

「あ、それは…ウチの農園までも来ないんです。
どうしようかな…じゃあ、僕、自転車でバス亭まで行きます!それで僕の自転車で」

「はい!」




足をかけた柵が崩れてユノがバランスを崩した。

一瞬、咄嗟にスビンがユノの腕を支えた。

その腕を少し驚いたようにユノが見つめる。


「ユノは父親似だね」

スビンがつぶやいた

「父はね、母と一緒にここから飛び降りたんだよ」

「え……」

「嫉妬に狂った母が、君たちにもう悪さをしないように」

「まさか…」

「父は、前の晩、僕に詫びをいれた。
許してくれと」

「……」

「今のユノも同じだ…チャンミンのために…」

「………」


「誰かに…自分のしていることを止めてほしい…
きっとその時の母も…僕と同じだったんだな…」


ユノはギュッと目を閉じて、スビンの腕を掴み直した

そんなユノをスビンが縋るように見つめる

「ユノ、僕を抹消してくれ…頼む…」




「ユサンさん!!」

チャンミンが古ぼけた自転車でバス亭までたどり着いた

バス亭にはユサンが不安そうに立っていた。


「チャンミンさん、連絡ありがとうございます」

ユサンは頭を下げた。

「スビンはたぶん岬にいます!ユノと一緒に!」

「岬?あのご両親が亡くなったところ?」

「そうです。すみませんけど、こんな自転車しかなくて
とりあえず、後ろに乗ってください」

「あ、はい」


チャンミンはボロボロの自転車の後ろにユサンを乗せて
とりあえず走り出した。


「チャンミンさん、走ったほうが速そう」

「とても走れるような距離ではないんですよ」


ユノ…間に合わなかったら…


その時だった。

後ろからエンジンの音がする。

振り向くと、一台の乗用車が農道をこちらに走ってくる

黄金のススキたちが、その車をいざなうように揺れていた。


「あ…」

チャンミンとユサンは自転車を降り捨て
その車に向かって大きく手を振った。


「たすけてください!」

「止まってください!」


車は手を振り乱す2人の横に止まった。


「あの!」

駆け寄るチャンミンに
助手席の窓が開いて、年配の女性が叫んだ。


「早く乗りなさい!間に合わないわよ!」

「え?あ…ありがとうございます!」


チャンミンとユサンは
後部座席に乗り込んだ

女性の夫だと思われる男性が運転席から2人に声をかけた

「岬だね、スピード出すからベルト締めて」

「はい!ありがとうございます」



どこまでも続く黄金のススキ

ガタガタと農道を車が行く


チャンミンがふと窓の外を見ると
遠くに蒼い観覧車が見えた

ユノ…

チャンミンの目には涙が溢れて
観覧車が滲んで見える

2人であの観覧車に乗って誓ったんだ

絶対離れないって

頂上でキスした2人は離れない

伝説を作ったんだよ?

そうだよね…ユノ…


「泣かないの、男の子でしょう?」

不意に助手席の女性に言われて
チャンミンは驚いた

「あ…はい…すみません…」


その時

なぜ

不思議に思わなかったのだろう


この夫婦が僕たちが慌てている事をなぜ知っていたのか

岬へ急がなければならなかったことを
一言も話していないのに、なぜ知っていたのか


そして、なぜあのタイミングで来てくれて
僕たちを乗せてくれたのか…


その時はまったく不思議に思わなかった



やがて、車は岬の入り口に着いた


運転席の男性が言った。

「ここで降りなさい。
私たちはここから先へ行かれない」


「はい!ありがとうございます!」

僕とユサンは
転げ落ちるようにして車から降り

走った


岬の入り口には、立ち入り禁止のロープが外されて
隅に丸められているのが見えた

怖かった…

ユサンが先に岬の中へ走って行く。

あ…


僕たちの視界に飛び込んできたのは

大海原をバックに

ユノとスビンが
向かい合って、互いの腕を取り合っている図だった


「ユノ!!!!!」

「スビン!!!!」


僕たちの半狂乱の叫び声は

波の音と風の音に流されて、2人に届かない


走った


大声を出しながら走った


僕の声が大きな泣き声となって
空にこだまするころ


やっとユノが僕を見た
ハッと何かに気づき、正気に戻ったかに見えた


スビンも振り向いた

あのスビンが泣いている


「ユノ!!!!」

「スビン!!!!」


ユノとスビンがあっけにとられたように
こちらを見ていた


バカ!!!!!


僕はユノに対する怒りがこみ上げて来た


その時、走るユサンが足元の小石につまずき
激しく転んだ


それを機に、スビンとユノがこちらに走って来た

ユノの足元から小石が海に落ちるのを見て
僕はゾッとして気を失いそうになった。


スビンがユサンに駆け寄ると
ユサンが転んだまま、大声をあげた

「スビンのバカ!!!」


ユノは立ちすくむ僕のところへ来た


「チャンミン…」


愛おしい…僕のユノ…


「バカ!!!!ユノのバカ!!!」

僕はげんこつを振りかざし大泣きしながら
ユノに向かっていった

「バカ!バカ!なんで僕を置いていくんだよぉっ!!」

「あ……」

ユノの目から涙が溢れていた

僕はユノの肩から胸から
力まかせに叩きまくった


「離れないって言ったじゃかないかっ!!!」

「チャンミン…」

「うううう…うう…バカ…」


僕は…泣き崩れた



岬には夕陽が沈もうとしていた

涙の音とススキの揺れる音

転んだまま泣き崩れるユサンと棒立ちになっているスビン

僕の泣き声


この世界には

僕たちしか存在してないのかと
そんな錯覚を起こすような

現実離れした景色だった







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こんばんは、百海です
明日は最終回となります

蒼い観覧車 38




ユノは岬の入り口まで来ると、
トラックを停めて外へ出た。


案の定


岬の入り口には、一台の乗用車が停まっていて
ボンネットに寄りかかるようにしてスビンが立っていた


すっかり痩せてしまったスビンが
ユノに気づいて手を振った

げっそりと痩せたスビンは
微笑む様子が狂気じみていて恐ろしい


ユノはそれには応えず

スビンを睨みつけるように見据えて
ニコリともせずスビンの元へゆっくりと歩いていった

立ち入り禁止であるはずのエリアなのに
人の侵入を阻むものは何もなかった


ユノは堂々と歩いて行った

姿勢のいい体躯

陽に焼けた肌は凛々しい顔立ちに精悍さを加える

ともすれば冷たい怖さもあるその表情は
チャンミンを視界に捉えることで破顔する

すべてを包み込むようなその優しい視線が

今は、スビンを射るように見つめる


ユノはスビンの手前で歩みを止めた


「なんだユノか、チャンミンが来ると思ったよ」

スビンはニコニコとしていたけれど
その目はどこを見ているか定まらない

それは狂気を孕んで鈍く光る


「チャンミンが来たら、なんだ?」

「チャンミンに用があってね」

「何の用だ」

「ストレスの多い毎日だろうと思ってね」

「前置きはいいから、用件を言え」

「なんだよ、お宅は客に向かってずいぶんだね。
野菜を買ってやったのに」

「それなら持って来たから、さっさと帰るんだな」

「おいおい、上客だよ」

「断る」

「ずいぶんだね」

「お前は、今や犯罪者だ。
犯罪者に売る野菜はない」


「ほぅ、いったいどんな犯罪を犯したって言うんだ
僕が何か手を下した事件でも?」

「手を汚さずに何かを仕組んだと
自分で言ってるようなものだな」

「なんのことだか」

スビンはソッポを向いた


「スビン」

「………」

「ずいぶん痩せたな、どうした?」

「………」

「常に俺たちの事を考えてばかりで
お前も疲れてるみたいだな」

「君たちの事を考えると気分がいいんだ」


「…望みはなんだ?」


「もっと気分がよくなりたいね」


「……悪魔に成り下がったか」


「アハハハハ…悪魔だって」

スビンは笑いながら、岬の先へ歩き出した

ユノは少し考えて、その後を追った


「スビン、そっちは危ない」


スビンは柵まで歩いて行き、振り返った


「知ってるよ」


「………」

「君とあの妾を憎みながら、僕がチャンミンを道連れにここから飛び降りるって計算だったんだけどね」

ユノはゾッとした


「チャンミンが言うことを聞いてくれるように、
それなりの薬物も用意してる」


ユノの拳が震える


「ユノは一生苦しむだろ」

「………」


「シナリオは変えない。
これからもチャンミンが悪魔に連れ去られないように
ストレスの多い毎日を送るんだな」


「………チャンミンと一緒に死にたいのか」



「死んでも死にきれないほど君が憎いからね。
君を苦しめるにはチャンミンを痛めつけるのが一番だ」

「………」


「君の影で僕がどんなに辛かったか
一生かけて思い知るといい。」


「この場所を死に場所にするのは
両親が死んだ場所だから?」


「………そうかもしれないね」


スビンは岬の向こうの海を眺める


「………」


「僕はチャンミンと死んで、ユノ、君の中にずっと生き続ける」

「………」


「悪魔としてね」

勝ち誇ったようにスビンは微笑んだ


ユノは柵のところにいるスビンに詰め寄った


「チャンミンを道連れになんか、させない」


スビンは笑った


ユノの目にはそんな悪魔の笑みは映らなかった


ユノの耳には、波の音と共にチャンミンの甘い声が聞こえる

甘えた声
拗ねた声
明るくはしゃぐ声
ユノに翻弄され甘く喘ぐ声

愛おしい…

ユノの心に浮かぶのは

チャンミンのクリクリとした大きな瞳

可愛い笑顔

ユノを慕う、その縋るような表情


" 大好きだよ、ユノ "

" ずっと一緒にいようね "


「ユノ…僕を突き落とすか?
君にはそれはできないよ」

「………」

スビンは尚も、勝ち誇った笑みのままだ

「やれるならやってみたらどうだ?
罪の意識で一生苦しめばいい」

「………」

こんな状況にも変わらぬ不敵な表情


「僕はね、君が苦しむなら
自分が死ぬことなんて、なんてことない
突き落としてくれて、構わないよ」


「………」


「フフフ…でも、ユノ、君は人殺しはできない
僕とチャンミンが心中したら、その後一生苦しめ」


「よく…わかるね、スビン」

「……」

「俺は人殺しはできない、お前とは違う」


ユノはゆっくりとスビンを柵に追い詰めるけれど
スビンはなんてことない表情だ


「俺は人殺しはできないけれど…
ここからお前と一緒に飛び降りることはできる」


そこではじめて、
スビンが狼狽える表情をみせた

「な…なに…を」


はじめて見る、スビンの怯え


「俺と飛び降りようか、スビン」


「なっ…」



「俺さ、チャンミンと2人で蒼い観覧車に乗ったんだ」

「あ、蒼い…観覧車?」

「チャンミンの夢だったんだよ
俺と2人であの蒼い観覧車に乗るのがね」

「それが…なんだ…」

「チャンミンの夢を叶えてやったから
俺はもういいんだ」

「…意味が…」

「俺の夢は…これからチャンミンが実現してくれる
一生懸命…俺のために」


スビンが後ずさりすると

ユノが一歩前に進む


「俺の夢をチャンミンが叶えてくれるんだよ
こんな幸せ…ないだろ」


「………」


「お前がいくら俺の不幸を望んでも
俺はチャンミンがいるから幸せなんだ」

ユノは微笑んだ

「俺からチャンミンを奪うことなんて
誰にもできない」

ユノはスビンの腕を掴んだ


「さあ、潔く行こう」

「ユノが俺なんかと死ねるわけない!」

「兄弟なんだからさ、それも悪くない」

「兄弟…?」

「前に話しただろ、俺はヒョンニムが欲しかったんだよ」

「………」


「だから、俺たち2人で飛び降りるのも悪くない」


ユノが歩を進めると、スビンがもう一歩後ろにさがり
今まで見たことのないような怯えた表情になった。


ユノのチャンミンに対する愛情は
スビンの想像をはるかに超えていた


「馬鹿じゃないのか…ユノ…」

「さあ、スビン」


ユノがスビンの腕を掴むと
スビンがバランスを崩し、柵の鉄棒が一本崩れた


スビンの足元から小石がいくつか海に落ちる


ユノの瞳は…なにを見ているのだろうか

今、こんな崖から飛び降りようとしているのに
なぜ微笑む


「僕と…飛び降りるなんて…」


ユノはスビンの理解を超えた
はじめての人間かもしれない


ユノがスビンの腕を掴んだまま、
崩れた柵に足をかけた


「下は見るなよ」

そう言ってユノは微笑んだ






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蒼い観覧車 37




ユノはバイクで家に戻った

「チャンミン?」


いつもの「おかえりー!」という明るい声が聞こえない


「チャンミン…」


ユノは仕事部屋に入ったけれど
チャンミンはいない

ダイニングに戻り、シンクを覗くと
マグカップが2つ置いてある


だれか…来たのか…

まさか…


ユノは不安になった

「チャンミン!」

納屋を探して、農園を見に行こうとしたその時
ユノの軽トラが無いことに気づいた

どういうことだ

チャンミンは誰かと軽トラでどこかへ行ったのか

ユノの想像は悪い方へ悪い方へと傾いていく

その時

エンジンの音がして振り向くと
農場の向こうから、ユノの軽トラが戻ってきた


チャンミン…


ユノは棒立ちになった


全身から緊張が一気に解けていく



チャンミンが不思議そうな顔をして
軽トラから降りてきた

「ユノお帰り。どうしたの?」

「チャンミン…」

「ん?」

ユノはチャンミンに走り寄ると、
いきなりチャンミンを抱きしめた

「ちょっ!」

「チャンミン!チャンミン…」

「どうしたの?ユノ」


「お前が…帰ってこないかと思った…」


「え?」


「このまま、帰ってこないかと思った…」


「ユノ…」


チャンミンもユノを抱きしめた


「僕は…絶対に帰ってくるから
心配しないで…ね?ユノ」


うんうんと頷きながらユノはチャンミンを
強く抱きしめた。


もう、こんなことはやめにしよう

こんな毎日はたくさんだ


ユノはチャンミンを搔き抱いた


2人は肩を抱き合い、キスをしながら家に入った

ユノの性急で激しいキスに
いかにユノが不安だったがわかり、チャンミンは胸が熱くなった。

もうこんな不安な毎日はやめにしたい

チャンミンはユノのキスを受け止めながら強く思う


仕事中だというのに、ユノはチャンミンを寝室に引っ張り込み、着ていたTシャツを脱ぎ捨てる

陽に焼けた二の腕が更にユノの男らしさを強調して
チャンミンは心奪われる

もう数え切れないくらい
自分はユノに心を奪われている、と思った

ユノとの行為に慣れる、ということがない

毎回ドキドキさせられて溺れる

この綺麗な人に惹かれたのは
心が先か、この行為が先かはわからないのが本音。

けれど今は…

チャンミンの服を脱がせようとする
その雄の瞳に思う

あなたの夢に存在したいと思うほどに
あなたの人生の中心になりたいと思うほどに

ユノそのものを深く愛している

その強さも弱さもすべてひっくるめて愛している


熱く抱かれて

それはユノの不安を表していた

チャンミンを離したくないという気持ち
チャンミンと離れたくないという気持ち

それはチャンミンの悦びとなって
全身を電流のように駆け巡る


秋の陽は午後を示す

「ユノ…仕事しないといけないのに…」

チャンミンがベッドの中でクスクスと笑う

「そうなんだけどさぁ」

ユノが身体を反転させて
チャンミンの上に乗る

上からチャンミンを見下ろすユノの瞳がとても綺麗だ

ユノは自分の人差し指をそっとチャンミンの唇に挟む
チャンミンはそれを受け止めてそっと前歯で噛む

「チャンミン…」

「ん…」

ユノの指で上手く話せないチャンミン

午後の柔らかい日差しがユノの顔に陰影を作る
ユノの瞳が優しい


「俺…あまり幸せだと思ったことがなくてさ…」

「………」

「でも…お前と会えて…俺の人生って素晴らしいんだって思えた」

「………」

「覚えておいてほしい。俺、すごく幸せだ」

チャンミンの瞳が泳ぐ


「俺はずっとお前と一緒だ…」


ユノの切れ長の瞳が優しく細められて
柔らかく微笑む


あまりの美しさに
チャンミンは怖くなった


「………」


しばらくユノの顔を見つめていたチャンミンは
ユノを押しのけて、ベッドから起き上がった


「なんで?」

チャンミンの声が涙ぐむ


「なんで…そんなこと言うの?」


ユノはもう一度ベッドに座ってチャンミンを抱きしめた


「なんでこんなこと言うかって?」

「………」

ユノがそっとチャンミンの髪を撫でる


「言いたいことは言っておかないと
後で後悔するのはイヤだからだよ」


「そんなさ…」

ユノがチャンミンの背中をトントンとあやすように叩いている


「そんな…会えなくなるみたいな言い方…しないでよ」


「バカだなぁ、俺がお前から離れるわけない」

「ほんと?」


ユノがチャンミンを離すと
2人は向き合った


涙に濡れた大きな瞳


「こんな泣き虫を置いて、どこかに行くわけないだろ」


「……」


「俺はお前とずっと一緒だって、今言ったばかりだろ」


「………」


「な?」


ユノの笑顔がどこか儚く見えてチャンミンは怖かった


「さ、仕事行ってくる」


ユノはベッドから立ち上がって服を着た

チャンミンはその様子を見ていたけれど
思い立って自分もジーンズとシャツを羽織った


「ん?チャンミンもどこか出かけるのか?」

「お見送り」

「え?」

「仕事に行くユノをお見送りするんだよ」

ユノは笑った

「そうか、嬉しいね
やっぱり一緒に暮らして良かった」


ユノは野菜をダンボールに入れると
それを軽トラに乗せた

チャンミンはずっとユノの後を付いて
ユノがやることを見ていた

積み終わると、ユノはトラックのエンジンをかけた


そして、チャンミンのところまで来ると

その頬を両手で挟んでそっとキスをした


「じゃあね、チャンミン
行ってきます」


「行って…らっしゃい…」


「早く帰るから、今夜はシチューにして。
あーやっぱりカボチャのポタージュ、あれがいい」

「ん…わかった」


ユノは運転席に乗り込む時
もう一度チャンミンを見て微笑んだ

その笑顔が

なぜか…もう2度と見れなくなる気がして
チャンミンは焦った


「ユノ?」


ユノはトラックに乗り込むと
ホーンを鳴らした


その音にチャンミンはビクッとした


あ…

ユノ…


遠くなるエンジン音の代わりに
農道沿いの草木が風でカサカサと音を立て始めた

それはやがて大きくなり

チャンミンの不安は大きくなっていった


ダメだ…

ダメだよ…ユノ…行っちゃダメ


チャンミンは走り出した

羽織ったシャツが風を含み、まわりの草木に合わせて
風になびく


「ユノォォォーーーー!!」


チャンミンの甘い叫び声が風にかき消される

走るチャンミンのその涙も

風になびいて、チャンミンの耳に入る


誰もいない農道をひたすら走るチャンミンを


両脇に茂る黄金色のススキが
道案内をするように揺れる


ユノ!!!!

行っちゃダメだ!!!!


嗚咽が込み上げて、涙が溢れる


やがてチャンミンは立ち止まった

はぁはぁと自分の荒い息遣いだけが
耳に響き渡る


ユノ…

僕が…スビンに土下座すれはいいのか

どうしたらこの恐怖から逃れられる?

ユノを失う恐怖に比べたら

僕は全身にタトゥーを入れたって構わない


チャンミンはスビンに連絡を取ろうと家に戻った


僕が決着をつけたらいい

ユノには手を出させない


家に戻ったチャンミンは
パソコンをつけた

チャンミンのスマホからは
スビンの連絡先を除いてしまった

パソコンには通知が来ていた
それは、野菜の配達の注文だ

ユノはなぜ僕に通知をよこさなかったのか

なにげなく、それを、開いて場所を見た

これは…岬のあたりか



まさか

あの岬…


チャンミンはハッとした

ユノ


どうしよう…

どうしたらいい…







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蒼い観覧車 36




チャンミンはスビンの妻を名乗るユサンを家に入れた。

憔悴しきった感じのユサンはチャンミンに勧められダイニングの椅子に座る。

チャンミンはコーヒーを淹れながら
いろいろな事を考えた


この人は…スビンを探してこんな田舎まで来たのか

スビンは夫人のことを小馬鹿にしたような言い方をしていたけれど、
ユサンはスビンがいなくなって、悲しんでいるように見える

夫婦関係については…よくわからないけれど…


「コーヒーでいいですか?」

「あ、はい、すみません、忙しいのに」

「いえ、どうぞ」

チャンミンはマグカップを2つテーブルに置いた


「ここがなぜわかったのですか?」

「スビンの机に…ここの地図が」


チャンミンはそれを聞いて震えた

やはりユノの農園に薬品を撒いたり
自分の部屋に火をつけたのは、スビンなのか


「あの、チャンミンさん…ですよね」

「はい」

「あなたの名前が…その…スビンの足首に…」

「……」

「すみません…スビンは何も教えてくれなくて」

「そうですか…でも、その理由はスビンに聞いたほうがいいですね。僕からは何も話すことはありません」

「そう…ですよね」

「いなくなったって事ですけど、いつから?」

「1週間くらい経ちます」

「心当たりが、僕のところに?」

「ユノさんが何か知ってるのかと」

「なぜユノが?」

「えっと…その…兄弟だから」

「あの……兄弟って言っても…」

「ええ、そうなんですけれど、でも…」

「………」

「ネットの履歴を見たら、この辺りのホテルを一度予約した形跡もあって…」

「駅の近く?ずいぶん離れてますけど」

「ちょっと不安になって…」

「…どんな…ことが?」

「その…スビンのご両親がこの辺りで亡くなっているんです」

「事故で…ですよね」

「……ええ」

「あ……」

「はい?」

「いや、なんでもないです。
あ、あのユサンさん」

「はい」

「どういう状況でご両親が亡くなったかご存知ですか?
僕、そのあたりをよく知らないんです」

「スビンから聞いた話ですけれど、
岬の立ち入り禁止区域に夫婦で入ったらしく…」

「立ち入り禁止?」

「ええ、詳しくはわかりませんけれど」

「僕は…ご両親が亡くなられた時、スビンと一緒にいたんですけれど、なんていうか…そんなに驚いてなかったんです。
ご存知だと思いますけど、なにせああいう落ち着いた人だから」

「チャンミンさんがおっしゃりたいことは、わかります」

「………」

「スビンがご両親を殺害したなんて…
そんな恐ろしいことはありません」

「僕は…」

「すみません…そう思われてますよね。
今、彼が何に執着して苦しんでいるかも、わかっています」

「苦しむ?」

「彼の執着は病だと、私は思っています」

「失礼ですが、苦しめられているのは
ユノですよ。」

「………」

「スビンが何をしたかご存知なら
被害者は誰だか、わかりませんか?」

「………」

「今、あなたから、スビンの行方がわからないと聞いて
僕はとても恐怖です」

黙っていたユサンは、嗚咽に耐え
静かに泣いていた

チャンミンはため息をついた

この人は何しに来たのだろう

スビンを庇いに来たのか?


「それでも…私はスビンを愛しています」

「………」

「チャンミンさん、ご存知でしょう?
スビンは冷たいように見えますけど
とても神経細やかで、困ってる人には本当に優しい」

「でも、スビンより秀でてる人、スビンより幸せな人には牙を剥くのも事実です」

「あの人は…寂しいんです」

「だから?寂しかったら何をしてもいいんですか?」

「ごめんなさい、本当にごめんなさい!
私が、私がすべての責任を負っても構いません
でもスビンが心配なんです。
これ以上、間違ったことをしないでほしいんです」


「僕にどうしろと?一緒に探してほしいというなら
申し訳ないけど」


「もし…あの人がこの辺りにいたら、
もし…姿を見かけたら、私が探していると…
伝えてほしいんです」


ユサンの必死さは伝わって来た


この人は、かつての僕のように、
スビンに支配され、洗脳されているのかもしれない


「わかりました。
もしそういうことがあれば、お伝えします」

「ありがとうございます」

「僕は…ユサンさんにひとつだけお話したいのですが」

「はい」

「スビンがあなたにとって唯一無二の存在になってるとしたら」

「……」

「スビンがあなたの絶対だとしたら」

「……」

「あなたも病んでいるんです」

「……」

「おせっかいですが、それだけ言わせてほしかったので」

「………」

「駅まで送ります。
ここまでどうやって来られたんです?」

「タクシーで」

「ま、そうですよね
軽トラでちょっとなんですけど、乗って行ってください」

「すみません」

チャンミンはユサンを玄関で待たせて
トラックを出してきた



「ユノさんとここで暮らしているんですね」

「あ、はい」

「幸せの匂いがします」

「え?そうですか?」

「はい」

チャンミンはなんと答えていいかわからず
照れ臭そうに微笑んだ


「羨ましい…」

「僕も…ユノがいないと生きていけません。
まったくダメなんですよ、僕は」

「それでユノさんがいいと言うのなら
いいのだと思います」

「どうかな…」

軽トラに揺られながら
2人は少し話をした


「ユサンさんは、お仕事は?」

「小学校で教師をしています」

「そうなんですか!」

「はい」

「いろんな生徒がいるんでしょうね」

「そうですね…
スビンも…私の生徒のようなものです」

「え?」

「愛が足りてなくて…もがいてばかり。
気づかせてあげたいけれど…大人は難しいです」

「あ……」

「………」

「なんか、僕、さっきは偉そうな事言っちゃいましたね」


*********


その頃、ユノは街の図書館で調べものをしていた

パソコンの画面に、当時の新聞記事が映し出されている


スビンの両親が岬でなくなったことに
不審な点がなかったか

当時、岬の柵が老朽化して破損箇所がいくつもあり
立ち入り禁止となっていた。

観光客など滅多に来ない土地だけに
岬は放置され、破損を直そうとする動きはなかった

夫婦2人が岬に入った時の不審点と言えば
立ち入り禁止のロープが外されていたらしいということ。

そんな区域だとは知らずに岬に入って
手摺や柵が老朽化していたことに気づかず
落ちてしまった。

そういう事故として片付けられていた

ロープが外されていたのは
その岬が放置されていたため、管理も行われていなかったからか?

その事故が起きてからは、立ち入り禁止の立て札も新しいものに変えられたということだ。


ユノのスマホに通知音が届いた

野菜の発注が客から入ったのだ

ホームページから入れるようになっていて
会員登録が必要だった

通常それは、ユノからチャンミンに配達の指示が行くようになっていた。

けれど

新規会員のその注文は

住所があの岬になっていた


家なんか建っていないその住所


要望欄には、キャンプをしているから
そこへ届けてほしいとある。

キャンプなんかできる場所ではない

なにしろ、立ち入り禁止なのだから


ユノはその情報をチャンミンに流すことはせず

一旦家に帰った






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蒼い観覧車 35




ユノの農園に越してきたチャンミンは
田舎家の一室をもらって、デザインの仕事ができるように少しリフォームしてもらった。

自立して仕事がしたいとチャンミンは熱く語り
ユノも同意しているにもかかわらず

結局、ユノはいろいろと手を出して甘やかしてしまう。

そして、チャンミンも喜んでそれに甘んじている

そんな2人の毎日だった


チャンミンは農園の仕事を手伝うことはしなかったけれど、
フルーツや野菜の盛り合わせなどを駅近くのホテルや店へ届ける仕事を手伝った。

小さなバイクに荷物を載せたり
軽トラックにたくさんの野菜を積んで街まで行ったりした。

けれど

ユノはチャンミンに配送の仕事をさせるのを嫌がった


不安にさせないようチャンミンには言わなかったけれど
ユノはスビンに怯えていた

配送するチャンミンに、スビンが何か仕掛けないとも限らない。

できれば、チャンミンを家の中に置いておきたい気持ちが強かったけれど、そういうわけにもいかない

チャンミンはそんなユノの心配をわかっていた。

チャンミンもスビンに怯えていた。


今になって、なぜスビンが自分にタトゥーをさせたのか
わかってきたような気がする

離れていても、左足につきまとう重い足枷

いつでもどこにいても、その存在を忘れないように
いつも恐怖を感じるように

そう仕組まれていたのだとわかる

2人は幸せそうに過ごしていても
スビンの存在に怯えていた

時折かかってくる、非通知の電話番号

近所から投函されたと思われる
真っ白な紙が一枚入っただけの封書


何をどう脅されているわけでもないのに
2人は怯えていた


ユノとチャンミンは初めて街に出て病院を訪れた

チャンミンの左足のタトゥーを消すためだった。

少しでもチャンミンの気持ちを穏やかにしたい
そんなユノの考えだった。

時間はかかるけれど
根気よく通えばほとんどわからなくなるまでになりそうだ。

そんな回答を得て、2人は少し気持ちが軽くなった


「チャンミン、せっかく街に出たんだから
何か家では食べられない物でも食べよう」

「うん」

料理が上手なチャンミンは、畑でとれたもので
美味しいものを作ってくれたけれど

そんなチャンミンが食べたいものを選ぼうとユノは考えた。


「ケーキが食べたいよ」

「食事じゃなくていいのか?」

「参考にしたいんだ」

「なんの?」

「いずれはフルーツを使ったケーキを作ってみたいから」

「ウチのフルーツで?」

「そう」

「なるほどね、いいよ」

2人はフルーツタルトが有名な店をスマホで探して、
感じのいいカフェに入った


チャンミンはいくつもタルトを頼んで
店員が少し驚いていた


目の前に並んだタルトを前に
チャンミンが挑むような表情でひとつひとつ味見をする

ユノがクスクスと笑った

「チャンミン、あまり美味しそうに食べてるようには見えないよ」


「ユノ」

「ん?」

チャンミンが内緒話をするように
顔を寄せてきた

「僕、ここのより美味しいタルト作る自信がある」

「そうか?」

「果物の味がもう全然違うから」

「それは楽しみだな、チャンミン」


すべてのタルトを2人で平らげて
少し濃い目のコーヒーで寛いだ

まだ何やら真剣にメモを取っているチャンミンを
ユノは愛おしそうに見つめる


「勉強熱心ですね、チャンミン君」

「ユノ」

「ん?」


チャンミンが顔を上げてニッコリ微笑む


「僕ね、とっても嬉しかったんだよ」

「何が?」

「ユノの描く夢に、僕がちゃんといたこと」


「………」


「そんなことでって思うだろうけど」

チャンミンは照れ臭そうに微笑む


「ちゃんといるどころか、俺の夢みる未来の中心だからね、チャンミンは。」

「だからさ、僕、頑張るよ」

「無理しなくていいよ」

「無理なんかじゃない、
嬉しくて仕方ないんだ」

「そうか?じゃ期待しようかな」

「期待に応えるからね、ユノ」



それはちょうど2人が店を出たところだった


ユノのスマホに着信が入った

それは近所の農園の人からだった


ユノの表情がみるみる変わる

「ユノ?」


チャンミンの胸に大きな不安がせり上がってくる

また何か…2人の幸せを邪魔するような?


「わかりました。すぐ戻ります」

「どうしたの?!」

「ボヤ騒ぎがあった」

「え?!ウチ?!」

「そう、通りがかった近所の人が気づいてくれて
裏を少し焼いただけで大丈夫みたいだ」

「………」

「とにかく帰ろう」

「ねぇ、裏って、僕の部屋だよね」

「ああ、中までは燃えなかったみたいだから
大丈夫だよ」

ユノは緊張した表情の中、少しだけ笑ってみせた

「ユノ…」

「大丈夫だから、ね?」


ユノに肩を抱かれて、チャンミンはなんとか頷いた


車を走らせるユノとチャンミンは
何も話さなかった。


口には出さなくても
心は恐怖でいっぱいだった


家について、燃えた後を確認すると
その範囲は大したことはなく、消防車を呼ぶほどではなかったという


「本当にご迷惑をおかけしました」

ユノは近所の人たちに頭を下げた

「原因を調べて、2度とこんなことが起こらないようにします」

チャンミンも頭を下げた


近所の農園の人はみんな優しかった


「いやね、元々古い家だったから、あんたらが住むって聞いて、電気系統なんかが心配だったんだよ。
一度そこは見てもらった方がいいかもねぇ」

「はい」

「この程度で済んで本当によかった」


大した被害もなかったせいか
たぶん、漏電か何かだろうということで片付いた

けれど

2人はそうは思っていなかった


その夜、ベッドの中でチャンミンはユノにしがみつくようにして眠っていた

怖かったのだろう

それを口に出さないチャンミンがユノはいじらしくて仕方ない


ユノのスビンに対する怒りは頂点に達していた


ユノは暗闇の中、優しくチャンミンの髪を撫でながら
切れ長のその瞳だけが強く天井を睨みつけていた



翌日

ユノが農園に出かけてしばらくたった頃

チャンミンは昨日燃えた箇所をもう一度丹念に調べ
仕事部屋へ戻って、パソコンで検索をしていた。


僕たちはお互い何も言わなかったけれど

2人とも、見えないスビンの影に怯えている

少なくとも僕は…とても怖い


その時、家のチャイムが鳴って
チャンミンはビクッとした

誰だろう


古い木造の家だったけれど
ユノが用心してなのかインターフォンを付けてくれていた。

チャンミンが恐る恐るモニターを覗くと
そこには1人の若い女性が立っていた

知らない人だ


「はい」

「あ、朝早くすみません、私、イ・ユサンと申しまして」

「ユサン?」

「あの…イ・スビンの妻です」


スビンの奥さん?

ウェディングの姿しか見たことがなくて
そう言われてもすぐにはわからなかった


チャンミンはドアを開けることを躊躇って


自分が外に出ることにした


「あ、なにか…」

「ユノさん…ですか?」

「いえ、僕はシム・チャンミンと申します」

ハッとしてユサンは顔をあげた

「あなたが…チャンミンさん…」

「はい」

「式に来ていただいていたんですよね
すみません」

「いえ」

「あの、実は…」

「………」

「スビンが…いなくなってしまって…」


え?






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蒼い観覧車 34




ユノは母親の施設に野菜を持って行った

「この間はトラブルあってさ、
少ししか置いていけなくて悪かった」

「いいのよ、そんなの」

「あのさ…ちょっと聞きたいことがあって」

「なに?」

「父親のこと…なんだけど」

母親はため息をついた

「いいわよ?もうあなたも大人なんだから
いろいろ知っていいわよね」

「話したくないことは…話さなくていいから」

「わかったわ、どんなこと?」

「父親は奥さんと旅行先で亡くなったって言ってたよね」

「そうよ」

「どこで…どんな風に?」

「この先に岬があるでしょ?そこから落ちたの」

「この近くで?」

「そう」

「そうなんだ…」

「私ね、思うんだけど」

「?」

「心中じゃないかと、思うのよ」

「心中?」

「ええ、旅行に行く前に、あの人から連絡があってね」

「……」

「もう私の声を聞くのは最後かもしれないって」

「そういう連絡があったの?」

「そうなのよ」

「それは…心中かもね」

「でも、2人、一緒に落ちたわけではないみたいだから」

「え?別々に?」

「警察の人はそう言ってたわ」

「警察が…来たの?」

「何かいろいろ不審なことでもあったのね
私なんか、一番先に疑われちゃうのよ」

「……」


一番疑われるのは母さんじゃない


スビンがこのことに関わっているなら
本当に危険だ

ユノの心に大きな不安があったけれど
それをチャンミンの前では出さないようにしていた


やがて


遊園地の工事が仕上げに向かい

遊具の試運転の時期になった


「ユノ、僕がデザインした観覧車なんだから
僕が一番先に乗っていいよね!」

「頼んでみるよ、もう俺、社員じゃないけど」

「大丈夫だよ、みんなユノに帰ってきてほしそうだし」

「それとこれとは別だよ」

「そうだけどさ、ね?最初に一緒に乗ろう!」

「わかった、約束するよ」


喜ぶチャンミンをユノが抱きしめる


季節は暖炉を灯すようになり
2人は暖炉の前で一緒に毛布にくるまった


「ユノ、暖炉っていいね」

「だろ?これが良くてこの家にしたんだ」

「ちょっと薪割りとか大変だけど」

「何言ってんだよ、お前は何もしないくせに」

「へへへ…そうでした」


可愛いチャンミン…

ユノはたまらず、その頬にキスをした


「ユノがお膳立てしてくれたから
蒼い観覧車が実現したね」

「チャンミンがプレゼンがんばったからだよ
みんな褒めてたぜ?」

「そう?」

「ああ」

「じゃ、一番に乗る権利あるね」

「本当はね、すでに何人か試運転で乗ってるけど」

「ユノはなんでそういうつまらないこと言うかなー!」

「アハハハハ、だってそうだろ」

「仕事じゃなくて乗るんだよ、僕たち」

「はいはい」


綺麗な秋晴れの日


オープンを待つだけとなった遊園地に2人はやってきた


園には工事の人たちが何人もいて
その一人一人に挨拶をしてまわった


「どうします?観覧車乗ってみます?」

「あ、夕暮れになったらにします」

「あーそうですか、あ、でも灯りの具合とか見るんで
それでもいいですよ」

「ありがとうございます」


2人は遊園地の中を見てまわった


「小さいからあっという間にまわれちゃうね」

「そうだな、でもいいんじゃないか?
ちょうどいいさ」

「うん」

ふたりは小高い山の上のベンチに座った

「ずいぶんいいところにベンチを設置したんだな」

「いいでしょう?僕のアイデアだよ」

「恋人たちのため?」

「そう」

「………」


遠くに秋色に変わった草木が揺れている

山はオレンジに色づき、赤へのグラデーションが
とても綺麗だった

ユノはチャンミンの肩を抱いた


「なぁ、チャンミン」

「なに?」

「お前さ、俺の夢に自分はいないって拗ねただろ?」

「拗ねた?あーうん、拗ねたね」

「いるんだよ、それが」

「ユノの夢?」

「ああ」

「農園をやる話に、僕なんかいなかったでしょう」

「俺の夢はね」

「?」

「この遊園地の隣に、ガーデンレストランを作って
俺が育てた野菜でお前が料理して」

「いいね!それ」

「ああ、この観覧車を乗りに来た恋人たちが
それを美味しく食べるんだよ」

「それがユノの夢?」

「そうだよ、俺の夢の中心はチャンミンなんだ」

「へぇー」

「チャンミンの夢は?」

「僕の夢はね、今日叶うんだよ」

「観覧車の完成?」

「ユノと観覧車に乗ること」

「そうか」


ユノは微笑んだ

切れ長の瞳が弓なりに細められて
それはチャンミンを優しく見守る


やがて夕暮れが近づき
頃合いを見て2人は観覧車に乗った


ゆっくりと始動する観覧車


思っていたより、観覧車から見る景色は絶景だった

山合いに覗く町の灯りが綺麗だ

反対側を向くと、岬の向こうに海が見える


「うわー!すごい!」

「思ったより綺麗だ…」


空はオレンジからパープルへとグラデーションを描き
その下には夕焼けに照らされた紅葉が燃えるように赤い


時間と自然が織りなす、素晴らしい景色だった


「ずっと見ていたいな」

ユノが遠くを見つめる

「うん…」

「チャンミン」

「ん?」

「観覧車が頂上に来たらキスしようぜ?」

「高校生みたいだなぁ」

「伝説作ろうぜ、俺たちが最初に」

「どんな伝説?」

「この観覧車でキスした2人は…」

「2人は?」


「何があっても離れない」


「ユノ…」

ユノはチャンミンの頬にそっと手をやり
自分の方へ引き寄せた

チャンミンは瞳を閉じて
ユノのキスを受け止めた


愛してる

愛してるよ

ずっと離れないで…一緒にいようね


2人で夢をみよう

2人だけの未来を描こう


やがて、観覧車は地上へ戻ってきた


「どうですか?速度とか」

作業の人が聞いてくる

「ちょうどいいと思います、ほんと景色が最高で」

「そうなんですか?よかった」

「乗ってないんですか?」

「まだです。ほかの遊具は乗りましたけど
これはお2人が初めてですよ」

「そうなんですか?!わー!」


みんなに挨拶をして、ふたりは帰途についた


「僕たちが初めてだって!」

「そんなわけないよ」

「え?」

「乗らないと工事できないところもあるよ」

「もう、ユノはほんとにつまらないこと言うね
いいでしょう?僕たちが最初ってことで」

「そうだな!そういうことにしよう」

車を運転しながら、ユノはチャンミンにキスをした


少し走ると、ユノは車を停めた


「どうしたの?」

「チャンミン、降りてごらん」

「あ!もしかして、観覧車?」

チャンミンは急いで車から降りた


「うわーー!」

「綺麗だな」


チャンミンのデザインした観覧車は夜空に溶け込むような蒼に、オレンジの灯りが綺麗に灯った

それは観覧車のカタチをクッキリと表し
とても幻想的だった

自然の景色と人工物である観覧車が
その色を蒼くしたことで上手く馴染んでいる

「大成功だよ、チャンミン」

「うん…やっぱりこのデザインにしてよかった」


夜風があたると肌寒く感じる

それでもチャンミンはこの場所にずっといたいと思った



夜になれば、お互いが自然に相手の温もりを求める

それは熱に変わり、吐息は自然と熱くなる


忌まわしい模様はまだチャンミンの左足を縛る

あるはずのない荊の痛みを感じるようにもなってしまった。

「僕は…ユノと結ばれてるはずなのに…」

「大丈夫、そんなの肌だけの問題だよ」

「ユノ…」


ユノがチャンミンの首筋に唇を這わせると
チャンミンが震えるようなため息をつく


「ユノ…もう…」

「チャンミン…」


あまりの快感に
2人とも言葉にならない声を出す


不安が消えたわけじゃない
けれど、この時間はふたりだけの宝物で

何にものにも代えがたい
至極のひとときだ







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蒼い観覧車 33




スビンが予約したのは
落ち着いた日本の料亭風のレストランだった

ユノは着物の女性に廊下を案内され
個室の襖を開けると、そこは中庭の景色が見える落ち着いた和室だった

すでにスビンは座布団に座り、
日本酒を飲んでいた


「ユノ、よく来たね、悪いけど先に飲んでた」

「ああ、遅くなってすまない」


スビンは店員に言う

「込み入った話になるからね、
料理の配膳は一度にお願いできる?」

「かしこまりました」


そんな頼みも聞く店となると
それなりの人物が密談に使うのだろう

農園に薬物を撒く依頼もここで行われたのかもしれない

ユノはそんな風に思った

酒が来るまで、スビンは世間話を普通にしていた


やっと乾杯をして、2人は黙った


「ユノ、話って?」

「チャンミンのことだ」

「ああ、なんかお前がもう戻ってこないのかと思ってさ
契りを交わすじゃないけど、お揃いの印なんて子供じみた真似をしたよ」

「お揃い?」

「チャンミン、言ってなかった?」

そう言って、スビンは右足の靴下を脱いで見せた

そこには、あの忌まわしい唐草がチャンミンと同じように描かれて、その葉先には、チャンミンの名前が彫られていた

「この先はチャンミンに繋がっているっていう事らしいよ。彫り師がなかなか粋な人でね」


ユノはそのタトゥーから目が離せなかった
怒りでどうにかなりそうだ

ユノの握った拳がわなわなと震える


「チャンミンが同意したわけでもないくせに…」

「アハハハ…チャンミンは二つ返事だったよ」

「………」

「チャンミンは本当にユノが好きなんだね」

「どういうことだ…」

「ユノを守るためなら、チャンミンは自分の身体によその男の名前を掘るのも厭わないなんてさ」

思わずユノは立ち上がった

「やっぱり、チャンミンを脅したのか…」

「脅しちゃいないさ、ユノの農園がこれ以上荒らされないといいね、と言っただけだ」

「ウチの農園に薬品を撒いたのは
スビン、お前だよな」

「ひどいこと言うなぁ」

スビンは笑いながら、酒を飲んだ



「スビン…」

「なんだ?」

「楽しいか?」

「楽しいさ」

スビンは真っ直ぐにユノを見つめた

ユノも負けずにスビンを見つめる


「チャンミンが…俺のために…つらい思いをするのは
面白くないだろ」

「いや、そんなチャンミンを見て心を傷めるユノが
楽しくてね」

「なるほど」

「理解してくれた?」



「俺さ…」


「なんだ」


「兄弟がいるって…知ってた」


「………」


「小さい頃、兄弟がいる友達が羨ましくて。
俺は…いなかったから」


「………」


「なんで、俺にはヒョンがいないのかって
駄々こねて母親を困らせてた」


「………」


「そうしたら、兄弟がいるんだって
教えてくれたんだ」


「………」


「俺より数ヶ月ヒョンなんだって。
会えないけど、それは我慢してと」


「………」


「その時はほんとに嬉しくて」


「そのヒョンがこんなんで、残念だったな」


ユノは真っ直ぐな瞳でスビンを見た


「もっと…違う出会い方をしたかったよ」


「今度は寄り添って僕の心を溶かそうって話か」


「溶かす?凍ってるのか?お前の心」


「………」


「悪いが、そんな気持ちは毛頭ない。
今まで、会ったことのないヒョンニムへの思いがあったけれど、そんな思いとは決別だって意味だよ」


「なるほどね?」


「チャンミンに指一本触れさせない」


「ユノはほんとにカッコいいね
そんなクサイ台詞もばっちり決まる」

スビンは笑った

「もっとクサイ台詞を言ってやろうか」

「ほぅ」

「お前をぶっ殺して、この世から消し去りたい」

「やってみたらどうだ?」

「………」

「僕はね、ユノ、この世になんの未練もない」

「未練タラタラじゃないか」

「そう見えるか?」

「ああ、それもチャンミンにではなくて
俺にだろ?」

「それは大いなる勘違いだな」

「あー間違えた。俺にじゃなく
父親にか?」

「………」

「スビン、いつまでも父親に執着するなよ。
そこから抜け出せないと、この先もつらい」


「お前に…何がわかる」


「……」


「両親に愛されたお前に、何がわかる」


「俺が?」


「………」

ユノは心外だと言わんばかりに苦笑した

「それはおかしな話だろ?」

「ユノ、お前に父親を会わせなかったのは
僕の母だ」

「そりゃそうだ。それくらい理解してやれ」

「父は…お前に会いたくて」

「………」

「父は書斎でこっそりとお前の母親に電話をしてた。
電話の奥で騒いでるお前の声を聞かせてもらって泣いてた」

「………」

「愛してるって、お前の母親に何度も言っては泣いてた」

「………」

「それとも、ユノの母親はお前を愛さなかったか?」

「愛されたよ、苦労もしてたけど」

「あの父親から愛されてたから、苦労なんかないだろ」

「スビン、父親がお前を愛さないなんてことはない」

「僕の母親は可哀想な女でね、
亭主から愛されない寂しさを、息子にぶつけるしかなかった」

「スビン…」

「だからなんだって話だ。
とにかく、お前に僕の闇はわからない」

「……」

「わかってもらおうとも思わない」

「……わかろうなんて思わないよ」

「………」

「けれど、チャンミンは関係ない」

「チャンミンは僕を心底愛してくれてね」

「洗脳したんだろ」

「愛と洗脳なんて、大して変わらないさ」

「もしそうなら、時間は過ぎてそれはもう過去のことだ」

「勝手にひとりで時間を進めるものじゃないよ、ユノ」

スビンは笑った


反対にユノはため息をついた


「チャンミンは、もうお前の元に戻る気はない
今は俺と一緒に暮らしてる」

「知ってるさ、あのど田舎で」

「スビンは奥さんを大事にして、チャンミンを忘れろ。
何よりお前が不幸だ」


「……」


「それだけ言いに来た」


そう言ってユノは立ち上がった
ポケットから財布を出すと、数枚の札を出して
皿の下に挟んだ


「じゃあな」


ユノは店を出た
冷たい風が火照った頬に心地いい


ひとり、個室に残されたスビンは
しばらくじっとしていた


「こんな札置いて…全然足りないんだよ」


スビンは膳を手で払いのけ、全て座卓の下に落とした

いくつかの高価な食器が割れ
綺麗な畳に食事が染み入る


**********



チャンミンが不安そうに、家で待っている

ユノがスビンに会いに行った
あのスビンがユノに何もしないわけがない

やっぱり、自分が出ていって、2人の間に入らなければならないのではないか

そんな風に思った


ドアの鍵が開く音がして
チャンミンはハッと振り向いた

ユノ!


ドアが開くと、長身を折り曲げるようにして
ユノが家に入ってきた

「ユノ!」

チャンミンはユノに飛びついた

「ただいま」

「大丈夫だった?!」

「まずはお帰りって言ってよ」

「あ…うん…お帰り」

「大丈夫だよ、話つけてきた」

「うそ」

「なんでウソなんだよ、なんか腹減った」

「スビンがそんな簡単に引き下がるわけない」

「あーそんなこと言うと、俺ヤキモチ妬くからね」

「え?」

「まるで、お前はあいつのことよく知ってるみたいな
そういうこと言わないの」

ユノはいきなりチャンミンを抱きしめた

「ユノ…」

「チャンミン…俺の大事なチャンミン」

「フフフ…ほんとに大丈夫なの?」

「ああ、キスしてくれたらもっと大丈夫」

「なにそれ、変なの」

「キスしよ、チャンミン」

ユノがチャンミンに覆いかぶさってきた

「もう風呂入ったんだね、チャンミン」

「うん、だからユノも入って」

「あとでね」

「ちょっ!」


そう言って、ユノはチャンミンをソファに押し倒した


「もう…ユノ…いつも突然…」

「ごめんな、我慢がきかなくて」

ユノは自分の着ているシャツのボタンを外すと
チャンミンに覆いかぶさってきた

「フフフ…ユノ、くすぐったいよ」

「だって、くすぐってるんだもん」

「もう!」


笑顔のチャンミンにくちづける

可愛い俺のチャンミン


ずっと…ずっと…一緒にいよう







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蒼い観覧車 32




ユノは忘れていたその温もりに涙した

チャンミンの匂い、声、吐息

時折、涙の残りが鼻をすする声となって
ユノをたまらなくさせた


チャンミンも忘れていたその温もりに涙する

ユノの広い胸に身を預けると
不安が消えて、何も怖くなくなる

これから何が起ころうと
きっと大丈夫だ


もう2度と触れられぬと諦めていたその肌
もう2度と交わせぬと諦めていたその熱


今、ふたたびその悦びを甘受して
2人は激しく愛し合った


チャンミンの涙は悦びの声に変わり
ユノの涙は甘い呻き声に変わった


もう離れないから
もう離さないから


2人は何度も唇で約束を交わした



穏やかにベッドに横たわるチャンミン


ユノはそんなチャンミンの左足を自分の膝に乗せた

チャンミンは慌てて起き上がって
足首を隠そうとした

その無意識の行為は既にチャンミンの癖となっているのだろうか

ユノはそんなチャンミンに優しく微笑みかけて
その左足をさする

まるで怪我をした足を治そうとするかのように
優しくさすってくれる

このタトゥーをいれてしまった事で

チャンミンはすべてを諦めようと思った


ふたたび、ユノと会うこと

ユノにまた愛してもらうこと

全部諦めて…

チャンミンはこれから何も考えず
静かに生きて行こうと思っていた


蒼い観覧車は、そんなチャンミンの最後の仕事だと覚悟していた

息を潜めて生きる暗い世界から
ユノがチャンミンを引き戻そうとしてくれた


ベッドの中、
ユノは後ろからチャンミンを抱え込むようにして
抱きしめている

チャンミンはその心地よさに酔いしれながら
腰に回された力強い腕に触れている



「ねぇ、ユノ」

「ん」

「風が強かったりする日にね」

「ん?風?」

「うん、よくさ、ビニール袋が空を飛んでる時あるでしょ?」

「ああ、うん、風が強い日ね」

「あれって、クラゲみたいに見える時ある」

「ああ、あるね」

「クラゲってさ、泳げないって知ってた?」

「え?そうなの?」

「潮の流れに任せて移動するんだって」

「へぇ」

「自分の意思では動けず
天敵とか来ても、早く逃げることもできないんだって」

「………」

「いつもさ、空を飛んでるクラゲ見てると、僕みたいだなって」

「………」


ユノが後ろからチャンミンを大きく揺さぶった

「うわっ」

「こういう風に?流れるままに?」

「アハハハ、そうそう」


チャンミンが…笑った


「チャンミン…」

ユノが身体を反転させて
チャンミンを仰向けにして、その上に跨る形になった

ユノはチャンミンを自分の腕の中に閉じ込めて
優しくその前髪をかきあげてやる

チャンミンはユノを下から見上げて微笑む


「笑顔がみれた」

「えっ?」

「お前の笑顔が見れた」


「うん、僕、久しぶりに笑ったかも」


「これからはずっと笑顔だ」


ユノの言葉にチャンミンの表情が不安に曇る


「心配しなくていいよ」

「でも…」

「一度、俺がスビンと話してくる」

「やめて、ユノ」

「スジは通さないと…」

「筋とかそういうの、スビンには通じないよ」

「このままじゃ、いられないだろ」

「………」

「ユノの農場が…」

「手は出させないよ」

「それだけじゃない
ユノの大切にしているものが…危険だよ」

「わかってる。
チャンミンにこれ以上何かされないためにも
話してこないと」


チャンミンの瞳に不安が大きくせり上がってくるのが見える

「話なんか通じないって!」


チャンミンはユノを押しのけてベッドから出た

裸の身体にタオルを巻いただけで
チャンミンは冷蔵庫を乱暴に開けて水を飲んだ

ユノはチャンミンに続いて、ゆっくりとベッドから出た


チャンミンはシンクに手をついて
じっと何かを見つめている

その後ろからユノがそっとチャンミンを抱きしめた

ユノが後ろからチャンミンの耳を食む


「チャンミン…」

「………」


「もう、逃げたくない」

「………」

「クラゲみたいに、スビンにこれ以上揺さぶられるのはゴメンだ」

「スビンは普通じゃない」

「わかってる」


************



ユノはチャンミンを自分の農園に連れて帰った

遊園地の事業に関しては、
逆にこちらに来た方が現場に近くて都合もよかった


スビンにはわかるだろうけれど
もう、ユノはそんなことは怖くなかった


そして、チャンミンの引越しが落ち着いたころ

ユノはスビンに連絡をとった


「話したいことがある」

「チャンミンのこと?」

「ああ、一度会えないか」

「それとも農場の薬品のことかな」

「………」

「それとも…これから起こるもっと恐ろしいこと?」

「………」

「フフフ…ごめんごめん、ウソだよ
からかって悪いね。いいよ、会おうか」

「……いつがいい?」

「夜ならいつでも。外がいいだろ?
僕と密室とかはイヤだよね?」

「密室でもいいさ」

「そう?じゃ、レストランの個室を予約するよ
それでいいか?」

「ああ、予約を頼んで悪いな」

「いいさ、僕たちは半分兄弟なんだから」

「………」


電話を切ったユノの顔を
隣でチャンミンが不安そうに見つめる


「大丈夫だよ」

「ほんとに?」

「ああ、筋を通すとかそういうの無しで
とにかく、俺はお前といるっていうことだけ言ってくる」





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