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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

約束 19



ユノとキュヒョンは会場内に戻った。

「じゃあ、僕たちは昼ごはん食べて来るから
チャンミン、がんばって」

「わかった。終わったら連絡するから」

そう言って、チャンミンはキュヒョンたちと別れた。

そして、ユノに向き直り、申し訳なさそうな顔をする
チャンミン。

「どうした?」

「僕さ、ユノの事、ちゃんと紹介できなかった…」

「?」

「ユノはいつも僕を恋人だって、堂々と紹介してくれるのに…」

「あーチャンミン、それは相手によるだろ」

「?」

「ギルや女、会社の野郎達には、
ちゃんと言っておかないと危険だからね。
俺だって、オンマには簡単に紹介できないよ。
する時がきたら、ちゃんと順序立てて紹介するさ」

「そっか。そんなもんかな」

「だから、なんとも思ってないよ」

ユノはチャンミンの頭を撫でた。

「さ、そろそろだぞ」

ユノはチャンミンを連れて
受付へ行った。

ここでチャンミンはユノともお別れだった。

受付で名前を告げ、チェックをしてもらうと
ギターケースを抱えたチャンミンがユノを振り返った

不安そうな大きな瞳

ユノはガッツポーズを作って
口元だけで「が ん ば れ」と言うと

チャンミンは安心してニッコリと笑った

そして、うん、と大きく頷くと
あとはもうユノを振り返らなかった。


頑張れだなんて口ばっかりで
この可愛い笑顔が自分のところから飛び立ってしまったら、と。
そんな恐怖しかないユノだった。

チャンミンはギターケースを抱えて、
背筋を伸ばしてオーディションに向かった。


チャンミンは、オーディションがこんなに時間がかかるものだとは、意外だった。

今日は予選なので、いわゆる個人面接程度だと聞かされていた。

書類にも披露するのは1曲とあった。

それなのに

何曲も弾かされ、歌わされ
あれはできるか、これはできるか
立ってみせたり、座ってみせたり

歌やギターとは関係ないことまでさせられた。

「ご苦労様でした。結果は郵送とHPとなります。
その後、電話連絡でテレビ出演の意思決定をいただきます」

「あ、はい」

「最後にプライベートな事を聞きますが」

今まで黙っていた1人の審査員がはじめて質問をしてきた。

「?」

「彼女とか付き合ってる人はいますか?」

「………」

一瞬チャンミンは躊躇した
なんでそんな事に答えなくちゃいけない?


でも、ユノの顔が目に浮かんだ

いつも「俺が夢中になったヤツ」そう言って
堂々とチャンミンを紹介してくれた。


「愛してる人がいます」

審査員の目を見てしっかりと答えた。

何人かの審査員が、やれやれと首を振って大きなため息をついた。

いやな感じ
愛する人がいて、何がいけないんだ

まるで、オーディション受けに来るならそこをどうにかしろ、とでも言いたげな雰囲気。


チャンミンは審査員に頭を下げて
部屋を出た。

控え室に戻ると、ユノが立ち上がって
チャンミンのところに走り寄ってきた

ユノがなぜか不安そうな顔をしている。

「おかえり。随分時間がかかったな」

「なんか、イヤーな感じ」

「なにが?」

「話と全然違って、何曲も弾かされたし
付き合ってる人はいるかとか、なんか不躾っていうかさ」

「………」


やっぱり

とユノは思った。

もうプロデューサーがチャンミンに目をつけているんだ。

この新番組で一般公募から生まれたスター
路上ライブから出てきたギタリスト

どういうコンセプトでいくのか
ユノにはそこまで想像できた。

予感は的中だ

ユノは心臓がドキドキして
立っていられないのではないかと思うくらい
頭もクラクラしてきた


チャンミンが…

もうレールに乗せられている


その綺麗な瞳の前に
煌めく道が用意されている

ユノの腕の中から、飛び立ってしまうのだ。


「ユノ?」

「ん?」

「どうしたの?顔色が悪いよ、大丈夫?」

ユノは微笑んでみせた

「大丈夫だよ、なんでもない」


俺は笑えてるか?
ずっと俺の側にいたいと思わせる、そんな笑顔を見せているだろうか。

チャンミン…
俺の、俺だけのチャンミン

「僕さ、もし、万が一オーディションに受かったとしても、もうやめる」

「どうして?」

「なんか嫌な感じだった」

「芸能界って裏と表がある世界だからね
裏はメチャクチャ嫌な感じだよ。
表が綺麗な分、仕方ないのかもな」

「ま、どうせ受からないけどさ。
僕の後ろの子なんて、いろんなコンテストでいつも上位なんだって。それくらい歌が上手いみたい」


エージェントが気にするのは
歌がどれだけ上手いかより、どれだけ人気がでそうか、だよ。

お前には、それがある。

けれど、嫌なイメージを持ったというチャンミンに少しだけホッとした。

ユノはチャンミンが芸能界に入ること自体を嫌がっているのではない。

その純粋な魂が汚され、その笑顔が争いに澱み
誰もが持っている汚い欲望が目覚めて

チャンミンがチャンミンでなくなることを
怖れていた。

チャンミンを信じていないのではない。

こんなチャンミンをも変えてしまう力を
ユノはよく知っていた。


「今夜はバイトだから、早く帰らなくちゃ」

「車だから、そのままバイト先まで送るよ」

「ありがとう、助かる」


助手席で、チャンミンはウトウトしていた

微睡む表情が可愛い

「最近、週に3日もバイト入ってなくて
クビになっちゃうかなぁ、僕」

「ま、その時考えるんだな」

「うん、昼間のコンビニって、廃棄のご飯がもらえないから、そんなにメリットもないしね」

「そっか」


高速道路のゆるやかなカーブが春の日差しに眩しく光る


コンビニの廃棄物をもらえるのを楽しみにしている
そんな俺の大好きなチャンミン

どこへも行かないで






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約束 18



楽しい時間に終わりを告げ、ユノとチャンミンはホテルをチェックアウトした。

「チャンミン、ロビーの横に美味しいコーヒーが飲めるカフェがあるから、そこで待ってて」

「ユノは?」

「今、チェックアウトしてから行くから」

チャンミンに支払うところを見せたくないユノの配慮だった。

「わかった」
それを汲み取ったチャンミンは、1人でカフェに向かって歩いて行く

ユノはフロントでカードで支払いを済ませる。

「ユノ」

ふと、その背中に誰かが声をかけた。

振り向くと、そこにはサングラスをかけたギルがいた。
側には綺麗な女性を連れている。

「ユノ、ここに泊まってたの?」

そう言ってギルは誰かを探すように辺りを見渡した。

「ああ、そう。チャンミンの誕生日でね」

「へぇ、なるほどね」

「じゃあ」

ユノは連れの女性に軽く会釈をして
ホテルのフロントを離れようとギルとすれ違ったその時


「オーディション頑張るように伝えて」


その言葉にユノが振り返った

「なんだって?」

「ユノの可愛いチャンミンは応募したんだろ?CBCの新番組」

「なんで知ってる?
まさかプロデューサーも知ってるのか?」

ユノはギルの襟首を掴み上げそうな勢いだ。

「おいおい、そんな怖い顔するなよ。
いい事じゃないか。シナリオはすでに出来上がってるさ」

「勝手なマネはさせない」

「勝手なマネ?チャンミン君はもうジン・コーポレーション所属か?」

「チャンミンはオーディションを受けてみるだけだ。
その先の話は別だ。」

「ま、せいぜいがんばって」

「おい、待てよ」

ユノがギルの腕を掴むと、不穏な空気を察した女性が先に部屋に行くと言って離れた

「ユノ?」

その声にユノが振り向くと、チャンミンが不安そうな顔をして立っていた。

「チャンミン…」

「チャンミン君、こんにちは」

ギルが意味ありげに微笑む

「チャンミン、カフェで待っててって…」

「何してるの?2人で」

ユノの言葉を遮るチャンミンの目が怒りに満ちている

ギルがニコニコと微笑む

「お仕事の話だよ、チャンミン君。
口説かれてるわけじゃないから、そんなに怖い顔しないでよ」

チャンミンがギルを無視してユノを睨む

「ユノ、美味しいコーヒーを飲むんでしょ?」

チャンミンがユノの目の前まで歩いていき
その至近距離からまっすぐにユノを見つめる

ユノは安心させるように、チャンミンの肩をさすった。

「そうだよ、行こう」

「じゃあね、お2人さん、今度会場で」

ギルはわざとらしく手を振った

ユノはチャンミンの背中に手を添えて
カフェの方へ歩いた

「会場って、なんのこと?」

「ああ、チャンミンがオーディション受ける話を
したんだよ」

「そんなこと!ユノ 言わないでよ」

「ごめんごめん」

「あの人に関係ない」

「そうだな…」

「口説かれてるわけじゃないから、なんてさ、
口説いてるわけじゃないから、の間違いだよ」

「アハハハ…確かにそうだ。
俺が口説く訳ないし、大いなる勘違いだな」

「そうだよ」

「さあ、コーヒー飲もう、
何かケーキも食べていいんだぞ」

「ほんと?」

「ああ、いいよ?なんでも好きなもの頼んで」


**********


オーディションの日

各地で順番に行われている「明日を夢見て」の予選。

チャンミンはユノに連れられて会場へやってきた。

たくさんの、それこそ " 明日を夢見る " 若者たちで会場は溢れかえっていた。

チャンミンはひどく緊張している。

ギターケースを抱きしめて
広い控え室のベンチに座っている

ユノはペットボトルのジュースを買ってきてやった。

「チャンミン、すげー怖い顔」

「だって…もう心臓が口から出そう」

「いつも駅前のコンコースで歌うような、
あの感じでいいんだよ」

「えーやっぱり全然違うよ」


その時、大きな瞳が印象的な男が近づいてきた
その後ろには年配の女性を連れている

ユノはその女性を見た瞬間、チャンミンの母親だとわかった。それくらいチャンミンとよく似ていた。

男の方はチャンミンを見て、ニコニコと笑っている。

「ねえ、チャンミン。
誰か知ってる人じゃないか?
っていうか、あの方、お母さんだろ?」

「えっ?」

俯いていたチャンミンが顔をあげた

「キュヒョン!母さん!」

チャンミンの顔が輝いた。

「チャンミナ!」

母親がチャンミンを抱きしめる

「母さん、いつこっちへ?」

「今朝よ、あんたがいよいよオーディション受けるって
キュヒョン君に教えてもらって」

「そうか、キュヒョン、ありがとう」

「いや、お前からは言わないんじゃないかと思ってさ」

「まあね、どうせ落ちるから」

「何言ってるの、この子は。
受ける前からそんな事言わないのよ」

キュヒョンがチラッとユノを見て、チャンミンに耳打ちした。

「あの方、ユノさん?」

「あ…」


一歩後ろに下がっていたユノが前に出てきた。

ユノは母親に深々とお辞儀をして
キュヒョンに会釈をした。

チャンミンは少しおどおどしている。

「あの、この方はチョン・ユンホさん。
えっと…」

「はじめまして。チョン・ユンホです。
チャンミン君のサポートをさせていただいてます」

「あら、そうなんですか。
チャンミンの母です。よろしくお願いしますね」

「僕はチャンミンの幼馴染でキュヒョンといいます」

「チョン・ユンホです。お話はチャンミンから
よく聞いてます。」

「僕もユノさんについては、ほぼすべて聞いてます」

キュヒョンがニヤニヤしている。

「え?あ、あーそうなんですか?ほぼすべて?」

ユノがそう言いながらチャンミンを見ると
チャンミンは真っ赤になって下を向いてしまった。

「チャンミンは少しお母さんたちと話したら?
俺、外でタバコ吸って来るから」

「わかった、すぐ戻ってきてね」


ユノは会場の外へ出た。

ユノがタバコをくわえて火をつけたところに
キュヒョンも外へ出てきた。

ユノは軽く会釈をした。

「僕も出てきちゃいました。
チャンミン、お母さんと2人にさせてあげようかなって」

人懐こそうなキュヒョン。

「ああ、そうですね。
チャンミン、ほとんど帰ってないみたいだし」

「ま、田舎ですしね。
ユノさんご存知でしょうけど、チャンミン飛び出してきてる感じだし」

ふと、ユノは気になっていたことを
このキュヒョンに聞いてみようかと思った。

「あの、キュヒョン君…ひとつ知りたいことがあるんだけど」

「なんですか?」

「チャンミン、お父さんとあまりいい別れ方をしてないみたいで」

「うーん、そうですね。」

「良ければ教えてくれないかな。」

「僕から話すのはちょっとなぁ」

「チャンミン、それでうなされたり
たまに不安定になることがあって…
俺がそこわかっていたら、少しは救えるかなって思うんだ」

「うなされてるんですか?」

「たまにね…」

「それはかわいそうだな…知らなかった」

「本人からは言わないしさ」

「チャンミンね、小さい頃両親が離婚して。
ま、完全にお父さんが悪くてね、女作るわ、借金するわで。浮気相手の女との間に子供もできちゃってて」

「そう…」

「で、お母さんもなんでそんな事言ったのか、
浮気相手の女と責任持ってチャンミンを育てろみたいな。ま、お母さんも女手ひとつで育てられないし」

「え?」

「それは後でお母さんすごく反省してたらしいです。
たぶん勢いでそんな話になったんだと思うんですけど」

「チャンミン、可哀想に」

「ええ、で、お父さんもチャンミンを立派に育てるとかなんとか言ったらしくて、お父さんがチャンミン連れて出て行くことになったんです」

「……」

「でも、それが…」

「?」

「すでにチャンミンのお父さんは浮気相手に愛想尽かされてて、チャンミンを引き取る気なんかない」

「はぁ?」

「ひどいことにね、あの町をお父さんとチャンミンが出て行く日、お父さん、チャンミンを駅に置き去りにして逃げたんですよ」


ユノは気づけば握りこぶしに力が入っていた。

「ずっとホームで泣いているチャンミンを
駅員が不思議がって家に連絡して…」


「そうなんだ…そんな経験をしてるんだ」


田舎の駅のホームで、小さなチャンミンが、
父親に捨てられたチャンミンがひとり泣いている

そんな姿を思うと…
ユノはなんとも言えない、たまらない気持ちが心の奥底から湧いて来た。


そのチャンミンの姿は
ギルに捨てられた自分と少し重なる

ユノは黙ってしまった
なんと答えていいか、心が震えて言葉が出てこない

怒りと…悲しみと
そして自分の心の傷も疼くような

「あ、衝撃的ですよね、すみません」

「いや、教えてくれてありがとう。
この話はチャンミンにはしません」

「お願いします」

「はい…」

「それと、ユノさん、
僕、幼馴染としてお願いがあるんですけど」

「なんですか?」

「チャンミン…あなたと出会って、ほんとに明るくて
幸せそうなんですよ」

「あーそうですか?」

ユノは照れ臭そうに笑った

「ずっと一緒にいてやってほしいんです。
あいつ、本当に純粋でいいヤツなんですよ」

「……」

「あ、そこはユノさん、わかってますよね、ハハ…」

「一緒にいますよ。絶対離しません。
もうそんな寂しい思いは二度とさせません」

「お願いします」

キュヒョンはぺこりと頭を下げた。


そして、会場にオーディションが始まるアナウンスが響いた。




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約束 17




食事が終わって、ユノとチャンミンは部屋に入った

「うわぁ」

チャンミンの瞳が輝く

「スィートってわけにいかなくて、ごめんな」
ユノは後ろからチャンミンを抱きすくめた。

「何言ってるの!この景色!見て!」

チャンミンの笑顔に窓の外の灯りが映り込んで綺麗だ。

窓の外には煌めく夜景が
それこそ、宝石箱をひっくり返したように2人の目に飛び込んでくる。

「ユノ!こんな景色はじめてみた!」

その部屋はユノが予約できるギリギリの高層の部屋だった。

「俺がもっと金持ってたらなぁ、もっと高い部屋予約したんだけど」

ユノは独り言のように呟いていた

「ユノ、こんな景色を見せてくれて、ほんとにありがとう」

チャンミンは振り向いてユノの首に抱きついた

温かいユノ

「いいえ、どういたしまして。
オーディションがんばってな」

ユノはチャンミンの鼻先に小さくキスをした。

「がんばるよっ!」

チャンミンが子供のようにユノに抱きついてはしゃぐ。

「チャンミン、シャワー浴びて」

「もう?」

「俺、襲っちゃいそうだから早く浴びて」

チャンミンがおどけて笑う

「怖いよぉ〜早くシャワー浴びなきゃ」

チャンミンがシャワーに入ると
ユノは窓の外の景色を見た。


その漆黒の瞳が真剣だった


来年のチャンミンの誕生日も2人で祝いたい
その先もずっと2人で祝うんだ

それが叶わないような、そんな恐怖を払いのけるように
ユノは大きく伸びをした。

このところ、ほんとうに忙しかった

ユノはスーツを脱いで、シャツも脱ぎ裸になると
いきなりバスルームに入った

シャンプーをしようとしていたチャンミンが
驚いて振り向いた

「ちょっ!なんでユノ入ってくるの??」

「なんだよ、バスルーム広いからいいじゃん」

「そういう問題じゃないよ」


「シャンプーしてやるから」

「えー」
チャンミンが恥ずかしそうに笑う

「ほら、ちゃんと座り直して
俺の膝に頭あずけて」

「無理だよー」

「バスルームがこれだけ広いんだから大丈夫。
ウチではできないだろ?」

チャンミンは笑いながら、
不安定な格好でユノにひざ枕をしてもらう

ユノはシャワーの温度を確かめると
仰向けになったチャンミンの頭にシャワーをゆっくりとかけていく。

目を閉じているチャンミンが美しすぎる

綺麗な顔立ちに長い睫毛
ピンクの唇

ユノはその顔を眺めながら
チャンミンの髪に指を入れていく

髪の奥までお湯を入れると
チャンミンがニヤニヤしている

「なんか変な気分
ユノが髪を洗ってくれるなんて」

「今日は、バースデースペシャルです」

ユノは手のひらにシャンプーをとると
バスルームにいい香りが広がった。

両手で泡だててから、ゆっくりとチャンミンの髪を洗う

ユノはその可愛い耳元に唇を近づける

「カユイところはございませんかー」

チャンミンがおかしそうにクスクスと笑う。

「全部カユイのでキチンと洗ってください」

「かしこまりました」

ユノの長い指がチャンミンの頭をゆっくりとマッサージする。

「気持ちいいですか?」

「気持ちいいですよ」

チャンミンがふと目を開けた

「あっ!バカ!泡が…」

目に泡が入って
チャンミンはその痛さに起き上がってしまった

「うー痛い」

「当たり前だろ、急に目を開けるから。
見せてごらん」


ユノはチャンミンの顔についた泡をその綺麗な手で
取り除いた

「目を開けられるか?シャワーかけてやる」

チャンミンは涙目になった状態でユノにシャワーをかけてもらった。

「まだ痛いか?」

「うん、痛い」

そう言ってチャンミンは甘えてユノに抱きついた

ユノはシャワーを止めて、チャンミンを抱きしめた

そのお互いの濡れた髪に手をいれて
相手の顔を引き寄せる

自然と重なる唇


それは段々と饒舌になり
相手を貪るように食い尽くす

その心を

その魂を


大きく空いた心の闇に
2人の愛が流れ込むように相手を癒す


ずっと一緒にいるという約束を
決して忘れないで


僕はもうあなたと離れては生きていけない
俺はもうお前なしでは生きられない


貪欲に相手を求める2人の姿は
窓の外の煌めきより輝き
その濃い藍色の夜空より暗い



朝になって、ユノはカーテンを開けた
チョコレート色のフカフカのバスローブが
精悍なユノによく似合う

膝も踵も、骨が突き出ているような
骨太で贅肉の薄い脚

バスローブの下から綺麗に伸びている


ユノは眼下の景色が昨夜のそれとは違って
コンクリートの城壁がいくつも乱立しているように見えると思った。

あの夜景は幻だったのだろうか。


そしてそんなユノの後ろ姿を
同じチョコレート色のバスローブを着たチャンミンがベッドから眺めている

なんて凛々しく、そして切ない後ろ姿なんだろう


強くて、実は繊細なユノ

自分のことより、いつもだれかを優先してしまう。

だけど僕には
少しだけ、本当のユノを見せてくれる
ワガママを言ってくれる

それがたまらなく嬉しい

これからも僕をずっと離さないで
僕がいなければ生きられないようになってほしい

チャンミンはベッドから降りると
外の景色を見下ろすユノに近づく。

そして、その広い背中を後ろから抱きしめた。

ユノはふっと笑って
後ろを振り向いた

「おはようチャンミン」

同じチョコレート色のバスローブを纏った
それはまさに神話に出て来る主人公のように美しい2人

悲しいエンドを迎えるおとぎ話の神のような2人。


明るい朝の日差しが
そんな2人を眩しく照らした





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約束 16



ユノはチャンミンを抱きしめながら深呼吸をした。

落ち着け…

落ち着け…

今すぐ、チャンミンがどこかに行ってしまう訳じゃない
それに…

「ユノ…僕、そこまで歌手になりたいわけじゃないんだ」

「………」

そんなこと、チャンミンに言わせてる。

ユノはゆっくりとチャンミンを解いた

向き合うと、チャンミンが泣きそうな顔でユノの顔を伺う。

「ほんとごめん、俺、最低」
ユノはチャンミンに笑ってみせた。

「ユノが最低なわけない。
ユノは僕が傷ついたりしないか心配してるんだよね」

「違うよチャンミン」

ユノは笑った

「違うの?」

「お前が人気出ちゃったら
ファンが増えるのが嫌なんだよ」

「え?」

「オーディションで純粋にお前の歌が認められたら
問題ないルートでデビューできるだろうね」

「そうなの?でも、出来レースって」

「うん、大抵はね。
でも準優勝とか、特別賞は一般の応募者から選んでくれるかもしれない。
そうしたら、デビューって話も夢じゃない」

「僕はきっとそんな勝ち抜いたりできないよ。
でも、どこまでやれるか試して見たいなって。
その程度のことなんだよ」

「わかった。やるだけやってみよう。
でも、約束してくれ。
芸能界へ入るような何かに参加したりするなら、必ず俺に先に言って?」

「わかった。参加なんかしないよ。
このオーディションに応募するのが最初で最後だから。
なんていうか、思い出に。」

「やるなら、中途半端じゃなくて
とことんやってみな」

そう言いながら、ユノはチャンミンの頭を撫でた

そうしてもう一度抱きしめた

「大きな声出して怖かったろ?
ほんとにごめんな」

「ユノの怒った顔、カッコよかったよ?
初めてみた」

そう言ってチャンミンはユノにキスをした。


それから、チャンミンはバイトのない日は屋上で練習をした。

以前のような上昇志向はユノの怒声で一瞬消え失せた。

でも、頑張っている姿をユノに見せたい。

ユノへの思いをステージで披露するんだ。

そんな明るく前向きな姿はチャンミンの頭上に広がる青空によく似合った。


**********


ユノはアンティムのバラエティの収録に来ていた。

ふと、ユノのスマホにスンホの文字

忙しくて話をしていられないユノは
一旦、それを無視して、なんとかタバコを一服できる時間をみつけて、折り返し電話をした。

「ユノ…さん?」

「スンホ、さっきは電話とれなくてごめんな」

「僕こそごめんなさい。
忙しいんでしょ」

「今は大丈夫」

「僕はヒマなんですよ、フフフ…」

スンホの様子がおかしい

「人気なんて浮き沈みはあるさ。
またいくらでも復活できる」

「ってことは、ユノさんもやっぱり僕の人気はないって
思ってるんですよね」

「そういう訳じゃない。
活動がなくて、ファンも悲しんでるみたいじゃないか。」

「だって、活動させてくれないんだ」

「スンホ」

「はい」

「いろんなリスクを1人で背負っていくことは
覚悟していたんじゃないか?」

「………」

「もう、スンホはアンティムに戻ることはできない。
わかるよな。」

「そんなこと頼んでるんじゃないです」

「じゃあ、なんだ?」

「みんなに忘れられるのが怖くて」

「まだまだこれからじゃないか
お前は歌もダンスもいいもの持っているんだから」

「僕なんか…トレスタのお荷物ですよ」

「トレスタなんて、何人抱えても大丈夫だよ。
心配すんな」

「みんなに会いたい…ユノさんにも会いたい」

「アンティムの…みんな?」

「僕がいた頃はアンティムなんて名前じゃなかった」

「あの頃はグループ名なんかなかったじゃないか」

「みんなでユノさんに奢ってもらったチゲが懐かしくて」

「スンホ…大丈夫か?」

「大丈夫じゃなかったら、救ってくれますか?」

「……スンホ、俺はお前を救えない。
お前を救うのは、自分だよ」

「………ユノさんはどうしてたんですか
ギルさんが、昔、ユノさん大変だったって」

「俺の時とお前は違うよ。
とにかく、目の前の事を一生懸命にやるしかない。
意外と大事なことだぞ」

「……僕、間違ってたのかもしれない。」

「自信持てよ。お前は才能を見込まれて引き抜かれたんだから」

「………」

「いいか?アーティストはな、努力してある程度までの線まで自力で行くやつと、元々才能があってまわりが道を作ってくれるやつといるんだ。」

「僕は…みんなが道を作ってくれる方だよね?」

「でも、そのどっちもスターになれるとは限らない。
努力し続けないといけないし、時代も味方してくれないといけない」

「………」

「今のスンホみたいにメゲているだけだと、
せっかく作ってもらった道も閉ざされてしまう」

「わかってるけど…」

「ボヤいているヒマはないはずだぞ」

「………」

わかったような、わからないような…
そんな様子のスンホだった。

置いていかれそうな予感

立場は違っても、その感覚は今、ユノも感じていた。

そう、ユノは肌で感じているのだ。
きっとチャンミンにはまわりが道を用意してくれる。

それだけのものを、チャンミンは持っている。

けれど、ユノはチャンミンのその純粋さも心配だった。

本当に素直でいい人間だったのに
芸能界の風を浴びて、変わってしまった人間を何人も知っている。

信じてはいる

チャンミンは変わらない

でも、先の事は誰にもわからない。
今は、チャンミンを応援してやるのが自分の務めだ。

それにチャンミンはオーディションには参加するだけだと言ってるのだから。

チャンミンのやりたがっている事を支えよう


ユノはオーディションの日程を確認して、
その日は休ませてもらうように、ジンに伝えた


ユノはチャンミンにいいスタジオを借りてやり
時間を作っては、その練習に付き合った。

路上でギターを弾いていたころとは
その曲調はよりいいものになっていた。

透明感のある伸びやかな高音は、少し色気も加わって
ユノも聞き惚れてしまう。

持っていた才能が、ここで一気に開花したような
そんなチャンミンだった。


ユノとしては、本当はやりたくないことをなんでもやった。

チャンミンのためだと気持ちを抑えながら
気持ちと行動はバラバラだった。


オーディションが来週にせまったある日
久しぶりに少し長めの時間がとれた夜

その日はチャンミンの誕生日だと言う。


ユノは一般人がなかなか泊まれないようなホテルに
チャンミンを連れて行った。

ユノもアンティムの人気で収入は格段に良くなっていて
少し無理すればこのくらいのホテルを予約できるまでになっていた。


豪華なエントランス
煌めくシャンデリア

足が沈み込みそうな段通が一面に敷き詰められている

カウンターやセンターテーブルはすべて大理石でできていて、スキルのあるホテルマンが恭しく頭を下げる

チャンミンは少しは良い服を着てきたつもりだった。

白いコットンのシャツに、グレーのフラノパンツ
紺色のカーディガン。

元々品の良い姿のチャンミンは、
一流の学校に通うお坊ちゃん、というイメージだ。

ただ、どうしていいかわからず
完全にホテルの高級感にやられてしまっていて

ユノにぴったりくっついて、
あたりをキョロキョロと見回していた


ユノは身体に程よくフィットしたスーツ姿で
ホテルでのやりとりをスマートにこなしていた。

ホテルマンへの態度も傲ることなく
きちんとした配慮で、とても好感が持てるとチャンミンは思った。

いつもながら、頼り甲斐のあるカッコイイユノだった。

チェックインは夕方になってしまったけれど
落ち着いた広い中庭を2人で散歩した。

チャンミンは少し歌いながら歩く
そしてそんなチャンミンをユノが優しく見つめる

「ユノ、こんな豪華なホテルをとってくれて
かなり無理させちゃったね」

「ずっと忙しかったからな
プレゼントも何も用意できなかったし」

「そんなの、いらないよ」

「そうはいかないよ。
俺はチャンミンの誕生日に何してやろうかって
楽しみにしてたのに、このザマだ」

「最高のバースデーだから」

「そうか?それならいいけど」

「うん、僕のために…ほんとうにありがとう」


夜はそのホテルで食事をした。

たくさん並べられたフォークやナイフに
チャンミンはオロオロしっぱなしだったけれど

ホテルマンのさりげない気遣いで
間違うことなく、食事を堪能した。

「このホテルの人はみんな優しいんだね、ユノ 。
一流ホテルなのに、なんにもわかってない僕に親切だよ」

「チャンミン、高級ホテル慣れしていない客を
バカにしたような態度をとるのは二流だ」

「あ…そうか…」

「このホテルはどんな客に対しても態度が一貫しているし、慣れてない客にはさりげない気遣いができる。」

「ほんとだね」

「どんな客も居心地よくさせようとするのは
一流のプライドだ」

「なるほど、なんか感激だな
そういうのってすごいね」

「チャンミン、本当の一流は奢り高ぶったりしない」

ユノは食事の手を休めて、チャンミンに教え込むように
真剣に話す

「ユノ…」

「いつか、お前が一流になったら
そのことを忘れないでほしいんだ」

「アハハハ…ユノ、いつか僕がそんな一流になれると思っているの?」

「お前は、なれるよ。」

「無理無理!」

チャンミンは笑いながら、目の前のフィレステーキに
没頭した。

そんなチャンミンを見つめるユノの目に
寂しそうな影が宿っていたことに、

チャンミンは気づかなかった。





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約束 15



朝になって、チャンミンは簡単な朝食を作った

ユノはひさしぶりに自宅で眠れたせいか
まだもう少しベッドにいたいと思う。

できればチャンミンを抱きながら

「チャンミン、今日は仕事?」

「休みだよ。曲を作ろうと思ってたけど」

「どこか行こうか」

「ユノは何時頃出かけるの?」

「今日は夕方でいいんだ。
テソンと交代するだけだから」

「そう、じゃ夕方までは僕がユノを独占していいんだね」
チャンミンがクスクスと笑う。

「どこ行く?」

チャンミンは優しくユノを見つめた。

「出かけなくてもいいよ。
ユノ疲れてるんだから、夕方まで家でゆっくりしてよう」

「そんなこと言ったら、ずっとベッドの中で過ごすことになるけどいい?」

チャンミンがゲラゲラと笑う

「じゃあ、やっぱり買い物行こう」

「今行かないといけない買い物?」

「違うけど…」

「じゃあ、今はベッドで過ごそう」

そう言って、ユノはベッドからチャンミンに向かって手を伸ばした。

筋張って、筋肉が隆起する腕
ムダな贅肉のないその腕はとてもセクシーだ。

チャンミンはわざとため息をついてみせる

「朝食の前に?」

「そう、朝メシの前に。おいで」

ユノは伸ばした腕で手招きをする。

せっかちなその表情に
チャンミンは欲情してしまう。

「じゃあ、ちょっとだけ」

チャンミンは降参、といった感じで
ユノが空けたベッドの隣に潜り込む。

待ち構えていたように
ユノがチャンミンを抱き込んだ。

チャンミンはくすぐったそうに笑う

幸せな時間

お互いを埋め合う大切な時間


そして、離れ離れになる残酷な時間がやってくる。


「いってらっしゃい、ユノ」

下を向いたままのチャンミンは
ユノの目を見ずに見送ろうとしている

そんな様子のチャンミンをユノはじっと見つめている

「チャンミン」

「ん?」

「顔上げて、俺の顔見て」

「カッコよすぎて離れたくなくなるから、見ない」

「下向いてたら、キスができないよ」

「キスなんか、いいよ」

すっかり拗ねたチャンミンを
可愛くてたまらない、と思うユノ。

ユノのスマホがメール着信で震える
画面を一瞥したユノが微笑んだ

「チャンミン、俺、明日も帰ってくる」

「えっ?いいの?」

「いいって、俺の家なんだし」

「仕事は?」

「アンティムも休ませないといけない。
1人、疲れがたまっているのか調子が悪いらしい」

「アンティムの子たちもだけど、ユノも疲れが溜まってるでしょう」

「俺はここに帰ってくれば大丈夫だよ」

「そう?」

「そうだよ」

「じゃあ、行ってらっしゃい」

チャンミンは今度は笑顔でユノを送り出すことができた。


ユノはレッスンスタジオに行ってテソンと交代をした。
そして、パフォーマンスの練習に余念がないアンティムのメンバーをご飯に連れて行った。

久しぶりにみんなでゆっくりした時間を過ごし
とりあえず今日のところは自由な時間を与えた。

疲れている子は寝るもよし
友達と会うもよし。

ただ、既に食堂の外にもファンが出待ちをするまでになったアンティム。

それぞれの行動には十分注意するよう伝えるユノだった。

メンバーを送り届けると
ユノは事務所へ戻ってひとしきり仕事をした。

仕事はかなり溜まっていて、パソコンに没頭しているうちに、いつのまにか明け方になっていた。

朝のコーヒーを事務所で淹れていたユノに
ギルから連絡があった。

「おはよう、ユノ。
アンティムの調子は上々だね?」

「おかげさまで。まだまだこれからだ」

「今が大事な時だぞ?気をつけないと」

「ああ、わかってる」

「それからさ、この間、お前の愛しのチャンミン君。
見事なパフォーマンスを披露したそうだけど」

「パフォーマンスってほどじゃないよ」

「プロデューサーがもう一度チャンミン君に会えないかって煩くてね」

「なんでギルに頼むんだ」

「頼まれたわけじゃないよ。雑談でさ」

「ああ、会えないから」

「即答だな、おい」

ギルが笑う。

「本人は、チャンミン君自身は歌手になりたいとか
言わないのか?」

「ギルには関係ない」

「そうだけどさ」

「それよりスンホはどうしてる?」

「イマイチだね。パッとしないよ。
アンティムの活躍が気になってるみたいだな」

「上手く、フォローしてやってくれないか?」

「最低限のフォローはしてるつもりだ。
でもこれは自分で解決することだ。」

「引き抜いておいてそれはないだろ」

「ユノ」

「なんだ」

「そんなに甘い世界じゃないよ
自分でのし上がっていかなきゃ」


「………」


ギルの言う通り。
ユノは百も承知だった。

「じゃあな、アンティムは頑張ってるとスンホに伝えてくれ」


ユノはチャンミンに連絡をした。

そして車に乗り、家に帰った。


いつものようにエントランスの郵便受けから
郵便物を取る。

ふと、その中にチャンミン宛に来ているものがあった。

「?」

見るとそれはよく知っている企画会社からのもので
封筒の隅に番組のタイトル名が書いてあった

" 明日を夢見て "

これは、今度新しく始まるオーディション番組のタイトルだ。

これが来てるということは
チャンミンがネットから申し込み、住所確認を兼ねて
速攻で書類が郵送されたということだ。

ユノの心に理由のわからない怒りがこみ上げて来た

なぜ自分は怒るのだろう
誰に怒っているのだろう

ユノは足早に自分の部屋に向かった。

頭の中に冷静になれ、という声と
抑えきれない怒りと


その頃チャンミンは朝ごはんを作っていた。
今日もユノと一緒に過ごせそうで、嬉しくて鼻歌まで出る始末。

キーの外れる音がして
チャンミンの顔が輝いた

急いで玄関まで行く


ユノは部屋のキーを外して乱暴にドアを開けた

「おかえりなさい…」

ユノの表情は、チャンミンが想像していたそれと
大きく違っていた。

いつもの優しい笑顔がなかった

「ユノ?」

ユノは郵便物をチャンミンに投げつけた

「なんだよ!これ!」

チャンミンの足にいくつかの封筒が当たった

何が起きたのか。

こんなに怒ったユノをチャンミンは初めて見る。

チャンミンは足元に落ちた郵便物を拾い上げると
その中に見覚えのあるものがあった。

オーディションの連絡だ…

「お前、なんで俺に黙ってこんなの応募してるんだよ」

「ご、ごめんなさい…」

チャンミンはユノの怒りの理由もわからず謝った。
たしかに応募することは言わなかった。

ユノの息が荒い

「内緒にするつもりはなかったんだ。
ユノに話す時間がなかっただけ…ごめん」

「このことは!俺がシュミレーションするから
待ってろって言ったはずだろ?!」

「そうだけど…締め切りが…」

「一言言えよ!あれだけ電話してたんだから!
話す機会はあっただろ?!」

「………」

なぜユノが怒っているのかわからない
これ以上何かを言っても、ユノを怒らせるだけだ

「こういうのはな、チャンミン。
出来レースなんだよ。」

「出来レース?」

「そう、もう優勝するヤツは決まってる。
どこかの事務所の新人なんだ。
こうやって、一般から公募して、全国の会場でオーディションをする。それ自体が番組の宣伝なんだ。」

「あ……」

「これを目指して曲作ったりしてたのか?!」

「そこまでは…」

「なんで俺に黙って勝手に芸能界へ行こうとしてんだ!」

「ごめん、そんなつもりじゃなくて…
ただ、なんとなく」


ユノの心に一瞬スンホの顔が浮かぶ

引き抜きという優越感を味わされながら
パッとしなければ飼い殺し

チヤホヤされたかと思えば、一瞬でソッポを向かれる

そんな世界…

チャンミンが傷つくのを見たくない

逆にチャンミンが成功したら
ユノではない他の手がどんどんチャンミンへ伸びる

チャンミンはそのどれかの手を掴んで引っ張り上げられ
ユノの元から飛び立ってしまうだろう

そんな自分勝手な思い


ユノは突然自己嫌悪の気持ちに襲われて項垂れた

チャンミンはただ驚き、戸惑い
不安そうにその場に立ち尽くしている。


ユノはぎゅっと目をつぶった


チャンミンの夢なのに
それを叶えようとするのを俺が邪魔する権利はない

なのに俺は…

握りこぶしが震える

なんてちっぽけなヤツなんだ…
これじゃ昔、MAD BLOODを潰したあの社長と一緒じゃないか。


「ユノ…」

小さな声でチャンミンが話しかける

「ごめん…そんなにユノが怒るとは思わなくて…」

「………」

「僕、オーディション行かないから、ね?」

チャンミンにこんなこと言わせている俺…

「朝ごはん出来てるから食べよう?」

ユノはなんとか顔を上げると
チャンミンが不安そうにユノの顔を伺うように
引きつった笑顔を見せている。

こんな顔をさせたかったんじゃない


愛しすぎて気が狂いそうだ


ユノはチャンミンの顔を見つめながら
その不安そうな表情から目を離さないまま、部屋に上がってきた。

ユノの真顔はその顔立ちのせいで本当に怖い

チャンミンは思わず後ずさりをしてしまう。

そんなチャンミンの腕を強引に引っ張りこんで
ユノはきつくチャンミンを抱きしめた。

「ごめん…ほんとにごめん」

ユノの押し出すような呻くような低い声

チャンミンもユノを抱きしめた。

「ううん、いいんだ」


ほっておかれるより
こうやって、怒ってでも求められる方がいい

怒るのは僕を必要としているから

チャンミンは理不尽なユノの行動を
嬉しく思った。

ユノは溢れ出る自己嫌悪の思いを打ち砕くように
チャンミンをきつく抱きしめた





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約束 14



「チャンミン、ラインに貼ったリンクみた?」

キュヒョンから電話がきた

「うん、これオーディション?」

「新番組だって。5週勝ち抜いたらデビューだ
アメリカとかでよくある番組」

「そんなに勝ち抜く自信ないよ」

「やってみなきゃわからないじゃないか」

「うん…」

「ユノさんに、相談してみなよ」

「ユノ、忙しくて…」

「なんだよ、寂しそうな声出しちゃって」

「相談してみる。連絡する用事ができたからよかった」

「声が聞きたかったら我慢することないだろ?」

「……仕事中だと…悪いからさ」

「愛ってやつだね、お前の思いやりはきっと伝わってるさ」

「ありがと、キュヒョン」


そのオーディションはネットから申し込めた。
条件がいろいろあったけれど

申し込むには問題なさそうだった。

とりあえず自分の画像も貼って
ある程度まで入力してみた。

両親の名前なんて必要なの?

チャンミンは父親の名前を入れるところで
躊躇した

しばらく迷って母親の名前だけいれる

ずっと読み進めていきながら、
チャンミンは1人笑った

なんだ

両親の名前って、未成年の場合だけか!
そうだよね

その時、スマホが鳴った

ユノだ!

「もしもし?」

「チャンミン?」

ユノの後ろから盛大に音楽が聞こえる

「ユノ、どこにいるの?」

「え?なに?」

「ど・こ・に・い・る・の?」

「音楽祭の生中継だよ?
テレビ観てなかった?」

「ごめん、観てなかった」

「あーちょっと待って」

ユノが移動したのか、音楽が微かに聞こえるくらいに小さくなった。

「アンティム出てるの?」

「ああ、出てるよ」

「音楽祭ってことは賞があるんだね」

「まあね」

「アンティムがいい賞をとれるといいね!」

「アハハハ。賞はもう決まってるよ。
出させてもらうだけでいいんだ。
大きなステージだから、みんな緊張してる」

「決まってる??うん、みんなの緊張ほぐしてあげてね」

「チャンミン…」

珍しく、ユノの甘えた声

「なに?」

「最近お前とキスしてない」

「キスどころか会えてもいないでしょ」

「ごめんな」

「仕方ないよ。今大事な時だろうからさ」

「俺の恋人は理解があって助かる。
だけどそれに甘えちゃいけないって、俺思ってるから」

「うん、ありがとう」

「あと少しで落ち着くと思う。
そうしたら、2人で旅行に行こう」

「ほんと?!」

「ああ」

「楽しみにしてる!」

「うん、呼ばれたから戻るよ」

「がんばってね」


理解ある恋人をなんとかがんばってるよ

寂しいけど……


ユノはチャンミンの寂しさが
どれだけ色濃く深くチャンミンに根ざしているか
わかっていなかった。

それから3日たっても、ユノは家に帰ることができなかった。
それどころか、まめに入れていた連絡も
思う通りに出来ずにいた。

チャンミンは久しぶりに夜うなされた

眠っているのかウトウトしているのか
よくわからない

次第に迫る闇

そして心の奥底にある恐怖

唯一の助けはチャンミンを捨てて逃げる



まって!

まってよ!

どこにいくの?

ぼくをおいていかないで!


ガバッとチャンミンは飛び起きた

汗びっしょりだ。


はぁはぁと荒い息をついて
チャンミンは自分の胸をおさえた

ユノと暮らし始めて、うなされることはなくなっていた。また、はじまったのは、ユノが最近いないせいだろうか。

フフッとチャンミンは笑った

それでも、逃げる相手の顔が出てこなくなった

よかった…ユノに感謝しないとな


時計を見ると夜中だった。

いけないと思っていても、思わずユノに連絡してしまった。
手が動いしてしまった、という感じだった。

しばらくしてから、ユノが出た

「チャンミン?」

「あっ!ユノ!ごめん、仕事してた?」

「うん、どうした?」

「いや、なんでもない」

「こんな夜中になんでもないってことないだろ」

「声が聴きたくなっただけ」

「怖い夢でもみた?」

「……うん」

「どんな夢?怖い夢は話したほうがいいんだぞ?」

「フフフ…そんなの聞いたことないよ…」

「いいから話してみて?」

「…………」

「ん?」

「…お父さんがね…」

「え?」

「お父さんが…僕を置いて行ったんだ」

「チャンミン?」

「………待ってって叫んだけど」

「それは…」

「………」

「昔の…話か?」

「ユノ、いつ帰る?」

「え?」

「旅行…行くでしょう?」

「あ、うん。どこに行くか、決めた?」

「僕が…決めるの?」

「チャンミンの行きたいところでいいよ?」

「じゃあ、世界一周」

「それは無理だけど…」
「僕が行きたいところでいいって言ったじゃん!」

突然チャンミンが興奮しだした。

「チャ…」
「旅行に行こうなんて口から出まかせじゃないか!」

「チャンミン、落ち着いて、出まかせなんて言ってない」

「帰ってくる気なんかないくせに!
どうして僕と一緒に住もうなんて言ったの?!」

「チャンミン!落ち着け」

「だって、ユノ、全然家に帰って来ない!」

チャンミンはスマホを投げつけた


「チャンミン?!」

スマホの向こうですごい音がして
それから何も聞こえなくなった。


ユノは呆然とした

いったい何があったのか

いや、俺が悪い

チャンミンと一緒にいたくて、半端強引に家に連れてきたのは俺なのに…仕事が忙しくなったとはいえ
寂しい思いをさせすぎた。

俺だって…毎日お前のところに帰りたい
その可愛い顔が見たくてたまらない

いつも俺にがんばってと労ってくれるチャンミン。

俺はそんなチャンミンに甘えていた。



それにしても…尋常ではないチャンミンの様子。
父親と普通の別れ方をしていないのだろうとは
思っていたけれど

そんな幼い日の記憶にうなされていたのだろうか。

思い立って
ユノは寝ているであろうテソンを電話で叩き起こした



チャンミンは泣きながら、画面の割れたスマホを震える手で撫でていた

「ユノ…ごめんなさい…ごめん」

はらはらと涙が次から次へと流れ落ちる

「ユノがせっかく…仕事がよくなってきたのに…」

よろよろと立ち上がり、子供のように声をあげて泣いた

「ごめんね…ユノ」

長い時間ひとしきり泣いて、チャンミンはやっと落ち着きを取り戻した

謝らなきゃ…きっとユノはびっくりしてるはずだ

でも、もう電話もかかってこない

呆れてしまったんだろうか。

こんな僕じゃダメだ…捨てられてしまう
こんなんじゃ、ダメだ…

チャンミンはスマホの電源を入れて見た。
画面が割れただけで、普通に使えるようだ

ふと偶然に
前に見ていた画面が出てきて
オーディションのリンクが開いた。

見えにくい画面で、チャンミンはひとつずつ残りの応募項目を埋めていった

涙をふきながら、すべてを入力し終わると
送信をタップした

オーディションに挑戦する僕。
ユノと同じように、なにかに向かってがんばる僕じゃないと。

はぁーっと大きくため息をついて
もう一度、スマホからユノに連絡をとってみた

チャンミンの耳には留守を知らせる案内が虚しく響く

項垂れて…そのままベッドに入った

隣に愛しいユノがいてくれたらいいのに



「チャンミン」

「………」

「チャンミン、チャンミン」

「ん……」

どれくらい時間がたった?

今…何時?

ふとチャンミンが目覚めると

ベッドのそばにユノが立っていた

え?夢?

「ユノ…?」

「ただいま、チャンミン」

「あ……」

ユノが優しく微笑んで、チャンミンを見下ろしていた

「あ…僕…」

「いいんだよ、なにも言わなくて。
俺も寝るから布団にいれて?」

「え?」

ユノはシャツを脱ぐと、そのままベッドに入ってきた

ユノの匂いだ

ユノの温度だ…

なんだか泣きそう


ユノはなにも言わずに
チャンミンを自分の胸に抱き込んだ

チャンミンの胸になんとも言えない感情が湧き上がってきた

泣き止んだはずの心が、また何かを求めて震えだす

僕があんなに興奮したから、心配させちゃったんだ


「ユノ…さっきは…ごめんなさい」

「謝るのは俺だよ、チャンミン」

「ユノ…仕事が大変なのに…僕…我儘ばかり言って」

チャンミンはしゃくりあげて泣いた

ユノはチャンミンの頭を撫でた

「寂しい思いをさせてごめんな」

「ううん、僕が…僕が全然ダメなんだ…」

「そんなことない。今夜は側にいるからもう泣かないで」

「仕事は?こんなところにいていいの?」

「明日一日、テソンにバトンタッチした」

「大丈夫なの?」

「明日は俺じゃなくてもなんとか大丈夫」

「僕が…興奮しちゃったからだよね」

「いいんだよ、俺だってもう限界にきてたんだから」

チャンミンが泣き顔のまま笑う

「帰ってきたくて、限界?」

「そう、お前に会いたくてもうダメ」

ユノはチャンミンをさらに強く抱きしめた。

「チャンミン、ごめんな」

「無理なことさせて、僕もごめん」

「お前はいつも聞き分けのいいことばかり言って。
ああやって興奮しないと本音が言えなかったね」

「………うん」

「明日は離れずに一緒にいよう
世界一周は行かれないけど」

「うん…ありがとう…ユノ 」


ユノの大きな温かい手が、チャンミンの頬を包む

そして、ユノの柔らかい唇がチャンミンのそれを塞いだ

お互いの会いたかった思いが行為に拍車をかける

チャンミンがどれほど寂しかったか
ユノがどれほど帰りたかったか

それを伝え合う言葉のない時間だった。





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約束13



「ユノ、待って、ちょっと話を聞いて?」

「………」

「そのことは、車の中で話そう」

「歌手になるのに反対しないって言ったでしょ?」

「反対はしないさ、チャンミン、とりあえず車に乗ってから話そう」


地下の駐車場に降りて行き
それでもチャンミンはユノに話し続ける

「僕も、この間話したのとは
考えも変わって…」

地下の暗いコンクリートにチャンミンの声が響く

「チャンミン、もうすぐ車だから」

なぜかユノは小声で話し、チャンミンを制すしぐさをする。

「………」

ユノはキーを開けて、運転席に入った。
チャンミンも助手席に乗り込む

ユノはエンジンをかけることもなくじっとしている。

チャンミンはユノの横顔をチラッと見た。

きっと反対されるんだ

ユノは前を向いたまま、深くため息をついた。

車内が静けさに包まれる


「局内だと誰が聞いてるかわからないからさ。
声が響くし」

「あ……」

「そういう世界だ」

「………」

「チャンミンが歌手になるのは反対しないよ。
でもさ、矛盾してるけど、この世界にお前が入るのは
俺の決心がつかない」

まるで、チャンミンを自分の物のように言うユノ。

チャンミンが何かすることにユノの決断がいるのかと思うと、チャンミンの中に温かい喜びが湧き上がる

「うん…心配してくれて嬉しい」

「脅かす訳じゃないけれど、想像を絶する世界なんだ」

「うん…」

それでも

さっきのスタジオで拍手を浴びた興奮が忘れられない
見にきていたファンの喜ぶ顔も忘れられない

そして

ユノをこの汚い世界の一番高いところに連れて行きたい
ギルを見下ろすほどに

頂上はきっと空気が澄んでいて
青空が冴え渡り

下界の汚さがよくわかるだろう

でも、そんな野望じみたことは言えなかった

どうせ、そんなことチャンミンは考えなくていいと言われる。

だけど、ユノ…僕はあなたの中からギルを追い出して
2人で幸せになりたい

2人で何かを目指せたら、そして2人で力を手にできたら
僕たちは誰より強くなれる

誰にも馬鹿にされることなく、堂々と。


「今日、みんながうっとりとアーティストの歌を聴いてるのを客席で見て、羨ましくなった」

それは…事実だった

「うん」

「僕の歌をみんながあんな風に聴いてくれたらいいな」

「……そうだな」

「僕、ユノと一緒がいい。
ユノとなら、いろんな事、乗り越えていける気がする」

「アハハハ」

ユノは笑った

「チャンミンがデビューするなら、
俺がぴったり一緒にいるに決まってるだろ」

「…フフフ…じゃあ、大丈夫」

「だけど…」

チャンミンがデビューするとしたら
ユノの不安は数え切れないほどある。

ユノ自身はチャンミンを守りきれる自信がある。
いつも側にいるに決まってる。

でも、対事務所や権力のような話になると
ジン・コーポレーションは弱すぎる


「ユノ、あのね、僕なにかオーディションを受けようかと思って」

「それは遠回りだよ、チャンミン」

「そうかもしれないけど」

「この話はちょっと待ってて。
いろいろシュミレーションさせてくれないか」

「うん…」

「チャンミンの悪いようにはしないから」

「わかった。ユノを信用する。
ユノが僕にとって良くないことするはずないもんね」

「当たり前だろ」

チャンミンはコテっとユノの肩に自分の頭を預けた
硬くて丸いユノの逞しい肩

そうはいっても、チャンミンが楽しく安全に芸能界で
生きていくなんて、ユノには想像ができなかったし

勝手な事を言えば、自分の宝物を大勢の人に見せるつもりもなかった。

このまま、なんとなくの夢で終わればいいのに。


「なぁ、チャンミン」

「なに?」
チャンミンが甘えた声を出す。


「ギルになにを言われたか知らないけど

「…………」

「俺にとってギルは本当に過去なんだよ」

「ふぅん」

そんなわけない

チャンミンは信じなかった。
ユノの中にはいまだに色濃くギルが残っている。

「だから、その事は気にするな」


チャンミンはギルに言われたことを思い返すと
悔しくて泣きそうな気持ちになる


「ユノはギルに執着してるって」

「………」

フッとユノが笑った

「だからさ、さっきも言ったけど
執着してんのは向こうだよ」

「でしょ?だよね?!僕、実はそう言ってやったんだ」

「そうか…強いなチャンミン
俺の味方をしてくれたんだな、いい子だ」

「僕はユノが思っているより強いよ」

「………」

「だから、どんなことでも大丈夫」

「…わかってるよ」


そして

翌週の収録では、アンティムのファンは先週よりかなり増えていて、それは番組スタッフの間でも話題になった。

3週目になると、アンティムの名前が入ったスローガンを持つファンが出て来た。

アンティムの人気には
ディレクターも驚いていた。

ユノは番組のプロデューサーに呼ばれた。

「すごいね、嫌味に聞こえるかもしれないけど、
事務所の力よりファンの力の方が偉大だってことの証明だ」

「メンバーのがんばりだと思ってます」

「あれだね、こう、スンホが抜けたことで
みんなが卑屈になってないところがいいね」

「わかっていただけますか」

「わかるよ。ファンはそのこと知らないだろうけど
後からそれがわかれば、結構美談にもなる」

ユノとしては、そこはあまりアピールをしたくなかった。
でも、今はそんなことは言ってられない

すべてはスンホも覚悟のことだ。

「アンティムのメンバーをバラエティにどうかと
思うんだ。どう?」

「ほんとですか?」

「話してみると、結構みんないいカラー持ってて
いけると思うんだ。そっちのプロモにひっかけるならいつがいい?」

「実は次期には新曲をと考えているんです」

「じゃあ、ちょうどいいじゃない?」

「是非、お願いします」

ユノは頭を下げた。


メンバーに、やっと運が向いてきた

4人のブレない気持ちが結果をだしつつある。

ユノは感動すら覚えた。


**********


「チャンミンくん、今日はおかず、それだけでいいの?」

コンビニのパートのおばさんが気にしてくれる

「あ、はい。僕1人なんで」

「最近ずっと少ししか持っていかないじゃないの。
ずっと1人なの?恋人は?」

どうしてこうも詮索するのだろう

「…はい。仕事が忙しいみたいなんです」

「それはさみしいわね。」


仕方ないよ、アンティムが人気急上昇なんだ。

今は、僕に構ってる時間なんてない。


チャンミンは夜の道をゆっくりと歩いて帰った。

バイト先は以前はアパートから近かったけれど
今はバスに乗るほど遠い。

今日は時間をかけて歩こうと思った。

寂しいよ…

わかっているし、仕方ないと思ってる。

でも…


夜空を見上げると、藍色の空に白い月が光る
チャンミンは夜空に向かってため息をついた。

このため息がユノに届くといいのに



いつか僕が歌手になったら
2人で忙しい毎日を送るのかな

仕事の話をしたり、
仕事の合間は美味しいご飯を食べたり

派手な世界にいれば
お互いヤキモチを焼いたりすることもあるかもしれない。

きっと、僕にはユノが不可欠で
ユノは僕がいないと二進も三進もいかなくて

きっとそんな2人になれる



翌朝はバイトも休みで
ユノも相変わらず帰ってこない。

チャンミンは曲作りをしようと思っていた。

スタジオを借りたいけれど、今月はバイトを減らしたせいで、お金がない。

近所の事を考えると、部屋でギターを弾くのは憚れる。
なにしろここはユノが借りてる部屋だ。

今日は諦めるか。

なんとはなしにベランダから下を覗くと
マンションのエントランスに植えられた花がしおれかかっているのが見えた。


どこかで見た記憶のあるピンクの花

あれは…

父が踏んだ花だ


まって!

置いていかないで!


田舎の駅のホームに植えられたピンクの花

父が花壇を踏んで逃げていく
その後ろ姿がフラッシュバックする

チャンミンはぎりっと奥歯を噛んだ

大丈夫、

大丈夫だよチャンミン

僕にはユノがいる

チャンミンは自分の胸を押さえた

なぜかいてもたってもいられず
チャンミンはケトルに水をなみなみといれると
エントランスへ行った。

萎れたピンクの花の根元に、水をやった。
ケトルから出る透き通った水を乾いた土が飲み込んでいるようだ。


「すみませんね」

後ろから声がして、ビクッとしてチャンミンは後ろを向いた。

管理人さんだ

「あ、おはようございます
すみません勝手にお水あげちゃって」

「いいんですよ、昨日、私休んじゃって
萎れちゃったかなって心配してたんです」

「あ、そうだったんですか」

「ありがとうございます」

「いえ」

それから、管理人のおじさんと
チャンミンはしばらく話をした。

「じゃあ、チョンさんのところにいるんですね?」

「そうなんです。間借りっていうか」

「あの方、出来た方でね
遠いところに出張に行くとウチの家内にお土産買ってきてくれるんですよ。お菓子とかね」

「へぇ」

「若いけど、苦労した人なのかな」

「そうみたい…」

「あ、その辺はチャンミンさんの方が知ってますよね」

「ええ、まぁ」


それからギターを弾く話などをして
ふと管理人さんが提案した

「もし、よかったらここの屋上で弾いたら?」

「えっ?いいんですか?」

「昼間ちょっとなら。最上階は今誰もいないし。
内緒ですよ?」

「助かります!
鍵をお借りしたことは内緒で」


チャンミンは屋上へ出た

そこは気持ちの良い風が吹いて
ギターを弾くにはもってこいの場所だった。


大空の下でたったひとり

チャンミンは優しくギターを弾きながら歌った

ユノに会いたい

離れていると恋しくてたまらない


頼もしくて

セクシーで


黙っていると近づき難い顔立ちなのに
それが破顔すると人懐こい優しい笑顔になる

僕の名を呼ぶときの低くて甘い声


過去の傷を克服しようとするその姿

あなたのすべてから目が離せない

あなたは知らないだろうけれど
僕たちは心に大きな暗闇を持つ2人

それを埋め合って生きている
お互いなくてはならない存在なんだよ

僕がユノじゃなきゃダメなように
ユノも僕じゃないとダメだと思ってほしい

ずっと一緒にいるって約束した

側にいるって約束した


思いのたけを歌にする

そんなチャンミンの元に
キュヒョンからオーディションの話がきた






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約束 12



ユノはチャンミンを車に乗せて、会社に寄った

ビルの一室のドアに小さく「ジン・コーポレーション」
とあった。

チャンミンが思っていたより、うんと小さな事務所だった。

「チャンミン、中に入って」

「いいの?」

「いいさ、ほら。」

背中を押されて、チャンミンは中に入った

質素で小さな事務所

中にいたのは2人の男と、あのサリーというアイドル

3人が一斉にこちらを向いた。

男はどちらもなかなかのイケメンで
サリーは相変わらず可愛いアイドルといった感じだった。

「オッパ!」

サリーが目を輝かせた

「みんな久しぶり」

ユノが笑顔で3人に挨拶をする。

2人の男はチャンミンを見た

「ユノ、だれ?」

「俺の大事な人、シム・チャンミン」

チャンミンは思わず俯いてしまった

ユノは堂々と紹介してくれて嬉しいんだけど
やっぱり恥ずかしい

そして、とりあえず、ぺこりと頭を下げた

「こっちは、ジン。この事務所の社長だよ。
となりはテソン。俺と、この2人の3人でやってるんだよ」

ジンとテソンはにっこり笑って頭をさげた

「ユノの恋人か。うん、可愛いね」
ジンがニヤニヤとしている。

「触ったらぶっ殺す」

ユノもニヤニヤと笑った

「おぉ、こわっ!」

ジンとテソンが笑う

「こいつら、元MAD BLOODのメンバーなんだよ」

「あ、そうなんですか?」

「チャンミンくん、こっち座って、今コーヒー淹れるから」

テソンが自分の席を空けた

「あ、気を使わないでください」

「いいからいいから」

ジンもテソンもとてもいい感じだった。

きっとユノが辛い時、一緒にいてくれた人たちなんだろう。
だから、今もユノは信頼してこの人たちといるんだろうな。

「ちょっとオッパ、私のことは???」

「あ、知ってますよ、サリーさん」

チャンミンはニッコリ笑って可愛くサリーを指差した

「あー!知ってるの?うれしい!
オッパをとられたのはショックだけど
こんなに可愛い人なら仕方ないなー」

サリーは椅子に座って足をブラブラさせている

チャンミンはコーヒーをもらって
みんなとアンティムのことなと、ひとしきり話をして楽しんだ

たぶん、今、アンティムが上り調子だから
みんなの雰囲気もいいのだろう

社長のジンがチャンミンをまぶしそうに見る

「チャンミン君はモデルかなにかやってたの?」

「いえ、そういうのは全然」

「今すぐにでもグラビア行けそうなのに」


ユノが入館証の書類を書きながら
デスクから釘を刺した。

「ダメだからね、ジン。
グラビアなんか出させないよ」

「お目付け役が怖すぎてダメだな、チャンミン君」

「路上ライブやってます。
それでユノと知り合ったんです」

「へぇー歌うの?」

「ギターがメインですけど」

「曲も作れるの?」

「ジン!煽るなよ、世に晒すつもりはないんだから」

ユノがいちいち口を挟む


「ユノ、チャンミンも番組収録連れて行ってやったら?」

「ああ、そう思ってさ、入館証いいか?」

「どうぞどうぞ。いろいろ見学してくるといいよ。
アンティムはテソンがバンで連れて行くから」

「悪いな、じゃあ、俺は早めに出る」


ユノはチャンミンを連れてテレビ局へ向かった。

いくつかあるスタジオのひとつに入った。

「チャンミン、今リハーサルだから。
この客席に座ってて」

「スタッフのフリとかしなくていいの?」

「いいよ。様子見てな、面白いから。
入館証つけたまま、勝手に局を出たりしないで?」

チャンミンはスタジオ全体を俯瞰で見渡せる場所で
歌番組が作られる様子を見ていた

見たことのある芸能人がいっぱいいて
出たり入ったりしている。

ユノはいろんな人にアンティムのCDを配ってまわっている。

ニコニコと頭を下げて仕事をするユノ 。

いつもチャンミンといる時のユノとはちがう
仕事人のユノだった。

どんなユノも大好きだから、自分の知らないユノがいるのは嫌だ。
そのすべてを自分のものにしたいと思うチャンミンだった。

ユノが僕だけのために
笑い、泣き、仕事をする。

ユノの時間のすべてを占領したい

ユノの興味を引くすべてに嫉妬する。

そんな風に思っていた


チャンミンはユノへの思いがかなり激しいものであることが、自分でも怖くなる時がある。


やがて一般の観客が入ってきて席につく。
ガヤガヤとその半分以上が若い女の子だった。

そして次々と歌手やアイドルがリハーサルをしていく

お目当のアーティストが出ると
盛大に拍手や声援が起こる

チャンミンは観客の顔を見ていた。

ファンたちの表情は輝いていて
うっとりとアーティストの歌に酔いしれている


ふとチャンミンは思った

こんな風にみんなが僕の歌を聴いてくれたらいいな
僕の歌がこんな風にみんなを虜にできたらいい。

僕がどれだけユノを愛してるか
歌にして表現できたら。

それをみんなが共感してくれたら、どんなにいいだろう


そんな些細な気づきから、チャンミンの中に小さな何かが生まれた。


野心とか名誉欲とか
そんな大それたものは無かった。


ユノへの思いを歌にして、それをファンと共有したい。

そして、それをユノの悦びにしてくれたら

うっとりとアーティストの歌に酔いしれるファンの顔を見ながら、チャンミンの心に、夢がひとつの形を作っていく。


「今月の歌」という新人を紹介するコーナーで
アンティムが緊張した面持ちでステージにあがった

ユノが舞台袖で4人を睨みつけるようにして
見守っている

今、ユノの心には僕はいないだろうと
チャンミンは思った。

当たり前なのだ。
ユノは仕事をしているのだから。

だからこそ、とチャンミンは思った


番組は終わり、観客も帰って行き
ユノはアンティムのメンバーと打ち合わせをしているようだった。

広い肩幅から細い腰、そしてまっすぐ伸びた長い脚

スリムなスーツがよく似合う

仕事に没頭しているユノはたまらなくカッコいい

軽く上げられた前髪と、その高い鼻筋が絶妙なバランスを作っていた。

美しいユノ

そんなユノに見とれていると
チャンミンの隣に誰かが座った。

ふっと香ってきた品のいい香水の香り

横をみると、そこにはあのギルがいた。

「こんにちは、チャンミン」

ギルは華やかなステージ衣装だった。

チャンミンは、ペコリと頭をさげた

「こんにちは…ギルさん、今日番組にでてましたっけ?」

「俺は来週なんだけど、スケジュールの都合で生放送に出られないから、これからここで収録していくんだよ」

「なるほど…」

「ユノに連れてきてもらったの?」

「そうです」

「ユノは随分、チャンミンにご執心なんだね」

「………」

「今までも、男の子連れてるのはたまに見かけたけど
こんな風に一緒に住むなんてさ」

「お互い夢中なんです」

チャンミンは笑いながらも、その口調は強かった。

ユノが男の子を連れてた事を言うなんて
ギルは自分に敵対心があるに違いない

「おー言うねぇ、チャンミン。
すごい自信だね」

「……愛されてる自信ならありますよ。
それだけ僕もユノを愛してますから」

「そうか」

「はい」

「チャンミン…俺に敵対心燃やしてるみたいだけど」

「………」

「それは違うなぁ」

「……」

「俺への執着があるのはユノの方だから。
まずはそれをどうにかしないと、君はいつまでも不安だよね」

「あなたへの執着?僕の…不安?」

「不安なんでしょ?ユノが100パーセント、君に向いてるかどうか」

「そんなことありませんよ」

「不安じゃなかったら、俺の存在なんか気にならないはずだよ」

「………」

「ユノの俺に対する感情は複雑なものがあってね」

「ユノはあなたに、憎しみしかありませんよ」

「その、憎しみを伴う愛っていうのは
なかなかやっかいでね」

「……愛なんかないでしょう。
ユノへ執着してるのはギルさんじゃないですか?
もうなんともなかったら、こんな風に僕を煽ったりしない」

「チャンミンくん」

「はい?」

「君は、ユノのことを何もわかってない。
ユノと僕の事を何も知らないから仕方ないかもしれないけれど」

「あなたとユノの事?
あなたの裏切りでユノが傷ついたって事以外に
何があるっていうんですか?
勘違いしてるんじゃないですか?」

ギルは意味ありげに薄く微笑んで下を向いた

「俺が…あの事務所を出る時…」

「?」

「ユノに俺を抱いてみるか?と聞いたんだ」

「………」

「ユノは子供でね、なんにも知らなかったから
情熱が凄くて、受け止めきれないほどだったよ」

「…………」

チャンミンは何かで殴られたような衝撃を受けた

「ユノの俺への執着は根深いんだ」

「勘違いですよ、ギルさん」

「……そう?」

「現在がすべてです。」

これ以上、チャンミンが言えることは何もない。

「あの時、あの社長が邪魔しなければ
ユノは俺と一緒にトレスタに来れたんだ。
そうしたら、きっとユノはあそこであんな風にプロデューサーに頭さげるような、そんな…人生じゃなかった」

「ユノは!あなたと一緒になんて行かなかったはずです!」

「なんでそんなこと、君にわかるの」

「愛し合ってるから、ユノのことならわかる」

「……なるほどね」

「ギルさん、あなたは…ユノを救えなかった…
いや、救わなかった」

「…………」

「僕が…ユノを高い所に連れて行きます。
あなたがユノにしてあげなかったことを、僕がする。
邪魔するなら、してみればいいんだ。」

チャンミンは震えていた。

ギルへの怒りと、嫉妬と…
そしてユノへの想いで震えていた

ギルはため息をついた…

「ごめんね、なんか、煽っちゃって」

「………」

チャンミンの息が荒い

「たしかにね、ユノへの罪の意識でここまでやってきたような俺だから」

「…………」

「そういう意味では、執着だ」

「……僕が…必ず…」


そこでスタッフが近づいてきた

「あの、ギルさん、メイク入ってもらえますか?」

「はい。チャンミンくん、じゃあね」


あれだけ、チャンミンを打ちのめすような事を言っておきながら

ギルは何事もなかったように去っていった


チャンミンは下を向いたまま、溢れる涙を拭っていた

ふと、肩を掴まれた

顔をあげると、そこには怒った顔のユノがいた


「ギルに何を言われた?」

「ユノ…」

チャンミンの顔が大きく歪んだ

「チャンミン…」

「ユノがギルさんに夢中だったって話…」

嗚咽をこらえながら、チャンミンが泣き出した

ユノがため息をついた…

「そんなこと…」

「ほんとなんでしょ?」

「チャンミン。あまりに大昔のことで、だからなんだって話だよ。」

「だけど…」

「ひどいよな、俺だってチャンミンの昔の話なんて聞きたくない」

「……ユノ …」

「チャンミン」

ユノがチャンミンの隣に座った

スタッフたちは次回の録画収録の準備に追われ
ユノたちは眼中にない感じだ。


「ギルは俺やジンたちへの罪の意識で
なんだかんだとちょっかい出してくる」

「……あの人に罪の意識なんてない。
あるのはユノへの執着だけ」

「チャンミン…」

チャンミンの涙が止まった
まだクスンと鼻を鳴らしたけれど

「ユノ、もう帰りたい」

「ああ、もう帰ろう
メンバーを見送ってきたから」

2人は連れ立って、テレビ局を出るために廊下を歩いた。
長身でルックスのいい2人にすれ違うスタッフが振り返る

「ねぇ、ユノ 」

「ん?」

「僕…歌手になりたい」

「え?」

「こういう歌番組で拍手を浴びる歌手になりたい」

「チャンミン…」

そこへ、スタッフが声をかけてきた。

「ユノさん、すみません。テソンさんのバンが遅れるってことなので、少しアンティムお借りしたいんですけど」

「あ、わかりました」

「いいよ、ユノ」

チャンミンは微笑んだ。

「一緒においで」

ユノはチャンミンを連れてスタジオに戻った。

ちょうど収録の合間の時間なのか
スタジオはスタッフしかいない。

ユノはステージ袖まで連れていかれたので
チャンミンは手持ち無沙汰になり、また客席に座った。

ふとみると、壁に何本かのギターがたてかけてあった。

その中の1本はチャンミンが欲しいと思っていたギターだった。

「うわー」

チャンミンは席を立って、そのギターに触れた。

その時、外でタバコを吸っていたバンドマンが戻ってきて、チャンミンの姿を目に止めた

「あ、すみません、少し触ってしまいました」

バンドマンは笑ってくれた

「いいんだよ、君はギター弾くの?」

「あ、はい。このギター欲しかったんです」

「うん、人気があるだけにね、すごくいいよ。
よかったら弾いてみたら?」

「えっ?いいんですか?ここで?」

「今の時間なら問題ないよ。」

バンドマンはギターを手に取るとチャンミンに渡してくれた。

「ありがとうございます!
じゃあ、ちょっとだけ」

チャンミンは興奮した。

客席の肘掛に腰掛けて足を組み、ギターを弾いてみた。
いつも歌っている歌を小さな声で歌いながら。

けれど、その弾き心地は思ったより良くて
気がつけば、いつも通りの声で夢中で歌っていた。


舞台袖でアンティムとディレクターで打ち合わせをしているユノの耳にチャンミンの歌声が聞こえてきた。

アンティムのメンバーもその歌声に耳を澄ませる。

「だれが歌ってるの?」

「ユノヒョンの…」

ディレクターもいつのまにか、目を伏せて
チャンミンの歌声を聴いている

「あの…」

ユノが話の続きをしようとした。

ユノの心がざわついている。
理由はわからないけれど、なぜだかディレクターにチャンミンの歌声を聴かせたくない。と思った。

ディレクターが目を開ける

「いいね、誰が歌ってるの?」

「あ……」

そこへ、プロデューサーがやってきた。

「いいね、あの子、だれ?
ジン・コーポレーションの子?」

「違います。ほんの素人で」

「見てきてごらんよ、ビジュアルもかなりのものだよ」

ユノの声は聞こえないようで、プロデューサーがディレクターに勧める。

「じゃあ、アンティムはまた来週頼むよ」

「はい!」

そこで解散になった。

「テソンが迎えに来るから、
荷物をまとめておいて」

「はい」

ユノはメンバーを控え室に送り
スタジオに戻った。

チャンミンは熱唱していた。

音響の整えられた本格的なスタジオなんて
初めてだからだろうか。

スタッフがみんな仕事の手を休めて
チャンミンの歌を聴いている

ユノは客席の階段を上がり、
それに気づかないで歌うチャンミンの肩を掴んだ

「チャンミン」

チャンミンはハッと気がついたように
歌うのをやめてユノを見た。

「あ…」

「帰るよ、チャンミン」

側にいたバンドマンがゆっくり拍手をした。

それにつられて、まわりのスタッフ
ディレクターとプロデューサーまでもが拍手をした

びっくりしたチャンミンはペコペコとまわりに頭を下げる。

そしてバンドマンに詫びた

「すみません。なんか夢中になっちゃって」

「いやーいいよいいよ。このギターも君に弾いてもらって本望だろ」

「ありがとうございました」

ユノも頭を下げながら、お辞儀をするチャンミンを引っ張るようにしてスタジオを出た。


ユノの心に何とも言えない思いが湧き出る

チャンミンを世間に晒したくない
それが自分の正直な気持ち。

それは勝手なエゴ
それは嫉妬

俺のチャンミンだ…みんなのものじゃない…

苦々しい思いを胸にユノは駐車場へ急いだ






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約束 11



シャワーを浴びながら
チャンミンは自分の子供っぽさにウンザリしていた

せっかくユノが忙しい中電話してくれてるのに
出ないで焦らそうだなんて

僕はなんてやつ

やっぱり急いで髪を洗って、早くユノに電話しよ!



ユノは全然応答しないスマホを睨みつけイライラしていた

スンホが抜けた後、軌道に乗ってきたメンバーたち、
アンティムの撮影がこのままだと明け方まで続きそうだ

メンバーの体調を気遣いながらも
ユノは多忙を極めていた

スンホが抜けた後のメンバーの頑張りは
もう半分意地のようなものがあったけれど

アイドルグループは大人数を良しとする風潮の中で
4人という人数は意外にも新鮮だった。

ユノは4人の個性を際立たせた

髪の色もそれぞれわかりやすく変え
メンバーのキャラ設定もはっきりとさせた。

金のかけられない弱小な事務所で
アイデアと、メンバーの素材の良さだけが武器だ。

それが時代の要求にマッチした


それに比べて、ギルの事務所に行ったスンホは精彩を失っていった。

能力もあるし、オーラもある。
プロデュースは最高のメンツを揃えてもらえる

それなのに、バラエティ番組に出るスンホは
話をするのがあまり上手ではなく、その場の雰囲気をこわしがちだった

歌やダンスはかなりいいものを持っていたけど
それだけでは人気は続かない
アーティストそのものに個性がなければ。

話が上手くないのなら、寡黙なキャラで演出するなど
手立てはあるだろうけれど、
正直、今の流れには合ってないだろう。

ユノはそんなことを考えながら、スンホを遠くから心配していた。


それにしても。

どうして今夜に限ってチャンミンは電話にでないんだ

いつもワンコール以内で飛びつくようにでてくれるのに。

そういえば、
誰かと飲みに行くとか言ってたな。

幼馴染としか聞いてないけれど、誰だったんだろう


ユノの中に不安がせり上がってくる
いや、不安というか目に見えない誰かへの怒り

チャンミンが電話に出ないほどに、話に夢中になるような誰か。

イライラは募る

もう仕事にならないから、スマホをしまおうかと思ったところに、着信の合図があり、ユノは慌ててタップした

耳元に可愛い声が聞こえる

「ユノ?」

「チャンミン!どこ行ってたんだよ」

ユノは話す口元を手で覆いながらスタジオを出て
屋外の荷物置き場へ移動した。

「ごめん」

「今日飲みに行くって、幼馴染とじゃなかったのか?」

「そうだよ」

「こんな遅くまで…」

「シャワー浴びてた」

「心配したよ」

「どんな心配?」

ユノの反応を伺うような声

「………」


ユノはため息をついた…


チャンミンはワザと…

わざと電話にでなかったんだな

きっと…寂しいんだ

構ってほしいんだろう



ユノはタバコを一本取り出して火をつけた

夜空にはもうすぐ満月になりそうな月が光る


「寂しいか?チャンミン」

「え?」

「ごめんな、ずっと1人にして」

「………」

「俺も会いたいよ。もう声だけじゃ足りない」

「……仕事、上手くいってるんでしょ?」

「仕事?」

「ユノが担当してる男の子たち、売れてるんだって聞いたよ」

「誰から?」

「さっきまで飲んでた幼馴染」

変な心配をしたけれど、
そんな会話で飲んでいたのか

「ああ、コマーシャルがとりあえず一本ね」

ユノは安堵のため息をついた。

「よかったね、ユノ 」

「うん、まあな。」

「ユノだから、出来たんだよ、きっと」

「まだまだだよ」

「ユノが、みんなに自分みたいな思いをさせたくないってそう思ったんでしょう?」

「………」

「僕はユノが昔、辛い時一緒にいなかったからよくわからないけど。
いやな経験も今のためだったって、ユノが思えるようになるといいな」

「………」

たぶん、ほかのヤツに同じことを言われたら
何にも知らないくせにと怒っただろう

実際、心配してくれた他人にそんな風に言ってしまったこともある。

だけど、チャンミンの言葉は
ユノの心の深いところに染み渡った


本当にそう思えるようになれそうな気がする

お前のおかげで…


「チャンミン」

「ん?」

「とりあえず、明日一回帰る」

「えっ?」

「連絡するよ、家にいる?」

「えっと、いないけど連絡くれたらいるようにする!」

「アハハハ、そっか」


スタジオの重い扉が開いて、スタッフがひょっこりと
顔をのぞかせた。

「ユノさん、チェックお願いしていいですか?」

「あ、はい」

「じゃあね!ユノ 、がんばってね」

「ああ」


月は明るくユノを照らしていた


上手くいっているとは言っても、そこは仕事だ。
楽しい事ばかりではない。

理不尽さの中でやっとの思いで息をして
なんとか生きている。

チャンミンの声を聞くと
ユノは気持ちがリセットされて癒される

肩肘張らなくていいんだと
ユノに穏やかさが戻ってくる。

今日こそはなんとか時間を作って
チャンミンを補充したい

渇望している心が叫ぶ




スタジオへ戻ると、メンバーがひとりひとり撮影をしている。

スタジオ内は雰囲気を盛り上げるための音楽と
シャッターを切る音が響いている

ディレクターがユノに近づいてきた


「いいね、この子たち」

「ありがとうございます」

「前会った時は、なんだか垢抜けないって正直思ったけど、あのコが抜けてよかったんじゃない?
なんだっけ、トレスタに行ったコ」

「スンホですか?」

「かな?彼だけちょっと異質だったからね」

「ソロ向きだったかもしれませんね」


ディレクターは呆れたようにユノを見た

「ユノくん、甘いよ」

「そう…ですか?」

「ソロで売れるなんて、そんな簡単にはいかない。
ギルはたまたま、成功しただけだよ。
あのスンホも自分のように行くと思ってるなら
ギルも甘いなぁ」


そうかも…しれない


そして


メンバーの撮影が終わった

もう明け方に近い

メンバーのメイクした顔はさすがに夜通しの撮影で
疲れ切って見えた

私服に着替えて、みんながユノの元に集まる


「今夜ははじめての歌番組の収録だ。
緊張するとは思うけど、これから家に帰って少し寝ろ」

「はい!」

疲れているのにみんなが元気に応える

ユノが考えに考えて名付けたグループ名「アンティム」

スンホが抜けて、4人のメンバーには本気が宿った


昔のMAD BLOODはギルが抜けてもがいていた

変に意地になっていた

それを思うと、アンティムの4人は前向きで力強かった

頼もしい

ユノは嬉しかった

そして

やっと呼んでもらえた歌番組

音楽データを送りつづけ、
「今月の話題曲コーナー」の仕事をなんとかゲットしてきた。

毎週、番組に出られれば、かなりの宣伝になる


ユノはメンバーを、合宿させているマンションに送り届けると、そのまま会社に戻らずに家に帰った。

車を走らせながら、チャンミンに連絡をする


「ユノ、運転しながらスマホとか危ないよっ」

「マイク使ってるから大丈夫」

「もう帰ってくる?」

「ああ」

「朝ごはん、まだだよね?
パンだけどいい?」

「いいよ、もうすぐだから」


ユノはドキドキした

チャンミンに久しぶりに会うのに
まさか心臓がこんなことになるなんて

俺はどうしちゃったんだろうな

まるでガキの初恋だ

ユノは苦笑した


部屋のキーを開けるや否や

チャンミンがダイブするようにユノに抱きついてきた

「ユノ、ユノ、ユノ!」

「アハハ…チャンミン…元気だったか?ん?」

「もう!こんなに1人にさせるなら
僕が浮気してもユノはなんにも言えないよっ!」

「ごめんな、ほんとに。いい子だったな」


昨夜の電話では、大人ぶって俺を励ますような事を言っていたくせに…

やっぱり無理させてたんだな

寂しかったんだ


ユノはぎゅーっとチャンミンを抱きしめた


「ユノ、今日はずっといる?」

「残念ながら午後から仕事だ」

「……そっか」

チャンミンの声がワントーン下がる

そりゃそうだよな
一緒にいられる時間があまりに短すぎる

「チャンミン、今夜テレビ局に一緒に来るか?」

「え?いいの?」

「ついてくるくらいなら、大丈夫」

「行く!」

チャンミンの顔が輝いた

「静かにしてるんだぞ。」

「大丈夫。スタッフのフリとかしてればいい?」

「そうだな。入館証だけ事務所でとってから行こう」

チャンミンははしゃいだ。

ユノはチャンミンの笑顔を見て安心しきったせいか
急激に眠気が襲ってきた

「ちょっと寝るね、チャンミンこっちへおいで」

そう呼んではみたものの、
チャンミンがベッドに近づいた時には
ユノはぐったりと眠っていた

チャンミンはそんなユノの寝顔にキスをした。



チャンミンにとって、大きな扉を開けることになる
そんな夜が近づいていた






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約束 10



「いらっしゃいませ」

チャンミンは今日もコンビニで元気にバイトをしていた

夜の時間をユノと過ごすため
チャンミンは昼間のバイトに切り替えた

派手なストライプの制服が
その高い身長には短すぎてあまり合ってない

それでもチャンミンは張り切って仕事をしていた。
廃棄処分のおかずを持ち帰れることも楽しみのひとつだ。


今日はどんなおかずを持って帰れるかな

ユノの好きなトッポギが残ればいいのに

そんな事を考えながら
頭のもう一方では、軽やかなメロディーを紡ぐ


ユノを思うと何曲も曲ができてしまう

それをチャンミンは、コンビニのレシート紙に
音符やコードを書き留めたりしていた


駅で歌うチャンミンに
最近は客も増えて

いい曲だったと、見ている人から手紙をもらったりもした。

チャンミンはそれをユノに見せた

「聴いてくれてる人はちゃんといるんだね」

「毎日来ているコもいるよ、知ってたチャンミン?」

「ほんと?こっちからだと暗くてよく見えなくて」

「結構、可愛い子もいるぜ?」

ユノはニヤニヤした

と、なぜかチャンミンがとても不機嫌な顔になって黙ってしまった。

「なんだよ、どうせ聴きに来てくれる子なら
可愛い子がいいだろうが?」

ユノはふくれっ面のチャンミンの頬を
つつく。

「僕の演奏中、ユノはまわりの女の子ばかり見てるの?」

「は?そうやってとるか」

「だって…」

「チャンミン」

「なに?」

「お前の言う通り、俺はまわりの女の子ばかり
みてるよ」

ユノの指がチャンミンの頬をつーっと撫でる

「なっ!……本音かもしれないけど
それって、僕に言うこと?」

「お前とお似合いの可愛いコも多くて
正直めちゃくちゃ腹が立ってる」

「………」

チャンミンは口をへの字に曲げたままの顔で
嬉しそうにユノを見る

「へんな顔、チャンミン」

「へへっ」

破顔して笑うその姿があまりに可愛い。
ユノはたまらなくなって、その手を引き寄せる

「おいで、チャンミン」

チャンミンももう心得たもので
そのままソファに座るユノの胸に収まる

「ユノがヤキモチ焼いてくれたら、うれしい」

「お前が浮気したら、俺は寝込むよ」

「ユノ、それだけ?寝込むだけ?」

「なんだよ、チャンミン。
俺を試すようなこと、絶対すんなよ」

「僕はユノが浮気したら、相手を殺すからね」

チャンミンが可愛くユノを睨む

「こえーチャンミン」

ユノが笑いながらチャンミンの顔を両手で引き寄せる

怒ったままのチャンミンの顔に
ユノが何度もキスを落とす

「こんな可愛いチャンミンがいるのに
他のヤツになんて、まったく興味がわかないね」

そう言って、ユノはチャンミンを抱きしめた

「フフフ…それならいいよ」

チャンミンはユノの肩に顎をのせて
優しく微笑む

チャンミンを抱きしめるユノの腕に力がこもる

「チャンミン」

「ん?」

「俺…自分が昔どんな子供だったか
やっと思い出せるようになってきた」

「………」

チャンミンはユノの肩でギュッと目をつぶった

切ない…
ユノは今まで…自分がどんな子だったか思い出さないようにしてたのか

それはそのまま、辛い過去へと繋がるから?


「そう?」

「ああ」

「僕も…わかるよ。ユノがどんな子供だったか」

「そうか?」

「とにかく元気な子供で…お母さんを困らせて」

「アハハハ…よくわかるね」

「ユノ…」

「ん?」

「子供のユノを…本当のユノを思い出させたのは僕?」

「そうだよ、チャンミン」

ユノはチャンミンの背中を優しく撫でた

「ずっと側にいるからね…」

「………」

「ね?ユノ」

「ありがとう」

ユノの声に涙が混じって
少し鼻にかかっているような気がした

「チャンミンの子供の頃はもっと可愛かっただろうな」

「そうでもないよ、憎たらしい子」

「おとなしい子だったって、言ってたよな」

「そんなこと、言ったっけ…
田舎だからね、つまらなかったよ」

「厳格な家だったんだろ?
きちんとしたご両親に育てられたイメージ」

「…………」

「聖歌隊のチャンミンは可愛かっただろうなぁ」


「ご両親なんていないよ」


「えっ?」

ユノはチャンミンを離し、その頬に手を添える
チャンミンを見つめたまま、黙っている

「お父さんはいないよ、言わなかったっけ
両親揃ってるとは言ってないよ」

「そうなのか?」

「…うん」

「亡くなったの?離婚?」

「………」

チャンミンは下を向いたまま、強張った顔で微笑む

「俺が聞いたらダメか?」

「へへへっ…ダメ」

チャンミンの顔が笑いながら強張る


ユノがまったく気づかなかったチャンミンの闇

田舎でのんびり大らかに育った
そんなイメージしかなかった

自分にも話せない、そんなことがあるのか
なぜこんな関係になってまで話してくれないのだろう


だけれど、あまりに無理をしていそうで
ユノはそれ以上聞くことはできなかった。



**********


チャンミンは久し振りにキュヒョンと呑んでいた。

ユノがスンホが抜けたメンバーで再構築をするということで、このところずっと帰りが遅い


「会わない間にそんな甘い日々を送っていたのか」

「甘い…かなぁ」

「そのニヤついた顔が甘すぎて胸焼けがするよ」

「へへへへ」

「あーあ、まったく」

キュヒョンはビールを煽った

「で?ギターの方はどう?」

「うん、曲がいくつもできて、驚いてる」

「だろうねぇ、で?発表は?」

「発表って…」

「あの駅前でちんまりとそれを披露してるのか?」

「うん…」

「田舎には、デビューするって
意気込んで飛び出してきたのに」

「……なんか…もうどうでもいいかなって」

「おいおい…俺、田舎に帰ったら、お前のオンマに根掘り葉掘り聞かれるんだぞ?
そんなこと言ったら、連れ戻して来いって言われるよ」

「今はどっちでもいいかな、って思ってる」

「ふうん」

「とにかく今、幸せだから」

「はいはい、ごちそーさま」

「今度キュヒョンもユノに会ってよ」

「そうだなー一度会いたいな
どんだけイケメンなんだか見てみたい」

「ほんと?じゃあ今度飲みに行こうよ」

「いいよ、いつごろにする?」

「えっと…」

チャンミンは天井を仰いだ


「………」


「チャンミン?」


「ユノ…ずっと忙しくて…」

「え?チャンミン、待ってよ
泣いてるの??」

「そういうわけじゃないけど」

「いや、だって、お前」

「ちょっとさみしいだけだよ」

「えーなになに?どれだけ会ってないの?」

「もう10日くらい」

「ビミョーな日数だけど
今のチャンミンにはキツイな」

「……うん」

「連絡はくるんだろ?」

「うん、ご飯の後にね」

「毎食??」

「うん」

「え?一日3回?いや、チャンミンの場合もっとか」

「それと寝る前」

「は?」

「と、朝起きた時」

「………」

「………声聞くと…会いたくてたまらない」


「でしょうね、はい。」

キュヒョンは呆れていた


「だけど、ユノさん、それだけ忙しいってすごいね」

「うん、ユノが面倒見ていたグループが
1人抜けちゃって…だけど残りの4人がすごく頑張ってるんだって」

「なんてグループ?」

「えーっと、ね、アン…なんとか
ユノが一生懸命考えていた名前だったのに
なんだっけな」

「アンティム?」

「あ、そうそう、それ!フランス語かなんかで
仲良しとか、そんな意味」

「え、すごくない?
洗顔かなんかのCM出てるよ、その子たち」

「えっ?そうなの?」

「知らないの?チャンミン」

「ユノの仕事のことは、全然知らない」

「そりゃ忙しいだろ、ユノさん」

「そうなんだ…」


僕はユノのこと、あんまりわかってない

ユノが一生懸命になってること
理解してない


キュヒョンと別れて
チャンミンは今夜も1人寂しくユノの部屋に帰る

もうすっかりこの部屋にも馴染んで
自分の家のようにくつろいでいるけれど

シャワーを浴びようかな、とパーカを脱いだところで
電話があった

たぶん、ユノだ

スマホが軽やかリズムでチャンミンを呼ぶ

どうしようかな

出ないでおこうか。


ユノの仕事が成功していることを
知らされなかったことが、ちょっと悔しい


いつもユノからの電話に飛びついてる自分も
少しみじめだ


スマホは一旦鳴り止み
すぐにまたリズムを刻み始める


このままスマホに出なければ、
どうしたのかと心配するかな…

いつもシャワーを浴びる時でさえ
連絡が来たらすぐ話せるようにスマホを持ち込んでた


チャンミンは鳴り続けるスマホをテーブルに置いたまま、シャワーを浴びた




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