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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

死神の恋15




パク牧師は怯えているようだった


ユノが訝しげにパク牧師を見る


「死神だなんて…チャンミンのことを言ってるんですか?」

「………そうだ」

パク牧師はハッキリと言った


「黒い服は着てるけれど…決して死神なんかじゃない」

ユノはそう言い捨てるとチャンミンを追った


「ユノ!待ちなさい」

パク牧師もユノを追った


居間を出たチャンミンは、教会から出ようと
施設の建物の中を走り抜けドアを開けた


一刻も早くここから立ち去りたい!

ユノに僕の事を知られたくない!


チャンミンが飛び込んだのは子供たちの寝室だった

そこには、カン牧師が子供達に昼寝の準備をさせていた

みんながびっくりして、チャンミンを振り返る


「君は…チャンミン」

カン牧師が驚いてチャンミンを見つめた


チャンミンはいつもの穏やかなチャンミンではなく
どこか刺々しく、不穏な空気さえ漂わせている

そこには、いわゆる死神らしい暗さもあった


「あ……」


チャンミンも声が出ない

自分の身体からどんなオーラが出ているのか
自分が一番よくわかっていた

今の自分は、亡き人を地獄へと連れて行く
恐ろしい存在


今まで隠していた
もう1人の自分



手を繋いでくれた子供たち
膝に乗ってくれた子供たち


その子供たちが怯えたようにチャンミンを見る


とたんに


みんなが一斉に火がついたように泣き出した

「あ…ごめん…」

突然の泣き声の大合唱に
チャンミンは後ずさりした


ワンワンと泣き叫ぶ子供たちは
しっかりとチャンミンを視界に捉えている


それは

よくある…光景だった

無垢な魂の子供たちにはチャンミンの姿がみえる
その黒装束にどこか地獄と死の匂いがして

それを敏感に察知した幼児が泣き叫ぶ

悲しいことに
チャンミンにとってはよくある光景だった

慣れていた

けれど

それがこんなに悲しいことだとは
今まで感じたことがなかった


僕が…そんなに怖い?


この間は僕の膝に乗って、ユノが読む絵本に
一緒に耳を傾けていた子供たち


そんなに…僕は恐ろしい?


やがて、ユノがチャンミンに追いついた


尋常ではない子供たちの鳴き声にユノも驚いた


「なにが…あったんだ?」

「ユノ…」


チャンミンの表情は今までにない悲しみに満ちたそれだった。

「チャンミン?」

なぜ…そんなに悲しそうな顔をする?


「僕…」

子供たちを保育士に渡したカン牧師が
チャンミンのところへやってきた

「君は早くここから出て行きなさい」

「………」

「ちょっ…チャンミンをなんで追い出すんだ」

そこへパク牧師が駆け込んで来て凄む

「死神が…ここに用があるはずない
地獄へ落ちるような人間はここにはいない」


チャンミンがその言葉を遮った

「違う!僕は…死神なんかじゃない!
それは人間が作った幻だ…僕は…ただ」

「チャンミン?」

ユノは意味が飲み込めない


「僕は…ただ…」

カン牧師がチャンミンに優しく告げる

「後は…私に任せて…君は外に出なさい」


チャンミンは涙の溜まった瞳でユノを見つめた


ユノは驚いたように、そして事情が飲み込めない様子で
チャンミンを見つめ返す


チャンミンの瞳に涙が溢れて来て
そんなユノの顔も歪んで見えなくなってしまった


さよなら、僕のユノ


僕はここに来てはいけなかったんだ

ユノをいつも屋根の上から見つめ
日々の報告書を書いていればよかったんだ

僕は誰からも歓迎されないのに
少し調子に乗ってしまった…


チャンミンはそっと立ち上がり
みんなにお辞儀をした

「騒がせてしまってすみません
僕が立ち去れば、子供たちは泣き止みますから」

最後は涙声だった

「チャンミン、待てよ」

ユノがチャンミンを追うとするのを
カン牧師が止めた


チャンミンは隙をついて
姿を消してしまった

「あ!チャンミン!」

それでも尚、チャンミンを追おうとするユノの腕を
カン牧師が掴む


「ユノ、彼には大事な使命があって
それをお前には知られたくないはずだ」

「だから?」

「そっとしておいてやれ。
行かせてやれ」

「どれだけ大事な使命か知らないけど
チャンミンだって俺にとって大事な存在なんだよ」

「ユノ…」

ユノはチャンミンを追いかけ、教会の外に出た

カン牧師もそれを追って外に出た


チャンミンは教会の一番高い塔の上に立ち
ユノとカン牧師を見下ろしていた

見たことのない悲しい顔…


「チャンミン!降りてこい!」

「………」


「ユノ、わかってやりなさい。
彼はユノにすべてを話すことはできない」

「牧師さまは知ってるのか?
なら、どうして俺が知ったらダメなんだよ!」

「………」


チャンミンは寂しそうに2人のやりとりを見ている

それをカン牧師も哀れんで見上げる


「あんな綺麗な存在が死神だとか、
本人だって否定…」

そこまで言いかけて
ユノはハッとして口をつぐんだ

「え?」

「………」

「俺?」

カン牧師が悲しそうにため息をつく。

「俺を迎えに来たってこと?」

チャンミンがギュッと目を閉じる

そうだよ

ユノ…


「ユノ…これは誰にもどうにも出来ないことなんだ」

カン牧師が宥めるように穏やかに告げる


「え?なに?俺、死ぬの?」

「ユノ…」

「ウソだろ?俺、ピンピンしてるぜ?」

「……」


チャンミンが静かに降りて来た


黒いコートがマントのようにひるがえり
綺麗に降り立つ


「ユノ…ごめんね…黙ってて」

「チャンミン、君は悪くない。仕方のないことなんだ」

「俺、死なないよな?」

「………」

「おかしいだろ?え?いつ?」

「……言えません。でも、近々です」

「え?」

「……」

「事故かなんか?」

「言えません…」

「言えよ」

「ごめんなさい…言えません」

「言えよ、チャンミン!」

「ユノ、やめなさい。
彼を責めてもどうしようもないんだ」

カン牧師がユノの肩を押さえた


「俺を迎えにきてくれたってわけか?」

ユノがイラついたように笑う


「そうです、ユノ…」

それでもチャンミンの表情はどこか諦めたように落ち着いている


「で?なんでお前は黒装束なんだ」

「………」

「まさか」

「………」

「死神が俺を地獄に連れて行く、の図か?」

「………」

「あ、そういうこと?」

「………」


「俺が…あー詐欺を働いたからか?
小さい頃から盗みをしてきたからか?」

「………」


「じゃあ、聞くけどさ」

「………」

「俺はどうすりゃよかったんだ?
ひもじい思いをしながら、死ねばよかったのかよ?」

「………」

「お前、知ってて…なんで俺に近づいた?
査定でもしてたか?俺がどの程度の悪人か」

「ユノ、落ち着きなさい
教会へ戻って、私と話をしよう」

「話してどうなる?
話をしたら、俺は天国へ行けるのか?」

ユノは自分を見失っていた

普通に続く毎日がいきなり遮断されるという信じられない話。
しかも死神が迎えに来て、地獄行きと。


突然の事実に驚愕し、自分の死を受け入れられず
ましてや、天国に行かれそうにもないことに理不尽さを覚え…

ユノは取り乱した


落ち着きなく髪をかきあげ、ウロウロと歩き回る

そんなユノをチャンミンは悲しそうに見つめていた


チャンミンは何もできない

自分の死期が近いことを知り
それを受け入れられず、混乱しているユノを

愛するこの人を…

自分は助ける事も癒すこともできない


それどころか、愛するその人の死を待ち
使命を全うしなければならない


生きていてほしい
生きて幸せになってほしい

願わくば、自分が幸せにしてあげたかった

いつまでも一緒に…いたかった
それが本音

チャンミンの胸は鉛のように重くなった

「ユノ…」

戸惑いを隠せず、イラついた表情で
ユノがチャンミンを見た

「なんだよ」

「ごめんね、ユノ」

「なにがだ?何を謝ってる?」

「黙って…いたこと」

「お前が死神で…俺が死ぬのを待っていることか?」

「違う…僕は死神じゃない…」

「じゃあ、なんだ?」

「僕がなにかは…僕もわからない」

「いいかげんな事を言うな」

「……ユノ…」

悲しそうにユノの名を呼ぶチャンミン
ユノは思わず視線を逸らした


「………」

「さようなら…」


小さくつぶやいて、チャンミンが静かに去って行く

黒いコートの裾がひるがえり
黒いブーツがカツと音を立てて向きを変えた


「………」

ユノはその声を背中で聞いた






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死神の恋 14



チャンミンは羽根のついたペンで
黒いバインダーにサラサラと何かを書き綴っていた

真剣な面持ちで、一心不乱ともいえる様子

そんなチャンミンをテミンが心配そうに見つめている

「チャンミ二ヒョン…」

「………」

「ひとつだけ忠告があるんだ」

ふと、チャンミンがペンを走らせる手を止めた

「忠告?」

「聞いてほしいんだ…僕を親しい弟だと思うのなら」

「………」

その難しい表情を見ると、チャンミンはあまりテミンの話を聞きたくはなさそうだった。

でも…

と、テミンは思った。


「たとえ、どんなに辛い子供時代があったとしても
悪事を働いていい理由にはならないよ」

「……ユノのこと?」

「うん…」

「じゃあ、親もお金も持たない子供が生きていくにはどうすればよかったの」

「小さい時は仕方ないかもしれないけれど
大人になったら、悪事は悪事だ。」

「ユノは…教会の施設を建て直そうとしたんだよ
もうボロボロだからね」

「だから?」

「たくさんのお金が必要だったんだ」

「だからって、女性たちの…」

「改心したよ!ユノはもう女性を騙したりしないんだ」

「チャンミニヒョン…」

「わかってるよ?
テミンの言いたいことはわかってる
だけど…ユノだって仕方ない事情があったし、
それはユノのせいじゃない」

「ひどい子供時代を送っても、悪いことせずに生きている人間はたくさんいるよ」

「ジャッジをするのはテミンじゃない」

「それはチャンミニヒョンでもないよ」

「………」

「厳しいこと言って…ごめん」

「……」

「いいんだ…」

「……」

「テミンの言ってることが正しいんだから」

「……僕はチャンミニヒョンが心配なんだ」

「わかってるよ、ありがとう」

「………」

チャンミンは大きくため息をついた

「実はね…自分でも何をしてるかわからないんだ」

「チャンミニヒョン…」

「ユノが…ユノが好きで好きで…たまらないんだ」

「……」

「……」

「出来る限りのことは…させてね
チャンミニヒョンのために」

「ありがとう、テミン」

チャンミンは力なく微笑んだ


チャンミンは今日もユノのところへ行く

寝ぼけているユノを起こして
朝ごはんを食べさせたりしている

そんななんでもないことが
チャンミンはとても楽しく

ユノにとってもかけがえのない時間だった

甘く優しい時間ではあったけど

チャンミンはユノを律した

どうにか真っ当な定職につかせようと
あれこれ試みたけれど

ユノにそれはとても難しく
一度に大きなお金をかせぐ仕事をやめようとはしない

結婚詐欺については、少しずつ整理をして
やめる方向ではいたけれど

パスポートを偽造することは
人助けだと言ってやめなかった

それはたしかに

人助けではあった


いろんな理由で故郷に帰れないひとたちに
その相場では安いと言われている金額でパスポートを作ってやっている

詐欺ほど稼げないこの商売で
故郷への土産代まで持たせているユノのしていることは

死後、天国に行かれないほどのことなのか
チャンミンは疑問に思えてきた



「ユノ、教会の建て替えですけど
なんとか寄付を募るってことで頑張りませんか?」

「寄付なんてたかが知れてるよ、普通の家を建てるのとは違うんだ。それなりにかかる」

「みんなの想いで建てた教会の方が素晴らしいと思うんです」

「そりゃそうだけど」


天使の考えそうなことだと、ユノは思った

みんなの想いで建てられた教会は
たしかに素晴らしいだろう

教会の理念というものがあるのかどうかわからないけれど、それにもかなっているような気がする

でも

自分は現実を知っている

そう考えるとため息がでる

ボロボロだったユノを拾ってくれた
幼い命を救ってくれたカン牧師と教会に
どうにか恩返しをしたい


ルカと2人、教会を夢見て毎日耐えた日々

連れて行くことができなかったルカ

あの頃毎日警察に行っては
門に立つ警官にルカのことを尋ねていた

たいていの警官は何も答えてくれず

けれど、みすぼらしいユノにお菓子をくれる警官もいて、ルカの様子を教えてくれたりもした


「残念だけど…あの子は死んだよ」

「ご飯を食べるように伝えてくれたんじゃなかったの?!」

「伝えたさ。でも、もう遅かった」

「……」



ユノは自分ひとりが助かって
こうやってのうのうと生きていることが情けなくもあった

「ユノ?」

ユノはハッとして顔をあげると
心配そうに覗き込むチャンミンの顔があった

目の前には、美味しそうなスクランブルエッグと
サラダにトースト

そして、可愛いチャンミン


ユノは今ある幸せに泣きそうになる


「また、ルカくんのことを思い出してた?」

「わかるのか」

「うん、悲しみはわかる」

「じゃあ、幸せはわからないの?」

「へへっ、あんまりわからない」

「変なの、天使のくせに」

「うん…変だね」


「じゃあ幸せってやつを感じさせてやるから
こっちに来い」


ユノは笑いながらチャンミンの手を自分の方へ引っ張った

「うわー」

そう笑いながら
チャンミンはユノの胸に落ちた



結局家を出たのは午後になってしまった


「もう、ユノほんとになんていうか…」

「自分だって、相当だろ?」

「僕は!性欲とかと無関係なんです!」

「うそつけ、堕天使め」

「ひどい」


小突きあいながら、教会について
建て替えるための見積もりなどをして、2人は忙しかった

その日は他の教会からも牧師が来ることになっていて
建て替えの相談をすることにもなっていた


「ユノ…僕はいてもいいのかな」

「なんで?いたらいいじゃないか」

「その牧師さんから…僕は見えるかな」

「見えなかったらそれはそれで
俺の側で話を聞いてたらいいよ」

「うん…そうだね」


やがて隣町から牧師がやってきた

ユノの面倒をみてくれたカン牧師の旧友で
温和な雰囲気の優しい牧師だった

パク牧師と名乗って、子供達にも挨拶をした


慎ましくも清潔な居間に通されて
牧師同士、久しぶりの再会にしばし近況話に花が咲いた

「ところで、建て替えるんだって?」

「ああ、今日は相談にのってもらいたくてね
あのユノが、頑張ってくれてる」

「あのユノが…そうか、立派になったもんだ」

「そうなんだがね…」

「ん?なにか?」

「いや、なんでもない。
とにかくユノに教会を建て直してもらったら
私も子供達も幸せなことだ」

「そうだね、ユノに会わせてほしい」

「ちょうど私は小さな子供達を寝かしつけて来る時間だから、ユノとゆっくり話をしてくれ」

呼ばれてユノとチャンミンが居間に入った

部屋にはパク牧師ひとり。

パク牧師はユノを見るなり頬を綻ばせた

「なんてことだ、立派な青年になって…」

「お久しぶりです!パク牧師もお元気そうで」


と、突然、パク牧師の表情が曇った

「ちょっと待て、その後ろにいるのは…」


チャンミンが少し不安そうに顔を出した

ユノがチャンミンの手を握って安心させようとする

パク牧師はチャンミンが見えるのか…


「その後ろの者、前へ出なさい」

チャンミンはビクッとして顔を上げると
ばっちりとパク牧師と目が合ってしまった


「お前は…」

パク牧師は後ずさりした

チャンミンは下を向いてしまった


このパク牧師は…僕の使命を知っている…
姿が見えるだけではない…

そんな気がして、チャンミンはこの場を急いで立ち去ろうと、黒いコートを翻して居間から出ようとした

「待って!」

パク牧師の問いかけに、一瞬立ち止まったチャンミンは
また、そのまま出て行こうとした

「チャンミン?」

でも、ユノに呼ばれてもう一度、その足が止まった

そしてそっと振り向くと

睨みつけるようなパク牧師の視線と
心配そうなユノの表情の落差にチャンミンは戸惑った


ユノに…すべてを知られてはいけない

それだけは絶対に困る


チャンミンは焦った

思い直したように居間から出て行くチャンミンを
ユノが追いかけようとする


「待ちなさい、ユノ、死神を追いかけてはいけない」


え?


ユノはパク牧師を振り返った


死神って?





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死神の恋 13



夜、抱き合ったあと、
なんとはなしにお互いの体に触れている時間が好きだ

チャンミンはそう思った

どうでもいい会話をして
たいして面白くもないのに笑い合う

そんな…夜

「チャンミン」

「んー」

チャンミンはうつろなまま、返事をした

「チャンミンは天使なのに
なんでいつも黒い服なの?」

ユノのことばに、チャンミンはパチっと目を開けた

「えっと…天使が白い服を着て羽が生えてるっていうのは、人間の想像で」

そう言いながらも、チャンミンはテミンの姿を思い出していた

テミンはまさに天使そのものだ
人間が想像している天使

「そういうもんか、俺が小さい時よく見ていた天使はみんな白っぽかったからさ」

「黒い服の天使ってみたことない?」

「ないね」

「そう…」

「でも、お前は黒ずくめでも、十分かわいいよ」

チャンミンは嬉しそうに、恥ずかしそうに笑う
その笑顔をユノはまぶしそうに見つめた

「おいで、俺の可愛い天使」

布団にくるまったまま、ユノはチャンミンを抱き寄せた

チャンミンがユノの胸に収まった、その時

また

ユノの胸から

あの声が聞こえる


" ユノヒョン!"

" ルカ!"


「………」

「どうした?チャンミン」

「あの…」

「ん?」

「僕ね、仕方ないんだけど、どうしたって
聴こえてしまうんです」

「なにが?」

「ユノ」

「なに?」


「ルカって…だれ?」


「………」


ユノが固まった


「ごめん…言いたくないことならいいんです」


想像以上のユノの反応にチャンミンは慌てた


「………」


「あ…ごめん…ほんとに」


「チャンミン…」

「はい…」

「ルカっていうのはね、幼い頃、俺がいつも一緒にいた弟みたいな子供だよ」

「そう…」

「………」

「………」


しばらくの沈黙の後、ユノがゆっくりと話し出した


「俺ね…浮浪孤児だったんだ」


ユノは遠くを見るような目で天井を見つめている

その視線の先は…幼かった自分だろうか。


「……」


チャンミンはごくっと唾を飲んだ


「親のことはおぼろげに覚えているような、いないような」

ユノはチャンミンを抱きしめて、その柔らかい髪を撫でながら、ゆっくりと言葉を紡いだ


「たぶん、浮浪児のグループみたいなのに
親は俺を預けたんだろうな…面倒見てやってって感じでさ…」

「…覚えてるの?」

「おぼろげにね…うーん…
覚えているけれど…忘れたいのかも…」

「そう…」

「そのうち…また小さい子が入ってきて」

「それが…ルカ?」

「うん…どこの国の子供だったのか、わからないけど」

「………」

「俺だけに懐いててね…もう寝る時も俺の懐で寝てた」

「かわいいね…」

「ああ…可愛かった…
俺が守ってやらなきゃって…そう思った」

「そっか」


「俺は…いや、俺たちは物心ついたときから
それこそ生きるために何でも盗んだ」


チャンミンはギュッと目を閉じた


「いつも、ルカの手を引いて…食べ物を盗んでは
一目散に走ったんだ」

幼いユノが幼い子供の手を引いて
食べ物を持って懸命に逃げる姿が浮かぶ

「悪いことだとか…そんな事考える余裕もなくて」

「……」

「ある時さ…同じ浮浪孤児に…」

「……」


「教会に行けば、温かい食べ物をくれると
そう聞いて、俺はルカをつれてその教会ってやつに行こうと…」

ユノの声が震えだした

「ユノ、もういいよ、ごめん、イヤなにこと思い出させて」

チャンミンは布団から顔を出すと、ユノの頬に手をやった

「ユノ…」

ユノは泣いていた

この強いユノが…泣くなんて…

ユノは…
眉間にしわを寄せ、嗚咽をこらえて泣いていた


「あんな小さい子を…大人たちが連れ去ったんだよ」

「……え」


「ルカはどうしてもリンゴが食べたくて…ただそれだけだったのに…」

「ユノ…もうやめて…ユノのせいじゃない」

「たったひとつリンゴが食べたくて盗んだんだ
ルカは俺のマネをしただけだ…」

ユノの瞳から熱い涙が溢れる…

「俺が…ボランティアに飯をもらいに行ってる時」

「………連れて行かれたの?」

「警察から何からみんなで来て
ルカを連れて行った」

「………それって…」

「ルカは泣いて俺の名前を呼んでいたって…」

ユノの瞳からポロポロと涙が流れる

「ユノ!きっとその子は安全に保護されたんだよ、ね?」

「俺は…ルカが乗せられた車を見つけて、走った」

「ユノ……」

チャンミンはユノの頬を伝う涙を唇でぬぐった

「走ったけど…追いつけなくて…」

「ユノ…ルカ君はきっと教会へ…」

「俺も…そう思った…追いつけなかったけど…ルカはこれで…教会に行けるって…」

「きっと行ったよ、ね?」

チャンミンも半泣きだった

「それが…」

「……」

「それが違ってた…」

「え…」

「ルカは俺がいなくて…何も食べず…死んだんだ」

「まさか…」

「俺が…俺が食べていいっていうものしか食べちゃダメだって言ったから…」

ユノはもう、嗚咽をこらえず泣いた

「ユノ…」

「ルカが腐ったものを食べないように…
小さかったから…ほかの子供みたいに死んだりしないように…」

「そんな……」

「ルカは俺の言いつけを守って…俺と会うまで何も食べないって…」

「………」

「毎日…俺は毎日…ルカに会いたくて…警察まで行ったりしたんだ」

「会えなかったの?」

「そんな俺を可哀想に思った警官が…
ルカは死んでしまったって…」


ユノは声を殺して泣いた…

「……ユノは間違ってない…」

「俺が一緒にいて、教会に連れていってやるべきだった…なのに…結局…俺だけが教会に連れて来られて」


チャンミンの胸に…はじめて映像としての幼きユノが浮かんだ

道端に倒れているユノ

それを見つけて、駆け寄るあのカン牧師…


ユノはずっと…自分を責め続けていたんだ

ユノはちっとも悪くないのに…


チャンミンも嗚咽をこらえずに泣いた…


僕が、…あなたの側にいる
あなたを地獄なんかにいかせない

そうだよ

あのリストは間違っている!

ユノ…

僕があなたを救うからね

すべての悲しみと苦しみから
僕が救ってあげるから

だから…

泣かないで…


「チャンミン…」

「なに…ユノ…なに?」

「お前は俺の側にいてくれ…」

「いるよ、もちろん!離れたりしないから」

チャンミンはユノの涙をきれいに拭った

「僕は離れないからね?いいでしょう?」

「ああ…頼む…お前は俺から離れないでくれ」


ユノは泣きながらチャンミンを抱きしめた


ユノの心の深くにある傷の痛みが
そのままチャンミンにも伝わった…


闇夜が白み始めるまで、チャンミンは目を開いていた

ユノはそのうち寝息をたてて眠っていたけれど

チャンミンはユノの腕にしっかりとしがみついて
目を開いていた

チャンミンはチャンミンで
自分の使命とユノへの愛の狭間で苦しみはじめていた

けれど

チャンミンは希望を捨てなかった

何かいい方法があるはずなんだ

ユノを助けられるのは自分だという自負が
朝焼けをより明るいものに感じさせていた…





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死神の恋 12




ユノが紙袋に包まれた小さな包みを
外国人に渡す

「ドント カムバック オーケー?」

外国人は目に涙を浮かべて何度も頷く
そして、ユノの手を両手でにぎりしめ、なんども頭を下げた

そんな様子をチャンミンは少し離れたところから見つめている

犯罪といえば犯罪なのだけれど
なぜこの外国人は嬉し涙をうかべているのか

なぜここには温かい空気が流れているのか

これは地獄に落ちるほどの悪事なのか


外国人が去ったあと
ユノがチャンミンを見やった

「詐欺じゃないよ、詐欺だけど」

「はい」

チャンミンはにっこりと笑った

「彼は喜んでいましたね」

「お前は怒るだろうけど、これは人助けでもある。
そんなに儲けてないから俺。」

「人助け…」

「うーん、まぁ、胸張って人助けっていうのも変か」

「彼があんなに喜んでいるのを見ると
そう信じざるをえないですね」

チャンミンは苦笑した

「でも…」

「なんだ?」

「でも…人助けでも、綺麗な人を相手にしたとしたら…
僕はやっぱりイヤです」

「アハハハ…結局そこかよ」

ユノは目を細めて笑った

チャンミンの大好きな笑顔だ

チャンミンも笑って、ユノの元へ歩いてきた
そして、ユノの頬に軽くキスをする

ユノはチャンミンの腰を抱いて歩きだす


「お前、どこから来たんだろうな」

「空です」

「空ってどんな感じなんだ?」

「なんにもないです」

「そうなのか?」

「はい、ただ雲が一面にひろがっているだけ」

「ふぅん、テレビや映画でみるのとおんなじなんだ」

「そう…なのかな、でも、こっちの方がいいですよ」

「そりゃないだろ」

「たくさんいろんな人がいるし
教会の子供たちも可愛いし」

「子供達はお前のことが見えるみたいだな」

「それが嬉しいです、なんかすごく嬉しい」

本当にうれしそうにチャンミンが笑っている


「孤独だったか?なんにもない空で…」

「孤独ですよ、うん」

「下に降りたら、俺がいるから」

「ユノ…」

「空に帰らなくたっていいんだろ?
ずっと俺についていればいいよ。
お前が幽霊だって天使だってなんだっていいさ」

「……ほんと?」

「ああ、ほんと」


僕が…死神と言われる存在でも?


「教会に行こうぜ
子供たちの顔見に行こう」

「うん!」


教会に入ると、子供たちが2人に走り寄って来た


「また来てくれたんだね!えーっと」

子供がチャンミンを見て首をかしげる

「名前?僕はチャンミンって言うんだよ」

「チャンミニヒョン!」

「ありがとう、そう呼んでくれてうれしい」

「今日はね!ダンス覚えたからチャンミニヒョンに
見せてあげる!」

「ほんと?じゃあ早速みせて」


小さな木の椅子にチャンミンは座り
その膝に小さな子供が乗って来た

その子を優しく抱き上げると
やがて、少し大きな子供たちが不可思議なダンスをはじめた。

膝の上の子供がチャンミンを見上げて笑う

たまらなく…可愛い


「ヒョンもヌナもみんな楽しそうだね」

そう言って優しく膝の上の子を抱きしめるチャンミンを
ユノは動けずに見つめていた


あまりに優しく、あまりに美しい存在
この世のモノではないと知っているからだろうか。


そのチャンミンの背中に大きな白い羽根が見えるような気がする


気づけば…いつのまにかユノは深くチャンミンを愛していた

なぜひょっこりとユノの前に現れたのかはわからない

人間ではなさそうなことは、なんとなくわかっていた

でも

ユノをまっすぐに見つめてくれるチャンミンを
なんの曇りもない心でユノを見つめてくれるチャンミンを

ユノは深く愛しはじめていたのだ


夕飯はカン牧師と一緒に、そして子供たちも一緒に
楽しくスープと少しの肉を食べた

カン牧師はチャンミンと多くを語ることはなかったけれど
物静かで穏やかなチャンミンを受け入れてくれているようだった


なにしろ牧師と天使だからな


そう思ってユノは苦笑した


子供たちに見送られ
ユノとチャンミンは教会を後にした

ほんわかと温かい気持ちでユノの心は満たされていた


「チャンミン」

「なんですか?」

「お前、空飛べるか?」

「えっ?飛べるっていうか…
ま、そうですね、できます」

「俺、お前と一緒に空飛んで見たい」

「ユノ…」

「できるか?」

「掟破りだからダメです」

「そっか」

ユノはあっさりと諦めて、また歩き出した

「………」

チャンミンは難しそうな顔をしていた

「チャンミン」

「はい?」

「気にするな、冗談だからさ」

「………」

「早く帰ろ」

ユノが前に向き直った途端だった


突然視界が変わった


「うわっ!」


ユノの身体はチャンミンに後ろから抱きしめられ
ふわっと空に舞い上がった

「ちょっ!」

足が地面からふぅわりと離れた

耳元でチャンミンが囁く

「あんまり、暴れないで」

「だっ…だけど」


さっきまで歩いていた小径がどんどんと遠く離れていく

そして見慣れた建物の屋根の上が眼下にある

「チャンミン…俺を…落とすなよ」

「大丈夫、暴れないでください」


ユノの身体は後ろへ、そして上へとゆっくり引っ張られ
やっと足が着いたのは、山の中腹、電波塔の上だった。


ユノの眼下には、宝石箱をひっくり返したような…
とまでは言えないけれど
綺麗な町の夜景が広がっていた


「うわーすげぇ」

「この町は高い建物がないから、ここで我慢してください」

チャンミンは後ろからユノを抱きしめる格好で
その逞しい肩に顎を乗せた。

「すげぇー!
それしか言葉がでないよ」

「喜んでもらえましたか?」

チャンミンが後ろからユノの耳に囁く


「お前にキスしたいけど、振り向くのは怖い」

ユノが楽しそうに笑う

「このまま夜景を見るといいですよ」

チャンミンも笑った


「あの辺りが教会かな」

「ですね。もうみんな寝たかな」

「腹出して寝てんだろうな」

「僕、いつもここに来ると思うんです
人間って羨ましいなって」

「なんでだ?」

「このたくさんの灯りは、それだけたくさんの家があるっていうことでしょう?」

「まぁ、そうだな」

「家族で暮らしている人も、1人で暮らしている人も
病気の人も、なにかイヤな事があった人も…」

「うん」

「反対にね、いいことがあった人も、たとえば就職が決まったとか、今日恋人ができたとか」

「今日1日で?」

「そうですよ、この灯りの数だけ
今日の物語があるんです」

「なるほどね」

「それを紡いで人生を作る人間が
羨ましい」

「いいんだよ、チャンミンはそれで」

「え?」

「お前は死なずにずっと俺の側にいるんだ。
それで俺が死んだら、お前が俺を天国に連れていってくれたら」

「………」

チャンミンはドキッとした


「俺は天国は無理かなー」

「………」

「なーんてな、冗談言ってんだからそこ否定しろよ」

「アハハ…そうですね」


否定できないチャンミンは
胸が切なく苦しくなった


先のことは考えない
今はこんなに幸せなんだから

チャンミンはユノの肩に頭を乗せて甘えた

「ユノ…ユノ…」

「ん…」

ユノの前髪が夜風にそよいでいる

「ユノ…大好きだよ」

「俺もだよチャンミン」

「ユノより僕のほうがユノのこと好きだから」

「なんだよ、子供みたいに…」

ユノが笑う

「だって、本当に大好きなんだもん」

「俺だってお前のこと大好きだよ」


町の小さな夜景が涙で滲む

ユノ…

「チャンミン…」

「ん?」


「愛してるよ」

「僕も!」


チャンミンの頬に涙が一筋、ポロリと落ちた






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死神の恋 11



今日は珍しくユノと連絡がとれなかった

チャンミンは不思議に思ったけれど
また詐欺を働いている可能性もあり、
パスポートを偽造している可能性もある


なにしろ定職がないのだから
それらをするしかない

でも、それはさせてはいけない


チャンミンは瞳を閉じて神経を集中した


ユノがどこいいるのか…探った…


いた!


ユノは綺麗な女性と食事をしている

そこそこいいレストランで珍しくユノはスーツを着ている。
いつもの親しみのあるお兄ちゃん、といった雰囲気が一変して、エリートビジネスマンのようだ


それはそれで、とてもカッコいい。
スタイルがいいこともあるけれど、
ユノはどこか品があった。


耳を済ますと、会話が聞こえてくる


女性に事業の話を持ちかけて
お金を出させようとしているようだった

やっぱり…

これ以上悪事をさせてはいけないという気持ちはもちろんだけれど

綺麗な女性と食事、ということもチャンミンは面白くなかった

チャンミンはユノと女性が食事をするレストランの屋根に、ふうわりと舞い降りた

チャンミンがここを嗅ぎつけたことなど
まったくわからないユノは目の前の獲物から大金をせしめることに集中していた。

と、その時


ユノが食事をしている個室のドアが静かに開く

給仕が来るのかと思っていたユノの視界に
黒づくめのチャンミンが現れてびっくりした


「あ…」



チャンミンは落ち着いた表情でゆっくりと歩いてくる

できたら…チャンミンにこの場を見せたくない

ユノはそう思った
なんだかいろいろとバツが悪い


女性を騙してお金を取ろうとする場面なんて
好きなヤツに絶対見せたくない


幸か不幸か
女性にはチャンミンの姿が見えないようだ

取引はまさに佳境

チャンミンがゆっくりと近づいてきて
女性の横に立つ


そして穏やかにユノを見つめている

その優しい眼差しがユノには逆に辛かった


「私はあなたにいくらでも賭けるつもりなの」


女性がきれいに彩られた指先で、ユノの手にそっと触れる

「………いくら…でも?」


「籍を入れたらどうせ2人のものなのだし」

「そう…だな」


「ヨンファ?」

「ん?」


ヨンファと呼ばれたユノが顔を上げた

チャンミンも聞きなれない名前に
不思議そうにユノを見た


「どうしたの?さっきまであんなに乗り気だったのに
大きなお金を動かすことに怖気付いた?」

「ああ、えっと、そんなことはないさ」


今までにない大金が入るチャンスだった
ユノはここで引き下がりたくなかったけれど

チャンミンの視線がユノをこれ以上前に進めさせてくれない

どうにもならないユノ


「あー俺さ」

「なに?」

「ごめん、やっぱり自信ない」

「は?なにが?」

「うーん、大金動かすことも、その…お前とやっていくことも…」


ユノは苦笑しながら、どうにか言葉を繋げていた

「あたしと…やっていくことも?」

「うーん、そう、ごめん」

「もう一度考え直して」


女性は少し強い態度に出た


「えっと」

「あなた、怖気付いてるだけ。
一時的なものよ、手にしたことのない大金だから」

「そうかもしれないけど…」

「気になる言い方ね、もしかして、あたしが問題?」

「うん…」

「え?あたしと籍入れることが問題?!」

「強いて言えば、そうかな」

「は?」


ユノは女性の顔をまともに見ることができない


なんていう展開なんだよ



いきなり、パチーンと音がして
ユノの頬に強烈な衝撃が走った

頬はジンジンと痛み、しばらく頬を押さえた

殴られた…だよな?


気がつくと目の前の椅子には
チャンミンがニコニコと笑って座っていた


「あ……」


「さっきの女性は帰りました。
ここの支払いはしていかなかったみたい」

「えーマジかよ」

ユノは頬を押さえながら舌打ちをした


「チャンミン、邪魔しやがって」

「………怒ってる?」

「怒ってるさ、大金が手に入るチャンスだったのに。
聞いてただろ?」

「でも、あの人と結婚するつもりなんてないんでしょ?」

「言ったよね?俺、詐欺やってるって」

「詐欺なんていけないことです、ユノ」

「お前には理解できないだろうよ」


ユノはイラついた態度で、チャンミンとは視線を合わさなかった

「僕にもわかります。詐欺はいけないことです」

「なぜ、それを俺がやってるか、お前にはわからないってことだよ」

「お金がいるからでしょ?それなら他の方法で…」

ユノがチャンミンの言葉を遮っていきなり立ち上がった


「だから!お前になにがわかる!」

「ユノ…」

「俺みたいなのが、金稼ぐ方法なんて
真っ当な仕事じゃ無理なんだよ!」

「どうしてそんなにお金がほしいんですか?」

ユノが怒鳴っても、チャンミンは負けなかった

「ふつうに生きていくお金があればいいじゃないですか。大金より悪いことをしないで生きるほうが大事です」

「ふわふわ天使のお前にはこの下界の厳しさはわからないだろうな!」


「ユノ…」


「あの施設を建て替えるんだよ。もうボロボロなんだ
必要最低限の補助でやっていけねぇ」

ユノはイラついたように身振り手振りを大げさにして
説明した


「あ…あの施設…」

「そうだよ!」

「………」

「あの女から巻き上げられたら、そこそこ目標額達成だったのに…」



「でもね、ユノ」

「なんだよっ!」

「誰かを騙して得たお金で施設を直しても
みんな喜ばないでしょう」

「……金の出所なんて、言わなきゃわかんねぇだろ」

「そういうのはわかります。
牧師さんにこのお金はどうしたと聞かれたら
ユノはなんて答えるんです?」

「うるせぇな、お前、俺のやることに口だすなよ!」

「………」

「せっかくのチャンスだったのに…」

「………」


ユノは席を立って、個室の入り口へ向かってドカドカと歩いて行った

ドアノブに手をかけて、少し気になり振り返ってみると

椅子にチャンミンが悲しそうに座っているのが見える

丸めた背中、きれいな頸


泣いているのだろうか


少し言い過ぎたかな…


目の前の大金をみすみす逃してしまってイラついたのはたしかだ。

だけど…

チャンミンの言うことは正しい

誰かを騙して得た金で施設を直したところで
胸を張って子供たちに笑ってみせられるだろうか


カン牧師にはきっとわかる

自分が何をして稼いだ金か

だけど…

ユノは自分が情けなくもあり
でも強い意志もあった

そして…

もう一度チャンミンを見ると
その肩が震えているように見える


自分が何者なのかもわからず
それでもユノの側にいようとするチャンミン


いつも優しく笑いかけてくれる
俺の天使


その哀しげな撫で肩をみていると

ユノの胸に愛しさが溢れて
たまらない気持ちになった


ユノはゆっくりと、チャンミンのところに歩いて戻って行った

そしてひとつため息をついた


「ごめん…言いすぎた…」


静かで低いユノの声に
チャンミンがそっと顔をあげた

やっぱり

その大きな瞳は濡れている


「泣くなよ…言いすぎたよ」

「僕…」

「……」

「ユノが綺麗な人に笑いかけてて」

「あ?」

「なんか…それもイヤでした…」

「……」


「あの人が悪い人なら…お金を取ってもいいのかもしれないね…」

「チャンミン…もしかして」

「ん?」

ユノを見上げるチャンミンは
透き通るような、まさに天使の美しさで

ユノは思わず頬が緩んだ

「チャンミン…ヤキモチ?」

「え?」

「俺が綺麗な人といたから
ヤキモチ妬いたの?」


チャンミンはモジモジと指先をいじりだした

「………」

「天使のヤキモチ…いいタイトルだね」

ユノは、黙って俯くチャンミンの髪をくしゃくしゃと撫でた

「結婚詐欺なんて…やっぱりよくないですよ」

「他に仕事があればね、やめるけど」

「ユノ」

チャンミンが顔をあげた

「ん?」

「僕と一緒にいてくれるつもりなら」

「ん…」

「結婚詐欺はやめて」

「……」

「あなたがこのまま、詐欺を続けるなら
僕は一緒にはいられない」

「っていうか、いたくないんだろ?」

「そう、ヤキモチを毎日なんてイヤですよ」

プッとユノは吹き出した

「そうかーいやかー」

ユノはチャンミンの頬を両手で挟んで
その唇に軽くキスをした


「わーかったよ!やめるよ!」

「ほんと?」

「うん、仕方ない
お前がイライラするのもあんまり見たくないしね」


チャンミンは安心して、ふんわりと微笑んだ

「よかった…」

「そのかわり、ずっとそういう笑顔をみせてくれること」

ユノがチャンミンのおでこをそっとこづく

「わかりました。いつも笑顔でいます
ユノ次第だけどね」

「なんだよ、それー」


結局、ユノは高い食事代を払って店を出た


チャンミンは考えていた…

どうしたら、あの施設を建て替えることができるのだろう

下界はお金というものが力を持ちすぎて
ほんとうに面倒くさい


それでも、口笛を吹きながら夕陽の中を歩くユノの背中は広くて頼もしい


子供たちのために施設を直そうとしているユノ


たまらない気持ちになって
チャンミンは思わずその背中に抱きついた

「おっと!なんだよ」

そんなユノもとても嬉しそうだ


ユノは思った

チャンミンに言われなければ
詐欺をやめることがいつまでもできなかっただろう

こんなこといけないと

いつか捕まったりするだろうと

心のどこかで黒い影がくすぶっていた

それが吹っ切れて
ユノの笑顔が夕陽にまぶしく輝いていた






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死神の恋 10



「お前…この世のモノじゃないだろ…」


その瞳はとても落ち着いていて
優しくチャンミンを見つめている

びっくりしたチャンミンは
ユノの胸から思わず手を引っ込めようとしたけれど

逆にユノにがっしりと掴まれてしまった


「ユノ…な、なんてこと言うの…」


「俺さ…小さい頃から、たまにオバケが見えるんだよ」

「オバケって…」

「普通はわかるんだけどな、
そいつが死んでるのか、生きてるのか」

「………」

「チャンミンを初めて抱いた時、あまりに綺麗で人間じゃないかもしれないなんて思ったけど、死んでるって感じはなかった」

「……」

「だけど…スムージー食べに行った時
確信したんだ」

「あ…」

「あの店員はお前が見えてなかった」

「………」


チャンミンはこのまま、逃げ出したかった


「死んでるんだな、チャンミン」


そうじゃないんだ…


「………」

ユノはベッドに半身を起こして、チャンミンの両肩を掴んだ

「いいんだよ、俺、わかるから
お前の事怖くなんかない」

チャンミンは不安そうにユノを見上げた

「だけどね、チャンミン」

「……」

「俺が怖いのは、お前がこの世で彷徨うのをやめて
天国へ行ってしまうことだ」

「ユノ…」

「小さい頃教会で、死んだ人が光に包まれて空へ登っていくのをよく見た」

「……」

「お前もそうなるのが怖い
会えなくなるのはいやだ」

ユノの真剣な瞳に怯えが宿り始める


会えなくなるなんて…そんなの僕だっていやだ

だけどもっと嫌なのは、あなたが天国に行かれないことだ…


地獄への審判が下ったら
あなたはまた、そんな怯えた瞳をするんでしょう?

そんなの、僕は耐えられない


チャンミンは思わずユノを抱きしめた

「ユノ」

「チャンミン…」

「僕も…怖いんです…」


チャンミンがユノを掻き抱くように強く抱きしめると
ユノも強く抱き返した

「ずっと…一緒にいるわけにはいかないのか…」

「ユノ…僕は死んでるわけではないんです」

「え?」

「正直言って、僕も自分がよくわからないんです」

「もしかして、幼い頃に亡くなってるんじゃないか?」

「そんな風に言われたこともありますけど…」

「覚えてないんだろ?」

「生まれる前に亡くなった魂が僕のようになるって
聞いたことはあります…でも、本当のところはわからないんです」


ユノはチャンミンを体から離して
その頬を両手で優しく挟んだ

チャンミンがユノの顔を見ると

穏やかに微笑んでいる

「?」

「お前、もしかしたら天使だったりして」

「あ…」

「この世に生まれ出る事ができなかった魂が
天使になるって聞いたことあるぞ」

「そう…なのかな…」

「背中に羽は生えてないか」

ユノの目が優しく細められる

「へへっ…そんなことない
みたでしょ?」

チャンミンはなぜかくすぐったそうに笑った

「どこかへ行く必要ないんだろ?」

「どうなんだろ、たぶん無いと思い…ます…」


チャンミンはウソをつく

とても本当のことなんて言えなかったし
言いたくなかった

一緒にいたいのは本当の気持ち

このユノの優しい笑顔を
ずっと見ていたい


今は何も考えたくない

チャンミンは出来る限りの笑顔で
ユノに微笑んだ


「俺の天使か…」


とりあえず、ユノが嬉しそうだ

こういう存在には慣れていたのがよかったのかどうか
チャンミンはそのことについて考えるのはやめた




********



「今のチャンミ二ヒョンはとても危険だと思う」


テミンの言うことはいちいち正しかった

「テミンには僕の気持ちはわからないよ」

「それはそうだけど、ヒョンは自分でもわかってるはずだ」

「………」

「これじゃいけないって、ヒョンはわかってるんでしょ?でも見て見ないふりをしてる」

「お願いだから、もう何も言わないで」

「僕はね、ヒョンが傷ついたり、
罰を受けていなくなってしまったり
そんなのがいやなんだよ」

「テミン…」

「僕はチャンミ二ヒョンが心配なの」

「……少なくとも…僕もテミンみたいに
ユノを天国へ導けるなら…よかったのに」

「ヒョン…」

「………」

「ねぇ、ユノさんはヒョンが地獄への案内人だって
知ってるの?」

「知らない…幽霊でもなく、天使だと思ってる」

「こんな黒装束なのに?」

「そこは…特になにも…」

「恋は盲目だね」

「そうだね、僕もユノの本質はもうわからないよ」

「いい人が悪人か?」

「うん…」

「いい人なのかもしれないじゃないか
それをきちんとジャッジしてあげるのが
ヒョンがユノさんにできる大切なことだよ」

「うん…」

カン牧師からは、ユノを幸せにしてやれと言われた
そして、テミンは導けと

そのどれも…ユノにしてあげたいこと…


けれどそのどれも、自分には力がなさすぎると感じている…

まったくもって、なんの自信も持てずにいた


はじめて感じる気持ちと、コントロールできない自分の行動にチャンミンはフラフラと足元がおぼつかないような、そんな状態だった…






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死神の恋 9



懺悔室に消えたチャンミンを思い
ユノはその小さなドアを見つめながら立ち竦んでいた


チャンミンが何を懺悔することがあるというのか。
あんなに純粋で…素直で優しくて

でも

もしかしたら……チャンミンにも懺悔することがある?

え?

そうなのか?

自分の知らないチャンミン…が…いるのか?

そう言われて見たら
チャンミンのことを何も知らない

チャンミンはいったい何者なのだろう

どこから来て、どこに住んでいるのだろう

もしかしたら…


ユノの心にあるひとつの疑念がやがて確信となってきた


チャンミンは懺悔室から出てきた。
その高い身長を折り曲げるようにして。

その表情は晴れやかで
ユノに向けて可愛い笑顔を見せる

「お待たせしました!」


「どうだった?
スッキリしたって顔だぜ?」

「うん、スッキリしました」

「そう?」

チャンミンがニコニコと微笑みながら
ユノの目の前に立った

「このまま、あなたを好きでいようって
決心しました」

「え?へへっ…なんだそれ」

ユノが驚きながらも少し照れくさそうに笑う

「僕には先の事とかいろいろ考えすぎるところがあって。でも、今を大切にしようって。」

「ふぅん…」

チャンミンはニコニコと笑っている

「ま、俺のことそのまま好きでいようって言うならなんでもいいや」


「今日はこれからどうしますか?」

「うーん、そうだな」

そこへカン牧師も懺悔室から出てきた

「つつましいものだけど、よかったら子供たちとシチューでも食べて行かないか?」

チャンミンが振り向いた

「僕…も?」

「当たり前じゃないか」

カン牧師が穏やかに微笑んだ

「あ…ほんとにいいんですか?」

「いいよ、チャンミン、
シチューご馳走になっていこうぜ」

「はいっ!」

チャンミンが子供のように元気よく返事をすると
まわりの子供たちもマネをして次々に返事をした。


施設にはいろんな年代の子供がいるようで
数人の保育士がいるようだった。

施設として認可を得て、ある程度の補助もあるだろうけれど、その生活ぶりはとても慎ましいものだった。

それでも食事は温かく
子供たちの笑顔も明るくて

下界にいるときはいつも1人で食事をしていたチャンミンにとって、とても楽しい時間だった


食事が終わると、ユノが子供たちに紙芝居を見せてくれ
チャンミンは子供を膝に乗せながらそれを楽しんだ

子供を喜ばせようと戯けるユノは
とても優しくて頼もしくて

チャンミンは反対にとても切ない気持ちにもなった。



残り少ない命を少しでも幸せに

僕はあなたを幸せにしたい

そして、あなたが後にあまり苦しまなくて済むように…

僕はがんばるよ

ね、ユノ


子供たちは寝る時間となり
それぞれ寝室へ入っていった


「チャンミンニヒョン、また遊びに来てね」

「あ、うん!また来てもいいのかな」

「来なきゃダメだからね?」

「……」

「やくそくだよっ!」

「…ありがとう!また来るね」


みんなに見送られ、ユノとチャンミンは夜の小径を歩く


「みんな、子供たち可愛いですね」

「ああ、みんないろんな事情で親と住めない子供たちなんだよ」

「でも、すごく明るい」

「うん、小さい頃の思い出ってさ
その後の人生にすごく影響あると思うんだ」

ユノも…そうなんだね
だから、あなたの心から悲しみが溢れ出してる

「だから、ここの子供たちには絶対楽しくすごしてほしいんだよ」

「いい思い出を、ね?」

「ああ」

チャンミンは胸が張り裂けそうになった
僕もあなたに人生は楽しかったと少しでも思ってほしい


「お前、今夜俺のところに来るだろ」

「…うん、いいの?」

「ずっといたらいいよ」

「へへっ…そんなこと言われると
ずっといるかもよ」

「大歓迎だよ、お前なら」

そう言われて横を見ると、そこにはユノの真剣な顔があった

チャンミンは嬉しくなってユノの手に自分の指を絡めた


「僕と住んでたらいいことばかりだよ」

「そうなのか?そりゃいいな」

「料理は得意だし。
なんでも作ってあげる」

「楽しみだな。
だけどうちの台所が残念な感じだな」

「そんなの関係ないよ」


崩れそうなユノのボロ家が見えて来た

どんなに家がボロくても、関係ない

ユノがいれば…


夜が更けると、2人はベッドにもぐる

チャンミンが布団にもぐってニコニコとユノを見ている


「毎晩…抱いてね、ユノ…」

「お前…そんな顔でそんなこと言うなよ」

「どうして?」

「俺もう理性が全部ふっとんだ!」

そう言ってユノはチャンミンを抱きしめた

自分の胸の中のチャンミンを
愛おしそうに見つめながら

ユノはチャンミンの頬を優しく撫でた

その夜も散々抱き合って
ユノはぐっすりと眠っていた


チャンミンはひとり起き上がり
月夜に照らされたユノの整った顔を見つめていた

そして、そっとユノの胸に手を置いて
目を閉じた


聞こえる

また、あの悲しい叫び


" ルカ! "

" ヒョン!ユノヒョン!"


幼い声だけれど、ユノの声だとわかる

どんなつらいことがあったのか

ユノをヒョンと呼ぶ、ルカとは誰なのか

幼いユノの悲しさがチャンミンに伝わる
胸が張り裂けそうな悲しみ

チャンミンの閉じた瞳から
ポロポロと涙が溢れて止まらない

" この泥棒!"

幼いユノが受けたであろう罵声に

チャンミンはビクッとなった



気づくと、チャンミンの手はユノに握られていた

「あ…」

自分の胸に置かれたチャンミンの手をしっかりと
ユノが握りしめている

その切れ長の瞳はじっとチャンミンを見つめていた

「泣いてんの?」

「えっと…」

握られてない方の手で
チャンミンは自分の涙を拭った

何をしているのか?と聞かれたら
なんと答えればいいのだろう

「チャンミン…」

「あ…えっと…なに?」

「………」

「……?」



「お前、この世のモノじゃないだろ…」


え…








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死神の恋 8




「ユノはこれからどこかへ行くの?」

「あー俺さ、ちょっと仕事あって」


詐欺だろうか…
また偽造パスポート?

これ以上、悪事は重ねないでほしい

チャンミンは怪訝な顔になった


「ちょっと手伝ってくれるか?」

「僕になにか手伝えることが?」

「大したことじゃないよ」


悪事は…手伝えないよ?


少し不安な気持ちで後をついていくと
ユノはゴミ置場から、いくつかの板や、壊れた家具を拾っている


「これを何に使うんですか?」

「うん、教会の隣に施設があってね
雨漏りするんだってさ、だから直してやろうと思って」

あ、あの子供の施設か…
そういうことなら

「僕もやります!手伝いますよ」


チャンミンも張り切って板を集めて
ユノの後をついていった

施設に着くと、ユノのまわりに子供たちが寄ってきた

甲高い声がユノを取り囲む


「ヒョン!来てくれたの?!」

「ユノヒョン、あそぼ!」


そんな光景を前にして
チャンミンは少し後ずさりをした

警戒した


子供は純粋なせいか、
チャンミンの姿が見える子が多い
そして、この黒装束を本能的に怖がる子も多い

子供に怖がられて泣かれてしまうことは
しょっちゅうだった

仕方ないとはわかっていても
チャンミンはその度に…軽く傷ついていた


7、8人集まった子供はみんな4歳〜5歳くらい
その内の1人の男の子がチャンミンに気づいたような素振りを見せた

そして、テコテコとチャンミンに近寄ってきた

チャンミンは更に後ずさりをしてしまう

そんなことはお構いなしに
男のコはチャンミンの真ん前に立ち、背の高いチャンミンを見上げた


「ヒョンはだれ?」

「あ…」


この子には見えるんだ

その内、全員がチャンミンに気づき
わーっと集まってきた

チャンミンはたじろいだ

この子たちみんな、僕のことが見えている

しかも…怖がってはいないようだ

それはいいのか、悪いのか
とりあえずユノの前としてはこれでいい

僕のことが見えない子がいたらそれはそれで変だし…


ユノが優しい笑顔で子供たちの後から近づいてきた

「あーみんな、このお兄さんはチャンミンだよ」

ユノがまるで幼稚園の先生のようだ

「ユノヒョンの友達?」


「友達よりもっと大事」


ユノが笑顔でそう言ってチャンミンを見て目を細めた

嬉しい…僕はユノにとって大事な存在ってことでいい?


ユノ…

僕もあなたがとても大事です


「さぁ、雨が降るとベッドが濡れるんだろ?
どの辺だ?直してやる」

「えっとね!こっちこっち!」

ユノは子供たちに導かれて寝室に行く。

その時

「!」

なんと、チャンミンの両手にも、子供たちがぶら下がってきた。
何気ない子供たちのそんな行動にチャンミンはひどく驚いて…

こんなこと…

今まで経験がなかった

「死神」と呼ばれて、忌み嫌われてきた自分に手を繋いでくれるなんて…

うれしくて

チャンミンも子供たちの小さな手をギュッと握り返した

心に温かい感情がじんわりと溢れてくる



たくさんの2段ベッドが並ぶ寝室の天井に
シミがついている

「ここだな、わかった」

ユノは脚立と板を持って外へ出た。


「チャンミン、釘とトンカチ持ってて」

「あ、はい」


と、その時

あ…

チャンミンの脳裏に

リストの文字が浮かぶ


死因 : 落下事故


ユノ…

ダメだ…屋根の上なんて


チャンミンは急に焦り出した


見るとユノはもう脚立に乗って屋根に上がろうとしている


ユノ!!

ダメだ!!

屋根なんかに上がっちゃダメ!


チャンミンは釘とトンカチを持ったまま
黒いコートを翻して走り寄った



そこで、チャンミンは思いとどまった



僕が運命を変えては…いけない…



「釘とトンカチ貸して」

ユノは脚立から降りてきた。

このまま、ここにいて
屋根には戻らないで

ユノは不思議な顔をしながらも、動かないチャンミンの手のひらから工具を奪うように取って再び脚立に戻った


チャンミンは強い眼差しで、脚立を登って行くユノを見あげた

まるで念じるように強い視線で見つめ続ける

ユノはチャンミンの心配など気づかず、
ひょいと屋根に上がる


ユノ…ダメなのに…

ああ…どうか…お願い…


どれくらいの時間がたったのだろう

チャンミンはただじっと
ユノを強い視線で見つめ続けていた


祈りながら
どうか不幸な事故がユノの身に起こらないように


ユノが作業を終わる頃になると
チャンミンはもう耐えられなくて目を閉じてしまった

見ていられない!


そしてチャンミンは確信した


自分はユノを助けることもできず、何もできず
その最期を見届けるなんて…やっぱりできない


そんなチャンミンの動揺を打ち消すような
ユノの明るい声が響いた


「さぁ、これでもうベッドは濡れないぞ」

その声に、チャンミンはそっと目を開けた

目の前に、ユノの笑顔があって
子供たちが喜んでユノに抱きつく


よかった…

チャンミンは盛大にため息をついた



ユノは一番小さな子を抱っこして教会に戻った。
チャンミンも子供たちの手を引いて教会へ入った


ふと見上げると

教会の天井には何人もの天使がいて
チャンミンを見つめひそひそと話をしている

チャンミンはジロリとステンドグラスの天井を睨みつけた


天使たちは、死神が教会に何の用だと
そんな風に言っているのかもしれない

だけど

僕だって天使なんだ

「死神」なんて人間が作った言葉なのに

僕は悪人を導く天使ってだけなんだ

たしかに教会に来る機会は少ないし
悲惨な場面も見て来ている

だけど

僕が悪人なわけじゃない

チャンミンは下唇を噛んだ


ユノは子供たちに挨拶をして
教会を離れようとしていた

「ユノ」

思わずチャンミンは声をかけた

「なに?」

「この教会、すごくきちんとしていて
ちゃんと懺悔の部屋もある」

「懺悔?」

「少しでもその…罪が軽くなるように
懺悔もたまにはいいと思いますよ」

「はぁ?」

ユノは驚いた顔をした

「お前…俺が懺悔って…」

「いや、その…なんていうか…」

「何時間かかるんだよ、俺の懺悔なんて」

「え?」

声高らかにユノが笑う

「アハハハ…どんだけ俺が悪さしてるかって話」

ユノ…

そこへあのカン牧師が入って来た

カン牧師は優しい顔で寄って来る子供たちを抱きしめたりしていたけれど、
チャンミンの姿を見るとその表情が曇った

「……」

「おっさん、屋根直しといたぞ」

お、おっさん…て…

「悪いねいつも、これでみんなの寝室が濡れずに済む
みんなユノヒョンにお礼を言ったのかな?」

子供たちはハッとした顔をして慌ててユノに向き直った

「ヒョンありがとう!」

「はいはい」

ユノがみんなの頭を撫でている
子供たちはユノの足の長さにも足りない背で
一生懸命伸びをして、ユノに近づこうとする

「そこの君」

微笑ましくその様子を見ていたチャンミンに
いきなりカン牧師が話しかけた

「は、はい」

「悔い改めることがあれば
お伺いしますよ」

牧師はそう言って、懺悔室の小さなドアを指差した


カン牧師は2人で話そうって…言いたいのかもしれない


「いいよ、チャンミン懺悔なんて」

ふとユノがチャンミンの腕を掴んだ

「ユノ…」

「どんな商売だって、生きていくためのことなんだから
気にすることない」

「え?あ…」

僕が風俗業ってことを言っているのか

えーっと

優しいね、ユノはほんとに

カン牧師はユノを想って、僕になにか話そうとしているはずだ。
ここは話を聞かないといけない気がする


「僕…少し懺悔させていただこうかな」

チャンミンはいたずらっぽくユノに笑いかけて
カン牧師に続いて懺悔室へ向かった

「チャンミン…いいんだって」

心配そうなユノを安心させるように
チャンミンはヘヘッと笑う

「ここで少し待ってくださいね」


懺悔室の小さなドアを開けると
カン牧師はもう準備をして小さな窓の向こうに横向きに座っていた

チャンミンは黙って小さな木の椅子に座った


「この間は悪かったね」

「いえ…なにも…」

「君は…」

「はい」

「自分の使命を疎ましく思うことなんかないんだ」

「……」

「君は立派な天使なんだから」

「……」

俯くチャンミンにカン牧師は優しい眼差しを向ける

「君に頼みたいことがあってね
ここに来てくれてよかった…」

「僕に…ですか?」

チャンミンは少し顔を上げた

「君がそばにいるということは、ユノはもう長く生きられないということだ。
この間君を見たときはさすがにショックだったけれど」

「……」

「仕方ない…それがユノの運命なんだから」

「……」

「だけど…ユノはかわいそうな子供だったんだ
物心ついた時から自分1人で生きていかなければならなかった…」

「……」

「いや、だからと言って何してもいいわけではないけれど」

「……」

「短くて不幸な人生の最期を君が幸せにしてやってほしいんだ」

「僕に…そんな大役が務まるわけないです…」

「君なら、と思ったんだが?」

「なんていうか…」

「………」

「ちょうど…自信をなくしていたっていうか」

「君は…ユノが嫌いか?嫌な奴だと思うか?」

「いいえ!」

チャンミンははっきりと言った

「僕は…ユノが…大好きです。
とっても大切に想っています。
そういう立場じゃないのは…わかってますけれど」

「だったら、最期にユノの人生を輝かせてほしい。
ユノの…ために」

「……」

「どうか…頼む」

「僕に…できるかどうかわからないけれど
ユノを幸せにしてあげられたら…」

「きっと君ならできると…思うんだ」

「もし…」

「………」

「もし、僕がユノを幸せにできるなら…」

「………」

「僕は…全力を尽くします」





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死神の恋 7




「で?マンゴースムージー食べたんだね?」

「美味しかったよ!テミン、教えてくれてありがと」

「どういたしまして。
そんなチャンミ二ヒョンの笑顔、初めて見るよ
よっぽど美味しかったんだろうねぇ」

テミンがニコニコしながらチャンミンを見つめる


「うん、冷たくてね」

「当たり前でしょ、スムージーなんだから」

「あ、そうだね…へへ」

「もう…チャンミ二ヒョン…
その笑顔はスムージーが美味しかったからだけじゃないねー」


テミンのニコニコがとまらない


「ユノと一緒にいると、ほんとに楽しくてしかたないんだよ」

「そうなんだ!」

「だってさ、ユノね…」

「ヒョン」

テミンがはしゃぐチャンミンの言葉を遮った


「僕は…しっかりと警告したからね」


テミンがチャンミンの顔を真剣な瞳で見上げた
途端にチャンミンもさっきまでのはしゃぎぶりがウソのように静かになった…


「…わかってる」


チャンミンは項垂れている

「情が湧いてしまったら…ダメなんだよヒョン」

テミンはできるだけ優しく、けれどきっちりとチャンミンを窘めようとした

「うん…」


「情なんて通り越して、すでに恋って感じに見えるけど?」

「……」

「そんな感情が僕らに芽生えるなんて…
あってはいけないことだ」

チャンミンは可哀想なほど、下を向いてしまって
唇を噛み締めて、何かに耐えているように見える

「……」

さすがにテミンもチャンミンが哀れになってきた

なんのための使命かも理解できず
これが当然の仕事として、こなしてきた自分たち

人間とコミュニケーションをとることは
とても楽しいことだと、テミンもわかっている

恋だって…することもあるさ。


「でもね、ヒョン」

テミンの声にチャンミンが顔をあげる

「チャンミニヒョンがそれだけご執心なんて
どんな人だか見てみたい!」

「は?」

「誰にも言わないよ。ね?」

「だ、だめだよ…テミンには会わせられない
きっとテミンの姿はユノは見える」

「だったら尚更会いたい!」

「なんて紹介していいかわからないからダメだよ!」

「友達だとか、あ、同僚だとかなんとか誤魔化せば」

「ダメ、絶対ダメ」

「どうしてさ」


「ユノがテミンを…気に入ったらいやだ」


「………」

「………」


チャンミンは再び、下を向いてしまった
俯いたチャンミンの耳は真っ赤だ


「チャンミニヒョン…」

「………」

「ヒョン、可愛い」

「なっ…」

「それって嫉妬っていうやつでしょ?
どんな感情?それが生まれるとどんな気分?」

「…あまり…気分は良くないよ」

「だけどさ、ヒョン」

「うん…わかってる」

「そう?」

テミンがチャンミンの顔を覗き込む

「地獄へ連れていかなきゃいけないんだよ?」

「……」

「罪は軽くできても…僕が天国へ連れて行くわけにはいかない」

「うん…わかってる…」

「……」


チャンミンはますます下を向く


わかってる…


でも、今は…少しだけ楽しませて



チャンミンはユノの後を追って、今日も屋根伝いに空を歩く


ジーンズに革ジャンのユノはとてもカッコいい

口笛を吹きながらポケットに手を突っ込み
軽やかに大きなストライドで歩く


ユノは繁華街の裏に入ると
大きな身体の男が待っていて

その言葉の通じない客と身振り手振りと少しの英語で話しをはじめた。


「パスポート、オーケー?キャッシュ、ギブミー」

ユノは自分の胸を指した

「オーケー」

相手の男は胸ポケットからくしゃくしゃになった札を出した。

ユノはそれを綺麗な二本指で挟んで胸ポケットに入れると、代わりに左手に持っていたパスポートを差し出した

「サンキュー」
「ユアウェルカム」

チャンミンはため息をつきながらそのやりとりを
屋根からみている


「あ、ちょっと、ヘイ!」


ユノが男を呼び止めた

不思議そうな顔をして、男が戻ってきた


「ユー、ゴーホーム、えーっとなんだ、トイ!おもちゃ!買ってってやれ、子供に」

「トイ?」

ユノはふところから、札を一枚抜くと男に渡した

「これで酒なんか飲むなよ、ノーウォッカ、ディスマネー」

「?」

「トイ、フォア、ユアベイビー」

途端に男の顔が緩んだ

「マイベイビー…サンキュー…ユノ」

男は一瞬ユノに抱きつき嬉しそうに笑った

チャンミンは羽根のついたペンで
黒いバインダーに今見たことをサラサラと書き込む

その表情はとても穏やかだった


ユノは…とても優しい


どうかこの優しさが天国のジャッジに伝わりますように

チャンミンは黒いコートの胸ポケットから
黒いスマホを出してにっこりと微笑んだ

そして、黒いコートを翻して
片足のつま先から地面に降り立った

しばらく音を立てないように
ユノの後をついて歩き

突然声をかけた

「ユノ!」

ユノはビクッと肩を震わせて、驚いたように振り向いた

「…チャンミン!」

「ユノ、こんにちは!」

「……」

「あ!僕ね!」

「……」


話しかけるチャンミンを無視して
ユノが向き直って歩き出した


「あ…ユノ…」


どうしたのだろう

明らかに怒っている


この間は僕を好きだと言ってくれたのに

スタスタと歩いて行ってしまうユノをチャンミンは泣きそうになりながら追いかけた

「ねぇ、ユノ…」

「………」

「何怒ってるの?」


と、路地の突き当たり近づいたところで、
ユノが急に振り向いたので、チャンミンとユノはお互い額を軽くぶつけ合ってしまった


「ユノ…」

眉が八の字になっているチャンミンと
その切れ長の瞳を吊り上げて怒っているユノ

「お前…」

「はい?」

ユノはイラついたように、辺りを見回してつぶやく


「ブラックエンジェルなんて店なかった」


「え?」


「お前が言ってた店、ないじゃないか!
ウソついただろ!」

「僕を…もしかして…」

「そうだよっ!お前を探したんだよっ!
この間別れる時、俺の連絡先くらい聞けよ!」

「僕が?え?僕から聞けって?」


チャンミンは目を白黒させている
ユノの言っている意味がよくわからない
なぜこんなに怒っているのだろう

「俺からお前の連絡先なんて聞けるかよ!」

「どうして?」

「どっ…どうしてって…」

「?」

「プライドってもんがあるだろ?」

「……プライド?」

「俺から、お前に聞くのかよ?電話番号とかをさ!」

「…えっと」

「そのまま帰るからびっくりだよ…
だから、店に連絡するしかねぇかと思って」


引き留めて、連絡先を教えてって素直に言ってくれればよかったのに…

あ、でも

「あのね、僕…」

チャンミンは嬉しそうに胸ポケットから
スマホを取り出した


「これ、僕、スマホ持つことにしたんです」

「え?お前、今までスマホなかったの?」

「はい…店のしかなくて…でも、今度からこれで。
僕もユノと連絡がとりたくて、手に入れたんです」


「チャンミン…」

「えっと、どうやったら、ユノの番号が…」


スマホを不器用に操作しようとするチャンミンの様子をしばらく見つめていたユノは

いきなりそのスマホをとりあげて、チャンミンの腕を引っ張った

「あ!なにする…」

ユノは自分の胸にチャンミンをしっかりと抱き込んだ

「!」

いきなり抱きしめられたチャンミンはびっくりして
言葉がでなかった

「………」

「ユノ?」

「……チャンミン」

「はい」


「会いたかったよ…」


「え…」


「すごく会いたかった…
探したんだぞ…」


ユノはぎゅっとチャンミンを抱き込んだ


ユノ…


「ごめんなさいユノ…
僕も会いたかった…」

「だからスマホ手に入れたんだろ」

「うん…」

「嬉しいから許すよ、もういい」

「?」

チャンミンを解いたユノは
満面の笑顔だった

ユノ…

チャンミンの胸がぎゅっと苦しくなった


僕は

本当に

この人が好きだ


「俺の番号登録するから」

チャンミンから奪い取ったスマホに
ユノは自分の番号を登録した

終わると放るようにチャンミンにスマホを返した

「俺の電話番号しか登録しなくていいからな」

「フフ…」

チャンミンが嬉しそうに微笑む

「わかった?」

「わかりました」

「これからしょっちゅう連絡するけど」

「はい」

「お前も連絡しろよ?」

「はい!」

「たぶん俺は毎日連絡するかもしれないけど…」

「きっと僕も毎日しちゃいますね」

「そう?」

「はい!」

「何時でもいいからな?」

「いいの?」

「ああ、ほんとに何時でも、チャンミンからの電話なら出るから」

チャンミンがニンマリと笑う

可愛い唇をニーッと開き
目を細め、その眉がなぜか段違いに下がる

「なんだよ、そんなデレっとした顔して」

ユノは照れ隠しに鼻をすするようにして
そっぽを向いた


テミンの忠告はいったん宿題だ


チャンミンはそう思った





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死神の恋 6



はしゃぐチャンミンと、そんなチャンミンをやれやれといった感じで引き寄せるユノ。

そんなユノはとても嬉しそうな顔をしている。

店に入ると、2人は隅のテーブル席についた


若い女の店員がやってきた

「ご注文は?」

「マンゴースムージー2つ」

ユノがメニューを指差す

「え?2つですか?」

店員が不思議そうな顔をする

「うん、2つ…」

ユノも不思議そうな顔で答える


マズイ…


チャンミンは思わず下を向いてしまった

ユノにはチャンミンが見えているけれど
基本、この店員のように普通の人間にチャンミンの姿は見えない。

ユノはそのことを知らない

チャンミンを普通の人間だと…思っているだろう


はしゃぎ過ぎた…


ユノとコミュニケーションがとれることが
思わず楽しくて…

2人きりでいる時は良くても
こんな風に街中に出てマンゴースムージーなんて

やっちゃダメなことだった…


それに気づくと、なんだかチャンミンはとても悲しくなった。


「お2つ…召し上がるんですね?」

「そう」

「2つ同時にお持ちしますか?」

「………」

ユノが怪訝な表情になってきた


「もちろん、2つ…一緒に持ってきて」

「はい、かしこまりました」


ユノが店員の後ろ姿をしばらく見てから
チャンミンに視線を戻した

「男が2人でスムージーだっていいじゃねえか」

「………」

「なぁ?」

チャンミンはぎこちなく笑った

「うん…ほんと、いいじゃないですかね?」

「チャンミンはこういう甘いのが好きなのか?」

「そう…ですね、
友達が下界で流行ってるって」

「下界?」

「いや、ちがっ!…なんていうか、一般的に…」

「ふぅん」


やがて、マンゴースムージーが2つ運ばれて
それは2つとも、ユノの目の前に並べられた

店員が去るとチャンミンは急いでひとつを取って
自分の目の前に置いた。


上目遣いでユノの様子を伺ってみたけれど
ユノはそれについては特になにも感じなかったようだ。


チャンミンはひと匙氷の部分を掬って口にいれた

冷たくて甘い感触が口いっぱいに広がる


「美味しい!」


チャンミンが思わず大きな声を出すと
ユノがびっくりして顔を上げた

「甘くて…すごく美味しい」

満面の笑みのチャンミン

その笑顔を見てユノは一気に破顔した

「そうか?それはよかった
連れてきた甲斐がある」

ユノは優しく微笑んだ


優しいユノと美味しいスムージー
チャンミンは幸せで胸がいっぱいになった。


自分がなぜこんな存在で
いつからこんな使命を受けて仕事をしているのか

まったくわからない

自分が誰でどこから来たのか
それを知ろうとしたこともあったけれど

意味のないことに思えて
いつかやめてしまった


毎日、漠然と…悪いとされる人間の元へ行っては最期を看取り、死後に地獄へ連れて行く


たまにユノのように査定が必要な人間もいたけれど
チャンミンの査定はいつも辛口だった

悪い奴等にチャンミンの姿が見えることは滅多になく、
常にチャンミンは孤独だった。


「チャンミン」

「はい?」

「金、払うから。
こうやって外に連れ出すと追加料金だろ?」

「え?あ…僕ですか?」

「そうだよ」

「いりませんよ、プライベートですから」

「えっ?」

「プライベートでこうやって
僕自身が楽しんでるんですから」

「じゃあ…だけど、今夜あんなに抱いたのに…」

「タダです」

「ちょっ…タダって自分で言うかよ!
だけど…あの時間もプライベートって意味か?」


「……そうです」


「………」


「迷惑…ですか?」


「迷惑?」


「僕の意思でまたユノのところに来たんです
迷惑でしたか?」

「迷惑なもんか…」

ユノはどこか思いつめたような真剣な表情で。
けれど力強く言った


「それなら嬉しいです」

チャンミンはにっこりと笑った


チャンミンは本当に…嬉しかった

人間にはお金をもらって相手に身体を抱かせる仕事があることをチャンミンは知っている

お金がどういうもので、人間にとってどれだけの意味をもつものかもわかる

人間はお金で人間を抱くくせに
身体を売る人間を汚らわしく思うところがある


ユノが自分のことを、そんな風には思っていないようで
とっても嬉しい…


ユノは迷惑に思っていない…よね?


チャンミンの口の中にマンゴーの甘い香りが広がる


この気持ちはテミンがよく言うところの「幸せ」ってやつかな。

きっとそうだ


自然と頬が緩んで、にやけてしまう


「チャンミン」

「はい?」


見上げれば、ユノが今までにない優しい笑みを浮かべている


「俺、お前のこと好きだと思う」

「え…」

「迷惑か?客が好きだとか…」

「………」


チャンミンが黙っていると、ユノが少し不安そうな表情になった

チャンミンの心に警鐘が鳴った

それは確かだ

テミンの戒めるような表情も浮かんだ


だけど

それよりも、この美しい人が大好きだと思う気持ちのほうが勝った


ずっと一緒にいたいと…そしてその気持ちを伝えたいと強く思う

だから

「迷惑なわけないじゃないですか
僕だって、あなたが大好きなんですから」

ユノが少し驚いたような顔をした

「………」

「僕だって、あなたが大好きなんです」

「フフ…」

「なんで笑うんですか?」

「お前、そんなこと言うと…」

「?」

「これからラーメンでも食べに連れて行こうかと思ったのに」

「できたら、僕はラーメン屋さんではなく
またユノの家に行きたいんですけど」

「だから、また家に連れ帰って抱きたくなる。
そう言おうとしたんだよ」

「じゃ、そうしてください!ね?」


恥ずかしげもなく、自分の気持ちを素直に出す

そんなチャンミンがユノはたまらなく好きだと思った。

この存在が愛おしくて可愛くて


自分が心から誰かを恋しく思うなんて
ユノは今までも今後もないと思っていた

いきなり自分の心と人生に飛び込んで来たチャンミン



その夜…さっきまでの2人の体温がまだ感じられるようなベッドで

2人は再びキスをしていた


ユノはチャンミンの黒いシャツをゆっくりと脱がせて
なんどもその可愛い顔にキスをする

チャンミンは少し唇を開いたまま、
官能的にそのキスを受け止める

目を閉じたその瞼は長い睫毛が縁取り

それがゆっくりと開くと同時に

ユノはチャンミンを抱き込んでベッドに倒れた


何度も抱いたはずなのに

ユノは激しく取り乱し
汗ばみ…眉間にシワを寄せながら

チャンミンを抱いた

チャンミンがその白い首をユノに差し出すかのように
背中を仰け反らせると

ユノは獲物を前にした獰猛な生き物のように
その綺麗な首に食らいついた


泣くようなチャンミンの声が
次第に甘さを含み

ユノの苦しそうな吐息もまた
甘さを含んで、その濡れた声が掠れはじめる


愛し合ってはいけない2人が
月の光に照らされて

美しすぎるほど輝いて愛し合った


ユノに跨るチャンミンの背中には
真っ白な羽根が生えているように、ユノは錯覚した


チャンミン…

お前は天使なのかもしれないね


ひとりぼっちだった俺に

もしかしたら、ルカが…プレゼントしてくれた天使なのかもしれないね

いつまでも、過去に囚われて
押しつぶされるように生きている俺に

ルカが

もう、いいよヒョン、


と言ってくれているような気がする






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