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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

そこに愛はあるか〜完〜



あれだけクールに調査をかわしていたチャンミンが、
まるで子供にかえったように甘える姿

まわりの調査官はあっけにとられてその様子を見ていた

最初に対応した係の男が怪訝な顔をして部下に聞く

「なんでいきなりシム・チャンミンを解放したんだ?」

「だって…長官のことを…」

「ハッタリなんだよ」

「そんなぁ…言ってくださいよ。
あの長官のことだら、アリかと…私はマズイと思って…」


ユノがチャンミンの肩を抱きながら
まわりの調査官をにらみつけた

「随分と長いこと拘束してくれたな?」

すると、チャンミンをずっと尋問していた男が
ユノの前に出てきて正面から向き合った

「なんだよ」

ユノが臨戦態勢だ

その男はゆっくりと深呼吸をして
手元のバインダーにメモをとる。

「チョン・ユンホさん
あなたが身元引受人でいいですか?」

「ああ、いいよ」

「調査は終わりました。
というかとっくに終わってました」

「?」

「インサイダー取引の様子もなければ
詐欺も働いていない」

「当たり前だ」

「逆に…これから大変だと思います。」

「は?」

チャンミンがびっくりした顔をする

あれだけ悪態ついて対峙してきた調査官がどうしたのだろう

「彼は何も出来ませんし
待遇についても布団がどうとか文句ばかり」

チャンミンがキッと調査官をにらんだ

「ウラは完璧でした。たしかに。誰も陥れてない。
だけど多くの資産を失ったことに変わりはない」

「………」


「ま、大抵ここでヤケになって何かやらかすんです」

「お前…」

一歩前へ出ようとするユノをチャンミンが押さえた。

「ところがね…愛とかなんとか、そんなのがあるようで」

「?」

ユノが怪訝な顔をすると、チャンミンがクスッと笑った

調査官がそんなチャンミンをみて
やれやれという顔をした

「ユンホさん…
これからどうするんです?可愛いだけのこんなワガママな男を」

ユノがたまらず前へ出た

「は?!可愛い?!何言ってんだお前!」


「ユノ、いいからっ!」

「なんでこいつはお前のことを可愛いとかいうんだよ!」

「なんでもないから、ねっ?」

「なんでもないのに、可愛いとか言うか!
どんな取り調べだったんだよっ!」


ユノを押さえながら、チャンミンの心には温かい何かが溢れる

嫉妬に狂うユノがチャンミンはとても嬉しい

サロンに通っていたころ

ユノはそういう独占欲をまったく見せてくれなかった

チャンミンが誰と親しくしていようが
元カレや元カノといちゃついても我関せずで。

その度に、ユノが欲しいのは自分ではなく
その地位やコネなのだなと

そう気づかされては寂しい思いをしていた

そんな日々がもう遠くに感じる

今、この胸に溢れる温かい想い…
それはきっと愛だ

僕たちの間には愛がある

チャンミンは子供を嗜める母のような瞳で
ユノを愛おしそうに見つめた



ユノは頭に血が上ってしまい
調査官に摑みかかり、その勢いが止まらない


「ユノ、落ち着いて、ね?」

宥める言葉とは裏腹に
チャンミンがなぜか嬉しそうにユノに抱きつく

気づけば、ユノはチャンミンの前でこんな風に感情を露わにしたことはなかった

嫉妬なんて、バカにされ、呆れられ
ウザいと捨てられてしまうのでは、と。

それが怖くて、嫉妬する自分をクールに隠し通して来た

それが今はどうだ

我に返ると恥ずかしいほどの今の俺を
嬉しそうに見つめるチャンミン

こんなにも独占欲をあからまにしたって
ウザがるどころかニコニコと嬉しそうだ

俺の肩を優しくポンポンと叩いて笑っている

その笑顔を見ていると
心に温かい何かが湧き出てくる

これはきっと愛だ

もう隠さない

俺たちには愛がある
大好きな気持ちを隠すなんてしない


落ち着いたユノと、宥めるチャンミンは
いつかお互いを愛おしそうに見つめ合っていた


ソクジンが調査官に尋ねる

「なぜ取り調べが終わっているのに
解放してくださらなかったんでしょうか」

ユノたちの姿をみて、呆れたような調査官が
さっさと書類を片付け始める

「肝心なところは最後まで黙ってたんですよ、彼。
それで調査が終われるのに」

「なぜでしょう?」

「あのユンホさんが迎えにくるのを待つんだ、とね。
こちらから呼ぼうとしたのですが、彼から来てくれるのを待つと」

「あ…」

「だから、硬いベッドと不味い食事に耐えてました」

「そう…ですか」

「そんなの耐えるくらいなら迎えに来いと言えばいいのに、めんどくさいですね、彼は」

「ユンホ様はきっと…
そんなところを可愛いと思っていらっしゃるのだと思います」

「わかります」

「は?」

「あ、いや、なんでもありません」

調査官は持っていたバインダーで狼狽える自分の顔を隠した

ソクジンは穏やかに微笑んで調査官にお辞儀をした


外ではすでに
ユノは車にチャンミンのちょっとした荷物を積んでいた


「さあ、帰ろう」

「うん」


もう何にも持っていないけど

ここからもう一度はじめればいい

何もなくったってそこには愛があるから

大丈夫


「爺!早く乗ってー」

「はいはい、今参ります」


大旦那様…

周りの方に甘えながら助けられながら仕事をされていた大旦那様をなぜか思い出します

あなた様と同じ力をぼっちゃまは持っていらっしゃるようですね


わたくしは、ぼっちゃまの将来が楽しみです



************



「あ、コーチ!おはようございます!」

「なんでこんなに早く来てるんだ?」

ジャージ姿のユノが、タオルと飲み物を持って
体育館に現れた

選手たちがベンチを拭いたりしている

「掃除なんかして…もしや、お前ら」

ユノの顔が険しくなる


「だって、コーチ!
今日は王子…いや、オーナーが来るんでしょ?」

「だからなんだよ、家を掃除してから来るから
まだまだ来ないよ」

「コーチ!オーナーに掃除させてるんですか?!」

「悪いか?」

少し得意げな顔のユノ


「おはようございます」

そこへ、爽やかにチャンミンが現れた

ブルーと白の細いストライプのシャツに
白いコットンパンツ

どちらもスーパーで買ったものなのに
恐ろしく高級に見える

手にはたくさんの飲み物を抱えていた

チャンミンを見た選手たちの顔が上気する

「オーナーおはようございます!」

「おひさしぶりです!」


選手たちの瞳がハートだ


うーーーーー!

面白くない!


楽しげな空気の中、ユノだけが落ち着かない

ユノのイラだちなどお構いなしに
チャンミンがにこやかに微笑む

「差し入れ持ってきました
あとでみなさんで召し上がってください」

「はいっ!」

「シュート10本連続で決めれなかったやつは無しだから」

ユノが憮然とした表情で言い放つ

「えーーー」

すると、大勢の選手の中から
一番若手の選手が前に出て手を上げた

「僕、オーナーのために10本決めます!」

チャンミンが嬉しそうな顔をすると
ユノの怒りも倍増する

「お前は100本決めても無し!!」

「ユノ、そんな…」

前のめりになるユノをチャンミンが笑いながら
宥める

ユノの嫉妬に狂う姿は、選手たちの大好物だ

みんなが笑いをこらえて2人を見守る

ユノのことが選手たちは大好きで

綺麗なオーナーのことはもっと大好きで

自分のために、そして大好きな人のために頑張る

そんなだから

このバスケチームはどんどん成績をあげていった



みんなの笑い声が…青い空に響き渡る


なんにもなくったって
愛に溢れた毎日があれば人生は十分

チャンミンは青空を見上げてそう思った



end




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百海です。

今回も最後まで読んでいただいて
本当にありがとうございました。

最初は10話程度の起承転結のない軽いお話を描こうと
思っていたのですが、なぜか15話に膨らんでしまいました。

強がりで、思い込みの激しい2人でしたw

前回のお話から間が空いたので
もう忘れられているかと思っていました。
でも、みなさんがすぐに戻ってきてくださって
ほんとに嬉しかったです

次のお話はもう筋書きはできているのでそんなに開かないとは思いますが、またぜひ遊びにきてくださいね

今夜からSMTOWNですね
私はライブビューの参加ですが
台風に負けずに応援しましょう!

そこに愛はあるか〜15〜



取り調べとはいえ、犯罪者というわけではなく
微妙な立場のチャンミンを
調査官たちはどうやって責めようか、考えあぐねていた。

当のチャンミンは動じることなく
平然と椅子に座り、まわりの調査官を見渡す

ともすれば、傲慢と思われてしまいそうなその態度

精神的な攻防戦がはじまった


************


ユノは1人別荘に残り
しばらく呆然としていた。

チャンミンがいなくなったことを
自分なりに受け止めようとしていた


いい方向に行っているんだ

ユノはそう思えるように
様々なことを考えていた



付けっ放しのテレビでは
シム家の経営について、評論家が好き勝手を語っている。

しばらくそんな時間が過ぎて

チャイムが鳴って、ハッとしたユノの元に訪れたのは
ソクジンだった

「ぼっちゃまをありがとうございました」

「俺は何も…1人で行ってしまったよ」

「はい、テレビで拝見いたしました。
立派なお姿でした」

「…うん」

「堂々としたお姿は大旦那様にそっくりで」

「大旦那様?」

「ぼっちゃまの曾祖父様です。
お見かけしたのは、私がかなり若い頃ですが。
今のシム家を作られた方です。」

「チャンミンは今までお気楽な三代目って感じだったけど、今日は風格があった」

「変わられたんですよ、ぼっちゃまは。」

「相変わらず可愛いけど」

「それはユンホ様の前だからで…」

「え?」

「いや、なんでもございません」

ユノはためいきをついた

「チャンミンは戻ってこれるだろうか」

「そんなぼっちゃまですから、大丈夫ですよ
意外にお強いんです」

「書類を見た限り、罪に問われるようなことはなさそうだけど」

「旦那様は、今回の暴落で誰かが路頭に迷うようなことはされてません。だからこそご自分が犠牲になり、
家族がバラバラに…」

ソクジンは声をつまらせた。

「ああ、さすがだと思った。
チャンミンはもう贅沢はできないけれど
生きていく糧は残してくれて」

「はい…しかしながら…あまりにぼっちゃまが可哀想で…」

「ソクジンさん」

「はい」

「俺ね、チャンミンに何も持たない人生の楽しさってのも教えてやりたいんだ」

「はぁ」

「自由だろ、少なくとも」

「ぼっちゃまはそういうのに慣れておりませんから」

「これからは普通の生活をしなくちゃいけないんだし」

「そうでございますね…ユンホ様だけが頼りです」

「俺は…なんか嬉しいよ」

「は?」

「いや、たしかに大きなトラブルだけどさ
俺たちにとってはね、怪我の功名」

「どうかよろしくお願いいたします」

ソクジンは丁寧に頭を下げた




チャンミンと調査官との攻防戦は
2日目を迎えていた

「仮眠室とやらのベッドはなんですか?あれ」

チャンミンは腰を押さえながら文句を言った

「人間が寝る場所ではありません」

「……」

昨日から散々毒舌を吐いて
調査官の怒りスイッチを押しまくっているチャンミンだった。

「シム・チャンミン。今日はあなた自身の資産その他について、確認します。」

「お調べいただいた通りです」

「なぜバスケチームがあなたの所有に?」

「私が生活していく術です。
私が所有しても誰にも迷惑をかけない資産です」

「………」

ユノと数日間、ただキスして抱き合ってたわけではない

書類を丹念に調べ、ユノが調査官に突っ込まれた時の
かわし方を考えてくれた。

運動神経がいいと頭もいいのだろうか。
書類を一瞥しただけで、その中身を理解し、
ほかの事情と組み立てて考えることができる

惚れ惚れするユノの頭の回転の良さ

もう、本当に大好き

思わずチャンミンはユノを思い出し微笑んでしまった


「うまく話を組み立てたなぁ、シムさん。
あのバスケ崩れの色男の口添えですか?」


その言葉にチャンミンの中の何かが切れた


「今、なんと言いましたか?」

「一緒に暮らしてるんですよね?
わかってますよ」

「あなたは調査官の割に、人の言ったことが理解できないようですね。
なんと言ったか?と聞いてるんです」

「えっ…」

「もう一度言ってください。
そして、そこの書記官は今言った言葉はもちろん書き留めてますよね?」

書記官が慌てた

「まさか?昨日から散々民間人の私を罵倒した言葉を
まったく書き留めていないのですか?」

「そっ、それは…」

チャンミンは調査官に向き直った

「さあ、もう一度はっきりと言ってください」

「何も言ってないよ。
だから、書記官は何も書いていないんだ」

調査官は得意げに言い放った


チャンミンは大きくため息をついた

そして、アスコットタイの中から
小さな録音機器を取り出してスイッチを入れた


" うまく話を組み立てたなぁ、シムさん。
あのバスケ崩れの色男の口添えですか?"

先ほど言った言葉が再生されて
調査官は青ざめた

「昨日は私の父についても、調査官らしからぬ
表現をされてました。お聞かせしましょうか?」

「………」

「まあ、いいでしょう。
調査官の言葉を録音するようにというのは
その色男の口添えです。」

「え?」

「けれど、バスケ崩れと言ったことは
チームのオーナーとして、彼のパートナーとして
許せません」

「どうするっていうんだ」

「訴えます」

「は?何言ってるんだ
これから、貴様が訴えられる立場なんだぞ?」

「それではお伺いしますが、昨日から今日にかけて
お話してきた中に、私の落ち度はありましたか?」

「それは…これから…」

調査官の額に脂汗が浮かぶ

「あなたは私を虐めたいだけ。
なぜだかわかりますか?」

「………」

「あなたは寂しい人なんです
哀れです」

「さ、寂しい?なんで俺が?!」

思わず立ち上がった調査官を、書記官が慌てて止めた

チャンミンはゆっくりと調査官を睨む

「あなたには愛がないんです」

「は??愛??」

「愛と聞いて、そんな変な声が出るほど
あなたに縁遠いものなんですね」

調査官の額に血管が浮かぶ

「見ていろ!絶対吊るし上げてやる」

「それなら、あのベッドを変えてください。
そうしたら、私は何日でも付き合いますよ?」

「くっ……」

「隅々まで調べたって何も出てきません
なにしろ、あなたと違って、私には愛がありますから」

「何をわけのわからないことを…」


それから、何日もチャンミンはユノの元に帰らなかった

ユノとソクジンはさすがに心配になって

チャンミンが隔離されている施設へ行った

対応した係の人間の対応は冷たかった


「拘束理由を教えてください」

ユノが真正面から向き合った

「まだ調べが終わってないんですよ」

「では面会を」

「それは許可できません」

「なぜ?」

「入れ知恵されるようなことがあっては
困ります」

「俺が?」

「そうです」

「お前に入れ知恵してやろうか」

「何を言ってるのか理解できません」

「俺はお前の上司に会ったことがある」

「上司?長官ですか?」

「ああ、そうだよ。
会員制のサロンでね」

「………」

男の視線が少し泳ぎ
後ろにいた部下が部屋から走り出て行った。

こりゃ相当ウラがある上司なんだな


ユノが男の耳元に口を寄せた

「そのサロンで何があったか
毎晩、何が繰り広げられていたか、知りたくないか?」


「ユノ!」


いきなり大きな声で呼びかけられて
ユノはびっくりして振り向いた

「チャンミン!」

そこには仁王立ちで睨むチャンミンが立っていた

ユノの顔がぱーっと笑顔になった


「ユノ、何してるの、その男と」

「え?」

チャンミンは俺に会えてうれしくないのか

「好み?その男」

係の男がびっくりして、ユノから離れた

「おいおい、とんでもないこと言うなよ
俺はチャンミンを解放してもらうために
ハッタリかましてたんだぜ」

ハッタリと聞いて、まわりの男たちは一様に悔しそうな顔をした。

「チャンミン!」

ユノは手を広げた

むぅっとムクれるチャンミン

「ほら、会いたかったよ!
抱きしめさせてくれ」

満面の笑みでチャンミンを包み込もうとするユノ

ムクれていたチャンミンの口元が大きく歪んで
眉が垂れ下がり、その大きな瞳から涙がポロポロと流れ落ちた

「チャンミン…」

「もう!早く迎えにきてよっ!遅いよっ!」

チャンミンがユノに体当たりするように
その胸に抱きついた

「そんなにぶつかってきても、俺はびくともしないよ」

ユノが泣きじゃくるチャンミンの髪を撫でた







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百海です。

このところ20時にアップ出来ない日があり
申し訳ございません。

明日は最終回になります。

台風が近づいているようです。
皆さま、気をつけてくださいね

そこに愛はあるか〜14〜



正々堂々と、それはやってきた

書類を持参し、正当な理由を持っていた

やっとユノと素直に愛を語れるようになり
甘い時間を過ごしていたチャンミンを外に引っ張り出す力を持っていた。

「事情聴取」だった

「逮捕じゃないんだから、な?チャンミン」

「うん…」

「悪いことなんてなんにもしてないって
身の潔白を証明するいい機会なんだぞ?」

「……」

不安そうなチャンミン

一緒にいてやりたい…

ユノは切なくて、チャンミンがいじらしくて
耐えられなかった

それでもここを切り抜ければ、光は見えてくるはずだ。

「話すべきことと、黙っているべきことは…」

「それは…うん…大丈夫」

準備は整えた

明日は、調査官がチャンミンを連れに来る日だ

二人はやっと構築した日常生活をいつものように過ごした

甘く、優しく信頼に満ちた時間。
まさに「蜜月」だった

明るく楽しく昼間を過ごすことができたのに

夜になえば…つい本音が出た

先に崩れたのはユノだった

チャンミンを抱こうとして、いつもの余裕が持てず
チャンミンがむせ返るほど強く抱きしめてしまったり

暴走する気持ちを抑えられず
思わずチャンミンの服を裂こうとしてしまったり

そんないつもと違うユノがチャンミンの決心を揺るがす

離れるのはいやだ…
やっぱりこのまま…一緒にいたい

とうとうユノは行為を中断した

「ごめん…抱けない…チャンミン」

「ユノ…」

「明日から、お前がいないなんて…考えられない」

ユノの苦悩に満ちた横顔に汗が光る

チャンミンはユノの体の下で、ユノを見上げて優しく微笑んだ
そしてそっと手を伸ばし、ユノの唇をそっと指で撫でた

「僕ね…ユノ」

「……」

「こんな事になって…よかったと思ってるんだ」

「チャンミン…」

「明日から…ちょっとユノと会えないかもしれないけど
そんなにさみしくないよ?」

「そう?」

「何もわからず、ユノと付き合ってた頃のほうが
もっとさみしい思いをしていた気がする」

「会えなくても…ユノはずっと僕を思ってくれてるはずだし」

ユノは自分の唇に触れるチャンミンの指を甘噛みした

「思ってるよ…いつだって…」

「だから…大丈夫」

「ほんとに大丈夫か?」

チャンミンの目が潤んで泳ぐ

「たぶん…」

そう言ってチャンミンはユノの首に抱き着いた

「抱いてユノ…僕が大丈夫って思えるように…」

ユノは切なくて…
チャンミンと離れることを思うと
こんなに密に過ごしてしまってよかったのかと
後悔しはじめていた。

でも…

ありったけの想いを
お前に残してやるから

胸をはって、明日は堂々と行け

ユノはチャンミンを丁寧に抱いた
ユノの唇は雄弁にチャンミンへの思いを表す

チャンミンの肌を優しくついばみ、噛みつくように吸った

二人の唇はキスをしているか「愛している」と語るかのどっちかだった。

休むことのない愛の表現

外は桃色に白み始めていた




今朝は半端ないマスコミの数だった

チャンミンは落ち着いてシャツのボタンを閉めると
手慣れた手つきで首にアスコットタイを巻いた

髪を整え身支度を済ませたその姿はまさに貴公子

チャンミンは鏡の中の自分を見つめた

以前の自分とは違う

チャンミンは自分の胸をトントンと叩いた
だってここには愛があるから

ユノとの愛に包まれているんだ

チャンミンは鏡の中に自分に向かって微笑んだ


ユノはテレビを見ていた

外の様子を中からうかがえず、こうやってテレビ中継を見るのが一番わかりやすい

カメラは外からこの別荘をとらえていた

やがて、スーツを着た数人の男たちがこの別荘に近づいて来るのが見えた

ユノは思わず、チャンミンの傍へ行く

「来たぞ…チャンミン…」

「うん」

こういう時にびしっとした装いをするのは、とてもチャンミンらしいと思った

「かっこいいよ、チャンミン」

「ユノはテレビを見て、僕を見送ってね」

「…ああ、しっかり見届けてやる」

「……」

「……」

「ユノ…」

チャンミンはユノに抱き着き
ユノの頭を抱えてキスをした

「愛してる。ユノ」
「俺も愛しているよ」

「早く帰るからね」
「すぐ帰ってこい」

玄関のチャイムが鳴り、二人はもう一度キスをした

「行ってくるね」
「行っておいで、負けるなよ」
「うん!」

チャンミンがドアを開けると外のマスコミの声が轟音のように部屋になだれ込んできた

テレビ画面のそれとうまくリンクして
立体で映画を見ているようだとユノは思った

画面に凛々しい若き皇太子のようなチャンミンが映る

自信がみなぎり、堂々として
押し寄せるマスコミにびくともせず
悠然と階段を下りていく

下で待ち構えていたカメラに向かって
いきなりチャンミンがニコリと微笑んでガッツポーズを取った。

テレビ画面にカメラ目線で映るチャンミンの笑顔
ユノはそれを見て泣きそうになったけれど

テレビに向かってガッツポーズを取った

がんばれ!チャンミン


階段を降りるチャンミンの腕を調査官が掴もうとする

「触るな」

チャンミンが低く囁いて、調査官を睨みつけた

「ここから逃げようなんて
思ってません」

少し若めの調査官が捨てゼリフを吐く

「今まで隠れてたくせに」

チャンミンが横目で睨む

「あなた方がなかなか迎えに来なかっただけです」

調査官が悔しそうな顔をすると

チャンミンは微笑んだ

胸を張って堂々と



チャンミンがマスコミの波に飲まれて行くのを
ユノはテレビ画面で見送った





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そこに愛はあるか〜13〜

「大丈夫か?チャンミン」

ユノが泣きじゃくるチャンミンの耳元で囁く

「うん」

「不安だったんだろ?」

「………」

「昨日…あんなに怖がってたのに
俺、気づかなくてごめんな」

「ごめんね、会社とか本当にごめん」

「大丈夫だよ」

「大丈夫なわけない」

チャンミンの目からポロポロと涙がこぼれる

「全部自分で背負い込まないで
俺が一緒に考えてやるから」

「もう僕はなにもユノに与えてあげられなくなっちゃった」

「チャンミン…」

「喜ばせられない…もう何もない…意味のない僕だよ」

ユノはぎゅーっとチャンミンを抱きしめて
深いため息をついた。

「昨日、俺があれだけ言ったのに
なんにも伝わってないね」

「だってさ…外を見たでしょう?
みんなが僕を責めてるんだよ」

「だから?」

「だから…」

「世界の全員がお前の敵でも
俺はお前の味方だよ」

「ユノ…」

「アハハ…カッコいいな、俺」

「………」

「大丈夫。もう1人じゃないよ」

「もう僕には何もないのに?」

「俺たちには愛ってヤツがあるんだ
それでなんでも解決できる」

「あんな付き合い方だったのに
愛なんて…」

「俺にはあったよ。
お前にもあっただろ?」

「………」

「世界に5個しかない時計なのに
あんな風にメッセージ入れちゃって」

「あ…」

「あの一流ブランドにワガママ言ったんだろ
メッセージ入れろって」

「だって…」

「お前がシム家の御曹司だからって
あのブランドが言うこと聞いてくれるわけないよ。」

「だって…」

「ああいうところは金じゃなくてプライドだ。
どうやって押し通したの」

「ユノの事を話したの」

「え?」

「なにがあってもメッセージは絶対入れられないって言われて」

「うん」

「ユノの事がどれだ好きなのか話した。
ブランド担当者に3週間くらい毎日」

「3週間?!毎日?!」

「そう。もうデパートの外商や営業が役に立たなくて
自分で直接言いに行った」

「相手は折れたのか」

「最後は…職人を紹介してくれた。
でも笑ってたよ。今度そのユノさんに会わせてほしいって言ってた」

「どうしてそこまでして…」

「ユノが初めてモノに興味を示したから」

「え?そう?」

「うん、はじめて、これいいなって…そう言ったんだ」

「そうなのか…」

「そういうの買ってあげるしか、僕はできなかったから」

ユノがチャンミンの髪を撫でる

「今はもう…それさえできないけど…」

「俺はチャンミンがチャンミンなら他になにもなくていいよ」

見上げれば、ユノの優しい瞳がチャンミンを包む


少し…歩き出してみようか…

今朝からずっとマスコミが外を張っていて
チャンミンは怖くて震えていた…

ユノには一切迷惑をかけないつもりでいたけれど
こうやって抱きしめてもらっていると、心から安心できて
恐怖感が波がひくように消えていく

「俺、バスケのコーチの話、引き受けるから」

「ほんと?」

「人気のチームにして見せるよ。
お前がせっかく残してくれたんだし」

「ありがとう…ユノ…」

「騒ぎはきっとそう簡単には収まらない…
しばらくここにいよう」

「でもお父様が矢面にたたされているのに
僕だけが何もできないなんて…」

「……」

「じゃあ、表にでてみるか?」

「えっ?」

「外に出たらバンビを襲うハイエナのように
マスコミが押し寄せるぞ」

「……」

チャンミンに父親から連絡があった。

しばらくしたら「事情聴取」という形で
外にでなくてはいけないようだった

マスコミと違って正々堂々とチャンミンを奪いに来る

それなら今は…少しだけユノと2人だけで過ごさせてほしい

話を聞いているユノはとても不安そうで
チャンミンは怖くなったけれど

ひと通り理解すると、ユノは覚悟を決めたように微笑んだ

「事情聴取なんて怖くないよ
知らないことは知らないと正直に言えばいいだけだ」

「知ってることは?」

「言う必要ないよ」

「……わかった」

それから二人は常に体を離すことなく一緒に過ごした

料理をするユノの背中にはチャンミンがしがみつき
テレビを見るチャンミンをユノが後ろから抱きしめる

ともにシャワーを浴び、夜になれば愛し合い
昼間は長い時間語り合った

密度の濃い時間…

「最初からこんなふうにユノと過ごせばよかった」

チャンミンは唇をへの字に曲げる

そんなチャンミンを世界一かわいいと思うユノ

そしてそんなユノが世界一大好きなチャンミン

幸せな二人のもとに、現実の足音は聞こえなかった




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そこに愛はあるか〜12〜



ぼっちゃま特有のワガママを振りかざし
強引に要求を通そうとする

チャンミンのやり方で

チャンミンはユノを愛した

チャンミンの精一杯はまったくユノに理解されず

それでもチャンミンはユノを責めなかった


ユノはすべての後悔を背中に背負って


黒い腕時計を抱きしめて泣き続けた


チャンミン…


信じてやれなくて…理解してやれなくて
本当にごめん

心の奥に隠していた孤独

ユノへの思い

未熟な俺たちは…強がりばかり

臆病な俺たちは自分が傷つくのを恐れて

だけどそれほど、愛していたんだ

そこには臆病モノと寂しがり屋の愛がちゃんとあったんだ

なんにも気づかず…チャンミンが先に気づいた。


だけど…きっと
このことに巻き込まないように…
強がって俺を引き離そうとしてる

お前ばっかりカッコいいじゃねぇかよ

そうは行くか!

ここに愛はあるんだ

今度は俺の愛し方でチャンミンを愛する

サロンでシャンパングラスを持ってくる俺は
本当の俺じゃないんだ

嫌がられようが、ウザがられようが
もう関係ない

ユノは、とりあえず涙を拭くと
腕時計を丁寧に箱に戻して

チャンミンからもらった書類をもういちど見直した

バスケチームのコーチへの辞令にサインをする。
マンションを引き払うための書類は保留にし
そのほかの書類をひとつひとつ丁寧に確認していった

ユノは集中した。

元々こういうことの処理能力は高く
そこがいくらコネとはいえ、課長を務めることができるユノだった。

チャンミンの父は出来る限りのことを
チャンミンにしてやりたかったのだろうけれど

それがいかに難しかったかが書類でわかる。

これからチャンミンの糧になりそうなものは
バスケチームくらいだった。
その運営で細々と食べて行く感じだ。

俺が立て直してやる

決めた

もう、ウザがられてもなんでもいい
好きなヤツに俺が良かれと思うことをしてやるんだ。

チャンミンが俺をどう思うかは、その後でいい


ユノは車に乗り込み、
昨日チャンミンと過ごした別荘へと急いだ

待ってろ

チャンミン


別荘に近づくにつれ
マスコミらしきバンがいくつか停まっているのが見える

チャンミン…

予想通り、チャンミンの別荘をマスコミが取り囲む

ユノは離れたところに車を停めて
様子を伺がった。

後ろから自転車を漕ぐ音がして振り返ると

1人の初老の男が自転車を漕いでくる

よくみると、その男はソクジンだった。

いつもビシッとしたスーツなのが、その辺のおじいちゃんといった雰囲気にすぐにはわからなかった。

ソクジンがユノを見てそっと人差し指を自分の口にあてた。

そして小さく手招きをする。

「ソクジンさん!」

「しっ!静かにしてください。
ここで野次馬のフリして話しましょう
ユンホ様を待ってました」

「チャンミンは?」

「中にいます。
もうどうにもなりませんで。
ユンホ様が中に入って、ぼっちゃまと一緒にいてあげてください」

「どうやって?」

「私が、おとりになります。
ぼっちゃまを乗せてるがごとく車を出しまして
マスコミの注意を引きます。」

「その隙に俺が家に入る」

「できますか?ユンホ様」

「元バスケ選手なんだけど。
人をかわすのは得意だよ」

ソクジンは安心したように微笑んだ

「では、頼みます。
これは鍵」

ユノは鍵を受け取った。

「で?その後はどうしたらいい?」

「旦那様の嫌疑は晴れます。
それまで一緒に。食料はある程度買ってあります」

「わかった」

ソクジンはそっと自転車を降りて
別荘の裏手に回った。

程なくして、黒塗りの車がスピードを出して
裏から走り出てきた

やるな、爺さん

別荘のドアに張り付いていたマスコミが
一斉に車を追った

「シム家の御曹司が別荘からでた!」

ユノはその人波をかき分け
ドアに向かった

ユノに気づいたマスコミがユノに摑みかかろうとしたけれど、ユノはそれを突き飛ばしながら、なんとか鍵を開け、急いで中に入った。

「チャンミン!」

ユノは玄関ホールで叫んだ

返事はない

誰もいないキッチンやリビングを抜けて
寝室に入ると

チャンミンがブランケットに包まって
泣いていた

「チャンミン!」

「ユノ?」

泣きはらしたチャンミンの瞳が
ユノを見上げる

「ユノ…」

ユノの顔を見て安心したのか
チャンミンの顔が大きく歪んで

ブランケットの中からユノに飛びついた

いつもなら、面食らったユノが受け止めてよろめくのに

今は、ユノから手を差し伸べて
そしてしっかりとチャンミンを抱きしめた





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そこに愛はあるか〜11〜



意識のはっきりしていないようなチャンミンの
その柔らかい髪に触れると

「ん……」とチャンミンが薄く目を開けて
そして微笑んだ

消えてしまいそうに美しく儚い

ユノは愛しげにその前髪をあげて、
可愛い額にキスをする

「なぁ、チャンミン」

「ん……」

「いつもの俺と今日の俺は違ってた?」

「ん…わからない」

「わからないだろ」

「変えたの?いつもと」

「変えてないよ」

「………」

「俺はいつも…本気だった」

「ユノ…」

チャンミンがベッドから半身を起こした

「でも、立場も違うし、住む世界がまず全然ちがって」

「僕が…立場の違いを決めつけて、ユノに押し付けてたね」

「仕方ないさ、本当にそうなんだから」

「そんなことない。僕はそんな偉い立場じゃない」

「もう最後だから、本当の気持ち言わせて貰えば。
俺、みっともない男なんだよ」

「ユノはみっともなくないよ」

「恋人なんていくらでも取っ替え引っ替えのお前は
俺にすぐ飽きるだろうと思ってさ」

「僕が?」

「ああ」

「…そんなフリ…してたかもね…」

「最初は…お前をいいコネだと…
たしかにそう思ったけど」

「けど?」

「いつのまにか、本気だった」

「ユノ…」

ユノは微笑んだ

優しいけれど、その視線は真剣で強く

たった今までチャンミンを抱いていた名残の
なんとも言えない色気を纏っている

「俺は本気でチャンミンが好きだった」

「過去形?」

「追いかけっこは疲れたよ」

「追いかけっこ…」

「お前はお前の居場所で、楽しく生きろ」

「……僕は…」


ユノといたい…
でも、僕の事情に引き込めない


「もっとユノにたくさん甘えればよかった」

「そうか?」

「甘えたら突っぱねられそうで、あんまり甘えられなかったな」

「………」

「今日は…結構甘えたね、僕」

チャンミンは髪をクシャクシャとかき回し
微笑んだ

「満足か?」

「うん…満足ってことにする」

「なんだよ、それ」

チャンミンは微笑みながら、うんうんと頷いた
そして、ブランケットに包まり、バルコニーに出た

「綺麗な夕陽!ユノ、ほら」

トランクス一枚のユノがバルコニーに出て
ブランケットに包まったチャンミンを後ろから抱きしめた

「ユノ」

「ん?」

ユノが後ろから、チャンミンの頬に自分の頬をくっつけた。

「僕、頑張る」

唐突にチャンミンが言った

「なにを?」

「うん、明日からがんばる」

「そう?」

「だから、ユノも頑張って。
それと」

「それと?」

「今から謝っとく。ほんとごめんなさい」

「?」


空はあっという間に明るいパープルから青みがかったグレーに変わっていく

ユノがため息をついた。

これ以上キリがない…

「俺、帰る」

「……」

「うん」

ユノはシャワーを浴びて
着替えた

「書類忘れないで」

「ああ」

ユノが車に乗り込むのをチャンミンはブランケットにくるまったまま見送ろうと出てきた。

「そんな格好で」

「大丈夫、誰もいないよ」

「俺さ、この車も返したい」

「うん、それは後で書類送るから」

「頼むよ」

ユノが車に乗り込もうとした。

「ねぇ、ユノ」

「?」

「今日言ってくれたことは、本気のフリじゃなくて
本気ってことでいい?」

「……」

ユノの顔が少し困惑している

「あ……ごめん」

「本気だよ」

「えっ?」

「本気」

「もし、僕もユノを本気で好きって言ったら?」

「そんなこと言われたら、それが頂点であとは落ちるだけだから言わなくていい」

「どういうこと?」

「特に意味ない。
自分でなに言ってるか、よくわからないよ」

ユノは自分で言ってケラケラと笑った

「元気でね、ユノ」

「チャンミンも」


ユノはチャンミンを心底信じる事ができないまま
別荘を離れた

ユノは後からそれをどれだけ後悔するか
その時はわからなかった。

ユノは疲れていたのだ。

チャンミンに追いかけさせることに疲れて
ここで、想いを打ち明けて、脱力感でいっぱいだった。

でももう、チャンミンに飽きて捨てられる恐怖を
感じなくて済む。

ユノは少しスッキリとして、車を走らせた

実は不安に押しつぶされそうなチャンミンを
1人別荘に残して



************


翌朝、出社したユノに…いや、ユノだけではなく
社員全員にまるで竜巻に飲まれるような出来事が起こった


ユノはもう辞表を出した身で、
片付けに来たつもりだった

ある程度引き継ぎもしなくてはならなかった。


とても、そんな状況ではなかった

会社が突然、他の企業の手に渡っていた


市場の株が広範囲に暴落したというニュースが
その日のマスコミを埋めた


世の中が少し変わるくらいの動きを見せているそうだ。

なぜか一番の打撃を受けたのは
シム家のような昔からの財閥系

しかし、チャンミンの家を含むいくつかは
事前にそれを防ごうと動いていた様子があり
インサイダー取引だと言われた。

ユノは辞表を出していたけれど
受理までにはかなり時間がかかると思っていた。

それがあっという間に、ユノは課長の座を失っていた。

社内にいたユノはいまひとつ事情が飲み込めず

株の暴落とチャンミンへの影響がわかったのは
会社を出て、カフェに入った頃だった。

スマホで自分の会社のことを調べているうちに
すぐシム家の話が出てきた

投資家達の騒ぎは増すばかり

原因がわかったわけではないのに
水際で最悪の事態を防いだシム家は非難を浴びた

チャンミン!

ユノはいてもたってもいられなかった

何度スマホにかけても、チャンミンは出ない


チャンミンの屋敷に行くと
マスコミの山でとても近づけない

どうにかして、屋敷の中には入れないだろうか

ユノは裏へ回ったけれど
塀が高すぎてとても入れそうにない

「ユンホ様!」

ふと呼ばれて振り返ると
ソクジンが走り寄ってきた

「ソクジンさん!チャンミンは!」

「ここにはおりません。」

「もしかして、まだ別荘?」

「一番安全かと思いますが
いつあそこが知れたらマスコミが」

「どうしたらいい?」

「連絡してあげてください。
ぼっちゃま、とても不安なはずです」

「連絡とれないんだよ」


どうして、俺は昨日帰ってきてしまったんだろう

" 今から謝っておく…ごめんなさい"

" 僕…怖いよ…"

" 僕はもう…なにもない…"


甘えて縋るような瞳

弱気な言葉

今から思えばいつものチャンミンと全然違っていた

なんで…俺はチャンミンのシグナルに気づかなかったんだろう

俺に縋ってくれたのかもしれないのに…

無理やり俺を切り離そうとしたのは
今日のこのことがあるからか。

「金があればいいのか?」

「旦那様はむやみにぼっちゃまに借金を作らせないよう配慮なさってたはずです」

「だけど、金はいるよな。
あいつ、金のない生活なんてできないだろ」

「ぼっちゃまはそんなことでは…」

「あ!あの時計!」

「は?」

「世界で5個の…あれを売ろう!」

「ユンホ様!」

ソクジンは呆れ顔だ

「あれなら相当になるはずだ」

「あの時計が売れるわけないじゃないですか」

「なんでだよ、世界に5個だぞ?」

「だって…あれは…
チャンミン様が苦労して…」

「苦労して?あの時のチャンミンなら
なんなく買えただろ」

「いや、そうではなくて…」


それから

あの時計をユノにプレゼントするために

チャンミンがどれだけのことをしたのか

ソクジンから聞かされたユノは自分のマンションに走った


息も絶え絶えにあの腕時計を引き出しから取り出した


真っ黒であの時はわからなかった…


黒いベゼルの裏を光にかざすと

そこに浮き上がった文字が見える



愛するユノへ
チャンミンより



" ぼっちゃまがどうしても、そのひとことを
時計に入れようとして "


チャンミン…

ユノの瞳からハラハラと涙が落ちた


" 頑な一流ブランドをあの手この手で口説き落として"


チャンミン…

俺も…

愛してるよ


" 最後は本当に強引に…"


お前らしいね…こんなこと…


金にモノ言わせただけの時計かと


だけど、そこに愛はあった





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そこに愛はあるか〜10〜





ユノは優しくチャンミンを抱き寄せた

チャンミンはユノの耳にくちづけてそっと囁く

「ありがとう。
変なことばっかりお願いしてごめんね」

ユノは小さくため息をついてチャンミンの髪を撫でた。

「お腹空いただろ、食べよう」

「うん!」

途端に明るい笑顔になって
チャンミンはまた眩しいバルコニーに出た

ユノがクーラーボックスから飲み物とサンドウィッチを出した。

チャンミンがそれを綺麗に並べて
バルコニーに咲く花を切り取ってテーブルに飾る

「美味そうだな、このサンドウィッチ、
どこのパティスリー?」

「これね、僕が作ったんだよ」

「えっ?」

「作れないと思ったでしょう
朝早く起きてさ、本見て1人で頑張った。」

「屋敷のキッチンで?
みんながほっとかなかっただろ」

「あ…うん、そんなことなかったよ?」

「ソクジンさんがよくやらせたな」

「…うん」

屋敷を出たことは、言わなくていいよね


夜明けとともに起きて
マンションの誰もいない狭いキッチンで
ひとり本と格闘して作ったんだ…

「チャンミン」

「なに?」

「これ、俺のために作ってくれたの」

「……うん、今日はね、ユノに夢中な僕だから
喜んでもらおうと思って頑張ったよ。」

「………」

「だけど、いつものパティスリーとは、きっと全然違うから、そういう意味では喜べないと思うけどね」

ユノがそっとチャンミンの手をとった

「?」

ユノがチャンミンの指にある小さな赤い傷に触れた

「痛っ!」

「指を切り落とさなくてよかった」

「そこまで不器用じゃないよ!」

「アハハハ」

ユノがサーモンの一口サンドウィッチを口にいれた

チャンミンが心配そうにユノを見る

「うん、美味い」

「ほんと?!」

「うん、初めて作ったにしては上手じゃないか」

「こっちの卵のも食べてみて」

ユノはもうひとつの卵も口にした、とその途端に眉間にシワを寄せた。
そしてその長い指を自分の口元に添える

「美味しくなかった?」

チャンミンの眉が八の字に下がっている
とても不安そうな瞳…

「殼が…」

モゴモゴとしながら、ユノが話しにくそうだ

「あ、殼が残ってたかな…」

「残ってるなんてもんじゃないよ、チャンミン」

ユノは口に残った殼をひとつずつ出した

「あーごめんなさい!」

「……ん」

「も、もう卵は食べなくていいよ、
サーモンとポテトだけにして、ね?」

チャンミンは慌てて皿から卵のサンドウィッチを別のトレイに移そうとした。

その手をユノが押さえる

「大丈夫、噛み砕ける範囲だから」

そう言ってユノが微笑んだ

「そんな無理しないでユノ」

「大丈夫だから、片付けることない」

そう言ってユノは2個目の卵サンドを口に入れた

「………」

「チャンミン、料理の素質あるね
味はすごくいいよ」

ユノがその切れ長の瞳を細めて微笑む

「ユノ…」

「ん?」

「ユノは愛する人にすごく優しいんだね」

「………」

ユノの咀嚼がゆっくりと止まる

「ユノに愛される人は幸せだね」

「………」

「………」

切なくなってしまったチャンミンは思わず下を向いた

「俺に愛される人が羨ましいみたいな言い方だぞ」

「羨ましいよ、ユノ優しいもん」

「俺はチャンミンにずっと優しくしてきたつもりだよ」

「うん、たしかにそうかも」

「チャンミンが気づかなかっただけだ」

「そっか。」

へへっと笑ってチャンミンは舌を出した。

ユノが眩しそうにチャンミンを見つめる
何か言いたげにユノの唇が震えている

ユノはぎゅっと目を閉じて一度深呼吸をして目を開けた

「チャンミン」

「なに」

「そろそろ、本題に入ろう」

「…………」

「な?」

「……うん」

2人でバルコニーを片付けて
室内のソファへ移動した

チャンミンが書類の山をガラスのテーブルの上に並べた

「これは何かと言うとね
ユノがバスケチームのコーチとしての辞令なんだけど」

「………」

「事情があって、今日しか効力がないんだ。
だから、今ここにサインしてほしい」

「断る」

「ユノ…」

「この話が出ると思った。
この話が出たら、断ろうとずっと思ってた」

「どうして?」

「もう、俺たち、なんでもなくなるんだから
お前のコネは使いたくない。自分の力でコーチになれるように頑張りたい」

「そんな…」

「だから今の会社の辞表も持ってきた」

「あ……」

ユノが白い封筒をチャンミンに差し出した。

「もらった車も返す」

「…………」

「マンションも出て行く。
実は荷物ももうまとめてある」

「………」

「気持ちよく切れようぜ、俺たち」

「切れたら気持ちいい?」

「え?」

「そんなに…僕の側には…いたくない?」

「あのね、チャンミン」

ユノは前のめりになった

「自分で気づいてるかどうか知らないけど
今、お前がそんなこと言うのは、俺がお前から離れようとしてるからだよ」

「どういうこと?」

「俺がお前の事を大好きで、ずっと側に居たいなんて言ってみろ。お前ウザくてイヤになるぜ」

「そんなこと…ない」

「いや、そうだって。」

「ユノがこんなに優しいって気づいてたら
もっと甘えてよかったのかなって思うよ」

「甘える?」

「ユノの言う通り、もう僕たちは終わり。
僕はね、もうユノになにもしてあげられないんだ」

「してくれなくて、いいよ」

「何かできるのは今日までだから
だから、コーチの件は頼むからサインしてほしい。」

ユノはぷいと横を向いた

「僕を…助けると思って…」

「助けるってなんだよ」

「ユノにコーチのポストさえ用意できたら
後はなんでも頑張れる」

「なにを頑張るんだ?」

「………」

開け放したバルコニーから優しい風が吹いて
俯くチャンミンの頬を撫でる

「怖くて…本当は…」

「え?」

ユノがチャンミンの顔を覗き込む

「なにかあったのか?」

チャンミンはかぶりを振った

「なにも…」

「チャンミン、こっち向いて」

その声にますます下を向いてしまうチャンミン

「僕、もうあなたになにもしてあげられない」

「チャンミン?」

「あなたはもう、僕といても何も得られないよ
本当にごめんね」

突然、チャンミンの顎が持ち上げられた

目の前にはユノの切れ長の瞳がまっすぐに
チャンミンを捉える
ユノの指がチャンミンの顎に添えられていた

「何があった?」

「………」

ユノを見つめるチャンミンの瞳にみるみる涙が溢れ
可愛い唇が震えている

「ユノ…僕、怖くて」

チャンミンがユノに抱きついた

ソファの上でユノはチャンミンを受け止め、抱きしめた

チャンミンはユノの胸でぎゅっと目を閉じた

「何が怖いのか言ってごらん」

「言えないよ、ごめん」

「じゃあ、そうやって抱き着くのも無しだな」

「5分だけ、お願い」

「……」

ユノは仕方なく、ポンポンとチャンミンの背中を優しく指でたたく

しばらくして、チャンミンがユノの肩から顔を離した。

「コーチの件は、先に僕がサインをするよ。
本当はダメなんだけど。帰ったら…そうだな…
明日になればきっとユノはここにサインをしようと思うよ」

「明日になったって考えは変わらないさ」

「じゃあ、少なくともこの書類は今日は捨てないで
それだけ約束して」

「……わかった。今日は捨てないよ」

チャンミンはほっと溜息をついた

あとは二人で書類を確認しながら、いろんな手続きを進めた

ユノは徹底的にチャンミンと縁を切りたいようで
チャンミンは最後、悲しくなってとうとう泣いてしまった

「ちょっ!なんだよ!泣くことないだろ」

泣きたいのは俺のほうだよ、チャンミン……

なかなか泣き止まないチャンミンをユノはまた抱きしめた

「チャンミン、もう終わったんだ。満足した?」

「最後に…」

「ん?…」

「最後に抱いて」


残酷だよ…チャンミン…

そんな泣きはらした瞳で…俺を見つめて

抱いてとか…なんなんだよ

あーもう…


「いいよ…じゃあお前が大好きな背中にワイン垂らすやつ?」

「そんなのしない」

「お前、大好きだろ…」

「好きじゃないよ…本当はそんなの好きじゃない」

「じゃあ…」

チャンミンはユノに抱き着いた

「ユノは…心から愛している人を、どうやって抱くの」

「……」

「僕を、本気で愛してると思って抱いてみて」

ユノはチャンミンの頬にそっと触れた

両手でチャンミンの顔を優しくホールドすると
顔中に何度も小さなキスをした

チャンミンはゆっくり目を閉じてそのキスを堪能した

そしてそっと目を開けると、ユノがチャンミンを見つめていた

その瞳は優しく温かく…
チャンミンを慈しむように細められる

まるで、そこに…愛があるかのように

ユノ、僕は錯覚をしてしまう…

まるでここに愛があるのかと錯覚してしまう

ユノは始終その調子でひたすら優しくチャンミンを抱いた

大事なものを慈しみ、大切にするように…

チャンミンは何度も訪れた絶頂の中で泣いた


僕も…ユノに愛されたかったな…

最初から何も持っていない僕で出会いたかったな…


窓の外はすでに夕暮れだった






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そこに愛はあるか〜9〜



ユノはしぶしぶサングラスをかけて、
運転席に乗り込んだ

チャンミンだけがニコニコとしている

「海沿いにね、叔母さまの別荘があるんだ
そこへ行こう」

チャンミンはナビを操作して、別荘の番地を入力した

「別荘って、今夜泊まりってこと?」

ユノが戸惑ったような声をだす

「うーん、いや、申し訳ないけどユノは帰って。
僕はしばらく別荘にいようかと思って」

「あのさ、チャンミン」

「?」

「俺、今日お前といろいろ話つけて帰ったら
もう車で迎えに来たりしないけどいいの?」

「………」

「俺たち、そういう話をしに来たんだから」

「…うん、この車で今日は帰って。
迎えに来なくても大丈夫だから」

「あっそ。誰か迎えに来るんだ?」

「うーん、そうなるかな」

「へぇー」


ユノは僕に新しい恋人ができたと勘違いしてるのかな。

そう思っててくれたほうが幸せなのかな

「そういえば、チャンミン」

「なに?」

「さっき、トートバッグみたいなの持って来てただろ?
あれなに?」

「あれはサンドウィッチ」

「え?!食べ物なの?!具は?!」

「卵とサーモンと…」

「ちょっ!」

ユノはハンドルを切り替えて
慌てて車を沿道に停めた

「どうしたの?!」

「言えよ!クーラーボックスに入れなきゃ腐るだろ!」

「そ、そうかな」

「おぼっちゃんはこれだから…」

ユノはトランクに入れたトートバッグをクーラーボックスに詰め替えた。

「ユノ、クーラーボックスなんて持って来てたの」

チャンミンが覗くと、ボックスの中には
飲みものがいくつか入っていた。

その中にはチャンミンが好きなオレンジの炭酸水が入っている

「あ、これ僕の好きなオランジーナ!」

ユノはそれを隠すように急いで蓋を閉めようとした。

「今、飲みたいよ、なんで隠すの」

「か、隠そうとしたわけじゃないよ」

「僕がこれ好きなの知ってて持って来くれたんでしょ?」

「違うよ!」

慌てるユノの姿を見て、チャンミンは胸がキュンとした

なんだかんだ言っても…
いつもユノは、僕の側にいてくれて僕のことを考えてくれていた…

こんな小さなこと、例えば飲み物を何にするかなんて
財産目当てだけで出来るのだろうか。

もしそれ目当てでするなら、こんな風に隠さず、どんどんアピールするはずなのに。

ユノがサンドウィッチをクーラーボックスにしまい、トランクを閉めようとした時だった。

チャンミンはたまらずユノに抱きついた

「ちょっ!」

朝の挨拶に続いてまた抱きつかれたユノはよろめいた

「なんだよ!今朝からお前変だよ」

チャンミンは抱きついたユノの肩に顔を埋めて
大きな声で言った

「ユノ!大好き!」

「………」


ユノは固まった

はじめて…チャンミンから好きだと言われた。


「………」


今日が最後なのに、今更どうして…

「さ、行こうユノ!」

パッとユノから離れたチャンミンはクーラーボックスを開けると好きな飲み物を取って蓋を閉めた

「あー!もう」

ユノはトランクを閉めて、運転席に乗った


夏の真っ青な空に白い雲がゆっくりと流れている

「天井オープンにしてくださーい」

チャンミンがトントンと天井を叩く

「はいはい」

サーッとオープンにすると
爽やかな風が舞い込む

チャンミンのクセ毛が風にそよいで
空を見上げたチャンミンが可愛すぎて

ユノは泣きそうになった

俺だって、お前が大好きなんだよ

サングラスの中で少しだけユノの睫毛が濡れた


ほどなくして、別荘についた。

白い木造の古いけれど温かい印象の建物

よく手入れがされていて気持ちよい


チャンミンは海が一望できるバルコニーのテーブルに
赤いギンガムチェックのテーブルクロスを広げた


「ユノ!サンドウィッチ、ここに並べるから」


ニコニコと楽しそうなチャンミンにくらべて
ユノはだんだんと笑うことができなくなっていた

この状況はなんだ

終わりにするんだろ、俺たち

こんなピクニックみたいな真似…

「なぁ、チャンミン」

「ん?」

「できたら、さっさと済ませたい」

「え?何を?」

「あのさ…俺たち今日は…」


急にチャンミンが不安そうな顔になり
ユノの元へ走って来た

そして、ユノの口をキスで塞ぐ

「………」


長いキス


やっと唇が離れると、何か言いたそうなユノの口を
チャンミンが手のひらで押さえた

「何にも言わないで」

ユノの綺麗な瞳がチャンミンを見つめるけれど
チャンミンは視線を逸らして下を向いた

「今日は…お願いがあって」

「………」

「なんていうか…本当に僕が好きだって態度で過ごすことはできる?」

チャンミンがそっと手を離しユノを見つめた

「お前も今日は本当に俺が好きって態度で過ごそうとしてたの?」

「………」

「だから、あんなこと言ったんだ
大好きとか、そんなこと」

「………」

「今更…」

「ユノ!お願い!最後のお願いだから
今日はそうやって過ごしてくれないかな?
あとはもう何も望まないよ」

チャンミンの瞳は真剣だった

「………」

「お願い…」

「いいよ…」

ユノはチャンミンを優しく抱きしめた






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そこに愛はあるか〜8〜

それからチャンミンは会社に来なかった


もうすぐ始まる株主総会に備えて
さすがのチャンミンもユノの側でテキトーに仕事をしているわけにはいかなかった。

とは言っても、そこはおっとりした三代目
まわりの人間に言われるがまま、淡々と仕事をこなす、という感じではある。

様々な準備の中、

ユノをプロチームのコーチ陣に加える手配も済んで
マンションの解約の書類も揃え、あとはユノのサインをもらうだけだ。

郵送でもよかったけれど

やはり、会って話がしたい

きちんとユノを解放してあげたことを
しっかりと自分で確認して見届けたかった。


今度会うのが最後だろうか…

あなたはそれさえ面倒くさくて
さっさと済ませたいみたいだったけど

ふと、ユノの笑顔が浮かぶ
その人懐こい爽やかな笑顔にぎゅっと胸が苦しくなる。

最後なら
いい1日にしよう


そう思っていた矢先だった


シム家に衝撃が走る


いくつも枝分かれしているシム一族の一部
その中にはチャンミンの家も入っていた


所有する株が暴落しそうだと
何人もの経済アナリストから指摘を受けた


チャンミンの父とその関係者は水面下で奔走した。
間に合わないとはわかっていたけれど、
水際で最悪の事態は避けようとしていた。


チャンミンといえば、まったく役に立たず
また頼りにもされず、自分の無力さを痛感した。

野菜の腐った部分を切り落とすように
一族から切り離された親戚を何人か知っている

なにかに嵌められたとか…
ズサンな経営が崩れたとか…

金や地位があればあるほど
危険もたくさんある、ふいに突き落とされる恐怖は常にあった。

破綻して自ら命を断つ知り合いも何人か見てきていて
自分の足元はいつも危うい、ぼんやりとだけれどそんな風に感じてはいた。


チャンミンの家は防げるものは防いで
思ったほどの危機にはなりそうにはないけれど

チャンミンと両親は、屋敷を出ることになった。
父は母を実家に戻した。

父親はやがて来るであろう持株の暴落と
マスコミの攻撃に備えた

ほんの2日やそこらで
天から引きずり降ろされる形となったチャンミンだった。

元々明るく前向きな性格の父のおかげで
チャンミンも悲壮感なく現実をとらえることができた。


「自由に外へ出られるのも、せいぜいあと2.3日だ。
太陽たくさん浴びて、いい空気を吸っておけ」

「お父様」

「なんだ?」

「僕の会社はもう…」

「手放したけれど、きちんとしたところに任せたから大丈夫だ。」

「あの…バスケチームは?」

「バスケ?」

「あったでしょう?僕がオーナーになっている…」

「ああ、調べてみる。」

父はパソコンで財産管理のページから確認してくれた

「引き取り手がなかったな。
あんまり美味しくない分野だから仕方ない。
どうする?もう少し買い手を探すか?」

「ううん、僕がこのまま所有する」

「借金こそないものの、
ほとんど利益も望めないぞ?」

「うん、わかってる」

「いいのか?」

「うん…」

父はチャンミンの肩に手を置いた

「いろいろ見てきたから、今の自分がどういう状況かわかるね?」

「うん」

「これでも、なんとか最低限のリスクで済んだんだ」

「うん」

「けれど、今までのような贅沢はできない。
お前はそこがたぶん一番こたえるはずだ」

「大丈夫。僕は大丈夫だよ」

「チャンミン…」

「お父様の力になれなくて
情けない息子でごめんなさい」

「チャンミン…私はね
お前の中に時に私の祖父を見ることがある」

「曾祖父様?」

「そうだ。混乱の世の中から、一代でシム家を築いた方だ。」

「僕が…そんなわけないでしょ?」

「こんなことになっても、お前はほとんど狼狽えず
そんな肝の据わったところなんかソックリだ」

「バカなんだよ、僕」

「そんなことない」

「いや、ほんと
なにも考えてなかったから」

下を向いて微笑むチャンミンの頭を
父が優しく撫でた

屋敷を出て、父が残しておいてくれたマンションに移動したチャンミンと父。
その部屋のインターフォンが鳴った

もうマスコミか

恐る恐るインターフォンを覗くと
そこにはソクジンがいた。

「爺!」

チャンミンはロックを解除して
ソクジンを部屋に入れた

「爺!会いたかった!」

「ぼっちゃま!」

2人は抱き合った

「よくご無事で、マスコミはまだ?」

「うん、たぶん、来週の月曜日
株が下がったのがわかってからだと思うよ」

「そうですか…」

「爺は、生活は大丈夫なの?」

「はい、ぼっちゃまの側にいれるように
このマンションのコンシェルジュをさせていただきます。ご主人様のご配慮です」

「そう!よかった!これからも一緒だね!」

「さすが、ご主人様です」

ソクジンは崇めるようにチャンミンの父を見た。

「こんなことになって、本当に済まない。
私はほとぼりが冷めるまで隠れるけれど」

「えっ?お父様、どこへ?」

「お母様がやっぱり私と一緒にいたいらしくてな」

「そう、フフフ…お母様は可愛いね」

「では奥様のご実家へ?」

「それはさすがにできないから、妻の実家の別荘へ。
チャンミンとはしばらくバラバラでいたほうがいいんだ。ソクジン申しわけかないが」

「大丈夫でございます
お任せくださいませ」

「ありがとう」


チャンミンは大きなため息をついた


ユノ…これで本当にあなたとは別れなくてはならないね

僕はもうなんの力も財産もない

あなたに高価なモノも買ってあげられないし
ご馳走もできなければ、生活の面倒も見れなくなってしまった。

バスケチームの手配を済ませておいて本当によかった

マンションのベランダに出て
チャンミンは夜風に吹かれた

明日は…日曜日

ユノ…あなたと最後のデートだね



翌朝、チャンミンの状況とは裏腹な快晴

チャンミンはユノのマンションへ車を走らせた


インターフォンを押すと、ユノが寝ぼけた声で出た

「はい」

「迎えに来たよ、下に降りて来て」

「わざわざ遠出しないとダメ?」

「いいから早く降りて来て」

「書類渡すだけなら、ここでいいのに」

「待ってるんだから、早く」

「ちっ」


今日は笑顔でいよう

そう決めたチャンミン

ユノはきっとずっと不貞腐れたままなのかな

あの笑顔を少しは見せてくれるといいな


しばらくして、ユノがエントランスから出て来た。

ジーンズをふくらはぎの途中で切ったようなパンツと
黒のボクサータンクシャツ

あらわになった太い二の腕が健康的な色気を漂わす

めんどくさそうな、眉間にシワを寄せた表情を見ていたら、チャンミンはたまらなくなった

「ユノ」

「あ?」

チャンミンは車から離れて
ユノに飛びついた

身構える暇もなく、
突然抱きついて来たチャンミンに
ユノは面食らった

「なっ!なんだよ!」

ユノの首に抱きつくチャンミンをなんとか受け止める

「ユノユノユノ!」

「なんだよ!びっくりするじゃないか!」

「おはよう!ユノ!」

「は?」

チャンミンは少しユノから離れて
ユノの顔を両手で挟んで真正面からユノを見た

「おはようございます、ユノ」

「わざわざ朝の挨拶するために
飛びつくやつがいるかよ」

チャンミンの笑顔が朝陽にまぶしい

綺麗な笑顔

長い睫毛がキラキラとしている

ユノはそんなチャンミンを眩しそうに見つめて
悲しくため息をついた。

今日で終わりにしよう

もう飽きられてるんだ
最後にこんなもてなしはいらなかったけど

チャンミンの礼儀なんだろうな。
捨てる俺への思いやり

今日だけは…今まで通りのチャンミンでいてくれるつもりなのか?

「俺が迎えにいくっていったのに…」

「僕、今屋敷にいないから」

「なんで?」

「父が…独り立ちしろって」

「新しい男と住むのか?女か?」

「えっ?」

「ま、どっちでもいいけどさ」

どっちでも…いいよね…
わかってるよ

「今日は海まで行こう!
叔母さまの別荘があるから。」

「海?」

「ここからはユノが運転してよ」

「はいはい」

ダルそうにユノはキーを受け取った

チャンミンは眩しい空を見上げた

いい一日になりますように





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そこに愛はあるか〜7〜



仲間に見送られてユノは体育館を出る。

「早く俺たちのコーチとして、ここに戻ってこいよ」

「ああ、絶対戻ってくるから」

「待ってるぞ!」


ユノは胸が熱くなった。

ついこの間まで、苦楽を共にしていた仲間だ。
違う世界に行ってしまったのに、俺を忘れないでくれた。

ユノはしみじみと時計の入った箱をながめた


そういえば

あれ?

チャンミンは?

ユノは体育館を囲む道路でチャンミンの車を探した

迎えに来なくていいって言ったけど
絶対来ると息巻いていたのに

どうしたんだろ

仕方なくユノはタクシーでマンションに帰った

もしかしたら、俺の部屋に来てるのかもしれない…


でも
チャンミンは来ていなかった

ユノはジャージに着替えると、チャンミンにスマホで連絡をとった。


「はい」

「チャンミン、今日迎えに来るんじゃなかったの」

「来なくていいって、ユノ言ってたでしょ?」

「だけど、そう言ってもいつもは…」

「来なくていいって言われてるのに、わざわざ行かないよ」

「チャンミン…」

いつもと違う、チャンミンの冷静な声。


もしかして…俺…とうとう飽きられたのかな

ふとユノは身震いがした

いつかはこんな日が来ると…
覚悟はしていた…

もしも…

その時はサラッと湿度低く去ろう

ユノはそう決めていた

少なくとも、チャンミンの記憶の中に
カッコいい自分だけを残して去りたい

「ユノ…」

「え?」

「今度…話したいことがある」


ほら来た!


「だから、今度…」

ユノは着ているパーカの胸を思わず掴んだ

「今、言えよ」

「は?」

「言いたいことがあるなら、今言えよ」

「……」

スマホの奥から、チャンミンのため息が聞こえた

「ユノ、渡すものもあるので、それと合わせて話を」

「……何か事務的なことか」

「それもある」

「事務的な事以外にも話があるのか」

「ユノ、心配しないで」

「心配?俺が?なんの心配?」

「うん、何も心配することないから大丈夫」


何が大丈夫なもんか!

きっと手切れ金とかそう言う話だろ
ふざけんな…

「だから僕のために時間を作って。
今度の日曜日、少し遠出をしようよ」

「遠出?思い出づくりをしようって話か?」

ユノはまくし立てた

「え?なに?」

「いや、なんでもない!」

なにを言ってるんだ、俺は…


「ユノ、なにかあった?」

「別に…いや、お前がここに来てるかと思って、あ、いや」

「あなたの部屋に?」

「いや、別にそんなのは…」

ユノはもう支離滅裂だった


「それで怒ってるの?
あ、ユノは僕に何か用事があった?」

「用事なんか、ない」

「そう?」

「俺からお前に用事なんかないよ」

「……あ…そう…」

「……」

「とにかく、日曜は空けておいてね」


ユノから僕に用事なんてない…


わかってるけどさ


僕にはあるんだ



翌日、会社へ出勤すると
ユノは相変わらず忙しそうに働いていた

あれこれと社員に指示を出して
的確に仕事をこなす

コネで入ってきたとは思えないユノ

十分に職場に馴染み、人望も厚い


チャンミンはひっそりとデスクの荷物を片付けはじめた。赴任してきたばかりで特に大きな荷物もない

そんな様子にユノが気付いた


「なにやってんのお前」

「片付けです。辞令が下りて」

「辞令?」

「異動ですよ、本社に戻ります。
知らなかったんですか?課長なのに」

「聞いてないよ」

「そうですか」

「ちょっとこっちへ」

ユノはチャンミンの腕を取って椅子から引っ張り上げた

「なっ…」

そのままユノに連れて行かれるチャンミンを
営業部の社員が見て見ぬ振りをしつつ、見送った。

非常階段の踊り場まで連れてこられたチャンミンは
ユノに隅まで追い詰められた

そのクールな顔がチャンミンの鼻先にあって
キスしてきそうな勢いだ


「異動って、自分で決めたんだろ」

「まあね、発動権は僕にあるから」

「………どうして?」

「どうしてって…」

ユノが睨むようにチャンミンを見つめる

スッと切れ上がった目尻がとても綺麗だ

あの頭取がユノを豹だと言ってたけど
ほんとに豹みたいだね、とても綺麗な豹…


チャンミンはじっとユノの瞳を見つめた
ユノも負けずに見つめ返す


「俺に…飽きた?」

「え?」

その意外な言葉に、チャンミンは驚いた

ユノの瞳が一瞬縋るように見えたのは気のせいか


「他に…新しいオモチャでも見つけたか?」

「は?オモチャ?」

ユノが何を言っているのか、わからない…

「新しい男でもできた?
それならそれでいいぜ?」

「えっと……」

「お役御免ならさっさと引き下がるよ
だけどな、そうなら早めにハッキリ言って欲しい」

「お役……御免…?」

「部屋を探したり、いろいろあるしさ、
今、どっぷりと世話になってるから、早めに行動したいよ、わかるだろ?」

「新しいオモチャって…ユノは僕にとってオモチャだって言うの?」

ハッとユノは笑った

「オモチャじゃなくて、なんだって言うんだよ?
まさか本命の恋人だとか、そんなんじゃないクセに」

「ユノ…」

捨てられる不安に駆られたユノは
興奮して言葉が止まらない

「ユノ…昨日から変だよ。
すぐそうやって興奮して突っかかってくる」

「こ、興奮なんか…」

「いつも冷静なのに」

イヤになるくらい、冷静なのに…

「出て行くとか、一人でどんどん話進めてさ…」

「……」

「………」

「とにかく、早めに言って欲しいんだよ。
グズグズするのは嫌だ!」

「………」

「………」


「ユノは…」

「あ?」

「なんかさ、こう…」

「なんだよ」


僕に未練とか…ないの…


たしかに…ユノを解放してあげようと
思ってたよ

それがあなたにとって一番いいこと。

あなたが喜ぶことをしてあげたかったんだ

僕も…あのチームの仲間みたいにね
ユノが泣くほど喜ぶことを…


「なんだよ、言いたいことさっさと言えよ」

ユノはもう怖くて仕方なかった

まるで怯えた子犬が吠えまくるように
チャンミンにつっかかった。

チャンミンはユノと喧嘩になることを避けたかった。

「わかったよ、ユノ。
これで今度の日曜に持っていく書類が増えた」

チャンミンはキッと唇をひき結んだ

「書類?」

「うん、お望みなら今度の日曜にいろいろスッキリさせよう」

「チャンミン…」

「それがあなたの望みでしょ?
さっさと済ませたいんでしょ?」


自分で半分こんな事態にしておきながら
ユノは打ちのめされた

やっぱり

自分で出て行く、なんて啖呵切ったものの
こうやって言われると、悲しくて怖くて足が震える

とうとう恐れていた時が来たのだ

覚悟を決めなきゃいけないんだ…ユンホ…


「わかった…じゃあ日曜に」

できるだけ、サラリと言ったつもりだった

ユノはくるりと踵を返して非常階段から出て行った。
ドアは重い金属音を立てて閉まる。


チャンミンはため息をついた

わかって…いたじゃないか…

ユノは僕が離れようとしても
なんとも思わないんだ

当たり前だ

なんでも金だコネだと、そんなものを振りかざしては
ユノを縛り付けていたのは僕だ。

最低…

僕自身に未練なんかないに決まってる


暗い非常階段に残されたチャンミンは
そこでひとしきり泣いた

こんなにも、ユノのことが好きになっていたなんて

本当はとっくに気づいてた


僕はあなたが大好き
ユノを愛してる






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こんばんは、百海です。
「そこに愛はあるか〜7〜」はあまりにお話が長くなってしまったため、8時15分に途中でカットしました。
ごめんなさい。
明日分に加筆してアップしますね。
この15分に読まれた方はびっくりですよね(^◇^;)
すみません
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